機動戦士ガンダムSEED CONSEQUENCE   作:鞘華

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BEFORE PHASE 3 ~平和の三女神~

 ――C.E.74年。

 月宙域での最後の戦闘の停止により、≪ブレイク・ザ・ワールド≫に端を発した戦乱は終わりを告げ、オーブとプラントは終戦への協議に入った。

 しかしながら、世界システムの骨子を形成していた秘密結社ロゴスは壊滅、曲りなりにも新世界の道を示した≪デスティニープラン≫も頓挫し、再建の道を歩み始めたものの、世界は未だ混迷の闇の中にあった。

 

 

 

 ロゴスの壊滅により、その傀儡と成り果てていた地球連合は連鎖的に衰退、支持母体を失ったブルーコスモスの影響力も地に落ちた。

 そんな地球上で彼等に代わり発言力を強めたのは、先の戦いで反デュランダル勢力の中核となったオーブ連合首長国と、オーブと共に≪デスティニープラン≫に対して早々に拒否の意思を表明した、スカンジナビア王国だった。

 そして、この二国に宇宙のプラントを加えた三国が、世界再建の主導的役割を担うこととなった。

 

 “オーブの獅子”と呼ばれた先代の父の遺志を継ぐ、カガリ・ユラ・アスハ。

 プラント最高評議会議員の一人となって間も無く、今は亡き父と同じく同議会議長に選ばれた、ラクス・クライン。

 

 明日へ向かって、再び先の見えぬ道を進み始めた世界。

 その道を、明るく照らして欲しい――そんな願いを込めて、いつしか人々は各国を代表する姫君達を、こう呼び始めた。

 

 

 

 

 

   ◆ 機動戦士ガンダムSEED CONSEQUENCE ◆

     BEFORE PHASE 3 ~平和の三女神~

 

 

 

 

 

 車内の様子を外部から隠しているはずのマジックミラーが、黒く輝く外装と合わさり、むしろVIPを乗せていることを余計に主張している高級車。その後部座席に、いずれも年齢不詳の人物が二人。

 一人は、深い海の様な青い色に染まったドレスに身を包み、美しい黒髪が腰よりも低い位置まで届く女。かすかに青みがかった灰色の瞳を持ち、その整った顔立ちの中にはまだまだ若さが残っているが、長い脚を組んでVIP扱いを堂々と受け入れる余裕と気品は、貫禄の域にさえ達している。

 もう一人は、やや色素が薄めで癖のある金髪を肩に届くまで伸ばし、軍人のそれと思われる白い制服を着た男。縦横いずれにも幅の広いサングラスが男の顔の上半分をほぼ覆い、内心も含めて、その表情を他者の視線から隠している。

 

「……Norn」

 

 右を向いた状態を頬杖で支え、窓の外の景色を一方的に眺めながら、女が呟いた。

 

「運命を司る三姉妹の女神、でしたか」

 

 男は女の呟きを聞き逃すことなく、その単語の意味を確かめる様に言葉にする。

 ただし、男もまた女の方を見てはおらず、本来は後方確認の目的で使用されるバックミラー越しに、ずっと運転席に監視するような鋭い視線を向けている。

 

「あら、博識だこと」

 

 意味だけを素直に受け取れば、それは他者の知識の豊富さに対する褒め言葉なのかもしれない。だが、同程度かそれ以上の知識を有する者が口にすれば、それは自賛の言葉にも聞こえる。その口調と振り返った視線に、相手を見下すような雰囲気があれば、猶の事。

 そしてこの女の場合、間違いなく後者に該当することを十二分に理解している男は、「恐縮です」と謙虚に応じながら、喜びとは異なる薄い笑みを口元に浮かべる。

 

「どういう配役になると思う?」

「は……?」

 

 女は意図的に唐突な質問を投げかけ、隣に座る男を自分の方へ振り向かせる。

 

「だから女神よ、女神。畏れ多くも今そう呼ばれている三人を、神話の三姉妹に当てはめたら……ってね」

「ふむ……私の個人的な見解でよろしければ」

 

 そこで男は一度言葉を区切り、その先を続ける許可を待つ。

 

「どうぞ、言って御覧なさい」

「では……」

 

 楽しげに笑う女の許しを得た男は、視線を正面へ戻して口を開く。

 

「以前プラントにいた頃から、ユニウス・セブンの追悼慰霊団代表を勤めるなど、これまでも長きに渡り平和の尊さを歌い続けてきたラクス・クラインは、過去を司る長女ウルド」

「ふむふむ……」

「ロゴスを失った地球の新たな指導者として、また宇宙のプラントとの懸け橋としても、今の世界の要とも言えるカガリ・ユラ・アスハは、現在を司る次女ヴェルダンディー」

「ふ~ん……」

「そして、三女スクルドが司る未来は、いずれ殿下のものとなりましょう……」

 

 そこで男は居住まいを正し、再び女の方へ向き直る。

 生まれ持った美貌を、さらに富と権力で飾り付けられたその女は、黙っている分には御伽話に登場する、どこぞの国の可憐なお姫様に見えなくもない。しかし残念ながら、女の口から発せられる言葉は可憐などという表現からは程遠く、彼女が生きる現実もメルヘンチックな童話の世界などではない。

 それでも、その女が一国を治める王族の血を引く姫君であることだけは、事実だった。

 

「スカンジナビア王国第一王女、ゾフィー・フォン・ヴァーサ様」

 

 スカンジナビア国王夫妻の娘にして、ラクス・クライン、カガリ・ユラ・アスハと並ぶ平和の象徴、“三女神”と呼ばれる一人である。

 

「はいはい、ものは言い様ねぇ。けど要するに、私はまだ何もしてないオマケの三人目ってことでしょ?三女っていうのも嫌味よねぇ、三人の中で一番年上なのは私なのに」

「……」

 

 ゾフィーの捻くれた解釈に対して、側近の男は沈黙を返す。と言ってもこの場合、“否定しない”だけでも“肯定”に等しいわけだが。

 

「貴方のことだから、もうちょっとユニークな答えを期待してたんだけど……ま、それは置いておくとして」

 

 待っていても沈黙以外の答えは返って来ないと判断し、ゾフィーは話を変える。

 

「“三女神”だなんて、一体どこの誰が呼び始めたのかしらねぇ?」

「特定の一人というよりは、平和を願う人々が救いを求めた結果でしょう」

 

 ゾフィーの疑問に対し、側近の男は曖昧で当たり障りのない可能性を示す。

 

「それは“女神”の方でしょ?私が疑問を感じてるのは“三”の方」

「……」

「そもそも平和の象徴なんて、他の二人だけで十分なはずじゃない。プラントと地球、コーディネイターとナチュラル、それぞれを代表する二人のお姫様、ラクス・クラインとカガリ・ユラ・アスハ。しかも父上や兄上達を差し置いて、私を国の代表に仕立て上げる様な真似をするなんて……」

 

 疑問とは言いながらも、実はゾフィーは既に、確信に近い一つの可能性に辿り着いていた。

 

「一体どんな悪巧みをしてるのかしらねぇ?その“誰か”さんは」

「……三女スクルドは未来を司るだけでなく、その果てにある“死”と“滅び”の女神でもあるそうです」

 

 ゾフィーの悪戯っぽく期待に満ちた視線に捕らわれた側近の男は、答えの代わりに話を戻す。

 

「そして終末の日、女神は全世界に死を授けることで、全てを無に還すのだとか……」

「ふふっ……イイわねぇ、それ」

 

 三人目の女神は、満足そうに笑った。

 

 

 

 それからしはらくして、ゾフィーと側近の男を乗せた車は、オーブ連合首長国カグヤ島にあるマスドライバー施設に到着した。

 

「……ねぇ」

 

 先に車から降りようとする側近の男を、座席の上に置かれた手に触れながらゾフィーが呼び止める。

 

「どうかなさいましたか?殿下」

 

 浮かしかけた腰をもう一度座席に落ち着かせて、側近の男は訊ねた。

 ゾフィーはその男の横顔に唇を近付け、耳元で囁く。

 

「(念の為に言っておくけど、今日はまだ“おイタ”はダメよ?)」

「(ふぅ……そのお言葉、そっくりそのままお返しさせていただきましょう)」

 

 事前に釘を刺された側近の男は、短い溜息を吐きながらその釘を抜き、逆にそれをゾフィーに突き付ける。

 

「(私?)」

「(はい。私がそうであるように、恐らくはあの男も、私の存在を“感じる”ことが可能でしょう。それを承知の上で今回私を同行させた殿下のことですから、まだ何か良からぬことを企んでおられるのではないかと)」

「(ノーコメント。まぁ、そっちはそっちで楽しませてもらうつもりだけど……)」

「(……)」

「(“片割れ”のあの娘にも、まだ優しくしとかなきゃダメよ?)」

 

 そこで側近の男は今度こそ先に車外へ出て、後に続く王女の為にドアを開いた状態で固定しながら、少し遅れて答えた。

 

「イエス、ユア・ハイネス」

 

 自分は王女の従者である――そう改めて忠誠を誓ったに等しい側近の男の答えを聞いて、ゾフィーはようやく車を降りる。

 

「――遠路遥々ようこそ、ゾフィー王女」

 

 ゾフィーと側近の男を迎えたのは、その小柄な身にオーブ連合首長国代表首長としての使命と責任を負う、黄金色の髪と瞳の女性――カガリ・ユラ・アスハ。

 

「まあ、なんということでしょう!私などを代表御自らがお出迎え下さるなんて、身に余る光栄ですわ!」

「ぁ、ああ……」

 

 大袈裟な驚きから、文字通りの低姿勢で過剰な程丁寧なお辞儀をするゾフィーの姿に、カガリは戸惑う。

 

「あら、どうかなさいましたか?アスハ代表」

「ぁ、いや……こうして直接お会いするのは久し振りだが、大分印象が変わられた様に思えてな……」

「ああ、そういうこと。じゃあ、やり直すわね」

「は……?」

「御無沙汰ね、カガリん。あのお転婆姫が、こ~んなに立派に成長した姿を見られる日が来るなんて、長生きはするものねぇ」

 

 コロッ、と一変したゾフィーの態度に、カガリはまた面喰ってしまう。

 

「いきなり何を言い出すかと思えば、私達はお互いまだ、長生きなどといえる歳ではないだろう?まったく……前言は撤回する。奇人っぷりは相変わらずの様だな、ゾフィー」

 

 この場に限っては、王女と代表首長としての立場を抜きに、懐かしい友人として握手を交わすゾフィーとカガリ。

 

「ところで……」

 

 再会の挨拶を済ませたゾフィーの興味は、早くもカガリから、彼女の後ろに控える青年へと移っていた。

 

「こちらの素敵な殿方は、どちら様かしら?」

 

 オーブの軍服をまとった、藍色の髪と翠の瞳の青年――アスラン・ザラ。

 

「お初にお目に掛かります、ゾフィー王女。オーブ軍准将、アレックス・ディノです」

 

 それまでのゾフィーとカガリのやり取りを見ていたアスランは、最低限の礼儀はわきまえながらも、畏まり過ぎない表現で名乗った。

 

「ふ~ん、アレックスねぇ……」

 

 ゾフィーはアスランに近付き、視線で彼の全身を舐める様に観察を始める。

 

「見た目良し。准将の肩書がカガリんの贔屓目じゃなければ、能力も文句無し。しかも……」

 

 いつの間にかゾフィーの顔はアスランの目の前、それこそ吐息がかかりそうな距離にあった。

 

「……」

「……他の女に“なびき”そうもなし」

 

 対応に困ってはいる様だが、特に動じる様子はないアスランの反応に、ゾフィーは不満気な声を漏らす。

 

「カガリんったら、いつの間にこんなイイ男捕まえたの?」

「へ?ぁ、いや……//////コ、コイツのことは、いいだろ!それより、そろそろそちらの連れも紹介してはもらえないか?」

 

 照れ隠しなのか、カガリはぞんざいにアスランから話題を逸らし、反撃とばかりに場の意識をゾフィーの側近の男に向けようとする。

 

「これは失礼、忘れてたわ。ホラ、アスハ代表直々のリクエストよ」

 

 わざわざカガリの要望であることを強調して、半強制的に側近の男を促すゾフィー。

 

「……素顔を曝せぬ無礼を、お許し下さい。ゾフィー殿下の専任騎士兼親衛隊長を務めております」

 

 側近の男はサングラスを外さないまま、渋々といった様子でそう前置きしてから、その偽りの名を口にする。

 

「ロー・ネ・ヴェインと申します。どうぞ以後、お見知り置き願います」

 

 

 

 

 

BEFORE PHASE …END.




今回までが『BEFORE PHASE』ということで、次回から本編に入ります。
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