隣のほうから来ました   作:にせラビア

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キル「永続罠カード【吹雪】を発動! 吹雪をリリースして効果を発動! 続いて罠カード【金属】を発動! さらに罠カード【酸】を発動! 魔法カード【極大消滅呪文】を発動! ……これでボクの勝ち、だね」

前話は大体こんな感じ。



LEVEL:109 身代わり

「くっ……!! くくくく……あーはっはっはっはっ!!」

 

 極大消滅呪文(メドローア)によって消し飛ばされたミストバーンの残骸を眺めながら、キルバーンは狂ったように笑い声を上げていた。

 かつての盟友でもあった存在は今や人の形を為してはおらず、残ったのは首から上と両腕、そして腰から下の部分くらいか。つまるところ、胴体部分が丸々消えて無くなったことになる。

 

 だがミストバーン一人を打ち抜いた程度では極大消滅呪文(メドローア)が止まることはない。全てを消し去る光の矢は更に主城一階の壁を消し飛ばして大穴を開け、そのまま反対側までをも貫通すると虚空の彼方へと消えていった。

 

「残念だよ、ミスト……これでキミとお別れなんてさぁ……あれ、でもキミの本体はこのくらいじゃ消えないのかな?」

 

 ぽっかりと綺麗な穴が開き、風通しの良くなった居城を視界の片隅に納めながら、キルバーンは残ったミストバーンだった物に声を掛ける。

 正体が暗黒闘気の集合体である以上、ミストバーンには五体などあってないような物だろう。腕を失おうと身体を失おうと影響はないはずだ。例えそれが全てを消滅させる呪文によって吹き飛ばされたとしても、残った部分の暗黒闘気で補えばそれで済むことだ。

 

「まあ、いいや。どのみちキミが守っていた物は綺麗さっぱり吹き飛んだ。如何に大魔王の持つ力が強大でも、胴体全部消えちゃったら復活は不可能だよねぇ?」

 

 だが大魔王バーンは違う。

 バーンの魔法力ならば、例え片腕を失っても即座に再生することができる。本来の歴史ではライデインストラッシュの直撃を受けて全身黒焦げとなってもなお、あっさりと復活してみせたこともあった。

 それでも、如何に魔族の肉体――それも神のような実力を誇るほど強力であっても、内臓全てを失っては再生など出来るはずもない。

 

「これでバーンは永遠に全盛期の力を取り戻すことは出来ない!! これは完全勝利への大きな一歩だよ!!」

 

 完全に勝利を確信し、まだ戦いそのものは終わっていないというのにまるで芝居の役者にでもなったかのように大げさな身振りすら加えて、キルバーンは天に向かって吠える。

 だが彼が気をよくする一方で、完全に消沈する者もいた。

 

「…………」

 

 ポップである。

 彼はしばらくの間、極大消滅呪文(メドローア)を放った体勢のまま身体を硬直させ続け、まるで何が起こったのかが理解できなくなったかのように呆然と立ち尽くしていた。表情は感情が抜け落ちたように蒼白となり、何にも反応を見せることはなかった。

 

 しかし、それもやがて終わる。死神の笑い声が響く中、彼は不意に膝から崩れ落ちた。

 

「ポップ!!」

「マァムか……おれは……おれは間違ってないよな?」

「え……っ!?」

 

 慌ててマァムが駆け寄り身体を支えたことで、それ以上倒れ込むことはなかった。その代わり、今まで見たことのないような、まるで幽霊のような声と顔をしながらポップはマァムに尋ねる。そのあまりにも力ない様子を間近で見てしまい、彼女は驚きのあまりすぐに返事をすることが出来ずにいた。

 

「ポップ」

「…………」

「先生……ヒュンケル……」

 

 少し遅れて寄ってきた仲間たちの顔を、ポップは不安そうに見つめる。

 

「当たり前だ。倒せる時に敵を倒す、それがどうして間違っている?」

「勿論ですよ。あなたは間違ってなどいません」

 

 明らかにお膳立てされ過ぎた場面。それも敵と考えていた相手にそんなことをされた上にトドメだけを持って行くのは、彼の矜持が許さないのだろう。

 それを必要なことと割り切れないのは、ポップ自身の若さ故のワガママなのかもしれない。例え、今やこの世界でもトップクラスの大魔道士となっても、そういった潔癖さが見え隠れしている。こればかりは経験か年月を重ねる以外にはない。

 ポップの心中を慮りながら、二人は答えた。

 

「そうだ。少々腹立たしいのは事実だが、お前の手柄であることには違いない」

「もしも気に病むというのならば、味方の裏切りに気付かなかったミストバーンが間抜けだっただけだ」

「その通り! 裏切りは許せないが、魔法使いクンは良くやったぞ!!」

「……ありがとよ」

 

 クロコダインにラーハルト、チウまでもが口々に言葉を掛けていく。彼らの言葉にポップはどうにか心を取り戻したようだ。少し目を逸らし、小さな声で一言だけ礼を口にする。

 その様子をアバンはかつて自分がハドラーを相手に戦っていた若かりし頃と重ねて懐かしく思いながら、だが年長者として悩める生徒(ポップ)を導くべく新たな道を示す。

 

「皆さんの言う通りですよ……それに、報いを受けさせる相手はまだ存在しています。足らない分は、彼に払って貰うことにしましょう」

 

 その視線の先にいたのはキルバーンだ。さすがにもはや笑うのにも飽きたのか平静な態度を見せていたがアバンの所作を見るや、さも今気付きましたとばかりの様子を見せると、肩をすくめた。

 

「おやおや、ボクの相手をしていいのかな? ボクは言うなれば功労者の一人だよ? ボクがいなければミストは倒せなかった。そんなボクを倒すっていうのかい?」

 

 心外だとばかりにポーズを決めるその姿は、どこから見ても道化師のそれだ。語る言葉も命乞いと自分は仲間だと訴えかけるような主張。それは逆に全員の神経を逆撫ですると理解した上での行動だ。

 

「それに、まだ大魔王は消えたわけじゃない。本体が残っているのはキミたちだってわかっているだろう? なのに、ボクの相手をして余力を消費してもいいのかな?」

「ですが私にとってはあなたも倒すべき敵の一人。何より、卑劣な罠で不意打ちをしておきながら調子の良いことを言わないでもらおうか」

「敵討ちのつもりは毛頭ないが、ミストバーンはオレの手で引導を渡すつもりだった。せめてその代わりになれ」

「そうだぜ! 次はテメェに極大消滅呪文(メドローア)をぶち込んでやらぁ!!」

「ウフフ……これは困ったねぇ……」

 

 キルバーンは実に愉快な口調でアバンたち全員を見回す。全員が全員、血気に逸る様子を見せており今にも飛びかかってきそうなほどだ。

 その全ては、彼の計画通り。

 愉悦に歪む口元を隠そうと片手を上げたところで、耳慣れぬ声がどこからか響いた。

 

「なるほど、これがお前の狙いだったか……キル」

 

 途端、それまで考えていたことの全てを放り出して死神は辺りを見回した。

 なぜならば聞こえてきたのは明らかに聞き慣れた口調でありながら、初めて耳にする声なのだから。

 

 

 

 

 

「私を封印する策でも練っていたかと思っていたが、まさか勇者共の力まで利用するとは。キサマには恥という感情はないのか?」

「ミスト……生きていたんだね」

 

 僅かな逡巡の時間こそあれど、キルバーンにはすぐさまその声の主の検討がついた。とはいえ、口ではそう生存を喜ぶような文句を言うものの、あのまま消えてしまえばよかったのにという本心が見え隠れしている。

 

「このくらいでは死なない、それはキサマが言っていたことだろう?」

「ウフフ、確かにそうだったね」

 

 裏切った者と裏切られた者の関係性になったというのに平然と会話を続ける二人の様子は、なんとも異質な雰囲気が漂っていた。

 初めて耳にしたミストバーン本人の声色と、それをすぐさま聞き分けたキルバーン。そして前述の異質さに呑まれ、ダイたちは動けない。

 

「でも、生きていたにしても死んだふりを続けていた方が良かったんじゃないかな?」

「ほう……それはどういう意味だ?」 

「如何にキミがバーンから重用されていても、これは見過ごすことの出来ない大失態だってことだよ。処刑は免れないさ」

「大失態……?」

 

 まるで心当たりがないが、何かやらかしたか? と問うような言葉を投げかけるミストバーン。その姿をただの虚勢と判断したキルバーンは、彼を更に追い詰めるべく言葉を紡いでいく。

 

「そうさ。キミだって分かっているのだろう? それとも、そんな簡単な現実すら認められなくなっちゃったかな?」

「ならば教えてくれキル。私が何時、一体どんな失態を演じたというのか」

「それは勿論――」

 

 続く言葉を言おうとして、死神は何かを思いついたように動きを止める。

 

「――まさか!?」

 

 そして脱兎のごとく駆け出すと、ミストバーンであったものの残骸。その頭部を拾い上げ、フードを引きちぎるように乱暴に剥ぎ取り、そして驚愕した。

 

「こっ、コイツは誰だ!? どういうことなんだ!!」

 

 その下から浮かび上がってきたのは、かつてキルバーンが幾度か目にしたことのある全盛期のバーンの顔ではない。厳つい見た目の男だった。肌の色からそれが魔族であるということは容易に想像が付く。既に消滅しているために想像することしか出来ないが、残った部分からも筋肉質に感じられ、猛将と呼ばれるような立場だったのだろう。

 とはいえ今は完全に精気を失っており、物言わぬ死体でしかない。加えて、ミストバーンはすでにこの肉体から去りどこかに隠れているだろう。暗黒闘気の片鱗すら感じない。

 

 驚き様はダイたちにとっても同じ事だった。ミストバーンはバーンの肉体を操っているのだとばかり思い込んでいたため、その結果に言葉を失う。

 

「それは特別に用意した仮の宿だ」

 

 再び出所(でどころ)の分からぬ声が響く。

 キルバーンはこの男を見たことがなければ、一切の素性にも興味がない。ただ、ミストバーンのその言葉から何があったのかは容易に推察することができた。

 答えは単純明瞭、バーンの肉体からこの魔族の男へと操る対象を変更して、今まで戦っていたに過ぎないということだ。

 

「そうか、あの時感じた微かな感覚は……」

「……これが原因か」

 

 キルバーンとヒュンケル、二人が異口同音に同じような言葉を口にした。

 二人ともミストバーンをよく知る者同士。直接会って感じた、気にするほどでもないような小さな違和感。よく知らぬ者ならば疑問に思うことすらなく見落としてしまうほどの些細な変化を、彼らは鋭敏に感じ取っていた。

 

「キル、お前の考えなどバーン様はお見通しだったよ。先日の進言といい、この場所で待ち構えるよう私に提案したことといい、上手く行きすぎだと思わなかったか?」

「知っていて、泳がせていたってことかい?」

「……城内に泥棒が入り込み、我が物顔で歩いている」

 

 死神の疑問に、ミストバーンは答えることなく突然物語を語るように喋り出した。

 

「その泥棒は長年探し求めていた宝物の在処を突き止め、遂にその宝物に手を出すことを決意した。それを知った家主が、宝物を同じ場所に隠し続けると思うか?」

 

 それは現在の状況になぞらえた例え話だ。

 

「宝は同じ場所に隠されたまま……そう考え、ノコノコと姿を現した間抜けな泥棒は一体どうなると思う?」

「これはその偽物のお宝。そしてボクはその偽物にまんまと吊られた間抜けな泥棒ってわけか……ククッ」

 

 自嘲するような笑いを上げながら、身代わりにされた名も知らぬ魔族の頭部を握り潰さんばかりに力を込める。だがそれだけの握力を込めていながら、魔族の頭部は僅かにへこむことすらない。

 

「欲しければくれてやろう。偽物とはいえ手間は掛かっているのだ」

 

 影の身代わりを務めるのだから当然、生半可な仕掛けでは見抜かれる恐れがある。それを防ぐためにこの魔族には様々な処置が施されていた。まず、単純な戦闘力が無ければ話にならいため、比較的上位の実力を持つ者を選定。声や体型で悟られぬように肉体に物理的な改造を施した上で、一時的な凍れる時の秘法まで掛けてあるという念の入れようだ。

 数百年に一度の皆既日食を待たずとも、凍れる時の秘法は使えないわけではない。莫大な魔法力を用いて強引に術式を施すことは可能だ。ただそれはあくまで可能というだけであり、実用的というわけではない。効果は次の日食まで持たず、いつ自然と切れるとも知れぬ不完全な呪法。

 全ては偽物の罠として使うためのものであり、そう言う意味ではキルバーンのために用意されたものと言えなくもない。

 

「まったく、少々とはいえ痛い出費だったよ。そのため、補填が必要になってな」

「補填?」

「ああ、補填だ」

 

 どこから襲いかかってくるのかとキルバーンは周囲に目をこらす。だが、対象となったのは全く別の者だった。

 

「うわあああああぁぁぁっ!!」

「ダイ!!」

「ディーノ!?」

 

 物理的な効果を無効化する肉体を活用して、床の下を移動してきたのだろう。まるで煙か幻影のように突如として現れたミストバーンは、その闇のような腕をダイの中へ(・・)と伸ばしていた。自身の持つ、他者の肉体を乗っ取り操る力を行使するために。

 

「くっ! オレとしたことがダイ様を……!!」

「迂闊でした、キルバーンに意識が向きすぎていた……こんな初歩的なミスを犯すなんて……!!」

「ミストバーン! キサマはオレの身体をスペアとして欲していたのではなかったのか!? なぜオレを狙わない!!」

「ハハハハッ!! なるほどヒュンケル、身の程が分かっていたか。キサマにしては上出来……いや、チルノに聞いたか? まあそれはいい。確かにお前の身体を狙ってはいた。だが、それも今この場では話が別だ」 

 

 誰しもが口々に後悔の言葉を吐き出す中、だがダイが人質に取られているために迂闊に動くことが出来ない。唯一ヒュンケルだけは我が身を盾とするように挑発し、どうにか引き剥がそうと試みるものの、結果は芳しくなかった。

 

(ドラゴン)の騎士の力を持つ……それも、双竜紋(そうりゅうもん)などという途轍もない可能性を持つのだ。そんな存在を見逃すと思うか?」

 

 なぜならば、今この場で必要なのは最も危険な存在を潰すということだ。チルノの話からダイの凄まじい成長ぶりを聞かされていたミストにとって、最も警戒すべきはこの小さな(ドラゴン)の騎士。

 ならばこれを手に入れることが出来れば最強の駒となり、同時に驚異をも排除できる。ヒュンケルの肉体はその後でゆっくり手に入れれば良いだけのことであり、ミストバーンにとってみれば何よりも優先されるのはまず大魔王のことなのだ。

 

「ダイ君!! ああ、もう!! 何か、何かないの……!?」

「ピイイイィィィ!!」

 

 ダイの苦悶の声は戦場から少し離れたレオナたちにも届いていた。だが今の彼女たちにはどうすることも出来ない。ただ自身の知識と経験から、何か方策はないかと考えるだけだ。必死に知恵を巡らせながら、彼女はチラリと一瞬だけゴメちゃんの方を向き、だがすぐに頭を振って自身の考えを打ち消した。

 

――ダメダメ!! いくらゴメちゃんが凄いアイテムだからって、頼ってばかりじゃ何の意味もないんだから!!

 

「ピィ?」

 

 ゴメちゃんからすればレオナが急に謎の行動を取り始めたようなものだ。一体何があったのかと驚き、心配しながら彼女の顔を窺おうと場所を移動して――

 

「ピイイイィィ~~ッ!!!!」

「どうしたの、ゴメちゃ……っ!!」

 

 突如として叫び声を上げた。その表情はレオナを見て驚いているのではなく、そのもっと後ろの存在に驚いているようだった。反応からそれを察し、レオナもまた後ろを振り返ろうとして、そして絶句した。

 

「騒がしいな」

 

 何時の間に現れたのだろう。そこにいたのは、威厳に満ちた立ち姿の老人。

 

「だが、偶にはこうして一人で外を出歩くというのも一興だな。このような面白い場面に出会えるのだから」

「大魔王……バーン……」

 

 レオナは喉の奥からたった一言の言葉を絞り出すのに精一杯だった。

 

 




ミスト「甘いぞキル!! 私は魔法カード【闇の身代わり】を発動!!」

キルバーンやヒュンケルがミストバーンを見て一回だけ変な反応をしていたのは、中の人が違っていたから。よく知っていた彼らでも「気のせいかな?」と思う程度の微細な違和感だったわけですね。

ミストバーンの身代わりの人は6作目のデュランみたいなタイプの魔物を想定。人型だし強いし、良い感じかなと。でも描写する意味もないし、それ以前に正体が判明したときは死んでるので出番すらない(なので此処で設定を消化)

ヒュンケルではなくダイを狙うミストバーン。今この場ではダイを狙う。
そして大魔王様は「来ちゃった(てへぺろ)」しながら参上。

当初、色々とチルノさんに時の秘法を破らせる方法を考えていました。でも状況とやりたいことを整理していったら、策が不要になってしまった……
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