まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第259話 the future is set.

「……なるほど、その手があるといえばある」

少し考えるような仕草を見せる不知火。

 

「どうした?」

 

「問題が二つある。まずは、不知火が連絡をしたとして、そもそも回線を接続できるか?という問題が一つ目……これは制度的な問題。現在、不知火は大湊鎮守府に所属していない。故に、通信権限が与えられてない。それから、加賀達がそれに応えてくれるかが二つ目の問題。こちらは心情的な問題。……みんなを裏切った不知火に対して彼女たちの中には割り切れない感情が残っているはず。そんな艦娘からの唐突な通信に不信感を持たない訳がない」

 

「確かに、そういった問題はあるとはいえるけれど……今は緊急事態だ」

 

「当然、一つ目の問題は三笠様にお話をすればすぐに許可される案件のはず。問題は二つ目の問題ね。たとえ冷泉提督のご指示だと伝えたとしても、不知火経由だと信憑性が低すぎる。平時ならまだしも、今は大湊警備府と日本国は交戦状態に入っている。しかも、お互いの主力艦隊は出撃しているのだから……。そもそも、冷泉提督は加賀達とは現在、何の関係もないわけだし」

 

「不知火が言いたいことはわかるけど、加賀達なら分かってくれる。こんな俺でも信じてくれる……それは間違いない」

不知火は冷泉の自信たっぷりな発言に不審げな表情を浮かべる。確かに、司令官の任を解かれた冷泉は、彼女たちと何の関係もない。通常ならば、そうなる。冷泉は三笠から聞いた話を簡単に話した。

手続きの不備はあったとはいえ、加賀たちについては、組織上は葛生提督の下にいるが、支配下には無いということを。よって、彼女たちは彼女たちの意思で事由に行動できるはず。

 

「提督の仰る事は、にわかには信じがたい話だけれど、三笠様が仰るのならそれが正しいのでしょう。提督が言うと不安しかないですが、ここは提督の提案に乗りましょう」

三笠の名前を出しただけで、不知火は簡単に信用した。まだ三笠に確認も取っていないというのに……。そしてすぐさま、三笠に加賀達への連絡為の通信許可を取得したようだ。

 

「三笠様からの許可が取れましたので、加賀に連絡します。……もちろん、事前に三笠様から彼女へ連絡がなされます。そうでないと彼女も通信してくれないから」

結局、不知火は冷泉の話の裏取りをすることなく、三笠との会話を終えたようだ。

「……通信が接続されたようです。加賀が出ました。不知火が中継しますので、提督がお話しください」

 

「どいうこと??」

 

「通信機器が使えればいいのだけど、この通信には使えないのです。いやいやですが、不知火がマイクとスピーカーの代わりをしてあげるというのです。なので、不知火を通信機と思って会話してください」

というと不知火が促してくる。

 

「わかった……。コホン、冷泉だ。話をしてくれるのは加賀か? 」

 

「ワカッタ、コホン、冷泉ダ、話ヲシテクレルノハ加賀カ? 」

と不知火が言葉を発する。

 

「なあ、不知火。艦娘間の通信をわざわざ話さなくてもいいんじゃないのか? 」

冷泉が指摘する。

 

「ばれましたか。雰囲気を出しただけなんですけどね」

と不知火は舌打ちをした。

「加賀からです。て……提督、良かった、無事だったのね。良かった! 心配したんだから(涙声で)。どれだけ心配したか(少し怒ったような口調で……でも、少し嬉しそうに)。うん……なんだか加賀らしくない言い回しですね」

 

「そのーなんだ……声真似はいらないよ。それから感情描写みたいな解説もね」

指摘するとまた舌打ちをされた。生まれ変わった?不知火は、冷泉の知る不知火と少し性格が変わりすぎているのではないか。それが意図的なのかは判断つきかねる。

 

「でも、どうして提督はそこにいるの?なぜ三笠様と繋がっているの?……と加賀が騒いでいますよ」

 

「じゃあ、伝えてくれないかな。みんな……心配かけてすまなかった。えっとだなあ、とにかく、なんやかんやあって、……結構いろいろありすぎて長くなるから端折るけど、三笠から葛生提督の反乱を知らされた。そして、今、金剛を旗艦とした横須賀鎮守府艦隊と大湊警備府の艦隊とが戦闘準備に入っていると聞いている」

冷泉はこれまでの経緯を加賀に話すとともに、この後、冷泉が大湊警備府に潜入し、司令官たる葛生提督を処断するつもりであることを伝えた。

島風が葛生提督の命により、深海棲艦の餌食になったということも。そのことに関する自身の想いは言葉にはしなかった。口に出した途端、歯止めがきかなくなってしまうから。感情を抑えるためにも、そのことからは目をそらさなければならなかった。

理由はひとつ、やるべき事は別にあるからだ。

「俺は艦娘同士の戦いを止めるためにも、やらなければならない。そして、大湊の艦隊は出港して手薄な状態だ。反乱を起こしたということで兵士達の人心はまだまとめられていないはずだ。充分につけいる隙があると思っている。しかし、まともに正面から行く事はできない。だから、お前達の力を貸して欲しいんだ」

 

「施設内に入る手助けはできるけど……。でも、提督に人殺しをさせたくない。……なんだか加賀は困惑しているようね」

淡々とした口調で不知火が伝達してくる。

 

「伝えてくれ……。加賀、お前の言いたいことは分かるけど、俺たちには時間が無いし、他に手は無いんだよ。もちろん、見知った人間を……いろいろと誤解があって、そして和解できて、俺は本当に葛生提督のことをを仲間だと思っていた。信じられる人間だと思っていた。……そんな人間を殺さなければならないっていうこの現実は辛い。……けれど、これは戦争なんだ。やらなければやられる。俺がやられるだけなら、まだ耐えられるけど、……放っておいたらどういった結末を迎えるにしろ、多くの艦娘が沈むこととなる。本来は深海棲艦と戦うはずの艦娘が、味方同士で殺し合うことになる。ありえないし、そんなことは許してはならない。葛生提督を信じて託したのは俺が人を見る目がなかっただけで、自業自得だ。ミスは俺の手でなさなければならない。……だから、お前達が躊躇する必要なんか何一つない」

すべては三笠の策略によるものだけれど、それは口にしない。そちらに誘導されたというのは間違いないけれど、葛生提督を許すことはできない。これは冷泉の意思でもあり本音でもあるのだから。冷泉の信頼を裏切った事、日本国を裏切った事なんてたいした意味は無い。本音は艦娘を守りたい。そして、島風の仇を討ちたい……それだけでしかない。今回の任務については私怨がほとんどでしかない。それが分かっているから、島風の事は口に出せなかった。

 

「島風のことは言わないのね……加賀が言ってるよ」

予想通り、加賀はそこをついてくる。

 

「島風は関係ない。今は艦娘同士が争う事態を止めることが最優先だ。そして、限定された条件下でもっとも有効な事は司令官を討つことだ。そして、それができるのは現状、俺しかいない。だから、お前達に協力して欲しい。今は、俺はお前達の上官でもなんでもない。けれど、加賀、分かって欲しい。このままでは多くの仲間が沈むことになる。深海棲艦との戦いでなく人間同士の権力争いで死ぬことになる。そんなことは許されない」

 

「島風は提督にとても懐いていた。私が見ても嫉妬してしまうくらい。提督だって島風の気持ちに気づいていたでしょう? 彼女もあなたの為ならと一生懸命頑張っていた。それなのに、葛生提督は……」

 

「それ以上言うな! 」

と思わず叫んでしまった。不知火も思わず驚いたような表情をする。

「ごめん、……感情的になってしまった。島風の事は言われなくても分かっている。でも、これ以上は言わないでくれないか。これ以上話したら俺は自分の感情を抑えられなくなるから……すまない」

一体、自分は何度、大切な部下を死なせてしまったのだろう。それは自身の無能さが原因なのだ。何度も何度も間違いを繰り返し、それでも間違い続けてしまう。正解には永遠に届かない。

「今は個人の感情に突き動かされてはいけないんだ。今いる者たちのためにできることしなければならない。だから、加賀も言いたいことはあるだろうけど、それはすべてが済んだ後にしてほしい」

必死に感情を制御し、なんとか言葉を紡いだ。

 

―――しばしの間。

 

「加賀は諦めたようね。あなたに協力するとのことよ」

 

「心配させてすまないと伝えてくれ……」

と、一言だけ冷泉は答える。

加賀は、冷泉の想いを理解してくれたようだ。

 

冷泉は、これから人を殺さなければならない。感情を乱してはいけない。大義のものに実行するという建前にしておきたい。島風の仇なんて思って行動したら、冷泉は自分といういものを維持できなくなる。怒り、憎しみ、恨み、悲しみ、嘆き、心残り……そんな感情に身を任せれば人を殺すこともいとも簡単にできてしまうだろう。それほど怒りは大きかった。けれど怒りや憎しみに身を任せてしまい復讐を遂げたら、残るはただの人殺しという事実のみとなってしまう。

 

復讐を遂げた後には、結局のところ何も残らない。

 

冷泉だけならそれでも良かったけれど、憎しみに任せて手を汚してしまう冷泉を、島風は喜んでくれるだろうか。自分の仇をよく取ってくれたと喜んでくれるだろうか。

そして、叢雲は褒めてくれるか? 扶桑は喜んでくれるのか?

……みんな何も言わないかもしれないけれど、きっと悲しい瞳をするんだろう。

 

形だけと言われるかもしれないけれど、何かを守るためにしたかった。大切な艦娘たちを私怨による人殺しの部下とは呼ばせたくなかった。

 

「どうせ、反対しても提督はやめないでしょうから。……とのことよ、提督。長門と神通が一緒にいるみたいだけど、彼女たちも同意とのことよ」

不知火の言葉に、ある程度冷静さを取り戻していたはずの冷泉は、艦娘達に感謝するとともに、少しだけは動揺する。

大湊に引き継がれた舞鶴鎮守府の艦娘達は、やはり絶対命令権なるものには逆らえなかったという事実にだ。

 

絶対命令権とは、それだけの強力な権限ということか。その影響力は冷泉が考えていた以上のものらしい。……神通だけは抗いきったようだけれど。それは彼女が冷泉に寄せる想いの強さなのか、三笠の干渉が入っていたためなのかは不明だ。

 

「分かってくれてありがとう。ところで……一ついいか、加賀。榛名は今、どうしているんだ?」

榛名がいないことが少しだけだが違和感があった。彼女も後からやってきた艦娘だ。加賀や長門のように絶対命令権の影響外にいるはずなのだから、加賀と一緒にいてもいいはずなのだ。

 

「絶対命令権の影響下にない私と長門、そして神通は今回の作戦からは外されているわ。数をそろえておきたいという考えはあったでしょうけれど、命令ができない艦娘なんて葛生提督にとっては不安要素でしかないわよね。だから、私たちは艦へのアクセス権限を遮断されて幽閉されている状況だわ。大きな大戦を控えているから、不安要素は排除しておきたかったからでしょうね。榛名については、最初から葛生提督への忠誠を宣言してたわ。涙ながらに自分は冷泉提督のところへ無理矢理連れて来られて、有無を言わさず従わされていたって訴えてね。冷泉提督の事をひどく、とてもひどい言葉で非難して……とても聞いていられなかったわ。でも、榛名の必死の訴えに葛生提督も情にほだされたようで、彼女だけは捕らえられることはなかったの。さすがに作戦に参加は認められなかったようで、鎮守府で待機中となっているわ。……と、提督、加賀はなんだかすごく不機嫌な感じで言ってるわよ」

 

確かに、舞鶴にやってきたときからずっと榛名という艦娘が理解できなかった。冷泉に対する対応が、くるくるとめまぐるしく変わるし、その言動は捉えどころが無かったからだ。前任地での提督との関係によるトラウマが彼女の心に暗い影を落としていることだけは理解できたけれど、どうもそれだけではない部分が多すぎるのだった。

ゆえに、冷泉は彼女に対しては他の艦娘とは違う対応をしてしまっていた。腫れ物に触れるような扱いという言葉が適切だろうか。時々、自陣に取りこんでしまった爆弾のようにさえ思う時があったのだ。それほど不安定な存在と思わざるをえなかった。

 

「時間が経てば経つほど、榛名という艦娘は壊れていっているようにしか思えないの。そもそも……提督の部下というより、未だに前の呉鎮守府の艦娘じゃないかと思ってしまう時もあるくらいだし。……そんな些末な事はどうでもいいわ。けれど冷泉提督に暴行を受けて従わされていたとか、毎日のように性的被害を受けたとか……みんなの前で泣きながら騒いで……ありもしない虚言で提督をおとしめようとしたことは許せない。同じ鎮守府にいるとはいえ、残念だけど、彼女を仲間とは思えないわ。……ずいぶんと辛辣に加賀は榛名を評している」

不知火が淡々と伝えてくる。

榛名は、自身の立場が不安定な大湊警備府で自分がどちら側にいるかを示すために、あえて冷泉を批判したのだろうか? それが事実だと信じたいけれど、冷泉には分からない。ただ、不確定要素である榛名には頼れないことだけは理解できる。

 

「わかった。とにかく今は榛名については保留だ。時間が無い。とにかく、俺が基地内に入れないことにはどうすることもできないんだよ」

いろいろな問題は、今最も大きな難問を解決してからでいい。それさえ済めば何とでもなるはずなのだから。

感情は渦巻いて混沌としているが、自分の思いなんて今は放置しておかなければならない。なすべき事をなしてから考え、悩み、怒り、悲しめばいいのだから。作戦の成功無くして、そんなことすら考えることなどできなくなるのだから。

 

「少し調べてみるから待ってね。……加賀達が何か考えてくれそうだわ」

艦娘達との会話をずっと中継しながら聞いている不知火は感情を表さない。内容は理解しているのだろうけれど、意見は述べるつもりもないようだ。冷泉とは対面でいるだけに何か言われると少し辛いところがあるが、その無反応さが今はありがたかった。

 

「加賀は鎮守府内のシステムにアクセスしている」

と不知火が突然解説する。

 

「捕らわれた状況の加賀達がそんなことできたりするのか? 」

当たり前だが、そういった権限なんて認められるはずがないのではないかと思った。

 

「もちろん。私経由で三笠様が手を貸してるのだから、そんな事は簡単よ」

当たり前のように言う。

 

「三笠が手を貸してくれているというのか」

 

「当然でしょう。提督一人が動いたところで、最初から何もできるはずがないでしょう? そして、提督は自分の身さえ守ることもできないから不知火を同行させている。ここに来るまでさして大きな妨害もなく大湊に来られたのも、三笠様が裏から手を回してくれたからに過ぎない。運が良いとかありえないこと。そんなことも分からない無能だったのですか」

 

「……そういった評価は不愉快極まりないな。まあ、確かにむちゃくちゃな要求だったけれど、影からいろいろな段取りはやってくれていたってことか。やはり不愉快だけれど、文句を言える立場に俺はない。……しかし、それが事実だとすると、基地侵入についても加賀達にやらせるより、お前にやらせればもっと手っ取り早いんじゃなかったのか?」

 

「フン!……それでは加賀達の出番がないでしょう? 提督の役に立つことが彼女たちの願いなんだから。三笠様はそういった事も考えて行動されている。もちろん不知火にやらせてもらえるのなら、もっと迅速に解決できるけれど、それは三笠様の意思に背くもの。……つまり、そういうことよ」

 

「わかった。ここは加賀達に任せる」

冷泉はそう答えるしかなかった。

 

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