悪戯の神は希望を拾った   作:乾パン中毒者

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ぶっちゃけ投稿者の原作知識割とガバガバだから、もし原作との差異があっても(よほど致命的でない限りは)別時空ってことで許して(はぁと)


第六話:小竜退治

「どういうことよぉぉぉぉぉぉ――――っ!!!」

 

 バァン!! という机を叩く轟音がギルド中に響き渡る。普段からギルドに入り浸る冒険者からすれば最近の彼女が机の傍でウンウンと唸ったり机を叩いたりしているのは最早恒例行事だったが、今回はその数倍もの音が轟いたことで殆どの冒険者はギョッとした顔になる。

 

 見れば、件の受付嬢――――アイナ・チュールはそれはもう顔を真っ赤にして目の前に居る少女、アイリスとその隣にいる主神ロキへと向かって容赦のない怒号を飛ばしている。

 

「神ロキっ! 自分がっ、何をしたかわかってるんですか!? まだ冒険者になって四日目の子供しかいない状態でっ、【アパテー・ファミリア】からの戦争遊戯(ウォーゲーム)の申し入れを受け入れるなんてっ!! 酒にでも酔っていたんですか!?」

「酒なんて最近全く飲んでへんし、馬鹿なことしたって事はわかっとる。うちも正直後悔しとるけど……」

「だったら――――」

「ならアンタ、うちの子供がダンジョンや街の中で同業者に殺されてから文句言えるんか?」

 

 薄目を開けて、ロキははっきりとアイナを見つめてそう告げる。微かに神威をぶつけられたアイナは一瞬怯みこそしたが、キッと表情を作り直してロキを睨みつける。

 

「だからといってこれは自殺行為です! ああもう、もう申請通っちゃったから撤回もできないし……!!」

「チッ、あんの根暗め、仕事は一丁前に早いようやな。……ともかくうちらができることは戦争遊戯(ウォーゲーム)開始時までに極限まで鍛える事。もうそれしか道は無いんや」

「っ~~~~~~~!!!」

 

 淡々とそんな言葉を述べるロキに、アイナはもうキレる寸前になっていた。こんな、まだ成人もしていない子供に無理をさせる気満々なのだ。良識のある大人ならば怒るのが筋というものだろう。

 

 だが同時に理解している。【アパテー・ファミリア】相手ではどうしようもなかったのだと。

 

 【アパテー・ファミリア】。オラリオの中では小規模な部類に入るが、その悪評はかなり広まっている。団員のほとんどは元犯罪者で国家追放を受けた者か脱獄犯、前科持ちしかいないとか。普段から市民や駆け出し冒険者相手にカツアゲを繰り返しているやら。他にも探せば幾らでも出てくるだろうその醜悪な所業から、とてもまともな探索系ファミリアとは思えない。

 

 ギルドとしても悩みの種なのだ。捕まえようにも証拠が不足していたり、いつの間にか被害者と話が付いていたり(恐らく強迫か買収)、そもそもの被害者がいつの間にか姿を消していたりと。

 

 何をしているのかは想像がつくが、証拠がない以上追及のしようがない。

 

 だからこそ、アイナは頭がパンクしそうになっていた。あの悪徳ファミリアと戦う羽目になった小さな少女のことを思えば頭が痛くなってしまう。

 

「……神ロキ、今からでも遅くありません。オラリオからの逃亡をお勧めします。これはもう戦争遊戯(ウォーゲーム)などではなく、公開処刑です……!」

「お断りや」

「何故です!?」

この子(アイリス)がそう言ったからや」

「え……」

 

 茫然としながら、アイナはロキの隣で縮こまっている少女を見る。小さく震えていた。だが――――その瞳の奥には、確かな炎が灯っていた。

 

「えっと、受付嬢さん。昨晩から色々考えましたけど……逃げることだけは、したくないんです」

「でもいくらなんでも無理よ……【アパテー・ファミリア】にはLv.2の団員だっているのよ? 勝てるわけが……」

「……もう、奪われたくないんです。あんな悔しい思いは、したくない」

 

 アイリスはギュッと両手を握り締めながら、搾り出すような声でそう告げる。

 

 恐怖は、ある。だがその上で彼女は諦めることだけは決して選ばなかった。どれだけ辛い道でも、彼女は自ら進むことを選んだのだ。己の成すことを成すために。

 

「自分の居場所は、自分の力で護りたい。だから私は、逃げません。闘います」

「……すぅぅぅぅぅぅぅぅ……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 過去最大級の、深海の様に深いため息を吐きながらアイナはへなへなと椅子の背もたれにもたれかかった。

 

「……それで、お二人は私に何をしてほしくて此処に来たんですか?」

「おっ、協力してくれるん?」

「内容によります。流石に他ファミリアの【ステイタス】を教えろとかは無理ですので」

「なら問題あらへんな。うちらがアンタにしてほしいのは【アパテー・ファミリア】についての可能な限りの情報提供と――――」

「12階層までの探索許可をしてほしいんです」

 

 メシャリとアイナの握っていたペンが握りつぶされた。

 

「……今、なんて?」

「その、12階層までの探索許可を、してください」

 

 二度目になるため息を吐きながら、アイナは思考する。

 

 何故12階層までなのかは大体想像がつく。13階層からは基本的にLv.2になってようやく適正だと判断される。つまり12階層とはLv.1における最終ステージなのだ。しかし舐めてはいけない。油断すればLv.2すら死にかねない、第三級冒険者にすら届かない者にとっては超危険区域である。

 

 そして、そんなところに冒険者になってまだ四日目の少女は行くつもりだという。アイナは頭がどうにかなりそうだった。

 

「……あー、ちょっとこれを見てくれへんか?」

「? 神ロキ、これは一体――――っ!?」

 

 わなわなと肩を震わせているアイナの肩をつつくロキ。アイナは怒りを可能な限り押さえながら何事かと顔を上げると、机の上に何かが書かれた羊皮紙が置かれていた。

 

 それは、昨日も見たような記憶があって。しかし書かれていた()()が決定的に違っていた。

 

 

 アイリス・アルギュロス

 Lv.1

 力:E482

 耐久:G257

 器用:E428

 敏捷:D512

 魔力:G254

 

 

 アイナは頭がどうにかなりそうだった(二回目)。

 

 机の上に置かれた羊皮紙に書かれているのは間違いなくアイリスの【ステイタス】だろう。基本アビリティ部分のみではあるが、ハッキリと冒険者に取っての生命線がそこにあった。

 だがそれはアイナが一番気にすべき問題と比べればあまり問題では無い。一番問題なのは――――

 

(アビリティ熟練度上昇値トータル600オーバーっ……!? 何なのこれぇっ!?)

 

 悲鳴を上げそうな口を押えながらロキを見れば、彼女も困り果てたように苦笑している。一方で少女は自身の異常性を全く理解していないようで、何がおかしいのかわからず可愛らしく首をキョトンと傾けている。

 

 そしてすぐにロキとアイナの秘密会議(耳打ち合戦)が始まった。

 

(どういうことですか神ロキ!? 昨日本人から見せてもらった【ステイタス】とかけ離れ過ぎてるんですけど!?)

(あー、アイリスたん見せてしもたか。どうりで【ステイタス】書いた羊皮紙のゴミがないと……まぁそう言う事や。この子の成長は明らかに異常なのはアンタも理解したやろ? 実はこの子、獲得する【経験値(エクセリア)】が増加するスキルを持っていてな)

(いや、だからってこれは異常過ぎでは……)

(それについてはうちも同感だわ……)

 

 前代未聞の【経験値(エクセリア)】増加系スキル。冒険者ならば喉から手が出るどころか殺してでも奪い取る価値があるそれは、あまりにも倍率がぶっ壊れていた。一応、所有者が『諦めた』場合効果が消えるというデメリットこそあるものの、逆に言えば諦めない限り何時までも何処までも効果が持続するという事だ。

 

 その結果生まれたのは理不尽としか言えない成長速度。強い不屈の精神が生む爆発的成長は、アイリスという少女を天井知らずに押し上げている。

 

 恐らく数日で12階層に到達するのも夢では無い。ロキもアイナもほぼ確信に近いものを【ステイタス】の書かれた紙から感じ取れた。

 

(とにかく、や。うちはアイリスたんの成長に賭けた。今のうちがするべきことは次開かれる神会(デナトゥス)で可能な限り有利な条件を引き出す方法を考えることや。それ以外にも色々と準備して戦争遊戯(ウォーゲーム)に備える必要がある。その為にアンタも利用させてもらう腹積もりなんよ)

(……それは、構いませんけど。良いんですか? 下手すれば戦争遊戯(ウォーゲーム)前にアイリスちゃんが死んじゃうかもしれないんですよ……?)

(うちはあの子を信じる。……勝つには、もうそれしかないんよ。だから頼むわ。あの子を行かせてやってくれんか?)

(……………………)

 

 正直、アイナは此処で自分が止めても行くだろうと確信している。ロキとアイリスは本当に単騎で【アパテー・ファミリア】に勝利を収めるつもりだろう。勿論勝負形式は一騎打ちが基本になるだろうが――――今回の相手を考えれば、最悪の場合を想定して動いた方が最善だ。

 

 あの犯罪者集団紛いのファミリアの事だ、十中八九正攻法は使わない。必ず何かを仕込んでくる。

 

 故に今必要とされるのは小細工を正面から叩き潰せる、一騎当千が可能になる程の強力な力。それを得るために二人は全力で足掻こうとしている。自分の声など心の負担を少しだけ軽くするだけだろうが――――アイナもここで腹を括る。

 

「わかりました。12階層までの探索を許可します」

「!」

「ただし――――ちゃんと、生きて帰ってね?」

「……はい!」

 

 処刑台への階段を一歩登らせたような気持ちになりながらも、アイナは目の前の少女を見守ることを決心する。

 

 藁にもすがる思いで、彼女は少女の勝利を願った。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 8~9階層はダンジョンの景色と地形が大きく変化する。

 

 ルームの数が多くなり、更にその一つ一つが広くなっている。更に各ルームを繋ぐ通路もかなり短くなり、天井も10M(メドル)前後まで拡張される。そして水色の壁面には苔が生え、地面も短い草の生えた草原に変貌する。

 なにより、頭上から強い燐光が降っており、幸いと言うべきか光源には困らない。

 

 新しく出現するモンスターは存在せず、むしろ1階層から4階層に出現するゴブリンやコボルドが少し強い程度で出現するだけ。4階層で長時間慣らした冒険者ならば、少し手こずるだろうが突破は比較的楽な方だろう。

 

 問題は、10階層から。

 

 10階層からは霧が発生する。そこまで濃いわけでは無いが、視界を遮るには十分な濃度の霧だ。大まかな造りこそ8~9階層と同じだが、光度は少し下がって注意して見なければ数M先も正確に見えるか怪しくなる。

 

 今までと比べてかなり勝手が違ってくることから、今まで以上に慎重な足取りで進む必要が出てくる。私は反射的に息を飲みながら、少しずつ通路を進む。

 

 数分ほど歩き続けると、やがて通路を抜けて視界がある程度開けた場所に出てきた。

 

 点々と佇立している葉と枝の無い枯れ木が不気味に空間を演出している。更に、上から下に向かうほど細くなっている普通の樹と比べて明らかにヘンテコな構造に私は顔をしかめた。

 

 これは恐らくダンジョンが有する厄介な特性の内の一つ、『迷宮の武器庫(ランドフォーム)』。ダンジョンが己の中を徘徊するモンスターたちに天然武器(ネイチャーウェポン)と呼ばれる物を提供する光景は、10階層で初めてお披露目される。

 

 発見したらまず破壊してモンスターがこれを有するのを防ぐのだが――――如何せん数が多過ぎる上に、もう”孵化”が始まってしまったようだと、私はひび割れが起こり始めるルームの壁を見ながら背中の《アグノス・ソード》を抜き放つ。

 

 そして同時に、私は道具屋(アイテムショップ)で購入した特殊加工された脂ぎった血肉を取り出す。これは狩りの効率を上げるために作られた、モンスターを誘き寄せるトラップアイテムだ。これを剥ぎ取り用のナイフで幾つかに切り分けて、そこら中にばら撒いた。

 

 するとどうだろうか、少し離れたルームからドスドスと大きな足音が複数聞こえ出した。当たり(ビンゴ)だ。

 

『ブギッ、ブ、ォ、ォォォォォオオオオオオオオオオオオオ!!!』

 

 潰れた様な雄たけびと共に、生まれ出たばかりの茶色い肌に豚頭のブヨブヨと太った身長三Mという巨体のモンスター、オークは地響きを起こしながら木々の間を抜け、道中で枯れ木の一本を()()()()()()()()こちらへと迫ってくる。

 

 木を一本丸ごと使った天然の棍棒は、受ければただでは済まないだろう。もし当たったらと思うと背筋が凍る思いだが、逆に言えば()()()()()()()どうという事は無い。

 

 オークは手に持った棍棒を大きく振り上げた。

 

 隙だらけだ。

 

「ふっ――――!!」

 

 両脚に力を入れ跳躍。その加速を最大限活かすように、私は武器を振りかぶって横に薙いだ。

 

 私へと攻撃しようとしたオークは棍棒を振り上げたまま、首と胴体を斬り離された。どれだけ身体に厚い脂肪の装甲を纏っていようが、首を断ってしまえば関係は無い。力を失ったオークの死骸はバランスを崩して、土煙を巻き上げながら倒れた。

 

 しかしまだ終わってはいない。着地して振り返れば複数の通路からオークが姿を見せ始めている。トラップアイテムのおかげで、なんと六匹ものオークがこのルームに集まろうとしていた。

 

 こんなに集まれとは言って無い。

 

「【地よ、震え上がれ(エダフォス)】!」

 

 文句を言いたい衝動を我慢しつつ、私は詠唱と共に岩石を自身の周囲に生み出した。それを即座に剣に纏わせ、力いっぱいに振り下ろす。

 

 剣が地面に衝突した瞬間ハンマーでも振り下ろしたような破砕音が響き、剣を包んでいた岩石は地面の中へ浸透し、地表を罅割らせながら広がり、やがて魔力の燐光を強くしながら地面から岩石の棘を生やして半数ものオークの胴体を串刺しにしてそのまま絶命させた。

 

 だがもう半数は精度が甘かったのか逃れられており、私は歯噛みしながら別の属性を纏う。

 

「【風よ、舞い上がれ(フルトゥーナ)】!」

 

 体中に大気の奔流を迸らせながら、風を両手に握った剣に収束させる。そして一閃。

 

 真空の刃が一匹のオークを両断する。別の個体へ続け様にもう一度放つが、今度は仕留めるには至らなかった。収束する時間も風の量も足りなかったからか。

 

『フゴォォォォオオオオアアアアアアアア!!!』

「くっ!」

 

 身体に重傷を負いながらもオークは私のすぐ近くまで迫り、その剛腕を振りかぶって振り下ろした。咄嗟に風を使って体を側面へ加速させ攻撃を回避。再度風を収束させた剣を引き絞り、圧縮した風を解放しながら刺突を放つ。

 

 次の瞬間、オークの体に巨大な風穴が空いた。

 

 ほぼ思い付きで放った風の槍は想像以上の威力でオークの巨体を貫通し、更にその向こうで枯れ木を引き抜こうとしていたオークの頭部を爆散させるという結果を残した。

 

 なるほど、こういう使い方もできるのか……。

 

 短時間でオークの群れを全滅させた私は残った死骸から魔石を回収しつつ、ベルトポーチから水筒を取り出して水分補給しつつさらに奥へと足を進ませる。

 

(オーク数匹くらいじゃ駄目だ……とりあえず、11階層まで行ってみよう)

 

 狙いは11階層に出現するレアモンスター、インファント・ドラゴン。上層に於ける最強のモンスターであり、下級の冒険者の一団(パーティ)では悉くが全滅させられているらしい強敵。

 

 それを倒すことができれば、かなりの上質な【経験値(エクセリア)】を得ることができる筈。

 

 制限時間(タイムリミット)まで恐らく一週間も無いであろう私にとっては、必ず越えねばならない相手だ。でなければ私はLv.2が在籍している【アパテー・ファミリア】に勝利することは叶わなくなる。

 無論、まだ基本アビリティが低い今の状態で勝てるとは思っていない。今回はあくまで様子見だ。

 

 ダンジョンにおいて自惚れは最大の敵。自分の力量を正確に把握することは冒険者にとって必要なスキルの一つだ。

 

 予定としては11階層へ進みながら適度にモンスターを狩り続け、ハードアーマードを一定数倒した後インファント・ドラゴンの観察、と言った所か。まあ、インファント・ドラゴンは希少種(レアモンスター)であるので、ちゃんと遭遇できるかどうかは少々怪しい所だが。

 

 しばらくモンスターを斬り伏せながら進み、少しだけ息が上がってきた頃にようやく11階層に通じる階段を発見する。討伐したモンスターの数は三桁は超えないと思うが、五十は過ぎていると思う。

 まだ体力も精神力も余裕はあるが、そろそろ休息するべきか。

 

 私は11階層に降りつつ、始点のルームに留まってその場で座り込み、ベルトポーチから大して美味くも無いブロック状の携行食を取り出してベリベリと包装を剥がす。

 

 姿を出した成型クッキーを齧れば、大して美味くも無い素朴な味が口に広がる。

 

 うん、美味しくない。

 

 それでもまともな食糧が殆ど存在しないダンジョン内では貴重な栄養源だ。数分で携行食を平らげて、パサパサに乾いた喉を水筒の水で潤す。

 

「……静かだなぁ」

 

 ふと思う。近くに話し相手でもいてくれればいいのに、と。

 

 長時間ダンジョンに潜っているとこんな事をたまに思う。死と隣り合わせの環境と長々と付き合ってきたが、やはり寂しさだけは紛らわせられる気がしない。

 

「……そろそろ行こう」

 

 携行食の包装を丸めてポーチに突っ込みながら、私は11階層の奥へと進んでいく。が、珍しくモンスターとの遭遇が全く起こらなかった。もしかしたら近くで何処かのパーティが狩りでもしているのかもしれない。

 

 一度正規ルートを外れて別の場所を当たるか、と私が考えて――――その直後にそれは起こった。

 

 

『――――ォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

「――――うわぁぁぁあああああぁあああああっ!!?」

 

 

 頭が揺れたと思ってしまうほどの大音量の咆哮と、それに伴う悲鳴が轟いた。咆哮によって少しの間だけ身体を硬直させながらも、復帰した瞬間私は声のした方向へと駆けだしていた。

 

 一分にも満たない疾走の末見えたのは、広い部屋で()()()インファント・ドラゴンに襲われている冒険者の一団(パーティ)。絶対数が五匹という少なさを誇っている希少種が、二匹。

 

 一体どんな不運持ちが居ればそんなことになるんだ。いや、むしろ幸運なのか。

 

 私は即座に頭の中で彼らを見捨てる判断を下した。小娘一人が助けに入ったところで状況なんて変わる筈がない。むしろ足並みを乱して死亡率を跳ね上げかねない。

 

 歯噛みしながら、私は踵を返そうとして――――インファント・ドラゴンの攻撃を避けるために地面に転がった冒険者と、目が合う。

 

「……………あ」

 

 助けを求める者の目だった。殆ど無意識に私は手を伸ばして――――瞬間、その冒険者の頭がインファント・ドラゴンの前足に踏みつぶされた。

 

 湧き上がる悲鳴と、轟く咆哮。

 

 纏わりつく空気が鉄の様に重く感じて、頭の中から先程の冒険者の目が焼き付いて離れない。私が動いていれば、彼は助かったのだろうか? わからない。だが、今、言えることは――――

 

 

 ――――私は、彼らを助けたいと思っているということだ。

 

 

「うあぁぁぁぁああああぁああああああああああああ――――っ!!!」

「なっ、子供!?」

「馬鹿っ、早く逃げろ!」

 

 突然現れた年端もいかない少女に動揺する冒険者たちだったが、私はその声を無視してインファント・ドラゴンへと跳んだ。

 

「【地よ、震え上がれ(エダフォス)】ッ!!」

 

 詠唱と共に現れた岩石を剣に纏わせ、最高の一撃をこちらの存在に気付いていないインファント・ドラゴンの頭部に叩き込んだ。瞬間、体高一五〇C、体長四M超の小竜の頭が跳ね飛び、琥珀色の鱗を剥がれ落ちさせながら横に倒れ込んだ。

 

 だが死んでもいなければ気絶もしていない。頭を叩かれて身体のバランスを崩しただけだ。インファント・ドラゴンはこちらを恨めし気に睨みながら倒れていく身体を捩り、その長い尻尾を鞭のように使って私を殴り飛ばした。

 

「がっ――――」

 

 岩石の装甲による自動防御が働き、その衝撃は大分緩和された。が、それでも宙に浮く子供一人の体を吹き飛ばすには十分であり、尾の一撃を食らった私は地面へと叩きつけられる。

 

「っ、はぁっ――――【風よ、舞い上がれ(フルトゥーナ)】ァッ!」

 

 すぐさま復帰しながら魔法を風の属性に切り替え、加速。未だ倒れ伏したままのインファント・ドラゴンの喉へと這うように駆ける。

 

 太古から数々の英雄譚で語られるように、竜種とは数あるモンスターの中でも最強に位置する種だ。鋭い爪と牙、巨大な肉体とそれを保護する金属の様に硬く柔軟な鱗。だが同時に、竜という存在には特殊な弱点がある。顎の下に生えている、無数の鱗の内、()()()()()()()たった一つの鱗。

 

 即ち、逆鱗である。

 

 この逆鱗の存在は鱗と鱗の間に隙間を作る。そしてその場所は喉。つまり、急所と重なっているのだ。

 

 その隙間を狙って剣を突き刺し、致命傷を与えて勝つというのは数々の英雄譚における定番の流れ(セオリー)だ(私はあまり読んだことは無いが)。そしてそれは私の目の前に居るインファント・ドラゴンも例外では無い。

 

「はぁぁぁああ――――っ!!」

 

 全ての風を推進力へ変え、私は一つの弾丸となりながら全力でインファント・ドラゴンの逆鱗と思しき個所へと《アグノス・ソード》の切っ先を突き込んだ。凄まじい加速が加わった強烈なピンポイント攻撃は、偶然か必然かインファント・ドラゴンの鱗の隙間に刺し込まれ、喉にあるその動脈を深く傷つける。

 

 すぐさま抜き放ち、後退。一秒の間もなくインファント・ドラゴンの傷からコポコポと血液が泡と共に噴水の如く吹き出し始めた。間違いなく、仕留めた。だが――――

 

 

『オォォォォォォオォォオオォォオオォオオオオオオオ!!!!』

 

 

 もう一匹のインファント・ドラゴンは同族の死を見て、嘆く様に、怒るようにルーム全体を揺らす大音量の咆哮を吐いた。洒落にならない威圧と迫力。そして生物としての本能がけたたましく警鐘を鳴らしている。

 

 先程の一匹は不意打ちで倒せた。では、正面からは大丈夫なのか――――?

 

 不安で体が震え出す。正面から相対して初めて私は目の前に居る小竜の恐ろしさに気付く。先程までは興奮によって意識せずにいたが――――やはり、恐ろしい。

 

 唇を噛み切って、痛みで恐怖を誤魔化しながら私は《アグノス・ソード》を正面に構える。

 

 僅かな隙を見て背後の冒険者一団を見るが、先程の咆哮で完全に我を忘れて固まっている。最悪だ。気持ちはわからなくも無いがせめて逃げる素振りくらいは見せて欲しい。

 

 視線をインファント・ドラゴンに向け直す。

 

 

 そこにあったのは、インファント・ドラゴンが同族の死骸から取り出した魔石をかみ砕いている光景だった。

 

 

 

「――――――――へ?」

 

 ガリッ、ガリッと噛み砕かれる巨大な魔石。インファント・ドラゴンはそれを咀嚼し終えて飲み込むと、ビクンビクンと身体を揺らす。

 

 身体の節々から吹き出す蒸気。表皮を迸る魔力の流れ。琥珀色から深紅に変色していく全身の鱗。何より肥大化していく巨体は元々の一五〇Cを越えて、その二倍の三Mにも届かんばかりの大きさにに変貌した。

 それは、まるでお伽噺に出てくるような。

 

 怪物(モンスター)だった。

 

 

 インファント・ドラゴン、強化種

 

 

 Lv.1にとっての絶望が君臨した。

 

 

 

 

 

「全員逃げてぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええっ!!!!」

『オォォォオオオォォオォオオォオオォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

 

 

 

 

 私の絶叫は魔竜の咆哮にかき消された。

 

 

 

 

 

 




竜種の逆鱗設定は独自設定です。でもドラゴンだし逆鱗くらいあるでしょ(狩人並み感)

上級の冒険者になるとそんなもん狙うより普通に首撥ねてぶっ○すか魔法叩き込んで殲滅する方が早いだけなんだよきっと(願望)
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