まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第13話

「急に現れたから驚いたよ~。もう、びっくりしたなあ」

冷泉は必死に動揺を隠しながらも、軽めの言葉で返す。

実際には心臓はバクバク、腋に嫌な汗がにじみ出すのを感じてはいるけれど、それを悟られてはいけない。

 

「扶桑、こんな夜中にどうしたんだい? ……何か話しでもあるのかな」

艦娘から眼をそらさず、椅子の肘掛けを探り当てると十分な余裕のポーズを決めながら椅子に深く腰掛け、足を組んでみせる。

 

「驚かせてすみません、提督。……なかなか寝付けなくて」

言葉とは裏腹にその声は妙に切迫感にあふれてるし、冷泉を見つめるその瞳は一切の妥協を許さないような恐ろしい色合いを帯びているようにさえ思えた。

つかつかと歩み寄り、冷泉の直ぐ側までやって来る。

 

しまった!

 

そう思った時にはすでに遅かった。

冷泉は椅子に座った状態で逃げ道をふさがれ、彼女に上から見下ろされる状況に追い込まれていたのだ。

 

もはや、逃げ道はない。

 

「い、一体なんですか? ……ふ、ふそーさん」

普通に話したつもりなのに、何故だか声が震えてるし。

いろんな意味でドキドキだ。

 

自分の置かれた危機的な状況はともかく、普通、こんなに綺麗な子に迫られた事が無いから、それだけでもドキドキするよね。

冷泉を上方から見下ろす形で顔を近づけてくるから、彼女の長い髪が垂れて冷泉の体に触れてます。彼女の瞳を見つめ返そうとすると吸い込まれそうな気がするので、思わず視線をそらしてしまうけど、そうすると運悪く彼女の胸元へ視線が行ったため、その胸の大きさに気づいてしまい、さらに目のやり場に困ってしまう。

こんな夜中に二人っきりで迫られているシチュエーションに勝手に興奮してしまっていたり。

 

「提督どうされたんです? ……何か汗びっしょりですよ」

 

「そ、そうかな」

額に手を当てると、扶桑の言うとおり、汗びっしょり。

やばい。動揺が顔に出てるし。

間違って「親切な人だと思った。浅はかだったが、見返りは要求されていない」と答弁してしまいそうになる。

 

扶桑は余裕たっぷりの表情で「久しぶりに二人きりでお話したくなっただけですよ」と微笑む。

その微笑み、今の精神状態だと凄く邪悪に見えます。

 

どうにも落ち着かない。

ソワソワゾワゾワ。じっと見つめられるし。心臓に悪い。

「うむむ。立ち話も何だから、座ったら? 」そう言って立ち上がると、近くの椅子を引っ張って来る。

 

「ありがとうございます。……ところで提督、なんだか喉が渇きません? コーヒーでも入れましょうか?」と、冷泉が応える暇を与えずに。てとてとキッチンへ。

「提督は砂糖ドカ盛りの練乳たっぷりで良かったですよね」

 

おいおい、そんなモノ飲めないよ~。できればブラックでお願い…………。

そんなの言える雰囲気じゃないですよ。

 

「どうぞ……」

出されたコーヒーは、コーヒーと言うより泥水色の、ホントに泥水みたいな、おまけにかなりの粘り気を持った得体のしれないどろどろな奇妙な暗黒物質西か見えない。

「ふふふ。それにしても本当に提督は甘党ですねえ……」にこりと笑う扶桑。「どうぞ」

 

――鬼だろ。

 

「は、はあ……ありがとね」

一口、口に含んでみたもののゲロゲロに甘いし、飲み物と思えないくらいドロドロだし。くっそ不味いですよ、これ。人間の飲み物なんでしょうか、これ?

飲み込もうとしたら喉にひっかかって咽せたし。

 

「どうです、美味しいですか? 」

 

「うむ。我は満足である」

とにっこり。

 

どうやら提督はこんなもんを好んで飲んでいたらしいな。

しかし、ありえん。でもそれを顔に出したらまずい。

うまそうに飲まなければ。オエエエ。

 

「良かった」

扶桑は、別途入れた紅茶を飲みながら、にっこりと微笑む。

 

今すぐそれを奪って飲みたいぞ。

 

「そうそう、ところで提督。……また、一緒にオペラを見に行きたいです。今度連れて行ってもらえますか? 」

 

オペラ何それ? 困るぜ。

いきなりそんな話。どう反応したらいいか分からないじゃない。いきなりそんな話をしてきて、意味が分からないし。

「そ、それって……ど、どこであるんですかね」

とりあえずそう答えるのが精一杯。

 

「大阪でロメオとジュリエットがあるそうです。前から観たかった、帝都バレエ団なんです。是非是非お願いします」

 

「そ、そう……」

ロミオとジュリエットは知ってるぞ。知ってるだけだけどね。帝都バレエ団って何なのか?

 

躊躇する冷泉に寂しげな瞳で、

「やっぱり、駄目でしょうか? やっぱり、そう……そうですよね。今はとても大事な時期ですものね。こんな事言ってる場合ではありませんでした。私の我が儘に付き合うお暇が提督にはおありになるとは思えませんもの。我が儘言って、すみませんでした」

そういてペコリと頭を下げる。

明らかに残念そうな顔をしている。

 

うー。

 

なんか悲しそうな顔をする彼女をこのままにしておけないぜ。それに前の提督だって連れて行ってたんだろ。問題ねーだろ。たぶん。

何が大事な時期かわかんないけど、女の子を悲しませることなんて、どうもできそうにないよ。

このまま放置なんて、できない……よな。それが正解のはず。

「オーケーオーケー。そうかそうか。よしよし、扶桑、連れて行ってあげるよ。俺に任せてくれ。もういつでも連れてったげるよ。どんと任せろ」

と冷泉は明言する。するしかないじゃない!

 

「え!! 本当ですか? う、嬉しいです」

キラキラした瞳で嬉しそうに見つめる彼女にどきりとする冷泉。

 

か、可愛いなあ。

赤面したのを悟られないようにコーヒーをあおると喉に詰まってゲホゲホ。

 

「大丈夫ですか? 」

慌てて扶桑が来る。側に腰掛けて背中を優しくさすってくれる。

真剣なまなざしのその横顔に惚れてしまうぜ。おまけに女の子の良い香りもするにゃ。

 

「約束ですよ、提督」こちらを見つめ甘えるような声で言う扶桑。

 

くーたまらん。たまらんですよ、ホントに。冗談抜きでそんなことを考えてしまう。

 

こんな境遇で失踪したらしい提督は何考えてるんだ。酔っ払って頭が爆発してどっかで入院でもしてるのか。

 

本気で変わりたい。

 

 

「でもでも、提督がお怪我をされたときは本当に驚きました」

扶桑は、冷泉に寄り添ったままで、ささやくように言う。

 

ねえねえ、君君。ちょっと距離近いよ。

病院で肩を抱いた時は過剰反応したのに、今はむしろ積極的にこちらに接近してくる扶桑に少し違和感。

 

「ご、ゴメンネ心配させて。でも、もう大丈夫。包帯も取っても問題ないくらいさ。痛みなんてないもんね」

実際、痛みはまったく感じないし、傷口もほぼ治っているらしい。

 

「良かったです。……でも、提督がはしゃぎすぎたのも原因なんですよ。何か一人で盛り上がって、お酒を飲みまくるんですもの。泥酔して、着任したばかりの島風さんにかなりきわどく、しつこく迫ったりしてましたし、おまけに……わ、私を強引に口説いてきたりで本当に驚かされました」

 

マジですか?

 

そもそも、その場にいなかったから記憶なんてないんだよねえ。

自分がやった事じゃないけれども

「ごめんなさい」

と謝る冷泉。俺であって俺でない提督、あーんた、一体なにやってんの?

 

「けれども……酔った席とはいっても、私は、……とても、嬉しかったです」

頬を赤らめて呟く扶桑。

 

!!

 

少しこちらに体を寄せてくる。体が密着してるしでちょっとパニック。彼女の鼓動まで感じとれるぞ。

そしてどう答えていいか分からない。

全くもってね。

 

扶桑は扶桑でうつろな瞳でこっち見あげているし。

 

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