一週間後、騎士長は傷ひとつない姿で現れた。
ついでとばかりに新鮮な魚を携えて。
例のザール捕縛事件の後、本当に他国からの襲撃があり捕縛グループはその先頭で全滅。
証拠隠滅にはちょうど良かったと騎士長が言うと、自分を直接狙っていた者はもう追ってこないと安心したのか…背後のザールは息をついたようだった。
ザールはここ一週間でそこそこ口をきくようになり、表情も些かながら豊かさを増してきた。
ショックから回復して来ているようで何よりだ。
しかし、騎士長が捕縛グループから聞き出した情報によるとザールの国の方にも何名かスパイが居るらしい。
そんな状況で彼を帰せばまた同じことが起きるだろうことは想像に難くない。
戦場で自力で逃げ切り帰国したならまだしも、こちらが保護してしまったせいで時間も経過している。
今帰せばこちらに彼を庇った者が居ることも露見してしまうだろう。
そうなると騎士団も不利になる。
事が収まるまでザールはここに居るしかない、か…
彼は国に居る母親や妹が心配だが、トリオン量が少なく戦場にでることはないので自分のように襲撃される危険はないだろうと少し安堵した様子で語っていた。
騎士長がまた色々と物資を置いて帰って行くと、ザールから頼みごとをされた。
曰く、何もしていないと身体や感覚が鈍ってしまうから鍛錬に付き合って欲しいとのことだ。
じっとしていると余計なことを考えてしまうんだろう。
昨日まではひとりで身体を動かしていたがやはり相手が欲しいらしい。
私も以前から組み手の相手が欲しいと思っていたのでこちらにとっても嬉しい申し出だ。想像では限界がある。
動きやすい服に着替え外に出て向かい合う。
ザールは私が見たことのない構えをとっており───おそらく彼の国の武術なのだろう───本だけでは学べないことがあるのだな、と知った。
私の動きは本で読み、実際にひとりで身体を動かしてみただけのものだ。
結局、実戦を経験しているザールには敵わずやられっぱなしだった。
とっさの判断や、攻撃が防がれた場合の次の動作への流れ、自分の知らない技が繰り出された場合の対処など…私にはどれも経験がなく終始翻弄されるばかりだ。
逆にザールの方は瞬時に的確に対処していたので、すぐに攻撃に転じこちらにダメージを与えてきた。
私が唯一対抗できたのは関節技や絞め技の類だ。
トリオン体で戦う場合、相手の身体に損傷を与えることが前提なので動きを封じるような技は基本的に使わないそうだ。
むしろ、相手の身体に触れたり一定の場所に留まったりする時間が長くなるとこちらが不利になる可能性があるためその辺りの訓練はしていないらしい。
生身での組手だから気にしていなかったが、実戦というものがいかに大切で重要視されるのか骨の髄まで思い知らされることになった。
…お陰で全身が痛む。