隣のほうから来ました   作:にせラビア

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(前話でゴメちゃんの描写をすっかり忘れていたなんて言えない……
 冒険王ビィトを全巻買い直したりするから忘れるんだよ……)


LEVEL:107 最終決戦開始

翼を休める鳥のように大地へと降り立った大魔宮(バーンパレス)。その最外周、魔宮の門の周辺では、人間たちと魔物たちの戦いが繰り広げられていた。

 

視界を覆い尽くさんほど大量の魔物の群れ――その数は大凡四、五百体ほどにもなるだろうか。加えてその全てが、地上に生息する魔物とは比較にならないほど強力な力を持つ魔界の怪物(モンスター)たちだ。

彼らは全員、その圧倒的な力と数を活かして突撃戦法を取ってきた。半円状に包囲するような陣形からその中心点へ向けて一斉に駆け寄っていく光景は、上空から見れば黒い津波のように見えたことだろう。

 

対する人間側は、努めて冷静に対処していた。

ホルキンスを司令塔として隊列を整え、方陣を組み上げることで各員の死角を補うように戦わせる。個々人の力量では魔物たちに劣るものの、連携を重視させることで対応させるという狙いだ。

その後ろには交代要員の兵士を配置させ、疲労や怪我などの際にはすぐに入れ替えることで戦線を維持させる。

さらにその後ろには遠距離攻撃や呪文を使える者たちを配して、前線を援護させる。

そんな極めて真っ当な戦術で応戦していた。

 

「オオオオオッ!!」

「ぬううぅぅ!!」

 

頭部の一本角と口から飛び出るほどに巨大な牙を持つソルジャーブルが手にした剣で斬りかかったのを、カール騎士の一人が剣で受け止める。だがその威力は凄まじく、受け止めた側の手には衝撃で鈍い痺れが走るほどだ。

 

「今だッ!」

 

敵の意識が攻勢に回ったところを、別の騎士の一人が攻撃を加える。いくら身体能力は人間以上の魔物であっても、意識していない時に攻撃をされては反応しきれない。

刃は本来ならば強固であったはずの肉体を易々と切り裂き、ソルジャーブルは激痛に悲鳴を上げながら崩れ落ちた。

 

「すまん!」

「お気になさらずに!」

 

カバーに入った騎士に短く礼を告げるカールの騎士。一方、礼を言われたのはベンガーナの騎士だ。

 

「ケエエエッ!!」

「甘い!」

 

だが攻撃の隙を狙うのは何も人間だけではない。巨大な鎌を手にして蝙蝠のような翼を背に生やしたベレスが、空から襲いかかるべく急降下する。

その動きに反応したのは後列にいる戦士だ。彼は手にした弓を即座に放ち、敵の翼を打ち抜いてみせた。強襲する勢いはそのまま落下の勢いに代わり、地面へと無様に激突した。

 

「チッ!! 邪魔だっ!!」

精神混乱呪文(メダパニ)

 

目の前に落ちてきたベレスを蹴り飛ばしながら、二足歩行する(サイ)の姿をしたライノソルジャーが突進してくる。だが精神混乱呪文(メダパニ)をまともに喰らい、周囲の魔物たちに襲いかかり始めた。

 

呪文を唱えたのはパプニカ三賢者の一人マリン。そして先ほど弓を放ったのはロモス武術大会にも出場していた弓使いのヒルトだ。

所属の違う者たち同士だが、今この場ではそんなことに何の意味も無い。ただただ協力してこの場を切り抜けるべく、心を一つにして戦っていた。

 

だが、この場で最も活躍していたのは誰かと尋ねれば、おそらく多くの者たちが口を揃えてこう言うだろう。

 

――北の勇者と呼ばれた少年、ノヴァだったと。

 

「はあっ!」

 

巨大な翼竜のような姿をしたテラノバットが、ノヴァの一刀により倒された。

テラノバットは大型魔獣に属する魔物のため耐久力は凄まじいものがあるのだが、それを意に介さないほどの見事な剣技。その戦い振りに、魔物の群れも微かに怯えの色を見せたほどだ。

 

「おのれっ!」

「人間ごときがっ!!」

 

テラノバットの穴を埋めるように数体のシャドーサタンが前に出てきた。

真っ黒な体色を持ち、頭部の両端から突き出た角に背中には巨大な翼。何より額に輝く三つ目の瞳がなんとも不気味な特徴を持つ悪魔型の魔物である。

 

「ボクらを"ごとき"と侮るから、キミたちは負けるんだ!!」

「ほざけっ!」

 

しゃにむに突撃してくるシャドーサタンたちであったが、今のノヴァの目には隙だらけにか映らなかった。彼はその内の一体に狙いを定めると、縦一文字に剣を振り下ろす。

 

「がっ!!」

 

その剣速はかなりの物であり、シャドーサタンは反応することもできなかった。まるで身体を縦に分割されるかのような傷が走り倒される。

だがノヴァの攻撃はそれで終わりではない。振り下ろしの勢いを利用して今度は真横に剣を振るった。それは仲間の一人が倒された事に動揺し、動きを止めてしまった魔物たちに襲いかかった。

 

「ぐおっ!!」

「ひ、ひいい……!!」

 

一体は腕を切断されて怯えた声を上げ、もう一体は首を切り裂かれ倒れた。それだけの攻撃を仕掛けておきながらもノヴァはすぐさま正眼に構え直しており、油断は微塵も感じられない。

 

「ヒャ……氷系呪文(ヒャダルコ)!」

氷系呪文(マヒャド)!!」

 

片腕を失い戦意の大半を喪失したようだが、まだ戦う気力は残っていたようだ。シャドーサタンは得意の呪文を唱えた。

局所的な吹雪と氷の刃が生み出されノヴァへと襲いかかるが、彼はそれを同種の呪文で迎え撃つ。氷系最上位呪文であるマヒャドはヒャダルコの勢いなど物ともせずに巻き込み、それどころか完全に打ち消していた。

圧倒的な範囲を誇る冷気の嵐に多くの魔物たちが巻き込まれ――流石にシャドーサタンは氷系呪文を得意としているだけあって耐性を持っていたが――その寒さに大半の動きが目に見えて鈍る。

それは格好の攻め時となっていた。

 

「ふふ……ノヴァのやつ、大したものだ……」

 

後方で全体の指揮を執っていたホルキンスは、ノヴァの戦い振りに思わず目を奪われていた。手にした剣を振るうその姿は以前見た時と比べてまるで別人のように鋭く、無駄のない物へと変わっている。

 

「あなたが教えた剣技ですよね?」

「ええ、これほどまで上達するとは……さすがはバウスン将軍のご子息ですよ」

「あら? 師匠が良いからでは?」

 

フローラのからかい混じりの言葉に僅かに頬を紅潮させながら頷く。彼女の言葉通り、その技術の全てはホルキンスが教え込んだものだ。

 

かつての口約通りに彼は空いた時間にノヴァへと修行を付けていた。決して長い期間でもなければ四六時中付き合っていたわけではないものの、だがどうやら不思議と水が合ったらしく彼はぐんぐんと伸びていった。

かつて勇者ダイと手合わせをしたと聞いているが、今ならば剣技だけであれば勝てるのではないだろうか――そう考え、さすがに親馬鹿ならぬ師匠馬鹿すぎるかと思わず自嘲する。

けれどもそう考えてもおかしくないほど今のノヴァは確かな腕前を見せていたのだ。

 

「ノヴァ、突出しすぎだ少し下がれ!! 正面!! ノヴァの開けた穴を無駄にするな!! 右翼はもう少しだけ堪えろ!! すぐに援護を回す!!」

 

浮かれかけた心に活を入れて冷静さを取り戻させると、ホルキンスは指揮へと戻る。順調に進んでいるときほど、慎重にならねばならない。まだ行けるは油断のサインでもある。それを諫めるのは大人の役目、そして師の役目でもあった。

 

 

 

 

 

ホルキンスの言葉に全員が一糸乱れずに動き、戦略的に魔物たちを追い詰めていく。確かに大怪我を負う人々もいたが、この調子で行けばなんとか撃退できる目算は立つ。

 

――だが、戦場では常に予想外のことが起こる。

 

「フッ……少し遅れて顔を出してみれば、面白そうなことになっているじゃないか」

 

人々と魔物たちが激突しあう戦場。その最外周を眺めながら、一人の男が姿を現した。

 

「だが丁度良い、コイツらを相手にするならば誰も文句は言わんだろう。テストにも丁度良い」

 

視界に入る多くの魔物たちに懐かしそう(・・・・・)に呟きながら、男は二振りの剣を抜き放つと、最も手近な位置にいた魔物目掛けて心の赴くままに振るう。

それはただの攻撃に過ぎない。

だがその攻撃はまるで暴風のような威力を伴って放たれた。ただの斬撃がさながら必殺の一撃のような破壊の奔流を巻き起こし、標的とされた魔物が木の葉のように吹き飛んだ。

 

「なっ、なんじゃなんじゃ!?!?!?」

 

遠目から全体を見渡していたザボエラが真っ先に気付いた。魔物たちがまるで巨大な力で吹き飛ばされたような凄まじい光景に理解が追いつかず、混乱した声を上げることしかできない。

だがそうしている間にも魔物たちの被害は増えていく。包被型の野菜の葉を一枚ずつ剥いでいくかのように、外側から順番に倒されていく。

 

戦局は更に変化する。

 

 

 

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「まさか人間どもの侵入を許すとは……ザボエラめ!! 使えん!!」

 

大魔宮(バーンパレス)内、玉座の間にて。悪魔の目玉から伝えられる情報を見ながら、ミストバーンは激怒し叫んでいた。

チルノという駒を失い、黒の核晶(コア)をあのようなよく分からない方法で回避されただけでも(はらわた)が煮えくり返るほどだというのに、勇者たちを足止めすることすら出来ないという失態を犯したのだ。

このまま直接出向いてザボエラをくびり殺したいという強い衝動に駆られながらも、ミストバーンは寸でのところで冷静さを保っていた。

 

「まあまあミスト、そんなに怒らないでよ。ザボエラ君だって、あれを想定しろっていうのは不可能さ」

 

キルバーン当人からしてもこの状態は予定外であり文句の一つ二つ言いたいが、そんなことは感情に乗せることもなくミストバーンをたしなめる。

だがミストバーンにはその言葉は届いていないようだった。

 

「バーン様、私にどうかご命令を!!」

「直接出向き勇者ダイどもを倒すと?」

「はっ! 奴らを皆殺しにし、その後は城にまとわりつく人間共を根絶やしにして参ります!!」

 

血気に逸るような態度を見せる部下の姿を、バーンは顎に手を当てながらしばし逡巡する。

 

「……問題はないか?」

「当然です」

「よかろう。出陣を許可する」

 

念押しするような言葉に返答する姿を見て、大魔王は頷く。

 

「ボクも付き合うよ、ミスト」

「ほぅ、珍しいなキルバーンよ。貴様がそんな殊勝な事を口にするとは?」

「いやだなぁ、バーン様ったら」

 

心外だとばかりにキルバーンはケラケラと笑う。

 

「ザボエラ君が失敗してしまったのは推薦したボクにも責任がありますし、それに協力しないとこのままじゃあ大変なことになりそうだ。何よりも内側に来てくれるなら好都合、城内にはボクの罠がたっぷり設置してありますからからねぇ、ククク……」

「……まあよかろう」

 

いかにも心配していますといった美辞麗句を聞きながら、バーンは不承不承頷く。

 

「それじゃあ一緒に行こうかミスト? 人間たちの言うところの、協力して戦うってやつだよ」

「……フン」

 

キルバーンは軽口を叩きながら機嫌よさげに退出していく。尤も、ミストバーンは不満げな態度ではあったが。

そして二人の部下が出て行き、一人になったところでバーンは呟いた。

 

「さて……余も少し、肩慣らしでもしておくか」

 

その視線の先にあるのは映像に映ったザボエラの姿……いや、そのもう少し先の姿。

 

 

 

 

 

「ハッハッハッ!! これがオリハルコンの力か!!」

 

乱入者――もとい、ロン・ベルクは剣を振り回しながら歓喜の叫び声を上げていた。彼が手にするのは、星皇剣と呼ばれる二刀一対の剣だ。自身の編み出したロン・ベルク流剣術を扱うのに最も適した武器であると同時に、彼自身が長年追い求め、試行錯誤を繰り返して完成形を模索し続けた武器でもある。

アバンによって持ち込まれた大量のオリハルコン、それらはヒュンケルらの武具に加工を施してもなお余るほどの量が残っていた。そしてそれだけの量が残っていれば、ロン・ベルクが手を出さないはずはなかった。

 

「なんだコイツは!?」

「こ、コイツは魔族だぞ!!」

「なんだと!? なぜ魔族がオレたちを襲うんだ!?」

 

背後から突然現れた闖入者に魔物たちは浮き足立つ。ましてやその相手は同じ魔界に住まう魔族なのだ。同じ地に住む者だからといって、必ずしも仲間とは限らない。だがここは地上であり、魔族は人間を襲うのだと思い込んでいた魔物たちにとって、魔族が敵になるなど信じられなかった。

ましてや取り囲んでいたはずなのにどうやって背後を取られたのか、疑問が恐怖に代わり、混乱が魔物たちにゆっくりと伝播していく。

 

とはいえ種を明かせばその理由は至極簡単かつ単純なことだった。ロン・ベルクは最初から包囲の外にいたのだ。大魔宮(バーンパレス)へ向けて進軍する面々には加わらずに眺めていただけのこと。

そして魔物たちを襲う理由も至極簡単。試し切りだ。

元々ダイたちの無理難題を片付けたことで義理立ては済んだと考えており、人間側の戦力も大幅に存在しているため、ロン・ベルクは戦いに手を貸すつもりはなかった。

加えて星皇剣を完成させているのだ。だがそれは出来上がったばかりで、まだ試し切りも済んでいない。早く戻ってその威力を試そうとしていたところで、魔物たちが群れで現れた。それも魔界の魔物たちである。

降って湧いたような好機にこれ幸いと便乗したに過ぎない――魔物たちからすればたまったものではないが。

 

「がっ……!!」

 

鎧を着込んだ蠍のような魔物――メタルスコーピオンから断末魔の声が上がる。

メタルの名を持つ通り金属のように強固な外郭を誇っていたはずだが、星皇剣はそれを紙切れのように易々と切り裂かれていた。

 

「ダイの剣や真魔剛竜剣で知っていたはずだが、やはりこうして直接試さねばな! 流石は伝説の金属と呼ばれるだけのことはある!!」

 

その声は歓喜を通り越して狂喜と呼んでも差し支えないだろう。

なにしろ夢にまで見た金属を用いて自身の理想たる武器を作るという、彼が鍛冶師を目指した根源たる理由を実現することが出来たのだから。

 

そしてその武器の威力は、彼の想像通り――いや、一部では想像を超えてすらいた。

剣を振るうたびに魔物たちが木っ端の如く散っていく。かつて若かりし頃、自身の剣術を編み出した頃にも同じ光景を目にしたが、現在のそれは規模が違いすぎる。

感情の赴くまま強力な技を放っていくが、星皇剣は持ち主の期待に充分すぎるほど応え続け、それどころかまだまだ限界が見えないほどの性能を見せていた。

 

――これは……これならば行けるか!?

 

手にした剣の強さに打ち震えながら、ロン・ベルクは遂に自身の持つ最大最強の剣技を放つ覚悟を決める。これだけの強度と強さを誇る武器ならば、己が描き続けた理想に届くはずだと確信していた。

 

「さあ、どうなる!?」

 

右手の剣を肩に担ぐ様に構え、左手は溜めを作るように右脇へと向ける。たったそれだけの構えであったが、身の毛もよだつほどの殺気が周囲に向けて放たれた。凄まじいほどの闘気が収束していき、魔物たちは金縛りにでもあったかのようにたじろぐ。

 

「……星皇十字剣!!」

 

そしてロン・ベルクは剣を振るう。

渾身の力を込めて右手を縦に、左手を横に放つ。剣が交差し、刃で十字を描かれる。

最初の一瞬だけは何も起こらない。だが数瞬遅れて凄まじい威力の衝撃が走り、魔物たちを群れごとまとめて切り裂いていった。

津波にでも押し流されたように包囲網の一角に大穴が空く。

 

壁となっていた魔物たちがいなくなったことで、ノヴァらはようやくこの騒動の現況がロン・ベルクであると理解する。

 

「素晴らしきかなオリハルコン!! 試作品(・・・)でもこれか!! くくく……はははは! はははははははっ!!」

 

そしてロン・ベルクは大満足の笑い声を上げた。

かつて星皇十字剣を放った時には、その強大すぎる威力に耐えきれずに剣は粉々に砕け散り、それどころか両腕の骨が粉々に粉砕されるという燦々たる結果を招いていた。

 

だが今回は違う。

技を放ってもなお、両腕は無傷のまま。そして剣もまた原型を留めている。なにより恐ろしいのは、これでまだ星皇剣は完品ではないということだ。ロン・ベルク本人の腕前に合わせた完全なる武器の領域にまでは未だ到っていない――少なくとも本人はそう思っている。

しかし同時に「これを完成させることが出来れば……」という可能性を感じさせるには充分すぎるほどの結果を残していた。

 

「オレは今! 未来を掴んだのだ!!」

 

極度の興奮状態に陥ったような様相を見せながら、再び魔物たちへと斬りかかっていく。二刀の剣が躍るたびに敵の数が減り、士気が下がっていく。

二刀の刃が交差すれば、まとまった数の怪物(モンスター)が物言わぬ骸と化していく。

 

その姿はさながら修羅。

 

「あれは、ロン・ベルク殿か……」

 

哄笑はノヴァたちに届いていた。そして、鬼神にも似たロン・ベルクの強さもまた、彼らに伝わる。チルノから教えられた未来の知識の中には、彼のこともあった。その知識と目の前の現実を照らし合わせ、一体何が起こったのかを朧気に理解する。

 

「なんという剣技……だが、羨ましくもある……」

 

ホルキンスはロン・ベルクの強さを見ながらそう零していた。

彼とて剣技では諸国に並ぶ者なしと呼ばれたほどの英傑である。だがその評価など露と消えてしまうほどに、ロン・ベルクは強い。少なくとも今まで浴びてきた称賛の声は、彼の前では何の意味も持たないように感じられた。

 

同時に、彼の中の武人の心が燃え上がる。

 

「フローラ様、申し訳ありませんが以降の指揮をお願いします。なに、ロン・ベルク殿の登場で浮き足立っている今ならば、それほど難しいことではありません」

 

気がつけばホルキンスは主君であるフローラに向けてそう懇願していた。一方、突然指揮権を譲渡すると言われたフローラは目を丸くする。

 

「ホルキンス……では、貴方はどうするのです?」

「オレも、一介の戦士に戻りたくなりました。申し訳ありません!」

 

そう矢継ぎ早に口にすると、許可の返事も待つことなく走り出していた。剣を抜き、戦場へと躍りかかる。

 

「はぁ……まったく……」

 

その気持ちは理解出来なくは無い。だが、全軍を預かる将としてその行動はいかがなものだろうか。フローラはそんな彼の行動に頭を抱えながらも見送っていた。

 

 

 

 

 

「おおおおっ!!」

「ホ、ホルキンス団長!? どうしてここに……!?」

 

ノヴァの横に並ぶようにホルキンスが切り込み、魔物の一体を屠る。だが突如現れた援軍――それも先ほどまで後方で指揮を執っていたはずの男の登場に、驚いたのは前線の兵士たちだ。

ノヴァの言葉を例に挙げるでもなく、多くの者達が異口同音にホルキンスの参戦に声を上げる。

 

「ロン・ベルク殿にあてられてな。オレも戦士としての腕を振るいたくなった」

「そ、そんな理由で!?」

 

なんとも私的な理由に絶句しかけたが、だが考えようによっては良い手でもあった。今は完全に攻勢に出るべき場面のため、攻撃の手は一人でも多い方が良い。ましてや先頭に立つのがホルキンスであれば、後に続く者たちの士気も相当上がる。

この勢いを利用するというのであれば、妙手と呼べるだろう。

 

「どうした? 行くぞノヴァ!! 稽古の続きだ、今度は実戦で教えてやる!!」

「は……はいっ!!」

 

ホルキンスの後を追うようにノヴァが続く。ノヴァ本人の持つ素質とホルキンスの技術、そして短期間でも行動を共にしたことで生まれた連携は、カール騎士たちが羨むほどだった。

 

彼らは、ロン・ベルクに続けとばかりに次々に魔物たちを打ち倒していった。

 

 

 

 

 

「馬鹿なぁ……こんな、こんなことが……」

 

瞬く間に数を減らしていく魔物たちの姿を見ながら、ザボエラは信じられんとばかりに呻いていた。なまじ高所に位置しているため、自分たちが劣勢に陥っていくのが手に取るように見えてしまう。

魔界の怪物(モンスター)たち、それも精鋭と呼んで差し支えないほどの質と量を誇り、少なくとも勇者ダイたちを相手にしないのであれば負ける筈が無い。

それが蓋を開けてみれば明らかな劣勢。

 

一体何処で何をどう間違ったのかじっくりと検証できれば良いのだが、生憎とそんな時間は欠片も残ってはいなかった。

 

「お前が頭だな?」

「なっ、お、お前は!?!?」

 

一体何時の間にやってきたのだろうか。

戦場から少し意識を逸らしていた隙に、ロン・ベルクがザボエラの所へ辿り着いていた。既に魔物たちの数は立っている者すら(まれ)なほどにまですり減らされており、救援は期待できようはずもない。

 

かといってザボエラが独力で切り抜けるというのもこれまた無理な話であった。既にロン・ベルクの剣の間合いに入っており、肉体的に脆弱なザボエラではその攻撃を躱すことすら不可能だ。

瞬間移動呪文(ルーラ)やキメラの翼といった手段があればまだ脱出の可能性もあるのだが、生憎と使うことは出来ない。そもそも下手な動きを見せた瞬間に剣が翻り、気付かぬうちに首を落とされるのが関の山だろう。

 

「キサマにゃ勿体ないが、特別だ。あの世で勲章代わりに誇れ……」

「ヒイイイイィィィッッ!! まてまてまてまて!!」

 

涙を鼻水を垂らしながら、拒絶するように何度も首を横に振る。恥も外聞も無く遮二無二命乞いをするが、聞く耳を持つはずもなかった。

 

「星皇……十字剣!」

 

剣閃が十字を描き、光跡がザボエラを貫いた。

 

「……はっ! なんじゃ、なんとも……な……」

 

当然激痛が襲いかかると思っていた。だが自身の身体は何事もなかったように無事であり、そのチグハグさがザボエラを恐怖に陥れる。

だがその疑問もすぐに解決する。

 

「な、ぎゃぐぉ、ぎょええええええぇぇっっ!!」

 

技を受けたことに気付かず、結果が遅れて到達するほど高速の斬撃。老いて脆くなったザボエラの肉体はその衝撃が襲いかかるやいなや、爆発四散するように絶命していった。

 

「おおおっ!! やった!!」

「どうやら美味しいところをロン・ベルク殿に持って行かれてしまったようだな」

 

大将格を討ち取ったことで人々から歓声が湧き上がるが、その当人はつまらなさそうな顔をしながらホルキンスたちのところへと戻ってきていた。

 

「凄まじい剣技、それにとんでもない武器……」

「どうした? 何か言いたいことでもあるのか?」

 

戻ってきたロン・ベルクへ向け、ノヴァは思い詰めた表情を見せる。

 

「今からでもチルノさんたちを追えば、間に合うはずです! 大魔王を倒すのに、戦力は多くて困ることはないはず!! どうかボクたちに力を貸してください!!」

 

意を決したように叫んだ。

本来ならばノヴァ本人が駆けつけて大魔王を打倒する力になりたいのだろう。だが自身が向かうよりも、ロン・ベルクが向かった方がよほど強いということは先の戦いで充分に証明された。屈辱と無力さを噛み締めながら、断腸の思いを込めた懇願である。

 

「そうしてやりたいのも山々だがな……」

「ああっ! け、剣が……!?」

 

だがロン・ベルクは溜息交じりに手にした剣を掲げる。彼が握っていたのは、全体に罅割れが走り今にも粉々に砕け散りそうなそれだった。

 

「これでは戦力にはなれん」

 

今の剣でも並大抵の魔物ならば倒せるが、大魔王を打倒するには圧倒的に力不足としか言い様がない。普通の剣ならばまだ売る程に残っているあるが、そんな武器ではロン・ベルクの放つ技には耐えられない。

中途半端な武器を持って大魔王に挑んでも邪魔になるだけだ。

 

「昔と比べれば雲泥の差とはいえ、奥義を数発放っただけでこれではな……コイツを完全な形にするには、まだまだオレ自身も腕を磨く必要がある。それと、このオリハルコンにも少し喝を入れてやらにゃならん」

 

自身でも試作品と口にしていたように、まだ星皇剣は完成形ではない。これが完成していれば、彼は大魔王討伐の中にも喜んで加わったことだろう。

 

「ゴールは見えたが、どうやらまだまだ先は長そうだ……」

 

だが決して嫌ではない。むしろその事実は喜ばしいことですらあった。

どれだけ遠く険しくても、確実に終着点へと続く道をようやく見つけることができたのだから。

 

「しかし、未完成ですら恐ろしい程の威力……ロン・ベルク殿、もしもその剣が完成したら、貴殿はどうするおつもりか?」

「完成したら、か……そうだな……」

 

ホルキンスの言葉にロン・ベルクは腕を組んで考える。

 

星皇剣はあくまでも、自身が生み出した剣術――その奥義たる星皇十字剣を放つために必要な武器でしかない。すなわち、最強の剣は通過点でしかないということだ。

そもそも鍛冶屋を始めたのも剣技を極めるために必要だったから。

そして今、鍛冶屋としてもより上を目指さねばならないと教えられたばかり。

 

その先の事など想像することすら出来ないのだが……少し考え、一つ思いつく。

 

「より剣士としての高みを目指しに、バランに腕試しでも挑みに行くとするかな?」

「おっと、それは遠慮してもらおうか?」

 

まさか突然そのようなことを言われるとは想像もしておらず怪訝な瞳を向けるが、だがホルキンスは胸を張り臆することなく言った。

 

「なぜなら先にバランに挑むのは、オレだからな」

「ククク、なるほど。ならオレたちはライバルと言う訳か」

 

――魔界最強の剣士であるオレと剣の腕を競い、(ドラゴン)の騎士に挑む、か……これだから人間は面白い。

 

自身の想像を超えた理由に驚かされると同時に納得し、そして感激すらしていた。

どうやらロン・ベルクが退屈を感じるのは、まだまだ先になるようだ。

 

「とりえあず、これで一息つきましたね」

 

ホルキンスたちが剣呑な会話を楽しんでいるころ、フローラは胸をなで下ろしていた。

周囲には残った魔物も存在せず、死者や命に関わる大怪我を負った人間もいない。怪我人はいるが、急ぐ必要もない。安全な場所でゆっくりと手当をしても問題ない程度だ。

 

そういう意味で「一息つける」と判断した彼女は、部下たちに次なる指示を出そうとしてはたと思い出す。

 

――そういえば……

 

「確か、超魔ゾンビ……」

 

チルノから伝えられた知識の中にあった、妖魔司教ザボエラの切り札。記憶が正しければここで切り札を切っていた筈だ。

肝心のザボエラは既に倒されており、気にする必要はないのかもしれない。

 

「まだ用心はしておくべきかも知れませんね……」

 

だが彼女は気を緩めることを由としなかった。

勝利のムードに水を差すべきではないと考え全体に伝えることはせず、一部の部下たちには周辺の警戒を厳しくするように伝えることで万が一に備えておくことにした。

 

 

 

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「キヒヒヒ……星皇十字剣、なんとも恐ろしい技じゃわい」

 

悪魔の目玉によって撮影された映像を見ながら、ザボエラ(・・・・)は楽しそうに呟いた。そして視線は映像の向こうにいる、ザボエラの死体へと移動する。

 

「やはりあの場から逃げておいて正解じゃったな」

 

そこに映っているのは、おおよそ生物の死骸とは思えぬ程の肉塊。

下手をすればああなっていたと思えば、やはり自身の取った行動は最善かつ最良であったのだと自画自賛するように笑った。

 

「おおっと、いかんいかん。見入っておる場合ではないな。とっとと片付けてしまわねば」

 

そして彼は一時止めていた動きを再開する。

 

ここはザボエラの研究所。

超魔生物に関する研究や、劣化(ドラゴン)の騎士となったハドラーから取得したデータなど、あらゆる知識の集大成とも呼べる場所だ。

だが現在、ザボエラはたった一人の引っ越し作業に追われていた。この場所に集められたあらゆる知識を別の――もっと安全な場所へと移動させるためだ。

自らの命の次に大切な研究資料たち。

大魔王バーンを裏切った以上、もっと早く移動させたかったのだが、表向きには付き従っている以上、大規模な引っ越しという目立つ真似はできない。

勇者たちとの決戦が始まる、自らが死ぬことによって監視の目を緩ませる。そんな絶好の好機を狙っての、さながら夜逃げのような作業であった。

 

「それにしても、あの雑魚魔物たちを全て片付けてくれたのは人間にしては中々じゃったな。手勢の――いや残党と呼ぶべきか? とあれ数が減れば不安になり、降参する奴も増える……何事も次の手に繋がるように動かねばのぉ」

 

作業を進めながら先の戦いの結果を反芻する。

 

戦場に姿を現していたのは、ザボエラが自身の細胞から作り上げた影武者であった。

本体と同じような考えをするように調整してあり、だが外部から命令を下すことで強制的に従わせることが可能となっている。加えて呪文や逃走用のアイテムなどは一切持たせていない。

そのため逃げられる心配もなく――逃げようとしても本体の命令で不可能だが――自身の死を演出できるという、なかなか自信作だ。

 

そして影武者に行わせたのが単調な突撃作戦だったことにも意味がある。

 

本来、ザボエラがまともに指揮を執っていればもっと人間たちは苦戦していたはず。ロン・ベルクという例外が介入しなければ、勝利を掴むことも出来ただろう。

だがその結果をザボエラは望まなかった。

彼の中では既にバーンが倒れることまでは確定された予定となっている。そしてバーンという巨頭が倒れれば、彼に付き従っていた魔族や魔物たちは道しるべを失う。上手く交渉を行えば、ヴェルザー陣営に引き込ませる事も可能だろう。

敵対するのであれば数が少ない方が楽なのは言うまでも無い。

 

残党たちを改造し、ヴェルザーの元で辣腕を振るう。最初は地上の王に、やがては三界を手中に収めることも自らの頭脳を持ってすれば可能となるはず。

そんな見果てぬ明るい未来を夢想しながら作業を続けていたときだ。

 

「手伝いは必要か?」

 

突如耳に届いた声で愉快な妄想を中断させられ、ザボエラは不機嫌さを隠そうともせずに叫んだ。

 

「あぁん!? 決まっておろうが! ここから研究成果の選別に機材の搬出、やることは山……づ、み……」

 

最初に頭に浮かんだのは、一体誰が声を掛けたのかということだった。続いて、自分以外は誰も存在しないはずのこの場所にどうして他の者がいるのか。はてこの声はどこかで聞いたことがあるような……

猛烈に嫌な予感を感じながら、おそるおそる声のした方に視線を向ける。

 

「精が出るなザボエラよ」

「はうわあああぁぁっ!?!? バッ!! バババババババ、バーーン様ああぁぁぁっ!?!?」

 

絶対存在するはずがないと思っていたバーンの登場に、ザボエラは大慌てで平伏する。

 

「こ、こここここここここここれは!! そそそそそののののののっっ!!」

「よい」

 

ろれつすら回らなくなるほどの緊張と恐怖に包まれながら、それでも頭はフル回転で打開策を模索し続けていた。だがそれも無駄な努力でしかない。

 

「死神にそそのかされたか? 研究成果と余の首を手土産にヴェルザーへと寝返り、地上の王となる……そんなところであろう」

 

スッと血の気が引いていき、顔面蒼白となる。

 

――全てはお見通し。

言外にそう語るように笑みを浮かべる大魔王の表情と余裕の態度に、ザボエラは全てを悟った。所詮自分たちは掌の上で躍らされていたに過ぎないのだということを。

 

「事が露見した以上、どうなるかはわかっておろう?」

 

バーンはゆっくりと片手を上げると、そこへ炎の鳥を呼び寄せる。だが深い絶望に襲われたザボエラは、抵抗することすら諦めたようにそれを眺めているだけだ。

 

「余の手に掛かって死ねるのだ。あの世で誇れるぞ」

 

カイザーフェニックスが放たれ、ザボエラの肉体を包み込んだ。超高熱は一瞬にして喉を焼き、断末魔すら上げることができない。炎は皮膚を、肉を、骨までもを焼き尽くし、その一切をこの世に残すことはなかった。

 

黒い焦げ跡。それだけがザボエラの最期となる。

 

「さて次は死神か……なにやらコソコソと動き回っていたようだが、はてさて思い通りにいくかな?」

 

大魔王は不敵に嗤う。

 

 




ロン・ベルクさん暴れまくり。

ザボエラのガバガバ作戦。
結局バーンには全部見抜かれていましたが。

バアラックたちをチウの部下にしてあげられなかった……
てかチウの扱いどうしたんだっけ? ……あ、チルノ側にいるのか。
ってことは老師もあっちにいるのか!?
(今気付く無能)

……そりゃ原作も、瞳を使って数を減らしますよね。登場キャラ多いんだもん。
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