わたしがウロボロスだ。   作:杜甫kuresu

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リメイク最大の要因にして、最大の改変。今回からオリジナル要素が絡みだすのでご注意下さい。

余談ですがこの最近の流行りは「Lullady for Mergo」です。


揺蕩う悪夢

 人形は替えがきく。何体殺しても、何回殺しても虫のようにわらわらと湧いてくる。

 彼女達の権利を巡って争う人間が居るそうだけど、はっきり言わせてもらうと、まあ馬鹿馬鹿しい論争に違いないと感じた。

 権利を与えようという発想は近代的で嫌いじゃない。確かに人形には擬似的にでも心らしきものは有るし、尊重しようという心意気を笑う程落ちぶれたつもりはない。

 

――だけど、僕は思うんだ。

 死んでもいいようなモノがわざわざ権利を貰おうなんて甚だ不遜だ。だって、今戦場で煙を吸い込む彼女達は「死んでもいいモノ」と思っていて、扱われていて、そして殺す側にもそう思われてるんだから。

 

 気色が悪い。僕ら虫は虫らしく、精々地を這って生にしがみ付くぐらいしてみせるべきだというのに。

 だから僕は人形が嫌いだ。

 

「久しいですね、ウロボロス。女性からのプレゼントは弾丸でも受け取るものよ?」

 

 たった一つ。例外を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何と呆気ない幕切れだ。それでもハイエンドモデルなのか、おぬし達は?」

 

 失望混じりの溜息が零れる。その華奢な腕が締め上げる首筋が、空気を通そうと不規則に荒れていた。

 硝煙と火ばかりに塗れたとある一室。彼女はM4の首筋に圧をかけながらつまらなさげに視線を逸らして尋ねる。

 

「何故だ、何故これほど弱い。せっかくわたしが相手をしに来てやったというのに、たかだかこの程度の不意打ちで貴様らはガタガタだ。話になっていないぞ」

 

 目を閉じたまま呻き声だけをあげるM4を首から揺らす。

 

「目を開けるが良い」

「――――――けほっけほっ」

 

 言われるままに目を開けたM4が同時に咳き込む。

 

 その顔立ちを見つめた時、M4にはその女の実際の容貌が見えなくなった。錆びつくような金の瞳には、数えきれない死体と読めない思考が積もり積もっていて、実態が全く映ってこなかったから。

 死体すら思わせる白い肌は鉄血であれば当然であるが、紅く残光を灯した右目を見るだけでM4の身体が僅かに軋む。浮き上がり銃口を向けてくる機銃、釣り上がる口端、全てがM4の様子を舐めるように観察し、嘲笑うようでとても悪趣味。

 

 セーラー服のような格好からは素肌ばかりが曝け出され、余程自分というものに自身が有るのが窺い知れる。

 思わず両手で彼女の手を振りほどこうとする。

 

「無駄だ、辞めておけ」

 

 一段と強く締め付けられる。がくりと意識が虚ろに堕ちた。

 抵抗が薄くなるなり力は緩まり、遊ばれているのが屈辱的なほどに分かってしまう。

 

「あまり抵抗はしないことだ。その気になればすぐさまその柔肌を蜂の巣に出来る」

「な、にを――――――勝手な!」

 

 振り絞った力で横から蹴りにかかるが、摘むように止められるとそのまま予想もしない方向に足をへし折られる。

 

「ぐっ――――!」

「だーかーら。辞めろと言っただろう、馬鹿が――――――何でも噛み付けば良いというものではないだろうに…………これだから主人公というのは嫌いなのだ」

 

 睨めつけるM4の琥珀色の眼光に、羽虫でも見つけたように手をひらひらと払う。

 同時にその視線がちらりと瓦礫に向いた。

 

「後な、M16。チャンスはない、大人しく顔を出さないと可愛い可愛い妹をスクラップにするぞ」

「…………チッ! 察しが良いんだな」

 

 苦虫を噛み潰した顔付きで瓦礫から手を挙げて現れたM16を、すぐにウロボロスは視線から外す。

 思い立ったようにニヤリとする。

 

「ふむ、このまま殺してはつまらん。一つ尋ねようか」

「…………どう、いうこと」

「簡単な質問だ」

 

 M4の表情になど彼女は目もくれない。明らかに戦場らしからぬ言動をする姿に僅かばかりM4は怯えていた。

 

「わたしは情報を渡せば生命ぐらいは助けてやる、と言うならどうする?」

 

 本当に単純な質問。M4は内心呟いて視線を一層鋭くした。

 

「そんなの…………決まってるでしょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前を倒して情報も確保。そんだけの話じゃねえか」

 

 男の声。思わずウロボロスが振り向く。

 其処には確かに走り寄ってくる男が居る。若くまた不敵な笑顔を携えた其れは、長い銃身をぼろ布で左腕ごと隠しながら走り寄ってくる。

 

 思わず機銃が男の方へと一斉に向きを変える。

 

「何だと――――!」

「おい姐さん、後ろ空けたぜ」

「オーケー」

 

 気づいた頃には遅い。ウロボロスはM4を盾にしようと急いでM16の居る真後ろに振り向こうとしたが、その瞬間に腕の影から男の笑顔が映り込む。

 

「しまった!」

「じゃあこの可愛い左腕はボッシュートだ」

 

 銃身に付いたバヨネットが彼女の左腕を一気に突き刺すと、そのまま貫いて固定された銃身が彼女の肘を吹き飛ばしながら腕ごとM4を撃ち落とす。

 

 急いで男を蹴り上げようとブーツを振り上げるが、男はまるで靄のようにすり抜けるとそのまま振り上げた足を持ち上げてバランスを崩しにかかる。

――何だコイツ。動きが良すぎる。

 

「仕方ない。ちょっとだけ、本気を出してやる」

「――――――あんだって?」

 

 途端に彼女の身体から凄まじいスキール音のようなものが鳴り響くと、瞳の紅い残光がより一層強さを増す。

 

「リミッター1を解除、自動承認――――――失せろ」

 

 M16の弾幕を背中に打ち込まれながら振り上げた足ごと身体を空中で捻ったかと思うと、不規則な動作で男を地面に叩きつける。

 血を吐きながら男が呻く。

 

「なんつー馬鹿力だよ…………ッ」

「お褒めに預かり光栄だ、そのまま死ぬが良い!」

 

 そのまま空いた右腕を振り上げた直後、明後日の方向を睨んだかと思うとすぐさま後ろに宙返りをして距離を取った。

 同時に崩れた天井から銃弾が飛び込んでくる。地面に釘を打つように捩じ込まれた弾痕を一瞥して彼女の表情が一層険しくなっていく。

 

「7.92mm弾だと? 誰だ!」

 

 叫ぶ声に返事はなく、我に返ったウロボロスの前にフラッシュバンが跳ねている。

 血を吐きながら男がニヤリと笑って別れの合図。

 

「じゃあファントムくんは此処らでお暇するぜ、アディオス」

「待て、おぬしは――――――!」

 

 閃光にウロボロスが思わず目を細めた次の瞬間には、彼らの姿は遠くへと消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方はいつもそうでした」

 

 かつり、かつりと音がする。

 遠くから、いや近くから。耳障りなブーツの足音に、ウロボロスの神経が震えるように過敏に反応する。

 

 親しみ深く、聞き馴染んだようにも思ったが、その声を聞いたことはない。いや正確には――――――「此処で」聞いたことはない。

 

「もっと強いもの、もっと強いものと夢遊病のようにAIを殺して、殺し尽くして」

「――――何だ、()()

 

――凄まじい寒気がする。

 きちきち、と妙な金属音が微かに鳴り響く。ウロボロスにはその音が何であるのかは分からない、彼女が学んだ兵装の資料にも、彼女自身の覚えにもそんな音は聞いたことがなかった。

 

 漠然と、その音に言い知れない何かが外れた感触がする。

 

「結局貴方より強いものは何処にも居なくて、とうとうこんな所までやって来てしまったのですね」

 

 天井から影が映り込む。

 艶めき豊かな銀髪に、影の中でも妖しく光る不思議な鮮血の瞳。纏うコートはゆとりがあるようにも見えたが、僅かに反射する金属の光沢をウロボロスは見逃さない。

 

 その背にはびっしりと、何か生き物ではないものが蠢いている。忙しなく動いて、光をぐねぐねと揺らし続けていた。

 

「――――――――――可哀想に。けれど同時に、貴方は幸運な方でしょう」

 

 持ち合わせた規格外に大きな木製の銃。その型をウロボロスは手触りすら思い起こせる程に見知っていたが、しかしアレ程大きく、他者を威圧するに足る奇妙な怖気を帯びていただろうか。

 

 きちきち。また風に乗せられた気味の悪い音、同時に其れの背中が蠢いて、幾つか銃口をウロボロスに向けた。

 それは弾種も、銃種も、用途も、果ては生産までもが一致しない。時代も違う。中にはウロボロスがつい先日も見たような鉄血の銃までもが紛れている。

 

――何だアイツ。

 ウロボロスは咄嗟に身構え、先ほどとは比較にならない鋭い一声で問う。

 

「おい、お前は誰だ。いや違うな――――――――お前、()()()()()?」

「…………わたくしの事、覚えていてはくださらないのね――――――まあ、当然かしら」

 

 少しだけ寂しく笑ったその顔は美しいのに、気持ち悪い。咄嗟の嫌悪感が彼女の端末をどよめかせる。

 ふわり、と飛び降りてきた瞬間に確信する。

 

――取り敢えず。殺した方が良さそうだな。

 

「もう一回だけ聞いてやる。お前は何だ」

「――――――貴方の為の。貴方の為だけの宿敵(主人公)です」

 

 その笑顔を直視するや否や、反射的に機銃がいななく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのKar98kは何なんだ! クッソオ、左腕さえ有ればこんな事には…………!」

「運が無いな――――――――ああ、ブラックジャックだ。酒を寄越せ」

 

 畜生、ハンターには賭け事でも五分五分だ。いつもみたいにゲイガーが居ればカモなんだが…………。

――初陣の結果、俺はけちょんけちょんである。現在も左腕のスペアパーツが用意しきれず布で隠す事態。やってくれやがったなアイツラ。

 

 俺の左腕を落とした男は詳細不明だし、あの後襲いかかってきたKar98kもデータに残ってない全く不明な機体。あの後ろでキチキチいってた外骨格は何だ気色悪い。勝手に動いてたし。

 

「しっかしそのKar98k? だっけか、ソイツは多分アレだ。何処の地区だっけ、あーほら、何か襲撃失敗したっていうハイエンドモデルの研究所の照合不可能なアレ」

「処刑人はうろ覚えで喋り過ぎじゃないか? 仮称No.319の事だろう」

「おーそれそれ! 流石ハンターだ」

 

 世辞は良い、と溜息を付いて酒を回収する。

 ハンターはあまりギャンブルに手を出すタイプではない、それくらいなら空き缶で射撃練習をするようなちょっとしたポンチ軍人なのだが、どうやら俺が手痛くやられたと聞いて顔見せに来たらしい。

 

 新人を煽りに来たのか、それとも励ましに来たのやら。理由は不明。

 

「だが新人の初陣に元より難易度の高いミッションを与え、あまつさえ情報不足が有ったとなっては代理人が九割九分悪い。ウロボロスがそう悔しがることはないんじゃないか?」

 

 処刑人がニヤつきながらも頷く。

 

「まっ、それはオレも同意見だ。まあ調子づいてるお前にはいい薬になったんじゃねえかとは思うがね」

「そうじゃない」

「――――――何?」

 

 ()()()がいらいらしているのは其処じゃない。

 確かにKar98kも、あのチャラい男もわたしにとっては全く予想外だ。必ずしも対処できる訳がないし、実際わたしも今回の失敗を自分のせいだなどと思っていない。むしろ思い上がりというものじゃないか。

 

 そうではなくて。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。たかだか二匹屑が増えた程度で、このわたしが敗北するだと?」

 

 それでも、勝てたはずだ。

 

「これは驕りによるものだ。オレはつまらないものに頼りすぎた」

 

 何が「原作では」だ、そんな理由で警戒を怠る兵士が有るか。「人間だから」で侮る兵士が居るか。

 何もかもが不完全過ぎる。

 

「勝てたものを見逃した…………ッ!」

 

 危うく、()()()()()()()()()()()()()()()()

 これだから二度目の人生などというのは碌なものじゃない。プライドの問題だ、わたしは奴らを「皆殺しに出来た」筈なのに。

 

「勝てたものって…………はあ。お前の青天井の自信、オレは羨ましいぜ」

「やかましい。コアを粉々にするぞ」

「ひえー、ウロボロスさんはおっかねーぜーやべーわー」

 

 わたしの知恵が及ばず、力が届かず、敗北するのは結構。本望だとすら言える。

 だが今回のものは「知っているからこその驕り」が生み出した結果だ。あのどちらかぐらいは殺せたに違いない、初陣でこんなミスをする己が情けなくて仕方がない。

 

 思わず酒を飲み干す。

 

「…………はぁ――っ!」

「――――――――仕方ないやつだな。今日はお前に付き合ってやるとするか」

「オレも何となく今日は飲みたい気分だな、今夜は寝かさないぜ?」




あ、今回はリメイク前からの読者ですら「!?!?!?!?!?(そっとお気に入りから外して気絶)」みたいな情報量だったのでちゃんと作者が後書きします。

前回の反省点はたった一つで、ウロボロスが”不死身”であったことです。
AR小隊は軽くいなすし、ビークル持ちの404小隊ですら腕を奪うで精一杯。挙げ句に数十体と満身創痍で戦闘を続行するというのが簡潔な前作の伝説の数々。
少々彼女は原作キャラを貶し過ぎました。勿論そう見えない方も居るとして、軽く読むとそう見えます。

それで、前回は後から継ぎ足しでオリジナル要素が出過ぎたので早めに小出しにしたいわけです。
そしたらこうなりました。

【男】
詳しくは「世界は愛で満ちている」参照。ウロボロスの天敵であり、理解者であり、弱点。

【Kar98k】
出てくるだけで不穏なオルゴールがBGMで入ってくる人形。どうやらウロボロスの知己らしい。分類は悪の敵。
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