まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第214話 真実の扉

「なんとか開催にまでこぎつけましたか……。はあ、本当に疲れた」

と、天ヶ瀬中尉は深いため息をつき、思わずへたり込んでしまった。直属の上司である葛木提督よりの命令により、ずっと会議の段取りに追われていたのだ。しかも追加指示や変更の繰り返しで、まるでいじめじゃないか疑ってしまうほど振り回されっぱなしだったのだ。どんなVIPが来るのかさえ情報が伝えられず、おまけに開催すらその日まで限られた者以外は極秘扱いとされたため、どうしたらいいかさっぱりだった。おまけに、付き合いも長く、気心も知れてる上に有能だった同僚や部下は、みんな大湊へと転属命令により異動していた。残された者は皆階級が2から3段階下の者ばかりで、天ヶ瀬とは面識があっても話したことなどない者ばかりで、意思疎通もままならなかったのだから。もちろん、彼らも無能ではないものの、やはり経験が足りなさすぎた。

 

もっとうまくまわせれば……とは思ったけれど、天ヶ瀬は天ヶ瀬で自分のことで精一杯で部下の事にまで気が回らなかったわけで……。葛木提督の鎮守府改革命令による業務の混乱が未だに尾を引いている。大幅な人員整理、前例踏襲主義の否定、軍業務のスリム化、民間活用の試行、市民に開かれた鎮守府運営試行などなどが行われたせいで、壊滅的なまでに事務処理が進まなくなっていたのだ。それは舞鶴鎮守府の人員の大半を大湊へと異動させたしわ寄せでしかなかったわけなのだけれど。

ともかく、それらに対して一つ一つ人員を割り当て、対処していく作業に忙殺されていたのだ。そんな中での極秘会議の開催を支持されて、気が遠くなりそうになったのを思い出す。

 

鎮守府にいくつもあったレストランやお店もみんな運営者が変わり、値段は高くなったのに、料理は不味くなり、売っているものも品質と量が明らかに落ちている。舞鶴に残された兵士達の不満は相当なものだ。何が民間企業を入れたら質量ともに良くなるだ。……これって他の業種でもやって失敗したりしてたなあ。

 

市民に鎮守府の一部エリアを開放したりしたけれど、物が盗まれたり壊されたり、市民同士のトラブルに兵士が借り出されたりで意味が無かった。何か、原因が軍施設があるからだと謎理論を展開されて、逆にイメージダウンになっている事例も多かったと報告があがって来ている。

 

そういった事実があるのに、葛木提督はそういった施策の成功事例のみを報告しろといってくるし……。いらいらは募る一方だ。

 

「なんで、私だけこんなに忙しい思いをしなきゃならないの! 」そう叫んで書類をぶちまければ、どれほどすっきりしただろうか。

 

でも、そんなことはできなかった。

 

なぜなら、こんな状況にあっても一言も愚痴を言わず黙々と任務をこなす子達がいたからだ。夕張と島風の二人は、なれない仕事をさせられている上に様々な雑用的な任務をたった二人で朝早くから深夜までこなしているのだ。彼女達は冷泉提督が帰ってくることを信じて、彼の居場所を守るために必死でがんばっているのだ。

そんな彼女達を見たら、外部からの批判や内部の自分勝手な指示、高くて不味いご飯でさえ文句を言ってられないと反省するのだった。

 

今、舞鶴鎮守府の一角の建物の中に特別に作られた会場へと、葛木提督と大湊警備府の彼女の側近、そして複数の背広姿の男達が入っていく。会議を行うのであれば、大湊が本拠地なのだからそちらでやれば良かったのに。人員も潤沢で、こんな気苦労を天ヶ瀬はしなくて良かったはずだ。……けれど、舞鶴で行ったのは、どうやら相手方の要望だったようだけれど。

 

とりあえず、ここから先はもう天ヶ瀬にも関係の無い世界の事だ。

やっと終わったという開放感でほっとするのであった。

 

「そういえば、結局……葛木提督はお客様の事を私にも教えてくれなかったなあ」

未だに彼女を提督と呼ばずに葛木提督と苗字をつけて呼んでいる自分に少し驚く。鎮守府に提督は一人しかいないのにね。まるで冷泉提督が戻ってくることを無意識に信じているのかなあ。

 

それはともかく、ちらりと見た来賓の顔を見て、数人は見覚えのある顔だった。彼らは国会議員だったはず。それも野党議員だった。鎮守府に視察に来るといえば、そのほとんどは与党議員の兵士達への激励だった。もちろん、野党議員だって鎮守府の地元選出議員もいる。兵士は大切な有権者だから、当然訪問をすることもあるのだけれど、その回数は少なかった。野党議員は、どちらかといえば反戦派が多いものだ。

 

けれど、目的は分からないものの、軍施設を訪れるのであれば多分に政治的宣伝要素が強い。それならば極秘裏に行うなんてことはしないはずだよなあ……と思う。マスコミをいっぱい引き連れて、揚げ足取りだけが目当てで、ワイワイガヤガヤと文句ばかり垂れるはずなんだけど。それとも、他に何か意図があるのだろうか。

 

そして、議員団の中で中心的な感じに見えた男の事は、天ヶ瀬も良く知っていた男だ。

 

男の名前は、周布了一。なかなかのイケメンだ。背も高くてスラッとしている。うん、少なくとも冷泉提督よりは男前だね。年齢は確か35歳だったはず。

 

ほんの一年ほど前までは与党に属する国会議員だった。しかし、現在は、野党自進党を結成し、その党首の座に就いてる……政治家で言うとまだまだ若手といえる議員だった。彼は明治から続く政治家家系である周布家の次男だったはず。将来は総理大臣の地位さえも狙える立場と言われていたはずだけれど、党内での競争に敗れ、ありがちな金銭スキャンダルと女性スキャンダルが発覚して党を追われたと言われていたはず。もちろん、本人は事実無根と否定していたけれど。それでも、新たに党を立ち上げてその党首に納まるくらいの力を保っているわけだから、まだまだ力を失っていないのだろうか? その政治的野心さえも。

 

しかし、そんな男が舞鶴鎮守府の代理司令官になり、二つの鎮守府勢力を手中に収めた葛木提督と密会というのはいかにもキナ臭い……そんな妄想をしてしまう自分を天ヶ瀬は否定した。政治家や軍幹部の中には、戦後を見越したような動きがあるのは知っている。冷泉提督を放逐するような動きもその一つだろう。今、日本国は様々な勢力に分化し、次の支配権を巡って争いが起こっているのだ。それは水面下ではなく、現実に見えるものとして。

 

ありえない……。そう、ありえない。そして愚かでしかない。

 

現状、深海棲艦との戦闘は小康状態のように見えていて、人類側が優勢になっているかのような雰囲気になっていることは知っている。しかし、最前線にいる者はそんな事、微塵も思っていない。勝敗は未だ決していないのだ。ひとたび何かがあれば、再び全面戦闘が生じる可能性さえありうるのだ。いや、必ずそうなるだろう。そうなった時、内紛を起こしている人類が深海棲艦に勝利などできるのだろうか?

 

「まさかね……葛木提督がそんなこと考えるはずないわ。疲れているのかしら? 馬鹿馬鹿しいわね」

やはり疲れているのだろう。さっさと宿舎に帰って寝よう。ここ数日寝ずにいたから、余計なことばかりに意識が向いてしまう。

「……はぁ。冷泉提督、早く帰ってきてくださいよお。このままじゃ、私、耐えられません。近々、過重労働で倒れちゃうはずです。絶対、労災申請しますよ。管理者責任問われますよ! それが嫌だったら、早く帰ってきて、さっさと可愛い部下を楽にしてくださいよう」

切実な願いだった。

 

 

建物の外で天ヶ瀬中尉が一人ぼやいてることなどまるで知らない葛木たち。

 

大湊警備府は、葛木とごく一部の側近中の側近のみを集めて、議員対応を行った。

これは、軍内部向けには野党自進等の国会議員による舞鶴鎮守府の視察となっている。たとえ一時的とはいえ、二つの鎮守府の合併という事案に対して、権力の集中ではないかという疑問が提出され、与党は反対したものの艦娘を統べる第二帝都東京が最終的に同意した事により、実現となったのである。あくまでも想像でしかないが、艦娘側としては、情報をオープンにして人類側のいざこざとなる要素を排除したかったのかもしれない。

 

ちなみに自進党とは、旗揚げ人である周布了一が結成した政党である。前もって調整が行われていたのだろうか、結成後すぐに野党や与党の一部の議員が合流し、現在、数だけでいえば野党第二位の勢力を持っている。勢いだけでいえば、最大野党を抜くほどといえる。やって来ているのは、そんな党首と党立ち上げの発起人である幹部数名だった。

 

野党議員が警備府を訪れるのは、あまり例が無い。そもそも与党とその背後にある軍部が受け入れないのだ。軍上層部からの指示があった際、葛木は拒否をした。しかし、案件については、艦娘側の意向もあることから拒否しきれるものではなかった。それに、拒否したといってもあくまで軍側の人間であるからそうしただけであり、個人的には拒否する理由は無かった。

 

「周防先輩か……。会うのは久しぶりね」

とむしろ心待ちにしている部分があったのは否定できない。

周防と葛木は初対面では無いのだ。彼と彼女は年の差は三つ。そして、同じ大学出身であり、さらに同じ部活動で先輩後輩の関係であったのだ。個人的に懐かしさもあるし、それ以上に打算があった。それは周防も同様だろう。

 

彼は、自進党を立ち上げて、さらに与野党から同志を集め最大野党となり、党首に選ばれた、今一番勢いのある政治家といってもいい。とはいえ、状況からして彼は単なる御輿として担ぎ上げられていることも認識しているはず。様々な思想の違う人間の寄せ集めでしかない政党運営は相当に苦しいことだろう。もともとは敵である与党出身の彼の事。野党陣営内ですら信頼関係はほぼ無いわけで、現状、確固たる地位を確保できていない。ここで舞鶴と大湊の鎮守府司令となっている葛木と良好な関係性を確保することができれば、軍事力としても与党に対抗できると考えても不思議ではない。彼には彼の事情があり、早期に地位を確保する必要があるのは葛木にも分かっていた。

 

軍の後ろ盾は、政権を奪取し政治を行うには必須。であればどこかの鎮守府司令官を取り込もうと考えるのは必然。それならば、ここにきて力を持ちつつあり、もともと知らない仲では無い葛木を選ぶのは当然だろう。

 

そして、葛木にとっても、現在の地位を維持し、そこからより高みを目指す野心を実現するためにも人脈を早期に得る必要があったのだ。与党内の人脈が無いわけではないが、与党議員のそのほとんどは、軍上層部もしくは男性司令官達と密接に繋がっている。葛木が入り込む余地は無いのだ。自分が女でなければ、もっと優遇されたのに! これまで何度もぶつかって来た障壁がここにもある。

しかし、周防達ならば未だに軍との結びつきは無い。今後の保険として彼との繋がりを持っていても損は無い。そして、個人的な感情からも……。

 

形式的な会談は、無事、終了した。

 

鎮守府幹部達は、野党議員たちを夜の街へと送り出していた。

 

なお、周防と葛木は大学の先輩後輩の仲であったことから、旧交を温めたいでしょうと配慮され、二人だけ鎮守府の会場に残されている。

 

二人きりになった途端、周防は、馴れ馴れしく葛木に語りかけてきた。形式ばった喋りと態度に徹した会談とは異なる、昔の「周防先輩」と呼んでいた時のように優しく頼りがいのある一人の男として。

葛木も昔を思い出し、今の立場を忘れて昔の事を語り合ったのだった。

 

思い出話を語り合った後、周防は政治に関する熱い想いを葛木提督にぶつけてきた。

実は二人は直接会うのは久しぶりだあったものの、もともと大学の先輩後輩の関係であったことから、親交はずっと続いていた。それぞれの立場でステージを駆け上がっていくことで、お互いに刺激を与え合える関係と言ってよかった。

 

私事ではあるけれど、葛木の婚期が遅れているのは、彼のせいかだったかもしれない。学生時代はわりといい感じだった。葛木は彼に憧れ、それがいつしか恋心に変わった。そして、それに周防も応えようとしていた。しかし、世の中うまくいかないもので、周防の政略的な結婚により、彼女の想いは成就せず、引き裂かれてしまった。認めたくは無いけれど、それについて、知らず未だ未練を持っているのかもしれない。

 

そんな葛木の想いに気づかないように、周防は語る。

現在の日本は。鑑娘によって緩やかな支配状況になっている。何をするにしても鑑娘に伺いを立てなければならない状態。その権限は、あまりに大きい。人類は、彼女達に飼われているのとなんら変わらない。しかし、深海棲鑑との戦いはほぼ終わろうとしている。それは鑑娘の力によるものが大きい事は、もちろん理解している。けれど、今や彼女達こそが人類にとって深海棲鑑に代わる驚異となっているのではないか? 鑑娘の影響力は日本国の隅々にまで及び、彼女たちの力なくしては何もできない状況。これを支配体制といわずしてなんというのか。そもそも、我々は鑑娘に対して、さまざまな犠牲を強いられている。多くの婦女子を生け贄として差し出し、若き男子を兵役に取られている。その事実を提督たる君は知らぬわけではあるまい? 私だって政権与党にいたことでその不平等な関係を見せつけられ、苦悩しつづけた。あのような犠牲を若い世代に押しつけていいのか? 何のための国家なのか? 深海棲艦と戦うために艦娘の家畜となるのか? これでは本末転倒ではないか。

 

葛木も同じ事を想い続け、今まで来ていた。だが、何も行動を起こせずにいた。自分はあまりに力が無さすぎて、どうすることもできず、ただ流されていたからだ。

 

鎮守府に派遣された鑑娘は、今や日本国のものといっていい。ならば、もう彼女達を生み出した鑑娘という勢力にに頼らずとも、深海棲艦に勝利できるのではないか? 人類の自由のために、今、立ち上がるべきだ!

と、彼は熱く語る。

 

しかし、葛木は、否定する。

「先輩の仰ることは、一理あります。けれど、鑑娘を引き上げられてしまえば、我々は無力です。鎮守府所属の艦娘たちが、我々の命令に従うかどうかはわかりません。彼女達を引き止めることができなければ、再び日本は、深海棲鑑の驚異にさらされてしまう。それこそ本末転倒なのではないでしょうか? 」

 

「それは無いとは言えないね。艦娘勢力が艦娘にどんな細工をしているか知れたもんじゃないからね。司令官の絶対命令権すら及ばぬ上位命令を発出することができるかもしれない。そうなれば、艦娘達は奪われてしまうかもしれない。……葛木提督、では、発想の転換をしてみればいいんじゃないかな? 」

 

「それは、どういうことなんですか? 私には良く分からないのですが」

 

「簡単だよ。敵と味方が常に普遍だと思うから、分からなくなるんだよ。つまり、……逆に深海棲鑑を味方に引き入れてしまえばいいのではないかね? 」

 

「そ、そんなことありえるわけがない」

葛木は、猛然と反論する。軍人として深海棲鑑と戦ってきたからこそ、そんな選択肢などありえない。どれほどの国民が深海棲艦の攻撃により亡くなったか。多くの艦娘が戦闘で沈んでいったか。安全な内地にいた周防には、その現実が理解できないのか。

「先輩、深海棲鑑がどれほどの国民を殺したかを忘れたのですか? 絶対悪である存在との和解などありえないです。……そもそも、あれと交渉などできるというのですか? 軍人である私には、そんな考え、ありえません」

その問いに周防は、笑った。葛木は少し腹が立ったが、顔には出さないように自制する。

 

「葛木提督、君こそ認識を改めないといけないよ。未だに君は深海棲鑑が得体の知れない化け物とでも思っているのかな? それは、とんでもない間違いだ。ずっと最前線で戦っていた君だから、そう思ってしまうのは無理もないけれどね。……彼らは。きちんとした知能と理性を持つ高次元生命体なんだよ。……しかも鑑娘との互換性を持つものさえいるらしいんだ。これまでの経緯から……確かに、彼らは敵だ。しかし、化け物ではない。我々と同じように考え行動し、怒り笑い後悔する存在なんだよ。現在、硬直した戦局が長く続き、彼ら?彼女らの側にも私たちと同じように嫌戦ムードが熟成されているということを君は信じられるか? 我々の想いに応えるように、彼らは艦娘達に気づかれないように、秘密裏に人類へ接触を図ってきているんだよ。彼らは願っている。この永遠に続きそうな戦いの連鎖を終わらせたいと。そして、むしろ諸悪の根源ともいえる鑑娘を世界から追い払おうとまで言ってきてくれているんだ」

信じがたいことを周防は話す。確かに深海棲鑑と鑑娘とは似たような所がある。領域に沈んだ鑑娘は深海棲鑑となり、また逆に撃沈された深海棲鑑は、鑑娘になるという事実もある。コアと呼ばれる部分を本体とし、体だけ船体だけを乗り換えて、どちらにもなるのが鑑娘(深海棲鑑)であるとの仮説が立てられ、その仮説の正しさを立証する事実がどんどんと積み上げられいる。それは軍部の最高層の人間の間では、知られている事実だ。艦娘と深海棲艦は、同じものである。……知られてはならない事実である。

 

鑑娘勢力に対して、日本国は依り代となる少女を差し出し、深海棲鑑はヒトガタと呼ばれる生命体を密かに上陸させて依り代となる少女を拉致している。

日本国沿岸では、ヒトガタと陸軍兵士の間で戦闘が発生していることを知る国民はいない。

 

関係が築かれてから随分と経過するのに、鑑娘達の目的が何なのか知るものはいない。けれど深海棲鑑の目的は、分かっている。

それは、日本国から鑑娘の一掃と一部の人間を生贄として得ることだ。どちらが正しいかなんて、我々には判断できない。しかし、目的のはっきりしている側と組んだほうがいいのではないか? 

「得体の知れない存在に支配され続け、吸い上げ続けられるよりも、深海棲艦と手を組み、彼らを利用して平和を目指すほうがより人間らしいと私は考える。今の人類はただ生かされているだけで、希望を抱くことも許されず、ゆっくりと死んでいっているようにしか思えない。手を組むのなら、欲望をさらけ出す存在のほうがやりやすいじゃないか。それに何よりも、深海棲鑑ならば、手持ちの艦娘を使えば倒す事も可能だ。鑑娘は我々に貸与されていて、鎮守府司令官の命令を絶対に聞くように設定されている。ならばこそ、勝機があろうというものだ。深海棲鑑と手を組み、彼らを利用して鑑娘勢力をを駆逐させ、その後、深海棲鑑が約束を反故にするならば、鎮守府の鑑娘を総動員して討ち滅ぼせばいいのだ。当然、やつらと手を組んでいる間に様々な技術を盗み出すつもりだ。抜かりは無い! 」

大学の頃から持論に絶対的な自信を持ち、そのカリスマ性でみんなを強引に引っ張っていくやり方そのままだ。それに対して反抗心が起こることは無く、むしろ圧倒されて感銘してしまう……。

 

「先輩の言うことは、確かに一理あります。人類は、今のままを続けて緩やかに滅んでいくより、一か八かの勝負をかけるほうがいいのかもしれません。実際、鑑娘は深海棲鑑を滅ぼすことにはあまり積極的ではないことを前線にいる兵士なら、皆感じていることでした。排除する力を持ちながら、どうして侵攻をしないのか? 彼女達からの説明は未だにありません。理由がわからないだけに不気味であり不安であります」

 

「実際に行動を起こしたら、深海棲鑑の力を借りている間は、鑑娘は捕らえて安全な場所……艦娘の指導者たる三笠の出だしのできないところにかくまっておけばいいのですよ。先手を打って絶対命令権で拘束してしまえば、もう手出しできないでしょう。艦娘の無力化については、これまでの実験でほぼ確立されていますしね」

さすがに与党の中枢にいただけあって、艦娘の研究施設とその研究成果についても彼は知っているらしい。内容を聞いた時は、そのやり口に反吐が出そうになったが、こういったことも考えての悪行だったのなら、あの施設も間違いではなかったか……。認めたくはないけれど、認めざるをえないのか。と、葛木は思う。

 

「しかし……」

葛木は不安を示す。

「私たちが立ち上がったとしても、他の鎮守府の提督ががどう出るかわかりません。政府だって同様です。彼らを説得するには時間がかかるのではないでしょうか? 」

 

「安心してください。今の大湊の、いえ、あなたの掌握している兵力をごらんなさい。舞鶴鎮守府の鑑娘まで手に入れて、恐らくは質量ともに最大兵力といっていい。君が誘えば、呉と佐世保の老いぼれ提督が刃向かうわけ無いでしょう。……それに逆らうならば、私の力でなんとかしますよ。私にも手駒の戦力があるのです。深海棲艦や艦娘には歯が立たないでしょうけれど、人間相手なら十分な力がね。……そして、彼らの持つ艦娘を手に入れれば、唯一敵対の可能性がある横須賀鎮守府でさえ勝機は無い。深海棲鑑との共同戦線を張れば、一気に粉砕できます。義は我らにあるのです。鑑娘からの支配からの脱却し、人類の完全なる独立を勝ち取るという! 」

異常なほどの大きなことを言うかつての先輩の言葉は葛木の心を捕らえたいく。彼に心惹かれ心酔していくのが自分でも分かる。とてもそれが心地よい。

 

彼こそが自分の求めていた伴侶ではないのだろうか……。

これまでろくな男と会えなかったのは、この人と再び出会うためだったのではなかろうか。そう、あの時うまくいかなかったのは、時が満ちていなかったからなんだ。やはり、彼が運命の人なのだ。自信に満ちあふれた彼に惹かれずにはいられない。彼となら、自分もさらなる上のステージに立つことができる。そして、皆に自分を正当に評価してもらうことができるんじゃないのか?

女というフィルター越しの評価ではなく、正当な軍人としての評価を。

 

 

 

 

 

 

 


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