捨て艦鎮守府の下克上   作:okura1986

2 / 2
第二話です。鎮守府着任前のアレコレと、鎮守府設立一日目の話になります。


第二話「成敗のち混浴」

 深海棲艦に鎮守府の一つを破壊された事件から一週間後、愛宕は自分の治療をしてくれた別の鎮守府の、独房に軟禁されていた。

 目からは生気を失い、髪もぼさぼさ、よれよれのTシャツを身にまとい、独房の隅で蹲っている愛宕。彼女は数日前の出来事を思い出していた。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 愛宕の所属している鎮守府が壊滅し、深海棲姫に襲撃されシュウと共に救助された愛宕は、別の鎮守府の入渠ドッグで他の艦娘と共に治療を受けた後、病室に連れていかれてベッドで休んでいた。

 

「あの人……どうなったんだろう?」

 

 ずっと気になっていた、自分の命を救うために重傷を負ったあの自衛隊員の安否、それを確認しようにも名前が分からないのでどうしようもない。そうして数日間悶々としているうちに、病室に一人の艦娘が愛宕を訪ねてきた。

 

「愛宕……さん」

「鈴谷ちゃん!!?」

 

 鎮守府が襲撃された日、愛宕の姉妹と共に沖ノ島沖に出撃しそのまま行方不明だった鈴谷は、よろよろと歩きながら愛宕の元に寄ってきた。

 

「よく無事で……高雄達は? 他の子達は?」

「ごめん……ごめんなさい……!」

 

 愛宕の問いに対し、鈴谷は泣きじゃくり謝罪を繰り返す。そしてしばらくして落ち着いた後に落ち着きを取り戻した。

 

「摩耶や鳥海や高雄さんは……私たちを守るために殿になって……! 行方不明なんです……!」

「行方……不明?」

 

 鈴谷は沖ノ島沖で起こったことを語りだした。沖ノ島沖に出撃した高雄達は、そこで未知の敵に遭遇、瞬く間に艦隊の半分以上を大破させられてしまい、比較的被害が軽かった高雄と鳥海が殿になって自分たちは撤退、さらに追撃してきた敵に対し、摩耶が鈴谷達を守るために残り、鈴谷達は救援に来た他の鎮守府の艦娘に保護されたと語った。

 

「ごめんなさい……! 鈴谷のせいで摩耶たちが……!! ごめんなさい……!!」

「その敵って何者なの?」

「わかんない……!! 高雄さんが姿を補足したら、いきなり攻撃されて、反撃しても効いてないし、あんな艤装見たことないよ……!!!」

 

 愛宕は動揺しながらも、泣きじゃくる鈴谷を抱きしめて慰めた。

 

「鈴谷ちゃん、あなたは悪くないわ……高雄達が選んだことだもの」

「ごめんなさい……!! ごめんなさい……!」

 

 見た目は冷静のまま、鈴谷を慰める愛宕ではあったが、心の中ではまだ高雄達の顛末を受け入れられないでいた。

 

(高雄達が行方不明? そんな、嘘よ……)

 

 その時、愛宕たちのいる病室にノックもせずにぞろぞろとスーツ姿の男たちが入ってきた。

 

「八十田司令の秘書艦、愛宕だな?」

「え? あ、はい」

「はぁ? 何なのあんたら?」

 

 鈴谷の不愉快そうな声は無視し、男たちは一枚の紙を愛宕に見せる。

 

「君に逮捕状が出ている。秘書艦の仕事を疎かにし、司令官を騙して味方に甚大な被害を出したろう? 我々と共に大本営本部に来てもらうぞ」

「はぁ!!!? あんたたち何言ってんの!!?」

 

 突然ことに呆気にとられる愛宕をよそに、鈴谷は怒りを爆発させて男たちに詰め寄ろうとする。しかし男たちの後ろに控えていた軽巡級の艦娘数人に阻まれてしまった。

 一方愛宕はこのことを予想していたのか、比較的冷静に、自分の現状を受け入れていた。

 

「“司令官を騙して”……つまり私に全責任を負えと?」

「……そういうことになる、すまない」

 

 スーツの男たちも大体の事情は察しているのか、愛宕に申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「……アレがやりそうなことですね。わかりました」

 

 

 

 愛宕はその日のうちに病院から連れ出された。結果は分り切っている軍事裁判に掛けられるために……。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 愛宕が独房に入れられて数日後、横須賀にある大本営本部の会議室……そこには大本営の幹部が全員集まっており、そこに呼び出された八十田から事情聴取を行っていた。

 本来ならばここに当事者である愛宕や所属の艦娘達、そして鎮守府の職員達も証言者としているべきなのだが、大本営の幹部たちによって証言台に立つことを無理やり却下されていた。

 

「つまり……今回の件は君自身に何の責任もないと?」

「ええそうです、予備の装備を用意しなかったのも、深海棲艦の襲撃の際鎮守府に不在だったのも、すべて必要だったからやったことです。鎮守府陥落の責任はすべて代わりに指揮を執っていた秘書艦のものです」

 

 幹部たちの尋問に対し、八十田は何食わぬ顔でベラベラと自分に非が一切ない、全部秘書艦のせいだと弁明する。

 すると……幹部の一人がいくつものUSBメモリを八十田の前に出して見せる。

 

「これは君の鎮守府で普段から行っているセクハラやパワハラ……暴力に関して告発する証拠だ。これを見たら誰もが。君の普段からの行いのせいでこうなったと思うが?」

「それが証拠になります? あなた方は艦娘を信用するんですか? この八十田議員の息子である私よりも?」

「……」

 

 八十田はこの中枢を担う国会議員の息子であり、大本営設立の際にも多大な支援を行った一人でもあった。その息子に罪を着せるということは、今後の運営に悪影響を及ぼすことも十分あり得る。

 故に、自分たちの保身を考えれば、代わりの利く艦娘一人をわざわざ救うよりも、目の前の男をどうすべきかは決まり切っていた。

 

「八十田君……君に一か月の謹慎を申し付ける。」

「ええ、その罰……謹んでお受けいたします」

 

 下されたその罪に見合わない軽すぎる罰を受け、八十田は頭を下げながらも、顔はにぃぃと愉快そうな笑みを浮かべていた。

 

「では次に秘書艦の事だが……愛宕といったかな? ミスの多い指揮のせいで我が方に甚大な被害を出したのだ。罰を重くせねば民衆もマスコミも納得しないだろう」

「やはり無期懲役……いや、責任を感じて自らという艇にして早々に“処分”したほうがいいか。生かしておけば後々厄介なことになるかもしれん」

 

 悪びれもせず、本人のいない間に次々と愛宕の処遇を決めていく大本営、もしここに愛宕や彼女をよく知るものがいたら、あまりにも理不尽な扱いに怒りで掴みかかっていただろう。

 しかし権力を持つ者たちに対し、それに抗うことができない者たちはどうすることもできないのだ。

 

「失礼するよ」

 

 その時、会議室の中に高級そうなスーツを身にまとった体格のいい50代ぐらいの坊主頭の男性が入ってきた。胸には議員バッチを装着している。

 

「ぼ、防衛大臣!? なぜこちらに!?」

「君たちが起こした不祥事に、国防を担うものとして詳しく知っておく必要があると思うのだが?」

 

 防衛大臣と名乗る男はそう言って、空いている席にどかっと座り、八十田と対峙する。一方の八十田はこの場になぜ防衛大臣がと不思議そうに首を傾げた。

 

「なぜ防衛大臣がここに? 政府は大本営の運営には不干渉を貫いているはずですが?」

「まあ、我々には妖精が見えないからね、君たち専門家に艦娘達の事は任せている。私が知りたいのは今回の事についてどう責任を取るつもりか知りたいのだ」

 

 防衛大臣の質問について、八十田はへらへらと笑いながら答える。

 

「それはもう、秘書艦が責任を取るという形で決着はついていますよ」

「ほう……? 君は責任を取らないと? 部下の話では君は鎮守府から逃げ出し、追突事故を起こしたらしいが?」

「それが何だというのです? 万が一私が逮捕されることになったら、私の父やこの国の将来に不利益をもたらすことになりますよ? あなたにだって父や私の力添えが必要でしょう? それに追突の証拠などいくらでも改ざんできるでしょう?」

 

 あくびれもせず、堂々と自分は何も責任を取らないし償うことは何もないと宣言する八十田、それに対し防衛大臣は何も表情を変えず質問を続ける。

 

「君の鎮守府の尻ぬぐいで、街は混乱し自衛隊に決して少なくない被害も出ている。それに関してはどう思っているのだね?」

「私はベストを尽くしましたし、そこは秘書艦の責任だと何度もおっしゃっていますが……それに自衛隊に負傷者が出た事まで我々が責任を負う必要はないでしょう? そちらが艦娘を救助するなど国税の無駄遣いをせねば負傷者なんて出なかったのですから」

 

 自分と自分の親の権力に余程自信があるのか、それとも自分の言っていることが100%正しいと思っているのか、一歩も引くことなく防衛大臣の追及を逃れる八十田。

 ふと、八十田はあることを思い出し、へらへらと笑いながらとある人物の話題を繰り出す。

 

「ああ、そういえばうちの秘書艦を助けた自衛官……まあ名前は知りませんが、深海棲艦に生身で挑んで腕を切断されたらしいですねえ? バカな奴だ、艦娘なんていう代わりがいくらでも利く者を助けて、社会のお荷物となってしまうのですから! はっはっは!!」

 

 シュウの事を持ち出し大笑いする八十田、その時大本営の幹部の一人があることに気が付き、必死の形相で八十田を怒鳴りつけた。

 

「や、やめたまえ八十田君!!?」

「は? 何を……」

「その自衛官は……!!!」

 

 その時、防衛大臣はすっと立ち上がるとゆっくりと八十田の目と鼻の先まで歩み寄ってきた。

 

「その自衛官の名前を知らないのかね? 教えてあげようか?」

「は? ええ、お願いします?」

「権藤秀というのだ」

 

 その一言に大本営幹部の殆ども、事の重大さに気付いてしまい顔を真っ青にしてガタガタと震えだした。

 

「権藤……えっ」

 

 そして八十田もまた、自分がやらかしてしまったことに気付いてしまった。

 

「そう。権藤秀……この権藤健の次男坊だよ」

 

 次の瞬間、防衛大臣……シュウの父、権藤 健から凄まじい殺気があふれ出し、部屋の中はまるで酸素が抜かれたかのように息苦しくなり、同時にまるで炎で丸焼けにされてるような熱気が籠りだしてきた。

 

 補足説明をさせていただくと八十田の祖父は戦後頭角を表してきた政治家であり、祖父の代から培ってきた人脈と財力でそれなりの権力を持っていた。

 対して権藤家は、戦国時代から続く武士の家系であり、江戸時代は譜代大名の家臣として活躍し、明治維新後は北海道開拓に尽力、戦時の国防や戦後の復興にも多大な貢献をした一族であり、皇族を始めこの国のありとあらゆる権力者から一目を置かれている一族である。

正直両家は同じ政治家で権力者であっても、そのレベルは天と地との差があった。

 

「さっきから黙って聞いていれば……随分と私の息子を侮辱してくれたね?」

「ち、違うんです!!! そういう意味で言ったわけでは!!!」

 

 必死に弁明する八十田ではあったが、健からあふれ出る殺気を抑えることはできない。

 

「ここで君“達”の首をへし折ってやりたいところだが……まずはこの件を問いたださなくてはならない」

 

 健は極めて冷静を装いつつ、周辺への殺気を抑えようとはせず  、懐に一枚の写真を取り出した。写真には八十田と、スーツ姿の男が何かを話し合っている所が映し出されていた。

 

「君が寄付をしていたという資源……提供先の国に問い合わせたところ、どうも量が合わないのだよ……そして君の鎮守府の職員からタレコミがあってね、どうも君……海外の企業に艦娘の艤装や、艦娘自身を売り渡していたそうじゃないか? 表向きは退役ということにして」

「な、なんだと!!!? それは本当かね八十田君!!!?」

 

 衝撃の事実に、事情を知らなかった一部幹部たちも立ち上がり八十田を問いただす。一方八十田は顔面蒼白でガタガタ震えながら、必死に首を横に振ってそのことを否定する。

 

「で、出鱈目だ!!! 誰がそんな事を!!?」

「いやあ、君はどうも大勢の人間から恨みを買っているみたいでね。私の方に色々と訴えてくる者が大勢いたのだよ。だから裏付けとして私の息のかかった者に君の鎮守府に潜り込ませてもらったのさ。まさか自分の息子に災いが降りかかる形で明るみになるとはね」

 

 健は八十田の目の前に立ち、彼の肩を強めにポンと叩いた。

 

「何にせよ君の父上含めて聞きたいことは山ほどある。ぶちのめすのは……それからだ」

「ま、待ってください大臣!!! だいじんんんんんんんん!!!!!」

 

 健は笑みを浮かべていた。ただしその笑みは恐ろしく攻撃性を孕んでいた。そして八十田は、健が連れてきた黒服の男たちに囲まれ、そのまま連行された。

 それを見届けた健は、次に連行される様子を見て顔を真っ青にしている一部の大本営幹部を見た。

 

「何を安心しているのかね? 君たちの何人かもこの件に深く関わっているのは判っているのだ。あとで事情聴取を受けてもらうぞ」

「……はい」

 

 観念したのか、抵抗する素振りを見せない幹部たち、その様子を見て会議室の中心に座っていた細身で中年のメガネをかけた男が口を開く。

 

「さすがの手際ですね。防衛大臣」

「君の協力もあったからね。牛島元帥」

「な!? まさか防衛大臣をここまで事態を把握していたのは……貴方が手を回していたからなのですか!?」

 

 この大本営の最高司令官である牛島裕二元帥は、他の幹部たちの追及を無視し、健との会話を続ける。

 

「しかし良かったのかね? 大本営も人手不足なのだろう? そのトップがわざわざ人手を減らすような真似をして大丈夫なのかね?」

「ふん……ここで踏ん反り返って威張り散らしている者たちなど、ここに置いているだけで税金の無駄です。それに……代わりの優秀な人材はそちらが用意してくれるのでしょう?」

「まあね……良い政治、よい運営を行うには、まず内部の膿を出し切ることから始めなければ。もっとも……その前にまさか息子がその膿に人生を狂わされることになるとは思わなかったがね」

「心中お察しします」

 

 大分冷静にはなったがそれでも怒りを抑えられない健に、牛島は深く頭を下げる。そして……何かを企んでいるのか、掛けているメガネをきらりと光らせた。

 

「防衛大臣……ご子息の再就職先に関して、私に提案があるのですが」

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 

 次の日、とある鎮守府の地下にある独房、そこに軟禁状態の愛宕は一人ベッドの上で体育すわりで蹲りながら、大本営から下される自分の処分の報告を待っていた。

 

(これだけの事になったんだもん……もしかしたら死刑になるかもね……)

 

 愛宕は先程まで泣いていたのか、目の前を赤く腫らし、瞳には生気が宿っておらずうつろな状態だった。

 自分はこれまで鎮守府のみんなを守るため、あの屑提督の元で一生懸命働いてきた。その結果鎮守府を失い、すべての罪を着せられ、姉妹を失うという結果になった。

 身を粉にして働いてきたのに、恐ろしい目にも遭ったのに……こんなのあんまりじゃないか、自分のしたことは無駄だったのだろうか、自分は何のために生まれてきたのだろうかと、不幸なめぐりあわせが重なり、愛宕の心はすっかり弱り切っていた。

 

(なんでわたしばっかりこんな目に……もう何もしたくないよう……)

 

 そのままコテンとベッドに横たわる愛宕、その時……独房の扉の前に衛兵が現れた。

 

「おい、お前に面会だ。出ろ」

「……はい」

 

 いよいよ自分の運命が決まるのかと、愛宕は半ばあきらめの感情を抱きながら、衛兵に連れていかれた。

 そして数分後、ある一室に通される。そこには胸元に議員バッチを付けたスーツ姿の若い男が机に両腕で頬杖をついて座っていた。

 

「まずは座ってください。大丈夫……悪いようにはしませんから。あ、ワタクシは防衛大臣の秘書を務めている権藤兼悟と申します」

「は、はい(権藤って確か防衛大臣の苗字よね……息子さんかしら?」

 

 愛宕はその男……兼悟にいわれるがまま机に座り、これまでの状況……八十田が様々な罪状で逮捕されたこと、愛宕の罪はそれほど重くならないということを伝えた。

 

「しかし完全に無罪というわけにもいかないのです。鎮守府陥落という責任は取っていただかないと……」

「それは……わかっています」

 

 愛宕は八十田が逮捕されたのを知って驚いたが、自分にも果たすべき責任があるのも理解していたので、兼悟の言葉を受け入れていた。

 

「というわけで、貴方には左遷……まあ転任とも言いますが、北海道の方に行っていただきます」

「北海道?」

 

 深海棲艦との戦争において重要視されている北海道の先にある北方海域、しかし青森にある大湊鎮守府より北には鎮守府は置かれておらず、小さな海自の防衛基地が何点かある程度だった。

 

「防衛省はこれからの日本国土防衛に関して、北の防衛力の強化も必要と考えております。そこで計画に挙がったのが、北海道の数か所に新たな鎮守府を設立です。故にある程度経験のある艦娘の力を借りたいのです。結果はどうであれ、我々はあの鎮守府で最後まで戦い抜いた貴女の能力を評価しているんですよ?」

「そう、言われましても……」

 

 兼悟の条件の提示に対し、愛宕はYESとしか答えられないと分かっていても、それでもその申し出を断りたい気持ちで一杯だった。

 理由は二つ、様々な悪条件が重なって深海棲艦に敗れ鎮守府を陥落させてしまったことによる自信とやる気の喪失、もう一つはそれが原因で姉妹達を失い自身も死にかけたという失う事への恐怖。それらの感情が愛宕が兼悟の提案に答える事を躊躇わせる原因になっていた。

 それでも兼悟は愛宕の気持ちを無視して話を進める。

 

「あなたの着任は三か月後になります。それまでは……休暇だと思ってじっくり休んでいてください。」

「……はい」

 

 そう言い残し、兼悟は部屋に愛宕を残し去って行った。

 

「……北海道、か」

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 

 それから三か月後、2015年9月、北海道道東にある丹頂市の中心にある駅のホーム、そこに愛宕は一人電車から降り立った。

 

「ここが私の新しい職場か……」

 

 かつての職場があった関東圏と比べ若干涼しくて過ごしやすいと感じつつ、彼女は新たな職場に向かって歩き出した。

 途中、この街の繁華街を通り抜ける。繁華街とはいってもほとんどの店は昼間にも関わらずシャッターが閉まっており、通行人もあまりいなかった。

 

(向こうと比べてちょっと寂しい街ね……まあ、今は戦争中だし、安全で仕事がある場所に移っちゃうのは当然か……)

 

そんなことを思いながら、徒歩で鎮守府に向かう愛宕、そして20分後……赤レンガでできた、小学校の校舎程の大きさのある鎮守府の、門の前に辿り着いた。

 

「ここが私の新しい職場ね……」

 

 そんな事を呟きながら、愛宕は門を守る衛兵に自分の身分証を見せて、鎮守府の建物の中に入っていく。すると入るなり複数の妖精と遭遇し、言葉を発することのない彼女らの無言の案内で執務室に向かった。

 

(どんな人なんだろう……ここの提督って)

 

 愛宕はかつての上司を思い出し、また同じようなのが来たら嫌だなぁと思いながら提督のいる執務室にやってきた。そして目の前にある扉をコンコンとノックした。

 

「失礼します……着任の挨拶にまいりました」

『あ、いらっしゃい。どうぞお入りください』

 

 扉の向こうから聞こえてくる丁寧な案内に導かれて、愛宕は執務室の中に入った。

 

「失礼します。重巡洋艦愛宕、着任のあいさ……え!?」

「あれ!? 貴方は!?」

 

 愛宕は執務室に入るや否や、提督の姿を見て驚いた。そしてそれは愛宕の目の前にいる提督も同様だった。

 提督は……三か月前に愛宕を救うために大怪我を負った自衛官……権藤シュウその人だったのだ。

 

「え? あれ……なんで貴方がここに……」

 

 予期せぬ命の恩人との再会に戸惑う愛宕、一方のシュウは執務室の机に座りながら、愛宕との再会を喜んでいた。

 

「よかった! 俺ずっと入院していたんで、貴女の事ずっと気になっていたんですよ! そっかぁ……元気そうでよかった!」

「あ、あの……確か貴方、陸上自衛隊の人間じゃ……なぜここに?」

 

 愛宕の疑問に、シュウは照れ臭そうに頭を掻きながら答えた。

 

「いやあ、実は俺、自衛官をクビになっちゃったんですよ。まあホントは予備役なんですけど、実質クビみたいなもんかなって」

「えっ!?」

 

 愛宕はその時初めて、シュウの傍らに松葉杖が置いてあること、そして彼の右腕が不自然にだらんとぶら下がっていることに気が付いた。

 

「まああれだけの大怪我負えば、日常生活に戻る事すら困難ですからね……でも父さんと兄さん、それに牛島元帥のおかげで、この鎮守府に提督として再就職できたんですよ」

「そ、その……ごめんなさい!!」

 

 愛宕はシュウの怪我の原因が自分にあると思い、泣きそうな顔で頭を勢いよく下げた。それを見たシュウは慌てて取り繕った。

 

「頭をあげてください! あれは俺が勝手にやったことですし……」

「でも私のせいで……!」

 

 なおも泣きそうな顔でシュウを見る愛宕、対してシュウはにっこりと愛宕に微笑みかけた。

 

「それに……もしあの時あなたを見捨てて、自分だけ助かってたら、きっと死ぬまで後悔してたと思うから、だから全然気にしないでください」

「は、はい……」

 

 シュウに言われてとりあえず涙をぬぐう愛宕、そして彼女はシュウからこの鎮守府や寮に関する決まり事、そして本格的な運営開始と他の艦娘や人員の補充は明後日にからになるという説明を一時間に渡って受けた。

 そしてシュウは松葉杖を使って立ち上がる。

 

「さて! 荷物の搬入も終わってこの鎮守府が本格的に始動するまで暇だし、それまで軽く掃除でもするかな……っと!」

 

 すると、立ち上がろうとしたシュウは、うまく立ち上がれず躓いてしまい、愛宕が慌てて駆け寄ってきた。

 

「大丈夫ですか!?」

「あ、あはは……最近立てるようになったばかりだからなぁ」

 

 そういってたははとバツが悪そうに笑うシュウ、それを見た愛宕は、何かを決心したのか鼻息荒げに自分の胸をどんと叩いた。

 

「提督はここでお待ちください! 私が妖精さん達と掃除しますんで!」

「え、あ、わかった……」

 

 突然張り切りだした愛宕に面くらいながら、シュウはおとなしく机に座りなおした。

 

「さーって妖精さん達! ここをピカピカにするわよー!」

 

 愛宕は足元にいた何人もの妖精に指示を出しながら、掃除をしに執務室から出て行った。

 

「……うん、書類にでも目を通すか」

 

 やることが無くなってしまったシュウは、とりあえず明日からの本格始動に向けて、自分なりに準備を進めることにした。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 

 それから丸一日、愛宕は妖精と協力して日が暮れるまで鎮守府の清掃を行い、その報告を行いに執務室に戻ってきた。

 

「清掃任務、完了しました~!」

「ありがとうございます。それじゃしばらく休んでいてください。俺は一度風呂に入ってきます。妖精さん達の話じゃ艦娘用のお風呂……入渠ドッグっていうんだっけ? そっちの準備も終わってるそうなんで、好きなタイミングで入ってください」

 

 愛宕からの報告を受けたシュウは、そのまま人間用の浴場に向かっていった。

 

「……」

 

 その様子を見ていた愛宕は、何やら思いついた様子でにやりと笑った。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 

 それから10分後、シュウは艦娘の入渠ドッグとは違う、人が15人ぐらいは同時に入れそうな共用の浴場に入っていた。湯は妖精たちによって沸かされており、シュウはまだまともに動かせない足でよろよろ歩きながら、まともに動く左手を使って湯を自分にかけ、そのまま三畳ほどの広さの湯舟に体を漬からせた。

 

「はぁー……やっぱりまだリハビリが必要だなー」

 

 この三か月、骨折した足は何とかつながり、切断された腕の神経も無事繋がり、このままリハビリを続ければ日常生活を送る分では何とかなると医者に言われていた。

 ただやはりというか、自衛官としては死んだも同然と遠回しに言われており、様々な伝手を使って今の提督という職業にありついていた。

 

(俺にできるのかな……そもそも俺陸の人間だし、艦種とかよくわかんないしなぁ)

 

 湯に漬かりながら、これからの自分の将来を憂い深くため息をつく。その時……突然浴場の扉がガラガラっと勢いよく開け放たれた。

 

「どもー!!! お背中流しに来ました」

「うぉえ!!!?」

 

 そしてそこから、凹凸がはっきりしていて肌がすべすべな体に、白いバスタオルを巻いた愛宕が現れ、突然のことにシュウは変な声を出してしまった。

 

「ちょ!? 今俺が入っているんですけど!!!?」

「わかってますよ~! でもそのお体では色々と不便でしょうし、お・て・つ・だ・い いたしまーす♪」

「だ、だけどさすがに男女裸同士なのは……」

 

 すると愛宕は突然、自分の両手でバスタオルを取る。よく見ると愛宕は水色のビキニタイプの水着を身に着けていた。

 

「ご安心ください! 着ています!!」

「え、あ、はい(そのほうがなんかエロイかも……)」

「それに……貴方にはもっと色んな部分を見られたから今更というか……」

 

 急にごにょごにょと声を小さくしてもじもじしだす愛宕、シュウはそういえば深海棲姫と戦っていた時、あの時はそれどころではなかったけどそういえば彼女半裸で、しかも胸元はほぼ丸出しだったなと気づいたように思い出し、思春期の中学生かよと言わんばかりに急に顔を真っ赤にしだした。

 そして愛宕は照れ隠しか半ば強引に、シュウを湯舟から引きずり出した。

 

「さささ、遠慮なさらずに~!」

「わあああせめて腰にタオル巻かせて!」

 

 そして一分後、シュウは愛宕にされるがまま、風呂場用の椅子に腰かけ背中をスポンジでごしごしと洗われていた。

 

「どうです? 気持ちいですか?」

「は、はい……」

 

 愛宕の問いに対し挙動不審になりながら答えるシュウ、彼は緊張した様子で頭の中で思考をグルグルと巡らせていた。

 

(こ、こんな美女と混浴とかヤバくね!!!? つーかこの人胸でっか……グラビアアイドルでもこんな大きさの見たことないぞ!? はぁぁぁぁ……!)

 

 一方愛宕はというと、表面上はニコニコしている、が……。

 

(うわぁー! 何かしてあげたいって勢いでこっち来ちゃったけど、私これとんでもない事してんじゃ……と、というかこの人、引き締まっていてすごく良い体……こ、こんな人に抱きしめられたら……やっば鼻血出た)

 

 変なテンションになり鼻から漏れ出す乙女の純情を、シュウに気付かれないように腕で拭いながら、彼の背中を洗い続ける。

 ふと、愛宕はシュウの右腕に縫合の後のようなものを見つける。おそらく切断された腕を治療してできたものだろう。

 それに気づいた愛宕は急に押し黙り、そして優し気な口調でシュウに語り掛けた。

 

「そういえばずっと、言えなかった事がありましたね」

「ん? 急に何を……」

「助けてくれてありがとうございました。あなたのおかげで私は今、こうして生きていられます」

 

 愛宕の心からのお礼の言葉に、シュウは一瞬押し黙り、そのまま微笑んだ。

 

「守るべきものを守るのが自衛官の役目ですから、そうするために自衛官になったんです。まあ……ヘマしちゃって貴女に心配かけちゃいましたし、家族や仲間にしこたま怒られましたがね」

「それでも……助けてくれて嬉しかったです。それに……ものすごく失礼かもしれないですけど、貴方が今も懸命に生きている姿を見て、私もメソメソしていられないなって思ったんですよ? 貴方は私にとっては“ヒーロー”ですから♪」

「ははは、なんか照れるなあ」

 

 シュウの背中を洗い終わり、体に湯をかけて泡を流し、今度は二人で隣同士並びながら湯舟に漬かった。そして二人はいい機会だと言わんばかりに、互いの事を色々と語り合った。

 

「へえ、じゃあ提督ってこの町の出身だったんですね」

「ええ、関東の防大に進学するまでは……懐かしいなあ、閉まっちゃったお店とかも随分あるけど」

「ではご家族もこの町に?」

「ええ、母と妹が……父と兄は東京ですけどね」

「私の場合は……広島の呉になるんですかね? でも名前は京都の山が由来ですし……」

「ああそっか、艦娘って前大戦の軍艦の記憶があるんでしたね。」

 

 そんな他愛ない会話の中、シュウはふと愛宕がふふっと微笑んでいることに気付いた。

 

「あ、あれ? 俺そんなに面白い事言いました?」

「いいえ、そうじゃないんです。私……ここに来るまで不安一杯だったのに、今はすごく幸せだなって……提督、すごくおかしなことを言いますけど、この場所がこれから来る子達にとっても、安心できる場所になるといいですね」

「ああ、いいなあそれ、一緒に頑張りましょうね。えーっと……アレ?」

 

 その時、シュウはとある重大なことに気が付いた。

 

「そういえば俺達……名乗りましたっけ?(やっべ準備とかあって資料見とくの忘れてた)」

「あ(そういえばやる気でなくて資料とか目を通してなかった……)」

 

 そんな基本中の基本が抜けていた互いの間抜けっぷりに、二人は思わずぷっと噴出した。

 

「はははは……お互いトンだ間抜けでしたね」

「では改めて……」

 

 そして愛宕は湯舟に漬かったまま、シュウと対面する位置に移動する。

 

「私は愛宕……高雄型重巡洋艦の2番艦愛宕です♪」

「俺はシュウ……元陸上自衛隊所属、権藤秀です」

 

 互いに敬礼をしながら、出会って三か月以上たってようやく互いの名前を知った二人であった……。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 数分後、風呂から上がったシュウと愛宕は、それぞれの自室に戻るため廊下を歩いていた。

 

「あ、愛宕さん、外……」

 

 ふと、シュウは窓の外から見える満天の星が輝く夜空に気付き、愛宕に一緒に眺めるように促す。

 

「まあ、綺麗」

「ここから見る星も久しぶりだなぁ」

 

 そう言って二人は並び立ちながら、窓の外の星空を眺める。ふと、愛宕は隣にいるシュウの横顔を眺めた。

 

 ―――この人の傍にいると、不思議と心の奥が温かくなっていく。居心地の良さを感じる。ずっと彼の傍にいたい。私は……艦娘だから、この感情が“ソレ”なのかはよくわからない。でも……たとえ明日から、この場所に沢山の仲間が増えていき、彼が誰かの一番になって、彼がそれを受け入れても、私はきっと受け入れるだろう。姉妹達を失って、自分だけ幸せになるわけにはいかない。それにこの日、この瞬間は、ずっと私の中の宝物になると思うから……。―――

 

「愛宕さん? 俺の顔に何か付いてます?」

 

 ふと、シュウは愛宕が自分を見ていることに気が付く。

 

「いえ……これからここにどんな子達が来るのかなって思って……」

「そうっすねー、これから百人以上の艦娘達を率いないといけないのかー」

「うふふ、大丈夫ですよ……私が手伝いますから」

 

 こうしてシュウと愛宕、最初で最後の二人で過ごす鎮守府の夜は更けていった……。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 

 おまけ 寝る前のシュウと愛宕のやり取り

 

「そういえば提督の権藤って苗字……今の防衛大臣と一緒ですね」

「一緒も何も、その人俺の親父ですよ? ちなみに兄貴は親父の秘書やってます」

「え゛っ!!?」

「さっきも言いましたけどここに再就職できたのも、親父が大本営に色々掛け合ってくれたらしくて……」

「へ、へぇ~、私お兄さんにも会ってたんだ……提督もそのうち政治家になるんですか?」

「ど~でしょうね~? 親父は元自衛隊幹部でしたし、実績を積めばなるかもしれませんね」

「じゃあうまくいったら総理大臣になったりして?」

「あははー、いくらなんでもそれはないでしょー。」

 

 そんなフラグっぽい会話を交わしながら、二人はそれぞれの自室に向かう。こうして鎮守府設立一日目の夜は更けていくのだった……。

 




 はい、今回の話はここまで。時間かかって申し訳ない……これもテトリス99が悪い(責任転嫁)

 この作品のオリキャラである提督ことシュウ君、実はモデルの俳優さんがいまして、その人が演じてた役の中に「政治家の息子」という設定があったので、他の艦これ作品の被り回避も兼ねてこのような設定にしております。モデルが誰かわかった人は先着一名に限り、リクエストした艦娘を三話で出したいと思いますのでドシドシ感想欄に答えとリクエストしたい艦娘を書いてってください(笑)

 次回は初期艦含めて艦娘が一気に30人ぐらい鎮守府に着任する予定なので、気長にお待ちください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。