天ヶ瀬中尉に同行した兵士は5名。
所持した武器は、9mm拳銃のみ。普段から射撃訓練をしているとはいえ、敵の所持した武器と対峙するには、あまりに心持たない装備だ。よって極力、敵との遭遇を避けるように移動せざるをえない。
敵の所在は、監視カメラ等によりおおよそ把握できている。爆破等の影響で一部破壊されたものがあるため、完全な情報ではないが、それでも無いよりマシだ。
天ヶ瀬達は、辺りを警戒しながら慎重に経路を選び移動していく。
加賀達がいる提督司令室のある建物までは、直線距離で1キロ。しかし、迂回しながら進み、かつ時折建物の中を移動したりするため、予想以上に時間がかかる。焦る気持ちを堪えながら、慎重に進んでいくしかないのだ。
しかし、非情にも天ヶ瀬のイヤホン越しに悪い知らせが次々と入ってくる……。
「武装した敵の接近を確認。数、……確認できているので5名。監視カメラの映像から武器として03式自動歩槍らしき武器を所持しているようです。すでに加賀達の建物のほぼ至近。……連中、彼女達がどこにいるかを知っているようです。こんなことって……」
兵士はそこで口ごもってしまったが、何を言おうとしたかはすぐに解る。内通者の存在があるということだ。それだけではなく、拷問後惨殺された鎮守府職員の遺体も発見されている。情報を元に更に確実な情報を入手しているのかもしれない。
思わず舌打ちをしてしまうが、すぐに冷静になろうとする。いろいろと考えても仕方が無い。とにかく、接近する危機を加賀達に知らせ、時間を稼がさないといけない。
天ヶ瀬は、無線機を手にした。
加賀達は天ヶ瀬の連絡を受け、自分たちの元へと武装した集団が近づいていることを知らされた。更に、侵入者の目的が鎮守府施設の破壊と更に艦娘の拉致であることも……。今、接近中の侵入者は、自分たちを拉致することが目的としているのだ。
「ああ、こんな時に何を愚かな事を考えているのでしょうか」
天ヶ瀬からの連絡に大きなため息を付く高雄。侵入者の、その大胆でしかし愚かな考えに怒りを隠しきれない。
「何で深海棲艦に与するような真似を考え、行動するのかしら」
「敵が何を考えて行動しているかは、すべてが済んでから検討すればいいのです。そんなことよりも今は、貴方たちの安全が最優先です」
実に冷静な口調がスピーカの向こうから聞こえてくる。天ヶ瀬中尉だ。
「危機は、すぐ側まで近づいています。そちらの建物の玄関口には、すでに敵が到達しています。今から逃げるのでは、間に合わないでしょう。……あまりに危険です。提督司令室なら、少々の攻撃にも耐えられるように作られています。しばらくは持ちこたえられるでしょう。現在、確認したところ、敵の数は5名であり、そう多くはありません。私達が到着すれば、どうにかできる数です。そちらに向かっていますので、なんとか持ちこたえてください」
「わかりました。今、扉に鍵を掛けて、バリケートを作っているところです。しばらくは持ちこたえると思いますので、あなたがたも無理をしないでくださいね」
と、高雄が答える。そして、窓の側にそっと近づき、カーテンの隙間から外を覗く。
確かに何人かの武装した人間が動いているのが確認できた。提督がいる場所だから、警備も厳重だと思って慎重に行動してくれればいいのだけれど……と、希望的観測をしてみる。そうすれば時間を稼ぐ事ができるのだけれど。……残念ながら、鎮守府外周の陸軍兵士達の警備が強固であることと、セキュリティ対策が厳重であることから、ここには警備兵など常駐させていないのだけれど。そもそも武装兵力の侵攻など、まるで考えた事もないのだから、こういった状態であるのは仕方がないのだ。
今、加賀と長門が提督のテーブルを扉の前に設置したところだ。
「……しばらくは、ここで籠もるしかないというわけだな」
長門が呟く。
「それにしても、ここの兵士達の武装は、あまりに貧弱だな。横須賀の兵士達は、もう少しまともな装備だった記憶があるのだけれど……。侵入して来た連中のような重火器を相手にするのは、かなり苦しいんじゃないのか? 」
「たぶん、横須賀だけがおかしかったのよ。あそこはどこの鎮守府より戦果を上げ続けていたから、予算も潤沢だったし、いろいろと設備も豪華だったでしょう? 予算が余っていたから、使う予定の無い武器にもお金を投入できたんでしょう。……もっとも、生田提督が何かを考えて装備させていた可能性も否定はできないけれども。普通は、対深海棲艦の対策は万全といっても、人間が攻めてくるなんて事想定できるわけがないものね。そんな余った予算があれば、他のことに回すのが普通よ。舞鶴に至っては予算不足で、設備のメンテナンスとかもおろそかになっている部分もあるくらいなのだから。……それにしても、深海棲艦との全面戦争中でも、自分たちの欲望のほうを優先し行動するような愚か者がいるのだから、人間っていう存在は本当に理解できないわね」
加賀が呆れたように言う。
「とはいっても、我々には人と対峙する権限は与えられていないわけだ。侵入者たる連中に対してでも、無抵抗を貫くしかできないのだからな……。中尉達のがんばりがなければ、わけのわからん連中に拉致されて、どんな運命にさらされるか分かったものじゃない」
普段ならこういった環境に置かれることを想像して興奮するはずの長門が、怯えたような態度を見せる。確かに冗談を口にできる状況では無いのだ。
「あら、あなたが大好きなシチュエーションではなくて? 」
こんな時でも、からかうように加賀が言う。
「ふっ。私にも選ぶ権利があるのだ。冷泉提督にならどんなことをされても興奮するんだろうが
あんな気持ち悪い連中に我が身を自由にされるくらいなら、舌を噛みきって死んだ方がマシだ。もっとも、自由に死ぬ事も許される訳では無い身ではあるのだけれどな」
そう言って二人は笑う。
そんな二人を窓際に立ち、カーテンの隙間から外を警戒していた高雄が呆れたように見る。敵襲により多くの死傷者が出ているし、施設に対する損害も相当なものだ。更に、自分たちは人間達に拉致され、どんな目に遭わされるかるか分からないという危機的状況。こんな時でも彼女達は動揺することも無く、普段とあまり変わらない感じでいられる。
いかに危機的状況であっても、決して悲観的にはならない。横須賀鎮守府において、何度となく修羅場を乗り切ってきた彼女達だからこそ到達できる境地といえるのだろう。どのような心の持ちようで居ようとも、結果は大きく変わることは無い。そうであるならば、余計な事を考えて平静さを失うよりも、普段通りの心持ちにて対応する方が、発生する事象に冷静に対処できる。悲しみ嘆き怒り泣くことは、今為すべき事では無い。全てが終わってから為せばいいのだから。言うは易く行うは難しなのだけれども。そんな領域にまで達している彼女達を尊敬の眼差しで見てしまう高雄。
けれど、現在の状況は、彼女達がくぐり抜けてきたどの修羅場よりも過酷かもしれない。なぜならば、自分たちでこの危機を突破することができず、人任せでしかいられないからだ。それについては、彼女達も高雄と同様に歯がゆい部分を感じているのかもしれないけれど。
「冗談はそのくらいにしておいた方がいいわ。……敵が動き出した」
と高雄は警告を発した。
目視できている敵は、6人。天ヶ瀬からの情報よりは、1人多かった。
1人が外で待機し、残りが進入をして来るつもりらしい。
全員が小銃らしきものを手にしている。これについては情報通りだ。旧式とはいえ、どこであんな武器を手に入れたのだろう? 所持した武器はあれだけではなかろう。そんな敵に拳銃だけで立ち向かうのは、かなり困難ではないか? 数の上でも装備でも、こちらに向かってきている天ヶ瀬中尉たちが不利だ。
敵の情報については、すでに長門より天ヶ瀬達に装備も含めて秘匿回線を用いて情報は伝わっている。そして長門より、この状況からの脱出についての意見が伝えられる。秘匿回線を使っていても
傍受される可能性を予想し、暗号により会話は為される。こうも簡単に鎮守府内に武装兵力が進入できたことから、かなり大がかりな組織が動いていると思われる。だとするならば、秘匿回線を使おうとも、それを受信できる方法を知っている可能性が高い。よって、艦娘と舞鶴鎮守府幹部しか知らない暗号を用いることとする。
作戦は実に単純明快。
現在の状況から、一人を残し、敵の全部がこちらに上がってきている。目の前のお宝(艦娘)を自分の手で手に入れたいという気持ちが強いのだろう。圧倒的有利な状況であると考える彼等にとって、先を越されると言うことは取り分が減る事を意味するらしい。だからこそ、我先に突入して来るのだ。軍事訓練を受けた者とは思えない、あまりに無軌道で愚かの連中であることは間違い無い。彼等は、何らかの目的を隠蔽するためだけに投入された「使い捨て」の存在であることが推測される。敵勢力の本当の目的は不明だし、推測している時間は今は無い。今はとにかく、ここから逃げ出す事が先決。
階段を上って来ている敵がここにたどり着くまで引きつけ、下で警戒している兵士を天ヶ瀬達が沈黙させる。重火器を持っていようとも5人がかりで行けば鎮圧は容易。そして、艦娘達はそのまま窓から下に飛び降りるだけで済む。あとは、彼等とともに、逃走するだけだ。最上階にある執務室から下まで降りたところでもう自分たちは逃げおおせているわけだ。
艦娘の常軌を逸した身体能力を知る者は、一般人には少ない。提督司令室が四階にあることから逃げ道は無いことを知り、逃げ道は無いはずと油断している連中だからこそ、出し抜けるのだ。
すぐにこの階に侵入者が来たことが解る。
敵は、この建物に人が居ないことを知っているかのように、一直線に上がってきたようだ。かすかに聞こえてくる声からも、ずいぶんとリラックスしている事が感じられる。敵の親玉から警備状況を知らされているのだろうか。獲物を完全に追い詰めた余裕。艦娘が人間に危害を加えられない事を知っている余裕。この建物に警備兵がまったく居ないことを知っている余裕。
これで艦娘達の身体能力を知られていたら、ちょっとまずいかもしれない……。そんな嫌な予感を必死に意識外へと押しやる。
そして、ドアが開かれようとする気配。
当然、鍵が掛かっているわけで、さらにバリケードを積み上げている。何度かドアを蹴る音がするが、すぐにびくともしないことに気付いたようだ。銃撃程度ならしばらくは耐えられる頑丈さをこの扉は持っているのだ。
「おいおい、鍵がかかってるじゃないか。……ドアを開けてくれよう」
「今すぐこの扉を開けてくれたら、俺たち何もしないよ。さあ出ておいでよ……子猫ちゃーん」
情けない声、とぼけたような声が向こう側から聞こえる。同時に周りで大笑いするゲスな声が追いかけるように聞こえてきた。
「早くしないと、お仕置きしちゃうよん」
また爆笑。
そして、何度かドアを叩く音。
「早く開けてくれないと、ちょっと手荒に扱うことになるよ。……そこにいるのは、加賀と長門、高雄だったよな。ふふふふ、ちょっと見ろよ。こいつら巨乳ばっかじゃん。すげーよ」
「ちょ、待てよ。俺にも見せろよ」
「まあまあ落ち着けや。逃げたりしねえからよう。ほっほう。おまけに、こいつらすげー美人ばっかじゃん」
どうやら携帯端末か何かで加賀達の画像を見ているような気配。彼等が何を考えているのか解ってしまったのか、拳を握りしめる加賀。
そんな時、艦娘達の意識に問いかけてくる者があった。
「……ねえ聞こえる? こちら、叢雲よ。何か連絡があったみたいだけれど、何かしら? 」
こちらの状況を全く知らないせいか、少し面倒くさげな声だった。
「もう、あなた。今まで何をしていたの? ずっと連絡をしようとしていたのに」
返す言葉は批判的だが、加賀は安堵の表情を浮かべている。
「だって仕方ないじゃない。もともとここはセキュリティが厳しい場所なんだから。おまけに、さっきまでいた場所は、更に厳重に外界から遮断されていたんだもの」
と悪びれた様子もなく叢雲が答える。ちょっと前なら、加賀の批判的な口調に反撃していた彼女だったけれども、加賀の性格になれたせいもあり、もはや気にもしていないようだ。
彼女の話によると、第二帝都の特定エリア、叢雲がいた場所においては、艦娘間相互通信でさえできないように設定されているようだ。どれほどの機密情報があるというのだろう? そもそもそんなところで何をしていたんだと疑問も感じるが、それは後回し。
叢雲がそのエリアから離れ、一般エリアに入ったことから今は繋がり、加賀、長門、高雄の全員が会話可能となっているわけなのだ。ゆえに叢雲と加賀の会話はすべて長門、高雄にも聞こえている。
叢雲が語ったところによると、どういうわけか冷泉提督が手術中であるとのことだった。
「どうしてそんな事になるの? 提督は神通の改二に同行してるんじゃなかったの? 」
と、思わず高雄が疑問を投げかける。
「神通さんはドック入りしているわ。で、その後、三笠さんと提督が話す事になって、提督が寝たきりになっている原因とかを教えてくれて、自分たちなら治療できるってなって……。そんなこんなでトントン拍子で話が進んだのよ」
ちなみに戦艦や空母に対してもタメ口である叢雲ながら、伝説級の艦娘である戦艦三笠にはさんづけで呼んでいる。何故、同じように神通に対して「さん」づけで呼んでいるのかは不明だけれど、何となくは分かる。普段から、神通に対しては苦手意識があるらしく、それどころか、わりとびびっている。
そんなことはさておき、どうやら、提督の背中を裂いて、脊髄中の神経を弄り回復の障害となっている因子を除去するというかなり難易度の高い事を行っているらしい。これにより、現在、冷泉提督が陥っている身体的不具合は解消されるとの事だ。つまり、元気な頃に戻る事ができるらしい。どういった事をすれば、あの状況が改善されるのかは叢雲は聞かされていないようだし、聞かされても理解できないだろう。けれど、提督が元気になることは、こんな状況であっても嬉しい事だ。
冷泉提督が陥っている状況が改善されると聞いて、加賀の表情に変化が生じたのを高雄は見逃さなかった。すぐに元の表情に戻ってはいたのだが。けれど、ずっと気にしていたんだろうな、と思う。提督はそんなことをまるで言わないし、彼女だって全く表に出さないからなあ。
当然、高雄も嬉しくなる。
「そうなの! 提督の怪我が治るっていうの? 嘘、信じられない。……やったあ」
思わず声に出し、喜びを発してしまう。
「うむうむ。流石、提督だ」
と、長門も頷いている。
「提督の事は解りました。……今はその事は後回しよ」
素っ気なく答えると、加賀が話を切り替える。実に素直でない。
「こちらの状況は、最悪よ」
現状を彼女に伝える。現状は予想以上に悪く、提督にはすぐにでも戻ってきて欲しいし、指示もしてもらいた旨伝える。
すぐに冷泉に伝えるとのことだが、手術中はさすがに近づけないし、近づかせてくれないと思う。。だから、なんとしても持ちこたえて欲しいと叢雲は答える。
仕方ないとは解っていながらも、「なんとかならないの」と思わず愚痴る高雄。言わずには居られなかったのだ。だから、誰もそれについて咎める事も無かった。
「おらおらおらー」
唐突に怒鳴り声が聞こえてくる。ずっと無視して放ったからしにして無視していたせいか、侵入者達がだいぶお怒りになっている。
「何なの下品な声が聞こえるけど」と叢雲。
鎮守府に侵入した連中が加賀達を捕らえようとしているのだと伝える。そんなに危機意識は持っていないから安心して、と加賀伝えるが、それでも叢雲は心配そうだ。
「開けないとバズーカぶっ放すし、俺たちの股間のマグナム44が、おまえ達に火を噴くぜ! げへげげへへ」
相変わらず外では下品な発言と共にゲスな笑い声。
「何、あの気持ち悪い連中は? ぶっ殺してやろうかしら」
叢雲が素直に感想を述べる。
加賀は叢雲に、
「安心して、自分たちの身は自分たちで護るから。けれど、扶桑達の事は私達ではどうにもできない。提督と話す事ができたら、こちらを優先してと伝えて頂戴。このまま彼女達を逃がしてしまったら、大変な事になってしまうわ。提督だっていろいろ思うところがあると思うし。とにかくこの事実だけは最優先で伝えて。後は提督のお考えに私達は従うから」
そう言って通信を切る。
何か叢雲が言おうとしていたようだが、全く無視した。……これはこれで後が怖い。
けれど、こちらはこちらでいろいろと大変な状況なのだ。あまり長々と話していたら、奴らが進入してくるだろう。
「本気で扉を吹き飛ばすつもりみたいね」
外の様子を探りながら加賀が現状を無線で伝える。すでに叢雲の事も提督の事も無かったような対応だ。
「近くに待機しています。そのタイミングに合わせて行動しましょう」と天ヶ瀬。
「了解です」
しばししての爆発が発生。分厚いドアがついに崩壊する。
加賀達は事前に壁に張り付くように隠れていて、衝撃を回避する。爆発の衝撃波で窓ガラスが吹き飛ばされ、白煙が部屋中に舞い上がる。
扉は崩壊したが、まだバリケード等があるため、人一人が入れそうな隙間があるだけだ。敵はもっと強力な武器を持っているはずだが、ドアを壊す程度の爆薬に制限したのだろう。威力だけを求めて部屋を完全に吹き飛ばし、艦娘まで死なせたら大変なことになるからだ。それぐらいの理性と知識は持っているようだった。
「みいつけたあ」
一人の男がその隙間から頭を突き出し、キョロキョロし、獲物を見つけて嬉しそうに嗤う。ブツブツで汚い顔だ。
目があった加賀が明らかに不快そうな顔をした。
「俺たちの子猫ちゃあん。……うおおお、まじで綺麗な子ばかりじゃんかよう」
「おい、本当か、さっさと行けよ。俺たちにも見せろ」
そう言ってぐいぐいと男を押し込む。
「おいおい、止めろよ止めねえか」
慌てたように顔を突き出した男が叫ぶ。
艦娘を至近で見たのは、恐らく初めてなのだろう。艦娘の完成された美しさを間近に見て、興奮しているのが解って寒気がする。その興奮は他の男達にも伝わっているようだ。
「今すぐとっつかまえて、俺たちの物にしてやっからよ。もう俺っち、ギンギンや」
「醜い。……実に醜い生き物なのかしら。欲望を全面に出した人間とは、これほど汚いのかしら。こんなのと比べたら、あの提督ですら、天使みたい」
怯えたように高雄が呟く。
そんな彼女を横目にし、加賀と長門は消火器を手に密かに歩み寄る。そして、一気に消化剤を男に向けて放つ。
「ぎょえええええ」
消化剤の射出音と男達の悲鳴が部屋中に響く。そのおかげで外で発された銃声がかき消されたようだ。
「きっさまらあ! 捕まえたらまずはヒイヒイ言わせちゃル、ゲホゲホ」
男の怒号と咳き込む声。
「今よ」
それを合図に、三人は同時に割れた窓へと駆け出す。そして何の躊躇もなく、頭から窓の外へと飛んだ。
地上まで約15メートル程度……人間なら当然に命に関わる高さ。余程の強運が無ければ死に至るはず。けれど艦娘である彼女達はくるりと一回転し、ふわりと着地する。
路上には一人の男の死体が横たわり、それを囲むように銃を持った海軍の軍服を着た兵士達が居た。
「港まで急ぎましょう」
すぐさま女性士官が駆け寄り、声を掛ける。
上にいる連中が司令室に侵入するまでそれほどかからない。彼等に発見されぬ間にここから逃走しなければならない。
「了解です」
艦娘と彼女達を護るように位置する兵士達は、速やかにこの場を離れていくのだった。
「ちょ、ちょっと……」
と長門。
「ふざけている時間は無いのよ。急ぎましょう」
被せるように加賀が言う。
「酷いなあ。おまえはもう少し気配りってものを覚えた方がいいぞ。でないと、そんなおまえの相手をさせられる提督が可哀想だ」
冗談めかせながら長門が反論する。
「知らない。こんな変態は放っておいて、さっさと行きましょう。私達には為すべき事が他にもあるのだから」
少し怒ったように加賀が歩き去る。慌ててみんなが彼女を追う。長門が少し遅れるが、すぐに追いついて来た。
「長門さんどうかしたの? 」と高雄が心配そうに声をかけるが、「大丈夫、何もないさ」そう言って彼女は高雄を追い越し、加賀を追いかける。
少し足を庇うような動きをしているように見えたが、その時はそれ以上考えることなくみんなの後を追う高雄だった。
加賀の言うように、急ぎやらねばならないことが山積しているのだから