悪戯の神は希望を拾った 作:乾パン中毒者
アイリス・アルギュロス
Lv.1
力:I68→F311
耐久:I22→H195
器用:I45→F301
敏捷:I81→F370
魔力:I0→H144
《魔法》
【■■■■■】
・現在使用不可
【フィシ・ストイケイオン】
・
・速攻魔法
・地、水、火、風属性から選択可能
・■■■■■■
・詠唱式【
【】
《スキル》
【■■■■■■】
・生きている限り試練が訪れ続ける
・窮地時に全能力の超高域強化
・獲得
・諦観しない限り効果持続
・自分と周囲が希望を抱くほど効果向上
【■■■■】
・解読不能
【■■■■】
・解読不能
(嘘やろ……)
翌日の朝、ロキは未だに寝たままの眷属の背中に跨りながら【ステイタス】の更新をしていた。
最初は起きてから行おうとしたのが、己の好奇心に負けた結果である。そして彼女が見たものは、全アビリティ熟練度上昇値トータル1000オーバー。常識を逸した成長速度に、ロキはもう何度目かわからない卒倒しそうな気持ちを覚えた。
いっそ夢であってくれと自分の頬を引っ張ってみるが、景色は変わらず。無慈悲に今が現実だと突きつけられてロキは頭を抱えた。
(二年どころかこのペースだと一週間以内でランクアップしかねないやんこれぇ……!?)
アビリティの熟練度はS、A、B、C、D、E、F、G、H、Iの十段階で表され、数値的なカンストは999である。なのだが、アイリスは冒険者になって本格的な活動を始めてまだ二日程度だというのに、既に一部のアビリティが二段階飛んでFに突入していた。敏捷に至っては既にE目前である。
明らかにおかしい。異常すぎる。普通の冒険者ならばこの段階に至るまでは一ヶ月以上かかるものだ。それが、たったの二日。一ヶ月が、二日である。もしこの事実を他のLv.1冒険者が知ったのならば自分の努力が馬鹿馬鹿しくなって冒険者業を投げだすか、嫉妬のあまり襲い掛かるかのどちらかだろう。
「ゆっくりでええって言ったやん! あーもぉぉぉぉぉおおおおおおっ……!!」
思わず怨嗟の声が這い出るロキ。それもそうだ。このままだと冗談抜きでLv.2までの
いっそオラリオ唯一かつ最大規模の農業系ファミリアの主神であり温和な人格神として有名なデメテル辺りに泣き付いてみるかと本気で思い始めた頃、ロキは「うぐ……」と自身が跨っている少女が小さく呻きながら目を開けたのを察知した。そして即座にステイタスを閉じて
「アイリスたん!? 起きたんか? ほら、水や」
「あ、りがとう……ございます……」
アイリスが無事に目覚めたことに胸をなでおろしつつ、ロキは用意していた水差しからコップに水を注いで彼女に手渡した。未だに意識が朦朧としているものの、それは数分で正常に戻る。
そしてロキは深く深呼吸をし、キッと目の前に居る
「……で、なんであんな体になっていたのか、説明してもろか」
「それは……」
「念のために言うけど、
じーっと、ロキはアイリスを何分間も見つめ続けた。気まずそうにするアイリスだったが、やがて罪悪感に負けたのか痺れを切らしたのか、ぽつぽつと事情を口にし始める。
夕方の頃に帰宅しようとしたが、道中同業者らしき者に金銭を巻き上げられた事。取り返そうとしたが、成す術もなく敗北したこと。そして、奪われた分を取り返すためにもう一度ダンジョンに潜り、4階層で
それを聞いてロキは無言で顔を手で覆いながら、クックッと薄気味悪い笑いを零し始める。
「……なぁるほど、なるほどな。うちも油断してたわ。まさかこんな可愛い少女から金を巻き上げる奴なんておらんだろうと踏んでたけど、完全に予想外だったわ……。しゃーない、潰すか」
「っ、ま、待ってください!」
神威を漏らしながら件のファミリアをあの手この手で叩き潰すための支度を始めようとするロキであったが、予想外にも
ロキに睨み返されて肩を震わせながらも、彼女は意を決して己の中の言葉を紡ぐ。
「こ、これは、私の問題です……。私が弱いから奪われたんです。ロキ様が出向くほどのことではありません。私が強くなればいい話なんですから」
「あのなぁ、アイリスたん。これはうちの面子の問題でもあるんや。正直今のうちメッチャキレてるんやで? ……うちの可愛い眷属に手ぇ出したらどうなるかを見せつけたる。徹底的にや」
「私がっ、乗り越えたいんです! 自分の力で!!」
アイリスはギュッと、ロキの手を握り締めて懇願した。
オラリオで冒険者同士の諍いは珍しい光景では無い。むしろ毎日頻繁に起こっていると言っていいだろう。そして基本的にそんな些事に対して主神が直々に出向くことは少ない。
何故か。それは小さなことに対して一々顔を出していたらキリがないし、事が大きくなり過ぎれば収まりがつきにくいからだ。小さな諍いが様々な要因で話が大きくなり、
川に小石を投げたらワニが出てきて手足を食いちぎられた、なんて当事者にとっては全く笑い話にもならない。
それに何より、アイリスは困った時に真っ先に主神を頼るなんてことはしたくなかった。本当に自分の力が及ばないのならばその手を取るだろうが――――彼女はまだ諦めていなかったのだ。
自分の力でどうにかできる、と。
「お願いします、神ロキ。……私に、チャンスをください」
「…………はぁぁぁぁぁぁぁ」
度重なる懇願の末、ロキは深い深いため息を吐いて倒れ込むように椅子に座り込む。
「……わかったわ。今回は任せたる。でも、次またこんなことがあったら……」
「わかっています。今度は、上手くやってみせます。……あ、【ステイタス】の更新は――――」
「もう終わっとるよ~。はい、これ更新した【ステイタス】な」
そう言ってロキは更新した【ステイタス】の概要が書かれた羊皮紙を彼女に手渡した。それを見たアイリスはすぐさまギョッとした顔に変わった。
流石に上昇値1000オーバーは素人目にしても異常だったのだろう。流石に誤魔化せんか? とロキはチラリとアイリスを見るが、驚きこそしてもどうやら違和感には気づいていない様だ。
他の
「あの……なんか、凄い伸びてますね」
「き、きっと成長期なんや! それに、昨晩大分無茶したみたいやし……な?」
「す、すいません……」
意地の悪い笑みを見せれば、アイリスは申し訳なさそうに委縮した。それを愉快気に笑いながらロキは衣服を収めていたクローゼットから予備の服をアイリスに渡して、更に奥からかなり大きな袋を引っ張り出した。
何をするのか全く理解出来ていないアイリスは勿論困惑している。
「あ、あの、ロキ様? 一体何を」
「買い物や買い物。金をケチると碌なことが無いってようやく理解できたんや。此処はいっちょ、
「で、でも貯蓄はカツカツって」
「あれは嘘や。ま、これはいざという時のために取って置いたお金やから、あんま使いたくなかたんやけどなぁ」
袋の大きさからして、恐らく十万ヴァリスは下らないだろう。アイリスは主神が嘘を付いていたことについては特に気にしてはいなかったが、そんなお金を自分のために使ってくれるというロキに感謝し、同時に申し訳なく感じている。
ロキもそれを感じ取ったのか、愉快気に笑いながら彼女の頭を撫でた。
「別に気にせんでええよ! 知り合いの神に”
「本当に、ありがとう、ございます……!」
「ええよええよ。……あ、傷はもう大丈夫なんか? 無理やったらもうしばらく休んでから行くんやけど」
「あ、はい。大丈夫です。もう痛みもさっぱりで……質のいいポーションでも使ったんですか?」
「んあ?」
違和感が、ロキの中で渦巻き始める。
昨日見たアイリスの怪我は明らかに一晩で治るような物では無かったし、一応備え付けの傷薬を使ってはいたがオラリオの中で出回っているポーションと効能を比べれば天と地ほどの差がある。そしてロキはポーションの類は手元に無かったため使うことはできなかった。
つまり、痛みがないというのはおかしな話なのだ。
「ちょっと見せてや」
「?」
どうしても違和感を拭いきれなかったロキは慎重に、彼女を包んでいる包帯を取り除いた。そして、見えたのは。
傷一つない、玉の様な肌だけだった。
(…………嘘やろ)
「ロキ様?」
おかしい。絶対に、おかしい。ポーションも使わずにあの大怪我を自力で癒した? 魔法も無しに? 医療系ファミリアが聞いたら気絶しそうな話だ。
だが前例がない訳では無い。詳細こそ知らないが、数居る眷属の中には自己回復系のレアスキルを持っている者がいるらしい。とすれば、ロキが解析できなかった詳細不明のスキルが自己回復系のスキルだと言うならばこの現象にも説明がつく。
一度深く深呼吸して、ロキはこの異常現象をスキルの影響だと判断した。そうでなければ説明が付かないのだから。
そして同時に、この事実はアイリス黙っている事にする。
この奉仕気質の眷属の事だ、傷を負っても平気だと知れば更なる無茶をしかねない。
「そやそや。取っておきの使ったんやで~。ま、貰い物だから気にせんでええ。とりあえず服とか買って、その後装備やな。奮発するで~!」
「あはは……ちゃんと貰った分だけ頑張ります!」
細かい事を考えるのはやめて、ロキはこれから待っている楽しいショッピングに思いを馳せた。初めての眷属と初めてのお買い物。心が踊らないわけがない。
無論ロキは今も抱いている悪感情を水に流すことはできない。が、とりあえずそれは横に置いておいて今を全力で楽しむべきだと思い、彼女は幸福感に身を浸した。
余談だが、何故か宿屋の周囲で体調不良を起こした住民が多数確認された。
最初は伝染病の類だと思われたが、医療系ファミリアの調査により特にそういう類の物は確認されず、後に『謎の集団体調不良』として小さな都市伝説のように噂が流れ、そして特に話題になることも無くひっそりと消えていった。
◆◇◆◇◆
バベル。ギルドの所有物であるオラリオ中心にそびえ立つその巨塔はダンジョンへの入り口であり、同時に冒険者のための公共施設という役割を持っている。その中身は簡易食堂や治療施設、公共用のシャワールームもあれば換金所まで存在する。
だが、実はそれだけでは無い。ギルドはバベルが巨大であることを、つまり空きスペースが多いことを利用し、様々な商業系、作成系ファミリアに空いた場所をテナントとして貸し出している。
ダンジョンの真上に建っているだけあってほとんどが冒険者のための専門店であり、基本的には武具関係や薬品等々。本店や支店と比べれば劣るが、駆け出しにとっては品ぞろえもそこまで悪くない。
何故いきなりこんな説明をしたかというと――――私とロキ様は使い物にならなくなった武器や防具を新しく購入するために、バベルの中にある【ヘファイストス・ファミリア】のテナントに向かうためにバベルまで来ていた。
因みに予備の私服は既に購入済みだったりする。白い短衣にミニスカート。飾り気の少ないそれは特に高級品というわけでもなく、ただ単に動きやすそうという理由で購入した数着数千ヴァリス程度の代物だ。
その際ロキ様は「折角だから可愛いのを選ぶべきやろ!?」と悲鳴を上げていたが、装備の方にお金をかけたいという私の意思で何とか収めてもらった。まあ、何時か着せ替え人形になってもらうという約束が付くことになったが。
「しかし【ヘファイストス・ファミリア】って……そんな大手のファミリアの製品買えるんでしょうか? 噂ではかなり値が張ると聞いたのですが」
「んー、まあ大丈夫やろ。高級品ばっかり売ってたらファミリアが回るわけないし、安物だって売ってるに決まってるわ。今回狙うのはそんな安く出されてる中での掘り出し物なんよ」
言われてみればそれもそうかと納得する。
高級品ばかり出していても売れないのでは意味がない。いくら品質が高くても、買い手が付かなければただの飾り物と変わらないのだ。それに大手のファミリアだからと言って全員が全員
私たちはバベルの階段を上り、三階までたどり着くことができた。しかしおかしなことに此処から上に進むための階段が存在しない。途方に暮れていると、ロキ様は私の腕を引っ張って広間の中心に赴いた。
幾つも存在している円形の台座のうちの一つに乗ると、ロキ様は備え付けられている何かの装置を操作し始めた。すると台座はゆっくりと動き始めて、ガラスで出来た筒のような空間を昇り始めた。
「わぁ……」
「魔石を使った昇降装置や。いやぁ、下界の子供たちも馬鹿にできんなぁ。天界では
初めて体験する浮遊感を楽しみつつ、ほどなくしてバベルの四階にたどり着いた。そして更に別の昇降機に乗り換えて、目的であるバベル八階へ到着。昇降機のドアを開けると、無数の武器が並べられている武具の専門店だらけのフロアが視界一杯に広がる。
まるで武具の博物館にでも迷いこんだようだと思った。
「さぁて、何か掘り出し物っぽいヤツはどこやろなぁ~」
「そうですね……」
何がいいかなと周りを見渡しても、やはり種類が多過ぎて判断がしにくい。しかし店の前で尻込みしているのもどうかと思い、私は思い切って武具店の中に飛び込んだ。
そして変わらず見える武器の山。苦笑いを浮かべつつ、軽く周りを見渡す。
――――すると、視界の端で何かがキラリと輝いた。
「あ……」
反射的に私はソレに歩み寄り、
刃渡り70C程のショートソード。刀身には薄い波紋が広がっており、尚且つ鋭く光を反射するその剣は非常に重々しく、そして美しいと思えた。
間違いなく名剣だ。見た目に対して意外に重量を感じるが、それは素材の問題か。だが
軽く左右に振ってみれば、心地よい切っ先が空気を裂く音が聞こえる。どれどれ、お値段は……四八〇〇〇ヴァリス。想像していたより意外と安い。これが掘り出し物、というヤツか。
「アイリスた~ん、いいの見つかったか――――っておおぅ、なんやその剣。凄そうやな」
「ロキ様、これにしていいですか?」
「ええよええよー。最終的に決めるのはアイリスたんやし。んじゃさっさと買って次防具屋行こか!」
その後私は自身の選んだ剣――――《アグノス・ソード》を購入して、おまけとして鞘も見繕ってもらいつつロキ様と共に防具屋に訪れた。
しかし体格が体格だ。ヒューマン向けの防具が置かれている棚には私に合いそうな大きさの防具など一つもなく、仕方がないので
そしてようやく自分に合いそうな防具を見つけた。その名も《
だが上層を主に探索するならばそこまで高い防御力も必要ないだろうし、私は基本的に攻撃を回避するように心がけている。最悪、魔法で凌げばいい。
この後採寸もあるので私は早めにロキ様にこの防具を購入することを伝えた。あんまり見た目が可愛くないとかでまたロキ様は渋っていたが、こればかりは仕方ない。ダンジョン探索で使う防具など汚れるのが基本。いくら可愛かろうが探索後にはボロボロになっているか血だらけであるのでそんなのを気にしても意味は無い
お値段四〇〇〇〇ヴァリス。高いと思ってしまったが、店員曰く手足や関節部などの個所にある装甲に希少な
それから一時間ほど店員に簡単に採寸をしてもらい、防具の微調整を済ませてようやく完了。
昨日とは比べ物にならないレベルで装備が整った。今ならば6階層、いや7階層まで行っても平気な気がする。いや、慢心は良くないな。慎重に慎重に。
「おー、意外と似合ってるやん! これはこれで中々イケるでアイリスたん!」
「ありがとうございます。本当に何から何まで……」
「ふふーん、眷属が立派な恰好をしてくれて
「いえ、行きます。行かせてください」
私は強く、ロキ様にそう告げる。
昨日の出来事もあって、私はようやく自分の楽観を打ち壊すことができた。世界は決して優しくない。いつかどこかの誰かの悪意が私を襲うかもしれないのだ。
飛びかかった火の粉を払うくらいの力を身に付けねば、この街では生き残れない。
故に強くならねば。誰よりも早く、誰よりも強く。
「……そか。じゃあちゃんと夜になる前に帰ってくるんやで? うちとの約束や」
「はい!」
両拳を強く握りしめながら、私は力いっぱい頷いた。
今度こそ、抗って見せる。
絶対に。
物語の都合上成長が超ハイペースになるけど許して(はぁと)