わたしがウロボロスだ。   作:杜甫kuresu

7 / 7
本作はオルフェンズの機体に影響を受けていて、ウロボロスの動きが気色悪いです。
先に忠告しますが、彼女は元々悪役ですし、永久にそうです。なので本作は「相当悪趣味」ですよ。


第一戦役
”第十三大隊”


 殺し合うだけの、血も乾かない仮想世界。十日程経った辺りで、其れを見つけた。

 いつも銃を構えるなり目を潤ませていた。相棒が居たのか、少し背の高い女にいつも叱られていたのをよく覚えている。恐らく素人だったんだろう。構え方だって滅茶苦茶だ。

 

 だが、殺しは上手かった。めそめそ、さめざめ、しくしく。涙は少しずつ枯れていって、どんどんとその殺しは巧くなった。

 正確に言うと殺戮だと言える。苦しまずとか、綺麗にとか、速くとか等は無い。ただ結果的に勝つ、そういう品のない暴力ばかりが育っていった。

 

 確信を得た。其れはきっと、この世界で勝つのだろう。

 悪者になるだろう。強くて止められない、暴風のような敵になる。主人公の宿敵で、中々の悪になる。

 

 

 

 

 

 そこまで。そこまで来て漸く、答えを出した。

 アレを殺してやる。誰も止めてくれなくなるその前に、この銃で殺せなくなる前に。

 

 流す涙は切らしても、きっとずっと何処かで、めそめそさめざめしくしくと。あの啜り泣きが響くことは読めていたからだ。

 この決意の日から、二つのAIモドキの未来が狂った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではおぬしで試そう、精々足掻けよ」

 

 その戦場は優勢だった。誰が見ても、どう足掻いたってグリフィンは盛り返していた。

 一度は奪われたイングラム達『AR小隊』の行方の鍵を握る部隊は無事に保護し、その追撃にやってきたスケアクロウの攻勢を利用してサイドから叩く奇襲も成功した。

 

 此処に登場するのはやはり「あのRF」では有るのだがそれはさておき。勝っていることは疑いようもなかった。

 

『あの機体、記録がないよ』

『分からない。ハイエンドの可能性は高いわ、警戒して』

「おいおい、聞こえておるぞ?」

 

 弾みきった少女の声、市街戦では不釣り合いな悪目立ちする大声と共にモノクロのシルエットが射線の交差点に躍り出る。

 報告にない増援、僅かにざわつくグリフィン部隊の喧騒の中で其れは当然に走り出した。

 

 正確には走っていない。走るというより、それは辛うじて”近づく”動作だ。

 飛び跳ねる。乱暴だ、地面を砕いて伝達率も非常に悪い。体の性能に任せた乱暴な跳ね方ですぐ横の建造物にぶつかりかける。

 

『頭おかしいのアイツ!? 壁にぶつかった瞬間を狙って!』

 

 瓦礫に隠れた数体が構えた。

――同時に女が口を三日月に吊り上げる。

 

【見つけた】

「え?」

 

 刹那、少女が()()()()()()()()

 凄まじい、がしゃりと壁の崩れる音。重力を違えたような姿に気圧されるが、其れ以上に足から伸びた異様に長い爪のようなパーツが、嫌な予想と共に部隊の頬の冷や汗となって絶望を煽る。

 

 見たことのない装甲だが、間違いなく彼女が壁に立つのは其れが絡繰りだ。

 そしてぶつかりよろける予想は同時に崩れ、彼女達は位置を晒す愚行に出てしまったミスだけが残っていく。

 

「慣れた兵士程定石に縛られる。わたしに其れで勝つのは無理だぞ?」

『ハッタリよ、撃って!』

 

 誰かの一声で同時にマズルフラッシュが彼女の視界を覆う。

 

 けたけた愉快そうに笑っているかと思うと、凄まじい音を立てて消えていく。

 

「ハッタリ! そう、ハッタリかもしれんな! だが一瞬止まってもらえればそれで結構!」

 

 気づけば隣の建物に立っている、焦り揺れる照準を向けてももう居ない、部隊が音とシルエットに置き去りにされていくばかり。

 滅茶苦茶だ。誰かが内心呟く。

 

「では貰おう、何。死ぬのだからもう必要あるまい?」

 

 すぐにそのAIは事切れた。飛びかかってきた何かの脚が頭に降りかかる、ガチャリと大きすぎる金属音と共に上からしなるような爪が伸びるなり、頭部をまるごと『掴み潰す』。

 

 破れかぶれの乱射は気持ちの悪い滞空中の回転で全て避けられてしまう。

 ぶらりとぶら下がるばかりの死体をくるくる振り回して銃を強奪すると、手当たり次第に乱射しながら凄まじい速度で地を走り出す。

 

――おかしい。

 気づくのが遅すぎた、()()()()()()()()()()()()()

 過剰な戦力投入だったのだ。もう『壊滅する』と鉄血が即座に判断するほどに、其れは動く暴力そのものだった。

 

 遅かった。足りなかった。また一人、腕毎銃を奪われる。抵抗しようと足を伸ばせば指で抓まれへし折られた。

 

「悪かった。痛めつけるのは良くないな」

 

 そう言いながら四肢も支離滅裂な人形を足から脳天まで撃ち抜いてしまう。

 同時に一体の人形が瓦礫から状態を乗り出して、その長い銃身を少女の眉間目掛けて構えた。

 

 ニヤリと歪んだ口元に釣られるように、凄まじい空気の裂ける音と共に不可測に跳ぶ。体の動きからは想定できない突然の自由飛行に目を剥いた最後の人形の耳元。

 気づけば歩いていた彼女があざ笑うようにくるくる廻って答え合わせ。

 

「そうだなあ、判断は正しい。問題は常識に頼りすぎたことだろう」

「…………ッ!」

 

 振り向いても何も見えない。

 

 当然だ、もうその頭は気持ち悪いほどに伸びた足で蹴り飛ばされている。サッカーボールのように、まるで風船でも叩き割るように、そして勢いで頭は弾けて消えていた。

 辛うじて動く首から下に哀れそうに首を振る。

 

「それで動けてしまうのは辛いだろう――――――安心しろ、どうせおぬしたちは何も守れない。地獄で幾らでもわたしを罵倒してくれ給えよ」

 

 彼女の右手から暴れだす弾丸に最後の人形がガタリと崩れ落ちた。

 

 同時に足音が聞こえてくる。整然とはしていない。ただ数が居て、それは尋常ではない。整然としているのは新品の鉄血だけだ、彼女達は誰もが「一度として」ロストしていない老兵。死に損ない。または。

 かつて臆病と呼ばれた、今は”暴風”と語られる部隊。

 

 第十三大隊である。

 

 

 

 

 

 

 

「先行しすぎです、ウロボロスさん!」

「やーかましい! 全部殺しただろうがスットコドッコイめ、あんまり言うとおぬしの首もバシャーンだからな!」

 

 凄まじい脅しである、メットは閉口するなり溜息。

 指揮官相当のモデルが本隊より先行し、あまつさえ敵部隊を壊滅させる等という事例は勿論ない。そもそも彼女に関して言えば、「指揮が出来ない」と割り切っているのが大きな理由。

 

 いつも彼女が言う通り、「所詮は呂布の類」であり指揮能力は特段今までのシミュレーションで測られていない。

 だからこそわざわざ”第十三大隊”等という特定の部隊の監督役、という名目を引き受けて個人の部隊の手綱を握った。いや、正確には自分を縛るリードだろうか。

 

「というかその脚部装甲の殺意が高すぎます、一体どんなAIをしていたらそんな全身刃物みたいな装備にしようと思うんですか」

「守るより殺したほうが速いだろ」

 

 身も蓋もない攻撃は最大の何とやら論。

 足のブーツに連なるガード。これは本来は通常の装甲であり、唯の質量兵器とする程度にしか殺傷における価値はない。

 

 彼女の無理を言った改装によりつま先に向かって勢いよく開く爪じみたパーツが膝と膝裏につけられる。気軽に開けるこの二つのパーツが開く瞬間はさながら「物を掴む動作」それにそっくりであり、足の更に先までその長いパーツを伸ばした姿は鷹の爪にもよく似ている。

 

 防御を考慮していない改造に大抵のものは正気を疑ったが、初めて見た彼女は徐に

 

『これをヤタガラスと呼ぼう』

 

 等と中々にステキなネーミングセンスを発揮し、正気どころかAIの自己矛盾を即座に診断された。

 かなり暴れた彼女であるが、現在では無事「ただの中二病であって異常はなし」としっかりした診断書をもらっている。部屋にはむくれた当時の彼女がクシャクシャにした其れがゴミ箱に入っていることだろう。

 

 にしてもその構造はあまりに「殺し」に傾倒しすぎている。機構も複雑で、大きな質量移動を伴うために身体操作の難易度も見た目以上に上昇する。素人がこの機構を展開した所で振り回され、脚を真っ直ぐ振り切るの自体が困難だろう。

 

 隊員の一人が恐る恐る尋ねる。

 

「でもウロボロスさんって、何というかシンプルなものが嫌いですよね。ガーベラ、でしたっけ。それも扱いが難しそうと言うか」

「単純な肉体言語ではこのボディのパワーが活かせない。多少複雑でも性能で扱い切ることで、初めてハイエンドモデルの意味を持つというのがわたしの持論だ」

 

 複雑であることを人類が求めたのは何故か? それが彼女のその持論の全ての答えだ。

 それは己の知恵を最大限、物理的な結果に繋げるには「複雑で、扱う側の思考を問う」形態を求めるべきだったからだ。知恵だけが有っても、知恵を振るう道具がないのではお話しにならない。

 

 肉体も同様。

 ハイエンドモデルの精密性、単純な物理パワー、頑強さ。活かすならば、相応に扱いの難しいものを用意するのが常套手段になる。

 

 メットが肩を竦める。

 

「…………ウロボロスさん。本音は?」

「は? 本音しかしゃべらない事に定評すら有るが?」

「本音」

「……………………何だかんだ体をえぐられた時に泣き叫ぶ女の声が好きだ」

 

 途端に彼女の顔が何処か「ズレた」。

 

「涙を流し、鼻水を垂れ流し、涎を零し、無様に睨むだけのあの姿! アレも良いな、弱者を陵辱する時ばかりははっきり言って何度か絶頂した覚えがある…………っ!」

 

 悪趣味極まる、しかしもとよりそういう人形だ。ちなみに実戦は今日が殆ど初と言って過言でなく、要は数時間で数度絶頂したそうだ。頭がおかしいと思われて仕方ない。

 

 実際、部隊の中から聞こえてくるのは

 

「サイッテーですね」

「まあこっちも殺されてるし一理ある、気がしただけ」

「私は泣き叫ばせて欲しいと言うか」

「この人に見つかった時点でまあ碌な死に方しないし」

「動くサド変態が偶々強いって感じ」

 

 擁護は一つもなかった。バツの悪そうに顔を逸らしてわざとらしく理由をまた取ってつける、理由のデコ盛りで様相は一昔前のケータイだ。

 

「まあ? 機能性というのもまた事実だ、万物一つの要素だけで成り立つことはないからな。誤解なきよう」

「そうは言いますけど9.5割が暴力で出来たハイエンドモデルが居るらしいんですよ、ウロボロスさん」

「それは会いたいものだな! 面白そうな事を言うじゃないか、誰だ!?」

 

 素で目を輝かせた彼女に隊員全員の「お前だよお前」というあまりに残酷な視線が幾つも突き刺さっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いい声で哭く、飽きんな』

 

 吊り上がった三日月模様の口元。敗北を悟った人形の戦闘能力を捨てたカメラ撮影から送られてきた映像だ。

 映るのは以前に比べても明らかに滑らかに、それでいて不可解な挙動で人形を喰い殺す『彼女』の姿。

 

 今度は脚の爪を受け止めた銃を踵を蹴り下げて奪ってしまうなり、ひょいと銃を手に取るとそのまま脳天を撃ち抜く。

 

『何だ、もっと抵抗しろ。殺意を剥き出しにして、憎悪に狂った修羅の顔なり、誅伐の大義名分に酔った快楽殺人者の顔の一つでもしてみせろ。何だかわたしが悪者みたいだぞ? 呵々ッ!』

 

 至近距離の発砲を当然のように銃身に脚を引っ掛けて避ける。

 ぐねぐねと物理法則の見えない動きで銃を絡め取りながら迫る、あまりの重量に人形が銃を下ろすとそのまま腕毎へし折る。

 

 明確な悲鳴。Kar98kが見る限り、その表情は明らかに愉しんでいる。自分が悪だとかそんな事も引っくるめて、そして「どうでも良い」と放棄して嗤っている。そういう女の顔だ。

 というより。自分もそういう人格では有る、同感していたところすら。

 

『悔しいなら次の素体でわたしを陵辱することだなあっ!』

 

 そのまま胸を腕で貫く。滅茶苦茶だ、現代戦のセオリーのセの字も見えない。

 それを押し通すAIのセンスも、ついてくるボディも、あの発想にしっかりと寄り添う兵装も全てが規格外。ある意味、あまりにも見慣れない戦闘スタイルで対応できないところもあるだろう。

 奪った銃で殺すのは本当に昔からの癖だ。

 

『ほらほら、憎いならもっと必死になれ! 気概で勝らずしておぬし達の何でわたしは愉しめばよいのだ!? ええ!? 黙ってみているなら犯して嬲って殺すだけだ!』

 

 心底楽しそうに惨殺に青白い肌を濡らす。数体がかりでも話にならない、当然のように伸びた腕がダミーの肩から下を根こそぎ奪うと銃を手に取っている。

 凄惨な殺戮現場の映像そのものだったが、Kar98kは小さく微笑む。いつもどおりの、何だかつまらない一日のじゃれ合いでも眺めるような。横に居た指揮官が少し呆れた顔をする。

 

「何時まで見てんだよ、早く行ってこい」

「――――――あら。そんなに見ていましたか?」

「ああ。もう気色悪いぐらい、しかも息荒いぞお前」

 

 失礼、と呼吸を整えて立ち上がる。重苦しい金属の群れががちゃりがちゃりと彼女の歩に続いた。

 

 にやけは取れない。きっと当人に対面するまでずっとそうだろう。

 何せあの規格外は、『あの実験』から何も変わっていない。それはもう彼女にとってはこれまでの血を洗い流せるほどには嬉しい知らせであるし、何よりその歪んだ貌にこちらまで釣られてうっとりとしてしまうものだ。

 

 少しばかり、殺されたあの瞬間を思い出す。不快そうに自分を見下ろしたあの女の顔を。その癖に、いまさら少しだけ涙なんて流していた忘れられない冷めた表情。

 

 堪らず彼女の歩みが駆け足になってくる。

 もうすぐ、殺し合えるだろう。舞台と役者たちが彼女を待っていた。




装備の我儘、結構通ってしまう。どうやらノリノリな者が居るらしい、まあオレは楽で結構なことだが…………。
美学、と言っては大仰で気色悪いがやはり殺すなら徹底的であるべきだ。守るから攻めに転用できなければ、其れはもう兵器ではない。
オレは指揮官である以上に兵器にしかなれない性分だ。やはり多くを殺せる機構は出来るだけ寄越してもらいたくなる。

…………何。「前回は苦しまずに殺せと言っていた」?
う、うるさいな。気が乗るとこうなるんだよ、ほっとけ。

【脚部装甲】
ヤタガラスと名付けてウロボロスが中二病を喧伝してしまった「直感的殺戮」を実現した特殊装甲。
膝と膝裏で棘のように突き立っているエッジが電気信号で開き、「足の先を抉り掴む」動作になる。分かりやすく言うと反り返ったUFOキャッチャー。まるで鷹の爪のような形になる。
基本的には変形の勢いで振り下ろされた長い鉄の鈍器としての威力を期待する代物だが、使い手が原因で残虐性を帯びている。彼女が持てば装甲ですら殺傷力を持つ質量になる好例だ。

”装甲など下らぬ、撃たれる前に蹴り殺した方が速いだろうが。素人仕事だな全く”

ウロボロスは死ぬべきであるか

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