まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第64話

金剛の41cm連装砲、扶桑の四一式35.6cm連装砲の一斉射撃が始まった。

劈くような轟音がこちらまで響いてくる。

ちなみに、金剛の装備は実際の装備武器より強力な物が搭載されているのは改によるものである。

 

遥か前方に水柱が立て続けに上がる。

 

呼応するように冷泉の視界に様々なステータスデータが表示されていく……。

 

この画面は、艦娘が艦橋内のモニタに表示させているものでは無いことは、すでに確認済みだ。

主に戦闘時等において表示されるもので、冷泉の意志とはあまり関係なく現れる現象であることだけは何となく理解しているが、これが何の力により発現されているのかは推測すらできていない。

 

こちら側の戦力データどころか、敵のデータもある程度まで表示してしまうし、それ以外の様々なデータをどこからか引っ張ってくることもできるようだ。そして、最近、唐突に発現した照準に関する機能は圧巻だ。目視によるデータしか無いような状態であろうとも、それ以外の、どう考えても得られるはずのない相当に精密なデータが届き、冷泉の頭では到底不可能な演算を行い、確実な命中へと導くことができるのだ。

もの凄く便利で、ゲームでいうところのチートに近いような能力なのだろうけど、何かと自分の脳がどこかと繋がっているような感覚があり、得られる物の凄さよりも、不気味さのほうが多い。……一体、こんなデータを誰が供給してくれているのだろう。この能力……いや、その何かにアクセスするソフトウェア的なものが冷泉の頭の中にインストール? されているのか? 何の承諾も得ずに? 

 

何の代償も無くこんな能力を使えるとは、さすがに冷泉にも信じられないから、この能力の使用に注意が必要なのだろうなとも思っている。しかし、それが分かっていてもこの力が無ければ、ただ艦娘の艦に乗っているだけでまともな指揮もとる能力も経験も無い冷泉である。鎮守府司令官として艦隊指揮を執り、勝利を義務づけられた彼にとって、この力を使わずにいることは不可能であることは理解している。そうしなければ、冷泉の望みは叶うことがないだろう。仮に冷泉がギフテッドでもなければ、無理なのだから。

 

この力が発現した後しばらくは、頭の真ん中あたりに鉛でも入ったかのように重く感じ、さらには、痺れるように感じたり、頭痛がしばらく酷いといったダメージがあるのだが、これくらいの代償を支払うことでこの能力を使えるのなら、艦娘達を護る事ができるのであれば、随分と安い買い物だと思っている。

今後はこの能力のスイッチのオン・オフを任意に出来るようになれば、更に有用性が出てくるのだろう。もちろん、そのためにはいろいろと調べたり訓練をしたりしなければならないのだろうが……。

 

金剛の砲撃は、敵艦より平均30メートルほど右に逸れている。扶桑の砲撃については、平均22メートル後方へ着弾したようだ。正確にはもっと詳細に表示されているのだけれど、面倒くさいので端折る。

続けて視野右隅に縦に並んで表示された六隻の艦娘の名前の表示の内、高雄・羽黒の名前が青く点滅する。金剛、扶桑はすでに青く点灯している。

 

これは、攻撃の射程に入ったという表示のようだ。

 

敵との距離はまだまだある。祥鳳の艦載機の攻撃により敵の戦艦は沈黙状態になっている。なお、祥鳳は現在艦載機の収容作業中である。このため、残された敵艦の主砲の射程に入るまでまだまだ余裕がある。今ならこちらが一方的に攻撃を続けられる。

 

「金剛、左へ30。扶桑、下へ20修正。再度砲撃準備をしてくれ。それから、高雄と羽黒、5秒後に敵が射程に入る。4人とも俺の合図で砲撃を開始できるようにしてくれ」

冷泉は素早く指示を出す。

横に立つ高雄が一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、それを口に出すことは無くすぐに指示を艦娘に伝える。

彼女の意図はすぐに分かった。おそらくは冷泉が何を根拠に修正の指示を出したのか、重巡洋艦の射程に敵艦隊が入ったのかを知ったのかを疑問に思ったのだろう。本来なら説明すべきだけれど、現在は交戦中であるためそこまで時間は割けない。彼女もすぐに理解したのか、何も聞かなかった。

 

「提督、全艦準備完了しました」

 

「よし、砲撃開始」

艦隊司令官の合図と同時に、戦艦2隻、重巡洋艦2隻の一斉射撃が始まった。

ビリビリと艦橋にまで砲撃の振動が伝わってくる。

 

少し間をおいて、前方で爆発が起こる。

攻撃が敵艦に命中したようだ。

 

視界に表示されている敵の表示のうち、「雷巡チ級」「軽巡ヘ級」に大破の文字がポップアップする。「戦艦ル級」においては先ほどまでは大破表示だったが、いつの間にかLOSTと表示されていた。つまり、沈没したのだろう。

残すところ、敵で戦力となるのは駆逐艦のみとなっていた。

 

「よし、敵戦力は大幅に削れた。一気に攻める。祥鳳に指示。艦載機を発艦させろ」

すでに準備済みだったのだろう。艦載機が一斉に飛び立っていくのが肉眼でも見える。

 

敵艦隊旗艦である戦艦が撃破された段階で、すでに勝敗は確定していた。

それでも敵は果敢に応戦し、こちらにも損傷が生じたが、戦力差はいかんともしがたく、敵艦隊が全滅するのにもそれほどの時間はかからなかった。

 

――― 勝利 S ―――

CONGRATULATIONS!

 

気のせいか、そんな文字が表示されたように思えた。

もちろん、ゲームのようには表示されることは無かった。

ただ敵艦隊のステータスがすべて撃沈となっていた。

 

そして、ゲームのように各艦娘が表示された名前の横に数字がカウントされていくのが見えた。どうやら、経験値が加算されて行っているらしい。そこら辺はゲームと同じようだ。

もちろん、これは彼女たちには見えていないものであるし、彼女たちの超感覚をもってしても認識すらできていないようだが。

 

そういった謎の部分はさておき、冷泉が舞鶴鎮守府提督になって初めての領域解放だ。

 

怨嗟の波動を撒き散らしながら、敵ボスたちは深き深き黒き海の底へと沈んでいったのだ。

 

そして、まるで夜が明けていくように、呪いのように赤暗く澱んだ空が白んでいく。

 

世界がゆるやかに、確実に変貌ていく。

 

穏やかな海。

雲間から差し込む神々しいまでの日の光。

土曜日の穏やかな朝が来たかのように、冷泉の心も晴れ渡っていくのが実感できた。すこしではあるが頭痛が残っているものの、この光景、この雰囲気に包まれたらそれほど気にならなくなったようにさえ思える。

 

艦隊のステータスを見る。

圧勝だったとはいえ、さすがにBOSS戦だ。道中の敵と比べ、敵の強さもワンランク上となったせいだろう。各艦軽微ながらも損傷を受けている。

当然ながら、みんな疲労の蓄積が明らかだった。

早く帰って、みんなを休ませてやらないといけないなと考える。

そして思ってしまう。

この戦い、加賀がいたらもっと楽に勝てただろうな。ふと思ってみる。

 

 

やがて、明けていく世界の外から、舞鶴鎮守府の迎えの艦隊が近づいてくるのが見えた。

事前に指示をしていた駆逐艦主体の艦隊である。不知火を旗艦とした、島風、叢雲の編成艦隊だ。

領域戦を終え損傷疲弊した艦隊単独で帰投するところを敵の潜水艦に狙われる可能性を考慮しての対処である。対潜装備を持たない艦隊であれば余計に油断はできない。

 

「不知火、島風、叢雲お疲れ様。早速だけど艦隊の護衛を頼む」

普段なら島風がひゃほーと叫んでくる筈なのだが、何故か大人しい。ツンツンしているはずの叢雲も黙ったままだ。

 

「何かあったのか、不知火」

すぐに普段とは異なる雰囲気に気づいた冷泉は旗艦に問いかける。

領域では、外部との通信がほぼ遮断されてしまうため、よほどの運がいいか、深海棲艦が意図的に通さないかぎりは、外界からまず連絡は取れない。

このため、一度領域に入ってしまったらもはや艦隊に指示ができなくなるのだ。故に他の提督達は指示書を旗艦の艦娘に渡しておき、艦娘任せの戦闘を余儀なくされていた。このため不測の事態には対応できないため、時折大損害を出すこともあったのだ。こういったことを避けるため、冷泉は自ら領域遠征艦隊に同行するのだった。

 

ただ、司令官が領域に出撃し鎮守府にいないということは、逆に通常世界のほうで非常事態があった場合に司令官不在という事態に陥るという欠点も持ち合わせているのだが。

冷泉は、今、その不測の事態の発生を予感したのだった。

 

そして、告げられる。

「提督、加賀さんが……」

彼女は一度言葉を止める。そして伝えたのだった。

 

加賀がみんなの制止を振り切り、単独で港を出発したことを。

 

「何だって? 何で」

一瞬、何を言っているのか理解できなかった。

彼女が一人で港を出港した?

その意味がすぐには理解できなかった。

まず最初に思ったのは、一体、どこへ行くつもりなんだ? 彼女に行くあてなんてないはずなのに……。

 

「どこへ、何をしに? 行く必要があるんだ」

馬鹿のように繰り返してしまう冷泉。 

加賀は横須賀鎮守府での辛い思い出から逃れるために、あそこを出た。そして舞鶴に来たのだ。うちを出てしまったら、もう行く所なんてないはずなのに。どこへ行くというのか?

「わからん」

 

「提督、しっかりして下さい。考えている時間なんてありません」

不思議がる冷泉に扶桑が訴えかけてくる。その声には焦りの色さえ見て取れる。

領域の魔力が無くなったため、通常の通信システムが復旧している。このため、通信手段を使用して扶桑が連絡を入れてきたのだ。

 

「うん? どうしたんだ扶桑。何か気になることでもあるのか? 」

 

「不知火、加賀さんは彼女だけで出航したのよね」

 

「はい。私達は止めたのですが、彼女は聞く耳を持ちませんでした。私の責任で行動するのだから、あなた達は何もしなくていい。放っておいて、と。空母の方が私達よりも多くの権限を持っています。故に港のゲートも開放させられましたし、彼女に出航をとめる権限は私達には与えられていません。まずは提督の指示を仰ごうとしたのですが、領域内のため通信は取れませんでしたので」

不知火は淡々と語る。本当は彼女なりにいろいろと加賀の出航をを止めようとしたのだろう。けれど全ては結果だけが評価される。ゆえに彼女は経緯を全て省き、自分がどれほど手を尽くしたかを省いて、その段階事の結果のみを伝えてきた。

そのことは彼女が口にしなくても、時折「ちょ、あんた。そんだけでいいの」とブツブツ文句を叢雲が言っていることからも推測できた。

言い訳をしないのはいいことだが、それだけだと何もしなかったと誤解されるだろう? と心配になってしまうが、それが不知火という艦娘なのだから仕方ないと諦めた。ここで冷泉がフォローしても彼女を怒らせるだけになるし。

 

「提督」

扶桑の声が不安げだ。

 

「どうしたんだ、扶桑。なんだか心配そうだけど。確かにあいつを迎えにいってやらないと行けないだろうけど、正規空母なんだから、そんなに心配する必要があるのか」

彼女の心配が何に起因するかはいまいち理解できていない冷泉は、何故そこまで焦っているのかわからないままだ。

 

「そんなお気楽に構えていられません」

少し苛立つような声で扶桑が言う。

「提督はご存じではないのですか? 確かに領域においてはその航空戦力によって圧倒的な戦力となる航空母艦です。その点だけしか知らなければ理解できないのかもしれません。……提督、その強い航空母艦は、通常海域においては、ただのプロペラ機を搭載しただけの輸送船以下でしかないということを認識して下さい。空母が搭載している艦載機は領域に特化した兵器なのです。通常海域ではただの速度の遅い飛行機でしかありません。ミサイルやレールガンの前では全く無力な存在です。そして、航空機以外に武器を持たないのが空母なのです。対潜能力などまるでないし、領域では圧倒的な力を発揮する航空機も、通常海域では、対空ミサイル等の対空兵器の的にしかならないのですよ。護衛もなしで海を彷徨くなんて殺してくれっていっていうようなものです。深海棲艦にとって航空母艦は何よりも先に潰しておきたい兵力です。それが単艦で彷徨いているって知ったら何をさておき沈めに来るはずです」

 

「な? 」

初めて知った、いや知らされた事実に衝撃を受ける冷泉。

 

「提督、大変です。加賀さんの前方数十キロの範囲に敵深海棲艦が現れました」

不知火が伝える。

「数隻で通常海域を彷徨いている駆逐艦のようです。攻撃力はたいした事はないでしょうが、空母相手ならかなり危険です」

声に切迫感。

 

意識を集中させると一瞬眩暈にも似た感覚が冷泉を襲う。

同時にモニタにスイッチが入るようなちらつきが視界に発生する。

加賀という文字が見える。そしてその周囲に敵深海棲艦の点がいくつか見えた。

距離にして、ここから500キロといった所か。西へと加賀は向かっているのが分かる。九州を迂回して横須賀にでも戻るつもりか?

 

急ぎこちらの艦隊の状況を確認する。

第一艦隊は全艦疲労が高い。この状態での高速移動とその後の戦闘はかなり難しい。おまけに距離もあるため戦艦や重巡洋艦では無理だろう。軽巡洋艦の神通でも無理だ。そもそも第一艦隊は戦闘明けだ。とてもじゃないが連続戦闘をさせるわけにはいかない。

それに駆逐艦の速力をもってしても間に合うかどうかという状況だ。

 

「何かいい方法は」

考えている時間さえもどかしい。時は一刻を争うのだから。

 

そして冷泉は判断する。

「島風」

 

「を? 」

いきなり呼ばれた島風が素っ頓狂な声を出す。

 

「お前の力を貸してくれ。……今から俺はお前の艦へ移動する。そして、加賀を救出に向かう」

 

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