まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第137話 提督、第二帝都東京へ

数日後―――。

 

いろいろと検討をした結果、冷泉は扶桑の意見を取り入れて、第二艦隊を遠征に出撃させることを決定した。

編成は扶桑を旗艦とし、祥鳳、大井、不知火、村雨の合計5隻によるとする。なお、遠征期間については、1週間程度の短期とした。

 

そして冷泉は、秘書艦加賀に車椅子を押され共に港まで出向き、出発する艦娘達を見送りに来ていた。

 

「お前達の活躍を期待している。えっと、けれど、祥鳳は遠征が初めてだったよな。だから、あまり行動については無理をしないように注意すること。その辺の指示は、扶桑……頼んだぞ」

一列に整列した艦娘達に冷泉が語りかける。そして、扶桑は無言で彼の言葉に頷く。

「うん。……祥鳳、無理をせずに慎重に行動するんだぞ。……大丈夫か? 」

 

「だ、大丈夫です。提督、私だって空母です。頼りなく見えるかもしれませんけど、私を信頼してください」

緊張した面持ちで祥鳳が答える。

冷泉が記憶する限り、彼女にとって初の遠征のはずだ。未知の任務に緊張するのは間違いない。焦ることなく慎重に、他の艦娘と連携して行動するようにと言ったつもりだったんだけど、信頼してないように聞こえたのかな? 少し冷泉は反省した。

それにしても、何で彼女が「空母」の所を強調して言うのかはよく分からなかった。ただ、冷泉の後ろに立つ加賀の方を、チラチラと見ているのだけは、気づいた。もしかすると同じ空母として、加賀に対抗意識を燃やしているのかもしれない。……たぶん、そうなんだろうな、と思う。正規空母の加賀が来てから、彼女もいろいろと考える所があるのだろう。……とはいえ、正規空母と軽空母では役割がおのおの異なる。それぞれの艦に応じた任務があるのは間違いなく、共に競い合って長所を伸ばし合うのはいいんだけど、それがマイナス方向に向かないように注意しないといけないな。いろんな関係性を把握し、それぞれの艦娘が嫌な思いをしないように、いろいろと注意しないといけないな。わりと艦娘って人間の女性と同じようなものなんだな。面倒なことが多いのは、やはり、同じなんだろうか。過去の会社での女性社員同士の人間関係のいざこざを思い出し、つい考えてしまう。そして、ずっと冷泉からの返事を待っている祥鳳に気づき、慌てて答える。

「うん、信頼しているぞ、祥鳳。他のみんなも、無理をせずに無事帰還することを最優先にしてほしい。俺の話は以上だ。よし、第二艦隊、出撃せよ」

 

「了解」

彼女達は冷泉に向け敬礼をすると、それぞれの艦に乗船し、出発していった。

 

 

 

「さて……と。俺も出発するとしようか」

第二艦隊の艦影が見えなくなったところで冷泉が呟く。

 

「……」

 

「ん? どうかしたのか? 」

無言のままの加賀に、冷泉が問いかける。

 

「いえ、特にどうということはありません」

淡々とした口調で返事が来る。こういう言い方の加賀は、は間違いなく何か思うところがあるのである。

 

「……何か不満があるのか? 遠征のことか? それとも、俺が第二帝都に行くことか? 」

どちらにも不満があるかもしれないので、両方を列挙する。予想では、後者の方だろう。

 

神通の改二化について申請をしたところ、承認の連絡は予想以上に早かった。ずいぶんと作業が早いんだなと感心したが、その文書には、いろいろと余計な文言が記載されていた。

 

【軽巡洋艦「神通」の改装については、鎮守府責任者たる冷泉朝陽も同行されたし】

 

 

つまり―――。

改装して欲しかったら、冷泉も一緒に来い……ということだった。

これは軍の司令書ではなく、艦娘たちを統べる勢力からの指示であることは間違いなかった。しかし、艦娘の改二作業について、鎮守府指令官が同行するという事は、これまで無かったはずである。それは、加賀と長門、それから榛名の反応を見れば明らかだった。加賀と長門は横須賀鎮守府で艦娘の改二改装事案を体幾度も験済みだし、榛名に至っては、自らが改二となっている。みんなが口を揃えてそんなこと聞いたことが無い……とのことだった。そもそも、戦争中であるというのに、艦娘の改装の為に鎮守府指令官に来いということ自体が異例中の異例だったようだ。指揮系統の問題が確実に発生するという危険を、あえて冷泉に冒せというのだろうか。

 

いろいろ考えたけれど、流石にそれは難しいと冷泉が返答すると、軍令部からも直接従うようにとの指示が来たのであった。

 

これは、命令であると。

 

けれど、あまりのばかばかしさに暫く放置することにした。その後、何度かやりとりがあったものの、それでもごねていたら、ある日突然、司令室の提督直通電話が鳴った。

表示された番号は番号表にも載っておらず、見たこともないものであった。

 

提督執務室への直通電話は、軍関係者でもほんのごく一部の者にしか知らされていないものである。当然、それが鳴るときは、だいたい碌なものじゃなかったので、取りたくなかった。なので、じばらく聞こえないふりをしていた。けれど、加賀がじっと見てくるので、苦笑いを浮かべて仕方なく出ることにした。

 

電話の向こうから聞こえた声は、可愛らしい女性の声だった。そして、彼女は名乗った。「私は、戦艦三笠です……」と。

 

なんと、艦娘勢力の、知るところのトップからの電話に驚かされる冷泉。

名前しか聞いた事がないが、日本という国が深海棲艦に敗北を繰り返し、最終的に完全包囲された時、どこからともなく現れて、あっという間に敵を撃退し、一定エリアの海を取り戻した伝説の艦隊。……その旗艦こそ三笠である。彼女達の活躍とその後の艦娘の提供により、現在の日本国があるのは間違いない。

 

彼女は、混乱する冷泉に告げる。

「軍部より、あなたがいろいろと理由をつけて断ろうとしているようですので、直接連絡させていただきました。フフフ、面白い方ですね。笑っちゃいけませんけど、なかなか興味深い方だと思います。いろいろと楽しませてくれそうな方みたいですけど、今はその時ではありません。早速、要件をお伝えしますね。……冷泉提督、是非とも帝都に来ていただきたい。あなたに話しておきたい事があるのです」

少女のようでもあり、大人のようでもあり……読めない声だった。探ったところで意味のない事も理解しているが。

 

「三笠さんとお呼びすればいいのですかね。……しかし、私は鎮守府指令官の立場にあります。そんな私が、戦闘とかいった大事でもない時に鎮守府を空けることは、大変難しいのです。その辺りをご理解いただきたいのですが」

 

「来ていただいて損はさせませんよ。これは貴方にとって、とても重要な案件となるのですから」

思わせぶりな口調で誘ってくる。

 

「しかし……」

 

「ねえ、提督……」

唐突に、声色が甘えるような感じに変化する。

「いきなり、改二まで改装される艦娘の気持ちを考えてあげてもらえないかしら。ひとりぽっちで、全く知らない場所に連れて行かれ、体中をいじくり回されるんですよ。それも、何処の誰とも知らないモノに。艦娘が可哀想だとは思いませんか? 」

 

「そ、そんな事を言われても」

確かに、神通の気持ちを思うと不安だろうし、側にいてやりたい気持ちが強いのは事実。たった一人で知らない場所に行って、改造されるなんて、きっと怖いに違いない。心細いに違いない。上司としたら、寄り添ってあげるのが良いに決まっている。だが、それだけの理由で、鎮守府を留守にするわけにはいかない。何時、作戦指令が下るかもしれないし、敵が攻めてくるかもしれないのだから。

 

「うふふ。あなたの心配は杞憂でしかありませんよ。少なくとも作戦指令は、あなたがこちらに来ている間には下る事はありませんし、深海棲艦が鎮守府を襲う可能性は、私達の調査では、ほとんど無いとなっています。それに、何かあったとしても、今の舞鶴鎮守府には戦艦金剛、榛名、空母加賀がいますよ。それに、艦を失ったとはいえ、横須賀鎮守府旗艦だった長門までいるじゃないですか。彼女達がいれば、提督が鎮守府に戻る時間ぐらいは指令無くして充分に対応できますよ」

確かに、彼女達に加え、重巡洋艦高雄と羽黒がいる状態である。余程の艦隊が進行してこないのでなければ護りきることは簡単だろう。さらに作戦指令の件については、艦娘側から日本国に通達すれば、確かに軍事活動は制御することも可能なのだろう。彼女の立場なら、そういった事も可能であることは間違いない。

 

あとは、冷泉の気持ち次第……ということなのだろう。

 

「しかし、世の中に絶対という事はありえません。故に……」

 

「もう一つ大切な事を教えましょう。……あなたがこちらに来てくださるのでしたら、そして私の話を聞いてくれるなら、改装設計図を提供しましょう」

冷泉の言葉を遮るように伝えられたその言葉が決定打となった。扶桑を改二とするために絶対必須のアイテム。実力だけでそれを手に入れるには、多くの戦果を積み上げなければ手に入らないモノ。……どうして冷泉がそれを欲しがっている事を知ったのかという疑問もよぎるが、今はそれどころではない。

 

鎮守府強化に必須なのは、扶桑を航空戦艦へと改装すること。それができれば、鎮守府の力は大きく高まるはず。そして、何よりも扶桑が喜ぶだろう。最近、鬱ぎがちだった彼女の喜ぶ笑顔を見たい。実際のところ、改二化は、それが一番の目的なのかもしれない。なんと個人的な理由と言われるかもしれないけど、元気のない扶桑を見るのは辛かったのだ。次々と新戦力が加入して来ていて、居場所が次第に無くなっている事を気にしているのではないか……。そんなこと冷泉は考えてもみながったが、最近の元気の無さはそれが原因ではないかと思っていた。違う違う。扶桑は今でも舞鶴鎮守府に必要な艦娘だ。言葉で言っても伝わらないだろうから、改二化することでそれが事実であることを彼女に教えたかった。

 

そして、冷泉は神通に同行することを決定したのだった。

 

決定は早かった。その後、僅かながらのいざこざがあったものの……それは、主に加賀と金剛からの苦情対応だった。単に自分たちを連れて行け、という単なる我が儘だったので、鎮守府防衛にお前達の力が必須だということで押し切った。ただし、神通だけでは航海の危険も予想されるということで、護衛として叢雲と長波を同行させるという要求を飲まされた。駆逐艦娘一人もいれば、最悪鎮守府に戻る事になっても帰ることができるから問題無いだろう? と抵抗したものの、体が不自由な冷泉の介護には艦娘一人では大変だということで、二人の艦娘を同行させることとなった。人選は神通に任され、結果、加賀達が主張する案と同じく、叢雲と長波が同行することとなった。

 

任務を告げられた駆逐艦の二人。

叢雲は、話を聞くなり、何でこんなヤツの下の世話をしないといけないのよー! なんで私ばかり嫌なことを押しつけられるの、罰なの? と不平を漏らしたが、

「叢雲、大丈夫よ。提督のお世話はみんな私がするから。けれど、改装中だけは無理なので、あなたたちにお願いするしかないの。迷惑掛けて……ごめんなさいね」

そう言って神通がニッコリと微笑んでお願いすると、どういうわけか二人は青ざめた表情で

「迷惑なんてとんでもないです。喜んでやらせていただきます! 」

と同時に叫んでいた。

 

そんなやりとりを行った後、冷泉は軽巡洋艦神通に乗艦し、二人の駆逐艦娘を従えて第二帝都へと旅立っていったのだった。なお準備を含めた間、ずっと加賀は不機嫌なままだった。

 

それはともかく―――。

冷泉達は鎮守府を出撃していった。

 

港で見送るのは加賀と長門だった。

慌ただしく出立して行く神通達の艦隊を見ながら、長門が呟いた。

「何だか、急に慌ただしくなってきた気がするな。そう思わないか、加賀」

 

「そうね。なんだか……これまでとは違った雰囲気に鎮守府がなっていくように感じてしまうわ。新たな目的に向けて動き出す感じ……といったら良いのかもしれないけれど、どうしたのかしら、何だかこの感覚は好きになれない。……凄く嫌な感じ」

そう言って、何かに怯えるような表情を見せる。僅かだが体も震えている。

 

「うむ。私も何だか違和感を感じる。これをなんと言ったらいいんだろうな。まるで、運命の歯車が動き出したかのよう……だな。抗うことのできない運命に向けて、また、無情にも時は動き始めた……って感じかな。ふふふ、なあに、加賀、怯えることなんて何もないさ。私達はこの時をすでに経験済みだ。どんなに準備しても対応策を練ったとしても、時間ってものは進むしかない。逆戻りさせることどころか、止めることさえできないのだからな。我々は、その中でいかに最善を尽くすことができるか、それだけを考えればいいんだ。もう二度と……二度と過去を後悔しないようにな」

まるで自分に言い聞かせるように長門が呟いた。

 

「そうね。例えどんな結末を迎えようとも、悔いを残さないように……。あの時の悲しみを繰り返さないように」

加賀も頷く。

 

「提督、あなたは……」

加賀は何かを口走ったようだったが、あまりに小声であったため、長門には聞き取ることは出来なかった。冷泉提督を心配しての言葉だと思うが、聞き返すことはしなかった。

どんな事が起ころうとも、冷泉提督は私達がお守りするのだ。それだけは変わることのない最大の目的なのだから。

 

どんな過酷な運命が待っていようとも、提督さえいれば、我らは乗り越えられる。それが叶わずとも、運命を受け入れることができるだろう。

信じる提督と共に。

 

 

 

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