まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第244話 遠い遠い思い出

「俺は何も知らない。何も知らないんだ。知っているわけないだろう! くそ!……そんな研究をしていた奴らは許されるわけがない。処罰されるべきだ。……あなたもそれを知ったんなら、何らかの措置をとるんだろう? 」

冷泉は三笠の顔を見ることができない。眉間の奥の奥の方がなぜだかズキズキ痛む。三笠と話ている途中で急に痛くなってきた。

 

「もちろん、大切な艦娘を害するような輩にはそれ相応の報いを受けさせ、世間にそれを周知する必要があります。艦娘が受けた以上の苦痛を与えてから、見せしめで派手に処刑しないと気が収まらないですわ。ですがねえ……」

息がかかるくらい近くまでその美しい顔を寄せてきた三笠は、ささやくのだ。

「さっきも言ったでしょう? 彼らは施設ごと深海棲鑑の攻撃によって壊滅したってえ。……クスクス。艦娘研究に携わっていた研究者および軍関係者、業者、それから艦娘を性的に利用していた政治家および政府高官を含めて当時約1万人が町にはいました。けれど、ふふふ……みーんなみーんな、根こそぎ殺されちゃいました。もう完全な皆殺しですよ。一人も生きていません。艦娘を直接害していない人たちもいたようですけど、情け容赦無く、誰一人生き残ってません。一晩にして町は焦土と化したのです。いやはやすごいですね、まったく容赦無しです」

凍り付いたように動けない冷泉に優しく頬ずりすると、三笠は少し彼から離れた。

 

「いやはや、よほど深海棲鑑に恨まれるようなことをあの町の人たちはしでかしたんでしょうね。まさに神の逆鱗に触れたってことですね~。ん……あれれ、でも変じゃあないですか? ……彼らは深海棲鑑の敵である艦娘を、なぶり殺しにしていただけですよ。艦娘を排除するために研究を続けていただけなんです……これって、どちらかというと深海棲鑑に利する行為といってもいいですよね。……まあ情報が錯綜して誤って攻撃したのかもしれませんが、ここまで徹底的に地上攻撃をするなんて、なんか深海棲鑑のこれまでのやり方と全然違っていてー、すごく不思議だったんですよー。ねえねえ提督もそう思いませんか? 」

 

「深海棲鑑の考えることなんて、俺たち人間に分かるはずがないじゃないか。奴らには何か考えがあっただけじゃないのか」

楽しげに話す三笠に何とか返す。

 

「ふーん、冷泉提督はそうお考えになるんですね? でもいろいろ調べていたら、私には分からないことがいっぱいいっぱい出て来たんです。私程度の馬鹿な子では、真相にとてもじゃないけど、たどり着けそうに無いんですよう。提督、助けてくれませんか? 」

 

「あなたが分からないことが、俺なんかに分かるはずが無い」

思考がどんどんできなくなっている気がする。頭がぼうっとしている。

 

「まあまあ、ご謙遜を。冷泉提督の灰色の脳細胞なら、きっと真相にたどり着けると思いますよ。……なので、ここから私の疑問を言っていきますから、是非提督のご意見を教えてください。……まず、疑問その1。事件当日、深海棲鑑は一隻たりとも日本国領海には現れていません。でした。領域内から攻撃があったという可能性もありますが、領域で使用できる兵器は旧式のものになります。けれど、現地の調査の結果では、町を襲った攻撃は人類が使用可能な兵器によるものでは不可能なものでした」

 

「それは艦娘の探知網を回避できるような新型兵器が出てきた……とか」

と、苦しげな理由を捏造するしかできない。

 

「そういうことがあったら、一大事ですねえ。まあその可能性は保留しておきますか。では、疑問その2です。その艦娘の探査網の記録を解析すると、攻撃は松白町の西南西の方角のしかも日本国近海からの攻撃だったようです。計算結果によると、その攻撃はなんと舞鶴湾を中心とした半径10㎞以内になるんです。うわああ!! それって舞鶴鎮守府のすぐ側ですよね!! あれれ~? 変ですね!  まさか舞鶴鎮守府の誰も深海棲鑑が接近したことに気付かなかったんですかねえ? 続けて疑問その3ですう。その日なんですけど、松白町にある人が艦娘といっしょに訪れていたんですよ。しかも攻撃があったその時間も付近にいたみたいです。提督はご存じですか? その人のことを」

わくわくするような瞳で三笠はこちらを見ている。

 

「くっ……もういいだろう。最初から何もかも知っていたんだろう、あなたは。もったいぶった言い回しで嬲るような真似は止めてくれ」

冷泉は観念するしか無かった。痛む頭を押さえて彼女を見る。大きなため息をついて、呆れたように言葉を発するしかない。

「艦娘を連れて動ける人間なんて、日本国においては数人しかいないだろ? そうだよ、その日あの町にいたのは俺だよ。いっしょにいた艦娘は神通だ」

 

三笠はにんまりと嗤う。

「でもでも不思議なんです。どうして提督はあの町の事を知ったんですか? あそこに行ったってただの田舎の町にしか見えませんよね。隠蔽工作はかなりしっかりと行われていましたよ。その日本国政府が極秘裏に作り上げ、秘密にしていた施設をどうやって提督は知り、わざわざ現地まで行かれたんですか? 」

 

「横須賀鎮守府に大和と武蔵の進水式に出席のため移途中、知らない艦娘の声が聞こえたような気がしたんだよ」

観念したように冷泉は語り始めた。

「その時は地図で場所を確認しただけだったけど、確かに艦娘がいることを認識した。実際に鑑を失った艦娘だと分かった。その時は俺は全身麻痺状態で、一人でトイレすら行くことができない状態だったから素通りするしかなかった。けれど、しばらくして訪れるチャンスができたんだよ。だから俺は声のした場所を探しに行ったんだ。そこで見たことのあの町を発見した。地図上には何もない場所だったけれど。近づいて神通の能力により軍施設であることが判明した。まあそれは沈没した艦娘がいるということから、当然だとは思ったんだが。……しかし、それだけでは無かった。俺と神通は知ってしまった。そこで行われていた艦娘に対する残虐行為に。俺は研究者を捕らえて尋問した。彼らはあっさりと全てを語ってくれた。何の悪気も無くね。そして俺たちはあちこちを探し回り艦娘を探したけれど、そこにはすでに解体され、人の形ですら無くなった駆逐艦娘の遺体しかなかった。あの時、そこにいるって分かった艦娘たちだった。俺は研究者たちを問い詰めた。なんでこんなことをしたのかと。そして彼らは全てを語ったよ。そこでどんな運命が艦娘たちに起こったのかを。俺はもう何も考えられなくなってしまった。俺は神通に命じて町を攻撃させたんだ……。それがあなたが求める答えだよ」

覚えたセリフを吐き出すような感じで冷泉は一気に告白する。

 

「……提督、それがどのような罪だかお解りですか? これほどの大量虐殺を一人でやったのですよ」

その言葉にはどういうわけか責める気配は無かった。

 

「当然だ。人を殺したことは認める。けれど、あんな奴らに生きる資格は無い。俺は何ら罪の意識など感じていない。あんな奴らに生きる資格などない。あんな残虐なことを、俺たちのために戦っていた艦娘にするようなやつらに、あんな辱めを艦娘与えるような屑に生きる価値などないはずだ」

思い出すだけで怒りがこみ上げてくるのを感じる。

 

「確かに罪深き人もいましたが、中には生活のために仕方なく働いていた人だっているはずです。そもそも1万人もの人が命を失ってしまったのです。もしかすると何も知らない人だっていたかもしれませんよ。その人たちも死ななければならなかったんでしょうか? 」

 

「選別して処断することはできなかったから仕方ない。巻き込まれた人もある意味不作為の犯罪者だ。何もしなかったことも罪だよ。死んだって仕方ないじゃないか。保身のためとはいえ、許されない罪もある。彼らは不作為の重罪を犯したのだ。死を選別していたら、根源の悪を逃がす恐れがあった。これは、やむを得なかった措置だ。」

 

「提督は法によらず、あなたの判断人を殺すことをお認めになっているんですね。日本は法治国家のはずでしたが、艦娘を守るためなら、人間などいくら殺しても構わない……私としては嬉しいですが、なかなか強烈な思想をお持ちだったんですね」

 

「あの時は仕方が無かったんだよ。法に訴えたところで、隠蔽されるに違いない。法を執行する日本国が国是としてやっている事だからな。認めるはずがないんだよ。だったら、誰かが手を汚してでも排除しなければ、あの施設は存続することになる。そして、艦娘が犠牲になる。そんなものぶっ壊さないといけない。だったら俺がやるしかなかったんだ。そのためなら、たとえ人が何人死んだってどうでもいいだろ? 」

とてつもなく重大で、とんでもないことを言っているのになぜだかそれほど動揺していない自分に驚かざるを得ない。

どこか遠いところの出来事のようにあやふやで漠然としていて、事の重大さが今ひとつ現実味がない。頭がぼうっとして、思考も纏らない感じだ。

相変わらず頭痛は収まらないが、それでも言葉を続けざるを得ない。

まるでナニカに言わされているように感じながらも、言葉を続ける。

「力を持つものは、自ら正義を執行しなければならないんだ。そして、それは躊躇無くやらなければならない。それの何が悪いんだ」

 

その言葉を三笠は愉快そうに眺めていた。

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