まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第204話 帝都脱出2

たとえ暗闇の中だと言っても、油断できない。

この街のあちこちに設置されたカメラの目から、完全に逃れることはできない。色々と調べまわったけれど、全ての監視カメラの場所を把握しているわけではないのだから。おまけに、この区画に叢雲は、足を踏み入れたことが無かった。すでに監視網に捕らえられていると思って間違いない。密かに抜け出すということは不可能。

 

大人しくこのまま宿舎に帰ったほうがいい、と理性が告げてくる。

 

ここに来るまでの不自然な経緯からして、これは完全な罠だ。過激な反応は、三笠たちに利するだけでしかない。リスクを冒して動いても、叢雲になんらメリットは無い。

しかし、このまま大人しくしたところでどうなる? 放っておいたら、金剛が改二改装を終えて、横須賀に着任してしまう。そして、遠くないうちに、冷泉提督に対峙することになるだろう。彼女は、明確な敵意を冷泉提督に向けるだろう。彼女を金剛だと信じている提督は、きっと苦悩するだろう。なんとか誤解を解こうと、目を覚まさせようと努力するだろう。そんな努力など、全く無意味だと知らずに……。

 

三笠は、金剛を駒としてコントロールし、何をなそうとしているかは不明だ。けれど、そんなの関係ない。結局、提督は悩み苦しむだろう。

 

金剛だけの話ではない。三笠が何を考え、何をしようとしているかなんて、叢雲には想像もつかない。けれど、ここにわざわざ呼びつけられた自分だって、なんらかの駒としての役割を与えられるのだろう。

拒否すれば、金剛のように殺され、新たなスペアボデーに移植され、三笠の駒にされるのだ。どのように行動したとしても、結果は同じなのだ。

 

ならば、一か八か、損得勘定抜きにここから逃げ出すしかない。自分で考え行動していたとしても、結局は三笠の思うままに動かされているだけのかもしれない。考えれば考えるほど深みにはまり、行動ができなくなる。それも彼女の想定の範囲なのだろう。

 

だから、余計なことを考えずに、とにかく走った。

艦とのリンクは切断されているけれど、身体能力だけは現在のようだ。まるで飛ぶように駆けられる。

 

あちこちに設置されているバリケードくらいなら苦もなく飛び越えられる。

 

途中、当然ながらパトロール中の兵士に見つかるが、軽々と彼らの頭上を飛び越え、人間離れした運動能力に唖然とする彼らを一瞬で置き去りにする。

 

突然の艦娘の登場。そして、その目的を知ったところで、人間の身体能力では追いつくことなど不可能。

大慌てで車に乗り込み追いかけてくるが、艦娘を追うには車両が大きすぎた。銃を使うにしても、威嚇射撃までが精一杯なのだ。艦娘に危害を加えるということに、どうしても躊躇してしまっている。

 

しばらく駆けるうちに、第二帝都東京を外界から遮断する高い塀が見えて来た。何箇所か通用門は高さが低くなっているが、警備が多すぎる。だから、装飾など微塵もないコンクリート塀へと向かっていた。

 

帝都を取り囲んだ塀の高さは、平均して3メートルくらいはあるようだ。その上を数本のワイヤーが張られている。未確認だけれど、恐らくは高圧電流が流されているのだろうと推測していた。もっと高くすることも可能なのだろうけれど、人の世界と艦娘の世界との境を示す象徴として造られたものゆえ、人の出入りと視線を遮る事ができれば目的を達するということで、必要以上な高さにはしなかったらしい。

とはいえ、この高さを人間が飛び越えるなど無理だし、よじ登ろうにも壁面はツルツルに磨き上げられ、道具無しではどうにもならない。

 

しかし―――。

 

艦娘である叢雲にとっては、この高さなど……困難の内には入らない。

追跡してくる軍用車両を後方に引き連れ、叢雲は接近していく。

 

そして叢雲は、更に加速する。

 

壁の手前で近づくと思い切りジャンプして壁を蹴り上げると、その勢いのまま上へと飛び上がる。人ではありえない跳躍力と身軽さで叢雲の手は、軽々と塀の上部に手をかけると、反動をつけて塀の上に立った。

 

複数の車両が駆けつけ、十数人の兵士たちが慌しく車から降り、怒声を上げこちらを見ている。けれど、もう彼らの手の届く場所には叢雲はいない。原たち紛れにライトを振り回し、その光を向けるだけだ。

 

思った以上に動けた自分の身体能力に驚くと共に、どうやらまんと逃げ果せると安心した。

「長いは無用ね」

兵士たちの悔しそうな顔を見て、この後彼らに降りかかる災難を想い少し罪悪感がよぎる。けれど、これは仕方のない事。

ごめんねと呟くと、叢雲は3メートル下の反対側の地面に向けて飛んだ。

 

シュン―――。

 

その刹那、何かが風を切り裂いてくる音を聞いた。そう思ったとほぼ同時に、衝撃が全身を貫き、体が仰け反る。焼けるような痛みを腰のあたりに感じる!

叢雲はバランスを崩しながら落下していくしかなかった。

 

意識を飛ばされそうになるものの、それでもなんとか踏みとどまる。空中でバランスを崩した体勢を立て直そうとするが、上手くはいかなかった。すぐ近くに地面が接近してきた。体を丸めるようにしてなんとか受け身を取ったものの、地面に激しく体を打ちつけてしまう。

 

「げふっ! 」

 

一瞬、呼吸が止まってしまい、必死に空気を求め喘ぐ。激しく咳き込みながらも、何とか起き上がる。

 

それでも幸いだったのは、落ちたところが土の地面だったことだ。そこは雑草や柔らかい土の部分があったせいで、少しはクッションの役割を果たしたようだ。仮にアスファルトだったら、起き上がることさえできないほどのダメージを、受けていただろう。

 

叢雲は、痛みを堪えてよろめきながらも立ち上がることができた。刺すような痛みで、ほんの少し体を動かすだけでも辛い。けれど、このままじっとしているわけにはいけないのだから。

そして、腰の痛みを再認識してしまう。恐る恐ると腰に手を当てると、じっとりとした感触が伝わってくる。見たくはなかったけれど、見えてしまった。手には、真っ赤な血がベッタリと付着している。

 

やはり、銃で撃たれたのだと再認識する。銃を構えた兵士は、叢雲の視野にいなかった。だから油断してしまったのだろう。

 

肝心のところで、こんな取り返しのつかないドジを踏んでしまったことに腹が立ち、それ以上に悲しくなる。

こんなところで怪我なんてしてる場合じゃないのに!

 

悔やんでも済んだことをはどうしようもない。もう自分には時間がない。やがて来るであろう追っ手に、見つかるわけにはいかない。とにかく、少しでも距離を稼がないといけない。

撃たれた腰も痛い。さらに落下の衝撃的で、足首を捻挫したようだ。走ることは無理っぽいようだ。舌打ちをし、痛みを必死にこらえ、よろけながらも歩くしかなかった―――。

 

 

 

「フフフ」

落下していく艦娘を視野に捕らえ、草加甲斐吉は無意識の内に笑ってしまう。

 

それにしても―――この距離から標的を正確に射抜くなんて凄すぎる。軽く見積もっても1キロは離れているんだぞ。

 

惚れ惚れするような瞳で彼が構えた銃、それは松葉杖にしか見えないなのだが、を見つめる。こんなおもちゃみたいなものに狙撃銃の機能を持たせ、しかも、それは人間の力では作ることのできるはずもない高性能。

全く、艦娘ってのは、どんな科学力を持っているっていうんだ? 人間でもそんな機能を持った銃くらいは作れるだろう。けれど、射撃なんて素人と変わらない自分が数百メートル離れた、しかも異常に拘束で動く標的を的確に狙撃できるなんて不可能だ。しかも、練習なしのぶっつけ本番でだ。

 

銃から伸びたコードは、草加のうなじに取り付けられた端子に接続されている。これはヘマをやらかした草加を強化する名目で、三笠が実験台のように色々な改造を施した一つの結果だ。銃と脊髄が直結されているのだ。これにより、まるでゲーム画面のような光景が、視界に映し出されている。

それだけではない。体には様々な補助的デバイスが埋め込まれ、第二帝都の様々な機器より情報が提供される。その情報を別のデバイスが分析をし、正確な射撃をサポートしてくれるのだ。これにより、プロのスナイパーよりも……否、プロでも絶対不可能な高次元の正確な射撃ができたのだ。

 

草加は左足の甲から先は無い。三笠に踏み潰されたからだ。代わりに機械製のつま先を装着されている。右腕は肩から下は義手に変更されている。右耳は機械化され、耳たぶは無い。代わりにヘッドホンのようなものを装着させられている。どちらか分からないけれど、片目も作り直したと言われている。道理で近眼だったはずの自分が眼鏡不要となったわだ。

なお、金剛を襲った罰として去勢もされてしまっている。もっともそれ以前に、三笠に何度も股間を蹴り上げられたせいで、もう使い物にならないほどに破壊されていたのだけれど。

 

これ以外にも三笠の恐らくは面白半分で体のあちこちを切り取られ、代わりに機械部品をつけられた自分は、もはや人間と言えるのだろうか? などと感傷的になってしまう。

 

「フン、まあいいや。俺は、スーパーマンになれたんだからな」

昔ならクヨクヨ悩んでいたはずなのに、小さなことは気にならないポジティブな性格も手に入れているのだ。力を手に入れるとすべてに寛容になる。まさにそのとおりで、人以上の力を手に入れ、更に三笠の駒として動く限りは、かなりの権限を与えられるというお墨付きも貰っているのだから。

 

「しかし、三笠のやつ、まどろっこしい事をさせんなよな。あんな不細工な艦娘なんて、さっさと潰してしまえばいいんだよ。殺さない程度の怪我を負わせろだなんて、めんどくせぇなあ」

 

三笠は草加に対して、今後の活躍次第では鎮守府の役職につけてやるという条件を言ってくれてる。それを聞いて俄然やる気が出た。かつて無いほど本気で頑張ろうと思った。

 

だって、司令官になれば、沢山の艦娘を自由にできると聞いている。戦闘だけでなく私生活においても……だ。それを想像するだけで興奮してくる。

 

艦娘は、司令官以外が自由にすることはできない。無理やり手に入れようとして、ひどい目にあった草加は、それについて十分懲りていた。だから、自分のものじゃない艦娘なんて、何の価値もないのだ。金剛もそうだったし、あの叢雲だってそうだ。自由にならない艦娘なんて、薄汚い雌豚でしかない。世界に存在する価値など無い。

 

「けど、あれだなもす。綺麗な艦娘を撃ち殺せたら、本当に気持ちいいだろうな」

実際、引き金を引いた瞬間、いってしまったぐらいだ。本当に殺すことができたら、もっともっと気持ちよくなったんだろうな。ああ、殺せたら気持ちよかっただろうな。

「げしげし」

 

「あなたは……命じられた事をしっかりと為せばいいのです。本能に任せた余計な行動は、寿命を縮めますよ」

突然、背後から聞こえた声。

 

「ひえええええ! 」

腰が抜けるほど驚き、自分でも驚くほど情けない悲鳴のような声を上げた。

「び、びっくりしたじゃないですか、三笠様! いきなり現れないでください、本当に心臓に悪いです」

草加は、もみ手をしながら、突然現れた三笠に愛想笑いをする。

 

彼女は、何ら表情さえ浮かべずに見つめている。

 

ほんとうにこの女は、瞬間移動能力があるんじゃないのか? 人体改造を施され、感知能力が劇的に上がった草加に気付かれずに背後を取るなんて、ほぼほぼありえないはずなのに、いとも簡単に三笠はそれをなすのだ。

正直、怖い。何をされるか怖くて仕方ない。綺麗な顔をしているのに、いとも簡単にあらゆる命を踏み躙る。草加もいつそうなるかしれたもんじゃない恐怖とともにある。実際、めちゃめちゃにされたし。ほぼトラウマだ。

 

「ふふふ、今回はよくできましたね、草加。褒めてあげます」

優しい口調で褒められる、どきりとする。普段冷淡なだけに、わずかな変化でしかないのに、とても嬉しく思ってしまう。

 

「ありがとうございます! これからも命の限り、一生懸命頑張ります」

と、殊勝な言葉が口から出る。

 

「あら、今日は素直ですね。ぜひお願いしますよ。私は、あなたに期待しているのです。今後も日々鍛錬に励み、私に力を貸してください」

そう言って微笑んだ三笠は、とても美しく気高い存在に思えた。

 

「あ、ありがとうございます! 」

直立で答える草加。

 

へこへこする草加を満足そうに見た三笠は、

「ところで……先程、疑問を口にしていましたね、あなた」

 

その言葉で、草かは背筋が凍りつくのを感じた。明らかに動機が高まり、冷や汗が止まらない。背中は汗で下着が張り付くような嫌な感じがする。

やらかしたー! その思いで眼が泳いでしまう。

 

「いえ、それは私の無能さゆえであります。三笠様のお考えなど、私ごとき人間が想像さえできないのに自分の思考の範疇で愚かにも考えた結果です。申し訳ありません」

地面にへばりつく様にして、草加は土下座をして謝罪する。

 

許してください許してください許してください。また酷いことをするんですか? やめてください。痛いことはもう嫌です。殴らないでください。蹴らないでください。踏まないでください。意識があるまま体を切り刻まないでください。得体の知れないモノを体に組み込まないでください。血管や神経を繋がないでください。お願いです。お願いです。許してください。

 

強く目を閉じ、震えながら必死に祈る。

今まで何かをした時、かならず酷いことをされた。その恐怖が体に染み付いてしまっているのだ。どうあがいても逆らうことができない圧倒的力の差……。

 

その時、そっと肩に触れるものがあった。柔らかく暖かい感触。

それが三笠の手のひらであることに気づくのに数瞬の間があった。草加は恐る恐る目を開き、仰ぎ見る。

そこには三笠の美しい笑顔があった。それは、神々しく怖いくらいに……。

 

「そんなに怖がらないでください。安心してください、何もしませんよ。怯えないでください。不安がらないでください。すべては、あなたに押し付けるだけで、教えることを何一つしなかった私に罪があるのです」

嘘か本当か、そんな言葉を口にする。少しだけ目を伏せ、反省しているかのような素振りにさえ見える。

 

「そんなことはありません。余計なことを詮索するなど、私に許されるものではありません。私は、三笠様の為に存在し三笠様の命ずるままに行動するだけでいいのですから! 」

 

軽く首を振ると三笠は再び語り始める。

「意思疎通、情報共有をしておかないと、何かあったときにあなたも戸惑うことがあるでしょう。一瞬の戸惑いは重大なミスにつながることがあるのです。あなたは私にとって大切な部下なのですから。私は第二帝都東京より離れることができません。あなたは、私の目となり手となり行動し、私の願いを叶えてくれる貴重な存在なのですから」

 

嘘か本当か判断しかねる。もっと他に意図するものがあるのかもしれないが、草加にとっては想像もつかない。ただ言えることは、自分は彼女の支配下にある存在であり、彼女の気持ち一つでどうにでもなる存在だということだ。……今は。

 

「叢雲を殺さなかった事に疑問を感じているのですね? 」

 

「は、はい。そのとおりでございます」

緊張のあまり、妙な言葉になってしまう。三笠にじっと見つめられると緊張するし、それ以上に恐怖だ。

 

「どうしてそう思いますか? 」

 

「そ、それはですね」

三笠が求めている回答は何だろう? 彼女の期待通りの答えを返したいが、そんな頭脳は無い。彼女は、答えをじっと待ってくれている。これ以上待たせて気分を害するわけにもいかない。ええいどうにでもなれ! とばかりに答える。

「彼女は三笠様に相談も無く、ここから逃走を図ろうとしました。彼女は第二帝都東京に来て、三笠様の為に働くはずでした。それなのにその任を放棄して、三笠様を裏切ったのです。彼女がこの後どこに向かうかは分かりません。しかし、艦とのリンクが切れた艦娘が人間との接触を持った場合、どのような事態が発生するかはわかりません。先に我々が確保できればいいものの、そうでない場合……つまり、軍以外の勢力と接触した場合、ほんの僅かではありますが、三笠様に害をもたらす可能性すらあります。なので、たとえ僅かなリスクではあっても、絶対は無いのですから、危険の芽は摘み取っておくのが最善だと考えました」

叢雲が逃亡を図ったきっかけは三笠なのであるが、その意図が分からない現状、そう答えるしかなかった。艦娘が軍と関係の無い組織と接触した場合、情報が漏洩するリスクだってある。第二帝都東京の内情を漏らされる可能性すらあるのだから。

 

現状、情報統制ができているから大きなうねりは無いものの、それでも艦娘による支配体制に不満を持つものもいると聞かされている。深海棲艦と戦争中であるというのに、人間たちはその次のステージを見越していろいろと蠢いているのだ。

まったくその愚かしいまでのバイタリティは誇らしいが、艦娘の機嫌を損ねたらどうするつもりなのだろうかと心配することもある。

所詮、人間とは愚かな生き物だ。誰かに導かれなければ、滅びの道を歩む宿命なのだろうか?

ならば、自分が導くか……。そんな想いさえ浮かぶ草加である。

 

「あなたが私たちのことを心配してくれるのは、良く分かりましたよ。私が見込んだ人だけのことはあります」

三笠が直接褒めてくれることはほぼないので、少し驚いてしまった。思わず心の中でガッツポーズをする。

「たしかに、あなたの言う事は正しい。彼女が敵の手に渡れば、いろいろと不具合が出るでしょうね」

 

「では、何故、あんなご命令をなさったのですか? 」

 

「少しくらいのリスクを覚悟してでも、それ以上の成果を得る可能性にかけたのですよ」

何かを企んでいるような不敵な笑みを三笠が浮かべる。

「金剛がかつての金剛では無くなり、冷泉提督と敵対する存在としての立ち位置になったことを知らせ、そして、金剛は別の金剛であることも事実として教えてあげました。そして叢雲も同じ運命を辿ることをあえて提示したわけです。彼女は、冷泉さんをとても想っています。そんな運命を彼女が受け入れるはずなどありません。ここから逃亡することは死を覚悟しなければ無理でしょう。それでも彼女はここから逃げ出さざるをえなくなったわけですね。冷泉さんの敵にはなりたくない。そして、金剛が冷泉さんの知る金剛では無いことを知らせなければならない……」

 

「叢雲が冷泉提督と会ったら、三笠様の計画がだめになるのではありませんか? 」

金剛や叢雲が冷泉提督に敵意を持ち、戦いを挑むことにどんな意味があるのかは理解できない。そもそも彼は捕らえられ軍法会議待ちなのではなかったか?

 

「叢雲は、冷泉提督に会うことは叶いませんよ。舞鶴鎮守府方面にはいけないように警備を配置済みですからね」

面白そうに答える三笠。

 

「一体、何をされるおつもりなのですか? 」

全く分からない。

 

「今、舞鶴鎮守府艦隊は、冷泉提督不在のため、大湊警備府葛木提督の指揮下に入っています。そして、艦娘のほぼすべてが大湊へ移動しています。叢雲には、そちらに向かうように誘導するのです」

 

「しかし、舞鶴の艦娘と接触すれば、三笠様のお考えが暴露されてしまうのではないですか」

舞鶴の艦娘たちは冷泉を異常なまでに敬愛し信頼していると三笠が言っていたことを思い出す。もしそれが事実ならば、金剛が殺された事や叢雲が撃たれた事を知れば、三笠に対して敵対するのではないのか? そんな恐れを持ったのだ。艦娘同士で開戦などという、最悪の展開を彼女は求めるというのか?

 

「ふふふふ」

三笠は笑った。その声に全身が震えるほどの恐怖を感じた。

「叢雲は、確かに舞鶴鎮守府の艦娘と再会するかもしれませんね。……けれど、世の中不思議なものです。叢雲はみんなに事実を伝えようとするでしょう。でも、残念。何故かより大きな混乱と激しい感情を呼び起こすだけで終えると私は予想しているのですよ」

 

何だ、この女は?

自分よりだいぶ小さい体をしていて、通わそうに見えるはずなのに……ものすごく怖い。そして、不気味だ。こんなやばい奴に取り付かれ、駒として使われる自分に未来はあるのか?

本気で怖い。

 

「まあ、見ていてください。面白い展開が待っているはずですから。……当然、あなたにも配役が決まっていますよ。与えられた役割をきっちりと演じてくださいね」

 

本気で怖い。

 

彼女は、何を考え、何を求め何をしようとしているのか。それがまるで分からない。想像すらつかない。そして、そんな存在にすべてをゆだねなければならない自分が、恐ろしく不安定な場所に立たされていることに不安になる。

 

様々な力を手に入れても、光無き闇の中に立たされているようにしか思えない。

 

それが怖い。

 

 


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