まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第93話 提督問答

冷泉達は受付を済ませると、会場の中へと入っていく。

会場は広い。こんな大規模なパーティが開けるような会場を持つ横須賀鎮守府との差を実感せざるを得ない。百人を越える規模のパーティなんて、舞鶴鎮守府では開催不可能だし、そもそもそんなパーティをやったことが無いのだ。

 

煌びやかなに装飾された会場。

豪奢な料理。

教育の行き届いている事がよく分かるレセプタントの動き。

あらゆる所にお金をふんだんに使用した事が冷泉にも分かる。首都に最も近い鎮守府という事もあり、こういった催し事も横須賀鎮守府は、多いのだろうか。警備に当たっている兵士達も明らかに慣れた雰囲気だ。

 

そんな事を考えながら、周囲をキョロキョロする冷泉。

 

「ねえ、……あなた、どこから出てきた田舎者なの? こちらまで恥ずかしくなります。完璧にこなせとまでは言わないけれど、せめて自分の地位に相応しい態度をしてもらえないかしら 」 

と、小馬鹿にしたような感じで冷たく加賀に指摘される。

 

「う、うむ」

加賀は簡単に言うけれど、慣れない雰囲気に圧倒されてしまっているのだから仕方ない。こちらに来てからも無かったし、向こうの世界でもこういった格式張った会なんて出たことないのだから。

 

いくつもあるテーブルは、それぞれの階層毎に定められているようで、冷泉達の座る場所もあらかじめ決まっていた。当然、軍関係者の席になる。しかも、鎮守府司令官クラスの席に座る席だ。

つまり、他の提督と初対面でというわけある。当然、若干の緊張。

すでに席は、大半が埋まっている。あらかじめ準備されていた席が回収され、スペースが空けられる。どうやら、そこが冷泉の席らしい。車椅子をそこに納めると、隣に加賀が腰掛ける。

冷泉は自分の左隣に腰掛けた艦娘に目がいく

それは、ゲームと同じ。……茶髪のボブカット。白のノースリーブのヘソだしにミニスカート。頭には角のようなカチューシャをしている。その子が戦艦陸奥であることはすぐに分かった。

そして、その隣に座る彼女の上司へと視線を移す。通常礼装の人物を確認する。しかし、どうした事なのだろう。……髪が陸奥より長いのだ。しかし、違和感はすぐに解消される。凝視するまでもない。それが女性であることがすぐに分かったからだ。

予備知識は持っていた。陸奥と一緒ということで、それをすぐに思い出すべきだった。

第一印象は、気が強そうだな、と感じさせる顔。目が合ったので冷泉は会釈をするが、しばらく睨むような瞳で冷泉を観察するとプイと視線を逸らされる。

彼女こそ、大湊警備府の提督だ。確か名前は、葛生綺譚(かつらぎ きたん)という、冷泉なら漢字で書けない名前だった筈。歳は冷泉より10歳程度は歳上だったはず。

初対面なのにこの態度。何か曰くでもあるのかと感じたが、冷泉とは話すに値しない、との判断をしたのだろうと思っておくこととした。エリート意識が強いのかも知れない。しかし、印象は最悪だな。隣に座っている陸奥が申し訳なさそうにあたふたし、困ったような顔で頭を下げたのが印象的だった。

テーブルには他にも呉、佐世保の司令官と艦娘もいた。呉鎮守府の秘書艦は戦艦榛名、佐世保鎮守府の艦娘は戦艦伊勢だった。一通り彼らにも挨拶をする。呉と佐世保の司令官は冷泉よりもだいぶ年長となり、横須賀の生田、舞鶴の冷泉が異常なくらい若い例外的存在ということが分かる。冷泉は存在の異常性が原因で抜擢されているだけだから、横須賀の提督がどれほど優秀であるかがここでも証明されているという訳か。

 

しかし、日本国を護る5つの鎮守府司令官が一同に集まるということは、危機管理上どうなのかという気持ちもしたが、それほど今回の戦艦の進水式が重要ということなのだろう。その辺りの基準は、民間企業にしかいたことのない冷泉にはまるで想像もできないけれど。

そのことを思わず加賀に言ったら、

「他の鎮守府については、優秀な副官や参謀がいるから、短期であれば作戦にも何ら支障はないわ。仮に何かあったとしても、彼らがどうにかできるという提督の信頼あってこそだけれども。それがあるから、ここにみんなが集まっているだけのことよ。……舞鶴だけが異常なのよ。特に優秀じゃない司令官しかいないのに、そのポンコツに全ての権限が集中していて、誰も補佐できない有様なのはね」

 

「うわ、ひでえ」

手厳しい批判に思わず声を上げてしまう。

隣の陸奥がクスリと笑い、冷泉と目が合うと慌てて何もなかった振りをしている。

ああ、陸奥は可愛いなあ。初対面だけど、何か話しやすそうだし見た目も色っぽいしエッチだし、ちょっとくらいエッチな発言しても上手く受け答えしてくれそうだし、。どっちにしても、提督には優しそうだしなあ。ああ、むっちゃんむっちゃん。可愛いよ、むっちゃん。

 

「また、馬鹿な事を考えているんでしょうけれど、そろそろ会が始まるわよ」

冷静な口調で秘書艦よりの指摘を受けたため、すぐ我に返る。

 

晩餐会は観たことのある民放局のベテランアナウンサーが司会を務める形で進行していく。海軍大臣の挨拶、続いて大和武蔵の紹介がされ、その後、複数の地元選出の国会議員の挨拶。そして、マスコミの取材という形で進んでいく。

 

へー、こんな風に進んでいくのか。そんな事を思いながら、冷泉は運ばれてくる食事を口に運んでいく。料理は高級そうな、フランス料理だと加賀が言っていた。ちなみに、右手しか使えないので、上手く食べられないため、秘書艦に食べさせて貰いながらである。大変美味であり、給仕してもらっている事から結構ご機嫌になり、ワインも大変美味しくいただいていた。

 

「ねえ、あなた」

と、突然、むっちゃん……失礼。陸奥の向こう側から声をかけられる。

当然ながら、声の主は葛生提督である。

 

「はあ……何でしょうか? 」

一応、年齢も階級も上なので、丁寧な言葉遣いを心がける。

 

「何であなたが、鎮守府の司令官になっているの」

 

「は? ……いえ、それは命令でありますから」

 

「あなたみたいな若造が、どんな手を使って今の地位を手に入れたのって聞いているのよ」

口調は高圧的で、断定的だ。口調は加賀に似ているが、彼女と異なり言葉の節々に悪意が感じ取れてしまう。

彼女もどうやらお酒が回っているせいか、冷泉に文句があるらしい。それも、相当に。

本来ならば、自分が舞鶴鎮守府の司令官であるはずだと主張しているようだ。

 

「私がいるべき場所を、後から来て横取りするなんてどういう了見なの? 偉そうに司令官になったというのに、あなた、着任してから大した実績も上げられないでしょう? それどころか、こっちが舞鶴をフォローするためにどんだけ戦力を割いているか分かってるのかしら」

舞鶴鎮守府に冷泉がいることで、葛生提督が率いる大湊警備府の人たちが迷惑を被っていると言うことらしい。

「ずっと疑問だったのよ。なんで私が警備府なのよ。ド田舎勤務なのよ。能力も実績も人脈もすべて私がどうみたって上じゃないの」

言葉はヒートアップするばかりだ。他の提督達は聞こえないふりをして、食事に集中している。いつものことなのだろうかと思うが、訊ける状態ではない。

 

。陸奥が申し訳なさそうにこちらを見ている。冷泉はとりあえず荒立てないように笑ってやり過ごそうとするが、なかなかの厳しい戦いになりそうだ。

 

「一体……どんなコネを使ったのかしらね。見た感じ、貧乏くさい不細工顔しているから、止ん事無い方との繋がりも無さそうだし、どうせ卑しい身分の人なんでしょうね。どこかで盗んだ金でも積んだのかしらね」

公的な場でこんな誹謗をする人間を初めて見たため、唖然として物が言えなかった。葛生提督の口から次々と悪口が出てくるものだから、せっかくの知的で綺麗な顔が歪んでとても醜く見える。

 

「あなた……」

横にいた加賀より不穏な空気が立ち上ってくるのが分かった。彼女から発せられる、明らかな怒りの波動が冷泉を焼きそうになる。慌てて彼女を見、言葉を制する。今にも葛生提督に食ってかからんばかりの勢いだった。タイミングを逸していたら、本当にトラブルになっていた。

 

「いいんだ」

そう言って、加賀に向かって頷く。彼女は相当に不満そうな顔をしたが、冷泉の言わんとすることが理解できたのか、それ以上は何も言わなかった。

 






今回は少し短めになってしまいました。
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