どうしてウツロイドと合体しないんだ……?   作:GT(EW版)

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???「グレムリンを攻撃表示で召喚!」


エピローグ

 

 

 

 ――戦いは終わった。

 

 ピカチュウの身体から放出された「雷」が奔流を止め、フィールドを覆い尽くすほどの爆発が巻き起こる。

 舞い上がった黒煙が一同の視界を塞ぎ――それが晴れた時、彼らの見つめる視線の先には勝者だけが悠然と佇んでいた。

 

 ――生き残っていたのは、ムーンのガオガエンだった。

 

 ガオガエンは雷を耐え抜き、ピカチュウは火傷のダメージを受け、遂に力尽きたのである。

 

 

 

「ピ、ピカチュウ戦闘不能! よって勝者、チャレンジャー・ムーン!」

 

 そして審判の口から最後の勝利者の名が告げられた瞬間、ムーンは身体中の力が抜けていくようにウツロイドとの合体を解除し、震える手で自らの相棒の胸に飛び込んでいった。

 

「や……やった! やったな! ガオガエン! お前なら耐えると信じてたぜーっ!」

「ガオガァ!」

《勝ったロト! おめでロトー!》

 

 万感の思いだった。

 自らの勝利をようやく理解したその瞬間、ポケモンリーグを制した時よりも大きな喜びがムーンの心を支配し、そんな彼に気を利かせてくれたのかウツロイドとガオガエンが二体揃って彼の身体をワッショイワッショイと胴上げしてくれた。

 

「はははっ! お、おいやめろよお前らっ、お前らの方が疲れてるだろーが!」

 

 照れながら何回も空に舞ったムーンは、フィールドを取り巻く最高の空気に自然な笑みを溢した。

 その顔には歳相応の満面の笑みが浮かんでおり、ムーンは今この瞬間、久しぶりに心から笑えた気がした。

 初心に帰った思いで全力を発揮し、最強のトレーナーであるレッドを破ったのだ。その喜びは純粋なポケモントレーナーとして、初めて抱いた感情だった。

 

 そんな彼の元へ「なんでもなおし」で火傷状態を治した後、自らのピカチュウを片腕に抱えたレッドが歩み寄ってきた。

 

「良いバトルだったぜ、ムーン!」

「レッドさん……こちらこそ、ありがとうございました!」

 

 握手を差し伸べてきたレッドの手を掴み、ムーンは深々と頭を下げる。

 そんな殊勝な彼の姿をレッドはきょとんとした目で見つめるが、ムーンには勝敗以上にこのバトルで得たものが大きかったのだ。

 

 ポケモンリーグチャンピオンになって、リーリエとも別れて、儚い夢を見失っていた空っぽな自分。

 彼にとってレッドとのバトルは、そんな自分を新たな未来へ導いてくれた光さす道だったのだ。

 

「俺、あんたとのバトルで、本当の自分がわかった気がします……!」

「そうか? そいつは何よりだぜ」

「でも、本当に滅茶苦茶ですよ! なんであんな当たり前みたいにツメやハチマキを発動できるんですか?」

「できると思ったらできるんだよ。なあピカチュウ?」

「ピーカ」

「はは、ピカチュウも今日は楽しかったってさ! 次は負けないって言ってるぜ」

「勘弁してください……こんな意味不明なバトル、滅多にしたくないって……」

 

 和やかにそう語ることができたのは、ムーンの中で迷いが晴れた何よりの証だった。

 その上で、今回のバトルの理不尽さを振り返る。

 確実に先攻を奪い、完璧な命中精度で一撃必殺を繰り出すツメラプラス。

 まるで夢想を相手にしているかの如く、どんな攻撃も回避するこなリザードン。普通に強いメガリザードンX。

 そしてどんな攻撃も不屈の精神で耐え抜き、鉄壁のライフ1から怒涛のボルテッカーを連発してくるハチマキピカチュウ。

 

 どんなクソゲーだよこれ。しみじみそう思うムーンは、改めてこんなに理不尽な戦いはなかったと振り返る。

 

 これが世界のレベルかと、初めて思い知らされた。

 そんな戦いの中で一段上の次元へ行くことができたムーンに対して、レッドが微妙に似合っていないTシャツの胸を広げながら彼に問い掛けた。

 

「でも楽しかっただろ?」

 

 無性に、一発ぶん殴りたくなる顔だった。

 

 ……でも、悪くはない。

 ムーンは彼の問い掛けを鼻先を掻きながら受け止めると、満面の笑みで答えた。

 

「ええ、もちろん!」

 

 楽しかったのだ。本当に。

 最高に笑顔になれたこのバトルに対して、屈託なく感じたムーンの感想だった。

 レッドはそんな彼の返答にうんうんと頷きを返すと、今度は今回行ったムーンの戦術について訊ねた。

 

「しかし、最後の最後で急所を外すとはなぁ……もしかしてガオガエンには、そういう道具を持たせていたのか?」

 

 最後に放ったピカチュウの雷――本当にギリギリのところで持ち堪えてくれたガオガエンの様子を見るに、あれがもし急所に当たっていれば、その一撃で敗北していたのはムーンの方だった。

 ムーンもレッドのピカチュウならば、確実に急所を捉えてくると思っていた。

 しかし、結果は急所に入ること無く通常のダメージ範囲に収まり、その結果ガオガエンはピカチュウの最終攻撃を耐え抜くことができたのである。

 それは偶然ではなく、ガオガエンに急所に当たらない効果を与えるような道具を持たせていたからなのだろうかと問い質してきたレッドの言葉に……ムーンは思わず苦笑を返した。

 

「いや……」

 

 そしてガオガエンの元へ近寄ると、ムーンは戦闘中ずっと持たせていた道具を彼に返却してもらう。

 

 クワガノンにはきあいのタスキ。

 ルガルガンにはいわZ。

 

 前の二体にはレッド対策として、バトルの切り札となる汎用性の高い道具を持たせていた。

 しかしムーンにとって最初の仲間であり、誰よりも彼の心を知り尽くしていたガオガエンに持たせていた道具はそういう類ではなく――理論的ではない特別な道具を持たせていた。

 

「お守りだよ」

 

 ムーンはその脳裏に「初恋の少女」の笑顔を浮かべながら、ガオガエンから受け取った持ち物を感謝の気持ちで見つめた。

 あれほどの猛攻をピカチュウから受けていた割には、損傷は驚くほど少ない。

 ガオガエンもそれだけ必死に守ってくれていたのだろう。

 何ともまあ、トレーナー思いの子である。

 

「サンキューな、ガエン……」

「ガオッ」

《リーリエとムーンの宝物、よく守ったロト!》

 

 ガオガエンが戦闘中、自らの毛皮に忍ばせていた持ち物――それはムーンにとって、この世で最も大切な宝物だった。

 

 

 ――初恋の少女から貰った、世界でたった一つの「ピッピにんぎょう」。

 

 

 

「戦う為の効果は何もないけど……これが、俺たちの力を引き出してくれたんです。そんな気がします」

「……そうか。ふっ、俺が勝てないわけだぜ」

 

 ピッピにんぎょうとはその可愛らしい造形で野生ポケモンの気を逸らすことができるということ以外、特殊な効果は何も持っていないただのぬいぐるみだ。

 もちろん、トレーナー戦では何の効果も発揮しない。

 そんな道具を、ムーンはガオガエンに持たせていたのだ。

 

 ただ一つの、最高の「お守り」として。 

 

 大切な贈り物をこんな使い方をしてしまったことは、彼女に対して申し訳なく思う。

 だがムーンには……ガオガエンのことを大切に想っていた彼女ならきっと、謝れば許してくれる筈だと信じていた。

 

 

 

「ムーン!」

 

 しんみりとした感慨に浸りながらピッピにんぎょうを見つめていると、不意に自分の名を呼ぶ声が聴こえてきた。

 ムーンが顔を上げると、いつからそこにいたのだろうか? ギザギザ頭のイケメンの姿がレッドの傍らにあった。

 

「あ……グリーンさん……」

 

 先日はムーンに対して厳しい言葉を掛けた青年、グリーンだった。

 思えばあの時、彼は自分に発破を掛けてくれたのではないかと思う。

 ポケモンへの信頼と愛情が足りていない――その言葉に込められた本当の意味を、今のムーンにはわかるような気がした。

 しかし彼の言葉に思い切り反発していたムーンとしては、今再び目の前に現れた彼に対してどんな言葉を返せば良いか出てこなかった。

 そんなムーンの心情を察したのかどうかはわからないが、グリーンは彼らを取り巻く空気を一掃するように一枚の紙きれを投擲してきた。

 

「受け取れ!」

「あっ、おわ……っ」

 

 ビシュッと、風を切りながら手裏剣のように飛んできたそれを受け取ると、ムーンはその紙切れが何かを収納した封筒であることに気づいた。

 そしてその封筒の表面には、三文字でこう書かれていた。

 

【招待状】

 

 呆気に取られ、ムーンが目を見開く。

 招待状――一体、何に招待すると言うのだろうか? その答えは、この封を開けば明らかになるのだろう。

 グリーンはムーンが寄越した問い掛けの視線を意味深な微笑で返すと、二本の指を立てて敬礼のポーズを取りながらキザったらしく言い放った。

 

「今日は素晴らしきポケモンバトルを見せてもらったぞ! またこんなバトルをしたくなったら、その中に入っているものを読んでカントー地方へ来るがいい」

「え?」

「待ってるぜ! さらに強くなったお前が、俺たちの町へやってくるのをな!」

「あ……」

 

 堂々たる風貌から言いたいことだけ言い渡した後、グリーンは踵を返しこの施設から立ち去っていった。

 そんな彼の後ろ姿を茫然と見送るムーンに対して、レッドもまた不敵な笑みを浮かべながら追従していく。

 

 何にも縛られない、常識という枷から解き放たれたチャンピオンたちがそこにいる。

 

 親指を立てたレッドの後ろ姿は光の中に完結していくように遠ざかり、グリーンと共に消えていく。

 

「バイビー……いや、アローラッ!」

 

 

 ――そして程なくして、バトルツリーの空に鉄の鳥が羽ばたいた。

 

 

 それは、二人のチャンピオンが乗り込んだ自家用ジェット機の姿だった。

 とりポケモン「ピジョット」が翼を広げた姿を模した造形の、グリーン専用ジェット機――「ピジェット」である。

 

 

「ワハハハハハハハハハハ!」

 

 

 拡声器から聴こえてくるグリーンのやかましい哄笑が、アローラ全土に響き渡るようにバトルツリーの地に広がっていく。

 ピジョット型ジェット機はそのまま一気に高度を上げて雲を突き抜けていくと、飛行機雲を作りながら流星のようにアローラの空を飛び去って行った。

 

 そんな彼らの無駄に派手な退場を見送りながら、ムーンはガオガエンと共に途方に暮れたようにその場に立ち尽くす。

 レッドとのバトルではウツロイドとの合体という常識の超越を成し遂げたムーンだが、己の限界の先はまだまだ遠くにあると――彼らを見ていると、そう思えてならなかった。

 

「……なんなの、あの人たち……」

 

 後ろから聴こえてきた役員の女性の呟きに、ムーンは全力で同意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリーンの操縦するオーキド邸自家用ジェット機「ピジェット」の中で、レッドは後部座席にもたれ掛かりながら操縦士に呼び掛けた。

 その言葉は先ほど自身と激戦を繰り広げた若きトレーナー、ムーンに対する賞賛の言葉だった。

 

「だから言ったろ? アイツは凄いトレーナーになるって」

「ふ……そうだな。手の内を明かしすぎていたとは言え、たった三戦でお前から白星を上げたんだ。あの才能は脅威的と言っていいだろう。凡骨トレーナーと蔑んだのは訂正してやるよ。あいつもまた、誇り高きポケモントレーナーだった」

 

 澄み渡るアローラ近海を見下ろしながら飛行しているこのジェット機は、このまま次の目的地である「イッシュ地方」へと向かう予定だ。

 自家用ジェット機による、男二人旅である。

 色気も糞も無いが、ロマンだけは妙にあるこの旅の目的は、先ほどバトルを行ったムーンのような逸材と出会うことにあった。

 

「あいつは来てくれると思うか?」

 

 グリーンが操縦桿を握りながら、後ろに座るレッドに問い掛ける。

 それはあの少年に渡した招待状――自らが主催する「(チャンピオンズ)(ポケモン)(ワールド)(トーナメント)」についての話だった。

 

 

 ――そう……グリーンたちは来年度、世界中から最強のポケモントレーナーたちを集めた特大規模のバトル大会を開催する予定だった。

 

 

 開催場所はカントー地方、ヤマブキシティ。

 ムーン少年に渡したのはその大会への招待状である。

 既にホウエンやジョウト、各地方の殿堂入りトレーナーたちには同じ招待状を届けだしているのだが、アローラ地方のチャンピオンだけはリーグ自体が最近発足したばかりである為、こうして主催者であるグリーンが直々に現地へ赴き、初代アローラチャンピオンとやらの力量を見計りに来たのだ。

 

 もし彼の実力が一般的なチャンピオンの基準に至っていなかったのならば、グリーンは容赦なく大会への招待状を取り下げる心積もりだったのだが……その心配は杞憂に終わったようだ。

 

 最初に出会った時点でのムーン少年の実力は、正直言って期待外れなものだった。

 しかし、三戦目に見せたあの姿こそが彼本来の力だったのであれば……今からでも十分、彼のバトルは他の地方のチャンピオンにも通用するだろう。

 

 そう判断したからこそ、グリーンは惜しみなく招待状を投げ渡したのである。

 後は彼自身がこちらの招待を受けてくれるかというところであったが、その点についてはグリーンもレッドも、心配は全くしていなかった。

 

「ああ、必ず来るさ。カントーにはリーリエもいるしな!」

「あの小娘に会ったことを、言わなくて良かったのか?」

「お前だって言ってないだろ? こういうのは黙っていた方がいいからな。俺の睨んだところだと、リーリエはムーンに惚れてるぜ」

「ふぅん……」

 

 数日前、実を言うと二人はムーンが入れ込んでいるリーリエという少女と会っていた。

 ……と言うよりも、ムーンの存在自体、彼女から教えてもらったことだったのだ。

 母ルザミーネの療養の為カントー地方にやって来たリーリエと、彼らはヤマブキシティでひょんなことから出会い、そしてアローラのチャンピオン・ムーンの噂を聞いてアローラへと飛んできた。

 

 俗に言う、ジェット機で来た(ピジョット型の)――という奴である。

 

 この間、僅か数日。それ故に二人は、今日までそれほどアローラの地に滞在していなかったりする。

 しかしレッドに関しては既にアローラ文化の影響を多大に受けてしまったらしく、彼は後部座席にもたれ掛かりながらアローラ特有の謎ポーズを膝上のピカチュウと共に決めていた。無駄にキメ顔である。

 

 

「その時は、こっちのホームでおもてなししてやろうぜ。なっ、ピカチュウ?」

「ピッカチュ!」

 

 まだこの世界には、自分たちが知らないトレーナーたちが溢れている。

 ワクワクを思い出すのだ。強者を求めてグリーンについてきたレッドには、この旅が楽しくて仕方なかった。

 

 そんな彼とピカチュウを同乗させて、グリーンの操縦するピジェットは次なる目的地へと飛翔していく。

 彼らが次に会うトレーナーはイッシュリーグに殿堂入りしていながらも長年行方不明になっており、連絡のついていないトレーナー――「N」という男だ。

 

 今度は一体、どんなバトルが待っているのだろうか?

 グリーンもまた一人のトレーナーとして、その胸に高揚を感じていた。

 

 

「ふっ……ムーンもNとやらも、俺たちにとっては倒すべき敵にすぎん。さっきは見事なバトルだったが、本当の戦いはこれからだ。イッシュ地方へ進路をとる! 全速前進DA!」

 

 

 ――彼らのポケモンバトルシティは終わらない。

 

 

 

 

 

【どうしてウツロイドと合体しないんだ……?  ――完――】

 

 





 最後までお読みいただきありがとうございました。結局リーリエさんは登場せず、本当に申し訳ない。

 迸る衝動のままに、全速前進で意味不明な作品を書いてしまい本当に申し訳ない。
 某遊戯王ボストーナメント動画みたいな、やりたい放題暴れまくっているチャンピオンたちのバトルを書きたかったのです。ウツロイドと合体した意味があんまりなくて申し訳ない。
 それはそれとしてグリーンの嫁はやっぱりピジョットだと思う。ピジョットの鳴き声が
戦闘BGMと一体化してるのほんとすき。異論は認める。



 因みに行方不明扱いになっていたNさんは、なんだかウエスタン映画みたいな町でハーモニカを吹いている姿が目撃された模様。それを見たトウヤくんからはプラズマ団だった頃のお前はもっと輝いていたぞ!と突っ込まれています。本当に申し訳ない。



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