隣のほうから来ました   作:にせラビア

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Q.99話までには終わる予想と、ドラクエっぽさで話数をLEVEL表記にしたんですよね?
A.……はい。

Q.終わりましたか?
A.…………終わって、ません。

Q.何か弁明はありますか?
A.ディスガイアならまだ低レベルだからセーフだと思います!



LEVEL:100 ジタバタしよう

「いたか?」

「いや……そっちはどうだ……」

「ううん、こっちも……」

 

死の大地に響く複数の声。だがその声色は、いずれも暗く淀んだ雰囲気を連想させるようなものだった。

さながら葬儀の途中で交わされる会話のように、喜色というものが一切感じられない。哀感だけが先走ったようなその声は、聞く側はおろか言う側の気持ちさえもゆっくりと沈ませていく。

 

声の主は、ダイたちであった。

ポップの瞬間移動呪文(ルーラ)によって、彼らは命からがらに窮地を脱することは出来た。だがそのおかげで、彼らは大魔王たちとの戦いがどうなったのか、その一切が分からなくなってしまった。

離れた場所から彼らが見ることができたもの。

それは、この世の全てを破壊しそうな程に強烈な閃光がぶつかり合い、大爆発を起こした光景。その後、地中よりバーンの城が浮上し、天高く飛翔していった光景の二つである。

 

幸いなことにというべきか、レオナが大魔宮(バーンパレス)が飛ぶということを知っていたことと、戦い気配の一切が感じられなくなったことから、彼らは再びあの激戦地に戻ってきていた。

 

目的は勿論、チルノとバランを探すため。

とはいえ、戦果については先の会話からもお察しであったが、それでもダイたちは諦めることなく、見通しの良くなった死の大地の探索を賢明に続けていく。

 

「まだあっちの方角は調べていなかったはずだ。可能性があるとすれば……」

「いや、気持ちはわかるけど……そろそろ時間切れみたいだぜ」

 

ヒュンケルがなおも捜索範囲を広げようと未探索の方向へと視線を飛ばすが、ポップがそれに待ったを掛ける。

 

「ほらあれ、見てみろよ」

 

そう言いながら指し示す方向には、船団の姿があった。ダイたちに遅れながら出発した彼らが追いついて来たのだ。第一隊は既に接岸を終え死の大地へと上陸しており、フローラ女王を始めとした部隊がダイたちへ向けて駆け寄って来ているのが見えた。

 

「さすがにあれを無視して捜索するって訳にもいかねぇだろ」

「そう、ね……」

「でも!」

「ダイ君、気持ちは分かるわ……でも、ここは堪えて頂戴……」

「…………」

 

一旦捜索を打ち切る。

そう言われた途端、ダイは弾かれたように叫んでいた。だがその感情は、レオナの悲痛な声によって抑えられた。

心配しているのは何もダイだけではない。この場にいる全員が――いや、遠く離れたフローラやメルルたちも同じ気持ちだ。それどころか、遠くに見えるフローラたちは何が起きたのかすら分からないまま心配だけが積み上がっている状態なのだ。

何が起きたのかを知るのはダイたちだけ。なのにその当事者たちが無視して捜索を続けるような無責任な真似など出来ようはずもない。

それを理解しているからこそ、ダイはグッと押し黙り、無言で頷いてみせた。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「………………」

 

合流を果たしたフローラは、ダイたちの様子を一目見るなり、詳細を聞くこともなく一度船へと戻ることを宣言していた。着いて来た兵士たちは、驚きこそあれども女王の命とあっては不平不満を漏らすこともなく、素直に従う。

そしてダイたちもまた、彼女が何も聞いてこないことを疑問に感じながらも後に続いた。

 

人数が少ないことから、ダイたちに何かがあった事をフローラは直ぐさま看破していた。

ならば必要なのはどこか落ち着ける場所で何があったのかを詳細に確認することと、同じ失敗を繰り返すことなく次へと生かすための策を練ること。

そう考えての行動だったのだ。

 

だがそう考え、場所を船内の会議室に選んだは良いものの、着いたところでダイたちは重苦しいムードのまま誰も口を開こうとはしなかった。皆が皆、それぞれ譲り合っているような自ら率先して語ることを躊躇っているような、微妙なムードがダイたちには流れていた。

そんな気配を察し、フローラたちもまた切り出すタイミングを掴み損ねてしまい、どちらも口を開き難くなるという悪循環に陥っていた。

 

「あ、あの……」

 

だがその悪い流れを断ち切るように、遠慮がちに声を掛ける一人の少女がいた。

 

「教えてください、皆さん……一体、何があったのですか……? どうして、黙ったままなんですか!?」

 

声の主はメルルである。

彼女はチルノから預かったスラリンを肩に乗せたまま、ダイたちに何があったのかを意を決して尋ねていた。

 

「どうして……チルノさんがいないんですか……?」

 

チルノがいないのは一目瞭然なのだ。ならば彼女を慕う少女からすれば、今の状況はいてもたってもいられない。一刻も早く、安否を知りたいという感情が少女を突き動かしていた。

 

「すまない……なんと言えば良いのか、分からなかったのだ……」

「そう、よね……ごめんなさい」

「なんとなく、誰が言い出すべきか迷っちゃってて……」

「そこそこ上手く行ってたからな。なんだか言い出しにくくってよ……」

 

メルルの言葉を契機としたように、堰を切ったように――とまではいかないが、ポツリポツリと話を始めた。だがやはりまだ歯切れが悪いままだ。

 

「とりあえず、何があったかは私が話すわ。ただ、途中まで――」

「会議中、失礼いたします!!」

 

見かねたようにレオナがそう口にした所で、会議室の扉が力強くノックされ、焦ったような大声が聞こえてきた。

会議に割り込むようなこの行動は、一見すれば無作法そのものに見える。だがその実、会議に割り込んででも知らせる必要があると判断された、いわゆる火急の用件を伝えるためのものだ。

 

「どうしました?」

 

フローラはそのことを知っているため、特に罰することも咎めることもなく伝令の兵士へと声を掛ける。

 

「ダイ殿の仲間の方が合流しました! こちらへ案内しようと思うのですが、よろしいでしょうか?」

「かまいません」

「はっ!」

 

短いやりとりを終え、兵士は姿を消す。

だがその短いやりとりを聞いて、沸き立つ者達がいた。

 

「仲間!?」

「それって、もしかして……!!」

 

一縷の希望に望みを託すかのように、ダイたちは顔を見合わせる。そうして兵士が戻ってくるのを今か今かと待ち続け――

 

「こちらです」

 

再びやってきた兵士に案内されて、会議室に一人が姿を現す。

 

「ありがたい」

 

その相手はバランであった。

 

「父さん!?」

 

バランの登場にダイは声を上げるものの、他の面々は沈黙を保ったままだった。いや、肉親であるダイですら、上げた声は驚きと期待外れな感情が混じったものだ。

 

「む……?」

 

何やら微妙――嬉しいことは間違いないのだが、ちょっとだけ違うとでも言えば良いだろうか――な空気を敏感に察知し、バランは思わず疑問の声を上げる。

 

とはいえ彼を責めるのは酷だろう。

チルノの話題を出していたところへ、まるで計ったかのように仲間がやってきたという報告である。当然、彼女が見つかったのかと思考が誘導されてしまっても、おかしな事ではない。勝手に期待しておきながら、勝手に裏切られた気分になっているだけなのだから。

付け加えるならば、バランがそう易々とやられるわけがないという無言の信頼の結果から、彼が来ることを予測出来なかったということも記しておこう。

 

「いいえ、何でもないの。むしろ、ナイスタイミングだわ」

「バラン様、ご無事で何よりです」

 

場の空気を引き締め直すようにレオナはそう口にし、ラーハルトは何食わぬ顔でバランの無事を喜ぶ言葉を述べる。

 

「父さん……姉ちゃんは?」

「……すまん」

 

恐る恐る尋ねられた息子の言葉に、父は首を横に振りながら言葉少なく答えた。

 

「そんな……!」

「ダイ君落ち着いて!!」

 

顔色を真っ青にしたところへ、レオナが強烈な檄を飛ばす。そうでもしなければ、ダイは今すぐにでも死の大地へと飛んでいってしまいそうに見えた。

 

「これからフローラ様たちに、死の大地で何があったのかを説明するの。だからバラン、貴方も教えて頂戴。私たちがルーラで逃げた後、何があったのかを……」

「承知した。だが、私も大したことは知らぬ。まずはそれを念頭に置いておけ」

 

まずはバランへと。続いてダイへと声を掛ける。

 

「ダイ君も、いいわね? 今はとにかく少しでも正確な情報を共有したいの」

「……うん」

 

まだ不安定にこそ見えるものの一先ずは大丈夫であろうと判断し、レオナは死の大地の戦いにて何があったのか、その一部始終を語り始めた。

彼女が語るのは、戦闘が始まってから何があったのかということ。そして、最終的に巻き添えを防ぐために瞬間移動呪文(ルーラ)で姿を消したところまでのことだった。

 

「――そこから先は、私の出番だな」

 

レオナの言葉の後を引き継ぐように、バランが口を開く。

彼が語るのは、ダイたちがルーラで戦場から姿を消した後のこと。そこで何が起きたかについてである。とはいえ彼自身もそこで知ったことは少なかった。

バランは最後に「強烈な余波に耐えきれず、吹き飛ばされた。はぐれてしまったが、ようやく合流できた」という事を告げて、一度話を締める。

 

「じゃあ、やっぱりチルノさんは……?」

「ピィッ!!」

「…………」

 

バランの言動から既に知ってはいたが、改めて行方が分からないという事実を告げられ、メルルとスラリンが絶望したように言葉を吐き出した。ダイもまた深い消沈の色を見せおり、無言で俯いたままだ。

そんな反応を横目に、バランは新たな話を切り出す。

 

「それと、ここからは私見――だが、限りなく正解に近いだろうことを言わせて貰う」

「バラン様、それは一体……」

「チルノが何故竜になり、暴れたかについてだ」

「……ッ!?」

 

あまりにも突拍子もない切り口に、この場にいた全員が瞬時にバランを凝視する。視線の集中したことを確認しながら、バランはゆっくりと続きの考えを口にし始めた

 

「結論から言おう。テランにて、私が紋章の共鳴を利用してディーノの記憶を揺らしたことがあっただろう? 原理としてはそれに近いもののはずだ」

「あれ、か……」

 

それは当時者たちにとってはなんとも苦い事件である。ポップらはおろか、バランすらも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

 

「あの時、大魔宮(バーンパレス)へと続く通路で戦った際には私、ディーノ、ハドラーと竜闘気(ドラゴニックオーラ)を操る者が三名もいた。私とディーノの竜闘気(ドラゴニックオーラ)だけならば耐えられていたかも知れぬが、そこにハドラーの操る殺気が籠もった闘気を叩きつけられては、未熟なチルノでは到底防ぎきず、暴走したのだろう」

 

本来ならば一人しか存在し得ぬはずの(ドラゴン)の騎士――だが当代ではバランとダイという例外が起こり、さらには紋章こそ持たぬもののハドラーという超特殊な例外までもが起こった。

その結果、三人分の強烈な竜闘気(ドラゴニックオーラ)に影響を受けて許容量を超えた事が暴走の原因であると推察していた。

だが、その考えには当然のように待ったが掛かる。

 

「待て! それではチルノが竜闘気(ドラゴニックオーラ)を宿していると言っている様なものだぞ!?」

「そう聞こえているのならば、クロコダインよ。お前の耳は正常だ」

「何……っ!?」

「正確には(ドラゴン)の騎士を真似た何かをその身に秘めている。私はそう判断した」

「ええっ!?」

「事実、あの場で竜魔人に変身したおかげでよりはっきりと分かった。さらに、竜となったチルノは竜闘気(ドラゴニックオーラ)に反応していたのだ。つまりあの竜こそが、その正体なのだろう」

「で、でもそんなことって……」

 

マァムが否定する材料を探すように呟くが、だがバランは一歩も譲ることはない。

 

「あの娘の出自を忘れたか? この世界には存在しない特殊な力を持ち、ディーノが(ドラゴン)の騎士であるということを知っていたのだ。だが、自らが竜へと変じることが出来るなど一言も口にしなかったのだ。ならば、無意識のうちに竜を宿していた。それが真相であろうな」

 

続いてメルルを――いや、正確には彼女の肩に乗るスライムへと視線を向ける。

 

「それと、そのスライムも証拠の一つだ」

「ピィ?」

 

注目の集まったスラリンであったが、本人は理由もわからず鳴き声を上げる。

 

「コイツは一度、私に向けて炎を吐いたことがあっただろう」

「あー……そういや……」

「え、そんなことがあったの?」

「マァムは知らねぇだろうけどな。あっ! そういやマトリフ師匠もそんなことを言ってたような……そんときは師匠の与太話だと思って聞き流してたけどな」

 

これもまたテランでの話である。その場に不参加であったマァムの疑問に答えつつ、似たようなことがあった事をポップは思い出していた。

 

「でもよ、スライムが炎を吐いたからってなんなんだ? 確かに、変だとは思うけども」

「炎を吐く。それこそが証拠なのだ。ただのスライムならば、そのようなことは起こらん。だが、スライムの中には環境や他者の影響によって性質を変える場合があるのだ」

「……つまり、チルノの中の竜の影響を受けた結果、火を吐けるようになったということか?」

 

ヒュンケルの言葉に、バランは一つ首肯してみせた。

 

「おそらくだがな。バブルスライムやキングスライムも仲間のようなものだ。魔界にはそれ以外にも、羽根の生えたスライムなど見た目はスライムに似ているが全く別の力を持つ者もいる」

「じゃあコイツも、そのうち竜みたいな姿になるのか?」

「ピィ?」

「かもしれん」

「ピイィ♪」

「だが、一代で見た目が変化するということは聞いたことがない」

「ピイィィ……」

 

一瞬、竜のような姿になれるかもしれないという期待にご機嫌な鳴き声を上げるが、すぐにバランの言葉によって落ち込んだ声に変わる。

 

「そもそも、私を驚かせるほどの炎を吐けるようになっているだけでもまずありえんのだ。逆に言えば、それこそが長期間に渡り、強い竜の影響を受け続けていたということ。チルノの中に、幼い頃より竜が眠っていたことの証の一つといえるだろう」

「あっ!! そういえば!!」

 

スラリンの話を聞きながら、頭の片隅に引っかかっていた何かを思い出そうとしていたマァムであったが、ようやく思い出したように大声を上げる。

 

「なんだマァム!? どうした!?」

「ずっと引っかかっていたのよ、スラリンのこと!! ほらポップ、忘れたの!? ロモスからパプニカに向かう途中の事!!」

「え? えーとその途中は……」

 

口で言われ、ポップもその時の事を記憶の奥から引っ張り出す。

 

「っても、その時はデルムリン島に寄ったくらいだろ?」

「そうよ。あの時、スラリンが着いていきたいってワガママを言っていたでしょ? で、チルノが凶暴化しなければ着いて来てもいいって条件を出して……」

「ああ、そういや……って、そうだぜ!! なんでコイツ、暴れてねぇんだ!? って話になって……!!」

「ピィ?」

 

ほんの三ヶ月にも満たないほど前の事なのに、懐かしさすら感じるやりとりのことを思い出し、そしてスラリンが何故無事なのかの理由を気にせぬままにいたことに気付く。

 

「そう言われれば、そうだったな。あまりにも当たり前にいたので、つい忘れていた」

「ええ、それがずっと気になっていたのよ。でもその原因も、もしかしたら……!!」

 

クロコダインの言葉に頷きながら、マァムはあの時には分からなかった理由についても、同じ事なのだろうと推測を述べる。

 

「なるほど、それもまた証拠の一つだろう。大魔王の暗黒闘気すら跳ね返すほどの強烈な力……いや、存在感とでも呼べばよいのだろうか?」

 

自身の知らぬエピソードを聞かされ、だがそれもまた十二分にあり得ることだとバランは太鼓判を押した。

 

ついでに言えば――バランでは決して分からぬ事例なのだが――本来の歴史では凶暴化していたはずのデルムリン島中の怪物(モンスター)たちが、この世界では抗うように必死で耐えていたのも、彼女の影響の一つである。

未完成ながらも竜王バハムートをその身の内に宿した少女の影響を受けていたのだ。圧倒的な強者の気配によって喝を入れられ、ギリギリのところで耐え続けていたというのが真相である。

スラリンの場合は、その影響を人一倍間近で受け続けていたということと、変質しやすいスライムであったことが幸いした結果である。

 

「なるほどな……チルノの中に昔から竜がいた。その竜は(ドラゴン)の騎士を参考にしたものだってことはわかったよ」

 

バランの推論とそれを裏付ける出来事を聞かされ、ポップは一通り納得したように呟く。

 

「でもよ、それだったらテランの戦いの時に暴走してるんじゃねぇのか?」

「うむ、そうだな……殺気を契機としているのならば、あの時のバランは充分に条件を満たしているのではないか?」

 

その上でなお分からない点を上げ、ヒュンケルが追従するように疑問を口にする。だがバランにとってはそれもまた想定の範囲内の疑問であった。

 

「かもしれんな。だが、忘れたか? テランで私がチルノに何をしたか」

「……そうだわ!! 竜の血!!」

 

少しの思考時間の後、レオナが一つの事実に気付く。それはバランが考えた事と同じものであった。

 

「ああ、私も同じ事を考えた。あの血を与えたことが、内に潜む竜が姿を現す要因となったのだろうな」

 

あくまで推論――その事、明確に的を射た考えなのだが――を聞き終え、一同は再び閉口していた。予想もしていなかった、だが違うと否定するには根拠の強い内容に、それ以上なんと言って良いのかが、分からないのだ。

だが、ただ一人だけ、そんなことは意に介さない者がいた。

 

「……でも、それがわかったからって、どうなるのさ……」

「ダイ、様……?」

「こうしている間にも、姉ちゃんは……もしかしたら、姉ちゃんはもう……そう考えると、ホントはジッとなんてしていられないんだ!」

 

ダイだけは、違っていた。そんな理由を考えるだけの時間があるのならば、今すぐにでも外に飛び出して姉の捜索を再開したいと強く願っていた。時間が経てば経つほど、最悪の考えが彼の脳裏へと色濃く刻まれていく。

焦燥感が強くなるにつれ、今にもこの場から文字通り飛び出していきそうなほどだ。

 

「わからんのか、ディーノ?」

 

興奮したようなダイの言葉を耳にしながら、バランは息子を諭す様な口調で問い質す。

 

「もしも、再びチルノと出会えたならば、今度は正気に戻す方法があるということだ」

「……っ!!」

 

それはダイからすれば寝耳に水の言葉。同時に、どうしてその程度のことも気付かなかったのだという強い自責の念が彼の中に押し寄せていく。

 

「まだ死したと決まったわけではない。亡骸を確認したわけでもない。可能性がほんの少しでもあるのならば、それを信じて探し続けろ……私はあの娘にそう説かれたぞ。なのに何故、お前が信じてやらん? 世界中の誰もが否定したとしても、お前だけは信じねばならんはずだ……違うか、ディーノよ?」

「あ……」

「そして、未だチルノは自身の中の竜を制御できずにいるやもしれん。ならばその時こそ、お前が救ってやらねばならんのではないのか? それとも、その大役をお前は別の者の手に委ねても良いというつもりか?」

 

バランの言葉に導かれるように、ダイの顔色に赤みが差していく。新たな希望を見つけたといわんばかりに表情を輝かせていく。

 

「そうだよ! ごめん、父さん。おれが馬鹿だった」

「……気にするな」

 

息子の言葉に父は言葉少なくそう応じる。

そして、影響があったのはダイばかりではない。

 

「あの、私……チルノさんの居場所を占ってみます!」

 

ダイに続けとばかりにメルルが顔を上げた。

 

「本当!?」

「大丈夫なの……? チルノがどこにいるかも分からないのに……」

「わかる、かもしれません。それに、時間も掛かると思います。でも、きっと大丈夫ですよ」

 

不安そうな仲間たちの言葉を受けながらも、メルルは未だ自信なさげに、だがはっきりとそう言い切った。

 

「何よりスラリンさんがいますから」

「ピィ?」

「先ほどのお話が事実なら、スラリンさんはチルノさんの影響を大きく受けているんですよね? だったらきっと、スラリンさんが導いてくれるはずです!」

 

肩に乗ったままのスライムに手をやりながら、根拠を口にする。彼女もまた、バランの推測は概ね間違っていないのだろうと信じており、であればスラリンを通じてチルノの居場所や今の状態を知ることができるかもしれないと考えたからだ。

失せ物探しなどとは違って人捜しの場合、捜す相手と関わりのある人物――例えば親子や兄弟など――がいる方が成功率は高くなる。そのため、ダイやバランよりも、最も影響を受けたはずのスラリンとの繋がりに賭けることにした。

そして、いずこからか水晶玉を取り出すと占いへと集中を始める。

 

「それじゃあメルルは占いに集中してて。結果を待っている間に、私たちはこれから先のことについて話をしましょう」

 

結果が出るまでの空いた時間を、ただ待っているのは勿体ないとばかりにレオナが声を上げた。とはいえ、突然のその申し出にダイたちを含めて多くの者たちが呆然と彼女を見る。

 

「時間は有限なの! もしかしたら、こうしている間にも大魔王が私たちを倒すべく襲いかかってくるかもしれないのよ!」

「まあまあレオナ姫。気持ちは分かりますが、そう興奮しても仕方ありませんよ」

 

気持ちを落ち着けさせるようにレオナの肩に手を置き、フローラが彼女の隣へと並ぶ。

 

「まずは、皆さんに同じ知識を与える必要があるでしょう」

「えっ……!! で、でもそれは……」

「いえ、こうなっては仕方ありません。特に、ここにいる皆さんには知る権利があると思っています」

 

フローラの言わんとしていることを理解してレオナは驚きを見せるが、彼女の意志は固かった。毅然とした態度でそう断言すると、ダイたちへ向けて居住まいを正す。

 

「これから皆さんには、世界会議(サミット)の席でチルノさんが私たちだけに話をしてくれた――あなたたちには、士気が下がることを考えてあえて話さなかった事について、お話します」

 

その前置きと共に、フローラは残る未来の話――チルノが敢えて語らずにいたことを、全員に向けて語っていった。彼女の知る歴史ではここでバランが力尽きることから始まり、如何にして大魔王バーンを倒したのかまでを。

 

双竜紋(そうりゅうもん)……まさか、そのような力があったとは……」

 

話を聞き終え、誰もが息を呑む中、まず口火を切ったのはバランだった。そして、その一言に過剰に反応した者がいる。

 

「バラン様、まさか……!?」

「落ち着けラーハルト。そのような事は考えてはおらん……いや、必要とあれば我が命を捨てることも辞さぬ覚悟ではあるが……」

 

自らの命を絶つことで、ダイへと(ドラゴン)の紋章を引き継がせるのではないか。

そんな可能性を不安に思ったラーハルトの言葉であったが、だがバランはその可能性を自ら否定する。そして一瞬だけホルキンスへと視線を向けると、続く言葉を紡ぎ始めた。

 

「そのようなことをすれば、死後になんと言われるか分かったものではないからな」

「……フッ」

 

冗談めかしたバランの言葉を、ホルキンスは鼻で笑ってみせることで応じた。

 

「あの……よろしいでしょうか?」

 

歴戦の勇士たる二人が言葉なく通じ合っているところへ、メルルが遠慮がちに割って入ってきた。だがそれは待ちに待っていた報告である。

 

「メルル!」

「どうだったの!! 結果は!?」

 

吉報となるか、それとも凶報となるか。ダイたちはメルルを囲むようにして集まり、次の言葉を待つ。

 

「はい、見つけました……チルノさんがいるのは……ここです……」

 

そう言ってメルルは水晶玉を見せる。そこに映し出されたのは、今なお天空を翔る大魔宮(バーンパレス)の姿であった。

 

「これは……!!」

「大魔王バーンの城!!」

「じゃあ、まさか……!?」

 

さすがは死の大地へと攻め込んだ者たちというべきだろうか。彼らは映し出された光景を見た途端、それが何かを瞬時に理解し、続いて水晶玉にそれが映し出されている意味を悟る。

 

「はい……このお城中にいるのは間違いありません。それに、反応があった以上は生きているのも間違いないかと……ただ、相手の力がとてつもなく強く、中の様子を覗き見ることまでは……」

 

肩を落とし、本当に申し訳なさそうにメルルはそう呟いた。

 

「ううん、全然そんなことないよ。ありがとうメルル!!」

「そうそう! 私たちじゃ居場所すら分からなかったんだもの! 文句なんてあるわけないわ!!」

「ええ、みんなの言う通りよ! じゃあ次は、その情報を前提として作戦を考えるわよ!」

 

だが仲間たちにとってみれば、彼女の見たそれは朗報以外の何物でもなかった。ダイが感謝の意を伝え、マァムが皆の気持ちを代弁するかのようにメルルの手を強く握りしめる。そしてレオナはこの情報を生かすべく話し合いを再開させた。

 

だが――

 

瞬間移動呪文(ルーラ)で直接乗り込むのは不可能だったか?」

「ああ、結界が張られている。そもそもオレたちの中で大魔宮(バーンパレス)へ行ったことのある者はダイたちくらい、それも外周部分だぞ? まともに行けるとは思えん」

「じゃあやっぱり……ミナカトールだっけか? それを契約しに行けばいいのか?」

「でもあれは設置するタイプの呪文よ。今みたいに空を飛び回っている相手に頼りになるとは思えないわ」

「む……オレたちが人質になっていれば……」

「今さらそれは言いっこなしだ」

「だが実際どうする? 」

「敵の動きがもう少しはっきり分かればいいんだけど」

「本当ならピラァを落とすってことだけど、私たちは全員生きているし……予定通りに行くとはちょっと考えにくいわね」

「最悪の場合、私が竜魔人となって大魔宮(バーンパレス)まで直接お前たちを運ぶことになるかもしれんぞ?」

「妙案かもしれんが、理性は持つのか? 運んでいる途中で殴られるのは御免だぞ」

「ダイ以外はまともに辿り着けんだろう。ならばいっそ、ダイとバランの二人でチルノの救出だけをしてくるというのもありかもしれんな」

「それを大魔王が見過ごすとは思えん」

「ミナカトールではないが、破邪の洞窟に行くってのは悪くないかも知れん。今から全力で潜っていけば、何か有用な呪文の一つでも覚えられるやも」

「なるほど……それは一理あるかもしれませんね」

「オレは反対だな。下手にジタバタしてバーンたちに即応できなくなるのは困る」

 

――会議の内容はまさに喧々囂々(けんけんごうごう)といった有様だった。

 

なまじ知識を増やしたことが仇となってしまったのか、皆は思い思いに考えを口にし始めていた。そのいずれもが有用ではあるが、大魔王を相手にするには心許く、妙案と呼ぶには遠い。そんな意見ばかりである。

誰もが真摯に未来のことを考えてはいるものの、頭の中は次第に熱を帯びていき煮詰まっていく。誰かが一声掛け、一度自体の収集を図ならねばならないだろう、その時だ。

 

「ノンノン、ダメですよ皆さん」

「え……?」

「この、声は……」

 

突如、聞き慣れぬ声が響き渡った。今まで聞いたことのない声、だが一部の者たちにとっては決して忘れる事の出来ぬ声を耳にし、議論を忘れて周囲を忙しなく見渡し始める。

やがて――

 

「ジタバタするしかない以上、我々は思う存分ジタバタしましょう」

 

会議場内にアバン=デ=ジニュアール3世――かつての勇者アバンが姿を現した。

 

 




「ジタバタするしかないなら、ジタバタしましょう」
って言いながら登場させたかったんです。


……(獄炎の魔王 1巻読み中)……

レイラさん……若い頃は随分とヤンチャだったんですね……
あんな格好しちゃって、あらやだまったく(悶)
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