異世界転生は妖精と共に 作:リーン様の椅子になり隊
「久しいな師匠」
「老けたなジャムカ」
リーンと共にミスミドに戻り、ミスミドの王となったジャムカ・ブラウ・ミスミドと対面する。一時期剣を教えてやった事があるのだ。
「最近若造に負けたらしいな……何と言ったか……」
「うむ。冬夜殿だな」
「…………そうか」
冬夜ってーとあのガキのことだよな?彼奴に負けたのか。
「リーンも、もう冬夜殿は良いのか?」
「ええ。興味深かったけど、もう良いわ。もっと良いものが手に入ったし」
そういって微笑みながら俺を見てくるリーン。ジャムカはむ?と俺とリーンを見比べる。そして、何かに気づいたようにおぉ、と手を叩く。
「成る程成る程!めでたいな!挙式は何時だ?」
「気がはぇぇ奴だな……」
「そう?私は今からでも良いけど」
「今から?おおそうだ、実は冬夜殿から親善パーティーの誘いが来ていたな。」
親善パーティー?ああ、一応王に即位したんだもんな。交流のある国を誘うか………各国としてもこれを機に友好関係を結びたいはずだし、丁度良いんだろう。
「リーンとトーマ殿も行かないか?」
「悪いがパス。嫌いじゃねーけど、苦手なんだ。好き好んで会いに行きたいとは思えねー」
「む?そうか……苦手とな……ならば仕方ないな」
取り敢えず、レグルスでの噂は広がった。各国の密偵を時折街中で見かけることはあるが取り敢えず接触してくることはない。虐殺が伝わっているのだろう。まあ何人かは自分達が声かければ、しかしまだ早いと言いたげな目をしている奴も居たが……。
「国の後ろ盾はともかくとして、王になるのもまあ手ではあったんだろうな」
「そうかもしれないわね。おちおち街中を歩けやしない」
俺の言葉にリーンがはぁ、とため息を吐く。デート中も無遠慮に見てくる視線が鬱陶しくなってきたのだろう。と、その時ミスミドの兵士が現れる。
「失礼します!」
そう言ってすぐさま跪く兵士。リーンが視線を向ける。話は聞くようだ。一応世話になってる身分だしな。
「水晶の魔獣が現れました。場所は大樹海の中央あたり。そこに住んでいる部族からミスミドへ救援の知らせが………」
水晶の魔獣?フレイズか?そういやジャムカに一応忠告してたな。それで俺らの方に来たのか?
「それでフレイズはどうした? 倒したのか?」
「いいえ、部族の村々を潰しながらまだ居座っているそうです。視界に入る人間や亜人たちを皆殺しにしながら………ッ!形は、大きな蜘蛛のような姿だそうです」
蜘蛛?前回はマンタ型で、リーンがあったのは蛇型、ガキがあったのは蟋蟀型らしいが、本当に色々居るんだな。しかし大きな蜘蛛、ねぇ。元々普通の動物よりでかいわけだから小型種とか言う奴なのか中型種なのか解らんな。中型種とかだったら前回の白髪若作り爺に会えるかもしれないが……。
「取り敢えず向かうか。シェスカ、ロゼッタ、バビロンを使う」
「召喚獣デなく?」
「助けに行って災害連れてってどうする。前回の強さを踏まえるに、別に悪獣が必要とも思えないしな……いや、救援だし急ぐべきか?」
「トーマさん!」
「おん?」
何故かガキが居た。メスガキ共も。
多分らジャムカの奴をしごいてやったから、ジャムカがリベンジマッチを頼んだってとこか?ジャムカも此奴ももう少し自分の今の立場を考えろよ……。んで、このガキは慌てた様子で俺に何のようだ?
「樹海にフレイズが現れたみたいです。向かいたいので、バビロンを貸してくれませんか?」
「そこになら今向かう。公王殿は自国に戻ると良い」
「え?あ……ま、待ってください!フレイズは魔法を──」
「吸収すんだろ?知ってるよ、戦ったから………情報提供してくれようとしたことにかんしては礼を言おう」
「違います!冬夜さんは、貴方の力になろうと」
「俺より弱いくせに?馬鹿言うなよ……だいたい立場を考えろ。救援要請を受けたわけでなし……他国の王が深く関わって良い問題じゃねえんだよ。お前はもう一介の冒険者じゃねーんだぞ?」
そう言いながらリンドヴルムも呼び出す。すぐに嵐が巻き起こるがリーンはなれたもの。俺もすぐにリンドヴルムの背にリーンを連れて飛び乗る。
「それでも、フレイズに誰かが襲われるのを放っておけません!」
「放っておけ。それが王ってもんだ………まあ、一応ミスミドとブリュンヒルデは友好国だし、ジャムカも馬鹿だし来るぶんには残念ながら問題ねぇんだろうが……つまり、来るなら好きにしろ。俺は知った事じゃねー」
そもそもが食客だからな俺。立場的に本来は止める止めないなんて出来ない立場だ。本来止めるべきはジャムカかその家臣達なんだろうが何してんだか彼奴等。樹海はお前等の国の土地では無かろうに……。
「飛べ、リンドヴルム。この際だ、今回の敵はお前にくれてやる」
『ヴェハハハハ!よろしいのか?よろしいのか!?ならば殺すぞ!壊すぞ!滅ぼすぞ!顔も知らぬ戦友よ、待っているが良い!』
リンドヴルムが興奮してゴロゴロと雷が鳴り響く。この際だから、魔力を食うフレイズに俺の悪獣がどの程度通じるか見学するか………。千や万来たら、一人じゃどうしたって対処するのが面倒になるしな。
「…………しかし、フレイズ……異界、ねぇ…」
俺やあのガキに異世界からどうやってか此方に流れ着いた存在が二つ。フレイズに関しては明らかに意図して来ているが………だとしても、これは異世界から異世界に渡ることが可能という事実に変わりはない。
俺がこうしてここにいる以上、俺の世界の連中だって来てる可能性はある。親父は………ひょっとしたら生き延びたのだろうか?
問題は、妖怪共だな……特にあの雌狐が来てたら最悪だ。
まあフレイズが異界を渡る方法が解ればこれなくする方法も解るかもしれない。その方法が解ればあの雌狐が来る前に、絶対行おう。
『おお、あれか!?彼か!?ヴェハハハハ!何という大きさ、何という透明度!まるでガラス様だな我が戦友よ!』
と、そうこう考えている内にフレイズが見えた。大きさ的には、中型種とか言う奴か?どっかの部族の女どもが戦っているようだ。
『ヴェーハハハハ!挨拶代わりだ!開戦の狼煙だ!さあ、殺し合おうぞ!』
「ホール」
無属性魔法ホール。言ってしまえば丸いゲート。それを部族の女共の足下に出現させ転移させる。ちなみに場所はあのガキの近くだ。助けたかったらしいしな、これで保護と治癒をしてやれるだろう。次の瞬間、雲海より無数の雷がフレイズに落ちる。
『──────!!』
見たところ筋肉はない。痺れたりはしないだろう。が、表面が見る見る砕けていく。と、コアが光り修復されていき、しかし砕ける。コアが一際強く輝き、割れた。
『む?終わりか?終わりか戦友よ!どうした、殺し合おう!まだ始まってすらいないぞ!』
「終わってるよ。もう帰れお前」
と、リンドヴルムを返しリーンとポーラを抱えて地上に降りる。砕け散ったフレイズの欠片は簡単に砕けた。
リーンがそれをしげしげと見つめる。
「ガラス並みの強度しかないわね。この破片で武器が作れないかと思ったのだけれど」
「魔力を流すことで硬質化するじゃねーの?」
「……それよ! 魔力による硬化魔法! この体に魔力を増幅し、蓄積、放出する特性があるとすれば……!」
リーンはもう一度かけらを両手に拾い、その破片に魔力を流しながら、それらを強く打ち合わせた。ガキィィン、と澄んだ高い音が出たが、そのかけらが砕けることはなかった。
「やっぱりだわ。この材質は魔石に似た特性を持っている。しかもはるかに魔力伝導率がいい。術式転換がほぼ100%だわ。魔力によっての結合がここまでの強度を保てるなんて信じられない」
「これ、実際生物なのかね?」
「さあ?取り敢えず、この欠片を持って帰りましょう。幾つか食べても構わないわよ?」
「そうか?じゃ、とっとと行くか。確かさっきの女共、女だけの部族で強い奴みると子を作りたがったはずだ」
「あら、貴方は危険ね。なら帰りましょうか………そしたら、冬夜にでも目を付けるでしょうね」
まああのガキはこの世界基準で言えば強いからな。突然別の場所に転移させられ、目の前に現れ颯爽と傷を治す男……まあ惚れんじゃね?
「なあリーン、此奴等の体の研究ついでにどうやって世界を越えるかも調べてもらって良いか?」
「構わないわ。まあ、体を調べて解ることなのかは解らないけど」
「何も解らなくても文句はねぇさ………」
「「図書館」にフレイズの研究資料があればいいのだけど……」
「そういや、転送陣らしきものの情報手にしたぞ」
「へぇ……いい子ねトーマ。後でご褒美あげる」