星を渡れば   作:きど

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王国編2

黙って話を最後まで聞いていたのはどこか他人事だと感じたからだろうか。

 

この渓谷から出たこともないのに…外で過去にそんなことがあったと言われてもどうにもピンと来ないというのもある。

騎士長───名をクルレオという───とはまだ数えるほどしか相見えたことはないが、この清廉な男が私を騙そうとするとはとてもじゃないが思えなかった。

私のような子供を騙すメリットも思いつかなければ、こんなに真っ直ぐな眼で正面から嘘八百を並び立てるとも考えられなかったのだ。

 

クルレオは続けて、その口を重苦しく開いた。

 

「私は宰相と取引をしたのです…私は貴方の父君と母君、そして叔父君からも殿下のお命を守るように仰せつかりました。ですから、私は殿下のお命をお守りするため…そして父君のもうひとつの命である『殿下が5歳になった暁には一切の真実を明かすように』というお言葉を実行するため今日まで生き恥を晒して参りました」

 

今まで目を逸らさずに話していた男が、ついにその視線を床に落とした。

それほど彼にとっては耐え難い屈辱だったのだろう。

冷静に語っていたその口調にも怒気が滲んでいる。

 

しかし、すぐに自分を諫めまたこちらに向き直った。

 

「奴のクーデターに組したフリをし、騎士長の座を守り抜くことで奴に屈するをよしとしました。私の部下はすべて殿下のために鍛え上げております。信頼のおける者にはこの真実も話してあります。私は奴の犬になる代わりに地位を約束されており、奴は私の忠誠を信じている模様です」

 

確かに王族が次々に亡くなれば怪しむ者も出て来るだろう。

赤ん坊を殺せばさすがに怪しまれるかもしれぬ、何も知らせぬまま育てて利用することでその威光を使ってより名声を高めるのだなどと言い私を守るため誘導したそうだ。

確かに自分を裏切る者がないと確信しているならば、王家の者は生かしておいた方が利用価値があるだろう。

真実を伝える者がいなければ何も困ることはない。

 

「陛下は私にすべてを伝えよと仰せになられましたが、承った命はそれだけでございました。仇を取れとも、殿下を王位に就かせよとも、国を任せるとも仰らなかった…ただ貴方にお伝えしそのお命をお守りすることだけが私の使命にございますれば」

 

クルレオは深々と頭を下げ、それきり黙り込んでしまった。

 

私は…相変わらずただ黙って聞いていた。

現実感がなく何と応えてよいのかも分からなかった。

だがただひとつだけ、今言うべきことは分かっていた。

 

「クルレオ殿…頭を上げてください。貴殿の国王への忠誠は今日証明された。貴方が伝えた真実、しかと拝聴いたしました」

「身に余るお言葉です。#1#殿下、今までは出生をご存じなかったのですから目を瞑っておりましたが、私のような者にそのようなお言葉…今後は改めていただきとうございます」

 

私はまた黙らなければいけなくなってしまった。急にそんな振る舞いはできない。

騎士長は私の苦心を見抜いたのか、そろそろ騎士団に戻らねばならないからと言ってその日は帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

翌日からフェリネースは私が新しい話し方で話すのに慣れるよう、私とよく話すようになった。

互いに無口な方であったが、大量にある書物のおかげで王族らしい話し方を知らない訳ではなかったので口調の強制自体はなんとかなった。

 

しかし他人より上の身分という立場や意識に適応するのは思っていたよりも困難であった。

#1#は自分だけでは生きてはいけないということを理解していたからだ。

故に、フェリネースが侍女として自分の生活を手助けしてくれていることに胡坐をかけなかった。

それは自分の出生を知る前から同じであったが、困ったことに今となってはそれを咎められてしまうのだ。

 

それは騎士長のクルレオに対しても同じであった。

今までは時たま足を運び会いに来て自分を気にかけ、ただ生活に必要なものを恵んでくれていたが、それが今では自分に仕える身として首を垂れる。

 

 

ある日を境に自身の周囲の態度が一変したことで、#1#は先日聞いた話が嘘でも他人事でもないのだとようやく自覚しはじめることとなった。

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