リエージュ司教領布教録 Tuez-les tous, Dieu reconnaitra les siennes   作:手紙

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第二話

「マリア様、これくらいで少し休憩しましょう」

 

「はい、先生…」

 

休憩をいいつける教師の顔は優れない。

ありあまる財力を活用し、魔法教育の先生をお呼びしてはや数カ月。教育は遅遅として進まないままだった。

 

物理、数学、魔力理論史、魔力‐人体相関論?

すいへいりーべ、何それおいしいの?関数?そんなのなんの役にも立たないよ。

 

前世の馬鹿な自分が囁く。

柔軟な子供の頭を持っているはずなのに、持って生まれた苦手意識が圧倒的に邪魔をしていた。

 

メイドが入れた紅茶を飲み、頭にかかる靄をなんとか吹き飛ばす。

 

「なんだか、むいてないですね…。もっとこう、ぱーっと、ぐおぉーって感じで感覚的にできたら良いのに」

 

「マリア様はまだ5歳ですから。……軍が許容するかわかりませんが、演算宝珠さえあれば、なんとかなるかもしれません」

 

少し考えこんだ後、教師は提案する。

 

「演算宝珠?」

 

「通常、魔導士は単体では簡単な発火や念動力程度しか発動できません。しかし、軍が開発した演算宝珠を用いれば、術式の発動を補助してくれるため、より安定的に、いってしまえば楽に魔法が使えます」

 

「すごいです!早速お父様にお願いしてきます!」

 

全く、最初からそれを用意しておいてくれたらよかったのに!

 

「あっマリア様!演算宝珠は軍の機密がつまっていますからそうおいそれとは…行ってしまわれた」

 

何やら後ろから聞こえたけど、父におねだりするのが先だ。

今の時間なら、執務室だろう。

 

 

 

 

 

「お父様!」

 

「あっマリア様!!」

 

執務室の前は何やらいつもより護衛が多かった気がしますが、それどころではありません。構わず扉を開けると、背の高い軍人が、父と話している。

 

「マリア…。ちょうどよかった。君の叔父上が遥々来てくださったよ」

 

振り返った軍人は、顔に刻まれた皺と表情はいかつく、服装と相まって威圧感を与える印象だが、どこか親近感のわく顔をしている。

 

「やあ、久しぶりだな、マリア。覚えているかな?といっても赤子の頃に会ったきりか。目元が本当に妹にそっくりだな。妹は今も社交界に?」

 

笑うと更に親近感のわく顔である。

 

「はい、妻は華やかな場が好きですから。今もお茶会にでています。目元のことをいうなら、妻にもですが、兄上にも似ていますよ」

 

なるほど、確かに私そっくりの糸目だ。いや、私がそっくりになったというべきだろう。

親近感の正体は目だったようです。

 

「お母さまの、お兄様ですね?初めまして、マリア・フォン・リエージュです」

 

習いたてのカーテシーを披露する。

 

「これはご丁寧に。ハンス・フォン・ゼートゥーアだ、レディ。遅くなったが、5歳の誕生日おめでとう。何かほしいものはあるかな?」

 

「あっ!それならちょうど今欲しいものがあったのです。本当に言ってもよろしいのですか?」

 

じゅんしょう。奇しくも軍人なら、持っているかもしれない。

 

「怖いことを言うな。もちろん、私で用意できるものに限るが。言ってみなさい」

 

笑ってくれたので遠慮なくいってみるとしよう。

 

「演算宝珠がほしいです!」

 

叔父の目が見開かれ、その隙に三白眼が覗く。5歳の子供が見たなら思わず失禁してしまうかもしれない。

 

 

「ふむ………。良いだろう」

 

考えこむ様子で、父をちらっと見たが、叔父は約束してくれた。

 

「本当ですか!?」

 

奇跡的なタイミングである。正しく主の思し召しだ。

 

「兄上!」

 

「どれだけ遠ざけようとも、本人が望むのであれば仕方あるまい。幸い、伝手はある。用意してみよう」

 

どこか面白そうな叔父と対照的に、父は不安げな表情だった。

 

 

 

 




荒事から遠ざけた父と、ゆくゆくは軍に入れたい叔父。
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