まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第258話

翌朝―――。

 

冷泉達は日も昇らないうちから深い森の中の未舗装道をゆっくりと車を進ませている。

木漏れ日が差し込み、静寂な空間は、時折、鳥のさえずりと風の音だけが響いていた。

 

「そろそろ、大湊も近くなってきたのかな? ……だとすると、さすがに敵の斥候に気付かれるかもしれないな」

冷泉は、少しだけ緊張した面持ちで前方を注視していた。

 

「……心配ないわ。この不知火の感知能力で、事前に敵が近づいてきたとすれば、動きを察知できるから」

 

「まじで? 」

 

「そう。……私たち艦娘が持つシステムにより、人間達の動きは簡単に把握できる。もっとも、今回の任務限定で三笠様より上位権限を与えて貰っているから、できることなんだけれど」

不知火は、そう言ってフロントウィンド越しに前方を見つめながら答える。

彼女のその瞳は、まるで獲物を狙う野生の動物のようだった。おそらく、彼女の意識のバックグラウンドには地図画像が現れていて、人間達の「何か」の動きが手に取るように分かるのだろう。

 

「それに、もともと艦娘である不知火の能力は、人間を超えた五感と周囲の気配を感知する能力をもっている。集中すれば、数十メートル先の人間の呼吸音や、わずかな足音さえも聞き分けることができる」

何事もない様に言う不知火の能力に感嘆してしまう冷泉。さらに上位権限を与えられ全地球的な監視システム? により情報を把握できるのなら、斥候の動きなど問題無く把握できるのだろう

 

しばらく走ると、何かを感じ取ったような不知火が車を停車させるとエンジンも停止する。

「かなり前方に人がいるみたい。注意して、おそらく敵」

不知火は、淡々とした口調に告げた。

 

「……どこにいるんだ?」

と尋ねると、不知火は窓の外を指さす。

「500メートル程度先のあの茂みの陰に、二人いる。そして武装しているようね」

冷泉は、双眼鏡を取り出して、茂みの中を覗き込んだ。この距離では何も見えない。よって、向こうもこちらを認識できていないんだろう……と思う。

 

「もしかして、敵に見つかったのか? ど、どうする?」

冷泉が尋ねると、不知火は微笑んだ。

「向こうは全く気づいていない。そもそも侵入者が来るなんて、想像もしていないはずだから。……不知火達がやることは簡単。彼らを気づかれずに無力化し、この場を離れること。……少し待っていて」

不知火は、そう言うと車を降りた。

 

一人残され、不知火の動きをじっと見ていたが、すぐに茂みの中に消えてしまう。そして、しばらくすると、不知火は再び戻ってきた。

 

「終わった。もう彼らが追ってくることはないから。……安心して」

不知火は、そう言うと再び車を走らせる。

 

「なあ不知火、どうやって追い払ったんだ?」

冷泉が尋ねると、不知火は肩をすくめた。

 

「それは、秘密」

と一言だけ。

 

冷泉は、不知火の能力に改めて驚かされた。

彼女は二人の敵に気づかれることなく接近し、無力化したのだろう。その無力化がどういう意味かはあえて考えないようにした。これまでの冷泉の感覚では艦娘は人を害することはできないと思っていた。しかし、それは鎮守府に所属する艦娘という限定付であることを新たに知っている。不知火は鎮守府に所属していない。よって……。

 

「しかし、まるで忍者みたいだな」

意識を切り替えるつもりで口にする

 

冷泉がそう言うと、不知火は理解できていないのかこちらを向く。

「よく分からないけれど」

冷泉は、あえてその言葉を聞き流した。

 

再び山道を走り始めるが、しばらくすると不知火の表情に変化が生じる。また敵の気配を感じ取ったらしい。大湊警備府に駐在する陸軍兵士がパトロールをしているのか?

 

今回の反乱発生後、向こうの情報が入って来ないので、大湊警備府の警備のために派遣されている陸軍の部隊がどちら側についているかはわからないままだ。

さらに、このあたりのパトロールをしている兵士達が陸軍所属なのか海軍所属なのか、それとも関係の無い私兵なのか……それさえも冷泉には分かっていなかった。

 

「またか。しかし、そいつらはどこの所属なのか」

 

「さっきいた連中は陸軍の格好をしていた。持っている武器もそうだった。けれど身分証とかは持っていなかったから、本物かどうかは分からないわ」

淡々とした口調で不知火が答える。

「けれど大丈夫。今回も、私にお任せ」

 

「できれば派手な動きはしない方がいいんじゃないか? 騒ぎが大きくなったら、本格的にこちらに部隊を回してくるかもしれないし」

 

「分かってる。けれど味方がこんな場所をうろつく理由なんてないから、敵以外は考えられないでしょ。だったら、見つかる前に排除するのが基本」

不知火は、そう言うと、再び車から降りて茂みの中へと消えていった。

 

冷泉は、車の中で、不知火の帰りを待っていた。しばらくすると、不知火は戻ってきた。

 

「どうだった?」

冷泉が尋ねると、不知火は満足そうに笑った。

 

「今回は、ちょっと遊んできたわ」

そう言うと、不知火は具体的なことを何も言おうとしなかった。

 

敵兵士達は無力化されたということなのだろう。彼らがどうなったかは不明だけれど、おそらくは殺されているんじゃないだろうか。話して納得してくれるわけないし、不知火は拘束する器具なんて持ってなかったし、捕らえて拘束しているような時間は無かった。

冷泉は、もう何も聞かなかった。ただ、不知火の隠密能力に感心し、同時に少しだけ恐ろしさを感じていた……。

 

その後、二人は、何度も敵の追跡をかわしながら、目的地を目指し続けたのである。

 

極力人里を避けて進み、地図に載ってないルートを進んだりもした。

しかし、敵斥候の数は次第に増えているのは明らかだった。各個撃破していくにしても数が多すぎて、さすがに武力行使を続けていると、敵にも異常を検知されてしまうだろう。そして大湊警備府に近づけば近づくほど、警備は強まるのは必至。単独での基地内への潜入はさらに困難となる。

 

やがて車を放棄し、徒歩で移動せざるを得なくなった。車を使用して移動できるエリアおよび人は、限定されている。一般人が自家用車で、しかも基地周辺をうろついていたら当然、パトロールに停車させられるだろう。一応、二人が乗る車両は軍用の登録をされているから、ぱっと見では不審者扱いはされないだろう。しかし、基地周辺となると、さすがに無理がある。

周辺まで移動することは可能であったとしても、基地内への潜入は正式な許可証が無い限りは不可能である。

 

「ごめんなさい、提督。この先については、さすがに不知火ではどうしようもないわ。どうしたらいいか指示をして」

ついに不知火はギブアップをした。

「もう限界。このままでは、いつまで経っても目的地に着けないわ」

 

「分かっている。だが、このまま引き返すわけにはいかない」

 

「何か手立てがあるというの? 」

 

「艦娘間の通信機能を使用するんだよ」

艦娘同士はテレパシー能力のような方法でお互いに機器を使わずに意思疎通をできる。それを使えば連絡が取れる。

 

「誰と? 」

 

「大湊にいる加賀達だよ」

冷泉の能力は艦娘たちの位置を知ることができるのだ。とはいえ、権限を剥がされた今、知ることができる数は少ない。加賀、高雄、神通、榛名、不知火、金剛となっている。加賀、高雄、神通、榛名はもともと舞鶴鎮守府での部下であるから理解できるが、生まれ変わった不知火や金剛はなぜなんだろう?二人は冷泉に対して好意は持っていないようなのだが……。

まあ、今はそんなこと考えている場合ではないか。

 

冷泉の中では加賀達さえ取り返せればよいのだから。

 

 

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