わたしがウロボロスだ。   作:杜甫kuresu

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彼女に関して私が最も気をつけることは「最凶であることに尤もらしい理由をつけない」です。
正しいからとか、仲間が居るからとか、守るものが有るからとかで立ち上がるのは何処か白々しい。理由として曖昧。

自分勝手で、回り回って善良だとしても自分本位で、でも折れないから強い。
そういう人物像を目指しています。万物は何かの為ではなく、己の為に存在するべきではないでしょうか。

だから彼女の没ゼリフの多くには「オレの善行も悪行もオレが背負うもので、他の誰にも渡さない」という旨が多く有ったりもします。



ちなみに今回は全然普通の日常回なので今のは前振りでも何でもありません。


嵩む日常

「ガーベラ、か。悪くない動きだ」

 

 不規則な空気音で彼女が跳びはねる。音の出処は左腕、丸みを帯びた金属光が風を打つ特殊設計の予備パーツ。

 

 言葉通り「空気を弾丸にする」孔を持つ義手で、名前はガーベラ。ウロボロスは正直聞き覚えが有ったが、他人の空似のようなものだと思う。

 空を切ったゲイガーが上空のウロボロスに目を剥く。その口元は張り裂けそうなほどの笑み、瞳孔が高揚に開き切る。

 

「何!?」

「フィニーッシュ!」

 

 ウロボロスが急速で飛び降りてくると、今度は指先から整然と吐き出される空気が刀のようにゲイガーの髪を掠める。耳元に届いたゴウ、という音が一撃で致命傷の予感。

 辛うじて吹き飛ばされる程度で避けた。

 

「うわ、おま、危ないだろうが!」

「はははは! まだまだぁっ!」

 

 本来使い所に困る故に実用化しそこねたガーベラだが、彼女の扱い方はおそらく設計者の予想の斜め上だ。

 

 弾丸として用いず、ただの物理エネルギーの制御に扱っているのだ。無理な滑空を無理やり地面に叩き戻したり、相手の弾丸を弾き飛ばしたり、下段の回し蹴りからサマーソルトに急速変化をする。設計のシンプルな真意とは裏腹にトリッキーである。

 

「よいしょっと!」

 

 横殴りな左ストレートをゲイガーが冷や汗混じりに避けると

 

「わたしの勝ちだ」

 

 そのまま恐ろしい勢いで左回りした裏拳。ガーベラの起動で体ごと捻っている、あの出力なら体の何処かに負荷がかかりかねないというのに、ウロボロスの体はしなやかに旋回。

――お前、ホント才能で息してるな。

 

 とうとうゲイガーは観念して一発貰うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「デビルブレイカーはやっぱり最高だ…………」

「で、でびる? ぶれいかー?」

「あ、いえ何でも。レッドクイーンとかブルーローズも欲しいものです」

「れ、れっど…………?」

 

 代理人が明らかに顔を顰めるので急いで訂正。

 しかし俺のパーツが意外と高級品なのには驚いた。曰く「リミッターを後付しているパーツは」ほぼ存在しないから、らしい。俺の体モロ欠陥商品じゃないか。

 

 とはいえ、これを活かすには結構時間が必要だ。しばらく戦場に出れない。便利だが脆弱で、俺の普段の体捌きと求める腕力にガーベラはついてこれない。あっさり壊れるそうだ。

 

「おい、訳の分からないこと言ってないで付き合った私を労うんだ」

「あーゲイガーか。感謝する」

 

 俺の軽い返事が不服なのか両肩を思い切り掴んで揺らしてくる。

 

「お前な~、私を殺す気なのか~? 死ぬぞ、私は人形だから死ぬんだぞ?」

「お前はフルスロットルならわたしの上を行くだろう。ちょっとテンション上がって殺しにかかったぐらいで何を焦っているのだ」

「味方の素振りで殺されかけるのを焦らないやつが居るか!?」

 

 何を命の一つや二つぐらいで焦っているんだ、このハイエンド。

 グリフィンの人形が焦るなら全然分かるが、ハイエンドモデルは身体のコストを度外視すればほぼデメリットなんて存在しない。

 

 後ろから突き刺すような視線を感じる。

 

「こんなくだらない事でボディを用意させたらどうなるか分かってるわよね…………?」

「あっはい」

「実際タダじゃないんだから気を遣え」

 

 ちっ、一理ある。

 

 

 

 

 

 

 

「なあなあゲイガー」

「…………何だ」

「拳銃のだな、あの上のめっちゃ動く部分あるな?」

「スライドだ。ちなみに反動はリコイルと呼ぶ」

「ふーん…………そのスライド部分さ、取り外してブレードとかハンドキャノンに換装できないのかって技術部門に話してみたことが有ったんだが」

「いやそれ多分無理じゃ」

「何か今試行錯誤してるらしい」

「は? というかなぜ、今その話?」

 

 いやなんとなく。ただ単に歩いてるの暇だし。

 ちなみに試作品をもらったのだが、何か「すごく頑丈なので投げてもスライドガチャガチャしても壊れません」とかよく分からないPRをされた。俺は投げグセの有る幼稚園児か?

 

「というか開発するにしても素体は必要だろう。お前、何か頑丈な素材でも提供したのか?」

「処刑人がわたしにボロ負けしたときに押し付けられた担保代わりの拳銃を寄越したな」

「お前、処刑人の扱い本当に雑だな…………」

 

 というか勝手に押し付けられた品だから勝手に渡した所で何ら問題はないと思う。

 

「もうちょっと何というかだな――――――あっ」

 

 ため息を付いて顔を覆っていたゲイガーが突然蹴っ躓きかけたので、咄嗟に手を握って引き寄せる。

 鉄血は大抵手が冷たい。寂しいことだ。

 

「おいおい、気をつけろ。ハイエンドが蹴っ躓くなど」

 

 何故か顔をじーっと見て固まるゲイガー。コイツ喋らないと可愛いな、喋ると余計な節介が多くて鬱陶しいのだが。

 

 何時まで経っても呆けているので軽く手を振る。

 

「もしもーし、わたしに惚れてもお応えできんぞー」

「――――――なっ!? そんな訳があるか!?」

 

 えー。でも今の絶対俺の顔に見惚れてたって、ほら俺顔だけは良いから。

 ウロボロスはパット見で分かる大概な悪人面をしているが、良い捉え方をすれば多少凛々しいという奴にも該当はする。

 とはいえ、どいつもこいつも美形の人形界隈で俺が目立つかといえば多分そうでもないと思うが。

 

 ゲイガーが珍しく狼狽えながら首をブンブンと振る。

 

「くそっ、くそっ…………こんな巫山戯た奴がカッコよく映るとは…………AIを診てもらうか…………」

 

 あ? なんて? 全く何言ってるか分からん、ブツブツ言いやがってこの野郎。文句あるならはっきり言えってんだ。対応するか突っ撥ねるかも判断できないだろうに。

 

「ブツブツ言うな面倒臭い」

「煩い! さっさと行くぞ!」

 

 急に怒ったように早足で歩き出すゲイガーが至極普通に怖い。また小言言われるのは流石に俺もきついんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「おーデストロイヤー、また知己も出来ないままわたしに泣きつきに来たか?」

「は、はぁ!? そんな事一回もしたことないわよ! バーカ!」

 

 バカとは何だこのクソガキ。また足引っ掛けて公衆の面前ですっ転ばすぞ。

 何時も通りゲイガーとスケアクロウを混ぜてババ抜きをしていたらトボトボーっと歩いてきた。コイツ言動が極端だから大真面目に碌な知り合いが居ないようで、何だかんだ俺が時折お守りをさせられている。

 

 しかしこの前夢想家に「レベルも釣り合っててお似合いねぇ~」と言われたのを思い出して癪に障る。こんな犬も避けて通りそうなツンケンしたやつと同レベルな訳無いってえの。

 

「じゃあさっさと散った散った。此処はお主のようなちんちくりんが来るところじゃないぞ、酒とギャンブルに溺れたバカ鉄血の墓場だ」

「おい待て、その流れだと私までバカ鉄血になる」

「違うのか?」

「違う!」

 

 何だ、俺は処刑人とゲイガーは一纏めに考えていたんだが。すぐ突っかかってくるのも似てるし、何か態度の割に堅苦しい要求してくるところとか超似てる。

 デストロイヤーがムッとした顔で俺に睨み返す。

 

「うるさい、あんたに指図されたぐらいでどく訳無いでしょ」

「そうか。好きにしろ」

 

 俺は興味ない。子供は苦手なんだ、すぐ文句言うし俺に一々突っかかってくるやつは尚更苦手だ。

 ただ居る分には構わない。別に目障りとまで言ってのける気はないし、まあ我が強い自覚は有るので勿論俺も我の強い相手にとやかく言わないというか。

 

 そんな事を考えながらババ抜きをしばらく続けていたのだが、チラチラとデストロイヤーを見ていたゲイガーが気まずそうな顔をこちらに寄せてくる。

 

「おいおい、放置か?」

「は? なんでわたしが其処まで面倒見るんだ、アレは右も左も分からん赤ん坊か何かなのか?」

「いや、いや違うが。うん、まあ違うな…………」

 

 ジッと俺の方を見ていたスケアクロウが突然喋りだす。

 

「混ぜれば良いのでは?」

「小童相手だからと手加減したりするつもりは毛頭ないが良いのか」

「ババ抜きに加減もクソも無くないか?」

 

 確かにな。

 

 

 

 

 

 

 

「は、早く取りなさいよ…………」

「………………」

 

 前言撤回、デストロイヤーはアホみたいに弱い。

 割と顔に出る。今は明らかに涙目だ、まあババ引いてるんだろうな。一応俺が引く番なのだが、指をふらつかせるだけで百面相の始末で扱いに困る。

 

 ゲイガーとスケアクロウは沈痛な面持ちで俺に「加減してやれ」というアイコンタクトを送ってくる。何だお前ら、加減しないって俺言ったじゃないか。

 

 目をつむって適当に引いておくことにした。

 

「なんで目閉じるのよ」

「お前の顔を見てると気が散る」

「気が散るって何よ!」

 

 ふーん、ババか。ゲイガーの顔を見るにはコイツ途中で札入れ替えたな。別にそれも込み込みだから良いが。

 

 パッと札を取られてアガリ。どうやら最下位らしい。

 

「よし!」

 

 ニタァ、と俺をしたり顔で見つめるデストロイヤー。マジで面倒くさいガキだなお前。

 ゲイガーが肩を竦めながら鼻を抜けるような笑いをする。

 

「ウロボロス、お前加減したろ」

「え?」

 

 これまた妙な言いがかりを。デストロイヤーが疑心暗鬼の表情でこちらをちらちらと見てくる。

 

「はあ。ゲイガー殿、ババ抜きに加減もクソも有りませぬぞ。言いがかりは止してくだされ、わたしがイカサマをしてわざわざ負けてやるとでも? ちゃんちゃらおかしい話ですな」

「そ、そーよね! ババ抜きで手加減とか出来っこないし!」

 

 そうそう。デストロイヤーでも分かる道理だと言うのにゲイガーと来たら。

 

「貴方なら出来そうなのが怖いところだけどね…………今までババ抜きだって常に一番だったし」

 

 スケアクロウは俺が異能力持ちの化物か何かだと思ってないか?

 

――まあ、例えば目線で誘導とかは可能らしいが。ちょろっと本を読んだことがある程度でそれが出来るなら俺は天才か何かってことになるじゃないか。

 

「あーあー! 負けてはつまらんな!」

 

 椅子の背もたれにふんぞり返ると右の髪束が解けて地面についてしまう。

 

「うわ、髪解けた。おぬしのせいだぞデストロイヤー」

「なんでアタシのせいなのよ!」

「おぬしがわたしを最下位にしたからふんぞり返ってこうなったのだ! 絶対おぬしのせいだ!」

「さっき手加減した反動でとんでもない言いがかりつけてるぞウロボロス…………」

 

 これセット結構面倒なんだよなあ。

 つい舌打ちをこぼす。

 

「――――――チッ。結び直すか」

 

 右手のショーティーを外して咥える。大学時代は置き引きとか割とよくあったからついついこういうものは咥えたりしてしまう。

 

 ヘアピンを拾って結び直していると、いやに真剣な表情で俺の顔を見るスケアクロウが気持ち悪い。思わず眉を顰めたぐらいだ、珍しい。

 

「…………」

「――――――何だ」

「いえ。貴方は何というか、女性規格にしては無防備なので――――――こう、時折妙なぐらい艶かしく見えるなあと」

「な、はあ!?」

 

 何をいきなり言い出すんだこの人形。思わずヘアピン落としてしまったぞ。

 

 しかし個人の意見では留まってないらしく、ゲイガーもバツの悪そうに視線を逸らしつつ何となしに同意の気配を匂わせる。

 

「な、おぬしもか。マジか、わたしは同性愛は受け付けてないと何度も」

「そんな訳有るか!?」

 

 いやに必死なのこわ。

 

「しかしお前はいっつもガサツというか、なんとなく男臭い。そういう真っ当な女らしい動きをされると目にはつくぞ、脇とかちらちら見てしまった」

「――――――!? み、見るな変態人形め!」

「いやそこは照れるのかよ、お前やっぱり何処と無く変だな――――――というか変態じゃない!」

 

 おせえよ。

 大体誰だって脇ガン見されて恥ずかしくないわけ無いだろ! おいこらデストロイヤー目を逸らすんじゃねえ!




アイツラ同性相手にどこ見てるんだ気色悪い。
そう言えば賭けはオレが基本的に勝つ訳だが、まあレート低くしても時々賭け金が足りないまま続行する阿呆が出る。主にハンターと処刑人、ハンターは娯楽と割り切ってるみたいだな。

両方共拾ってきたりしたコレクションの拳銃とかを担保にしてる。時々持ち心地が良いのが有ってな、そういうのは重宝している。
暇つぶしはそういう銃を引っ張り出したり、焼けてない娯楽雑誌を読むぐらいなんだよな、つまらん…………。


【ウロボロス】
女子校で勝手に生まれる王子様枠。がさつな割に誰かに触る時は妙に優しいのと、顔が男前なのが人気が高いらしい。反感を買うのを承知で言うが転生前からモテている。
深夜にライブをゲリラ開催している。声の元が元なのも有って評判は良い、追っかけや親衛隊が最近秘密裏に結成され始めてるとか。

【Gerbera】
空気の弾丸を放つ――――――とされる腕パーツだが、実態は猛々しい。失敗作として鉄血の工場に有ったもの。
威力も申し分なく、極端な反動は利用価値に値する。だが忘れる事なかれ、これは欠陥品。無闇に振るえば使い手に牙を剥く。
また仕組みが複雑故に乱暴な扱いは出来ない。真価を引き出せないなら使わない事だ。失敗作を扱いこなすなら、相応の修練とセンスは当然必要なのだから。
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