星を渡れば   作:きど

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王国編3

今日も薄暗い部屋で目を覚ました。

 

 

あの真実を知ってから5年の歳月が経った。

今日は私の10歳の誕生日だ。別段めでたいものでもない。

他人と交流のないこの地では、夕餉が多少豪華になることぐらいしか変化がない。

 

 

寝台から降り身支度を整える。

汲んできた水で顔を洗い、髪をとかす。

寝巻からいつもの服に着替えたらフェリネースを手伝い朝餉の準備に入る。

 

本来このようなことすべきではないと諫められたのだが、今の私は王族の立場でもない。

王たる責務を果たしてもいないのに身分を振りかざし世話になるわけにもいかないと説得した…というか、向こうが観念した。

 

 

昨日焼いたパンの中身をくり抜き中に肉や野菜を動物の乳で煮たスープを入れる。

顔を洗う時に汲んできた水に柑橘類を入れ、ボウルにはサラダを盛る。

 

部屋の中央にある卓に運び、祈りを捧げてから食べはじめる。

 

「本日は殿下のお誕生日でございますから、夕餉には一昨日騎士長様が持って来てくださったよい肉を使いましょう。何かご所望のものはございますか?」

 

騎士長のクルレオもそのつもりでこのタイミングにいい肉を寄越したのだろうから、大人しく食わねばなるまい。

 

正直私は魚料理の方が好ましいのだが…それよりも私を祝おうとしてくれる彼らの気持ちがありがたかった。

肉と野菜を果実酒などで煮込んだ料理をお願いしておいた。あれは美味い。

 

 

一昨日運ばれて来た新たな書籍で、まだ読んでいないものが47冊ある。

積まれた順に読破しているので1番上の本を手に取りお気に入りの腰掛けに座った。

題は「軍隊格闘術における接近戦の基本動作から応用方法」…まだ表紙を開いてもいないのに完全に騎士長の趣味だと判断できる。

一昨日も騎士長であるクルレオに同行して来た彼の部下であるジルベールが、以前「騎士長は無類の格闘バカ、剣の腕も素晴らしいが肉弾戦になったら人間では勝てない」と言っていたので間違いない。

 

基本動作は挿絵付きで解説されていた。

素手での格闘はもちろんナイフ、銃剣、槍に棍棒からスプーンなどその場にあるものを使った実に様々な格闘術が掲載されていた。軍隊格闘なんだから普通の武器を使え。

文章の端々からこの本を筋肉信仰の人間が書いたことが読み取れるのだが、それはそれとして丁寧で分かりやすい説明文だったので騎士長もこの本を選んだのだろう。

 

所々騎士長の字で「これは実戦でもかなり使える。新兵教育では必ず実践すべし。2ページ前の足技と組み合わせるとなお良し」だの「椅子を使って敵を拘束するなど滑稽だ。一応部下で試したが拘束しきる前に一撃で椅子が粉砕されたのでやはり使えない。拘束はもっと頑丈なものですべき」だの実際に使用してみてどうだったのか書かれている。

若干おかしい記述があるものの参考になった。

 

知らない者の字で書かれている部分も多々ある。

この本は随分年季が入っているので、きっと何代も受け継がれて来たものなのだろう。

 

ページを捲るとインクが掠れているが「同期で教官に贔屓されているザコが俺を家柄だけのお坊ちゃんだとか馬鹿にして甘くみていたので、前日に読んだこの絞め技をキメてやったら何故か舎弟になった。何故だ。顔と愛想はいいので精々いいように使ってやろう」と書いてあった…この舎弟くんはどうなったんだろうか。と思ったら下にも違うインクと文字で何か書いてある。

「先輩の遺品を整理していたら先輩の字で書かれた部分を見つけた。忘れもしないあの完璧にキマったホールド…それにしても俺をいいように使うつもりだったのか。顔も愛想も褒めて貰ったことなんかないし。俺を庇って死んだくせに…馬鹿だな。ありがとう」

 

黙って読み進めれば他にも色々書いてあった。

こんなに書き込んである本は初めてだ。

どんなお涙頂戴の物語の話より心に残った本だった。

 

もちろん格闘術もきちんと読み込んだので後で実践してみたい。

…もっとも私の身長に合う者が居ないのであくまでイメージトレーニングだが。

 

 

読み終わった本を本棚に入れ、日課の筋トレをしていると外から馬の蹄の音がした。

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