まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第139話 その秘密を知るもの

少しの時間、お互いの自己紹介を形式的ではあるが行った。同行の神通達は一歩引いたような状態で、二人の会話に入ってくることは無かった。叢雲でさえ一言も発さなかった。

 

いきなりの伝説クラスの艦娘の登場の為、冷泉の会話はギクシャクとしたもので、本来であれば問うべき事が多くあったはずなのに、ほとんど聞くことができなかった。なんとか心を落ち着かせて質問を形作り始めた頃、どこからか連絡が入る。

連絡は神通に対するものであり、ドックへの移動許可の連絡だった。

 

「では、神通。改装の為に移動しましょう」

と三笠。

 

「じゃあ俺も行こう。長波、済まないが車椅子を押してくれないかな」

冷泉は随行の駆逐艦娘に指示をする。

 

「冷泉提督、お待ち下さい。……神通はドッグへと移動しますが、人である提督はそこに行くことはできません」

 

「え? それはどういうことでしょうか? 私が同行することは不可能なのでしょうか」

驚きで疑問を投げかけてしまう。

 

「残念ながら、許可できません。もちろん、途中まで同行することはできますよ。けれど、それより先については、許可を得ていない者は入れない領域なのです。これにはあらゆる例外はありませんわ」

やんわりとした口調ではあるものの、それは明確な否定、絶対的な拒否だった。

 

ごねたところでどうにもならない事は確定であったので、冷泉はそれ以上の事は言わなかった。許可された場所まで神通に同行し、彼女を激励すると元の部屋へと戻ることとなる。

 

「叢雲と長波、お前達は神通の側にいてやってくれるか。……それは構わないでしょう? 」

冷泉の問いかけに頷く三笠。

一瞬、叢雲が驚いたような表情を浮かべて何かを言おうとしたが、三笠と目が合い言葉を飲み込んだようだ。

 

「これからの予定について、提督にも話しておきますわね。現在、神通の艦部分はドックへと曳航を開始しています、人部分である神通は、別の施設に収容され改装に合わせた機能調整を施すこととなります。今回の改装は二段階の過程を一気に行うことから、調整には通常より時間がかかる予定となっています。当然、リスクも倍加するということを覚悟してください」

簡単な説明をする三笠に頷く冷泉。神通達も真剣な表情だ。

 

「ということらしい。リスクある改装を命じたわけだけど、命令とはいえ、もし少しでも不安があるなら、正直に言って欲しい」

 

「提督……私は、全然大丈夫です。そんな事よりも早く鎮守府にお戻りになり、指揮をお取りください。提督がご不在の時に何かあったら大変です。私なんかの事はお気になさらないで下さい」

自分のことではなく、鎮守府の心配をする神通。

 

「お前には危険を強いる事をさせるんだ。それも俺の勝手な考えでな。だから、少しでもお前の不安を少なくしてやりたいんだよ。……まあ、俺なんかがいたところで何の役にも立てないんだけれど、俺だって何かをしないといられないんだよ」

 

「いいえ、そんなことありません。私なんかのために、ここまでしていただいただけで、本当に幸せです。本当に嬉しいんです。提督、ご安心下さい。私は、何の不安もありません。提督のために強くなった私をきっとご覧にいれますので、その時を楽しみにしていてください」

そう言って笑顔を見せると、神通達は冷泉と別れた。

 

再び、冷泉は来賓室に戻る。ちなみに、どこからか現れたセーラー服の少女が、冷泉の車椅子を押してくれた。別の少女がお茶を出してくれる。二人ともまだ叢雲よりも年下といった感じだ。

 

正面に腰掛けた三笠が、お茶を口にし、言葉を発する。

「提督……神通は、本当にあなたのことを心から信頼しているようですね。実際、少し度が過ぎるくらいに」

 

「そうでしょうか? 」

唐突な問いかけに少し戸惑いながら答える。

 

「彼女の忠誠心は、日本国でもなく、ましてや我々にもなく……ただただ、冷泉提督のみに捧げられているように私には感じられますわ。……ある意味、我々としましては、警戒すべき事案だと正直に申し上げますわ」

冗談っぽく言ているけれど、わりと本気に聞こえる。実際、彼女の瞳は笑っていないし、探るような視線を冷泉に向けている。二人っきりになったせいで、雰囲気も少し変わったようにさえ思える。

 

「……三笠さんが言われるように、神通がそこまで俺を信頼して貰えてるとしたら、上司としては嬉しい限りですけれども、ね。正直に言いますと、経験が少ないもんですから女性の扱い方が苦手なもので……。女性が何を考えどう思っているかなんて、さっぱり分からないのです。永遠の謎ですね」

とわざとらしく大げさに謙遜する冷泉。

「冗談はともかく、……ここは、なんだか秘密に包まれすぎてるって感じですね。単純に文明レベルの差が凄すぎて分からないだけなのかもしれませんが、うん、一体どうなってるんでしょう。いや、せっかくの機会ですから……もっとはっきりと言ったほうがいいですね。あなたたちの存在そのものについて教えて欲しい。あなた達は何者で、一体、何を為そうとしているのか? 」

 

一瞬、黙り込んでしまうものの、少しだけ口角が歪んだように見えたがすぐに表情を戻す三笠。

「すみませんね。私は、あくまで形だけの代表に過ぎませんわ。ですから、冷泉提督のお望みを叶えることはできないんです。ごめんなさいね」

 

「では、トップになる艦娘は、指示する立場にある方は、誰になるのでしょう? 可能であるならば、その方に是非お会いしたいものですね」

そう言って冷泉は食い下がる。

 

「うふふふ……」

少しだけ彼女は嬉しそうに笑う。一瞬だけ見せた笑顔は、年相応の少女のように見え、ドキリとするほど可愛かった。

「提督は、とても面白い方ですね。こんな状況でも私達を恐れることなく、タブーとも言える事を聞いてくるなんて。本当に興味深いですわ。そして、惹きつけられてしまいますわ」

どう考えてもはぐらかされているようにしか思えない。表情も少女から、より高みにある存在の高貴さを取り戻している。

 

「そんなことよりも、あなたのことをお話しませんか? ここに来る前の、アナタの世界の事を」

そして、いきなり意表を突くような事を聞いてくる。唐突すぎて反応できない。

「驚きましたか? あなたがこの世界の住人ではないことは、私も存じていますわ。あなたのその能力は、日本にとっては戦況を有利にする力を持っていますわ。けれど、その詳細を知らないせいか、あなたは国家に全く優遇されているように見えませんわね。むしろ、全方位的に敵だからけのようにさえ見えてしまいます。うふふ……まったく、日本という組織は、どういうことなんでしょうかね。構造的にも末期症状なのかしらね」

どう考えても面白そうだから聞いているようにしか感じられない、三笠の問いかけに翻弄されてしまう。一体、彼女はどこまで知っているのだろう。……確かに、これほどの力を持つ勢力の存在だから、全て知っているのかもしれない。

 

「うーん、どうなんでしょうかね。俺が嫌われているのは、想像するに原因は俺の性格が悪いからでしょうねえ。そもそも、俺の力なんて物が無くても、艦娘のおかげで深海棲艦とは互角以上の戦いを続けていますし、ぽっと出の俺のような人間を妬むのは、当然でしょう。突然現れたら鎮守府提督になっちゃうんですから。本来なら俺のポジションを引き継ぐはずの者がいて当然のところですからね。彼らからしたら、とんでもない事件ですし、妬まれても仕方ないでしょう。それに、俺の能力なんてたいした力は無いです。いてもいなくても関係ないんじゃないでしょうかね」

 

「そうでしょうか。冷泉提督は慎み深く上品な、日本人の見本のような美徳をお持ちの方なのですわね。あなたが知っている能力以外にも、あなたはいろいろと特殊な能力をお持ちのようです。神通や叢雲達の態度だけで分かります。やたらと艦娘にもてるようですわね。それだけじゃないですわ。先程、あなた達を案内した速吸も、あなたに興味を持ったようですよ。そう言う私ですら、あなたに惹かれているようですし」

からかうように指摘をしてくる。

 

「ははは……お世辞でも嬉しいですね。ただ、俺が上司だから、彼女達も俺を立てるしかないだけですよ。俺の指揮次第で生死を分かつことになるのですから、期待されて当然ですよね。それに答えられるよう努力はしているんですが。なかなか難しいです」

 

「期待に応えるなんて、簡単じゃないですか。あなたの本音を彼女達に言ってあげれば良いだけですよ。それだけで彼女達は勇気づけられますわ。彼女達の想いが伝わって嬉しいはずです。それだけで舞鶴鎮守府の戦力は、大きく高まるでしょう」

最早、冷泉には三笠が何を言っているのかよく分からなくなっていて、混乱の極みだ。

 

「妙に感性が歪ですね、冷泉提督は。妙に鋭いと思えば、驚くほど鈍感ですもの。加賀や神通にとっては、やれやれですね。もっと艦娘の気持ちを分かってあげないと駄目ですよ。女心というものを勉強すべきでしょうね。鎮守府には艦娘が多いからやむを得ない部分もあるのでしょうけれど、鈍感すぎるのもいかがなものなんでしょうね」

何故だか、そう諭される冷泉。

 

「ですから、艦娘の……というか女の子の気持ちは更に分からないです」

と、ぼやく冷泉。

「それ以前に、世界は分からない事だらけです。俺は何も知らないといってもいい。あなた方の存在や、深海棲艦、そして、この世界がどうなっているのか、いろいろと分からない事が多いですけれどね。教えて欲しいものです」

会話の内容をそちらへと移動させようとするのが精一杯だ。

 

「残念ですが、先ほどもお話しましたけれど、私には答える権限がありませんの。……申し訳ありませんが。ただ、あなたの体の事に関しては、回答する権限が与えられていますわ。回答を望まれますか? 」

あっさりと逃げられてしまう。捕らえられそうで捕らえられない……そんな感じだな。けれど、自身の体の状況については非常に興味がある。……というか切迫した状態だ。一生不自由なままで生きて行くには過酷すぎるのだから。話題をはぐらかされているというものの、教えてもらえるなら是非とも聞きたい話だ。艦娘を作り上げるような存在ならば、この不自由な状態からの回復方法も知っているかもしれない。

 

「もちろん、答えはイエスです。もし、俺の体が快方へ向かう可能性があるのなら、どんなことでも構いません。何でも教えて欲しいです」

 

「では、簡易的ではありますが、検査をさせてもらって構いませんか? 一時間もかかりませんから……」

三笠が手を叩くと、ドアが開いて先ほどお茶を出してくれたりした少女達が現れる。ずっとドアの向こうで待機していたのだろうか?

冷泉は、頷くしか無かった。

 

 

検査自体はごくごく簡易な物でしかなかった。MRI検査のような機械に通されたり、採血と一部細胞を採取されただけで終了した。結果もすぐに出るらしい。あの程度の検査で全てを把握できるというのだろうか? それが事実であるのなら、彼女達の科学力を見せつけられた気分だ。

そして、実際に検査室から再び来賓室に戻ると、すぐに三笠が結果を読み上げてくれた。

「貴方の体が麻痺してしまった原因が分かりましたわ。貴方が空母加賀を助ける際に、無数のトゲを体に打ち込まれた事に原因があるようです。あの生命体……あれは植物では無かったわけで、植物でも動物でも無い存在であり、その部位の一部があなたの体の中に残されたままになっているのです。そして、それらは死滅することなく体内で生き延びていました。それどころか貴方の体から栄養を吸い取りながら体の中で成長しています。それは、まるで菌糸が成長するように。それらは神経に沿うように成長を続け、さらには神経を圧迫していることが原因です。残念なことに、これを取り除くことは、あなた方人類の医学では不可能だと断言できます」

 

未来が見えない事実の開示に思わず眩暈がする冷泉。

「確かに……医師からは、この全身麻痺状態は、悪化することはあっても治療ことは不可能だと宣言されています。俺のイメージでは体が動きそうだし治りそうな……実はこれまで割と大きな怪我をしてもかつての世界ではあり得ない速度で回復していた事があったのですけれど……そんな根拠の無い未来が見えていたんだけど、一向に解決しない。なんで巧く治らないのかなって疑問に思ったんですが、結局それが原因というわけか。なかなか厳しい現実ですね」

強がるように言葉にするものの、それには力が無い。

 

「そうですわね。提督、あなたには、あなたが仰るような我々でも把握しきれない未知の力があるようですわ。まさに天の加護といってもいいような力が。けれど、今の状態では体内に入り込んだ菌糸がその力を奪い去り、どんどん体を悪化させているようです。……聞きたくないかもしれませんが、あなたの未来をお教えしましょう。……このまま何ら措置を講じなければ、菌糸は体中に菌糸を伸ばし、やがて脳にまで達して脳を食い尽くし、あなた死へと追いやることになるでしょうね」

淡々と、そして容赦なく訪れるであろう事実を告げる。絶望的な未来を示され、目眩しかしない。

 

「……ショックでしたか? 」

 

「そりゃ、自分の確実な死っていうのはショックですよね」

そう答えるしかない。

 

「けれど、それを避ける方法が私達にはありますわ。どうですか? その話を聞いてみますか? 」

冷泉の動揺を見透かすように、ある意味楽しんでいるかのように三笠が見つめてくる。

 

「凄く魅力的な提案だし、死を前にした俺に選択肢は無いように聞こえますね。しかし、この体を治すとなると当然、あなた方は俺に何か代償を求めるのでしょう? それに答えられるだけの事をする能力が俺にあるかどうか。そして、俺が答えられる提案であるかどうかによりますね」

 

「うふふ。慎重なお応えですね。ご安心下さい、簡単な事です。すべてはあなたの忠誠心がどこを向いているかということです」

 

「それは、どういう事でしょう」

彼女が何を問いかけ何を求めているのか把握しかねる冷泉。

 

「あなたは日本海軍の将校ですね」

冷泉の混乱を楽しむように、淡々とした口調で三笠は言葉を続ける。

 

「はい、そうです」

 

「けれど、あなたは本来の国の、いえ、本来この世界の住人ではありませんわ。つまり、あなたはこの世界の日本という国に対し、なんら背負う物を、そして責任を持たないわけですね」

 

「……確かに、その通りです」

 

「では、あなたの忠誠心というものを、日本国ではなく我々に向けてみるという提案を受けて貰えますかしら? 」

 

「は? それはどういうことでしょう? 俺に日本を裏切り、あなたたちの命令を聞いて行動するということですか? ですが、一体何の為に? あなたたちは深海棲艦に完全に支配されたと思われた状態から今日の状況を作り出すほどの力のある存在でしょう? 日本という国をどうとでもできる力を持っているはずだ。それが何故、俺なんかの力を必要とするのですか。それが全く分からない。その気になれば、日本なんて国を簡単に滅ぼせるでしょう? そうじゃなくても撤退すれば深海棲艦の手により勝手に自滅するはずでしょう」

 

「我々と日本国との間には盟約があるのです。我々は、日本国に対して援助するという義務が。なんでそんな契約を結んだのかと思われるかも知れません。また、そんなもの一方的に破棄すればいいとお思いになるかもしれません。けれど、我々は、契約に縛られるそんな存在なのです。自らに律した事は、どんなに不利になろうとも護らなければならないという。……それはともかく、日本国と関係が巧く機能している時は良かったのです。けれど、彼等は艦娘という私達と同等の力を手にし、深海棲艦と戦えることになった。実際に戦いにおいて勝利もするようになった。そこから彼らの慢心が始まります。彼らは無謀にもすでに深海棲艦との戦いの先を見越すような動きをするようになってしまっているのです。そして、それに向けて日本国内の様々な勢力が胎動を始めています。それについては、あなたもご存じでしょう? 確かに全面対立となれば戦わざるを得ませんが、その時は、私達の仲間である艦娘達と戦わなければなりません。彼女達は人間の命令に従う定めを盟約により与えられています。戦えば私達が勝利するのは間違いありません。けれど、我々としては、同族同志で戦いたくありませんし、せっかく助ける事ができた人類という種を滅ぼしたくもありません。そういった悲劇を避けるために我々の仲間となってくれる人を作っておきたいのです。あなたなら、我々の望む事を成し遂げる能力がありますし、納得して貰えば私達を裏切るような人ではありません。ですから、こういった提案をしているわけです」

 

「確かに、日本の軍隊の上層部は本当に糞ったればかりだから、確かに恩を仇で返すかもしれないな。おまけに海外から侵入した連中も政府の一部に取り入っているようだし。ろくでもないことを考えているのは間違いありませんね。けれど、俺じゃなくても横須賀鎮守府の提督もいるでしょう? 彼なら能力においても人徳においても適任ではないですか? 」

 

「彼は確かにその能力において、貴方に並ぶほどの力を持っています。けれど、彼は彼で野望を持っているようです。……この閉塞的な世界を解放するという大きな野望が。そのためにはあらゆる物を排除する覚悟さえできているようです。おまけに彼は赤城を失って以降、私達に対しては明確な敵意をお持ちのようです。大切な恋人を死なせた存在と、彼の中では決定づけられているようです」

 

「そうですか……」

冷泉は曖昧に答えてしまうが、確かに生田提督と赤城の関係を知るだけに、三笠の言うことも信憑性が高いと思わざるを得なかった。深海棲艦を滅ぼそうとする意志と共に、赤城の悲劇を生み出した三笠達に対しても恨みを抱いているのは間違いないのだから。

「残念ながら、お断りさせていただきます」

と、簡潔に結論づける。

 

 

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