どうしてウツロイドと合体しないんだ……? 作:GT(EW版)
ムーンは泣いた。
――リーリエ帰ってきて。
ポケモントレーナー・ムーンはポケモンバトルの天才児である。
僅か十一歳にしてあらゆるポケモンの知識に精通しており、ポケモンの個体ごとに性格や素養に適した最善の育成方法を瞬時に見抜き実践することができる類稀な才能の持ち主だった。
そんな彼のトレーナー人生は順風満帆なものと言って良く、島巡りを初めて一年と経たず、アローラ初のポケモンリーグチャンピオンの称号を手に入れてみせた。
旅の道中では数々の難事件を解決し、島の守り神たちとさえ心を通わせてみせた。また、未知の生命体であるウルトラビースト(UB)さえも自らのポケモンとして操ってみせる彼の存在は、もはや天才の枠には収まらず神童と言っていいかもしれない。
デビューから負けなし。
アローラにて最強。
今や一躍時の人となったアローラの英雄ムーンであったが、唯一どうにもならなかったのが親友であるリーリエとの別れだった。
彼女との関係を聞かれたら「友達以上かな? それも少し違うか」という具合の関係である。
二人は島巡りの中でお互いの絆を育んできた仲間であり、それ故に別れのショックは大きかった。
リーリエが母の療養のためにカントー地方に去ってから、まだそれほど多くの時は経っていない。
未だ引き摺っているリーリエロスのショックを頭から引き離す為に、ムーンは今も必死でポケモンバトルを続けていた。
「いけ、カプ・テテフ! サイコキネシス!」
「ああー!? 私のゴルダックー!」
そんな彼が現在いる場所はポニ島の最北端にある新しいバトル施設、「バトルツリー」だった。
アローラの新たな観光名所として建設されたこの施設には世界中から腕利きのトレーナーたちが集まり、リーグチャンピオンとなったムーンはさらなる強敵を求めてこの地を訪れたのである。
彼が現在挑戦しているのは、シングルバトルの勝ち抜き戦だった。
「おめでとうございます! ポケモンを回復させますね」
「どうも」
現在、ムーンは破竹の19連勝中である。
ここまでの対戦相手はいずれも島キングに匹敵する高い実力の持ち主であったが、今のムーンの敵ではなかった。
リーグチャンピオンになって以来、彼はただただリーリエロスのショックを少しでも忘れる為に修羅のように戦いを求めた。
ポケモンバトルをしている時だけは、その心にぽっかりと空いた隙間を忘れることができたのだ。それ故に周囲の者たちの目に映る彼の姿は、いっそ痛々しく見えるほどに苛烈だった。
ここまで汗一つかかず次々と対戦者を下していくムーンの姿を引きつった表情で見ていた女性役員が、彼の手からカプ・テテフのモンスターボールを受け取り回復処置を行う。
彼がこのバトルツリーで扱ってきたポケモンはこのカプ・テテフ一体のみであり、そのテテフもこれまで碌に苦戦することなく屈強なトレーナーたちを打ち破っている。
島の守り神の中で武闘派として有名なのはカプ・コケコだが、基本的にカプの名を持つポケモンは強き者との戦いを好む。
ムーンのオーバーワークぶりは並のポケモンであれば信用を失いかねないほど激しいものであったが、テテフにとっては寧ろそんな彼の暴走は望むところと言った具合であり、他のポケモンたちもまたそれで音を上げるようなヤワな鍛え方はされていなかった。
僅か十一歳の年齢にして、ムーンは求道者として完成されていたのだ。
ポケモンにスパルタを強いた上で、自分自身にも鞭を振るい共に痛みを分かち合う。
そんなムーンのトレーナーとしての強さを認めているが故に、彼のポケモンたちは皆彼のことを慕っていた。
だからこそ、彼らも今の主人の気持ちを理解していたのだ。
そして、彼らはムーンの為に一致団結した。「リーリエと別れた心の痛みを、少しでも自分たちのバトルで忘れさせてあげよう」と……
《リーリエ、がんばリーリエしてるロトかね?》
「うわああああああああ!!」
《あっ、ごめんロト……》
――しかし、ただ一匹ロトム図鑑だけは空気を読めなかった。
バトルの終了後、ふと思い出したようにNGワード「リーリエ」を呟いた彼の言葉にムーンが発狂し、彼はバトルの勝者でありながらガクりと膝をついて項垂れる。
「リーリエ! リーリエぇぇ……!!」
《これは酷いロト……》
バトルをしている時の彼はまさに神童と言うべき天才少年ムーンなのだが、少しでもリーリエの話を出すとこれである。マジキチ状態のルザミーネに挑んだ勇者の面影はどこにもない。見事なまでの豆腐メンタルを発症していた。
モンスターボールの中からは彼のポケモンたちが一斉にロトム図鑑へと恨みの眼差しを向けるが、この場合どちらに問題があるかと言えばorz体勢になって涙を流している繊細すぎる彼の心の方なのかもしれない。
「か、回復終わりましたよ? 次はニ十戦目になりますが……」
「続ける! 続けます! リーリエのことを吹っ切れるまで、俺は止まんねぇからよ……!」
「そ、そうですか……」
なにこの子こわい……そんな顔をしながら今の鬼気迫るムーンの顔を見た女性の役員が、彼の言葉を受けて次の対戦準備に取り掛かる。
しかしここで、彼に新しい情報が告げられた。
「おめでとうございます! ただ今十九連勝を達成したことで、ムーンさんは「バトルレジェンド」への挑戦権を獲得しました」
「え? バトルレジェンド?」
このバトルツリーでは挑戦者の連勝数に応じて特別なポケモントレーナーとバトルできるようになっているのだと、彼女は語る。
次が二十連戦目を迎えるムーンはこの時、その「バトルレジェンド」に挑戦する資格を手に入れたのだ。
ロトム図鑑からNGワードを吐かれた直後にしては、何とも変わり身の早い態度である。
「いいっすよ。伝説のトレーナーとやらとの勝負、受けて立ちます!」
「よ、よろしいですか? で、ではレッドさん、入場してくださいっ!」
そして彼の挑発的な視線を受けて、ツリーの上からシュバッと何者かが姿を現す。
目の前の通路ではなく数十メートルの高さがあるツリーの頂上から紐無しバンジーで飛び降りてきたその男は、自らの懐からモンスターボールを取り、無駄にスタイリッシュな「Z」ポーズを決めてムーンの前に立ち塞がった。
漫画であればバァーーン!とでも後ろに擬音がついてそうな姿である。
そんな彼は頭に被っていた帽子のつばを締め直すと、微妙に似合わないTシャツで胸を張りながらムーンの姿を見据えた。
「さあ、ゲームの時間だぜ!」
バトルレジェンド――名前は「レッド」。ポケモンリーグの本部、セキエイリーグ殿堂入りトレーナーの一人である。
ムーンはそんな彼のことを、この施設に入場した時一度だけ見たことがあった。その時は随分無口な人だな……というのがムーンの抱いた第一印象だったのだが、彼もまたバトルになるとテンションが上がるタイプの男なのだろう。
そう受け取ったムーンは、今しがたド真面目な表情で電気のZポーズを取っている彼のシュールな姿に会釈を返し、自らもモンスターボールを取った。
「ども、対戦よろしくお願いします」
「お前もチャンピオンなんだってな。俺はレッド、お互い良いバトルをしようぜ! バトル開始の宣言をしろ! 受付ぇ!」
「は、はいぃ!」
レッドが爽やかな挨拶から流れるように暑苦しい催促を行うと、びくついた役員の女性が右腕を振り上げる。
特にこれまでそのような宣言はなかったのだが、バトルレジェンド戦になると特別な形式になるのだろう。
そんなことを思いながらムーンが気を引き締め直すと、役員の女性が審判として二人の間に立ち、高らかに叫んだ。
「バトル開始~!」
彼女も緊張していたのだろうか、ちょっと間の抜けたかわいらしい宣言だった。
それがバトル開始の合図となり、二人のトレーナーが同時にポケモンを繰り出していく。
――バトルレジェンド の レッドさん が しょうぶ を しかけてきた!▼
レッドが繰り出した戦闘のポケモンはラプラス。乗り物ポケモンの名の通り、人を乗せて海を泳ぐのが大好きな人懐っこいポケモンだ。ムーンもこのアローラではライドポケモンとして幾度となく世話になっている。
しかし今しがた現れ出たレッドのラプラスは、一目でライドポケモンとの格の違いがわかる圧倒的な威圧感を放っていた。
トレーナーとしての純粋な技量に重きを置くこのバトルツリーの取り決めでは、レベルの高いポケモンにはレベル50相当の能力になるよう「レベルキャップ」が掛けられている。そのレベルキャップが込みでもレッドのラプラスが放つ迫力は段違いであり、これは想像以上の強敵かもしれないとムーンは唇をつりあげた。
相手が強いほど燃えるのは、これまでの彼をアローラ最強のトレーナーたらしめてきた勝負師の性だった。
そんなムーンが繰り出したポケモンは、これまでの十九連戦と同じカプ・テテフである。
アローラの守り神の一体であり、その姿がボールから飛び出した瞬間、フィールドは淡い光に包み込まれた。
特性「サイコメイカー」。地面にいるポケモンのエスパー技の威力を1.5倍に上げ、電光石火や神速と言った先制攻撃を受けつけなくする「サイコフィールド」を展開する、神に恥じない凄まじい能力である。
それはカプ・テテフを神たらしめる凶悪な特性であり、その特性の恩恵を受けたテテフのサイコキネシスはこれまで多くの相手を一撃で粉砕してきた。
流石にラプラスほどタフなポケモンが相手では一撃で倒すのは難しいかもしれないが、今のテテフにはエスパータイプの「Zクリスタル」を持たせている為、それさえ余裕で実現することができた。
ラプラスの素早さではカプ・テテフの方が大分速い。余裕を持った先制パンチで出落ちさせてやるのが、すぐさま実行に移ったムーンの判断だった。
「テテフ! マキシマムサイ――」
「せんせいのツメの効果を発動!」
「ゑ?」
ヌルヌルした動きで迫真のZ技のポーズを取りながらムーンが指示を送ろうとしたその瞬間、レッドが叫ぶ。
「せんせいのツメ」……それは20%の確率で発動し、持たせたポケモンに無条件で先制攻撃をさせる道具である。
ムーンもその道具は道具袋の中に持っているが、このようなバトルの場で採用したことは一度も無い。完全に運任せで安定しない、使いづらい道具と言うのが彼の認識だった。
それをレッドは今、「発動!」と言ったのだ。
完全に運任せの筈の道具を、まるで自分の意志で自由自在に操るが如く。
そしてそれは、彼の言葉通りになった。
「きゅいいい!」
「今、ラプラスは∞の素早さを手に入れた!」
「ちょ……」
ラプラスが咆哮を上げると、ラプラスの長い首にペンダントとしてぶら下がっていたせんせいのツメがおもむろにキラリと輝いた。
その瞬間、ラプラスはカプ・テテフよりも速く行動し、技の体勢に入った。
「ラプラスの前にひれ伏せ! 絶対零度!」
――いちげきひっさつ! カプ・テテフはたおれた▼
「……は?」
絶対零度――それはレベルが下回っていない限り無条件で相手を粉砕する、最強の技である。
この技の前では災害級の伝説ポケモンだろうと容赦なく、確定一発で瀕死にすることができる。
当たりさえすれば。
「焦るなよ、まだゲームは始まったばかりだぜ?」
「……なんて運ゲーだよ、くそっ」
絶対零度を始め一撃必殺技の命中率は極めて低い。
それもせんせいのツメと絡めた「せんせいのツメ零度」を決める確率ともなれば並大抵のものではなく、何が起きたのかわからないまま瀕死になったカプ・テテフとしてはもはや事故のようなバトルだったと言っていいだろう。
「サイコフィールドでもせんせいのツメには対応できないんだな……まあ、滅多にあることじゃない。いけ、コケコ!」
「デュワッ!!」
気を取り直してムーンは二体目の神、カプ・コケコを繰り出す。
登場と同時に電気技の威力を高めるエレキフィールドが発生し、テテフのサイコフィールドを上書きしていく。
メレメレ島の守護神たるカプ・コケコの力は、テテフ同様並大抵のポケモンを凌駕し、その上タイプは水タイプのラプラスに強い電気タイプだ。素早さも高く、この対面で負ける要素はないだろう。
「無駄だぜ! せんせいのツメの効果を発動!」
「きゅいいいいっ!」
「うそぉん!?」
しかし、レッドが意気揚々と道具の発動を唱えた瞬間、それに呼応するようにせんせいのツメが再び輝きムーンの目がギャグ漫画のように飛び出した。
レッドが命じたのはまたも一撃必殺「絶対零度」だった。
「滅びの絶対零度!」
――いちげきひっさつ! カプ・コケコはたおれた▼
攻撃は当然のように命中し、アローラの守り神は二体続けて何も出来ずに敗れ去った。
「……ジャ、ジャッジー!」
アイツなんか道具にインチキしてね? と、ムーンは抗議の眼差しをこの試合の審判を務める女性に送る。
当たり前だがせんせいのツメはトレーナーが「発動!」と言えば発動してくれるような便利な代物ではない。そんな都合のいい道具であれば、誰だって採用しているだろう。
この理不尽なバトルの中でムーンにはあの道具がせんせいのツメの名を借りた全く別の何かか、レッドが何かおかしなことをしているとしか考えられなかったのだ。
しかし、役員の女性は困った顔で首を横に振る。
「不正はありませんよ?」
「むう……」
「フハハハン」
ポケモンに持たせる道具に関しては、規定としてバトル前に入念なチェックが行われている。
そのチェックを通した上で審判はラプラスが持っている道具は間違いなく「せんせいのツメ」であると言い切り、レッドの不正疑惑を一蹴りする。
これではなんだか自分が相手の戦いに難癖をつける面倒くさい子供のように思えて、ムーンはそれ以上何も言えなかった。
「つよいポケモン、よわいポケモン、そんなのひとのかって」
「……解せぬ……」
なにこれ、と思いながらもムーンはそのままバトルを続行。
しかし三体目に繰り出した神「カプ・レヒレ」までもがラプラスのせんせいのツメ零度に敗れ、ムーンはトレーナー人生初の敗北をあっさり三タテという形で味わうこととなった。
……確かに、三体の神で挑戦すればバトルツリーなど余裕だろう、と無意識に甘く見ていたところはある。
しかしこうも戦略も糞もない負け方をしては、彼にも素直に己の敗北を受け入れることができなかった。
それ故に、再戦の時は早かった。
「おっ、今度は「がんじょう」のポケモンで対策してきたか。だが、俺とポケモンはまだ力を出し切っちゃいないぜ!」
ツリーに再挑戦し、再び十九連勝で勝ち上がったムーンは手持ちを変えてレッドと再戦する。
どういう理屈かは知らないし納得もできないが、相手が確実にせんせいのツメ零度を決めてくるものと知っていれば対抗策はそこまで難しくはない。
そんなムーンが先頭に繰り出したのは神ではなく、特性「がんじょう」を持つ「ジバコイル」である。
がんじょうは相手の一撃必殺技を無効化する特性であり、かつジバコイルは強力な火力を持つ電気タイプのポケモンだ。
しかもムーンはこのジバコイルを火力と耐久に特化させたヤバコイルとして育成している為、ラプラスの通常攻撃を受けた後、反撃の「雷」によって一撃で仕留めることができた。
これでラプラス一体に全滅させられた前回の雪辱を果たしたわけである。
「俺はリザードンを召喚するぜ!」
敗れたラプラスを労った後、レッドは二体目のポケモンを繰り出す。
リザードン――言わずと知れた人気ポケモンである。
新たな境地「メガシンカ」なるものを二種類も身につけたこのポケモンはあらゆる可能性を秘めており、何より見た目がカッコいい。
しかし、レッドの出したリザードンにはメガシンカをする為の「メガストーン」が持たされていなかった。
「いけ、リザードン! 大文字ッ!」
「っ……! ジバコイル、よくやった。次はお前だ、ギャラドス!」
直前のラプラスの攻撃で事前に体力を削られていたジバコイルは、リザードンの大文字によってあえなく倒されその役割を終える。
メガストーンを持っていないのが不気味だが、通常のリザードンが相手ならば今の自分の手持ちの脅威にはならないだろうとムーンは判断する。
そんな彼が繰り出したのは、水タイプの凶悪ポケモン「ギャラドス」である。
見た目は恐ろしく、その名の通り凶悪な面構えをしているが、ムーンはこのギャラドスというポケモンをそれぞれ異なった育成を施し五体以上育て上げてしまうほどいたく気に入っていた。
強い上に、育成が楽なのだ。
進化前のコイキングはろくな技を覚えないことで有名な情けないポケモンだが、それ故にタマゴ技などの難しい育成論を考える必要が無い。分布もまたそこら中の水辺に生息している為、レアなポケモンとは違い捕まえるのも簡単でお手軽だった。
ギャラドス自身のステータスもまた万能であり、「いかく」という強力な特性や水、飛行タイプという優秀な耐性を生かした耐久型の育成や、メガシンカや物理攻撃エースを意識したオーソドックスな育成、さらには相手の意表を突く変態型の育成やヤャラドス型など多くの育成が捗り、育成マニアのムーンとしては常に新しい育成論が浮かぶ最高の素材だった。
そのぐらい、ムーンはギャラドスというポケモンが好きだったのだ。色違いのビジュアルもカッコいい。
「普通のリザードンにギャラドスへの決定打はない! 龍の舞を積ませてもらう!」
ギャラドスへ命じる初手として、ムーンは「龍の舞」を選択する。
攻撃力と素早さを同時に引き上げるこの技を駆使し、相手のポケモンを強引に突破していく。このバトルに繰り出したムーンのギャラドスは、ギャラドスの育成論の中では彼の中で最もポピュラーな「物理エース型」だった。
特性「いかく」と優秀な複合タイプによってこの「龍の舞」を安定して積める点もまた、彼がギャラドスを気に入っている理由の一つである。
特に炎、飛行タイプのリザードンではギャラドスに対して舞の隙を突ける有効打はない。
レッドからしてみれば、ポケモンを交代するぐらいしか手はないだろうとムーンは踏んでいた。
しかし、対戦相手のレッドは不敵に笑む。
「それはどうかな? リザードン、日本晴れだ!」
瞬間、彼らを取り巻くバトルフィールドが一瞬にして熱帯へと姿を変える。
炎タイプの技の威力を高め、水タイプの技の威力を弱める天候変化の技「日本晴れ」。
なるほど確かにそれなら圧倒的に相性が不利なリザードンでもギャラドスに対抗できるかもしれない。
しかし既に龍の舞を積み終わったムーンのギャラドスにとって、その程度は大した障害にもならなかった。
「仕留めろ、ギャラドス! 滝登り!」
攻撃力と素早さを高めたギャラドスが咆哮を上げて突撃し、リザードンへと飛び掛かっていく。
日本晴れの天候によって威力を弱められても、効果は抜群だ。ドラゴンタイプでもない通常のリザードンが相手ならば、このまま力押しで十分だとムーンは判断していた。
しかし、そんな彼の計算をレッドが超越する!
「俺はここでひかりのこなの効果を発動するぜ! この道具は、相手のポケモンの命中率をダウンさせる! お前のポケモンの攻撃は当たらないぜ!」
「なんだと!?」
ギャラドスの滝登りがリザードンを捉えるかと思われた瞬間、突如としてリザードンの周囲に巻き上がった光の粒がギャラドスの目を攪乱し、その攻撃を空振りにせしめたのだ。
ひかりのこな――持たせたポケモンに攻撃するポケモンの技の命中率を0.9倍にする道具だ。
常時効果が発動する種類の道具である分、せんせいのツメに比べればまだ安定性はあるが、それでも実際のバトルで役に立つケースは低く、ムーンは自らのバトルで採用したことはない。
そんなひかりのこなの効果によって、レッドのリザードンは本来命中率100%である筈の滝登りの回避に成功したのである。
日頃のバトルでも命中率90%の技は妙に外れやすい気がするので、先のせんせいのツメ零度ほどの不条理感はないが……ムーンにとっては面白くない展開だった。
「どうなってんのよ……!」
《最強トレーナーにとっては全てが必然ロトね。こんなポケモンバトル、初めて見るロト》
今なんかレッドの命令に応じてひかりのこなが眩く輝いた気がしたが、この際もうそういうものなのだとして納得するしかない。
このトレーナーは何か、持たせた道具を自由自在に発動させる天性の剛運みたいなものを持っているのだろう。
ムーンとしては今までに出会ったことがないタイプのポケモントレーナーだった。
これがカントー地方の、セキエイリーグ殿堂入りトレーナーの実力……! あまりのやりたい放題ぶりにムーンは苛立ちを浮かべた。
「どうしたムーン? 俺のリザードンはまだ生き残っているぞ」
フハハハン、と語尾に☆マークがついてそうな笑みを浮かべてムーンを煽るレッド。
そんな彼のリザードンが、ギャラドスへと反撃に移った。
「いくぜリザードン! ソーラービームッ!!」
日本晴れ状態故にノーチャージで放つことができる草タイプ最大級の技、「ソーラービーム」がギャラドスを襲う。
だが、等倍のタイプ不一致技である為にまだ大したダメージには至らない。
持ち堪えたギャラドスは再度滝登りを放つと、今度こそリザードンを仕留めに掛かった。
――だが、ギャラドスの攻撃がリザードンに当たることはなかった。
「道具効果発動! ひかりのこな!」
「待てコラ」
ひかりのこなの効果を受けた滝登りの命中率は90%。確かに90%の命中率というものは妙に外す印象があるが、それでも二回連続で外すことなど滅多にあるものではない。
まさか……と、ムーンの脳裏にせんせいのツメ零度の悪夢が蘇った。
「無駄だぜムーン! ソーラービーム!」
滝登りを避けられた後、反撃のソーラービームが襲い掛かる。
滝登りを避けられた後、反撃のソーラービームが襲い掛かる。
その現象はもはや二回連続に収まらず、三回以上にも及んだ。
二発までは耐えてみせたギャラドスも、何度も同じ技を受ければとうとう身体が持たず瀕死に崩れ落ちることとなる。
「これがひかりのこなとソーラービームを合わせた、回避率∞の無限ループ!」
ねえよそんな効果。
ムーンのツッコミも虚しく、結局レッドへの再戦はこのリザードンを突破することができないまま全滅することとなった。
ムーンは三体目のポケモンに彼の手持ちにて最強のポケモン「ミミッキュ」を繰り出し、必中のZ技で仕留めに掛かったのだが、レッドのリザードンはどういうわけか「エアスラッシュ」による怯み効果を延々と発動し「ずっと俺のターン!」とばかりにムーンの切り札を封殺したのである。
「これでどうやって戦えばいいんだ……」
このバトルツリーでは、確かにしばらくリーリエのことを忘れられる機会が訪れたと言えるだろう。
しかし、人生初の敗北から立て続けに喫したこの二連敗。
それはポケモンバトルの中で、天才少年ムーンが初めて味わった挫折だった。
ツリークオリティーは心を傷めるぜ☆