異世界転生は妖精と共に   作:リーン様の椅子になり隊

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模擬戦、そしてキマイラ。

 リーンのペットと紹介された男は何処からどう見ても冬夜達と年齢差が開いているようには見えない。しかしシャルロッテの反応からするに、シャルロッテよりは確実に年上らしい。

 

「ほら来いよ。俺は大人だからな、若人達に先手を譲ってやるぜ?」

 

 クイクイと指を曲げ挑発するトーマ。先程勝てないとリーンに言われたばかりだというのに完全になめきった態度だ。琥珀がグルルと喉を鳴らす。

 

「えっと、じゃあ遠慮なく………スリップ!」

 

 無属性魔法スリップ、摩擦をゼロにして相手を滑らせる魔法。冬夜が戦闘に多用する魔法だ。

 

「………へぇ、この時代にもスリップの使い手が……ああ、全部使えるんだったな」

「「「「──!?」」」」

 

 が、トーマは微動だにしない。足下を見つめ楽しそうに笑う。

 

「このワザの対処は二つ。一つは俺かリーンしかできないが、魔力をスリップ対象に流して魔力を追い出せば良い。んで二つ目、これは練習すれば簡単に出来るぞ。滑るのは力が流れるから、力が逃げないように垂直に落とせばいい」

「普通は出来ないけどね」

 

 簡単に言ってのけるトーマにリーンがあきれたように肩をすくめる。

 実際、少しでも力の向きがズレればバランスを崩すというのに話を出来るトーマが異常なのだ。本人も自覚している。

 

「んじゃ、次は俺の番だ」

 

 と、まるで何事もないかのように歩き出す。真っ先に反応したのはエルゼ。八重もすぐさまかける。

 

「なら、別方向から力を加えるまでよ!」

「神妙にするでござる!」

「イーシェンの奴らってたまに語尾にござる付けただけみたいな奴居るよな」

「ブースト!」

「………スリップ」

 

 エルゼが身体強化してトーマに迫る。が、トーマが呟いた詠唱に目を見開く。

 

「?───喰らいなさい!」

 

 が、滑ることはなかった。ブラフかと思いそのまま突っ込むが、トーマの体に触れた瞬間拳が滑る。

 

「な!?」

「──!?」

 

 八重の刀も同様。腕で防ぐとあっさり滑り逸れる。

 

「スリップってのはこう使うんだよ」

 

 バランスを崩すエルゼの腹を蹴りつけるトーマ。かは、と肺の中の空気を吐き出し吹き飛ぶエルゼはそのまま岩に背中をぶつけ気絶する。

 

「イマジンブレード」

 

 さらに同様にバランスを崩した八重に、体勢を立て直す暇を与えず光の剣を生み出し喉を切り裂く。傷は出来なかったが目を見開き喉を押さえその場にうずくまる八重。トーマは既に興味を失ったのか残りの三人を見る。

 

「八重さん!エルゼさん!」

「お姉ちゃん!良くも……水よ来たれ、衝撃の泡沫、バブルボム!」

「水よ来たれ」

 

 リンゼがバブルボムを放つがトーマが単純な詠唱を行い生み出した水が全ての衝撃を飲み込む。ユミナが矢を放つもやはり水流に飲まれ無効化される。

 

「相変わらずねトーマの詠唱短縮」

「その気になれば詠唱すらしませんからね。どうやってるんでしたっけ、あれ?」

「一日中魔法を発動した状態を2、3ヵ月続けると魔力の流れが解るようになって、詠唱する事なく魔力の流れを再現できるそうよ。私はそんな馬鹿げた量の魔力持ってないからトーマに流してもらって感覚を学んだけど、一年はかかったわ」

 

 リーンとシャルロッテがその光景見ながら話す。

 食らえば食らうほど、少しずつではあるが強くなるトーマの魔力量はそれはもう規格外だ。故に出来た修行法で編み出した詠唱短縮、詠唱破棄は如何に相手に近寄らせないかが重要なこの世界の魔術師の根底を覆す。

 

「プレッシャー」

「ふぐ!?」

 

 それでも詠唱してやってるのは、手加減だ。トーマは己の力をインチキと捕らえる。故に命のやりとりのない戦いでは基本的に手加減する。相手が誇りをかけて挑んできたら別だが、それも相手の覚悟による。

 

「走り回って戦って、ようやく得た強化なのに、律儀よねぇ」

「まあ、それがトーマさんの良いところですよ」

「あげないわよ?」

 

 あれは私のものだもの、と笑みを浮かべるリーン。どうでも良いが笑顔とは本来攻撃的な意味を持つとか持たないとか。

 トーマはリンゼを地面に押しつけた後ユミナを見る。彼女は仮にも王族だ。なので閉じ込める。

 

「キューブ」

 

 名前の通り球体状の障壁がユミナを包み込む。本来はこれに閉じこもり危険地帯を歩くのに使われていた無属性魔法だが魔力操作と魔力量が高いトーマは内部で魔力の流れを生み出し魔法が使えぬ空間を作る。

 

「さて、残るは一匹と一人。降参するなら見逃すぜ?てかたかがスリップが通じないだけで何時まで惚けてんだよアホか?格下ばかりと戦って自分は強者だとでも勘違いしていたか?」

『吠えるな、小僧!その喉笛噛み千切ってくれる!』

「おお!?」

 

 子虎だと思っていた琥珀が本性に戻り吠える。突然大きくなった琥珀に多少驚愕したトーマ。自分が今まで会ってきた魔物の中でもトップクラスの力を持つ琥珀の動きに、しかし笑みを浮かべる。

 

「クイック」

『───!?』

「……何だ、全く見えてないのか。つかって損した」

 

 ガキン!と何もない空を噛んだ琥珀は見失った標的を探そうと周囲を見回そうとし、後ろから聞こえた声に振り返る。その瞬間には腹に蹴りが迫る。が───

 

ドパン!

 

 炸裂音が響く。琥珀に取っては聞き慣れた。トーマに取っては知識として知っている音。故にトーマの視線が其方に向き、高速で飛来する何かを受け止める。

 

「………ゴム弾?」

「嘘!?」

 

 込められた魔力が流れ込んでくる前に弾き飛ばし何を受け止めたのか見てみるとゴムだった。音の発生源ではゴムとはいえ銃弾を受け止めたトーマを見て目を見開いている冬夜が………そう、銃弾だ。その手には銃が握られていた。

 

「………?」

 

 確か銃には雷管といった極めて精密な部品が必要だった気がする。そんなものを作れる知識、可笑しくないか?

 カタギの人間ではない?少なくともゴム弾とは言え人の脳天狙うような輩がまともな相手とは思えない。()()()()意味ではないとは言え、リーンに興味を持たれている男が、だ。

 ……………殺しとくか?

 

「─────!!」

 

 僅かに漏れ出た殺気に当てられ腰を抜かす冬夜。トーマははぁ、とため息を吐く。向こうと此方が同じ時間の流れとは限らないが、此方にきて数百年。単純に日本でも銃刀法が廃止されたのかもしれないし、存外簡単に仕掛けが解る時代になったのかもしれない。とりあえずあの反応を見る限りカタギではありそうだ。

 

「つかこの程度でビビるって、まあその人間離れしたスペックに加え女共を強化している妙な力と遭わせりゃ苦労せずに生きられるか。んで、俺の勝ちで良いよな?」

「…………いいえ」

「………ほぉ?」

「もう少し、抗って見せます!苦労知らずなんて、言われたくない。皆と一緒に、努力して、苦労を分かち合った日々を否定されるわけにはいかない!」

「……………はぁ?」

 

 スッ、とトーマの目が細められる。殺気は、漏れていない。漏れていないが心の中でかなりくすぶっている。それを察したリーンはあらら、と呆れたように肩をすくめる。

 

「行くぞ!クイック!アクセル!ブースト!」

「遅い、軽い、未熟」

「──か!?」

 

 先程トーマが使っていた無属性魔法も使用し、周囲の者には消えたようにしか見えない速度で背後に回り込み銃弾を放とうとした冬夜だったが一瞬で移動したトーマに腹を殴られる。

 

「──っ、く……火、火よ……来たれ!」

「───!」

 

 トーマをしても2、3ヵ月、リーンでも一年かかった詠唱短縮を行い魔法を発動する冬夜。トーマはその炎を突き抜け冬夜の喉を掴む。

 

「マナドレイン」

「────!?」

 

 魔力が吸い込まれる。身体強化した冬夜の抵抗などまるで気にせず喉を掴み続けるトーマ。魔力を吸い込んでも吸い込んでも後から魔力が溢れてくる冬夜を見て、目を細める。

 

『我が主から手を放せ!』

「闇よ来たれ、我が求めるは歪なる獣、キマイラ」

『グルアァァァァッ!!敵、殺すぅ!』

『ひさひさひさ久々のぉぉ、敵ぃぃ!』

『牙で砕く角で貫く毒で犯す!』

『───ぬぅ!?』

 

 冬夜を救わんと迫ってきた琥珀に対してトーマはその場から飛び退き呪文を唱える。影が蠢き、飛び出してきたのは獅子と山羊の顔と蛇の尾を持つ山羊の後ろ足に獅子の前足を持った獣。

 

『主主主、あの猫食べて良い?』

『猫は山羊を襲う。なら私は猫を食う!』

『いや毒だ毒で弱らせようそうしよう』

「タマ、後藤、ビミ、五月蝿い。たく、相変わらず狂ってんなぁ」

 

 と、呆れたように肩をすくめるトーマ。三つの首はよだれを垂らしながら琥珀を見つめていた。

 

「好きにしろ」

『『『やったぁ!』』』

「な、何ですかアレ……」

 

 キューブに閉じ込められたままのユミナは禍々しい気配を放つ獣を見て、震えながら呟く。最高クラスの召喚獣、神獣相手に互角に戦う召喚獣など聞いたことがない。

 

「キマイラ……召喚者を軒並み食べちゃうから有名にならない問題児よ。トーマったらああ言うのしか召喚できないのよねぇ………ちなみにあの子曰わく国一つ食べたこともあるそうよ」

「あ、ありえません!魔法陣から出れないのに」

「その魔法陣を勝手に広げるのよ。餌場確保のために、ね……トーマが詠唱破棄を行えるようになったのもあの子達の魔法を乗っ取る魔力操作を見てだもの」

「達?それって、つまり……召喚者を食べた挙げ句魔法陣を広げ周囲を無差別に食い尽くす魔獣が他にも?」

「トーマは悪獣と名付けてたわ。質の()()だから」

 

 そんな悪獣を従える方法はたった一つ。悪獣が心底屈服するまで、徹底的に、悪獣達が己の誇りとする単純なる暴力で圧倒すること。

 

『可愛い可愛い子猫ちゃぁぁぁん!貴方のお家は俺の腹!』

『帰っておいで!良く噛んで、小さくするから!』

『弱い弱い弱い俺の主強い俺も強いなら弱いお前の主も弱い!』

『我が主を侮辱するか、異国の物の怪風情が!』

 

 キマイラと琥珀が争う中トーマを冬夜の首を押さえながら両膝をつかせていた。

 

「吸っても吸っても魔力が溢れてくる。うらやましいねぇ、俺がそのレベルの回復速度を得るためにどれだけ魔力を扱う魔物や魔法使いを喰ったか………でもな、俺は喰えばいいんだ。喰うだけで」

「………?」

「お前はどうやってその力を得たのか知らんが、身体能力と技術が合ってない。鍛えたわけでもねぇな?動きの拙さから、その身体能力になって一年も経ってない。魔力もそうか?そうか、当たりか……」

 

 トーマは冬夜の脈拍、呼吸、目の動きを見ながら質問の答えを返される前に知る。

 

「才能ってのは、残念ながらある。同じ努力しても、片方が圧倒的に強なる光景を俺は何度も見てきた。だがな、そいつ等だって、まず体を鍛える。どんな技もみただけで覚える奴だって、使う下地が必要だ。だが俺は違う……努力せず、ただ食うだけで良い。お前は知らんが、それでも体も鍛えず強くなったのは確かだろ?」

 

 ギリギリと喉を締め付ける力が強くなる。ふりほどくのを諦め銃を撃とうとするも蹴りつけられ銃はカラカラ地面を滑る。

 

「努力した?苦労した?そういう言葉は、俺達みてぇのが一番使っちゃいけねぇ言葉なんだよ」

 

 そういって、冬夜を海に向かってぶん投げる。ドバァン!と水柱が上がり、雨のように降り注ぐ飛沫がリーンの日傘に当たる。

 

『主!』

『隙を見せた!』

『馬鹿な奴だ!』

『俺は目玉食うから俺は腹を食いちぎって俺は角で貫け』

「キマイラ、止まれ」

『『『────』』』

 

 ピタリと止まるキマイラ。琥珀もキマイラもボロボロで、琥珀は憎々しげにトーマを睨む。

 

「さっさと助けに行くんだな。この勝負、俺達の勝ちだ」

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