まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第152話 アナトの天秤

避難を完了した加賀達から、叢雲に対して交通信があった。そして、心配していた叢雲に彼女達たちの無事を報告してくれた。ほとんどの艦娘も避難を完了していているとのことだった。

 

「そう、それは良かったわね」

それを聞いて、言葉は素っ気なくしか言えなかったけれど、叢雲は心の底から安心した。

 

しかし、現在、榛名の消息が分からない状態であり懸命に捜索中であることも伝えられる。それから、今更感があるものの、陸軍の応援部隊が到着し、現在、敵の掃討作戦を行っているらしい。部隊指揮系統に混乱があり、状況の把握が遅れた結果、援軍に駆けつけるのが遅れてしまったと図々しくもほざいていたらしい。

 

「増援部隊の事はともかく、榛名の件は、心配だけどどうしようもないの。いくら呼びかけても応答が無いの。全く、何度も注意してたのに、よりによってこんな時に行方知れずなんて。もっときつく言っていればよかった。……彼女、少し行動に変なところがあるから」

と、ぼやくように加賀が呟く。どことなくそこには諦めにもにたものが感じ取れたが、叢雲は何も言わなかった。

確かに、榛名は鎮守府に着任してから、どうも行動がおかしかった。それは、みんなが認識しているわけではあるけれど、特に作戦に支障が出ているわけでもなかったから、それ以上は誰も追求しようとはしなかった。……呉鎮守府でずいぶん辛い思いをしていたという噂を聞いていたため、深く彼女に干渉しづらい雰囲気があったのも事実である。

 

どちらにしても、遠く離れたここからでは叢雲に出来ることは何もない。心配ではあるものの、陸軍および鎮守府守備隊の連絡を待つしかないわけだ。

 

鎮守府の被害状況もまだまだ全容は明らかではないらしい。それでも、加賀は言葉を濁すが、彼女達の様子からも、被害は甚大なようだ。

 

叢雲は鎮守府の状況はもちろん心配であったけれど、それ以上に敵対勢力に離脱した仲間の事の方が心配だった。けれど、現状はまだまだ鎮守府の被害状況の情報を収集中である事から、扶桑達への対処はその次にならざるを得ない。加賀達にこれ以上催促しても、酷というものだろう……。

 

「とにかく……一刻も早く、冷泉提督と一緒に鎮守府に帰るようにするから」

意地でも冷泉提督を連れて鎮守府に戻る事を宣言する叢雲。司令官無しでは、何もできないはずだからだ。

 

「提督は、手術中ではなかったのかしら? 」

と、呑気に問う加賀に対し、

「そんな事言っている場合じゃないでしょう? たとえ手術中だろうとなんだろうと、みんなが危険なんだから、意地でも連れ出してそっちに向かうわ。傷口が開いて腸がはみ出てたってガムテープで貼りゃあ、なんとかなるでしょう! 」

 

「な、何を馬鹿な事を言っているの。私達の事なんて、後回しで構わないのよ。何よりも提督のお体を最優先させるようにしてあげてちょうだい。こちらのことは、私達でなんとかするから。……いえ、しないといけないのだから」

健気に提督の身を案じる加賀。鎮守府や自分達の事より冷泉提督を優先している。そんな彼女の姿を見て……何故かイラッとしてしまう叢雲。

 

「何言ってるの? そんなに甘やかしたら駄目でしょう。指令官なんだから、組織のトップなんだから鎮守府の危機なのよ、すぐ動かないと」

 

「駄目よ。提督に今の状態を伝えたら、あの人は意地でもこちらに来ようとするわ。たとえ自分の体がどうなろうとも。けれど、提督にこれ無理なんてさせられない。今まででさえ、あんなに無理をしているのに、もうこれ以上の無理なんてさせられないわ」

 

「フン! アンタの我が儘のせいで提督があんな風になった事を気にしてるの? 何を今更そんなことを言うの? 」

と、叢雲は思わず口にしてしまう。加賀の言葉にどうしようもなく苛立ってしまい、感情を抑えられなかったのだ。

 

「叢雲、それは言い過ぎだぞ」

たまりかねて長門が会話に割って入る。

 

「ご、……ごめんなさい。そんなつもりで言ったんじゃ」

叢雲は、弱々しい声で謝るしかできなかった。そんなこと分かっているし、聞くまでも無いこと。聞いてはいけないと思っている事なのに、口走ってしまったのだ。そして、そんな自分に唖然とする。

 

加賀は一瞬ではあるものの、辛そうな表情を見せたが、すぐにそれを押さえ込み平静さを装う。

「事実は事実として認めます。けれど、その事は関係無いわ。提督は手術中なのでしょう? あなたの話では、かなり大がかりな……。だったら、仮に手術が終わったとしても、麻酔が解けるまで時間がかかるでしょう? それに手術後にいきなり長距離を移動させることなんて、無茶でしかないわ。術後の経過観察だって必要だし、すぐに出発なんてできるはずないわ。させられるはず無いでしょう? 」

 

「そんなことは言われなくっても分かってるわ。だったら、鎮守府はどうするの? 敵の……深海棲艦じゃなくて人間っていうのは皮肉なものだけど、攻撃で大混乱になっているんでしょう」

 

「大丈夫。天ヶ瀬中尉をはじめとして、優秀な鎮守府の人達が今も懸命に働いてくれている。敵兵力はすでに鎮圧済みだし、消火作業や死傷者の収容も進んでいるわ。確かに、被害は尋常では無い事は認識している。そして、現在、鎮守府から外洋には出られない状態だわ。砲撃によってゲートが破壊され、修理をするにもまずは、それを撤去する必要があるのだから。鎮守府の工作船は、何者かによって爆破されて、港内に座礁してしまっている、修復できるかどうかもわからないけれど、使えるとしてもすぐには無理ね。かといって外からクレーン船とかを持ってくるには、軍部と民間企業との協定締結が前提だし、それ以前に外洋での作業は深海棲艦の攻撃の可能性があるから、艦娘による護衛無くしては危険が大きすぎる。余所の鎮守府から艦娘を派遣して貰うにしても、やはり時間がかかるわ。いろいろと障害が多くて、鎮守府の復興には時間がかかるけれど、提督がいなくてもみんなが力を合わせれば、なんとか乗り切れられると思うわ。いいえ、きっと大丈夫。だから、提督に無理をしていただく必要はありません。もし、提督が目を覚まされても、私達の力で乗り切るから大丈夫。部下を信じてくださいと伝えてください」

 

「じゃあ、じゃあ扶桑達はどうするの? そっちも大問題なのよ! このまま行かしてしてしまっていいの? 彼女達の行方を見失ったら、もう二度と彼女達を救うことはできないのよ。少なくとも何処へ行ったかくらいは分かるようにしておかないといけないわ。それに、今ならまだ彼女達を説得できるかもしれないんだから」

 

「扶桑達の追跡については、もちろん何も考えていない訳じゃないわ。鎮守府の艦娘は出航できないけれど、現在、広報担当に配属されている夕張と島風は、宮津港を母港に変更していたでしょう。だから、今回の攻撃の影響は受けていないの。だから、彼女達に扶桑達の追跡させようと考えている。今、天ヶ瀬中尉が決裁に回ってくれているわ。承認がが得られれば、すぐにでも指令を発出するつもりよ」

 

「駄目!! そんなことは、駄目」

突然、必死になって声を荒げ、反対してしまう叢雲。

 

「……何故? 」

驚いたように問いかける加賀に、言葉を詰まらせてしまう。

軽巡洋艦夕張は、過去の戦闘により船体の仙骨にあたる部分がが破壊されているため、戦闘には耐えられない状態だ。加賀の言い様からするに、このことも彼女は知らないのかもしれないのだろうか。それは未確認なので何とも言えない。

叢雲が知られたくないのは島風の事だ。駆逐艦島風の状況は、叢雲以外の艦娘は知らないのだ。島風は加賀を救出する際に、限界を超える連続稼働が原因で機関部に軍艦としては深刻なダメージを受けている。もはや戦闘に耐えられない状況になってしまっているということを。

そのことは、絶対に加賀に知られてはならない。それは島風と約束し、強く口止めされている事なのだから。

 

「……」

言葉を詰まらせてしまう。

夕張の件はともかく、島風が加賀を助けるために戦闘に耐えられない状況になってしまった事を、加賀は知らない。いや、冷泉ですら知らされていない事なのだ。そんな事を明らかにできるわけがない。

 

「何か不都合な事があるというの? 」

何も知らない加賀が問いかける。知らないだけに、その追求は厳しく感じられる。本当の事を言えば、どれだけ楽だろう。しかし、それは絶対に言っちゃいけない事なのだ。

 

「そ、その、……敵艦隊は、そうね数が多いわ。戦力差は明らかでしょう。もし、二人の追跡が発覚した場合には、巡洋艦と駆逐艦の2隻では、攻撃を受ければ沈められる危険性が高いでしょう……。仮にそうならなくても、戦闘で損傷を受ける可能性が高いわ。そんなことになれば、今後の鎮守府施設の補修に支障が生じるでしょ。工作船を護衛する艦娘が必要なのは、さっきも言ってたじゃない。余所の鎮守府から艦娘を借りるにしても、他の鎮守府だって今は手一杯だと思うし。それに、提督はよくわかんないけど軍部に敵が多いわ。きっと邪魔が入るはず。だから、他の鎮守府をあまり当てにはできない。そういう状況なんだから、余計なリスクを冒さない方がいいに決まっているじゃないの」

白々しいけれど、そう言うしかない。

 

「……確かに、そうですね」

拍子抜けしてしまうが、加賀も案外素直に納得したらしい。

「ならば、仮に提督が意識を取り戻されたとしても、結局のところ扶桑達の追跡は不可能ではないのでしょうか。外洋に出られる戦力は、あなた、長波、夕張、島風です。神通は改装中ですから、まず間に合わないでしょうし。これでは、あまりに戦力が乏しすぎます」

と、加賀に否定されてしまう。

「すべては、提督が意識を取り戻され、鎮守府に戻られてからになりますね。鎮守府より出撃が可能となった際に行動するしかありません。今、扶桑達を追わなければ、もう取り返しの付かない事になるかもしれません。けれど、現状ではどうすることもできないのですから。どうしようもない事をどうにかしようと考えても、無駄なだけです。結論は出ているのですから。私達は与えられた条件の中で何ができるかを考え、最善に近い事を行うしかないのです。ですので、私達は提督が戻られるまで、鎮守府の復興に専念することにします。叢雲も提督のお世話をきちんとしてあげてください。念を押しておきますが、決して焦らすような事はしないで。鎮守府の事は、私達に任せてと伝えてください」

言うべき事は言ったという感じで、通信は切られた。

 

そんなんで、いけるかっ! いけるわけ無いだろう!! 

 

叢雲は、苛ついて爆発してしまう。机をどんどんと両手で叩きつけてしまう。

 

何を悟りきったような事を言っているんだ、あのホルスタイン女は! 乳にばかり栄養が行ってるせいで頭に栄養がまわっていないに違いない。。それで、複雑な思考ができなくなってるんだ。

上手く島風の話題を逸らすことができたというのに、むかむかして我慢成らない。

「くそう! 提督をたたき起こしてでも帰るんだから! 」

そう言いながら提督の病室へと突撃する。わざとドアを強く開ける。

 

すると、そこには何故か、あの戦艦三笠が居た。

そして、冷泉がベッドに横になっていた。

 

彼は、まるで死んだように眠っている。眠る冷泉提督の寝顔を見て、意志をくじかれそうになる。安らかそうに眠る冷泉提督。もし、自分が彼を起こせば、また彼は戦いの中へと引きずり込まれてしまう。彼は鎮守府に着任してからずっと走りっぱなしだった。自分の体を切り刻みながら戦い続けていたといってもいい。もし叶うならこのまま眠らせてあげたい。本心はそうだけれど、今は冷泉提督がいないとどうにもならない事態なのだ。

 

「冷泉提督を迎えに来たのですか? 」

静かに三笠が語る。叢雲は緊張を隠せない。それでもなんとか頷いた。

「……見てください、実に幸せそうな寝顔ではありませんか。ずっと思い詰めたままの苦しそうな彼の姿が今はありません。重荷を背負い続け必死になってみんなの期待に応えようとがんばっていたのですね、彼は。限界を超えてもなお、戦い続けようとしていたようです。今はその重圧から解放されて、安らかな眠りの中にあるのです。もう少しこのままにしておいて上げたいとは思いませんか? 」

とても優しい口調で問いかけてくる三笠。

叢雲は、気圧されそうになるのを必死で堪える。緊張感が半端無いのだ。

本来、叢雲程度の艦娘では三笠と話す事どころか、同じ部屋にいることさえできないのだ。所謂、オリジナル艦娘といっていい彼女達は、艦娘と呼ばれる存在の中でも別格。戦艦と駆逐艦といったような序列とは違う、全く異なる序列が存在しているのだ。遥か雲の上の存在なのであった。一生話す事は愚か、顔を会わすことさえなくても不思議ではないのだ。艦娘の中での序列は厳しいのである。人間の元に使わされている艦娘の間ではもっとラフな関係が築かれるけれど、こちら側にいるオリジナルと呼ばれる艦娘とでは、天と地ほどの格差があるのだ。

 

「私は……私なんかが提督に指図できるような立場に無いことは分かっています。けど、……今、舞鶴鎮守府には提督が必要なんです。提督に今すぐにでも来て欲しいんです。私達の前に立ち、指示をしてもらいたいんです」

 

「情報は、私の方にも少しは入ってきています。艦娘の反乱ですか……。扶桑がそんな事を考えるなんて、信じられませんが事実は事実として受け入れなくてはなりませんね。確かに、舞鶴にとっては一大事でしょうね。あなたの言う事ももっともなことです。指揮官不在の状況では、混乱は必至でしょうからね。鎮守府の総意もその通りなんでしょう。けれど……」

そう言って三笠は、叢雲を見つめた。

叢雲は気圧されないようにするが、耐えきれないように目を逸らしてしまう。向こうは威圧するつもりなんてまるでないのだろうけど、ただ見られるだけで息苦しくなるのだ。

「冷泉提督の体の状況、あなたも知らない訳では無いでしょう? 彼はその改善のため手術を受けたばかりなのです。まだ傷口を縫合したばかりで、傷がふさがっていない状態なのですよ。今、彼に無理をさせるような事をしたら、いいえ、それどころか、あなたたちは戦いに連れていこうとしているのですよね。私たちと人間では、体の作りが異なるので明確に断言はできません。けれど、もし戦闘中に何かあったとしたら、彼の体は今度こそ持ちこたえられないでしょうね。何かあった時には冷泉提督の命の保障はできませんよ。もし、そんなことになっても、あなたは構わないと言うのですか。自分たちの為に、彼を犠牲にするのですか。……手術するにあたって検査をしてみました。……彼の体は、想像以上に酷い状態になっています。恐らくは領域に長きに渡って滞在し過ぎた事が原因と思われます。人間にとって、あそこは本来居るべき場所ではないのでしょうね。生田提督も自ら領域に乗り込んで行っていますが、それも控えさせなければならないでしょう。……それは別の話ですね。つまり……それだけ領域の瘴気による体の汚染度が酷いのです……。それだけではありません。深海棲艦の意志に取り込まれた加賀を救う際に、体内に打ち込まれた胞子が蓄積された瘴気を喰って成長し、彼の体を全身の隅々に至るまで胞子が蝕んでいたのです。総力を挙げた体手術を行い、胞子の除去はおおよそできたはず……ですが、まだ予断は許さない状況です。常時監視を継続し、不測の事態に備えておかないといけないでしょう。彼の全身麻痺は時間はかかるものの、やがて解消されると予測されています。それでも体に蓄積したダメージは取れないでしょうし、蝕まれた体の回復には、相当な時間がかかると思います」

 

「それは、……どれくらいの期間が必要と言うのですか? 」

 

「ふふふ、興味ありそうですね。そうですね、軽く見積もっても1ヶ月は必要ですね。全身の瘴気を無害化する必要がありますから。そして、それができる施設は、ここ以外にありません。だから、施術士としての見解ですが、この施設から出すことは認められませんね。それから、彼が回復したとしても、もう領域に入ることは彼が死んでもいいと考えるので無ければ、やめておいたほうがいいでしょう。今までは奇跡的に死なずに済んだ訳ですが、本来なら、長時間の領域での滞在は人間にとっては、死しか無いのですから。……あなた方は、彼の事を単なる形状の上司としてドライに考えているのでしょうか? どうせ何年かで異動するし、もしかしたら戦闘で死ぬかもしれない。そんな変わりの効くパーツか何かのように思っているんでしょうか。……うむ、なるほど!! たしかに、その方がお互いにとっていい事でしょうね。そこまで割り切っての判断であるなら、私には止めることはできませんけれど」

 

「そんなこと、……そんなこと考えてる分けないじゃない」

思わず叢雲は叫んでしまった。

「冗談でもそんなこと、言わせない。そんな薄情な事を私達が考えているとでも! 」

 

わざとらしく驚いたように三笠が見つめてくる。

「あら。では、どう考えているのかしら? お互いに利用し合うドライな関係で無くて? 」

 

「私は、冷泉提督の事が……好き……よ。人である彼の事が好きなのよ」

叢雲は語る。恐らく初めてその事を外に出したのではないだろうか? ずっと胸の内に秘め、誰にも言った事の無い想い。叢雲が冷泉提督の事を好きだということを吐露していた。

「けれど、私なんかじゃ無理……なのよね。提督の心の中には、加賀がいる。神通さんがいる。金剛がいる。島風がいる。不知火がいるわ。私なんかが入り込む隙間なんて、何処にもないの。……どんなにがんばったって、私が勝てるわけないもん。提督の心を私に向けることはできないって分かっている。もう、……そんなことなんて諦めているわ。彼の心に自分の居場所が無いってことも分かっている。けど、それでも私は、提督の事が好き、大好き。自分の事なんかより、ずっとずっと大切よ。だから、許されることなら彼にこれ以上戦って欲しくないし、ずっと安全な場所で居て欲しいわ。これ以上苦しんで悩んでいる姿なんて見たくないし、させたくない。ずっとずっと生きていて欲しいもの。……けど、それでも仲間を救って欲しいの。扶桑や、羽黒、不知火に漣、それに他の艦娘達も。だって、提督と同じくらい……みんな大切な仲間なんだもの。どちらを選べなんて選択、できっこない。自分で出来るものなら自分で解決したいわ。でも、私なんかじゃ、ううん、艦娘だけではどうにもならないの。でも……冷泉提督なら、なんとかしてくれるって信じているから。どんなに不可能な願いでも叶えてくれると思っているから。だから、だから!……。提督の事が大好きなのに、無理をしたら死ぬかもしれないって分かっていても、提督に縋るしかないのよ」

想いを言葉にする内に、どういう訳か泪が止まらなくなる。

「何言ってるんだろ。メチャメチャだわ。危ない事なんてしてほしくないのに、それをさせようとしているなんて。命の危険があるのに、みんなを助けて欲しいだなんて。でも、私にはどちらも切り捨てることなんてできない。けれど、自分では無力すぎて何もできないのが分かっている。だから、身勝手でしかないけど、提督に縋るしかないないのよ。今は一刻も早く提督を鎮守府に連れて帰って、みんなを安心させたい。そして、扶桑達の目を覚まさせてあげたいの」

 

そんな叢雲を、三笠はじっと見つめたままだった。その視線は、まるで、彼女の想いの強さを計っているかのようにさえ感じられ、負けてたまるかとにらみ返す。

 

「では、あなたはどうすると言うの? 冷泉提督の命を賭けてまで仲間を救わせようとしているのよ。では、あなたは彼の為に何を為すというのかしら? 」

 

「自分の命に代えても、提督は護る、護ってみせるわ。提督の力を借りることができるのなら、なんだってするわ」

挑むような視線を三笠に投げかける叢雲。遙か雲の上の存在であるはずの彼女に、そこまでの態度をとらせるほどの緊迫した雰囲気が二人の間にはあったのだ。まさに、真剣勝負の場になっていた。

 

「どんなことでも? ……するというのですね。うふふふ、はたして、できるのかしらね、本当に」

 

「当然よ。この命だって賭けてもいいわ。だって、私の命で済むなら安い物だわ」

叢雲の言葉を聞いた時、三笠がニヤリと笑ったように見えたのは気のせいだろうか。

 

「あなたの想いの強さは、よーく分かりました」

そう言って彼女は、おもむろに条件を出した。それに従えば、提督の出発を認めようと。

 

「そ、それは……」

思わず言葉を詰まらせてしまう。

 

「あら? ……なんだってするって言いましたよね。これくらいの条件、得られる物に比べればたいした物ではないでしょう? 」

不思議そうな顔で見つめられ、叢雲は怒りがこみ上げてくる。

 

「それを飲めば、……冷泉提督を連れていっても良いのよね」

 

「はい。万全とは言えないまでも、移動に耐えられるだけの処置は彼に施してみましょう。それは約束しましますわ。ただ、これまでのような無理はそれほど利かないということは、忘れないでくださいね。……そして」

 

「そして、何なの」

また条件を出してくるのかと身構えてしまう。

 

「仮に冷泉提督が行ったとしても、どうにもならないかも知れないということを忘れないでくださいね。彼の力をもってしても、どうにもならないことがあるという事を。もし、そうなったとしても、私との約束は履行して貰いますので、ね」

冷たく言い放たれる。リスクに応じた結果が出るという訳では無いという念押しだとわかり、腹が立つが仕方が無い。こちらには選択肢が無いのだから。

 

「そ、そんな事、分かっているわ。それに約束を反故にするっていったって、もう後戻りはできないんだから」

 

「……そうですね。それを理解してくれているのなら、それ以上言う事はありません。ただ……」

 

「ただ、何よ」

 

「この約束の件は、決して冷泉提督には言ってはなりませんよ。彼が知ったら全て無かったことにしますから。もちろん、進捗状況によっては提督にもリスクを背負って貰うということですね」

小馬鹿にしているような口調だ。

 

「そんな事分かってる! 」

思わず怒鳴ってしまう。冷泉提督が、叢雲と三笠の約束を知ることがあったなら、すべてを投げ出してでも叢雲を助けようとするのは間違い無い。艦娘の為なら何だってするような人だから……。もちろん、それは叢雲のためにという訳では無い。誰であっても同じような行動をする人なのだ。

 

「うふふふ、安心しましたよ。では準備に2時間ほど必要ですので、あなたも出航の準備をしておいた方がいいでしょう。燃料や弾薬の補充もしていただいて結構ですよ」

無言で頷くしか無かった。

 

ただ、心に誓った。提督は絶対に守ってみせると。

 

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