星を渡れば   作:きど

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王国編8

あれは私が14で、ザールが15の年の冬だった。

 

 

いつも暗くジメジメしていて季節も感じられないあの渓谷に珍しく雪が降った日で、私は普段よりも数段厳しい肌を刺す様な寒さに首をすぼめていた。

ここ数年でこの寒さにもすっかり慣れたザールも流石にここまで寒いと堪えるのか、肌の色が見える隙間も無い程着こんで屋内から一歩も出ようとしない。彼の星は砂漠が多く、暑いのにも寒いのにも慣れていると豪語していたが、砂漠はここまで冷えないのだろう。

 

私は雪が水になって履物に染み込むのも気にせず、外で1人立ち続けている。

 

ザールがうちに来てもう何年も経った。戦争はずっと続いていて、彼はまだ故郷に帰れていない。それどころか最近は激化の一途を辿り、益々国は疲弊している。

騎士長のクルレオは口にこそ出さないが、私に王位に就き国を立て直して欲しいと思っているのだろう。忙しい身でありながら最近は帰りを惜しんでいるのが分かる。

 

私は…王族だという根拠を持たない。そもそも王族とは何だ?血筋か?才能か?教育か?どれもピンと来ない。一緒に住んでいるフェリネースとザール以外は騎士団の一部の人間にしか会った事のない私には、民を率いて国を治めるという意味が真に理解できていないのだろう。

私が宰相の悪事を暴き、彼を裁き、王座に就いて…それで?その後は?また戦争か?顔と名前と個人の生活を持つ民を数字として消費し、生贄の神を選んで、次の神を選ぶ為にまた戦争…きっとこれは、戦争に負けて国が亡ぶか、神になる人間が居なくなって星が滅ぶかするまで続くんだろう。

この国の"在り方"が、どうにも合わない。こんな人間が、国王になった所で先は見えている。

 

川の流れに降る雪が溶けていく様を見ながら物思いに耽っていると、遠くから馬の蹄の音が聞こえて来た。ここは反射でよく音が聞こえるらしい。

雪を払ってから一旦家に入り、フェリネースにお茶の用意を頼んだ。再び外に出る際に、視界の角に布の塊が動いているのが映ったので、ザールも手伝ってくれるのだろう。

 

しばらくすると、思った通り騎士長が顔を見せたが、蹄の音はもうひとつあった。どうやら新入りのアルバーノには荷物を引かせているらしい。アルバーノはまだ見えていないが、先に話をしようと言って騎士長は家の中へと入って行った。

 

私は居ても立っても居られずこんな寒空の下彼を待っていた訳だが、いざ話を聞くとなると、途端にその足は重くなった。

彼をあんな所で待っていたのは、前線に派遣される為しばらく会えないだろうという騎士長を出迎える為だったのだが、アルバーノが4日前に持って来た手紙に「大切な話がある」と書いてあったからというのも、無いとは言い切れなかった。

そして、私はその"大切な話"が何なのか、本当のところは見当が付いてしまっているのだった。




Fate/Apocryphaで獅子劫界離がモードレッドに「民と呼ぶのは王だけだ」みたいなこと言ってたのを書いてて思い出しました。
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