まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第103話 all alone

紀伊水道を抜けたあたりで護衛として随行してくれた呉鎮守府の駆逐艦隊と別れる。冷泉達は彼女たちに別れを告げると、進路をしばらく東へ取った後、南下を始める。

加賀から聞いた、長門がいるであろう目的地へと近づいていくのだった。

やがて、天まで届くような高さの領域の赤黒い雲の壁が近づいて来る。

 

「叢雲、島風……。順次、動力の切りかえ開始。武装変更開始」

冷泉の指示に合わせ、二隻の駆逐艦が突入準備をを始める。この作業は同時には行えない。動力切替に約10分程度かかる。この間は戦闘を含めたあらゆる行動が不可能となるからだ。

 

作業の進捗をぼんやりと見ながら冷泉は考える。

 

しかし―――すべてが運任せの進撃だよな、と。

今回の作戦、状況によっては領海内部に入ることさえできないかもしれないと考えていたのだ。

どのような決まりがあるのか全く不明ではあるが、同一エリアと判断される領域内には双方最大12隻づつまでの艦船しか入れないという上限(ルール)があったのだ。このため、横須賀鎮守府の艦隊がまだ戦闘中、もしくは行動中であれば、艦隊編成によっては上限を超えてしまうため、冷泉の艦隊は中に入ることができない可能性があったのだ。もっとも、……入れなければまだ横須賀の艦隊がいるということであるから、長門が無事である可能性が高まるのであるが。

そちらのほうがむしろ良い状況なのかもしれないけれど。

 

「準備完了よ」

叢雲の声に冷泉は思考の世界から引き戻される。

 

冷泉は彼女に頷くと、指示を出す。

「よし、全艦、突入を始める」

動力を切り替えた2隻の駆逐艦はゆっくりと進みだし、領域の雲の中へと突入していく。

司令官の心配を余所に、何の抵抗もなく、あっさり進入できてしまった……。

 

「む? ……これは急がなければならないな」

冷泉は、独りごちてしまう。

この状況は芳しくない。冷泉達が領域に入ることができたということは、ここでの戦闘はすでに終了しているということだ。すでに戦闘は違うエリアで行われているらしい。となると、長門は放置されているということだ。無事であればいいのだが。

 

冷泉達は焦りを抑えながらも敵艦隊との遭遇を警戒しながら、慎重に求めて進んでいく。

 

「あら……空が」

叢雲が声を上げ、外を指さす。

視線を外に向けると、領域の霧が次第に薄らいでいくのが分かった。どんよりとした雲が垂れ込め、陰鬱な暗さだった空がゆっくりと白んでいく。

この現象の指し示すこと……つまり、領域解放が進んでいるということである。横須賀鎮守府の作戦は成功しているらしいということだ。

 

そして、暫く進むと前方に艦影を確認する。

 

黒煙を上げて船体を僅かに右側に傾けていた。喫水線も通常の艦船からはあり得ないくらい深くなっている事が近づくまでもなくなく確認できる。時折船体から炎が吹き上げる。すでに動力は停止しているようで、潮の流れでわずかに動いているだけだ。

 

……その無惨な姿は、無論、冷泉達が探し求めていた戦艦長門であった。

それも、間もなく死を迎えるのが明らかなかつての日本国の旗艦であった戦艦の姿だ。

 

「叢雲、急いでくれ」

言われるまでもなく、すでに叢雲の速度は接近するため、最大となっていた。島風も遅れて続く。

 

二隻の駆逐艦は、大破状態の戦艦を守るように位置取り、警戒に当たり始める。

 

「叢雲……。俺を長門のところに送り出す事はできるか? 」

冷泉は問いかける。

 

「は? アンタあそこに行くっていうの? まさか、そんな体で? 」

 

「無論だよ。俺はそのために来たんだから。タラップかなんかを渡せればいいんだろうけど、長門の状況では難しそうだ。俺がまともな体だったら飛んでもいいんだけど、車椅子ではどうにもならないからな。だから……なんとかしてくれ」

その言葉を聞いて、呆れたような表情を見せた叢雲だったが、外の景色を見て少し考え込む。

「……領域は解放されるようだから、動力を切り替えられるわね。……すべてのシステムが通常へと移行できれば、転送も可能になるけど」

 

「頼む、それをやってくれ。今の俺では、自力で乗り移ることができないんだから」

 

「けれど、あの状況を見て。火災が発生しているし、あちこちで爆発も起きているわ。いつそれに巻き込まれるか分からないわよ。現実を冷静に見つめなさい。とても、危険よ。アンタの体では、仮に普通の体だったとしても自殺行為よ……それに」

そこで彼女は、言葉を濁してしまう。

冷泉は駆逐艦娘を見、次の言葉を待つ。彼女が何を言おうとしているかは、おおよそ想像がつくのだけれど。

 

「はあ……。アタシがいくら言ったって、アンタは止めるつもりは無いんでしょうけど。でもね、それでも言うわよ。言わないとアタシが悶々とするだけで消化不良を起こしそうだから。あのね……仮に無事たどり着いたとしてだけど、アンタが長門に会ったところで、どうにかなるなんて思えないんだけど。……彼女を引っ張りだして、あの艦から連れ出す何か手立てでも考えているの? 」

その言葉を聞いて、呆然とした表情のまま黙り込む冷泉。

しばらくその状態が続くと、再び大きなため息を叢雲がついた。

「まさか……何も考えていないなんてことは無いでしょうね? ま、さ、か、ね」

腕組みをし、司令官の顔を睨み付ける。

冷泉はその視線に耐えられないかのように、目を逸らした。

「もう!……やっぱりなの。ホント、信じられないわ。何を考えているの? いえ、何も考えていないのって言ったほうが良いわよね」

ガクリと項垂れる艦娘。

 

「いや、その……すまん。でも、何も考えていなかった訳じゃ無いんだ。どういう言い方をすれば彼女の心に響くか、とか、どう言えば、どうすれば彼女が納得するかとかいろいろと考えてみたんだ。俺だって真剣に」

 

「で、結論は出たのかしら? 冷泉提督」

と、少し馬鹿にしたような口調。

 

「……いや、その、なんだ。俺が言えることはだな。と……とにかく当たって砕けろだ」

しばらくの沈黙の後、彼が発した言葉がこれだった。

実際のところ、言葉で説得してダメなら、最悪は力尽くで連れ出せばいいやって考えていた。しかし、健常体の冷泉であっても戦艦級の艦娘に抵抗されたら抑えきれるはずがないことはわかりきっている。それなのに、今の冷泉と来たら、右腕以外は動かすことさえできないんだから。けれど、動かざるを得ない。何もなすことなくすべてを見過ごすなんてできないのだから。

「人事を尽くして天命を待つ。今言えることは、それだけだよ。俺が彼女を助けたいんだ。だから助ける。理由はそれだけだ」

 

「そう……。ずいぶんとご執心なのね。まあ、確かに彼女はアンタ好みかもしれないけど」

 

「うん、確かに綺麗だし、本人は意識してないみたいだけど凄いセクシーだし、それでいて女女して無くてさっぱりした格好いい性格をしているもんな。けど、すこし可愛いところもあるみたいだし……。うちではあまり見かけないタイプの子だよな」

 

「結局、なんだかんだ理由を付けてるけど、体なの? なんてスケベなの、男ってみんな最低だわ。フン、ちっちゃくて悪かったわよね。だいたい、でかけりゃいいってもんでもないでしょ、まったく」

小声で叢雲が呟く。

 

「え? 何か言ったか」

 

「ふん……いえ、何でもないわ」

 

「はっきり言っておきたいのは、長門が女性として魅力的とか戦艦であったことだとかそんな事じゃないんだよ」

 

「じゃあ何なの? 」

 

「長門は、彼女は救いを求めているんだ。そして、俺には彼女を助けるという選択肢が与えられている。普通の人間なら、そんな権限は持ち合わせていない。けれど俺にはそれがある。ならば、動かなければならないだろう? 長門は横須賀鎮守府の旗艦としての立場と誇りのために死地へと追いやられている。そして、自分の心を騙してその運命を受け入れようとしている。それが彼女の本音なら、仕方ないかもしれない。けれど、そうじゃない。自分の気持ちと立場の折り合いは、助かってからまた考えればいいんだ。今死んだら、それすらできない。だから、俺は行かなければならないんだよ」

 

「どうせ行くなっていっても無駄なんでしょう? OKよ。向こうに送って上げるわ。けれど……私も行くわ」

 

「駄目だ」

即座に却下する冷泉。

 

「何でよ! 」

 

「お前は島風とともに、深海棲艦から長門を護って欲しい。お前が俺についてきたら、島風一人で敵と戦わなければならないだろう? それは厳しい。だから、お前も一緒に長門を……それから俺を護っていてほしい。きっと、彼女を連れ帰るから、安心してくれ。お前はお前の任務をその間はこなしてくれ。頼む、議論している時間はないんだ」

冷泉は真剣な瞳で彼女に懇願する。本当なら頭を下げたいところだが、体が動かないからそれができない。

少しだけ考えた後、叢雲は告げる。

「分かったわ。ちゃんとアタシと島風で護って上げる。だから、きっと長門を連れてきなさい」

 

「無論だ」

 

「もう動力は切り替えているから、転送するわね」

少しだけ不機嫌そうにしながらも、叢雲は冷泉を見つめる。

「きっと帰ってくるのよ。約束よ。約束破ったら、みんなの分もぶん殴るからね」

冷泉はニッコリと微笑む。

「ああ、きっと帰ってくる。じゃあ、頼むよ」

 

そして、転送が始まる。光がゆっくりと冷泉を包んでいく。

「ねえ……」

背後で叢雲が呟く。

 

「なんだ? 」

 

「もし、…もし、アタシが今の長門の立場だったら、アンタどうするの? 」

モジモジしながらも叢雲が問いかける。

冷泉は後ろを振り向けないから、彼女がどういう顔をしているかは分からない。けれど、声色と雰囲気でなんとなく感じ取れる。

 

「当たり前の事を聞くなよ。もちろん、俺の心は決まっているさ。たとえ、俺の命に代えてもお前を救い出すに決まっている。お前は俺の大切な……」

言葉の途中で冷泉の姿は転送のために消失する。

叢雲は冷泉がいたはずの場所を見ながら、惚けたような表情をしていたが、すぐに元に戻り、両手で頬を何度か叩くと声を上げる。

「島風、これより対潜水艦戦闘モードよ。絶対に敵をここには近づけないんだからね! 」

 

 

 

転送された戦艦長門の艦内を電動車椅子を走らせ、長門の元へと急ぐ冷泉。流石に戦艦だけに通路もそれなりの広さがあり、おまけにエレベータまであるようで、車椅子でも彼女の所まで進んで行けそうだ。

 

艦内では、時折爆発音が響き、大きな振動が伝わってくる。電源は生きているらしいが照明も明滅を繰り返す。それでもエレベータは幸いなことに生きていた。

 

冷泉は探知能力を駆使して、長門の姿を求める。

艦内は浸水も発生しているようで、外から見たよりも危険な状態であることが分かる。誰に聞かせるのか、警報のアラーム音もなり続いている。

間違いなく艦橋に長門がいることを確認すると、そこへと目指す冷泉。艦橋の中に入ると、椅子に腰掛けたままの長門の後ろ姿を見つけた。

 

「長門、無事だったか! 」

ほっとしたような声をかけると、彼女は相当に驚いて振り返り、慌てた表情を見せる。

「れ、冷泉提督、何故あなたがこんなところに来たのか? 」

それは驚きと苛立ちの混ざり合った困惑の表情だった。

 

「お前を助けに来たのに決まっているじゃないか」

 

「何を考えているのですか? そのようなお体で、沈みゆく船に乗り込むなんて無謀すぎる。何をしているのです、今すぐ退去してください」

 

「……断る」

 

「は? 何故ですか? 」

 

「お前を助けたいからだ。助けなければならないからだよ。だから、俺はここにいる」

苛立ちを隠さずに問いかける長門に、冷泉は淡々とした声で答える。

 

「何を言っているのか? 私には意味が分からない。何故助けるなんて言葉が出てくるのです? そもそも、私とあなたの間には、何の関係もない。そんなあなたが何故私に構おうとするのですか」

 

「いや、そうでもない。俺たちが無関係なんてわけないじゃないか。……それに加賀にお前を助けてくれと頼まれた。あいつは必死だったんだよ。俺に話せばお前に嫌われるだろう。それでも構わないから、友達を助けてほしいと泣きながら俺に頼んだんだよ。あのプライドの高い加賀がそこまでしてでもお前を助けてほしいと俺なんかに縋ってきたんだ。俺の部下の必死の願いに応えないなんて、司令官として失格だからね。それも理由の一つだよ」

 

「……加賀がそんなことを。全く……。気持ちだけは嬉しいが、残念だけれども、その申し出はお断りします」

 

「いや、……それだと困るんだよな」

少し困ったような顔になって冷泉が言う。

 

「私は、日本海軍旗艦の誇りを胸に、みんなの下へと逝きたいのだ。そして、あなたに問おう。仮に私が生きながらえたとして、どうなるというのだ。私にこの先、ずっと生き恥をさらして生きろというのか」

 

「誇り? それは何なんだ? ……そんなもの知るか。そんな誇りなんて、くそ食らえだ。じつにくだらない。くだらなすぎる。そんな亡霊のような妄念に囚われて死んでいくなんてどうにかしている。俺は助けると言ったら助けるんだ」

 

「……考えは人それぞれです。あなたと私では価値観が根本的なところで異なるのでしょう。その事については議論するまでもないし、必要もない。そんなことはもうどうでもいいなのです。それより、ここは危険です。領域が解放されたとはいえ、敵がいつくるか分からない状況だ。私なんかに構わず、すぐにでもここから立ち去るべきです。どこに潜水艦が潜んでいるかもしれないのは、あなたも分からないわけではないでしょう」

 

「今、二人が警戒に当たっている。だから大丈夫だよ。お前を連れてでなきゃ、俺は帰れない」

 

「……お断りします。あなたには私を助けるような義理もないだろうし、そもそも私達には何の関係もないでしょう。何のつながりも何もありはしない。そもそも、仮に私を助けたとしてどうなるというのですか? 私には戻る場所などもう無いのですから」

 

「ふむ。行くところがないんだったら……じゃあ、俺の鎮守府に来たらいい」

 

乾いた笑いを長門がする。

「おもしろい。横須賀の旗艦を勤めた私が、……失礼ながら、格下の鎮守府には行けない。それくらい分かってください。それに、そもそも、もうこの艦は沈みます。艦本体を失った艦娘などに何の役に立つのでしょうか。どうやって鎮守府の役に立てるのでしょうか? もう済んだことです。私の事など構わずに、放っておいてくれませんか」

 

「面倒くさいなあ。……よし、じゃあ、おれの女になったらいい」

良いことを思いついた! そんな感じで冷泉が答える。

 

「はあ? な……何を言ってるんですか、あなたは」

何故か頬を赤らめ、動揺を隠しきれない長門。

 

「俺は、お前を一人の女として舞鶴鎮守府にお前を迎え入れることにした。戦艦長門ではなく、お前個人としてね。これなら問題ないだろう」

 

「はあ……あまりに非常識で馬鹿馬鹿しい。私は戦艦でありそれ以外の何者でもないので……」

力が抜けたようになる長門の側に車椅子を動かして近づき、冷泉は彼女の腕を掴むと、いきなり引き寄せる。不意に引っ張られたために、それも想像以上に強い力で引かれたため長門はバランスを崩し、冷泉に倒れ込んでしまう。

すぐ側に冷泉の顔がある。息が掛かるほどの距離だ。

「す、すまない」

あまりの近さに慌てて離れようとする長門の首に手を回すと、冷泉はぐいとそのまま引き寄せ、強引に口づけた。

 

「ぬあ、ぬわわわ、なにを! 」

動揺し離れようとする彼女を再び冷泉は引き寄せる。

 

もごもごと長門が離れようと抵抗を試みるが、冷泉は彼女の自由を奪ったまま話さない。

時間にしてどれくらいの時間だっただろう。それは、かなりの長い時間をかけた濃厚なキスだった。

しばしの沈黙の後、二人は離れる。とろんとした瞳で冷泉を見つめる長門。

 

「いきなり……なんてことをするのですか」

おそらく、相当に怒っているのだろうが、その声はとても弱々しい。

 

「ほら、これでお前と俺の間に縁ができただろう? 少なくとも俺は……無理矢理だけれども、お前の唇を奪った男になった。これで俺たちは無関係じゃなくなっただろう。もうお前は、女として傷物になってしまった。日本国旗艦を勤めた艦娘を、俺は自らの爛れた欲望のために穢してしまったんだ。そして、お前の意思を無視してそんなことをした俺としてのけじめは、責任をとって俺の鎮守府に迎え入れる事だ。だから、ここにお前に言う。長門、俺のところに来い」

言っていることは全く筋が通っていないのは冷泉も理解している。それでも、はっきりと、自信たっぷりに、そして高らかに宣言した。

誰が聞いても意味不明な理由だが、どういうわけか彼女は黙ったままだ。怒るでもなく、反論するでもなく、無視するでもなく……冷泉を上目遣いで見ているだけだ。

「お前は自分はこうあるべきだという事に囚われすぎて、自分の本当の気持ちが分かっていないんだ。横須賀鎮守府の旗艦であったお前はこうあるべきだ、こうあらねばならないという強迫観念に囚われているだけなんだ。プライドや誇り……そんなものはどうでもいいだろう

? 今、お前が本当に望んでいる事は何なんだ? 」

 

「私が望んでいるのは、戦艦としての最後を迎えたいということです。日本国艦隊旗艦であった誇りを胸に、みんなの所に逝きたいのです」

 

「……違うな。お前の本音はそうじゃないだろう」

 

「何を言うのですか。私は自分の気持ちに正直に答えただけです。冷泉提督こそ、誤解をしている」

 

「だったら、なぜお前は自分の運命を加賀に話したんだ? 言わなければ加賀も気づかなかったし、俺に伝わることもなかった。それは、心のどこかでお前が救いを求めていたからだろう? 」

 

「違う!違う! 私は加賀が立ち直った事が嬉しかった。もう彼女は大丈夫だと思った。だから、別れを告げたのだ。何も言わずに去るのは親友としてはあまりに冷たいから。ただ、それだけだ。後でどうして行ってくれなかったって泣かれるのは辛いからだ」

 

「親友が死地に向かう話を聞いて、あいつが黙っているはずがないだろう? 加賀一人では何も出来ない。そうなれば、彼女が俺に相談するであろう事は誰でも推測できる。それで救われるかどうかは不明だろうが、もしかしたらと思ったのじゃないのか? 藁にも縋る思いで、言ったんじゃないのか。無意識の内に……お前は誰かに救い出してほしかったんだろう? そうだ。きっとそうだ。間違いない。だから、俺が助けてやる。俺は、お前が頷くまで帰らないよ」

 

「何でそんなに言うのですか」

 

「助けを求めているものがいる。そして、俺にはその者を救う力がある。ならば、答えは一つしかないだろう? お前が自分の横須賀鎮守府旗艦という名のしがらみ……いやもはやそれは呪いといってもいいだろう。そんなものに囚われるなら、俺がそのすべて取り払ってやろう。だから、俺のところに来い。俺がお前を助けてみせるから」

冷泉と長門は暫くの間、黙ったまま見つめ合っていた。それは意志と意志とのぶつかりあいのようでもあった。

お互いの譲れない思いが交錯しているようにも思えた。そして、それはとてつもなく長く感じられた。

そして、

「分かりました。……提督の仰るとおりにします」

折れるように長門が呟いた。

それを聞いて、冷泉は大きく息を吐いた。

「ありがとう、長門」

 

それに合わせたように通信が入ってきた。それは叢雲からだった。

敵艦隊が接近中との報告だった。その数、4隻。艦種は重巡洋艦1、軽巡洋艦3の編成。叢雲と島風では厳しい相手だ。早くしないと状況が最悪となる。慌てるように叢雲と島風が迎えに来るのが見えた。

 

「では、急ごうか。早くしないと、敵艦隊と交戦になってしまいそうだ」

 

「はい」

冷泉の問いかけに、長門が答える。その表情にはどこか吹っ切れたようなところがあって、冷泉はなんとか今回も乗り切れたという安堵感を感じていた。

 

良かった―――。

これで誰も悲しませることなく、舞鶴に帰れる。みんなの笑顔を守れる。

 

 

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