まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

113 / 262
第113話 過去との決別

「貴方から見れば、私の行動は無謀で無計画なものにしか見えないでしょうね。私の背後にどの程度の組織があるかさえ、貴方にはお教えしていないのですから。私を信じることさえ、難しい事ですよね。でも、それで構わないのです。今この段階では、私達が連携して動く必要はありません。今正しいと思うことを扶桑さんはしてもらえればいいのです。……つまり、扶桑さん、貴方が今為すべき事は、この鎮守府の中で貴方と同じように記憶操作が完全ではない艦娘を見つけ出すことなのです。これは、外部の私では不可能な事なのですから。時間が経過すれば経過するほど、艦娘に対する記憶操作・意識改変がメンテナンスの度に繰り返されるはずです。そうなれば、今持っている記憶さえ失いかねない。それだけは避けなければなりません」

 

「当然です! 」

扶桑の声が思わず大きくなる。

「この鎮守府のみんなを……私は護ってみせる。私には護らなければならないのですから。……提督の、緒沢提督の為に」

永末は、そんな扶桑を見、満足そうに頷いたように見えた。

彼の味方に自分がつくと宣言したのだから。内通者が獲られれば、彼も満足して当然だ。

 

そして、自分の言葉の重みをかみしめる。

緒沢提督の為に、艦娘を護る。それはすなわち、現在の司令官である冷泉に対し反旗を翻すことになることなど分かり切った事。

 

けれど、……それは仕方ないこと。

選択は自分でしたことなのだから。その結果、どのような結末が、運命が訪れようとも覚悟している。いかなる犠牲を払おうとも、自分は目標を達成しなければならないのだから。

 

「すぐにでも私が知る事実を、みんなに伝えてます。真実を伝え、みんなの目を覚まさせます」

 

「だ、駄目です! それはまだです」

しかし、永末に即座に否定された。

 

「何故ですか? 時は一刻を争う……それは貴方が今仰ったではないですか? 」

 

「もちろん、残された時間は少ないのは認めます。けれど、今、そうやって表だった行動に出ることは、あまりに貴方に、もちろん私達にも危険です。まだ、我々は動き出したばかりなのですから。……そんな時に艦娘の中で体制を疑うような動きが表立つのは実に不味いのです。敵が警戒し、我々の動きに気づく危険度が跳ね上がりますからね。それだけは避けて欲しい……。我々はまだ力が弱く、今はその時期ではないのです。そして、更に、私たちの方では、緒沢提督が残したもののありかを探すという重大な作業も残されている。それにも時間がかかるのです。真なる敵に対抗するために、緒沢提督が集めたといわれるもののありかを……。それはあなた達艦娘の記憶の中にあると私達は考えています。そのためにも、敵勢力が艦娘に施した記憶操作、記憶改変がどの程度まで施されているか、どの階層まで影響が及ぶのかを知る必要があるのです。故に、あまり行動が表立つのは敵に対策を打たれる危険が増してしまうから、避けて欲しいというわけです」

 

「では、私はどうすればいいというのですか? 」

 

「舞鶴鎮守府の艦娘達の中で洗脳の効果があまり出ていない子を探って欲しいのです。そして、冷泉提督の影響を受けていない子もね。そういった子たちにあなたは接触を図り、ゆっくりとでいいので探りを入れて欲しいのです。敵の洗脳を解く可能性があるかどうかを」

 

「緒沢提督の記憶を持っているかどうかは私にも可能かもしれませんが、メンテナンスの度に改変が行われるのでは、そんな彼女たちの記憶が……いえ、それ以前に私の記憶だってどうなるかわかりません。呑気に構えている時間など無いのではないでしょうか? 」

 

「それについては大丈夫です。私がお渡しした薬を服用すれば、洗脳影響を進行させることをあるレベルまで遅らせる事ができます。今後、追加で同じ物をお渡ししますので、それを他の艦娘にも直接でも間接的にでも構いませんから服用させることができれば、彼女たちの記憶も保つことができるはずです。だから、急いてはいけませんよ。貴方は一人ではない。私達がいます。私達も貴方が味方になってくれるから、希望を持って戦い続けられるのですから」

自信たっぷりの表情で永末が微笑む。その姿に何故か安心する自分がいた。

「共に正義の為に戦い勝利しましょう」

と、永末は頼りがいのある笑顔を見せた。

 

そして、また現実に戻される。回想と現実の境界が曖昧になっている。こんな状態を繰り返してばかりいる。こんな状態では執務に支障が出る。それどころか、同志を探すことさえままならなくなってしまう。その度に永末から貰った薬に頼ってしまう。副作用が無いと言われている薬であろうとも、頻繁に服用したら何らかの影響がでないわけがない。極力抑えなければならないのだけれど、不安定な状況に陥ってしまう頻度が高まっていて、どうしても頼らなければならないのだ。

不安定な状況を知られたら、本格的なメンテナンスを受けさせられてしまう。そうなったら洗脳の度合いも高まるし、仲間を捜すこともできない。それどころか、仲間になってくれるはずの子が洗脳されてしまう。必要に迫られ頼らざるを獲ないのだ。仕方ないのだと自分を言い聞かせる。

 

何もかも、冷泉提督が悪いのだ。……結局その結論に落ち着く。

彼に対する、疑いの感情が生まれてしまったから、何もかもが信じられなくなってくる。

内にある、秘めたこの感情がすべて偽りだったということへの衝撃……。それを知ってしまった絶望、諦め。

 

自分に、艦娘達にかけてくれた優しい言葉も、あの優しい笑顔も、それがすべて上辺だけのものだと知ってしまったから、……何もかも分かってしまったから。もう、あの人の事をこれまでのように好ましく思うことなんてできなくなってしまった。

 

―――彼を信じてはならない。

 

何があろうとも、これだけは忘れてはいけないことなのだから。

 

それが、たどり着いた真実。

 

けれど、彼を懐疑的な感情で見ようとすると……どういうわけか、心が動揺して激しい動悸が起こるときがある。

何か自分の気持ちを押し殺そうとした時に感じたことのある感情。真実から目を逸らそうとしたときに感じたことのある、例えようのない嫌な感じだ。そんなことを何故感じてしまうのか分からない。

 

これほどまでに、何者かによって施された記憶改変の影響が及ぶというのか。こんな強い拘束力が生じるなんて一体、自分が知らない間にどんなことが自分の体にされたのだろう。想像するだけで恐ろしく、怖かった。

 

そして、真実を知ってもなお、無意識下で冷泉提督を信じようとする、あまりにも愚かな自分に吐き気がする。

けれど、それでも心のどこかで提督を信じたいと思っている。なぜなんだろう? そんな自分に、どうして良いか分からなくなり、不安になってしまう。

何が自分のほんとうに望んでいる事なのかが分からなくなる。自分の立ち位置が不安定すぎて、判断がつかないまでに追い込まれている焦燥感。考えれば考えるほど胃が締め付けられて苦しくなる。

 

原因……?

 

本当は何が原因かは分かっている。分かってしまっている。

記憶操作とかそういった事なんか関係無く、胸が締め付けられるような気持ちになる理由なんて、至ってシンプルだってことくらい。

 

そう、それは自分が冷泉提督に対して、司令官と艦娘という関係を越えたいと思う感情を持つようになっていたからだ。

自分は彼のことを好きになり始めている。……いや、もう好きになってしまっているのかもしれない。だから、想いを寄せている彼のことを疑いたくない、信じたいんだ。

 

自分は緒沢提督に恩義を感じていたし、それ以上に女として彼のことを愛していた。それなのに、その大切な人を殺した人間の仲間である冷泉提督をいつの間にか好きになっているんだから……。

たとえ、記憶を操作され洗脳されていたからだとしても、自分がそんな風になるなんて許せなかった。憎むべき相手を愛してしまうなんてありえないのに……。どうして、こんな事になってしまうのか? 

感情が大きく乱れ、激しく動揺しているのが分かる。普段ならあり得ないはずの呼吸の乱れさえ起きている。立ちくらみさえ起こしそうな状況だ。

 

心が保たない。これは、人としてなら実に危険な状況だと警告してくる。

 

扶桑は、永末から貰った薬を取り出すと、嚥下する。

しばらく椅子に腰掛けて、目を閉じてみる。薬の効果が現れたのか、急激に動悸が治まっていくのを感じられる。

動揺が収まると、こみ上げてきていた吐き気も急速に退いていき、気分的にも一時的なものかもしれないけれどもホッとできた。なんとか普段の冷静さを取り戻せることができ、薬の効果があるうちは、本当の自分を取り戻すことができた。

即効性があり効能の優れた薬であることは分かった。彼はどうやってこんなものを手に入れたのだろう? ふとそんな疑問がよぎるが、今は些事に構っている時ではないと自分に言い聞かせる。

 

大きく深呼吸をしてから、落ち着いた心理状態で、再度、思案する。今後の行動について、何を優先させ何を行うかだ。

 

まず、最優先することは、自分が本当の事を知ったことを冷泉提督に……、否、彼を含んだ敵対勢力に悟られてはならない。

 

自分の心は彼らの支配下にあり、憎むべき的である冷泉提督にほのかな好意を抱きつつ、何の疑いもなく生活していることを印象づけておかなければならない。裏で真実を探っている事は、絶対に知られてはならず、すべてを極秘裏に行わなければならない。

 

今から戦う敵は強大だけれど勝機はある。

なぜなら、艦娘の記憶を意図的に操作できる力を持ってはいるものの、それが完全に施術できていない事実を知らないからだ。一見完全無欠のように見える敵にも、まだまだ隙はあるということだ。自分たちでも取り入る隙はいくらでもあるのだ。

 

だからこそ慎重に動かねばならない。彼らの監視をかいくぐり、冷泉たちのマインドコントロールの影響の少ないであろう同士を見つけ出し、接触し、それとなく探りを入れなければならない。艦娘達に話を聞き、お互いの記憶の齟齬を埋めなければならない。互いが知る事実の照合を行い、真実を導きださねばならないのだから。

 

すべては、大切な仲間を護るため。

 

 

そして、……愛する人の仇である「冷泉朝陽」を討つために。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。