火力重視であれば戦艦もしくは空母が欲しい。しかし、冷泉が率いることとなった舞鶴鎮守府艦隊には現有戦力以外の補充予定は無い。戦艦に次ぐ火力を持つ重巡洋艦も作戦に参加できるのは高雄のみ。
あとは軽巡洋艦、駆逐艦の中から選ばなければならないということになる。
そして事前に扶桑から聞いた事実が足枷となる。
―――出撃できる艦船の最大数は6隻まで―――
艦これでは当たり前の事だけれども、これが現実世界においても適用されていることに唖然とした。
深海棲艦の制圧下にある海域では彼ら彼女らの結界が張られており、6隻までの艦船しか侵入できないとのことだった。当然このルールは深海棲艦にも適用されるようで、敵側も6隻までしか出てこないそうだ。
大規模艦隊戦などということは対深海棲艦との戦いではあり得ないということらしい。
もちろん、解放後の通常海域では艦隊における艦船の制限数はないのだけれど。
よって、量によって質を補うという作戦は不可能なのだった。火力においては前回より一段落ちる戦力で、攻略失敗した海域を攻略しなければならないということになる。
ただでさえ条件が悪くなっているのに、戦闘未経験者の自分にこれは厳しい条件ではないか?と冷泉は困惑するが、悩んだところで誰も解決してくれそうにない。
初心者に対する愛は無いのかと叫びたくなる。
当たり前すぎることだけど、ゲームの中での艦隊編成のようにはいかない米帝のような圧倒的な戦力を投入することはできない。。
冷泉の艦隊には大和も武蔵もいない。空母も大鳳どころか赤城・加賀もいないんだから。
そもそも、それほどの艦船があったとしても、ゲームのように勝てる保証も無い。 今更ながら、自らが置かれた理不尽な立場に嫌気がさしてきた。
せめて艦船のステータスでも解れば……。今のままでは彼女たちの外見の可愛さとかしか分からない。
ありえないと思いながら、叶うはずのない願いを念じてみる。
……当然ながら何の変化も生じない。
当たり前当たり前当たり前なのだが。
黙り込んだまま何かを考えている冷泉にそろそろ艦娘たちも待ちきれない雰囲気になってくるのが分かる。
しかし、答えが出ない。
刹那……。
視界が一瞬、揺れ、明滅する。こんな時に眩暈? それは一瞬の出来事であったようで、すぐに元の視界を取り戻した。しかし、何かが変な感じがする。何かは分からないけど、よく分からないだけの違和感を残し。
「一体何だったんだ? 」
思わず口に出してしまう。
「テートク、どうしたの? 」
島風が不思議そうな顔をして振り返り、冷泉の瞳をのぞき込んでくる。
相変わらず無防備すぎるほど距離が近いなあ。
「い、いや、……何でもないよ」
そう言って誤魔化し、右膝の上の少女から目を逸らす。
―――あれ?
そして、気づいた事がある。
島風から目を逸らすために見た視界の右隅。そこに奇妙なものがあることに。
それは白い矢印のような形をしていた。
どこかで見たことがある形。……そう。それは見慣れた、パソコンのカーソルだ。それもデフォルトのデザインの。
なんでそんなモノが視界に現れたのか?
冷泉は『ソレ』を凝視する。
決して幻覚なんじゃなく、そこに存在している。浮かんでいるかのようにふわふわと微妙動きながらに漂っている。
更なる発見は、カーソルが冷泉の右手の人差し指の動きにリンクしていることだった。
試しに右へ左へ振ってみると、すいすいと動く。
そして、カーソルを艦娘のところに持って行くとその艦娘の名前が表示されることが分かった。
金剛・島風は距離が近すぎてカーソルが合わせにくいので、さっきから何か冷泉が面白い事を言うのじゃないかとワクワク期待しているような笑顔をしている扶桑に合わせてみる。
「戦艦:扶桑 Lv26」
と彼女の頭の上に表示される。
ここだけは艦これではなく、よくあるMMORPG的な表示となっている。
確か戦艦扶桑はレベル20で航空戦艦に改造できるはずだったが、その改装は行っていないということになる。舞鶴鎮守府の艦隊構成からすると航空戦力は喉から手が出るほど欲しいはずなのに、改装を行っていないのは何故だろうか。
彼女の詳細ステータスを呼び出すことはできるのかな。
そう思い、おそらくはパソコンと同じだろうと考えて、彼女の頭の上に現れた艦名をダブルクリックする。
思ったとおり、ポンという電子音に合わせてサブウィンドウが開いた。
そこには艦これの編成画面で見慣れたステータス画面が現れる。
名前とレベル。HPとそのHPゲージが表示されている。さらにその隣に戦の文字と扶桑の顔写真。キラキラはしていない。名前の下には攻撃力と耐久値が表示されている。顔写真の下には詳細ボタンがあったのでそれをクリックすると更に詳細な数値と装備した武器が表示される。
扶桑がどれくらいのステータスだったかは覚えていないのでなんとも言えないけれど、装備をみると35.6cm連装砲、15.2cm単装砲、零式水上偵察機となっていた。確かこれは初期装備じゃなかっただろうか。
艦隊の主力である戦艦が初期装備のまま、しかも装備枠を一つ余らせているっていうのはどういうことなんだろう。
前の提督はどういう意図でこの状況にしていたのかという疑問がよぎる。それとも現実の艦船はゲームのように改装はできないとでもいうのだろうか。
冷泉は疑問を持ったまま同様に舞鶴鎮守府の艦隊の艦娘のステータスをざっとチェックする。
戦闘に出る出ないでの経験値取得状況の差が出ているのだろうか。金剛の32が最大レベルであり、第一艦隊の艦娘はレベル25程度。その他の艦娘は10レベル台だった。絶対的に層が薄いことだけは分かった。
レベルというものがどれほどの意味を持つかは現段階では不明なので即断はできないので、確定ではないけれど。
「提督ぅー。さっきから黙ったまんまだけど、どうかしたんデスカ」
心配そうに金剛が見つめてくる。
「いや、誰を羽黒と村雨の代わりに今回の作戦に出撃さそうかと悩んでいるところなんだが……」
「だからー、島風を入れたらいいんだよー」
島風が顔を更に近づけてくる。こら、近い近い。
「島風、あなた提督に近すぎデース」
負けじと金剛も振り返って割り込むように顔を近づけてくる。
「おいおい、お前ら近すぎ」
冷泉は二人から距離を取ろうと必死でのけぞる。
その時、間違って操作をしたのかポンと音がする。どうやら動いたときに間違って誰かのステータスを表示させてしまったんだろう。
そこに表示されたのは、
【大井・改】重雷装巡洋艦 Lv18
装備:甲標的 甲、61cm四連装(酸素)魚雷×2
そして、こちらを呆れたような、どちらかというと馬鹿にしたような表情で見つめる茶髪ロングの大井がいた。
重雷装備巡洋艦だけに電撃的なひらめきが走る。
重雷装巡洋に甲標的甲を搭載すると開幕で雷撃をする。つまり大井にもそれが可能なはず。この攻撃と祥鳳にはめいっぱい艦上攻撃機を積み込み、開幕攻撃で敵の数を削ればなんとかできるのではないかという戦略で行くしかない。
そして、それには大井は必須ということになる。あとは火力重視でいくなら残された軽巡洋艦の神通か夕張のどちらかを選ぶことになるだろうが、扶桑から聞いた話で夕張は参加させられないということだから、神通以外ありえないということになる。
艦娘の装備については少し見直すことがあるかもしれないが基本はこれで問題ないだろう。
遠征については、残された艦娘で編成することにせざるをえない。駆逐艦だけとなるけれど、やむを得ないな。
冷泉の戦略が固まった時だった。
「よし、決めたよ」
冷泉は艦娘たちに宣言する。