悪戯の神は希望を拾った   作:乾パン中毒者

12 / 19
第十二話:ランクアップ

 戦争遊戯(ウォーゲーム)は【ロキ・ファミリア】の勝利と言う、誰も予想だにしなかった結末で幕を閉じた。

 

 両派閥の激闘による盛り上がりは最初の話題性の低さと反比例するかの如くうなぎ上りになり、【アパテー・ファミリア】は改めてその凶悪性が認知され、そして【ロキ・ファミリア】は零細ファミリアながらとんでもない超大型新人(スーパールーキー)を抱えているファミリアだと注目を浴びるようになる。

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)に敗北した【アパテー・ファミリア】は【ロキ・ファミリア】の要求通り本拠(ホーム)を含めた全ての財産を勝者側に移譲。そして主神手ずからたった半日で全ての眷属から神の恩恵(ファルナ)を強制的に剥奪し、追撃の如く今の今まで誤魔化してきた全ての罪を主神自らぶちまけたことによって、大怪我をしながらどうにかオラリオへと帰還した全ての団員はその場で即時に逮捕、収監所送りになったことで【アパテー・ファミリア】は完全に崩壊した。

 

 そして主神アパテーは数時間の間だけ行方をくらました後にバベル前で自死を行い『神の力(アルカナム)』を発動させ天界へと強制送還。これにより【ロキ・ファミリア】に初めて降りかかった脅威は完全に消滅することとなった。

 

 しかし、一度起こった火は中々収まらない。

 

 何より話題だったのは【アパテー・ファミリア】の主神により全団員のレベルが改めて公開されたことだ。ご想像通り彼らはギルドからの税収を少しでも低くするためにレベルアップの報告を行っておらず、幹部であるリックス・バルバロンおよびブロス・スカーは実はLv.2であった事、そして団長のグリード・アルパガスに至っては既に一年前にLv.3に昇格済みだったという事実が発覚した。

 

 それ自体はそこまで問題は無かった。レベルを誤魔化しているファミリアなど探そうと思えば指で数えるには足りないくらいは居るだろうから。注目すべきは【ロキ・ファミリア】のアイリス・アルギュロスがLv.1であることである。

 

 第三級冒険者未満のひよっこ(Lv.1)が、第二級冒険者(Lv.3)を単独で倒した。

 

 前代未聞かつ千年間続くオラリオの歴史の中で一つたりとも前例のないそれは殆どの冒険者にアイリスのレベル詐称疑惑を浮かび上がらせ――――そして後日、ギルドによる厳密な捜査の結果、彼女は紛れも無く一週間程前に登録されたばかりのLv.1であることが発表された。

 

 その情報が公開されると同時にオラリオに激震が走る。

 

 一週間前に冒険者になったばかりの者が、Lv.3を打ち倒す。その字面だけを見れば誰もが言うだろう。「あり得ない」と。レベルとは一つ違うだけで文字通り次元が違ってくる。確かにLv.1の冒険者が複数人がかりでLv.2を倒したという前例はあるが、Lv.3相手では無論蹴散らされて終わる。

 

 故にこの情報は普通ならホラ話だと片づけられる類なのだ。――――だが、戦争遊戯(ウォーゲーム)という多数の者が観戦できる中で打ち立てられた功績が吹けば飛ぶような物である筈がなく、彼女は文字通り世界で初めて2ものレベル差を覆した実例となった。

 

 

 そして追撃の如く発表される更なる追加情報――――アイリス・アルギュロス、Lv.2到達。

 

 

 所要期間、十一日。

 

 モンスター撃破記録(スコア)、六八二体。

 

 今後一切塗り替えられることのないLv.2への最速到達記録(ワールドレコード)が打ち立てられた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「――――で、うちはこう言ってやった訳や。『うちからアイリスたん奪おうとした奴はどんな手を使ってでも潰すから覚悟して来いや』ってな! その時のアイツ等の顔と来たら……アヒャヒャヒャ!」

「もう、飲み過ぎですよロキ様……」

 

 夜の宿部屋の中で酒気を帯びた息と共に放たれる、主神のもう何度目かわからない自慢話を聞く度に頭が痛くなる。一度二度聞くだけなら別に構わないのだが、流石に二日間で何回も同じことを話されると流石の私もうんざりしてきた。

 

 しかし、心のどこかでは仕方ないとも思っている。何せ、かなり絶望的だった戦争遊戯(ウォーゲーム)の危機を見事乗り越えることができたのだから。

 

 私だって自分に浮かれている気持ちが無いとは言えない。

 

 

 ――――【アパテー・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)からもう三日が過ぎた。

 

 

 我ながら凄まじい激闘を繰り広げた後に丸一日かけてオラリオに帰還した後、待っていたのは顔も知れない多くの人からの歓声だった。一部からは「金返せー!」といった声も含まれていたが、大方戦争遊戯(ウォーゲーム)名物の賭博で負けたのだろうと察して無視した。

 

 そして数分後、遠方から全力疾走で駆けつけてきた主神(ロキ)様から、そしてその上から重なるように専属アドバイサーであるアイナさん(余談だがその時にようやく名前を知った)の二人から熱烈な抱擁を受けた。またその後には【アパテー・ファミリア】から散々苦しめられてきたLv.1前後の冒険者たちによる胴上げやら、いつの間にか用意されていた祝勝会やらと――――帰還して一日は正しく激動の時間だったと言えるだろう。

 

 で、私もその日は気持ちよく食べて飲んで遊んで寝た訳なのだが……後日からがとても問題だった。

 

 時は二日前の夜へと遡る――――

 

 

 

 

 ――――祝勝会を終えた夜、私はベロンベロンに酔いつぶれたロキ様に肩を貸しながらいつもの宿屋へと向かっていた。

 

「うぇへへ……あいりすたんさいこぉ~」

「ロキ様……ドワーフの火酒の一気飲みなんてするから……」

 

 ドワーフの火酒とは、酒にめっぽう強いドワーフが好む度数が凄まじく高い酒の事である。恐らく数ある酒の中でもトップクラスに強いソレを、ロキ様はノリにノリまくって周りに煽てられるまま一升を一気に呑み干してすぐさまぶっ倒れた。

 

 命に別状はなかったものの祝勝会が終わるまで気絶状態が続き、こうして帰路に就いてようやく目覚めてもこの有様であった。もう少し先のことを考えて行動してくれないものかこの主神様は。

 

 とはいえ神の恩恵(ファルナ)によって強化された肉体でロキ様一人を運ぶくらいは訳なく達成できることだ。私は今にも倒れそうな主神に背中を貸しながら宿屋の階段を上り、彼女をベッドに寝かせた。その頃になると酔いも少し覚めてきたのか「水ぅ~」と頭を押さえながら呻く様は完全に二日酔いしたおっさんのそれである。

 

 苦笑しつつロキ様に水を差し出した後、私は今まで空いた手で持っていた、最早元の姿が判別できないレベルにまでボロボロになった戦闘服(バトルドレス)を床に置いた。

 

 そこそこ良い金属を使っていたらしいが、流石に魔剣の連続攻撃には耐えられなかったらしい。だがまあ、良くここまで持ってくれたと私は煤けた装甲の表面を撫でる。

 

 その後は軽くシャワーを浴びて寝間着に着替えた。帰りの一日で睡眠は十分とったが、今回のバカ騒ぎによって色々と精神的に疲れてしまった。今日は早く寝て、明日武器と防具両方を新調しに行こうと決心する。

 

「…………ごめんね」

 

 壁に立てかけていた鞘から《アグノス・ソード》を引き抜く。

 

 刃は欠損だらけで、刀身には幾つもの深い罅が入っているそれは最早元の流麗な姿を思い出せないほどにまでボロボロになっていた。今までの戦いでも散々無茶をさせてきたが、今回は極めつけだ。何せLv.2やLv.3の振るう得物の連撃を幾度も受け止めたのだから、ダメージが無いはずがない。

 

 結果的に考えれば最善の行動だったとはいえ、自身を守るために何度も敵の攻撃を受け続けた愛剣に申し訳ない気持ちで一杯になる。

 

 私は……この子を、上手く使えていただろうか。

 

「……一応、鍛冶師に相談しておこう」

 

 此処でこの子を終わらせたくはない。せめて鋳潰して何かの武器に生まれ変わらせたい。

 

 費用は掛かるだろうが問題は無い。お金はロキ様曰く【アパテー・ファミリア】からたっぷり搾り取ってたんまり持っているらしいから。

 

「アイリスたぁ~ん、寝る前に最後の【ステイタス】更新しよか~」

「あ、はい!」

 

 酔いはまだ覚めていないが正気には戻ったらしい。ロキ様はへにゃりとした笑みを浮かべながらわきわきと両手を握ったり開いたりしている。良い神様なんだけど如何せん酒癖が悪いのはどうにかしてくれない物か。

 

 椅子に座って、ロキ様へと背を向ける。既に何度もやってきた【ステイタス】の更新。いつも通りパパッとやって寝よう。そう考えていると――――

 

 

「にゃんじゃあごりゃぁぁぁあああああああああああああ!!!??!?」

 

 

 酔いが抜けきって無いせいで噛み噛みになりながら絶叫するロキ様の声が木霊した。だがこの前卒倒したことと比べれば軽いと感じるので、私は淡白な反応を返しながら振り返る。

 

「何ですかロキ様……叫ぶと近所迷惑ですよ?」

「いや、ちょ、これ……嘘やろお前……? Lv.2に昇格(ランクアップ)可能なのは予想済みやったけど……あ、頭痛くなってきたわ……!」

「…………?」

 

 どうも尋常な事態ではないらしい。……いや、Lv.2に昇格(ランクアップ)可能?

 

「ラ、ランクアップって、ホントですか!?」

「あ、うん、ホントやホント。……あー、うん。とりあえずランクアップするか?」

「お願いします!」

「じゃ、とりあえずLv.1時点での最終【ステイタス】書いておくわ」

 

 すっかり酔いが覚めてしまった様子でロキ様は指でこめかみを押さえながらガリガリと羊皮紙に羽ペンを走らせる。

 

 私のLv.1に置ける最終【ステイタス】は以下の通りだ。

 

 

 アイリス・アルギュロス

 Lv.1

 力:SSS1254→SSS1582

 耐久:SS1038→SSS1391

 器用:SSS1172→SSS1406

 敏捷:SSS1386→SSS1688

 魔力:SSS1193→SSS1502

 《魔法》

 【フィシ・ストイケイオン】

 ・付与魔法(エンチャント)

 ・速攻魔法

 ・地、水、火、風属性から選択可能

 ・()()()()()()

 ・詠唱式【地よ、震え上がれ(エダフォス)】【水よ、噴き上がれ(プリミラ)】【炎よ、燃え上がれ(プロクス)】【風よ、舞い上がれ(フルトゥーナ)

 【】

 【】

 《スキル》

 【輪転する厄災(■■■■■■■■■・■■■■■■)

 ・窮地時に全能力の超高域強化

 ・諦観しない限り効果持続

 ・自分と周囲が希望を抱くほど効果向上

 【■■■■】

 ・

 ・魔力消費による肉体の高速修復が可能

 ・常時全能力に小補正

 ・発展アビリティの発現確率に大幅補正

 ・精神系状態異常の無効化

 【焔神の加護(プロメテウス・セルモクラスィア)

 ・火属性の攻撃に耐性獲得

 ・氷・水属性の攻撃に耐性獲得

 ・火属性の魔法行使時にのみ魔力に高域強化

 ・火属性の魔法行使時に消費する精神力(マインド)量一定割合減少

 ・窮地時精神強度を微補正

 

 

 全アビリティ熟練度オールSSSと、ランクがきっちり揃ったことに小さな喜びを感じつつも私はスキルの欄に大きな変化が起こっていることを確認した。

 

 新たにスキルが二つ増えて、そして今まで詳細不明だったスキルや一部の個所が何故か急に解読可能になっていた。スキルの名前は相変わらず潰れているが、効果が明らかになったのはかなり事態が好転したと言える。

 

 ……ん? アレ? ちょっと待って。位置がおかしい。この【輪転する災厄】というスキルは今日初めて見る物だ。なのに今まで詳細不明だったスキルの上に書かれているのは何故だろうか? 記入ミス? それに何か所か無理矢理擦って消したような痕があるし……。

 

「あの、ロキ様。見たことのないスキルが一番上にあるんですけど」

「記入ミスやないで~。実はそのスキル、かなり前から発現済みやったんやなぁ~、これが」

「えっ」

 

 まさかの予想外すぎるカミングアウトである。

 

 羊皮紙に書かれた【輪転する災厄】の効果をもう一度読み直してみると、確かに過去に二度、インファント・ドラゴン強化種との闘いと【アパテー・ファミリア】のと戦いで()()()()()()を受けたような感覚は覚えたことがある。恐らくそれが『窮地時に全能力の超高域強化』の恩恵なのだろう。

 

「えっと、どうして今まで黙っていたんですか……?」

「あんな切迫した状況で明かしたら確実に無茶やらかすやろ? まあ、言わずともたくさんやらかしたようやけど……」

 

 それを言われると苦笑しかできない。しかし、確かに早期からこのスキルの存在を知っていたらかなりの無茶無謀を仕出かしただろう。

 

 精神的な余裕ができた今ならばそんな危険を冒す気はないが、そういった意味ではこのスキルの事を隠匿した主神の判断は正しかったという事か。

 

「ともかくアイリスたん。自分がレアスキルをわんさか持ってること絶対誰かに知られたらアカンで? 万が一知られたらアイリスたんを無理矢理引き抜こうとする輩が大勢現れるかもしれへん。いや、最速でLv.2になった以上ぶっちゃけ今更やけど。とにかく絶対口外せんようにな!」

「わかりました。……ところで他に隠している事とはあったりしません?」

「……な、無いで?」

「…………まあ、ロキ様が隠すべきだと判断したのなら別に構いませんよ。きっと私を思ってのことでしょうから」

「うぐぐ……! そんな事言われたらうちの良心ががが……!?」

 

 様子から察するに、どうやらあと数個は何かを隠しているらしい。

 

 だが、私は主神の判断を信じよう。今回だって私に危険が及ばないために隠していたのだから、怒るのは筋違いだろう。むしろ感謝するべきだ。いつ明かしてくれるのかはわからないが、気長に待つとしよう。

 

 今はそれよりもランクアップだ。

 

 初めての昇格(ランクアップ)ひよっこ(Lv.1)から第三級冒険者(Lv.2)へ。今までの多大な苦労が実ったようで実に嬉しい。そしてまた第二級冒険者(Lv.3)への長く険しい道のりが待っていると思うと少しだけ苦笑してしまうが――――ともかく、今は喜ぼう。

 

「よしっ、これでランクアップの準備は完了や。いやホント、十日ちょいでこの光景を拝むとは思わなんだ、マジで……。あ、発展アビリティが習得可能になっとるわ。えーと……【精癒】、【剣士】、【狩人】の三つやな」

 

 発展アビリティとは既存の基本アビリティに加えて発現する能力である。

 

 発現するタイミングはランクアップ時のみ。レベルが上がる都度、ステイタスに追加される”可能性”がある。基本アビリティとは異なる特殊性を持つ能力を発芽、もしくは強化させる物だ。

 

 ついでに言えばあくまで”可能性”があるだけで発現しない場合もある。書物で読む限り積み上がった【経験値(エクセリア)】が関係しているらしいので頑張った分だけ選択肢が多くなるということか。

 

 因みに今習得可能な発展アビリティについて解説すると、

 

 【精癒】は精神力(マインド)の自動回復。

 

 【剣士】は剣カテゴリ装備時筋力に微補正を与える。

 

 【狩人】は一度交戦し、【経験値(エクセリア)】を獲得したことのある同種のモンスター戦に限り能力値が強化されるというもの。因みにこれはLv.2へのランクアップ時でしか習得できないらしい。

 

 選択肢が多いのは結構だが、実に悩ましい。Lv.2へのランクアップ時でしか習得できないのならば【狩人】がいいかもしれない。だが精神力(マインド)自動回復効果という【精癒】も捨てがたい。次のレベルアップが何時になるかわからない以上慎重に選びたいが……。

 

 ――――うん、決めた。

 

「【狩人】でお願いします」

「ん、わかったわ。では……ホイホイっと――――終わったで~」

 

 ロキ様が指をすいすいと走らせ、作業はあっけなく終わる。

 

 もうちょっと何か、内側から力が湧き上がるような感覚とかがあると思ったのだが、意外とあっけない物だ。

 

 ロキ様が更新後の【ステイタス】を記した紙をこちらへと手渡してくる。見れば、基本アビリティと熟練度が全て初期化(リセット)されてI0になっていた。が、別に焦ることでは無い。別に積み上げてきた経験が消え去ったわけでは無く、潜在値(エクストラポイント)として【ステイタス】へと反映される、らしい。

 

 ともかくこれで全ての作業が終わった。私は半脱ぎになっていた寝間着を着直して整えながら、ふと新しく発現していたスキルの事を思い出す。

 

「あの、ロキ様。新しく発現したスキルの事なんですけど……」

「ん~? ああ、あのプロメテなんちゃらってやつやな。……多分魔剣の一斉攻撃を受けたせいで発現したんだと思うで。てか今更だけどアイリスたん、一体どうやってアレ耐えたんや?」

「……さあ?」

 

 本音を言わせてもらうと、あの時は本気で死んだかと思った。にもかかわらず短時間の気絶だけで済んだのはどういう事だろうか。

 

 【輪転する災厄】の効果で耐久が引き上げられていたからか、それとも《小人族のアーマードレス》が意外と高性能だったのか、あるいは当たりどころが良かっただけなのか。

 

 まあ、こうして無事だったのだから、何でもいいか。

 

(……【焔神の加護(プロメテウス・セルモクラスィア)】、か)

 

 ……しかし、このスキルの発動に心当たりがある。気絶前と気絶後の魔法の出力が明らかに異なっていた、あの場面。

 

 スキルは今発現したはずだ。なのにあの時点で効果が発揮されていた。一体どういうことなのだろうか。ロキ様が今まで隠していた?

 

 いや、きっと違う。このスキルは恐らく――――あの瞬間【ステイタス】に生まれたのだ。

 

 どういう原理かは知らないが……うん、私が気にするべきことでは無いかな。これはきっと神の領分だ。

 

 とにかく、もう寝よう。今日は疲れたし明日も早い。私はロキ様の隣で横になり、布団を被って瞼を閉じる。

 

(……暫くは、ダンジョン探索は控えよう)

 

 そんな事を思いながら、私は意識を沈めていった。

 

 

 

 そして、翌日。

 

 私はメインストリートで()()()()()逃走劇を繰り広げていた。

 

 今日は《アグノス・ソード》の残骸とインファント・ドラゴン強化種のドロップアイテムを持って適当な【ヘファイストス・ファミリア】の工房に顔を出そうとしただけなのに、どうしてこうなった。

 

「待ってよアイリスちゅわあああああああああん!! 俺と一緒に愛を囁き合おうぜぇぇぇぇ――――ッ!!」

「んんんwwww幼女をprprしたいですぞwwww」

「ねえねえねえねえ! どうやって戦争遊戯(ウォーゲーム)であんなに大立ち回りできたんだい!? 教えてよぉぉおぉおおおお!!」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!?!?」

 

 Lv.2になって初めて全力の脚力を発揮する場面がこんな時とは思わなかった。私はメインストリートを全力疾走しながら津波のように押し寄せてくる神々から逃れ続け、どうにか撒くことはできた。

 

 念のため別のところから北東メインストリートの工業区へと赴こうとしたのだが、どうやってかは知らないが行く先々で神々たちに待ち伏せされたり、更に追加で現れた無数のLv.1冒険者たちからも逃走劇を繰り広げたりしている内に空はすっかり夕日模様に変わり、一日のほとんどを丸々無駄に潰してしまった。

 

 どうやら私の齎した話題はかなり刺激が強かったらしく、顔を出しておちおちと外出もできない有り様である。故に主神と共に溜め込んだ食糧を適当に食いつぶしながらほとぼりが冷めるまで待つことに決めたのだ。

 

 

 

 ――――そして、現在に至る。

 

 ほとぼりは後数日もあれば冷めるだろう。食料もまだ余裕はある。味は悪いが、背に腹は代えられない。宿にある食堂で食事をすることもできるのだが、同じ宿泊客に顔を見られて此処に居ることがバレたら確実に面倒なことになる。

 

 因みに宿のオーナーには予めロキ様がお金を握らせて黙らせておいたらしいので安心だ。

 

「ふぇへへ……アイリスたん柔らかぁ……きゅう」

「……寝ちゃった」

 

 酒をしこたま飲んだ挙句爆睡を始めた主神に呆れを隠せない。周りを見渡せば空になった酒瓶が散乱していて、頭が痛くなりそうな光景だった。

 

 深いため息をつきながらロキ様をベッドに寝かせ、散らかった酒瓶を片付けつつ私は暇な時間をどうやって潰そうかと考える。

 

 いつもなら剣や防具の整備、もしくはダンジョンに潜るための前準備などをしているのだが、前者は現在、武器と防具が両方共壊れているので不可能。後者は暫くダンジョンに潜るつもりは無いので意味は無いだろう。かと言ってこのまま寝るという選択肢も少々選びづらい。

 

 時計を見ればまだ夜の九時少し。寝るには少々早すぎる。

 

「……散歩でも行って来よう」

 

 もう日も暮れたし、昼と比べて大分人は少なくなっているはずだ。それにフードで顔を隠すつもりなので見つかる可能性は恐らく低い、と思いたい。

 

 まあ、見つかったとしても全力で逃げれば何とかなるか。

 

 机の上に書き置きを残して、私は外出用の服に着替えてその上から頭巾をかぶる。そして顔が見えにくいことを鏡で確認して、宿屋を出た。

 

 夜風が冷たく、人気もほとんどない。これなら出歩けそうだ。

 

「…………ん?」

 

 軽やかなステップを踏みながらメインストリートを歩いていると、傍にあった裏路地の奥で何かが視界の端を横切ったような気がした。

 

 嫌な予感がして、足を止めて奥を凝視する。

 

 

 ――――覆面を付けた男たちが、手足を縛られ猿轡をされた翡翠色の髪を持つエルフの女性を担いで運んでいた。

 

 

 それが何なのかを瞬時に理解し即座に疾駆。裏路地を一秒にも満たない速さで走破し、地面を蹴って女性を担いでいた男の顔面を蹴り飛ばした。

 

 完全な奇襲により男は頭から吹き飛び、その際に手放されたエルフの女性の身柄を私はしっかりと確保する。

 

「なっ、誰だテメェは!?」

「俺らの商売の邪魔をしようってのか!!」

「屑共め……!」

 

 やはり私の勘は正しく、彼らは人身売買を行おうと画策していたらしい。ならば遠慮は不要。殺さないが、半殺し以下は確定だ。

 

「【地よ、震え上がれ(エダフォス)】!!」

『ぎゃあああああああああッ!?!?』

 

 力を右腕だけに発現させ、地面を叩く。

 

 すると石レンガの敷き詰まった道路が直ぐに蠢き始め、舗装された道路の下から岩石の塊が突き出して数名ほどいた男たちを残らず殴りつけて吹き飛ばした。宙を舞った男たちはその後地面へと叩きつけられ気絶。

 

 戦闘終了。五秒もかからなかった。

 

「……うん、確かに変わってる」

 

 今まではランクアップしたという実感がなかったが、魔法を使うことで改めてLv.1との違いを理解することができた。【地よ、震え上がれ(エダフォス)】を唱えた際に扱えそうな土の量も、質も、そして速さも格段に上がっている。

 

 今ならインファント・ドラゴンの強化種を単独で相手取っても問題無いかもしれない。

 

「っと、いけない。すみません、今縄を解きますね」

 

 感慨に浸るのは後にして、まずは人命救助をしなければ。私は懐から護身用のナイフを取り出し、茫然とした顔で私を見ているエルフの女性の手足を縛っている縄を切り、猿轡を解いた。

 

 それからエルフの女性は新鮮な空気を何度が吸って吐くと、改めて私の方を見つめる。

 

「――――はぁぁ……感謝する。捕まった時は、どうなることかと思ったよ」

「私も焦りましたよ。散歩していたらこんな場面に出くわすなんて……。あ、立てますか?」

「ああ、大丈夫だ」

 

 そう言いながらエルフの女性は問題無く立ち上がった。どうやら怪我はしていない様だ。

 

 しかし、改めて見るととんでもなく美しい女性だった。

 

 肩程で切り揃えられた翡翠色の髪は夜だというのに黄金の様に輝いて、それでいて流れる水の様に美しい。同じ色をしている瞳も宝石と思える程引き込まれそうな光輝を放っていた。当然、顔も完璧と言える程整っており、普段からロキ様から放たれる神威を認識していなければ間違いなく女神様の類だと確信していただろう。

 

 嫉妬する気も起きないほどの容姿端麗さ。声も凛とした玲瓏なもので、聞いているだけで心地よい気分になる。

 

「それであの、どうしてこんな事に……?」

「……その、実は探し人をしていてな。少し前までは集団で探していたのだが、酒場の中で話を聞いている最中に後ろから口を塞がれて……」

「……酒場ですか?」

 

 この様な絶世の美女なエルフがこんな夜中に、そして荒くれ共が集まりやすい酒場などに居たらどうなるのか。答えは先程起こっていた光景である。

 

「わ、私も最初は反対したのだ! だがあのいい加減なドワーフが『酒場の方が情報は集まりやすい』とか言い出したせいで……! くっ、ガレスめ! 今度会ったらただでは済まさんぞ……!」

「あ、あの。とりあえず近くのギルド支部まで同行してもらえますか? この人達についての証言をして貰わないといけないので……」

「ああ、勿論だ。窮地を救われたんだ、そのくらいの事はしよう。……あ、その後で知人たちと合流するまで護衛を頼みたいのだが、構わないか?」

「はい。大丈夫です」

 

 私がそう返事をすると、エルフの女性は輝くような微笑みを見せながら手を差し出した。……あれ、エルフって自分が認めた者にしか触れることは許さないとかなんとか言われてなかったか。

 

 まあ、手を差し出されて握り返さないのも失礼だと思い、私は恐る恐ると言った様子で彼女と握手をする。

 

「リヴェリア・リヨス・アールヴだ。よろしく頼む」

「アイリス・アルギュロスです。よろし「何だと!?」――――あ」

 

 自分の名前を名乗ると、リヴェリアと名乗ったエルフの女性は瞳の色を変えて私の両肩をガシリと掴んで顔を寄せてきた。一瞬「え?」と思ったが、ああ、そう言えば今の私って有名人なんだっけと今思い出した。

 

 まずい、騒がれると確実に面倒なことになる。どうやってこの状況を乗り切ろうか――――と、思った瞬間。

 

 

「頼む! 私を【ロキ・ファミリア】に入れてくれないか!?」

「えっ」

 

 

 完全に予想外の言葉が出たことで、私の頭はフリーズした。

 

 

 

 

 




アイリス「Lv.2になって始めて戦う相手が人間って……」

ようやくロキ・ファミリア最古参勢の登場だよ……ここまで十二話とか嘘やろ……。

あ、こういった出会いの物語は完全に捏造です。というか原作では最古参勢とロキはオラリオ外で出会っているらしいので、そもそもの始まりがズレたこの時空では原作とはまた違う出会い方をするって事で……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。