もっとも……気休め程度でしかないけれどね。それでも何かしらの抵抗能力があるということは心強い。軍艦の性なのかな?
それに、最悪、艦内の弾薬を使えば自爆だってできるんだから。
領域に沈んだらどうなるかは、艦娘の中でもいろいろと噂されている。海底に没したら、やがて艦娘は深海棲艦として生まれ変わり、生者を自分達の側に引き擦り込もうとするとか……。かつての仲間達のことを忘れ、仲間を殺そうとするとか。……そんなゾッとするようなことは信じたくも無い。
それ以外に、もし生きたまま深海棲艦に捕らえられたらどうなるんだろうって考えたことがある。これまでの戦いで仲間を守るために日本海軍が領域から撤退するときに使用する戦法に「捨て奸」というものがある。本隊が撤退する際に艦娘一人を選んで留まらせて死ぬまで戦い、深海棲艦を足止めするやり方だ。こんな事―――冷泉提督ならば絶対にやらない戦いだけれど。残された艦娘が実際に沈没するまで戦ったかは、誰も確認していない。だから、彼女達がもしかすると、生きたまま捕らえられたかもしれないのだ。
深海棲艦にとって艦娘は絶対悪。憎むべき存在。そして生きたまま捕らえた艦娘がいたとしたら、どういったことになるのだろうか?
日本軍が鹵獲した深海棲艦をいろいろと研究していることを聞いたことがある。生きたまま……さまざまな調査、実験を行われた後、バラバラに解体され更に研究材料とされているらしい。普通に考えたら、艦娘だって捕まったら同じようなことをされるんだろうなと思うと、それは死より恐ろしいんじゃないかって思ってしまう。
その末路を想像するだけで、本当に怖くなる。そんなことになるくらいなら、自爆して死んでしまったほうがマシだ。死んだら深海棲艦になるのも嫌だけど、それは死んだ後の話。まだ我慢できる。それに、敵になったら仲間達が屠ってくれることを信じているし。
「どうしてこんなこと考えちゃうんだろう? 今はそんなときじゃないよ」
ネガティブな思考に陥りそうになるのは、きっと子供達の死を間近で見せられた事が原因に違いない。あんな愚かで理解不能な行動を見せられて、精神へのダメージが大きすぎたんだろう。自分達が守るべき存在に教われるなんて、いまだに信じられない。裏切られたショックは知らず知らず心に不可をかけているんだ。笑顔で慕ってくれていたと思っていた子供達が、心の奥底で自分の事を憎んでいたこと。それに気づけなかったこと。そして、自分の怪我が治癒しないままであることが不安に拍車をかけているに違いない。
「今は敵との距離をできるだけ保ち、追いつかれる時間をできるだけ引き伸ばせるようにすることなんだから」
深海棲艦との距離は次第に縮んできているけれども、まだまだ離れているままだ。追ってくる艦は3隻もまま増えることは無いみたい。これならば、十分に加賀達で撃滅できる敵の数だ。問題なんてないはずだ。多分、敵も加賀達が接近してきていることを知っているだろう。ならば、勝ち目の無い戦いにあえて挑もうなんてことも考えないはず。それが距離があまり縮まらない理由なのかもしれない。
もちろん、敵だって増援を要請しているはず。こちら側に何らかのトラブルがあり、チャンスが訪れたなら、全力で襲い掛かってくるはずだろう。
けれど、このまま行けばこちらの勝ちになるんだろうな。どこか安心し気が緩みそうになる。駄目だ駄目だ、しっかりとしないと。自分の心を引き締めて、あたりを警戒する。
突然、艦全体に衝撃が走った。艦が何かにぶつかったかのような衝撃。島風は近くのものを掴もうとするが失敗し、床に投げ出されてしまう。
そして、原因不明だけれど、エンジンが停止したことが分かった。
痛みを堪え、何とか立ち上がる。
「……一体、何事なの? 」
あたりを見回すが、付近には障害物のようなものは何も無い。しかし、現実に何かに衝突したような衝撃があった。そして、艦が停止した。まさか座礁でもしたのだろうか? けれどこの海域にそのような岩礁などは存在しない。数十メートルの深さの海が広範囲に続いているだけのはずなのだ。
軽く深呼吸をし、心を落ち着かせる。艦全体の状況を把握しようと意識を艦側に寄せる。
艦自体には損傷は無いようだ。どうやら外部からの干渉によって、エンジンが強制停止された痕跡だけは確認できた。
意識を艦の外側へと向ける。そして、検知する。
「ま、まさか、……何かがいるっていうの? 」
それは衝撃でしかなかった。
海底……それも島風という駆逐艦のすぐ下に一つの大きな物体の存在が確認できたのだった。
それは、軽巡洋艦クラスの大きさに思えるものだった。それは自然の物では無く、明らかに金属で構成された物体……潜水艦だった。
その事実は島風に衝撃を与えるに充分だった。
今、島風を追っている艦隊所属であれば、こんな場所までこられるはずは無い。そして、そうでないとしたならば、ここで待ち伏せしていたということになる。
「そんな……まさか? 」
断片的な事実を重ね合わせ、ありえない事実にたどり着こうとした島風は、ふたたびありえないものを見てしまう。幻覚にしか思えないけれど、それは幻などではなかった。
艦橋から見える駆逐艦島風の艦首に、いつも間にか、何者かが立っていたのだ。船がなければ来ることができない場所にそれはいた。
それは、真っ白な長い髪を風になびかせる一人の少女だった。
今回は凄い短いものになってしまいました。
すみません。