まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第74話

そして、重苦しい沈黙が続きます。

加賀さんは俯いたまま黙り込んでいます。他の子たちも何が起こったかを理解できていないのか、一言も言葉を発さなくなりました。

私は私で、勢いでああいった行動をしたものの、実は次にどうするかをきちんと考えていませんでした。もちろん、それなりのストーリーを考えてはいたのですが、慣れないことを、自分のキャラでなことをするのは駄目ですね。

 

―――頭が真っ白になってしまいました。

 

なので、沈黙してしまいます。

どうしよう……。どうしたらいいのでしょう?

みんなの視線が痛くなってきました。次に私がどうするのかを息をのんで待っています。……待たれても何も無いのですが。

何かをしなければ何かを言わなければと思いますが、焦れば焦るほど何も考えられなくなってしまいます。

 

恥ずかしい……です。

 

「あの、高雄秘書艦。……すみません、いいですか? 」

突然、ずっと黙っていた神通が話しかけてきます。

 

「なんでしょう? 」

助かった……。彼女が何を言おうとしていうかはどうでもよかったのです。とりあえずこの沈黙を打ち破ってくれたことに感謝しながら、彼女を見ます。

果たして、彼女は何を私に言おうとしているのでしょうか。

 

「すみません。お取り込みの所申し訳ないのですが、そろそろ遠征に出なければならないので、許可をお願いしたいのですが」

いつも通りの少し恥ずかしそうな表情で神通は言いました。

 

「……はあ? 」

おそらく相当間抜けな顔で答えたように思います。この状況でまさかそんな発言が為されるなんて考えてもいない突拍子もない事でした。

 

「加賀さんを曳航していた私の旗下の第二艦隊の子達も帰ってきました。ですから、少し遅くなりましたが、計画されている遠征に出ようと思います。……許可願います」

 

「え? 神通、あなた何を言っているの? 状況が理解できていないんですか? 提督が危篤状態なんですよ。そんな時に、今から遠征だなんて、何を考えているの」

呆れてしまう。

確かに神通って艦娘は少し生真面目過ぎる部分があって、ちょっとみんなと違うところがあるなとは思っていたんですが、ここまでずれているなんて。

 

「提督は大丈夫です。問題ありません。……だって提督は、私に約束してくださいましたから。かならず、おまえ達を守るって言って下さいました。ご存じのように、提督は約束は絶対に守ってくださる人です。だから、きっと回復します」

何の疑いもないような晴れ晴れとした表情で彼女が宣言します。

 

「え……と」

次の言葉が出てきません。

何を言っているのでしょう。どんなオカルト話なんでしょうか! それ以外の感想が出てきません。もちろん、そんなことを口には出せませんが。

 

「提督が元気になられた時に、私たちがこのままずっと何もせずにここにいたままだったら、出撃の際の資材が足りない状態が解消されません。そんなことになったら、提督が悲しみます。提督のご期待に応えられません」

 

「あのね、神通。さっきから、あなた何を言ってるの? 先生が言ったでしょう? もってあと数日だって。その話が理解できていないんですか? 遠征に出ることも必要かもしれません。けれど、遠征に出ていたら、もしもの時に……」

こんな事、絶対信じたくないし、言いたくないです。けれど、現実を直視しないといけないのです。秘書艦という立場であればなおさらです。

もし、もしも……提督がそんなことになったとしたら、その時はみんながお側にいるべきなのです。もちろん、そんなこと、信じたくないですが。

 

「私は、……提督を信じています。提督は、すぐに元気になられます。ですから、問題ありません」

 

「はっきりと言います。神通、あなた、……もし、提督が死んだらどうするの? 」

埒が明きません。神通は自分の信じる事に囚われていて物事はしっかりと見えていないに違いないです。そんな子には、はっきりと、これ以上ないくらい言ってあげないといけません。

 

「提督は、死にません」

静かに、しかし毅然と、彼女は返事を返してきます。そこには、迷いなど微塵も感じとれません。

どうしてそこまで確信を持てるのでしょうか。

 

「あなた、現実を見なさい。もしも……」

少し気圧されながらも何とかこちらも言葉を返します。しかし、中途半端なものとなってしまいます。

 

「仮に提督が亡くなったとしたら、私も生きている意味が無くなります。あの時から私の魂も体も、すべて提督のためのみに存在しています。私は提督の為だけに生きることを決めたのです。だから、提督が居なくなった世界に私は何の未練もありませんし、生きる意味はありません。喉をかっきてでも命を絶ち、提督の下へ行きます」

残念ながら、艦娘には自傷できないという制約が課せられています。だから、自分の意志で死ぬことは叶いません。どんなに念じたとしても、自分の命を自ら絶つことどころか、傷を付けることさえできないのです。……だから、加賀さんも生きているしかないのですから。

けれど、神通を見ていると、本当に彼女ならその命を絶ってしまいそうに思えてしまいます。それほど彼女の想いは強く感じられます。

 

「その話は、もういいですよね。さて、出撃するのは……」

神通は私との議論を時間の無駄と判断したのでしょうか、お構いなしに話を続けます。

遠征に出る第二艦隊の編成についての考えを秘書艦に伝えてきます。私に伝えたってそんなのどうやって判断すればいいのでしょう? ……彼女の読み上げるメンバーの中には第二艦隊所属の島風の名前はありません。島風は入渠中ですから、当然ですが。

神通曰く、叢雲、不知火、村雨、初風の駆逐艦を指名します。そして、彼女の近くでブツブツとなにやら文句を言っていた大井を見つけると、

「大井さん、あなた、提督のことが心配ですか? 」

と問いかけます。

 

「ん……んなことあるわけないでしょう! そりゃ、あの人は司令官なんだから、……上司なんだから少しは心配してるけど、それは部下と上司の関係でしかないですわ。それだけよ。それに私がガタガタ騒いだって、何も変わるわけないじゃない」

いきなり話を振られた大井は虚を突かれたような顔で反論しています。

 

「では、大井さん。あなたも私と一緒に遠征に行ってもらっていいですね? 」

神通は大井にニッコリと微笑む。

 

「ぐ、ぐぬぬぬっ。……そ、そりゃ、もちろん構わないわよ。断る理由なんてありませんよ」

何故だか引きつった笑顔で大井は同意しています。

 

「ありがとうございます。では、高雄秘書艦。この人員にて、遠征を行いたいと思います。出撃許可をお願いできますね」

 

「しかし、神通。提督がこのような状況なんですよ。万一のことがあったら」

考えたくはないけれど、最悪のことを考えてしまいます。

 

「先ほどもお伝えしたように、私は提督を信じています」

 

「もちろん、それは先ほども聞きました。けれど、信じているだけでは……」

自信たっぷりに答える彼女が、とても羨ましく感じられました。どうすればそこまで確信できるのでしょうか。

 

「提督が意識を取り戻された時に、私たちが何もせずにただここで嘆いていたなんて、そんなこと恥ずかしくて言えません。提督は、私たちを信じてくださっています。だから、私たちはそれに応えなければならない。いえ、応えたいんです」

 

「あなたはそうでも、他の子たちはどう考えているの? ねえ、みんなそれでいいの? 」

 

「もちろん、みんな同じ考えです。……ね? そうでしょう」

神通が後ろに控える艦娘たちに問いかけます。

 

「……無論です」

と不知火は即答します。

まあ、この子はそうでしょうね。実際のところどう考えているかは分かりませんが、規範に忠実な子ですから、いかなることがあってもそちらを優先するでしょう。

 

「……神通さんがそう言うなら、まあ、私はそれに従うしかないわね」と、叢雲がふてくされ気味に答えます。

この子は、普段は自分の意見をしっかり言う……言い過ぎる子だけれど、神通の事は苦手なのか、一目置いているのかは分からないけれど、わりと素直に言うこと聞きます。本当は提督の側にいたいはずなのに無理をしているようです。態度に思い切り表れています。前に提督が入院したときも、禁じられていたのに病院に潜入して一騒ぎあったと聞いています。

 

そして、大井を含めた他の子たちは、お互いに顔を見合わせ、やはりしぶしぶといった感じで頷きます。

 

確かに、このままじっとしていても何も変わりません。ただ心配するだけで待っていたら、みんなの心には負の感情か高まるだけでしょう。それならば、別のことに集中したほうがいいということなのかもしれません。その合理性については、認めざるをえませんね。

「わかりました。神通、秘書艦として、出撃を許可します。ただ、一つだけ条件を付与します。……いつでも連絡を取れる状態にだけはしておきなさい。もちろん、これは吉報をすぐあなた達に伝えられるようにです。……いいですね? 」

神通は頷きます。

そして、彼女はどういうわけか、唐突に加賀の方へと歩み寄っていきます。

少しですが、いえ、結構動揺してしまいます。せっかく収まった話をまたややこしいことにしないか冷や冷やです。

 

神通が前に立ったことに気づいた加賀さんが彼女を見上げます。

「加賀さん。……あなたもいつまでもここに留まったままでいないで、すぐに入渠すべきです。怪我をしたままじゃないですか。怪我の治療も艦娘にとっては任務です。早急にドックへ行くことが必要でしょう」

 

「……私のことは放っておいてくれないかしら。……私のせいで提督はあんな目に遭ってしまったのよ。そんな時に、のんびりと入渠なんてしていられるわけないでしょう? あなただって聞いたでしょう? ……ここ数日がヤマだって。そんな時に何をしろというの! 私は何処にも行かないわ。ここでずっと提督の無事を祈っていたいの」

苛立ちを隠さずに加賀さんが反論します。

 

「加賀さん。あなたは、提督が助からないと思っているのですか? 」

まったく怯むことなく、神通が話します。その言葉はむしろ諭すような話し方です。

 

「そ、そんなことないわ。彼には助かって欲しい。意識を取り戻して欲しい。……伝えたいことがあるから。だから、そんなこと考えたくもない」

その言葉を聞き、神通は微笑みかけます。それは、すごく優しい微笑みです。

「では、加賀さんも提督は助かると信じているのですよね。だったら、提督が意識を取り戻した時に、あなたが中破状態のままここにいたらどう思うんでしょうか? せっかく、命がけで助けたつもりなのに、治療もせずにいたって知ったら。あなたが、提督のことを心配して、怪我の治療法もせずにいてくれたって喜ぶでしょうか」

 

「そ、それは」

 

「あなたもご存知だと思います。この鎮守府の状況は、それほど余裕がないってことを。鎮守府は様々なノルマを抱えています。そして、すでに期限切れのノルマさえあります。これらを早く達成しなければ鎮守府は、いえ提督の立場が危うくなるのです。提督の怪我が完治したら、直ぐにでも第一艦隊は出撃しなければならないのです。そんな時に、大切な戦力となる正規空母のあなたが使い物にならなければ、いったいどうなるのでしょうか。それについては説明するまでもありませんよね。……加賀さん、あなたは提督のお役に立ちたいとは思わないのですか? 」

 

「そ、それは」

加賀は口ごもります。戦いを続けたくなくて横須賀からこちらに来た彼女にはなかなか難しい質問なでしょうか。

神通はため息をついた。

「もういいです。どう決断するのは、加賀さんなのですから。加賀さんでしかできないことなのですから。余計なことを言って、すみませんでした。けれど、これだけは覚えておいて下さい。……私は、私たちは少しでも構わないから提督のお役に立ちたい。だから、遠征に出ます。私なんかでは直接的に鎮守府にたいした貢献できるわけではありません。けれども、これが今、私たちにできる精一杯のことです。今はそれをやるだけです。こんな状態ですから、提督を想い心配し嘆くのもいいでしょう。けれどそれでは何も解決しないと思います。加賀さんは、提督に期待されています。だから、それに応える必要があると思うんです。それだけは覚えておいてください。少し言いすぎたかもしれません。すみませんでした」

そう言うと神通は会釈をすると出て行った。他の子も慌ててそれに続いていきます。

加賀さんは少し考え込んでいましたが、ふいに立ち上がります。そして、待合室から出て行こうとします。

 

「加賀さん、どこに行くのですか? 」

気になって問いかけます。

 

「もちろん、ドックに行きます。そうだ……すみません、ドックまで車を回してもらって構いませんか」

答える加賀さんのその顔には、すでに迷いはありませんでした。

 

「了解です。すぐに来てもらいますね」

加賀さんの言葉に、私まで嬉しくなってしまいます。ついに彼女は悲しみと絶望を振り切ったのでしょう。そして、今、自分が何をすべきか、しなければならないかを知ったのでしょう。

私はすぐに連絡を入れます。

 

「高雄さん、提督のことをよろしくお願いします」

加賀さんはそう言うと、迎えの車に乗り込みました。

ドック行きの車を見送ると、私は大きくため息をつきました。

 

「提督、必ず戻ってきてください。もう、あなたの命はあなたのためだけのものではないのですから。あなたが、もし、死んだりなんかしたら、何人もの艦娘が悲しむだけでなく、希望を願いを夢を奪われてしまいます。あなたは、いろんな子たちの希望なんですから。……もちろん私にとってもですよ」

病院に戻ろうとすると、何人もの艦娘たちが出て来ました。

 

どうやら彼女たちも加賀さんたちに感化されたのでしょう。無為に待つよりも、提督の復活を前提に行動を始めたようです。それぞれが自艦の繋留している場所へと駆けていきます。

第一艦隊もメンバーだけでなく、待機する子たちもそれぞれが自分の役目を果たすために……。

 

私も自分の役目を果たさなければなりませんね。

 

秘書艦は常に提督の側にいなければなりません。私は彼の側でみんなの分も祈り続けなければなりません。そして、提督が意識を取り戻したら、みんなに伝えなければなりませんからね。

 

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