隣のほうから来ました   作:にせラビア

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LEVEL:10 告白

穏やかな日差しがデルムリン島に降り注ぐ。空は晴天。太陽の位置もまだ東に近い。そこから見える海の機嫌も穏やかそのものであり、時折海鳥の鳴き声が聞こえる。

そんな朝日の中、ダイとチルノとブラスの三人は海岸にいた。

昨日の激闘が嘘のように思えるほど穏やかな空気。だがアバンを失ったという喪失感と島に残る破壊の傷跡が、それは錯覚だと告げる。

 

「行くのか、ダイ?」

「うん」

 

ブラスの言葉にダイは迷うことなく頷いた。

 

「すまん……できることなら、ワシもついていってやりたいのじゃが……この島を覆う結界を一歩でも出てしまったら、ワシは魔王の手先になってしまう……」

 

ブラスは心底悔しいと言わんばかりに俯き、ダイのことを見られなかった。だがそんなブラスの不安を吹き飛ばすかのように、ダイは決意を込めて力強く言う。

 

「平気さ。じいちゃん、この島でみんなと待っててよ。おれが必ず大魔王を倒してやるからさ」

「ダイ……」

 

その言葉にブラスの我慢も限界だった。溢れ出る涙を手の甲で抑えるが、それでもとめどなく流れ落ちていく。幼いころから育ててきた息子が、これほど立派に成長するとは。それと同時に、そんなダイを大魔王討伐という危険極まりない旅路へ送り出さねばならないことに、自分が何の力にもなってやれないことに対する情けなさも感じてしまう。

 

「泣かないでよ。もう二度と会えないわけじゃないんだから」

 

ブラスの涙を気遣うためにそう口にするが、その言葉に反応したブラスはさらに大粒の涙を零した。どうしたものかとダイは辺りを見回し、そしてあることに気が付いた。

 

「そういや、ゴメちゃんは……?」

 

いつもダイの周囲を飛び回っている――そうでなくてもブラスかチルノか、どこかで必ず見かけるはずのゴールデンメタルスライムの姿が見えない。普段ならば呼んでいなくても来るくらいなのに、今日に限って影も形も見えなかった。

 

「おお、そういえば見あたらんな……おおかた、別れが辛いんで、どこかに隠れているんじゃろうて……」

 

ブラスも辺りを見回し、ダイと同じ意見だった。ブラスも知らないとなれば、どこに行ったのだろうか。首をひねりながらも、姿の見えないもう一人のことを口にした。

 

「……ポップは?」

 

口にするのを躊躇いながらも、ダイが続けて尋ねる。それを聞き、ブラスも何とも言えず沈んだ表情を見せた。

 

「……泣き疲れて、眠っとるよ……アバン殿のことが、よほどショックだったんじゃろうなぁ……」

 

ブラスの言葉にダイもつられるようにして顔を沈ませる。昨日ハドラーを撃退してからというもの、ポップはほぼ泣き通しだった。夕飯も碌に食べることなく、誰が声を掛けても碌に返事もしないままずっと涙を流していた。

 

「アバンどのから聞いたんじゃが、彼はなんでも小さな村の武器屋の息子だったらしい。だが、偶然村にやってきたアバン殿の強さに感激して家を飛び出しておしかけ弟子になったそうじゃ……心底アバンどのを尊敬していたんじゃろうなぁ……」

「…………」

 

特訓時に見せたポップの飄々としたお調子者の姿と、今の落ち込んだ姿とのギャップがあまりにも大きく、そして初めて聞いたポップの過去の気持ちを慮り、ダイは何も言えなかった。ただ、アバンのことを誰よりも大事に思っていた。それだけは痛いほどわかった。

 

「ダイ、船の準備はできたわ」

 

神妙な面持ちの二人に対して、チルノが声を掛ける。彼女は今まで、船出の準備をしていた。ダイたちがデルムリン島に漂着した際に乗っていた船をベースに、生産系スキルを十全に活用して舵と帆を付けている。櫂も完備されており、全体をしっかりと補修しているので航海にも耐えられるように気を配ったさながら匠の一品だ。

なお、チルノ手製のキメラの翼が残っているため、それを使えばもっと簡単に一瞬でロモスに向かえるのだが、先の出会いを考慮して黙っているのはここだけの秘密である。

 

「ありがと、姉ちゃん」

 

そういうとダイは出来栄えを確認するかのように船体に触れる。まるで新品のような感触に満足しつつ、だが心底残念そうに呟いた。

 

「姉ちゃん、やっぱり来てくれないの?」

「うん……ごめんねダイ。どうしても、片づけなきゃいけないことが残ってるの」

「それって何なの? おれも手伝うから、そしたら一緒に行こうよ」

 

――魔王討伐のために島を出る。

昨日ダイがそう言った時に、真っ先に不参加の意を示したのはチルノだった。ダイとしては姉も当然参加してくれると思っていただけにショックであり、なんとか理由を聞こうとするのだが、昨日からこのように要領を得ない断り方をされ続けている。

その理由とは一体何なのだろうか。頭を捻れどダイに妙案は浮かばず、かと言ってダイが出発するのに際して、率先して船の準備を行ってくれることから、反対したり遅らせようとしているわけでもないだろう。姉が何を考えているのか今一つ分からなくなっていた。

 

「ダメなの……だから、先に行ってて。私も後で必ず追い付くから、ね?」

「……わかったよ、姉ちゃん」

 

再三にわたり繰り返された姉の言葉にダイも折れた。それを聞きながらチルノも、理由を言えないことに申し訳なさそうな顔をする。

 

「せめて、私の代わりに持って行ってあげて」

「え、これって……!?」

 

チルノはパプニカのナイフを鞘ごとダイへ手渡す。これを見て驚いたのはダイだ。これはパプニカのレオナからチルノが貰ったものであり――非常時にはダイが使って戦ったこともあったが――レオナとの友誼の証でもあるこれを姉が手放すことはほとんどなかったからだ。

 

「今は武器もないでしょう? だから、せめてものと思ってね。貸すだけで後で取り返しに行くから、ちゃんと持ってなさいよ? 壊したりしたら承知しないからね」

 

キラーマシンの金属を加工して作ったダイのナイフは、ハドラー戦にて行方知れずとなっている。そのため今のダイは完全に武器のない状態だ。さすがにナイフ一本で魔王軍と戦えるほど甘くはないだろうが、それでもあるとないとでは大違いだ。

 

「うん、大丈夫だよ。絶対に持ってて、返すから。だから姉ちゃんも早く来てくれよ」

 

パプニカのナイフを大事に握りしめると、ダイは姉にそう返す。チルノも弟の言葉にしっかりと頷いた。

 

「あとは、これ。船に積んでおいたわ」

 

そう言いながら大きめの袋を指差す。

 

「中には保存食にお水に、あと特製の薬草や毒消し草が入っているから。あと、私の手製だけど地図も入れておいたから、海を渡ったらロモス城に向かうまでの参考にしてちょうだい」

 

以前空から見たときに出来る限り記憶しておき、必死で描き起こした地図である。街道などもわかる限り記載しており、原作でダイが描いた大雑把な地図とは雲泥の差である。

 

「……あれ? ロモスに行くっておれ言ったっけ?」

「え、ここから直接パプニカに向かうつもりだったの? 航路も地理も詳しく知らないでしょ? だからまずロモスで王様に頼って、そこから移動手段を確保するつもりだと思ったんだけど……違うの?」

 

何の疑問も持たずにロモスに向かう想定で話をしていることにダイは驚くが、チルノはそれがまるで当たり前のことのように返した。

 

「ううん、あってる……」

 

相変わらず姉の洞察力には敵いそうもない。自分がロモスに向かうまでの道筋全てを予見されていてもきっと驚かないだろう。感心しつつも姉が一緒に来てくれないことにダイは再び後ろ髪をひかれ始めていた。

 

「あとはお金も入れてあるから」

「え、お金なんてあったの?」

「たまに流れ着いてくるのを集めてたんじゃよ。いつか、お主たちがこの島を出るときのための資金になるようにのう……他にも島で見つけた原石なども入れておるが、幾らになるかはわからん……」

 

そう言ったのはブラスだった。人間の世界は貨幣経済。まずはお金。お金さえあればある程度のことはできる。その辺りの常識についてはダイたちが子供の頃からブラスは教えていた。

それは言葉通り、いつかは人間の世界で暮らす子供たちのために備えた準備である。ゴールドを集めていたのもその一環。とはいえ、まさか大魔王を倒す旅の初期資金になるとはブラスも思ってもみなかったが。

 

「足らなかったら、私の薬草も売りなさい。買いたたかれるかもしれないけれど、一時しのぎくらいにはなると思うから」

 

質は良いはずなんだけどね。薬師のスキルと合わせて作った上物だから。そう胸中で独白しつつ付け足すが、果たして値打ちをわかってもらえるかは不明である。

こんなことならロモスの時に報奨金を貰うか、レオナの別れ際に腕輪の一つでも貰っておけばよかったと一瞬考えるが、ロモスの場合は事情があったとはいえ被害を与えたこちらに非があり、レオナの場合も下賜された品物を勝手に売って万が一にも手が後ろに回ったら目も当てられない。

結局は今の辺りが落としどころだろうと思いながら、チルノは袋の一つに近寄る。

 

「姉ちゃん?」

「どうしたんじゃチルノ?」

「隠れてないで、一緒に行ってあげなさい」

 

当惑するダイとブラスを横目に、袋を開けると中に手を突っ込んで何かを引っ張り出す。そこにはゴメちゃんの姿があった。

 

「ゴメちゃん!? なんで?」

「隠れておったのか……」

「ピー……」

 

自分はダイの友達だから、ダイの旅について行きたかった。でも正直に言えば反対されるだろうから、こうして忍び込んで行こうと思っていた。

ダイたちの詰問に対して、悪いことをしているとの自覚があるゴメちゃんはバツが悪そうにしながらもそう答えた。

 

「……ゴメちゃんは、邪悪な意志の影響を受けなかったし、行っても良いんじゃない?」

「ピー!」

「チルノ!?」

「ダイだってゴメちゃんがいたら安心するだろうし……私の代わりに、ダイについていてあげて。ね?」

 

ゴメちゃんの正体を知るチルノからすれば、旅に同行させるのは些か複雑な心境だった。チルノにとっては、ゴメちゃんも助けたい相手の一人。このままデルムリン島に残っていれば危険はそれほどないだろう。だが、それではダイの友達となったゴメちゃんの気も晴れまい。

 

「むむむ……しかし……」

「ピー! ピー!」

「はぁ、わかったわい……」

「へへへ、よろしくなゴメちゃん」

「ピー!」

 

しばしの押し問答の末に、ブラスも折れた。ブラスには理由はわからないものの、確かにゴメちゃんだけが凶暴化しなかったのも事実であり、ダイを一人で送り出すのも怖かったという気持ちもあった。

 

 

 

「それじゃあみんな……」

「ダイっ!!」

 

船出の準備は完了して、今まさに大海へと漕ぎ出さんとした瞬間のことだ。見送りに来た島の仲間たちへ別れの言葉をダイが口にしようとした瞬間、ポップの声が聞こえた。

 

「ポップ!?」

 

声のした方向へと視線を向けると、ポップが大急ぎで駆け寄ってきていた。その様子にダイも思わず船出の手を止める。

 

「ふ、ふざけんじゃねえぞ! おれを、置いて、行こうなんて……!」

 

全力で走ってきたのだろう。大粒の汗を額に浮かべ、息を切らしている。そのせいで何度も息継ぎをしながら、それでもその言葉だけは最後まで言い切った。

旅立ちに際して格好はまともに整えているが、身軽にするためか荷物は持っていないようだ。

 

「ポップ! 来てくれたんだ!!」

「かんちがい、するなよ……別に、魔王軍と戦いに行くわけじゃないんだ!」

 

ダイはポップの手を掴むと、船上に引っ張り上げる。疲れ果てたポップは船上に座り込むと、それでも口を開くことはやめようとしなかった。照れ隠しのような憎まれ口に、ダイは思わず笑顔を浮かべる。

 

「それじゃ、出発だ!!」

 

船を海に浮かべると、畳んでいた帆を張る。帆は風を掴むとその勢いでグングン進んでいく。遠くなるデルムリン島を後ろに見ながら、突然ポップが声を上げる。

 

「って、ちょっと待て!! チルノはいねぇのか!?」

「姉ちゃんなら何かやることがあるから島に残るってさ」

「はぁ!? なんだよそりゃ……」

 

当てが外れたといったように落胆した表情を浮かべる。

 

「なんだ、ポップは姉ちゃんがいなくて寂しいのか?」

「ピー?」

「べ、別にそういうわけじゃねぇよ! ただ一緒にいりゃ、より心強いってだけだ!!」

「後で追いつくって話だから、信じて待ってなよ」

「あーもう!!」

 

船上で漫才のようなやり取りを繰り広げる二人と一匹。

大冒険の始まりは賑やかな船出から始まった。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■

 

 

 

「……おじいちゃん、大事な話があるの」

 

ダイたちの姿が小さく、肉眼では見えなくなるくらいまで小さくなるまで見送ってから、チルノは口を開いた。

 

「それは、お主が言っていたどうしても外せない理由に関係するのかの?」

「うん。その事についてだけど、まずは会ってもらいたい人がいるの」

「会ってもらいたい人……じゃと? 一体誰の事じゃ?」

 

この島にいる人間はもはやチルノだけであり、他はすべてモンスターだけのはずである。にも拘らず会わせた人とは誰の事なのか。想像もできずにブラスは首を傾げた。

 

「まずは、その人のところに行ってから。それから、すべてをお話します」

 

いつになく真剣な表情と、聞きなれぬほどに丁寧な言葉遣い。普段とはまるで様子の違うチルノの姿に、ブラスはただ事ではない何かがあるのだと察する。

 

「わかったわい。今は、お主に黙ってついて行けばいいのじゃな?」

「うん、ごめんねおじいちゃん。歩けばすぐだから……」

「いえ、その必要はありませんよ」

 

二人の会話に突然割り込んできた声。その声はブラスにも聞き覚えがあった。もはや決して聞くことは出来ないと思っていた声。

 

「な、まさか……この声は!?」

「……アバン先生。隠れててくださいって言ったじゃないですか……」

 

慌てふためくブラスをよそに、チルノは呆れたように言う。その声に導かれるかのように、近くの茂みがガサガサと揺れたかと思えば、そこからアバンがひょっこりと顔を出した。

 

「なななななな!! アバン殿ぉっ!?」

 

まるで予期していなかった相手との再会。それも昨日、メガンテによって死んだはずの相手との再会である。ブラスが驚くのも無理はない――いや、ブラスでなくとも無理はないだろう。現に、未だダイの見送りで残っていたモンスターたちも一様に驚愕の表情を浮かべている。

 

「チルノ!! これはどういうことじゃ!? 先ほどの口ぶりから、お主は知っておったようじゃが!? 説明を、説明をしてくれ!!」

「落ち着いておじいちゃん。勿論、説明するわ」

 

わたわたと慌てふためくブラスを落ち着かせるように肩を掴む。

 

「でも、結構長い話になるから。だから一度家に戻ってもいい?」

「わ、わかったわい……」

「みんな、今日のところはもう解散! 後でおじいちゃんから説明してもらうから。あと、先生が生きていたってことは絶対に誰にも話さないこと! いいわね?」

 

集まっていたモンスターたちは、チルノのその言葉に一応は納得したらしく、名残惜しそうな顔をしつつも一匹ずつ離れていく。

 

「先生も、家までご足労してもらいますね。立ち話で済むような話ではありませんから」

「ええ、勿論問題ありませんよ。ちょうど喉も乾いたところですし」

 

未だ上半身は裸のまま。中世の音楽家のような外巻きにカールしていた髪も今はストレートの長髪となっており、やぼったい伊達眼鏡もしていない。そのため現在のアバンの容姿は誰から見ても二枚目の優男である。

だが口を開いて出てきたのは、実力を隠して道化のごとく振舞っていた時のそれだった。大賢と大愚が同居したような相反した印象を併せ持つその姿に、思わずチルノの頬が赤く染まる。

 

「じゃ、じゃあ行きますよ。お茶はあんまり期待しないでくださいね!」

 

それを隠すように早口で言うと、チルノは先陣を切って帰路を急いだ。

 

 

 

「改めて、お話させてもらいます」

 

チルノたちが住む家へと場所を移し、テーブルを囲んでチルノ、ブラス、アバンが向かい合い車座になっている。テーブルの上には宣言通り、大慌てで用意したお茶が三人分湯気を立てている。

 

「まずは、なぜアバン先生が生きているのか。そしてなぜそれを私が知っているか」

 

これから話すことは自分にとってもとても大事な内容なのだ。前世を含めて、これほど緊張したことがあっただろうか。胸元に手を当てながら大きく深呼吸をして、チルノは気持ちを落ち着ける。

 

「アバン先生が生きていたのは、先生が持っていたカールのまもりというアイテムのおかげです」「これですか?」

 

アバンは胸元に揺れる、壊れたペンダントを指先で軽く突いた。そんなものを身に着けていたとは知らないブラスはカールのまもりを興味深そうに見つめる。

 

「カールのまもりの効果は、一度だけ所有者の身代わりになるというものです。先生がハドラーに挑む前、輝聖石と交換にフローラ様から頂いたそれが身代わりとなり、メガンテを使っても助かることが出来ました」

「なんと……!?」

「ちょっと待ってくださいチルノさん! なぜそのことを知っているのですか!?」

 

カールのまもりの効果だけに気を取られていたブラスは、アイテムの入手先まで気が回らなかった。だがアバンは違う。アバンの言葉にブラスも遅れて気づく。

 

「はっ! ……そ、そうじゃった。チルノよ、なぜそんなことを知っておるのじゃ。それにフローラ様というのは誰じゃ?」

「カール王国の女王の名前です。私がカールのまもりを手に入れた頃は、まだ王女でしたが……」

「カール王国の女王……ワシは知らんぞ。教えたこともない。なぜそんなことを知っておるのじゃ……」

「輝聖石と交換した、というのも知っている者はまずいません。あの出来事を知っているのは私たち二人だけ……チルノさん、あなたは一体何者ですか!?」

 

余人が知らないことを知ってるという事実が、ブラスとアバンに最大級の警鐘を鳴らしていた。見知ったはずの娘の姿が、たった数日とはいえ共に過ごした生徒の姿が、まるで得体のしれない何か別の存在にすら思えてしまう。

まあ、仕方のないことなのかもしれない。身構えるアバンを見ながら、チルノは口には出さずに心を痛めた。唐突に受け入れられるものではないだろうし、自分の言い方も悪かった。

 

「落ち着いてください。それも含めてご説明しますから。そして、なぜ知っているかと聞かれれば、私の知る歴史はそうだったから。としか言いようがありません」

「私の……知る……??」

「ここから先は、さらに荒唐無稽で理解に苦しむ話になると思います。ですが、すべて真実です。信じて、いただけますか?」

 

誰かがゴクリと唾を飲んだ。そんな音が聞こえた。チルノが話すことに対して決意を込めなおしたのか、それともブラスかアバンが聞くことに対する覚悟を決めたのか。

数秒の間、誰も何も言葉を発しない時間が続き、チルノはそれを無言の肯定と受け取った。

 

「私がかつて生きていた世界では、ダイの大冒険という作品がありました。デルムリン島に住む少年ダイが、大魔王バーンを倒すまでを描いた冒険活劇です。私も読んでいました」

「な、何を言っておるんじゃ……チルノや……」

「ですが、その作品ではダイは一人っ子――チルノという少女は存在しません」

「チルノさん……あなたはまさか……」

 

あのアバンが、恐る恐る口にする。その事実が妙におかしく、そして恐ろしかった。大魔王をして地上一の切れ者と言わしめた男ですら、理解が及ばない。自分がこれから話すことは、自分が今まで体験してきたのは、そういうことなんだと否応にも気づかされる。

 

「歴史小説、娯楽作品、軍記物語……何でも構いませんが、そういった作品の中に登場したい。その作品を自分の手で動かして、別の結末にしたい。そう思ったことはありませんか?」

「チルノ……」

 

ここまで言えば、ブラスも気づいたようだった。アバンの時と同様に、信じたいという気持ちとあり得ないと否定する気持ちが入り混じった様子を見せる。

 

「……それが、私です。本来この世界に存在しない、本の中に入り込んだ人間です」

 

チルノの告白に、二人は凍り付いた。

 

 

 

「なるほど、非常に興味深いお話ですね……」

「アバン殿!?」

 

沈黙を破ったのはアバンの一言だった。

 

「信じていただけますか?」

「子供の戯言と一言で切って捨てることは可能ですが、それにしてはフローラ様のことも知っている辺り、傾聴には値するかと判断しました。何より、チルノさんがこんな嘘をつく理由も思い当たりませんので……」

 

この世界の成り立ちはなんなのか、自分が本の登場人物でしかないのか、チルノの先の言葉だけでも疑問と悩みは尽きない。だがそれを抑えて、アバンはチルノへ先を促すことにした。

 

「まずは全てを聞かせてください。考えるのはそれからとします」

「先生、ありがとうございます。おじいちゃんも、大丈夫?」

「む……だ、大丈夫じゃ……」

 

まだ衝撃から立ち直り切っていないようだったが、それでもブラスは娘に心配を掛けまいと気丈な姿を見せた。

 

「わかりました。では、お聞きください。私自身のことを。そして、私が知るこの世界がこれから辿るはずだった歴史を……ダイの大冒険という物語のことを……」

 

そういってからチルノは自身が知る限りの出来事を話す。

まずは自分の事――前世の記憶を持ち、俗に転生者と呼称される存在であること。

魔王軍の侵攻前。偽勇者とレオナの事件が原作ではどうなったのか。

アバンの修行とハドラーとの戦いの顛末について。

その後、ダイたちはロモスでマァムと出会い、クロコダインを倒すこと。

パプニカではヒュンケルと出会い、フレイザードと戦いアバンストラッシュを完成させること。

テラン王国にてダイは自身の父親と出生の秘密を――竜の騎士のことを。

そして激化していく魔王軍との戦い。オリハルコン製の剣を手にして、超魔生物となったハドラーを打ち破り、ついには魔界の神とまで恐れられたバーンを倒すこと。

そして、黒の核晶の誘爆を防ぐためにダイはその身を賭した行動に出て、行方不明となってお話は終わること。

一連の歴史について。すべてを語った。

 

「なんと……もはや言葉も出んわ……」

「竜の騎士、超魔生物、魔界の神バーンとミストバーンの秘密、ヴェルザー配下のキルバーン……未来には想像を絶する出来事が待ち受けているのですね……そしてそれを知る転生者という存在……」

 

一度であまりに多くの情報を聞いたために、ブラスは混乱した様子を見せる。だがアバンは流石と言うべきか。あれだけの長い物語を一度聞いただけで理解したようだった。

 

「これで納得がいきました。ダイ君が大地斬と海波斬を既に習得しており、かなりの力を身に着けている理由が」

「子供の頃から修行だなんだと言っておったが、すべてはこの時のためだったんじゃな」

「はい……」

 

話の中には、かつての仲間の名前も出てきていた。これにはアバンも疑い続けることは出来なかった。そしてブラスも、子供の遊びにしては厳しすぎる特訓を行っていたのは何故か、という疑問がようやく氷解した。

納得したような様子を見せる二人に対して、だがチルノは顔を曇らせる。それを見たアバンはチルノに声を掛ける。

 

「どうしました?」

「……最初は、この世界を少しでもマシなものにしたいと考えていました。そのためにダイと一緒に修行して、強くなって、道中で起こる出来事にはうまく対処していけばいい――そう考えていました……」

 

チルノは力なく呟いた。

 

「でも、わからなくなりました。先生の下で修行をして、ハドラーの戦いの中で、先生がメガンテを使う。カールのまもりがあるから大丈夫だ、死なない……それは、結果だけを見ていて、先生の想いを……後に託すという気持ちを踏みにじっているんじゃないかって……」

「チルノ……」

「そう考えたら、怖くなりました。カールのまもりを先生が本当に持っているのか、効果は私の知っているものと同じなのか、本当に後遺症もなく助かるのか……私が来たことで、余計なことをしたことで、歴史が変わったんじゃないかって……」

「チルノさん……」

「ダイの修行だってそうです! 私があれだけ時間を掛けたのに、先生はたった三日で……だったら、もっと他の手段があったんじゃないかって! 島から外に出て先生を探して、直接弟子入りすればよかったんじゃないかって……でも、下手に目立てば魔王軍に目を付けられかねない。私の知っている展開とズレるのかもしれない……便利な言い訳をして、最善の努力を怠っていたんじゃないかって……」

「チルノさん、もう結構ですよ」

 

弱々しくも悲痛な叫びに、アバンは静止の声を上げるが彼女の舌は止まらなかった。

 

「間抜けな話ですよね……結局のところ、私は、自分の知っている知識で優位に立ちたかっただけなんです……誰が保証してくれたわけでもないのに、自分の知っている通りの展開になるって決め込んで……それを、先生とハドラーの戦いの最中に気づきました……」

 

そう言って、ようやく彼女の言葉が止まる。

およそ十年分の、ゆっくりと堆積していた事実とそれに対する後悔。先のことを知っていながら、それをうまく活用することの出来なかった自身に対する苛立ちと不甲斐なさ。長い年月の中で少しずつ鈍化していった感情。偽勇者事件とキラーマシン事件でなまじうまく言ったことも仇となっていたのだろう。そこで失敗していれば、もう少しだけ注意深くなれたのではないか? チルノの内側から後悔と負の感情が浮かんでくる。

 

「……あなたは自分の過去を悔いている。正しい行動を取れなかったことを罪と感じている……違いますか?」

 

アバンの言葉にチルノは小さく頷いた。

 

「ですが、それは私利私欲のためではなく、この世界をより良い方向に向かわせるために頑張っていたことですよね? どんな思いがあったとしても、それだけは間違いありません。そして、最善の行動を取れなかったことが罪だったとしても、償うことはできるはず。やり直すことはできるはずですよ」

「……っ!!」

 

それは昨日チルノ本人が言った言葉だった。過去の罪に苦しめられるブラスに向けた言葉。だがそれがまさか自分に返って来ることになるとは。

チルノは伏していた視線を上げ、アバンの顔を見る。そこにあったのは、優しい微笑みだった。

 

「どうやら少し、責任感が強すぎるみたいですね。そもそも最善の行動なんてものは、後から幾らでも難癖をつけられます。そんなものを一々気にしていたら、何も出来なくなりますよ。大切なのは、自分の考えに後悔しないこと。私はそう思っています」

「後悔しない、こと……」

「あの時自分のやったことは正しいことだ。自分の心に自分で恥じることのない行動を取れたのだ。たとえ世界中の人間から非難されても、悔いることのない決意……少々極端ですがね」

 

そういったアバンは自嘲するように笑う。

 

「そうとでも考えなければ、とてもやってはいけません。私だって、本当に最善の行動がとれるのなら、メガンテを使うことなくハドラーを倒して、今頃はダイ君の特訓の続きをしていましたよ」

「そう、ですね……」

「人が一人で歴史を変えようなんて考えはおこがましいことです。ですが、あなたがこれまでやってきたことは無駄ではありません。ダイ君は強くなり、ポップは責任感が出てきました。レオナ姫だって助かりました。あなたがここにいることは、何か意味があるんです。そう信じましょう」

「はい……はい……!」

 

気が付けばチルノは涙を流していた。ずっと一人で考えてきたことを、ようやく人に認められた。大丈夫だよと言ってもらえた。それだけで報われた気分だった。誰にも言えなかった悩みを伝えられたことが、何よりもうれしかった。

 

「さて、教師役である私から言うことはこんなところですが……どうしますか、ブラスさん?」

「……え?」

 

それまでの感動的な雰囲気から一転、突然さらりと言ってのけられた言葉にチルノも思わず面食らう。そして話題を振られたブラスへと視線を向ける。ブラスは目を瞑り、ただ黙って何かを考えているようだった。

 

「チルノや……ワシは今まで、ずっと勘違いをしてきたようじゃ……」

「おじい、ちゃん……?」

 

低く抑揚のない言葉。不穏な何かを感じつつもチルノは声を掛ける。

 

「ダイは手間のかかるイタズラ息子、反対にお主は子供の頃から手のかからん、むしろ家事なども率先して行う、とてもよく出来た娘だと思っておった……」

 

まるで嵐の前の静けさ。

 

「この……大馬鹿ものがあああぁぁっ!!」

「ひっ……!!」

 

チルノの脳裏に浮かんだその言葉はすぐに正しかったと証明された。いつもはダイに向けられていた特大の怒鳴り声。覚えている限りでも自分に向けられたことのなかった大声にチルノは身をすくめる。

 

「なぜワシに話をしてくれなかった!? 機会はいくらでもあったじゃろう!! そんなにワシは頼りなかったか!?」

「だって、私が知っているのはもっと後の出来事だから、証明できないから……だから、話をしても信じてもらえないと思って……」

「言い訳無用!!」

 

小声で反論するも、有無を言わさぬ勢いでブラスの持つ杖がチルノの頭に落ちる。これまで感じることのなかった痛みに、チルノの目から先ほどまでとは違う意味の涙が零れ落ちた。

 

「ちゃんとした理由があれば、ダイのことを想うがための行動であれば、島の外に出ることも許可したわい。そうでなくとも、もっと良い方法を一緒に探してやることもできたわ!!」

 

そこまで言うと、ブラスは目を細める。

 

「……と、言いたいところじゃが、これもお主が言っていた後出しの最善行動かもしれんな……子供の頃に言われておれば、信じなかったやもしれん……じゃが……」

 

そして過去を思い出すように遠くを見つめてから、チルノの目を見る。

 

「チルノや……お主があの時言ってくれた言葉、あれは何よりも嬉しかった……ワシがしてきたことは無駄ではない、そう思えたんじゃ……お主とダイを拾って育てたことは間違いではない。どのような想いがあったにせよ。と、そう思えたんじゃ……ワシは子供を正しく育てることが出来たんじゃとな……」

「私は転生した、この世界にはいない存在だよ……今までずっと、嘘をついてきたのに、おじいちゃんの子供でいいの……?」

「子供を捨てる親などいるものか……それに子供の嘘など、親にとっては可愛いワガママみたいなものじゃ……お主は間違いなくワシの子供じゃよ」

「おじいちゃん……!! ごめんなさい……ありがとう……ごめんなさい……」

 

優しく語られたその言葉にチルノの心は限界だった。溢れ出る涙を隠そうともせず、チルノはブラスへと抱き着く。ブラスは抱き着いてきたチルノを優しく受け止めると、まだ赤子の頃のようにそっと抱きしめる。

チルノはようやく、本当の意味でブラスの子供になれたような、そんな気がした。

 

 

 

「気になったのですが」

 

泣き止み、チルノが落ち着いた頃を見計らい、アバンはそう切り出した。

 

「私たちにチルノさんの知る知識を告げられたとしても、当初の物語では私は破邪の洞窟へ修行に向かいますし、ブラスさんは島から出ることは出来ません。ダイ君の役に立つためには、破邪の秘法を覚えなければなりませんから、手助けもできません。私はどうすればいいのでしょうか?」

「先生には、マトリフさんと連絡を取ってもらいたいんです。物語ではマトリフさんの下で修行もしましたし、今回の旅でも道中で向かうことになるかと思います。その時に、事前に知っていればもう少しスムーズに行くと思って」

「ふむ……」

 

アバンはマトリフの性格を思い出しながら考える。一筋縄ではいかないだろうことは容易に想像できたが、確かに自分の紹介があればある程度はなんとかならなくはないだろう

 

「あまり頼りすぎても、先生の危惧していたように甘え癖が付きますから。その点マトリフさんなら自分で言っていたように、厳しめにガンガン指導してくれると思いますので」

「確かにそうかもしれませんね……」

 

事情を知ったマトリフがポップにやりすぎないだろうか、ということだけが心配の種だった。奇しくもアバンとチルノ、二人が同じ不安を思い浮かべる。

 

「マトリフには話をしておきましょう……しかし、私が活躍するのは最終決戦間近ということですか? なんだか寂しいですねぇ……」

「ですけれど、立派に成長した生徒たちの姿が見られますから」

「なるほど。辛い破邪の洞窟も、それなら励みになりますね。何より生き延びねばという意思がとても強くなりそうです」

 

軽くそう言うアバンの言葉にチルノは頷く。

 

「ええ、特にポップはすごいですから……」

「違いますよチルノさん」

「え?」

 

言葉を遮られたチルノが思わず声を上げる。

 

「私が一番期待しているのは、あなたです」

「……ええっ!?」

「あなたの望み通り、私は生きているのですから。約束通り今から卒業の証を――輝聖石を渡したいところですが、渡せません。何しろ今の私は死んでいるはずの人間ですからね」

 

あ、とチルノは口を開ける。確かにそうだった。すぐ翌日に出会うのだ。あの時にはただ不安で、生きてほしいという願いだけで言っていたのだが、こんな結果になろうとは。

 

「ですがその機会はあります。バーンとの最終決戦前にて、あなたがどれだけ立派に成長したのかを改めて確認させてもらいます」

 

そういうとアバンは意地悪く微笑んだ。

 

「これは大変ですよぉ。なにしろ舞台裏を知っているわけですから、皆さんの二倍も三倍も頑張らなければ。再会したときに失格では、ダイ君たちに笑われます」

「えっ!? えっ!?」

「未知の輝きを持っているあなたにこそ、期待したい。そう思うのはおかしなことですか?」

 

そう問われて、チルノは何も言えなくなった。ただ、恥ずかしそうにアバンの言葉を肯定するように頷くことが精一杯の意思表示だった。

 

「話に割り込んで申し訳ないが、ワシはどうしましょうか?」

 

ブラスが遠慮がちに声を掛ける。

 

「あ、おじいちゃん……おじいちゃんは人質に取られるはずだから……」

「ふむ。そうじゃったな……そう考えると、ワシは捕まった方が良いのか? 必要悪という言葉の意味くらいは分かっておるが……じゃが、ダイに手を上げるなど……」

「ですが、その出来事がダイ君たちを成長させることとなる……難しいですね……」

 

三人が頭を悩ませる中、最初に口を開いたのはアバンだった。

 

「ではこうしましょう。チルノさん、小さな木の板はありませんか?」

「えっと……こんなものしか」

 

そう言ってチルノが見せたのは、お守りの中に入っているような小さな木片だった。おずおずと差し出すとアバンはそれを手に取り、指先で何やらガリガリと削っていく。

 

「邪なる威力よ、退け……」

 

アバンの発した力ある言葉に反応して、木片は淡い輝きを発するようになった。それはこの島を囲む結界と同じ光だ。

 

「マホカトールの呪文……?」

「はい。この木片に込めました。簡易的なものですし、ブラスさんの全てを覆うほどではありませんが、補助には十分なるでしょう。これを常に持っていれば、たとえ人質になったとしても邪悪な意志に操られることは防げるでしょう」

「つまり、さらわれることは前提。でも敵に利用されることはない、ということですかな?」

「はい。落としどころとしては、こんなものではないかと。いかがでしょうチルノさん?」

 

アバンの問いかけに、チルノは少しだけ考えてから答えた。

 

「……そのマホカトールを封じ込めたその木片はどこから調達したのか? ということになりませんか? おじいちゃんが急にそんなものを持っていたら怪しまれますよ」

「それなら大丈夫ですよ。ダイ君もポップも、この島での私の行動の全てを把握しているわけではないでしょう? 万が一に備えてブラスさんに渡しておいた。ということにすれば大丈夫ですよ」

 

なるほど、それなら一応の筋は通る。結界の外に出てもブラスは正気をなんとか保てるだろうし、木片をヒントにポップがマホカトールを発動してくれるかもしれない。

 

「わかりました。それならなんとかなりそうですね」

 

そうして一旦、ロモスでのブラスの話は終わる。その後もチルノたちは、先に起こる出来事について、幾つかの議論を重ねていった。

 

 

 

「最後に聞きたいのですが、チルノさんが持っている不思議な力……ええと……ファイナルファンタジー、でしたか?」

「はい。この世界には存在しない、別の世界の魔法や能力です」

「チルノさんの話では、この世界に転生する際に与えられた能力ということでしたが?」

「ええ……転生の際に、神と出会って特殊な能力を付与される、というのが一般的でした。当事者の私が言うのもなんですが、ありふれた良くある展開です」

 

異世界という全く異なる環境で生き抜くための力とも、異界の魂を持つが故に発現する力とも、単なる物語を広げるための便利なフレーバーとも取れる。

 

「ですがあくまでそれは創作物だけのお話。現実にそんなことがあるなんて思っていませんでした。実際私は、神様には会っていません。この世界の最初の記憶は、ダイと一緒にこの島に流れ着いた辺り。おじいちゃんと出会う前くらいです」

「そうでしたね。ボトルメールに封入されていた手紙を読んで、力を使えることを知った……ですが、そう考えるとチルノさんに力を与えた何者かは間違いなく存在しています。手紙という形を取っているものの、わざわざコンタクトしてきたのがその証です」

 

アバンの指摘にチルノの動きが一瞬止まる。

 

「その何者かが明確な目的をもって、ここに送り込んだ。と考えることもできます。正体も目的も不明、今後もコンタクトがあるかはわかりませんが、いずれにせよ注意してくださいね」

「そうですね……そこまでは気が回りませんでした」

 

テンプレート的にお気楽な事情でしかないと思い、それが正しいと思い込んでいたが、アバンの指摘も決して間違ってはいない。その言葉にチルノは肝を冷やした。

 

「ですが、今はその力に頼るしかないのも事実ですね。チルノさんは、その魔法や能力についてどのくらい知っていますか?」

「どのくらい? 大雑把に大体は知っているつもりですが、多岐にわたりますよ。この世界に存在する武術・呪文・技術の全てを対象としているようなものですから」

 

膨大なれど、それらすべてを扱うことが出来る。だが十全に扱うには修練が必要であり、時間は有限。あれもこれもと欲張るのも難しい。事実、チルノが選んできたのは魔法や生産系スキルといった後衛に求められる能力ばかりであった。

ダイが前衛を――さらに言えばマァム・クロコダイン・ヒュンケル・ヒム・ラーハルトなども当てはまる――務めるため、必然的にそう言った役割と選んでいたし、それが当然だと思っていた。

だがアバンはそんなチルノの考えを一笑に伏す。

 

「ノンノン、そんな志の低いことでは駄目ですよ。いっそ全てを扱えるようになってやる! くらいの気概で臨まないと」

「ですけど、修行方法が……」

「では、チルノさんのためだけの特別(スペシャル)……いえ、(ウルトラ)特別(スペシャル)ハードコースを開催しましょう」

「え?」

「今から始めて、期間は三日くらいですかね? それだけあれば体調も回復するでしょうし、私も当初の予定通りに破邪の洞窟に向かうことができます。その間に遊んでいるのも問題でしょう? 直接的な指導は難しいかもしれませんが、私の知る全てを叩きこんであげましょう」

「え……?」

「さあ、行きますよ。時は待ってくれません。ダイ君に追い付け追い越せですよ。鍛えればチルノさんは何でもできるんですから、私がいなくなっても大丈夫なように一通りの基礎をみっちりとやりましょうか。何が修行になるかわかりませんが、いずれは勇者以上の万能選手になれますよ」

「ええーっ!?」

 

有無を言わさぬトントン拍子に話を進めて、アバンはチルノを伴って外に出る。彼女は縋るような眼で育ての親を見るが、ブラスは神に祈るように瞳を閉じて両手を組んでいた。

 

この日から数日の間、デルムリン島では早朝から深夜まで少女の悲鳴が聞こえ続けていたそうな。

 

 




次はダイたちのシーンの予定なので、ここでいったん区切り。
さてさて、チルノさんはダイたちと合流できるのでしょうか?

なお、原作ではこの先を含めた日程は――

 0日目:アバンとハドラーが戦う
 1日目:ダイとポップ、デルムリン島を出発
 (5日間かけて大陸に到着)
 (3日間魔の森で迷子)
10日目:マァムと出会う。クロコダイン初戦
11日目:ネイル村(マァムの村)
 (3日間村に滞在。ダイの魔法特訓を行う)
15日目:ロモス城下町到着
16日目:クロコダイン決着

だそうです。
海上を5日ですよ。しかもあの小舟で。大丈夫なの……?
(夜の寝ているに流されて気が付いたら現在位置見失ってるとかありそうですよね。それとも逆に夜に北極星目指してガンガン進んだ方が楽なのかな?)
航海技術とかは多分ポップが知っていたんでしょう。そういうことにしておきましょう(アバンとポップの初登場シーンも船だったし)
本当に、ルーラ覚えてよポップ(リレミトにトラマナもいいですよね)
そうすりゃ初日にロモスです。国王に会いに行くと「この国は百獣魔団の攻撃を受けておる。倒してくれたらパプニカへ送ってやろう」って感じのイベントが発生。森で戦ってる途中にマァムと会って……そんな感じの流れで(なんの妄想だ)

ダイの船出ですが、原作見てて疑問に思った分は多分補完したつもりです。主にお金とかお金とかお金とか。あの世界は「たいまつと120ゴールド」や「どうのつるぎと50ゴールド」が伝統なので仕方なし(しかも前者は下手すると武器防具なしで敵と戦う可能性アリという鬼畜仕様)
また、途中のやり取りが原作より長かったのでポップは少しだけ余裕を持って乗船できました。ただこの辺の感情なんかはまだ原作のままだと思うので展開は一緒としています。
チルノさんは原作展開を短縮できるように画策していますが、はたして上手くいきますかねぇ? 次辺りから色々ズレてくると思いますが……

会話してるだけでも長くなるなぁ……はっちゃけますよという理由付けのためだけなので、実はあんまり読まなくても問題ない気がする。
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