悪戯の神は希望を拾った 作:乾パン中毒者
やりたい展開ダラダラと書いてるだけだからあんまり期待はしないで(切実)。
因みに時期的に言えば原作の19年(厳密には18年と半年)くらい前です(適当)。
コツ、コツと靴が街道の床を踏む音が静かに響く。
周囲は既に夜の帳によって光が遮られているせいで真っ暗だ。微かに見える光は窓の隙間から漏れ出ている弱々しい光。それに照らされて見えるのは、泥だらけの自身の恰好。
震える息が喉から漏れ出る。
「…………ここ、どこ……?」
今にも泣きそうな子供の声だった。そしてその震えは声だけでなく、身体全体に伝播していく。
「私……誰……?」
足がもつれて、私はその場で転げた。膝や腕が擦りむけて、決して小さくない痛みが頭を刺激する。
私に記憶はなかった。気づけば薄汚い荷馬車の中で、周りの何もかもが理解出来ずほぼ一日中街の中を徘徊した。その道中で悪意ある者に転ばされたり、追いかけられたりした。にもかかわらず頼れそうな者など居るわけも無く、私の心は不安で擦り切れそうだった。
両目から涙が流れ出てくる。
(私……このまま、死ぬのかな……?)
最早這いずるだけの気力もなく、私はそんなことを思い始める。
周りに知り合いなど誰一人としておらず、そして手を伸ばしてくれる人にも出会えなかった。持っているのは価値すらわからないわずかばかりの硬貨とボロ切れのような服。
こんな浮浪児の様な少女を、一体誰が助けてくれるのか。考えてみれば当り前だと思えて来て、空っぽの笑みが浮かんでくる。
私はきっと、何も知らないまま此処で死ぬのだろう。
怖くはないのか? ……勿論怖い。だけど、抗う術がない以上どうしようもない。
それとも、今手を伸ばせば、誰かが掴んでくれるのか――――?
「ちょちょぉっ!? ええやないかちょっと尻触るくらい! ……えっ、出禁? 嘘やろぉ!?」
私の中で広がる悲痛な心と裏腹に、そんな声が聞こえてきた。
わずかに動く首を動かせば、朱色の髪と細目がちの瞳を持つ女性なのか男性なのかよくわからない体型の人物が酒場らしき場所に怒号と絶叫を上げていた。声からして、恐らく女性だろうか?
しかし肌で感じる微かな違和感が頭を惑わす。何だろうか、外見は普通の人なのに、本能的な何かがあの者を”畏れている”。これは、一体?
「ったく……ちょっとくらいサービスしても罰は当たらんだろうに――――って、んん? ん!? な、なんやアンタ! どないしたん!?」
その人と目が合ったかと思うと、彼の者は焦りながら私の傍へと駆けよってきた。
不思議と、謎の安心感は胸を満たす。だからだろうか。一度諦めた懇願の声が漏れ出したのは。
「……たす、け……て」
「…………う~ん、まあ、ええか。よしっ、うちが助けたる! 感謝せぇや!」
彼女は「よっこいしょ」と掛け声を上げながら、私の小さな体を背負った。その際に初めて感じる人の温もりが異様に暖かくて、涙が出てくる。
「……あり、がとう……」
「ふふーん、うちがいるからにはもう安心や。……でも、ちゃんと恩返しはしてもらうで?」
「ん…………」
その言葉に応えるように、私は彼女の首に手を回してギュッと抱きしめた。
ようやく得た宝物を、離さない様に。
◆◇◆◇◆
――――目が覚める。
ゆっくりと見開かれる瞼の間から見えたのは、見知らぬ部屋の天井。決して立派では無い古びれた木張りの天井を見て、昨日の出来事が夢では無かったのだとようやく認識できた。
少しずつ上体を起こせば、薄い毛布が退かされる。
そして、自分の隣で誰かが寝ていることに気付いた。ぼやける視界で見えたのは朱色の髪。
「ぐぅ……むにゃむにゃ……んあ?」
鼾をかいていた女性が涎を垂らしながら起き上がってきた。そして私の体を隅から隅まで弄ると、最後はパチンと自分の両頬を強めに叩き――――
「よっしゃぁぁぁぁああああーーーー!! 夢やなかったぁぁぁぁぁああーーーー!! 夢にまで見た美少女ゲットやぁぁぁああああーーーー!!」
途端にそんな奇声を上げながらはしゃぎ始めた。
何だろう、この人に拾われたことが非常に不安になってきた。
「あ、あの……」
「ん? なんや、どうかしたんかいな? あ、うちの名前はロキ。よろしく頼むわ」
「ええと……はい、ロキさん。それで、あの」
「あ、ジブン、名前はなんて言うん? 流石に名前がわからないんじゃ互いに呼びづらいやろ」
「名、前……」
口に手を当てて、己の過去を思い返そうとする。
――――
反射的に込み上げる嘔吐感。既に口を抑えていたからか対応は素早く、私は口を抑えて喉から込み上げる胃液を押し留めて飲み込んだ。
多少の痺れが喉を刺すが、それについて気にする余裕はなかった。
「……知らない、何も、思い出せない」
「…………嘘、やないみたいやな」
荒唐無稽な言葉にもかかわらず、ロキさんは私の言葉をそのまま信じてくれた。証拠も何もないというのにどうしてだろうか。だが私にとってそれが都合のいい事なのは確かだった。
「なあ、オラリオって言葉には聞き覚えあるか? 冒険者、魔法、魔石、
「……ごめんなさい。全部、わかりません」
ロキさんが次々と何かのキーワードを挙げるが、そのどれも私の琴線に触れることは無かった。
彼女は小さく呻き声を上げながら顔を抑えて天井を仰ぐ。
「うわぁ……マジかいな。初めての
明らかに彼女は困っている様子だった。それもそうか。拾った者が記憶喪失など、明らかに厄介事の種としか思えない。
そう考えると申し訳なくて、私は震える脚で立ち上がって彼女の前から去ろうとする。
「え、ちょ、待て待て待てィ! 自分どこ行くつもりなんや!?」
「その、助けていただいたことには感謝しています。でも、これ以上迷惑はかけられないので……」
「なーに勝手に決めとんのや! アンタはうちに借りがある! それを返すまでは手放す気はあらへんで!」
ロキさんは立ち去ろうとする私を羽交い締めして拘束した。そこまで強い力では無かったが、身体が弱っているからか碌に抵抗できない。
それに、彼女の言い分も一理ある。恩を返さずに立ち去ろうなんて、確かに図々しいにも程があった。
そう結論が出て、私は大人しく彼女に引き摺られてベッドに座らされた。
「でも、私ができることなんてあるんでしょうか……?」
「勿論や! ま、とりあえずうちの事とかこの街の事とか、色々と説明せなあかんな」
その後、私はロキさんから麦粥を食べさせられながら色んなことを教えられた。
まず、私のいるこの街は『迷宮都市』オラリオと言い、世界で唯一「
そのモンスターを狩ることで生計を立てている存在が冒険者と呼ばれる存在。しかしモンスターは一部を除いてどれもが超常的な力を持っており、普通の地上存在では対応が難しい。
そんな中、千年前に娯楽を求めた
力を与えた神々はやがて己の力を与えた子等を組織化し、ファミリアと呼ばれるものを作った。その役割は探索系、商業系、制作系、医療系など様々。果ては国家系までも存在しているらしい。
そしてそのファミリアが最も多く存在しているのがこのオラリオだ。
理由は単純に、ダンジョンから得られる潤沢な資源による一攫千金が狙えるからだ。モンスターという形で無限に魔石を得られる、そして未だ全貌が知られておらず未知の資源が無数に眠っている可能性を秘めたこの地は正しく宝庫と言っても過言では無い。
故に神々と人々は絶えずこのオラリオに集まってくる。金と夢と未知という冒険を求めて。
……というのがロキさんの話だった。正直、色々と密度が高すぎで整理しきれていない。だが彼女が求めているのは何となく察することはできた。
「その……つまりロキさん、いやロキ様は、私に眷属になってほしい、と?」
「せやせや。いやぁ、うちは最近下界に降りてきたばっかりでな? 色々と美男美女を勧誘してみたんやけど全く成果が出えへんから参ってたんやわ。で、昨日ようやくジブンを拾ったわけなんやけど」
「……ええ、と」
美男美女云々は置いといて、私が冒険者になるというのは、大丈夫なのだろうか。
念のため壁に飾られた鏡で自分の容姿を見てみるが、お世辞にも強そうには見えない。むしろ栄養が碌に生き届いておらず痩せこけた手足は、少し力を入れれば容易く手折れそうな印象だ。
そんな私が、危険な仕事をこなすことになる冒険者などになれるのだろうか……?
(……いや、まずはやってみよう。できなかったら、ロキ様に相談かな)
やる前から諦めるわけにはいかないと、私は心の中で強くかぶりを振るう。今は、彼女への恩返しを最優先に考えねば。どうせ朽ちるはずだった命だ。可能な限りの事はやってみようと決心する。
「その……こんな私でよければ、よろしくお願いします」
「っしゃおらぁッ!! 初の眷属ゲットやぁぁぁ!!」
ピョンピョンと、自身を
「じゃあ早速
「へ?」
いきなり脱げと言われてしまった。
同性とはいえ遠慮という者は存在する。会ってまだ一日経っていないであろう女性に突然脱げと言われて脱ぐ奴は居るだろうか? 居たら是非ともその者には「変態」のレッテルを張ってほしい。
「いや、別に変な意味で言ったわけじゃあらへんよ? 単純に
「わっ、わかりました……」
抵抗はあるが、必要ならば仕方ない。私は言われた通り上着を脱いで――――というか、着ていた服はワンピースの様な上下一体型だったので、必然的に全裸となってしまう。
羞恥心を堪えながら脱いだ服で前を隠して、ロキ様に背中を向けた。そして腰まで届く長い銀髪を肩から前に流して、その背中を露わにする。
「フヒヒッ、あーたまらんわぁ……そんじゃあ、記念すべき初
「ッ……」
ロキ様は自分の人差し指の腹に針を刺して血を浮かび上がらせ、私の背中、首の根元辺りにその指を触れさせた。そしてまるで絵でも描く様に指を走らせ始める
妙に手つきが艶やかなのは気のせいだろうか。
度々走る鳥肌を堪えて凡そ数分、ようやく完了したのかロキ様はやっとその指を止めた。それと同時に溜まりに溜まった息を吐く。しかし中々言葉を発さないロキ様が気になり、ふとチラリと背後を見るが――――
「……………なんや、これ」
「え……?」
先程と打って変わって、震えた声を漏らす彼女が居た。
ゾクリと、酷い悪寒が身体を包む。そんな私の様子に気付いたのかロキ様はあたふたと顔を取り繕い、いつもの笑顔を作り上げた。
「あー、大丈夫や大丈夫や。ちょっとジブンの【ステイタス】にビックリしただけやから」
「そ、そう、ですか」
「はい、これ【ステイタス】な。……まさか肝心の名前が書かれていないってどういうことや……」
ロキ様は素早く背中に浮かんだ光る文字を消すと、予め用意していた羊皮紙に羽ペンを走らせた。曰く、【ステイタス】は普通なら下界の者達が用いることは無い【
故にその【
翻訳作業が終わり、私は渡された羊皮紙を見る。だが私には、紙を見る以前に大きな問題を抱えていた。それは――――
「……すみません、ロキ様。私、文字が読めないんですけど……」
「…………おうふ」
どうやら前途は多難らしい。
◆◇◆◇◆
「あー疲れたわぁ~……」
身体を椅子の上に放りながら、ロキはぐぐーっと背伸びをする。長々と机の上にしがみついていたおかげで身体は節々が凝り固まっており、証拠として背伸びをすればミシミシと骨が軋む音がする。
「まさかファミリア結成後にやることが文字の教鞭とはなぁ……人、いや神生何があるかわからんわ、ホンマ」
ロキは頬杖を突きながら、隣のベッドですうすうと眠っている己の初めての眷属を眺める。
普段の姿もとても可愛いが、寝顔は更に可愛い。思わずムフフという気持ち悪い笑みが漏れるロキであったが、自身の記憶の中にある彼女の【ステイタス】の内容を思い返した瞬間複雑な顔に歪められた。
「……まさか名前がない上に
Lv.1
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
《魔法》
【■■■■■】
・現在使用不可
【フィシ・ストイケイオン】
・
・速攻魔法
・地、水、火、風属性から選択可能
・■■■■■■
・詠唱式【
【】
《スキル》
【■■■■■■】
・生きている限り試練が訪れ続ける
・窮地時に全能力の超高域強化
・獲得
・諦観しない限り効果持続
・自分と周囲が希望を抱くほど効果向上
【■■■■】
・解読不能
【■■■■】
・解読不能
以上が、彼女の【ステイタス】の内容だ。ロキ自身初めてのことだったので自分の方に不備があったのでは、と疑ったが地上に降りた
故に自身に異常はなく、あるとすれば目の前の少女だとロキは結論付ける。
(外見はただのヒューマンなのに魔法スロットが三つ。そして二つは発現済み。更にレアスキルらしきモノが三つ……明らかに異常やろ。それになんやこのスキル……!?)
スキルの中で唯一解読できたものの内容は決して普通のソレではなかった。
窮地時における全能力の強化や取得する【
思わずロキの顔が渋くなるようなそれは完全に異常としか言えないスキルだ。なにせ本人の『運命』に干渉しているようなものなのだから。
それが少女が元々持っていた因果なのか、それとも『
「ちゃんと見守らなあかんな……」
寝ている少女の頭を撫でながら、ロキは小さく呟いた。己が子を見守る親の様に。
遠慮なくチートスキルをつけていくスタイル。いろんな試練が飛び込んでくる予定だからね、仕方ないね(諸行無常)。
魔法名やスキル名は公開すると確実に正体バレそう(てか絶対バレる)だから伏せた。後悔はしていない。
ぶっちゃけあと10話以内で勘のいい人はなんとなく察しそうだけど、一応警告しておくと感想欄とかで「この子って○○ですか?」とか言うのマジ勘弁な!投稿者との約束だぞ!!