まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第20話

そして、その日の午後―――。

 

冷泉朝陽は舞鶴港に立っていた。

 

「ひえ、でけー」

最初に出た言葉はそれだった。

 

岸壁に横付けされたそれは、極黒の見上げるほど巨大でかつ圧倒的な存在感でそこにあった。

 

超弩級巡洋戦艦、金剛型一番艦「金剛」。

確か全長220m弱だったと思うけど、現実に見た200メートルを超える船舶は想像以上に巨大で圧倒的な量感を持って迫ってくる。

冷泉のしる世界の乗り物でいうと、フェリーの「すずらん」が同じくらいの大きさだったはず。

しかし、大きさはさほど変わらないとはいえ、武装した艦船とフェリーとではその存在感自体がまるで異なるのが感じ取れる。

当然ながら戦艦であることから、人を効率よく殺傷することに目的を特化させた兵器だ。禍々しささえ発散されているように思えるのは当たり前だ。

一瞬ではあるが恐怖さえも感じた冷泉は背筋が寒くなるように思えた。

 

となりには妙に高い艦橋の扶桑が並んでいる。

そして他の艦船も港のそれぞれの場所に係留されている。

十数隻の艦船がひしめき合うように港に並べられたその姿は圧巻といっていいレベルのものだった。軍艦マニアなら歓喜するんだろうとさえ思う。

 

ただ……。

 

舞鶴港の巨大さに比して、我が舞鶴鎮守府の艦隊の艦船数が少なすぎるのではないか? そんな疑問が冷泉の心に浮かんでいた。

舞鶴鎮守府は見渡す限りのすべてが港として作られた施設である。ドッグも10以上あるし無数の倉庫群が建てられている。

その巨大な施設にわずか十数隻の艦船しかないため、使われていないであろう施設だらけで、閑散とした寂れた港のようにしか見えないのだった。

 

どう考えてもこの3倍の艦船は充分に収容できる施設であるように素人目にも見える。どうしてほとんどの施設が遊休施設となっているのかさっぱり分からない。

単純に艦船数が無いだけなのか、それとも他に戦力を集中しているためなのか、そもそも状況が劣勢であり、舞鶴鎮守府に割く戦力が無いのかもしれない。

 

「まさに太平洋戦争末期の日本海軍の状況なのか? 」

思わず呟く冷泉。

 

「テートクー!!! 」

背後からの叫び声に振り返る。

 

金剛が両手を振りながら歩いてくる。

扶桑も一緒だ。

 

冷泉も思わず金剛に手を振り返す。

 

すると隣にいた扶桑が怒ったような顔をしたので、先ほどの事を思い出して肩を竦めてしまった。

 

 

―――。

 

そう。

作戦会議で戦略を立てたまでは良かったのだが、余計な一言を冷泉は言ってしまったのだった。

 

「では、戦艦金剛を旗艦とした、軽空母祥鳳、重巡高雄、重雷装巡洋艦大井、軽巡神通、そして私戦艦扶桑の6隻で今回の海域攻略にあたることとします」

と、扶桑が作戦会議を総括した時に冷泉が何気なく、ほとんど当たり前の事のように言葉を発してしまったのだった。

 

「じゃあ、俺は戦艦金剛に指揮官として同行するんだな」

何気なく発したその言葉。

それに対する艦娘たちの驚きの声が会議室に響き渡った。

 

何事? と扶桑を見ると頭を抱えた格好でこちらを睨んでいた。

「あなた何言ってるの? 」そんな風に唇が動いてたし。

 

あとで扶桑に聞いたところ、海域攻略も含めて戦闘や遠征に提督が同行することなど無いとのことだった。そもそも艦娘の本体である船に人が乗ることなど無いらしい。彼女たちは単体で船をコントロールすることができ、出航から開戦、帰投までをこなすとのことだった。

人間が介在するのは帰投後の修理や補給、待機中の艦船の防衛のみなのだった。

そんな中、鎮守府司令官たる階級の者が戦地に共に赴くと言ったのだからこれはもう混乱を生むしかないね。

人間は戦地にには行かないということを知ってる上での発言と判断されるから、間違いでしたとは取り消すことなんてできない。知らなかったということは言えない。

 

故に、行くしかない。

 

鎮守府司令官のこの発言は艦娘にとっては驚きであるとともに、戦意高揚の効果は絶大だったようだ。

金剛は大喜びだったし、他の艦娘たちもまずは心配の声を上げたものの提督の勝利への意気込みが伝わったようで好意的に受け取られた。彼女たちも勝利への士気が相当上がったようだった。

 

「結果オーライと言えますが、あまりに軽率でしたね」

 

「うん。反省している。ごめんね」

扶桑に攻められてただただ謝るしか無かった。

 

「戦いにおいては何が起こるか分かりません。極力提督をお守りするようには努力しますが、どうにもならないこともあるということを理解しておいてください」

 

「うー。恐いこと言うなあ。だけど、大丈夫だと思う。いや、大丈夫さ」

 

「まーた、根拠なしに適当な事を仰いますね」

扶桑は呆れたように大きなため息をついた。

 

そんな扶桑の肩に手をかけ、冷泉は答えた。

「大丈夫さ。何も案ずるこは無い。……俺はお前たちを信じている。お前たちの能力を。だから、きっと勝利できる。そして、扶桑。お前も俺を信じろ。舞鶴鎮守府の司令官たる俺の力を。お前たちの能力を俺が100パーセント発揮させてやるから」

 

格好付けて言った台詞はどうやら扶桑にはうまく伝わらなかったようだが。

 

―――。

 

思わず扶桑とのやりとりを思い出して苦笑いをしてしまった。

 

「テートク、何笑ってるんですか?? 」

隣に来ていた金剛が不思議そうな顔で冷泉を見る。

 

「いや、何でもないよ」

そういって扶桑を見ると、なんだか疲れたような顔をしている。

冷泉は金剛と扶桑の二人の肩に手を回すとぎゅっと抱きしめた。

 

「ひゃっほー」

「な、何をするんです」

 

喜ぶ金剛、戸惑う扶桑を強く抱きしめて冷泉は声にする。

 

「この戦い、必ず勝利して必ずみんなで帰ってこような」

 

「おー! 」

大はしゃぎする金剛、呆れながらもとりあえず肯定する扶桑。

 

「じゃあ、行こう」

 

そして、冷泉は扶桑と別れ、金剛と一緒に艦娘「金剛」の本体である超弩級戦艦金剛の側へと歩く。

 

「じゃあ、行きますヨー」

金剛がいきなり駆け出すと飛び上がる。

まるで足場があるかのように、もしくは何かに吊り上げているかのように軽やかなステップで飛び上がっていく。

 

「えええええ! 」

冷泉は歓喜の声を上げた。

どういう身体能力をしてるんだよ。

 

まさかと思い、扶桑の方を見ると彼女も同じように宙を舞うように甲板へ軽々と飛び乗っていた。

 

「テートク、早くおいでよー」

甲板から金剛が見下ろしながら叫んでくる。

 

「金剛、タラップとか無いの? 何も無しじゃそこへあがれないよー」

 

「そんなの無いよー」

あっさりと返事を返す金剛。

そりゃそうだな。人が乗るように想定されていないんだもんな。

納得。

 

急遽、搭乗用のはしごを探し回らせたため、出撃が20分ほど遅れたのは公式記録には残さない事とした。

 

ともかく――。

 

一五時二○分。

 

舞鶴鎮守府より金剛を旗艦とした第一艦隊が海域解放のため出撃したのだった。

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