まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第237話 不知火という名の艦娘

鼓動が高鳴る!

まさか、まさか、まさか。

これは、夢なのだろうか? 

しかし現実に……今、前を歩いている! 彼女が歩いているんだ!!

 

見間違いでありませんように、人違いでありませんように……冷泉は必死に祈っていた。

 

たとえ一瞬であったとしても、通り過ぎていくその姿を見間違うことなど無いと思う。いや、絶対に間違いない。

 

あの時、深海棲艦との交戦の中での話……舞鶴鎮守府を、冷泉たちを裏切った艦娘、戦艦扶桑の砲撃から冷泉を庇おうとして被弾し、轟沈した彼女が、正に今……前を歩いているんだ。

 

生前の姿そのままで……。

 

冷泉はあり得ない現実を前にし動揺し混乱のきわみにある。彼女に近づくにつれて感情の高まり迸りが止まらなくなる。体の震えが止まらない。抑えることができない。

そして、不知火が生きていたという驚きと喜びで我を忘れてしまい、湧き上がってくる感情のままに駆け寄ると、無言のまま彼女を後ろから抱きしめてしまっていた。

 

強く強く……そして強く!

 

あの時は手を差し伸べられず、何もできなかった。ぢ、沈んでいく不知火を見送ることしかできなかった。手を差し伸べることさえできなかった。

あの時、何もできずに、ただ失ってしまったということに対する後悔がずっと心にあった。

 

「もう二度と離さない……ぞ」

と。

彼女の鼓動をぬくもりを……彼女の香りを、感じ取る。

 

目頭が熱くなっているのを感じる。たぶん、冷泉は涙ぐみ、想いを言葉にしていたのだろう。彼女の髪に頬を擦り寄せ、その小さな体をきつくきつく抱きしめていたと思う。

「しらぬい、しらぬい……良かった良かった。生きていたんだな。ぐ、よかった……よかった生きていてくれた。ごめんな、ごめんな。……本当にごめんな」

迸る感情。

喜びの感情が全身を貫き、感情を、行動を制御することができない、できやしない。

自分がこんなに感情的だったのかと驚くほどだ。彼女の上司として、それ相応の態度を取らなければならないと頭では理解していても、そんなの無意味だ。どうにもならない。

 

しばらくの間、ずっと彼女を抱きしめ、自分でもよく分からない言葉をわめき散らしていたと思う。高揚した感情も次第に落ち着いてきて、自分がボロボロと泣いている事を冷静に気づくことができた。

 

「……もう、よろしいでしょうか? 」

がっちりと冷泉に抱きつかれていた少女が、冷泉の感情が落ち着いてきたのを見計らったように声をかけてきた。

それは、とても静かで、冷静で、優しささえ感じさせるものだった。

不知火のその態度が余計に冷泉を冷静にさせる。われに帰り、現実を思い出さざるをえない。

 

冷泉の部下であった不知火は、すでに死んでいる事に。

 

口頭で知らされていた知識によると、今、ここにいるのは……実際には信じがたいが、冷泉の知らない不知火であることを。どう見ても抱きしめていたから間違うはずなんてない。冷泉の腕の中にいるのは寸分変わらず、冷泉の部下であった不知火でしかないのだ。

 

「ずいぶんと動揺していらっしゃいましたが、落ち着かれましたか? 」

と、冷泉に強く抱きしめられていたために乱れた衣服を整えながら、怒るどころか心配そうにこちらを見る。

 

「あ……ああ、うん」

しどろもどろになりながら、冷泉は彼女から離れる。

「す、すまない……いきなりこんなことをしてしまって」

自分のしてしまった事に気づき、冷泉は慌てて謝罪する。

冷泉を見る不知火は、特に平気そうな顔をしているけれど、内心はきっとめちゃめちゃ怒っているんだろうな。そう思い、冷泉は身構える。

しかし、予想してた反応は返ってこない。

 

不知火は乱れた髪を手ぐしで整え、ポケットから取り出したハンカチで頬を軽く拭う。

「……いきなりで、少し驚いてしまいました」

艦娘の表情は少し困ったような表情だった。睨むような挑むような視線をこちらには向けてこない。

 

「すまない、本当に申し訳ない。いきなり抱きついてしまって、本当にすまない」

情けなく謝罪する他なかった。一体、どこの世界に公の場で艦娘に抱きついて、おいおい泣きわめく将校がいるのか。

 

「いえ、私の事は構いませんから。何かご事情があったのでしょう。……その、大丈夫ですか? 」

と不知火は、むしろ心配そうな顔でこちらを見てくれる。

 

「あ、ああ大丈夫だよ。落ち着いた。……知っている子に似ていたんで、つい感情的なってしまった」

いや、たぶん、この子は自分の知っている不知火じゃないんだ。別の艦娘なんだ。冷泉はそう解釈するほかなかった。だって、冷泉の知る不知火とはまるで別人なのだから。冷泉に対してはもっと挑戦的で本音を見せようとしない子だったはずなんだから。あまり冷泉には心を開いてくれなかったけれど、時々垣間見える彼女の優しさや気遣いがとても可愛いらしく感じられた。

本来の不知火は、実はこんな感じの子だったということなのだろうか? 

現実を受け入れられずに混乱するばかりだ。

 

「その、……あの、何ですか、よろしいでしょうか、冷泉提督」

少しもじもじとした態度を見せる不知火。けれど、覚悟を決めたようにこちらを見上げる。

 

「お、俺のことを覚えていてくれたのか? 」

初期化されたとはいえ、自身が鎮守府司令官であることまでは認識しているのだろうか。であれば不知火は冷泉の部下であるままなのだろうか。

 

「覚えている? ……ご質問の意図は不知火には理解できません。愚かな艦娘で申し訳ありません。けれど、存じていることは間違いありません。舞鶴鎮守府の司令官……なお、現在は職権保留状態ではありますが、冷泉少将であることは」

不躾な冷泉の問いかけに対して、すまなそうな表情を見せる。

ふと冷泉は、彼女に対して感じていた違和感の正体に気付いてしまう。今対面している不知火という艦娘は、じっと冷泉を見て話している。冷泉の目をしっかりと見て話しかけてくる。……冷泉の知る不知火は、冷泉と話すときは目を合わすような事をせず、伏し目がちな事が多かった。偶然目が合うと、慌てて目をそらし、何故か怒ったような、不機嫌そうな態度を取ることが多かったことを思い出す。

知り得た情報からすると、これが本来の不知火であるなら、舞鶴鎮守府にいた頃の不知火は、どうしてあんな態度を取るようになっていたんだろうか……そんな疑問がよぎる。

 

「そ、そうか……覚えていないのか」

まずは寂しさを感じた。そして、やはりスペアボデーという概念が本当にあったという事実に驚かざるを得なかった。信じていなかったし、信じなたくなかった事が現実だというのは、やはり受け入れがたい。

艦娘という存在はいくつものスペアがあり、何度死のうと初期状態にリセットされて復活し、また新たな戦いへと赴くこととなる。自身が沈んだ際の恐怖や悲しみなど一切忘れ、まっさらな状態で戦いに挑むことができる……。

 

これじゃあ艦娘はまるで消耗品じゃないか!

自分ではどうすることもできないことだというのに、怒りがこみ上げてくる。艦娘無しでは深海棲艦と戦う術を持たないくせに、理不尽さに腹が立つ。

 

「俺のことは忘れてしまったのか? 俺と一緒にいた時間のことをみんな忘れてしまったのか? 」

また感情のままに、思わず声を荒げてしまう。悪いのは不知火じゃないのに、何故か責めるような言い回しをしてしまう。

「俺のことだけじゃない。舞鶴鎮守府で一緒に戦った仲間の事も覚えていないっていうのか? 」

 

冷泉の突然の剣幕に一瞬、怯んだような表情を見せた不知火だが、少し呆れたような表情を見せる。

「冷泉提督の仰る意味が分かりません。覚えているも何も、提督とは初めてお目にかかったわけですし。大変失礼かと思いますが、不知火としても、どうしてそんなに責められるのか、理解できません」

もともとの気の強さが表に出てきたのか、不知火は少し反抗的な態度を見せる。その姿を見て、ああやっぱり不知火であることには違いないんだなと、妙に納得してしまう。

 

「冷泉提督、どうかされたのですか? なぜ笑っているのでしょう? 何かこの不知火がおかしなことを言いましたか? 」

感情が表に出てしまっていたのか、怪訝な表情で艦娘が問いかけてきた。不知火としては、いきなり抱きつかれて、自分のことを覚えているかと意味不明な質問をされ、知らないと応えたら理不尽だと責められ、そして勝手に納得する男を見たら、理不尽以外の何者でも無いだろう。

まあ怒るのも無理は無い。

 

「……ああ、すまない。俺が勝手に勘違いしてわめき散らしてしまった」

そう言って謝る。何も知らない不知火に言っても仕方の無いことだと、やっと理解できた。とても寂しいことだが、冷泉の前にいる艦娘は自分の知る不知火ではないのだ。初めて出会った艦娘なんだ。

「驚かせてしまい、申し訳ない」

 

「はあ……」

頭を下げて謝罪する冷泉に呆れてしまったのか、彼女から反抗的な気配は消えていた。

「冷泉提督にも何かご事情があるのですね、ならば理解しました。……ただ」

といって口ごもる。

 

「ただ? 」

 

「ただ、失礼を承知で言わさせていただいてよろしいでしょうか……提督とこの不知火は、今日初めて出会った関係でしかありません。無論、決して上司と部下という関係ではありません。なので……なので部下でもない不知火に対し、公衆の面前で、あの、……あのようなことをするのは、さすがにどうなのでしょうか? 」

と、怒っているというより、むしろ冷泉をたしなめるように言ってくる。

冷泉の知る不知火なら、もっと違った言い方をしたはずだろうけど、これが本来の不知火なのだろう。これ以上、過去のことを言っても彼女には通じないのだろう。

 

彼女は、新たに生まれ変わったと同じ状態なのだ。それがどの時期かは分からないけれど、少なくとも冷泉と出会う前の記憶しか持ち合わせないのだ。

 

「このことについては、本当にすまなかった。どうか許してほしい」

と、頭を下げるしか無い。

記憶の齟齬がある不知火に、冷泉の自分勝手な感情を押しつけるのは可哀想だ。

こちらの想いを言ったところでちんぷんかんぷんだ。ただただ、起こした事実について謝るしかない。

「私の勝手な妄想で感情的になってしまい、君に嫌な思いをさせてしまった。本当に申し訳ない。ただ謝るしかできないけれど」

「まあ、冷泉提督も反省なさっているようですし、不知火もこれ以上、責めることはいたしません。……はい、ではこの件についてはこれまでとしましょう」

とニッコリと微笑んだ。

そんな感じで素直に笑う不知火を初めて見て不思議な感覚に囚われてしまう。

 

「どうかされましたか、この不知火になにか落ち度でも? 」

冷泉の表情に不満なのか、怒ったようた表情になる。

 

「いや、すまない。ちょっと思い出したことがあったものだから」

不知火の知らないことを行ったところで彼女を混乱させるだけだ。余計なことは言わないほうがいい。

 

「そうですか、不知火には関係なさそうなことですね」

 

「まあ、……そういうことに、なるな」

まだ話したいことはいろいろとあるけれど、それは冷泉の知る不知火とであり、いまそこにいる不知火ではない。これ以上、彼女を引き止めても、会話は噛み合わないままだろう。

 

「では、不知火も着任のための準備がありますので、これにて失礼します」

 

「ああ……ん? 着任って、どこかの鎮守府へ行くのか? 」

聞き逃しそうになったが、着任というキーワードに反応してしまった。

不知火は轟沈してからそれほどの期間が経っていないはず。なのにもう戦地へと赴くというのか? 艦の整備はもう完了したのかもしれないが、彼女の気持ちの整理はまだじゃないのか? そんなに簡単に気持ちを切り替えるなんてできるのか? そんなことを思ったが、それは杞憂でしかないことに思い当たる。

 

そうだ、彼女の記憶はリセットされているのだ。戦闘で傷つき轟沈した記憶なんてもともと無いのだ。

 

「はい、呉鎮守府へ着任が決まっています。すでに準備は完了しており、三笠様にご挨拶してから、出立となります」

その表情はどこか嬉しそうで自慢げでもあった。

 

「く、呉か……」

しかし、冷泉は【呉鎮守府】といいう言葉を聞いた途端、こころの奥底にどす黒いものが立ち込めてくるのを感じてしまった。

 

「どうかされましたか? 呉鎮守府に何か思うところがお有りなのですか? 」

冷泉の表情が見る見る陰っていくのに思うところがあるのか、不知火が問いかけてきた。

 

「呉の司令官、高洲提督のことだ。君は彼のことを知っているのか」

 

「はい、もちろんです。呉の司令官の任を長く続けられている、歴戦の司令官だと伺っています。そんな司令のもとで戦えることをとても光栄に思っています。主戦場となる瀬戸内海は、敵潜水艦の侵攻が多発している場所。そして、駆逐艦である私の力を見せられる最高の場所だと思っています」

誇らしげに答える不知火。

確かに、呉鎮守府の担当エリアの主な敵は潜水艦だ。よって対戦能力の高い艦娘の活躍の機会が他の鎮守府よりも遥かに多いだろう。彼女がやりがいを感じるのも間違いじゃない。

 

けれど。

 

「戦術的なことを言っているわけじゃない。俺が言っているのは、君の上司となる人間の資質のことだ」

 

「高洲提督に何か問題があるのですか? 確かに年齢的には壮年ではありますが、その結果、深海棲艦との戦闘経験は豊富ですし、呉の地理にも精通されています。なんの問題があるというのですか」

自分の上司のことを批判されたせいか、瞳に怒りの色が出ている。

 

確かに人のことを悪く言うのはいいことではないのだが……。分かっているが止められない。

「司令官としてのことを言っているんじゃない。俺が言っているのは、彼の人としての資質のことを言っている。不知火は聞いたことがないか? 高洲司令官が艦娘に対して、艦娘としてではなく、その、性的な対象として扱っている話を。艦娘の気持ちなど関係なく」

オブラートに包み言ったため、分かりにくい言い方になってしまったが、意味は通じるだろう。

 

「冷泉提督の仰っていることは、何か事実に基づいて言われているということでよろしいでしょうか。すでに何か確証を得られていると」

 

「いや、その……証拠は無い。噂で聞こえてくるだけだ」

決定的な証拠を持っているわけではなく、噂レベルの話でしかない。けれど、その確度は高く、ほぼ間違いのないことだ。それをはっきりと彼女に伝えることはできないが。

 

不知火は冷泉の言葉を聞き終えると、大きなため息をついた。

「確固たる証拠もなく、不知火の上司を誹謗するなんていかがなものでしょうか。しかも、ただの一般国民の噂ではなく、軍の高官である冷泉提督のお口から発せられることばとは思えないです。正直、失望を禁じえません」

 

「いや、まったくのデマでは無いんだ。確度の高い話なんだ。だから、できれば君には呉には言ってほしくない」

 

「どうして、私の人事を無関係のあなたが心配されるのですか? 今日出会ったばかりの不知火のことを根拠が無いとはいえ、心配されるのはどういう理由でしょうか? 」

 

それは、お前が俺の部下だったからだよ!

と叫びたかった。大切な部下をエロジジイのところになんて行かせたくないなんて当たり前だろう!!

そう叫びたかった。

「俺は、君のことが心配だからだよ」

と、出てきた言葉は随分と貧相なものだった。

 

呆れたような顔を見せると、不知火は、大きなため息をついた。

「ご心配ありがとうございます、冷泉提督。ただ根拠もない噂を信じて同僚を批判されるのはいかがなものかと思われます。それは冷泉提督の品位を疑うものですし、不知火の上司となる高洲提督に失礼です。そして、不知火に対しても酷いことを言っていることにお気づきですか」

 

ああ、まただ……。

冷泉の心に諦めに似た感覚が襲ってきた。また、俺は不知火を守れないのか? あの時も救えなかった。今度も同じ轍を踏むというのか。

 

「冷泉提督が仰ることが万一、正しかったを仮定しましょう。けれどそこになんの問題があるというのですか? 艦娘は司令官の命令に従わずしてなんとするのでしょう。戦場だけでなくそれ以外でも、従うのは当然。もし、私の体をお求めになるのでしたら、喜んで差し出しましょう。そもそも、艦娘の命は司令官のお預けしているのですから、何の問題もないです。まあそんなことはないですが。……少し時間を浪費してしまいました。不知火はここでお暇させていただきます。冷泉提督とはお会いすることはもう無いかもしれませんが、意見される際には、きちんとお調べになってから発言をされるようにしたほうがいいと思います。艦娘ごときが偉そうにいってすみませんでした。では、お体だけはご自愛ください」

と言うと、荷物を持ち上げ立ち去ろうとする。

 

「不知火、本当にそれでいいのか? 俺はそんなの認められない。今度こそ、俺はお前を守らなくちゃならない。ここで引き下がるわけにはいかない。二度と同じ過ちは繰り返さない」

このまま活かせたら、また後悔する。あの時、ああしておけばという後悔なんてもうしない。

駆け寄ると冷泉は不知火の腕を掴んだ。

 

「は? 冷泉提督、どうかされましたか」

 

「い……行くな。呉になんて行くな。ずっとこっちにいろ。俺の側にいるんだ。俺が守ってやる。もう二度と、お前を悲しませない」

途中からはもはや喚くような口調になっていた。けれど不知火には伝えなければならないんだ。

 

刹那、体に衝撃が走る。どんという音とともに鳩尾付近に衝撃が走った。呼吸ができなくなりそのまま蹲ってしまう。そして、不知火の掌底が鳩尾に打ち込まれたことに気づいた。驚きと痛みで混乱する。

不知火が冷泉に暴力を振るうなんて……。いやよく考えたら、冷泉は彼女の上司でもなくさらに権限を保留されている存在。もはやただの一般人と変わらない。そんな男がいきなり手を掴み意味不明なことをわめき出したのだ。正当防衛的な反撃をすることは認められている。

冷泉は呼吸することができず、空気を求め口をパクパクさせてしまう。

 

不知火はそんな冷泉を、汚いものを見るような目で見下ろす。

「いい加減にしなさい。これ以上の無礼はさすがに許せません。これ以上、侮辱するのなら、本当に手加減しません。何の権限も、関係も無いくせに、偉そうに不知火に絡まないでください。もう二度と不知火の視界をうろつかないでください」

最後は、吐き捨てるような口調になっていた。言うことをすべて言い切ると、不愉快そうな顔をして、不知火は歩き去る。

 

冷泉はゼエゼエ声を上げるだけで、何もできなかった。立ちあがることさえできず、蹲ったままで必死に吐き気を抑え込むだけだった。

 

また、何もできなかった。

 

何もできなかった……。

 

 

 

 

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