隣のほうから来ました   作:にせラビア

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ダイ・ポップ・マァム・ヒュンケル・レオナ
チルノ・アバン・バラン・ラーハルト・クロコダイン
チウ・老師・その他(ゴメちゃんとか)
やっぱり人数多いよなぁ……とっとと瞳に入れたい……



LEVEL:108 煮え湯と辛酸

魔宮の門の外で大乱戦が開始された一方、門の内側ではダイたちが大魔宮(バーンパレス)の中央部――主城部分目指して進んでいた。

長い長い通路を愚直に、唯々直線に駆けていくだけで、何の妨害もない。

 

「結構、距離があるんだな」

 

どうやらそれは各員の精神を少しずつ削り取っていたようだった。それに耐えかねたようにポップが愚痴を零すと、チウが反応する。

 

「疲れたのかね、魔法使いクン? だらしないぞ! なんならボクが担いで行こうか!?」

 

おおねずみというあまり強くない怪物(モンスター)ではあるが、拳聖ブロキーナに鍛えられた肉体は伊達ではない。ポップが少しだけ息が上がっているのに対して、こちらは未だ平然としたまま。

それどころか、ポップを元気づけるべく声を張り上げるほどだ。

 

「いや、まだ平気だぜ。けどよ、こうも景観が変わらねぇと退屈っていうか」

「確かにポップの言うことにも一理あるわね。少し不安になってくるわ……」

「ピーッ!!」

 

その申し出は丁重にお断りしながらもポップは続けて少しだけ愚痴を吐き出し、珍しくマァムもそれに同意した。大魔王の元目掛けてしっかりと進んでいるのは理解しているが、景色の変わらなさから実際は延々とその場で走っているだけなのではないかと錯覚する。

それは空を飛んで移動しているゴメちゃんも同じだったらしく――

 

「……ん?」

 

最初に違和感を覚えたのはダイだ。

 

「あっ、ゴメちゃん!!」

 

確認するように声の方向へ視線を向けて気付き、彼は思わず足を止めて叫んでいた。それにつられ、全員が立ち止まっていた。

 

「あらら、着いて来ちゃったのね」

「あんまりにも自然にいたから気付かなかったわ……」

「スラリンをメルルにお願いたことで気が緩んでたみたい。でも、ゴメちゃんを今から一人で帰すわけにも……ねぇ?」

 

女性陣が口々に言う。

本来の歴史ではゴメちゃんは大魔王がその正体に気付いたことで危険視され、命を落としていた。ならばこの世界でも同じようなことがないようにと、できるだけ前線から下げるように意識してきたはずなのだが……どうやらその警戒網も最後の最後で破られてしまったらしい。

どうしたものかと悩みながら、チルノはアバンに視線を送り意見を求める。

 

「仕方ないでしょう。ゴメちゃんのことは私も聞いていますが、目を離すわけにも行きませんし……レオナ姫、お願いできますか?」

「あたしですか? わかりました。よろしくね、ゴメちゃん」

「ピィ~!」

 

とはいえアバンも今からではどうしようもないと判断したようだ。ここまで来てしまったのならば、いっそ目と手が届く所にいてもらった方が何かと安全だろう。

加えてレオナに世話をお願いする辺り、アバンも色々と気を遣っているようだ。

 

「それともう一つお知らせです。皆さん、ここで足を止められたのはベリーナイスタイミングでした」

「……それはどういうことだ?」

 

ラーハルトが疑問の声を上げるが、アバンは返答の代わりにチウのことを手招きする。

 

「チウ君、えーっと……ここですね。ここまで来ていただけますか?」

「む? なんなんですか一体……??」

 

片手で手招きをしながら、もう片方の手では床のとある一部分を指し示す。何のことか分からぬまま、それでもチウはアバンに言われる通りの場所へと移動した。

 

「ひいぃぃっ!!」

 

途端、一本の剣がチウ目掛けて凄まじい勢いで飛び出す。

 

「ちぇいっ!」

 

反射と恐怖でチウは叫ぶが、アバンはむしろ余裕すら感じさせながら腰から剣を抜くと、あっさりと弾き飛ばして見せた。

 

「――とまあ、おそらくここから先には、このように罠が仕掛けられているはずなので。ご注意くださいね」

 

一部の者はその罠に見覚え――いや聞き覚えというべきか?――があった。キルバーンの仕掛けていた死の罠の一つで、確か♥の2(ハート・ツー)と呼んでいたものだ。

あの罠ならば単純明快、来ると分かっていれば対処は難しくない。

 

なるほど、随分と乱暴なやり方だがアバンは注意を促す意味でも実演させたのだ。

 

一応アバンの名誉のためにも言っておくが、彼は罠の存在を見破り自分一人でも対処できるという余裕を持った上で敢えて発動させたのだ。

さらにはバランも罠の存在に気付いており、いつでも飛び出せる状態で待機していた。アバンとバランという二人の守りは容易に突破出来るものでない。

加えて罠自体もチウほど小さな相手が引っ掛かることは想定しておらず、彼が少し頭を下げれば充分に避けられたということも記載しておく。

 

罠の存在に気付いたアバンにも驚かされたが、チルノにはもっと驚くことがあった。

 

「えっ!? アバン先生、その剣は!?」

「ああ、これですか? ロン・ベルクさんに作っていただきました。まさか私の分まで作っていただけるとは思いもよらず……ただただ驚きましたよ」

 

アバンが手にした剣は、彼女が知識として知り装備しているはずの物よりも数倍光り輝いていた。まさかと思いながら問えば、彼はあっさりと肯定する。

 

「それにオリハルコン製の剣なんて流石に私も手にしたのは初めてです。なんだか若い頃に戻ったようにウキウキしてきますね」

 

いつの間にそんな物を仕込んだのか。もっと言えば素材はどこから持ってきたのか。色々と気になる点はあったのだが、子供のように目を輝かせるアバンの姿にチルノはそれらの疑問を飲み込んだ。それに、今さら聞いたところでどうとなるわけでもない。

 

――その一方。

 

「チウ、大丈夫?」

「ピィーッ?」

 

驚きのあまりひっくり返り、目を白黒させるチウをマァムらが心配そうに見下ろしていた。かすり傷一つ負っていないので放置していてもその内起き上がるはずだが、それでも気に掛けるのは同門のよしみというものか。

 

「ははは、なんのこれしき。か、かわすこともできましたが、はじいてくれることはわかっていましたからね」

 

必死でそう言うが強がっているのは誰の目にも明らかだった。まあ、前知識無しで突然死にかけたのだから当然だろう。むしろ弱音を吐かず、アバンに文句の一つも言わないその姿勢は称賛にすら値する。

 

「いやいやチウ君、驚かせてすみません。ですが、実際に目で見ていただくのが一番確実だと思ったので」

 

チウが上体を起こしたところで、アバンは頭を下げながら謝罪する。

 

「そして先ほども言いましたが、この先には罠がたっぷり仕掛けられているはずです。ですがそれを恐れて歩みを遅らせるのも都合が悪い。よって、この必殺のアイテムを使います……」

 

神妙な面持ちを覗かせながらアバンは道具袋を漁り、やがて――

 

「でゅわっ!!」

 

――というかけ声と共に眼鏡を掛け替えた。

 

その見た目は瓶底眼鏡のようにレンズは分厚く、しかも何の意味があるのかご丁寧に渦巻き模様までが描かれている。横には立派な角が飾られており、誰かに「コレは呪いのアイテムだ」と言われればうっかり信じてしまうほどの格好悪さだ。

 

「破邪の迷宮で手に入れたこのミエールの眼鏡は、いかなる罠をもズバリ見抜いてしまうアイテムなのです! ですから先頭は私にお任せください!!」

 

極めて真面目な表情で自身の存在感をアピールしているのだが、ミエールの眼鏡を掛けているために色々と台無しである。ましてやアバンという二枚目の男が付けているのだから、そのギャップが生み出す破壊力たるや凄まじいものがある。

何より、アバン本人がそうすればウケると理解しているのだから始末に負えない。

 

ダイたちは自分の頬を必死で抓りながら我慢しているが、それでも僅かに吹き出してしまう。あのバランやラーハルトすら顔を背けたのだから、それがどれだけの破壊力だったかは想像に難くないだろう。

 

 

 

 

 

とあれアバンの先導によって一行は再び進み出した。

道中の罠は先導するアバンが注意するため、罠の意味を為さない。

簡単に解除できるものや、解除せねば確実に誰かが引っ掛かる罠だけは解除しながら進んでいるため、進行速度はそれまでと比べても少し劣る程度だった。

 

「罠を解除する際に最も大切なのは、仕掛けた側の心を読むことです」

 

罠の解除をしながら、アバンはこんなことを話し始めた。

 

「例えばワザと簡単に発見できる罠を仕掛けておくことで、本命の罠の存在を隠す……同じ場所に複数の罠があるわけがないという心理を利用するわけですね」

 

それは少しでも多くの者達に自分の教えを伝えておきたいという心からの行動だった。

 

「そして一度そのような罠に掛かると、疑り深くなるわけです。まだどこか他にも罠があるかも知れないと恐れて、動きが鈍くなる。追っ手の足止めなんかには有効な手ですよ」

 

アバンは言葉を濁していたが、もっとえげつない罠というのは存在する。

 

傷ついた敵を目立つ放置することで、より多くの敵を集めるための撒き餌にする。

などというのはまだ可愛い方だ。

捕らえた敵に毒や細菌を仕込んでからワザと目立つ場所で解放し、救出させる。救出された敵は敵陣深くへ勝手に招かれる上に、被害は内部から増大していく。

これもまた立派な罠の一つだ。

 

そして、罠というのは敵だけが触媒にされるという制限もない。場合によっては味方すら囮に使う場合もある。

心理の裏側に隠された意図を見抜いてこそ、超一流の罠と呼べるだろう。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

長い長い通路を抜け、主城入り口付近までダイたちは辿り着く。

 

「ウフフ、久しぶりだねぇ。勇者の諸君」

「…………」

 

そこに待ちうけるのは、大魔王軍最高幹部の二人であった。キルバーンは不敵に笑い、ミストバーンは無言のままであったが、その無言の仮面の裏側に凄まじい怒気を隠し持っているのが伝わってくる。

 

「そしてキミがかつての勇者アバン君か……せっかくボクが考えた歓迎の仕掛けをことごとく壊しちゃうなんて、まったくなんて酷いことをするのさ」

「いえいえ、そんなことはありませんよ。あなたの罠は中々考えさせられました……色々と(・・・)ね」

「へぇ、色々と(・・・)ねぇ……」

 

既に普通の眼鏡に掛け替えているのでシュールな笑いは起こらない。死神の言葉にアバンは含みを持たせながら応じれば、キルバーン当人はさも面白そうに笑って見せた。

 

「キル、そのおしゃべりはまだ続くのか?」

 

だがミストバーンからすればそのやりとりなど面白い物では無い。不機嫌そうな言葉と共に自らの身体から暗黒闘気を立ち上らせると、ヒュンケルたちも呼応するように各々が武器を構える。それを横目に見て、チルノは再び驚かされた。

 

――みんなもオリハルコンの装備を!? 一体どこから……ううん、今はそれ以上は考えない! 強さが底上げされたことを素直に喜ぼう!!

 

アバンに引き続いたオリハルコン装備の登場に、彼女の意識は度肝を抜かれる。だが流石に二度目ともなれば自制するのも容易いものだ。すぐさま視線を切り、敵へと意識を向ける。

 

「そうだね、ゴメンゴメン……それじゃあ、始めようか?」

 

その言葉が引き金だった。

なんの予兆もなく戦場の中央が突如して爆発を起こし、突然の出来事に全員の集中が乱される。

 

「それは開始の合図代わりさ!」

 

そう言うが早いかキルバーンは動き出し、そしてミストバーンも僅かに遅れて動く。ダイたちも敵側に初動こそ遅れたものの、数の利を活かすため敵を分断するように動いた。

キルバーンを相手取るのはダイ、バラン、チルノの三名。そしてミストバーンには他の者達が向かい、レオナだけは戦場全体を見渡せる位置へと陣取るとチウとブロキーナが彼女の護衛をするように並ぶ。

 

それは彼らが初めて死の大地へと侵攻した際とほぼ同じ組み合わせだった。

 

 

 

 

 

「やあチルノ、久しぶりだね。元気だったかい?」

 

旧知の親友との再開でも果たしたかのような気安さで、キルバーンは声を掛ける。だが当然ながらチルノはその言葉を黙殺する。

何かを企んでいる以上、用心をするに超したことはないからだ。面と向かってではないもののバーンに反旗を翻している以上、死神がどのように動くかはイマイチ予測が付かない。単純に考えればミストバーン打倒に協力しそうなものだが、その裏があることも考えられる。

 

「その服、まだ着てくれているんだね。気に入って貰えたかな? キミに合わせて特別にコーディネイトした物だから脱がれたらどうしようかって気にしていたのさ」

「うるさい!!」

 

だがキルバーンは黙殺されてなおも言葉を投げかけ続けた。さながら軽薄なナンパ男のようなその言動と、なにより仕方なく着ている服を褒められたことが少々頭に来てしまい、思い切り睨み付けながらチルノは怒鳴る。

 

「そんなに邪険にしなくてもいいじゃないか。キミは裸だってボクに見せてくれた仲だろう?」

「な……っ!!」

 

その言葉に今度こそチルノは無視しきれなくなった。怒りと羞恥で顔を真っ赤に染めながら抗議代わりに魔法を放とうとする。

 

「うらあぁっ!!」

 

だがチルノが動くよりもダイが動く方が遥かに早かった。ダイの剣を抜き放つと、キルバーンを両断しようと力任せに剣を振るう。その攻撃には、今まで見たことがないほどの怒りと殺気が満ちあふれていた。

 

「おお、怖い怖い。旦那さんのお出ましだね」

 

流石にキルバーンも予測していたらしい。ひらりと間合いを取りながら回避してみせる。

 

「ダイ!! あれは、その、違うからね!! 見られたのは事実だけど、変なこととか全然ないから!!」

「落ち着けディーノ。焦れば敵の術中にハマるぞ」

 

チルノは慌てて釈明の言葉を飛ばし、バランは息子の成長を感じさせられつつもいつでも援護に動ける位置へと付いた。

いつぞやも見たような三名の並びを目にして、キルバーンは一枚のトランプを手にする。

 

「悪いけれどボクは弱いんだ。キミたち相手に正面から対決なんて遠慮させて貰うよ……そらっ!!」

 

そのまま天高く放り投げると、トランプは光に包まれ四散した。だがバラバラになったそれらはまるで流れ星でも見ているかのように尾を描きながら動くと戦場の四隅へと降り注ぐ。

 

「うわっ!」

「む、これは……!?」

「うう……」

 

途端に一面が吹雪が吹き荒れた。氷系呪文(マヒャド)を唱えたかのように雪と氷が乱舞し、身を切るような寒さを伴った突風が吹き荒れる。

 

♠の5(スペード・ファイブ)の罠さ。これだけ寒ければ(ドラゴン)の騎士と言えども動きは鈍るはず……フフフ、氷像にならないようにお互い注意しないとねぇ」

 

その言葉は半分ほど当てはまっていた。

人間ならばともかく、キルバーンは魔界のマグマをエネルギー源とする人形なのだ。超高温の血が流れる以上この程度の吹雪など苦にもならない。

そしてダイとバランも例外の一人だ。彼らは己の竜闘気(ドラゴニックオーラ)によってこの程度の攻撃など容易に弾いてしまい、足止めにすらならない。

現に――猛吹雪で視界が不鮮明ではあるものの――ダイらしき影が攻撃を繰り広げている姿が見える。

 

「…………」

 

ならば一体何が狙いなのか。少し離れた場所から大暴れする雪を眺めつつ、チルノは思考を巡らせる。

 

――そういえば、アバン先生が「罠は仕掛けた者の心理を読め」って言っていた。それにキルバーンはこんな単純な罠を使うような性格じゃない……だったら、この吹雪も何かの罠……!?

 

 

 

 

 

「死ね、闘魔滅砕陣!!」

 

ミストバーンは地面に蜘蛛の巣のように暗黒闘気の糸を張り巡らせると、アバンら目掛けて放った。触れれば即行動不能となるミストバーンの得意技だが、今の彼らがその程度で止まるわけもない。

 

「甘いっ!」

「ぐ……っ!!」

 

ラーハルトは持ち前の速度と跳躍力を活かして易々と飛び越え、すれ違いざまにミストバーンへ槍を一閃させる。咄嗟に鋼鉄の指を剣状に揃えて伸ばし刃を形成することで受け止めたが、強化された槍は容易に切断する。

 

「そこです! 空裂斬!!」

 

動きが鈍った所を突いてアバンが地面の一点へ向けて空裂斬を放った。核となっている箇所を打ち抜かれ、滅砕陣は瞬く間に効力を失っていく。そこに切り込んでいったのはヒュンケルだ。

 

「はあああぁぁっ!!」

 

さながら無人の野を行くように無人の野を行くかのように悠々と間合いを詰め、光の闘気を込めた剣を突き出す。ミストバーンは何とか身を捻って直撃を避けるが、衣の一部が貫かれ暗黒闘気が漏れ出ていく。

 

「ちっ、ヒュンケル!」

「ミストバーン……」

 

未だ攻撃の機会は残されていたはずだが、けれどもヒュンケルはそれ以上の追撃を行わなかった。動きを止めたまま何かを確かめるように忙しなく視線を動かす。

 

「どうしたヒュンケル?」

「……いや」

 

あまりの不可解さにラーハルトが声を掛けるが、ヒュンケル自身その何かを口にすることが出来ずに言葉を濁す。その隙にミストバーンは切断された鋼鉄の指を再生し、デストリンガー・ブレードを生み出す。

 

「はっ!!」

「小娘!」

 

マァムの連撃をブレードを使って受け止めやり過ごしていく。だが彼女の装備ももはやオリハルコンのそれだ。一撃一撃を受け止める度に鈍い音を立てながらじわじわと罅が刻まれていく。

やがて、何度目かの攻撃の後にマァムは大きく退いた。

 

「ぬおおおおおぉぉっ!!」

 

彼女と入れ替わるように、クロコダインが躍り出る。彼もまた、ダイたちと比べれば未熟なれど光の闘気を操る訓練は積んでいる。豪腕から繰り出される戦斧の一撃は、直撃すればミストバーンとてダメージは必死だ。

 

「邪魔だっ!!」

「ぐうっ!!」

 

だが圧縮した暗黒闘気を地面へ叩きつけるように放ち、炸裂させることでミストバーンはその攻撃を回避する。目眩ましと衝撃を利用した移動補助を兼ねた行動だった。

それは狙い通りにクロコダインの視界を遮り、斧が振り下ろされた時にはその場には影も形もない。好機を掴み損ねた形となったが、まだ彼らの連携は終わったわけではなかった。

 

「はっ!!」

「アバン!!」

 

連続攻撃の隙間を縫うようにして接近していたアバンが、これこそ本命とばかりに攻撃を繰り出した。再び光の闘気を纏った剣の一撃を、ミストバーンは両手のブレードにて十字に受け止めることで止める。

奇妙なつばぜり合いの形が生まれた中、アバンは唐突に口を開いた。

 

「あなたがミストバーンさんですね? 自己紹介でもしようかと思いましたがそれは不要のようで、手間が一つ省けましたよ」

「…………」

 

それは殺し合いの最中にしては恐ろしく不釣り合いな、世間話のような内容。そのミスマッチさが恐怖すら煽っていた。

 

「そしてもう一つ、あなたにはお礼を言わなければなりませんね」

「礼、だと……?」

「ええ。ヒュンケルを救い、育てていただいてありがとうございます」

 

たっぷりと皮肉の込められたお礼の言葉。同時にアバンの剣から恐ろしい程の圧力が掛かり、ミストバーンの腕が僅かに押し込まれた。

 

「ですが、あなたの教育方針には色々と不満がありまして……その責任は、しっかり取って貰いますよ!!」

 

アバンにしては珍しく、激しい怒りを見せながら剣を押し込んでいく。よもやというところで周囲を猛烈な吹雪が包み込んだ。

 

「これは!?」

「なんだこの吹雪は!?」

「ごめんよミスト! これはボクの仕業さ!!」

「ちっ、キルのやつめ……」

 

白い嵐の向こう側から届いた死神の声に対し、ミストバーンは舌打ちをしつつも僅かに感謝の念を送る。この吹雪によってアバンの攻撃の手が緩み、おかげで身を退いて仕切り直す事が出来た。

怪我の功名でしかなく、褒めるような真似は間違ってもしたくない。

 

「くそっ!! 舌打ちしたいのはこっちの方だぜ……」

 

アバンらがミストバーンに襲いかかる中、ポップは少し離れた場所から一撃必殺の機会を窺っていた。

何しろ彼の持つ極大消滅呪文(メドローア)は、直撃させることが出来ればオリハルコンの塊だろうと大魔王であろうと敵ではない。上手く放てばミストバーンを完全に消滅させ、加えて彼が守っている全盛期のバーンの肉体も同時に消し飛ばせるのだから、大金星を得られる。

 

だがその狙いは、猛吹雪によって困難になる。視界がかなり制限され、下手すれば味方に誤射しかねない。

せっかく予想外にミストバーンが追い詰められていたことで好機と思っていたのに、だ。

チルノが魔王軍に捕まったことで、極大消滅呪文(メドローア)のことは知れ渡っているはず。ならばこの吹雪は、射線を遮るための罠の一つか?

寒風吹きすさぶ中、ポップは機会を狙う。

 

 

 

 

 

「おっと、どうやら予定外に早く終わっちゃいそうだね。なら、こっちも急がなきゃ」

 

ダイとバランに攻め込まれながらも、キルバーンは戦う意志をまるで見せずにいた。ただひたすら回避に徹し、戦場を逃げ回り続ける。それは罠に誘い込む動きに感じられ、ダイたちも強気な攻めに出られなかったのだが、やがて死神は逃げるのを止めると、誰に向けるでも一人ごちる。

 

「ねえキミたち、この吹雪の罠の名前は覚えているかな?」

「……♠の5(スペード・ファイブ)だったか?」

「正解、良く覚えていたね」

 

唐突な質問を投げかけられ、訝しげになりながらもバランが答えれば、死神は軽い拍手で応じた。

 

「でもおかしいとは思わなかったかい? これは四隅から吹雪を生み出す罠、なのにどうして(ファイブ)なのか……四方を囲むだけならば(フォー)でも良いんじゃないかって、さ」

 

トランプの5のカードは、四隅と中心部にスートマークが描かれたデザインだ。だが現在吹雪は四カ所から発生している。気にならないと言えば気にならないのだが、キルバーンの言うように剥離がある。

 

「……まさか!」

「答えはこういうことだよ!」

 

全員の脳裏に悪寒が走り、自然と戦場の中心部へと視線を走らせた。そこにはミストバーンを相手にする仲間たちの姿があった。と同時に吹雪は止み、強烈な風が生み出される。

 

「うわっ!?」

「ぐ……っ!」

「何事だっ!?!?」

 

全てを巻き込む程の暴風はアバンらを巻き込んでなおも吹き荒れ、ミストバーンの周囲にいた者だけを(・・・・・・・・・)弾き飛ばす。不鮮明だったはずの視界は一気に開け、そこでは唯一ミストバーンだけが、まるで台風の目の中にでもいたように棒立ちしていた。

 

「さあ、どんどん行こうか!? ♠の7(スペード・セブン)!」

 

敵味方を含め全員が、何が起きたのかを理解するよりも早く、キルバーンは次の罠を発動させる。

次の罠によって生み出されたのは、ドロドロに溶けた飴のような液体だった。それは再び戦場の中心部――すなわちミストバーン目掛けて降り注ぎ、彼の身体目掛けてまるで意志を持つように絡みついていく。

 

「ぐっ!? これは……」

 

当然ながら、飴ではない。その正体は高熱によってドロドロに溶けた金属だった。加えて何か呪術的な処置を施されているのだろう。ミストバーンに付着した途端に凝固していく。関節部分を固められ、瞬く間に動きの自由が奪っていった。

 

「キル!! キサマ何の真似だ!?」

「ボクの立場を考えればわかることだろう? それ以上の説明が必要かい?」

 

半身ほどを金属像へと変じさせながらも、ミストバーンは叫ぶ。だが返ってきたのは、いかにも機械的で冷たい声だった。

それを耳にして彼は悟る。

ミストバーンが危惧し、バーンへと訴えた裏切りの罠。それが今発動したにすぎないのだということを。このまま全身を金属で固めて動きを封じ、戦力外とするのだろうと。

 

「なるほど、これがキサマの狙いか。だが使う罠を誤ったな! この程度では私は止まらん!!」

「だよねぇ、知ってたさ。だから……♣の10(クラブ・テン)!」

 

だがそんなことはキルバーンとて百も承知。彼は対ミストバーンのためのもう一つの仕掛を作動させる。

三度中心部が蠢き、罠が襲いかかる。今度のは吹雪でもなければ、溶けた金属でもない。

降り注いだのは完全な液体だった。

 

「ぐおおおおおおおぉぉっ!?!?」

 

珍しく――とても珍しく、ミストバーンは苦痛の悲鳴を上げた。暗黒闘気の集合体である彼には物理攻撃など意味を為さない。酸で幾ら溶かされようとも影響があるわけでもないし、ましてや彼が守る中身は凍れる時の秘法で守られているはずだ。

それがどうして? とミストバーン本人が最も驚愕していた。

 

「それは特殊な酸でね。キミも知っているだろう? 誰しもが気分を害するあれだよ」

「が……ががが……っ……!!」」

 

苦痛の最中に聞こえた声で理解する。

魔界からときおり出土される酸の中には、嗅げばどのような強者であろうと誰しもが体調を崩す特殊な物があった。強烈な臭気に襲われることがその原因だと思われていたが、その実は揮発した毒素の中に生物の反応を狂わせるものが含まれている。思考を乱し、生体機能に影響を与えるそれは、生物に内在する闘気をも散らせる効果をもつ。

ミストバーンにも有効な劇毒だった。

 

「よかったよかった、ちゃんと効果があるようで何より」

 

酸の有効性を自ら確認して、死神は満足そうに頷く。

 

むしろこの状況に着いていけないのは、ダイたちであった。

キルバーンを相手にしていた者たちからすれば、突然そっぽを向かれて仲間割れを始めたようなもの。だがそれはもう一方の強敵を間違いなく害する行為でもあるため止めにくい。

そしてミストバーンを相手にしていた者たちには、突然戦況をかき乱されたかと思えばあれよあれよという間に好機がやってきた。

 

「さあ、魔法使いクン。出番だよ」

 

多くの者がぽかんとしているなか、キルバーンはポップに目を向ける。

 

「どうしたのさ? キミだって知っているんだろう? なんとかって呪文があれば凍れる時の秘法を無視して倒すことが出来るんだよ」

「くっ……!!」

「大手柄を上げる絶好のチャンスだ。今を逃してもいいのかい?」

 

思わずポップは歯ぎしりする。

その言葉は抗いがたい魅力を持っていた。

確かに今は絶好の機会であり、ミストバーンはどう見ても無防備だ。だがそれすらも罠かも知れないという恐れと、なによりも敵にお膳立てられて手柄だけをかすめ取る事に対する気持ち悪さが胸中から拭い去れない。

 

仲間たちが無言で見つめる中、だが結局ポップは氷炎から光の弓矢を生み出すことを選択した。

 

「……極大消滅呪文(メドローア)!!」

 

ポップの両手から光の矢が放たれる。

 

それは動けずにいたミストバーンの肉体を狙い違わずに貫き、消滅させた。

 

 




思い出したかのようにチウらの描写をする私。
キャラの管理が追いつかないってばよ。影分身の術が欲しいってばよ。

ミストバーンにメドローア直撃。
よし、これで後の展開が格段に楽になりましたね。

今回のキルバーンの罠
・スペードの5
 吹雪の罠。スペードは冬の意味もあるので。
 本来は狭い範囲で、フレイザードの氷漬けの禁呪法みたいな効果を出す。
・スペードの7
 溶けた金属をぶっかけて固める罠。某トランプの効果から。
・クラブの10
 酸の罠。ミストバーンの動きを更に制限するための適当なでっち上げ。
 一応、10の絵柄は一番広がっているので気体や液体を連想した程度。

二つの罠でミストは「煮え湯(金属)を浴びせられ、辛酸を舐めた」というオチ。
お後がよろしいようで。
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