……あると思います。
あと、獄炎の魔王の2巻買いました。あの人に、あんな過去があったんですね。
(そして娘よりエチチチな若い頃のレイラさん)
アバンらとミストバーンが熾烈な戦いを繰り広げる一方、バランはラーハルトを従えてバーンの相手をしていた。ミストバーンを相手にするには光の闘気の力が必要不可欠であり、その扱いだけを見ればアバンやヒュンケルらの方が彼よりも一枚上手だ。
ミストバーンに支配された実子を救えないという口惜しさはあるものの、だがだからといってバランが出張っても出来る事は少ない。
ならば、と彼はダイの救出という大役をアバンらに任せ、自らはバーンの相手――足止めに近いことになるだろうとことは自らも理解していたが――を敢行する。
その戦いの火蓋が、切って落とされた。
「行くぞ、大魔王!!」
雄叫びにも似た声を上げながら、バランは
「笑止」
だが、高速で迫りくる火球に真正面から対峙しながら、バーンは微動だにすることはなかった。微笑を浮かべながら、まるで服についた埃でも払うかのように片手を軽く払う。たったそれだけの動作で、
迫っていたはずの炎はその全てをその場で燃え上がらせた挙げ句、弾け飛ぶようにして雲散霧消していた。
「余にその程度の呪文が効くと思ったか?」
悠々と語るバーンであったが、次の瞬間、余裕を見せつけていたはずの瞳が僅かに揺らいだ。
「はっ!!」
吹き飛んだ
ラーハルト本人の速度を持ってすれば、
奇しくもその緩急を付けた動きが自然の目眩ましとなり、バーンは反応を遅らせる。
「……チッ」
小さな舌打ちの声が響く。
見ればバーンの脇腹には裂傷が走っていた。突撃の勢いが上乗せされたラーハルトによる神速の刺突の一撃。加えて手にした槍はロン・ベルクによるオリハルコン加工が施され攻撃力が底上げされている。
その結果がこれだ。回避も防御も能わず、バーンの肉体は深く抉られる。
舌打ちだけで済ませているのは大魔王という立場に座する者としての矜持か。だが相当な激痛が走っているのだろう、その顔には余裕がなくなっており、眉間に皺が刻まれ渋面を浮かべていた。
手傷を負わせたラーハルトに反撃を行おうと視線を向けるが、既に相手は突進の勢いを使って距離を取っている。狙い澄ました一撃だけを与える見事な動きと呼んで良いだろう。
だが、このときバーンが注視すべきはラーハルトではなかった。
「何処を見ている!」
「!?」
ラーハルトが火球を隠れ蓑としたのと同じ要領で、今度はラーハルトを隠れ蓑としてバランが動いていた。バーンがそれに気付いた時には、既に回避不可能な距離まで近づかれている。
「くっ!」
仕方なくバーンは片腕を上げて防御を試みる。自身の暗黒闘気を集中させて受ければ、如何に真魔剛竜剣の一撃とて耐えきれるという目算があったからだ。
そしてバーンの予想通りバランが手にした剣は振るわれ、それを腕で受け止め――
「ぐうっ!! ……熱い、だとッ!?」
――悲鳴を上げた。
多少のダメージは覚悟していた。例え腕を切断されようとも
だがこの痛みは想定していない。
斬撃の痛みと、傷口が焼かれる痛みが同時に襲いかかられるのは、長き時を生きるバーンとて初めてのことだった。予期せぬ攻撃に思わず集中が乱れ、バーンの右腕は容易に両断された。
「魔法剣か!」
「ディーノは火炎大地斬と呼んでいたがな!」
だが片腕と引き換えに、バーンはその原因を即座に気付く。
おそらくは先ほど、
バランの代名詞とも言えるギガブレイクを使わず、このような搦め手を用いて攻勢に出てきたことにバーンは驚かされる。そして同時に「この攻撃は
「くっ……」
「させるか!」
思わず身を退きながら
特に失った右手の側への攻め手は容赦と言う言葉を忘れたかのような勢いだ。
「おのれ……っ!」
無視し得ぬ破壊力を持った攻撃にバーンは徐々に押されていく。片腕を失った今の状態では満足に防御することも叶わない。呪文を唱えようにも、それに集中するだけの僅かな時間すら与えられない。
「邪魔だっ!!」
驟雨のような攻撃にその身を晒されながらも、一発逆転と状況の改善を狙い苦し紛れの大振りを放つ。だがそのような底の浅い攻撃などラーハルトに通用するはずもない。
易々と見切られ、逆に多大な隙を相手に晒すことになった。
「貰ったぞ! 大魔王!!」
「おのれ!! バラン!!」
その隙に切り込んできたのはまたしてもバランであった。既に剣は放たれており、刃の軌跡はダイの放つ大地斬のそれと同じ。先ほどバラン自身が口にしていたように、真なる
真魔剛竜剣が纏う炎もバランの闘気に呼応するように気炎を上げており、バーンの腕を切断したときよりも緋色に輝いている。
「……っ!!」
攻撃を防ごうと反射的に腕を上げようとして、バーンは自らの過ちに気付いた。既にその腕はバランによって切断されており、今は存在していない。
「お、おおおおおおおおおおぉぉぉっっっ!!!!」
そのためまともな防御も出来ぬまま直撃をその身へ受ける羽目となった。真魔剛竜剣はバーンの肉体を切り裂いたところで、バランは剣に纏わせた炎を全て解放する。
斬撃の威力に加えて
あまりの熱さに、バランは距離を取る。術者であるバランがそれならば、中心部にいるバーンは果たしてどれだけの威力だったのかは、想像に難くない。
「やった、か……?」
「いや、油断するなラーハルト。大魔王がこの程度のはずがない」
どこか拍子抜けするような感じを味わう両者であったが、だがバランの目には一切の油断はなかった。射殺すような視線をもって、炎の奥を睨み付ける。
「だが手応えはあった。少なくとも無傷――」
そこまで口にした時だ。
炎の奥の人影が動いた。思わず言葉を止め、バランは注視する。熱による錯覚か何かだろうかという考えが瞬間的に頭を過るが、その考えはすぐさま否定された。
突如として火柱は真っ二つに裂け、人影は燃え尽きたように崩れ落ちる。そしてその奥からは――
「……どうした? 余の顔に何かついているか?」
「無傷だと……馬鹿な……」
――まるで何事もなかったかのように、大魔王バーンがその姿を現した。
あれだけの業火にその身を晒してしたというのに、身に纏うローブはおろか頭髪や髭といった末端部にすら焦げ跡の一つもない。両断したはずの片腕も、切り裂いたはずの胴体も元に戻っていた。
その姿に、バランは信じられぬ者を見るように呟いた。
「さて、仕切り直しと行こうではないか?」
「ハッタリに決まっている!」
「よせラーハルト! 迂闊だ!!」
闘気の片鱗を見せたバーンの動きに反応したように、ラーハルトが再び突撃を敢行する。バランの静止の声すら耳を貸さず、先ほど腹部を抉ったそれと同じような一撃を大魔王へと向けて放つ。
「…………」
「な、にっ!?」
だが今回の一撃は完全に空を切る。
見ればバーンの立ち位置が僅かにズレていた。つまり、ラーハルトの槍をチラリと一瞥しただけで見切り、最小限の動きだけでそれを避けたことになる。それを理解した途端、先ほどまでとはまるでレベルの違う動きにラーハルトの額に冷や汗が浮かぶ。
「くっ!!」
得体の知れない恐ろしさを感じてラーハルトは距離を取り直す。
「
だが大魔王はその動きにすら反応することはなかった。やれやれと両手を挙げるようなポーズを取ると、手の平の上に球体を浮かび上がらせる。それは魔力で生み出した物であり、バーンの魔法力によって自由自在に動く。
生み出されるのは、両手からそれぞれ一つずつ。
だが合計二つではない。
見ようによっては、道化師がボールジャグリングしているかのような光景だ。だが決してそんな幻想的な物では無い。中空に浮かぶのは、一発一発が
それらが一瞬のうちに視界を覆い尽くさんばかりに生み出されたのだ。さしものラーハルトとて反応できないほどの呪文の発動速度である。
「行け」
その短い一言を
「うおおおぉぉっっ!?」
「なんとっ!!」
触れれば爆発する球体たち。最下級であるはずの
「ごめんなさい!」
そう言いながらマァムはダイに
つい先ほど――ミストバーンに操られていたダイを助け出すためとはいえ――仲間に大技を仕掛けたのだ。勿論手加減はしていたが、
その場の勢いとは恐ろしいものである。
「い、いや、もう大丈夫だから……」
マァムの治療を受けながら、ダイはダイで顔を赤らめていた。
勇者だなんだと言われていても、お年頃の少年である。美少女のマァムに両脚で顔を挟まれて無関心でいられるはずもない。その一瞬の感触を無意識に思い出し、若干の後ろめたさを感じながら、治療も途中で逃げだそうとしていた。
なお、レオナが二人の様子を遠巻きに眺めており、全てを悟ったような意地の悪い笑みを浮かべているのは言わぬが花というものだろう。
「…………」
そして一方、ヒュンケルはミストバーンが消滅した跡を見つめ続けていた。
「ヒュンケル、貴方が気に病むことはありません」
「アバン……いや、そういうわけではない。ただ、因縁とでも言うべきか……オレの中の汚点を、ようやく少しは晴らすことができたのかと、そう思っていた」
弟子の背中から何かを感じ取ったのだろう。アバンが気遣うように声を掛ければ、ヒュンケルはそう呟いた。
ああ、なるほど。とアバンは理解する。どこまでも責任感の強い一番弟子の姿を嬉しく思いながら、師としての言葉を掛けようとする。
「ダイ! マァム! ヒュンケル! アバン殿! すまんがすぐに戦線に戻ってくれ!」
だがそれら感傷の心は全て、クロコダインの切羽詰まった叫び声によって強制的に中断された。
「バランが……!!」
続く言葉は、強烈な爆発音によってかき消された。
丁度バーンの
「えっ!?」
「なんだっ!?」
他の事に気を取られていた者が遅ればせながら声を上げる。が、その声も轟音にかき消されて他の者の耳には殆ど届いていなかった。彼らが目にしたのは、膨大な爆発の痕跡と立ち上った砂煙。
「ハァ……ハァ……」
「馬鹿、な……先ほどとは……桁がまるで、違う……」
やがて煙がゆっくりと晴れていくと、そこにはダメージを負ったバランたちの姿があった。鎧の魔槍に
「あれは、バーンの
「馬鹿いうなよおっさん!! あれが
「嘘ではない」
クロコダインが先に気付けたのは、ミストバーン討伐後にバランたちの戦いに気を払っていたからに過ぎなかった。そして彼が見たのも、大魔王が無数の魔力球を浮かべて放つ姿空であり、詳細を知っているワケではない。
「父さん!」
「来るなディーノ!」
思わず駆け寄りそうになったダイをバランは言葉で制した。
「大魔王は……バーンはどこかがおかしい……! その謎を解かねば――」
――全滅する。
バランはその言葉を飲み込んだ。下手に口にすればその瞬間に実現してしまいそうだったからだ。
本来ならばもう一人の
だが、今のバーンはどこかがおかしい。
かつて死の大地で竜魔人と化して戦った経験もあるバランだからこそ、その違和感は余計に大きく感じられた。確かに強いが、それに加えてあの時以上の恐ろしさがある。
つい先ほど、ラーハルトの槍に貫かれ真魔剛竜剣によって腕を切り落とされた者とはまるで別人のようだ。
「フ、フフフフ……役者が揃ったか。丁度良い」
バランの戦慄を余所に、ダイらの注目が集まったところでバーンは口を開いた。
「バラン、そしてダイよ。一つ問おう。貴様らはミストバーンの話を聞いて疑問に思わなかったか?」
「なに?」
「ぎ、疑問!?」
突然の言に、バランらは手を止める。
「本当に大事なものは、持ち主の目の届くところに置いておくものよ。そして万が一、他者が近寄ったとて危害が及ばぬよう、備えておくのもまた世の
「ッ!? な、何が言いたい……?」
「何が、か……とはいえ余は極一般的な話をしているだけだ」
心外だとばかりに嘆息しながら、バーンは言葉を続ける。
「宝物庫から鍵は消え、守護者も失せた。ならば、そこに眠る宝物を放置しておく馬鹿はおるまい?」
「……??」
大魔王の視線の先にはダイの姿があったが、問われたところで答えが出ることはなかった。先ほどと同じように、疑問符を頭の上に浮かべるだけだ。
「わからぬか? ならばもう少し遊んでやれば、回答に辿り着くやもしれんな」
「……まさかッ!?」
再び動きだそうとする気配を見せたところで、一人の口から声が上がった。
「ほう、気付いたか? 流石は勇者アバン、地上一の切れ者よ。余としてはもう少し楽しみたかったのだがな」
アバンが顔を青ざめさせながら、一つの結論を導き出した。バーンの言葉が果たして何を意味しているのか、その真意に気付いたからだ。
「ええ、つまりは――」
「よいよい、口にするな。興が醒める」
だがバーンはアバンの言葉を遮ってみせる。
「千の言葉よりも一見、この姿を見せる方が雄弁に語るというものだ」
そう口にすると、バーンの姿が揺らいだ。残像と錯覚するようにその姿は希薄になり、かと思えば突如ボワンと小さな爆発を起こした。白煙に包まれたものの、すぐに煙は薄れていき、やがて――
「そ……その姿は……!!」
「馬鹿な、ありえん!!」
「こ、これって!」
「まさか!?」
「やはり、か……」
「ふふふ……良い表情だ。散々と煮え湯を飲まされてきた貴様らがそのような顔を見せれば、溜飲も少しは下がろうというものよ」
――ダイたちは驚愕に目を見開かせていた。
誰一人として直接目にしたことは一度もないが、その容姿については全員が聞き及んでいる。頭の中で想像していたそれとよく似た姿形から、何が起きたのかだけは理解できる。そして、彼らのその反応に満足気に頷く男が一人。
全盛期の肉体を取り戻した大魔王――いうなれば、真・大魔王バーンの姿があった。
「なん……で……!?」
目の前の光景を否定するよう、どこか絶望にも似た声が放たれるが、それで大魔王が消えるわけもない。
老いた姿の頃には全身に刻まれていたはずの皺は一つもなく、その肉体は瑞々しさと活力に満ちあふれていた。ミストバーンが肉体を操っていた頃には感じ取れなかった、いわゆる精気に満ちあふれた状態だ。
長い髪や突き出た二本の角は老いた時のまま、だが蓄えられていた髭は綺麗に消えており、それが一層若々しさを後押しする。
それまでの儀礼用にも似た荘厳な装いから一転、動きやすい格好へと着替えている。体型すら覆い隠すようなローブの時には見えなかった肉体の様子が良く見て取れた。クロコダインやヒュンケル、ラーハルトと比較しても一切遜色がないほどに鍛えられた肉体からは、身体能力の高さが嫌が応にも窺える。
加えてその身から漂うのは、若者特有の無鉄砲にも似た熱い勢いと、年月と経験を重ねた者にしか纏う事の出来ぬ冷徹な老練さ。本来は決して相容れるはずのないそれらが、同時に伝わってきていた。
「……
「その通りだ」
アバンの言葉にバーンは一つ首肯する。
「つまり、我々の前に姿を現した大魔王はずっと姿を偽り続けていた。全盛期の肉体を取り戻しておきながら、老いた姿のまま欺き続けていた。違いますか?」
「騙していたわけではない。事実、キルバーンが何かを狙っていたのは明白であったからな。その何らかの策から余の肉体を守るため、万一の事を考えミストバーンには仮初めの肉体を与えた」
そこまではダイたちも知っている。ミストバーンが全盛期のバーンの肉体を守っているものという思い込みを利用した防衛策であり、何より本人の口からも語られた内容だ。
「だがそうなれば自然と、守り手がいなくなった肉体は無防備となる。凍れる時の秘法により外部からの手出しが出来る可能性は限りなく零に近いが……例外はあるからな。ならば引き続き、誰かが守らねばならぬ」
例外について今さら説明するまでもないだろうが、
「その役割を、余が行っていただけのこと。自分のものを自分で守る……真っ当にして至極当然のことよ」
そう口にしたバーンはニヤリと笑う。表情からは若きその容貌に似つかわしくない老獪さが感じられた。
「だが、全盛期の姿に戻るつもりまではなかった。そもそも、チルノに仕掛けた黒の
全盛期の肉体に戻る手段は秘中の秘、使いたくないと考えるのは当然だろう。
だがそれは言い換えるのならば「元の姿に戻らなくとも温存したままダイたちを倒せる」という傲慢さにも似た考えに近い。
「だが黒の
そう口にするとバーンは僅かに視線を動かす。今は何も無いが、少し前までそこには煌々と炎が燃え盛っており、その炎を割ってバーンが現れた場所。
何より、ミストバーンが倒される少し前でもあった。それらを確認した時点でバーンは温存を諦めて元の肉体へと戻っていた。
「この場に最初に現れたあれは、余の影武者よ。
ここ、と言う言葉を口にしながらバーンは自身のこめかみ――より正確に言うならば頭の中だろう――を指先で二、三度軽く突く。
「余の偽物との戦いはどうであった?」
「……どこか違和感はあった。奴には光魔の杖という武器があると聞いていたが、何故それを使わなかったのか。我が一撃で片腕を失ったのだ、ならば取り出したとしてもおかしくはないだろうと……気付いたのは、もっと後だったがな」
そう口惜しそうにしながら、バランは数分前の戦いのことを思い返す。
「使わなかったのではなく、使えなかった。それが、答えか」
「その通りだ。如何に
光魔の杖は常に持ち歩いているわけでなく、必要となった時点でバーンが呼び出す。そのため、最初は手にしていなくとも特段おかしいわけではないが、あの時点であってもまだ温存したままというのはどう考えても不自然。
バランが感じた違和感の一つがそれだ。
いくら姿や思考を似せていても、本来の持ち主でなければ呼び出すことは出来ない。加えて、仮に偽物が呼び出せたとしても、使い手の魔法力を無尽蔵に吸い取っていく性質上、光魔の杖を使いこなせるのはバーン以外には存在しない。
それゆえの「使わなかったのではなく、使えなかった」という結論だった。
「……どういうことだ?」
「
クロコダインが零した疑問にアバンが答える。
ただ変身して相手を騙すだけと思われがちな
「それじゃ、バーンがその気になっていれば、
「いや、その可能性は低いと思うぜ」
同じように詳しくは知らなかったのだろう。アバンの説明を一緒に聞いていたマァムは、とある事実に気付いて声を上げた。だがその意見を冷静に否定したのはポップだった。
「自分の力をある程度とはいえ真似させるんだ。そんなことすりゃ、本体の闘い方なんかの情報が多少なりとも漏れちまう。大魔王の情報を可能な限り隠したい。ミストバーンと本体の繋がりを出来るだけ希薄にしたいって考えれば、下策だろうよ」
「ついでに言うならば、化けたとてその実力はミストバーンらに及ばんのだろう。そうでなければ、この場面でやつに
今までの大魔王軍の行動から、使わなかった理由を推察する。そしてヒュンケルもまた、こちらは戦いを専門とするものの視点から、使わなかった理由を口にした。
「なるほど、何が起こっていたのかは分かりました」
全ての話を聞き終え、アバンはそう静かに言った。
「ですが大魔王! どうしてそんな回りくどい方法を取った!? 最初から全盛期の肉体に戻り、我々を相手にすることも出来たはずだ! お前がもっと早く元の姿に戻っていれば、ミストバーンを見殺しにしなくても済んだはずだ!」
静けさは嵐の前触れだった。語気荒く、本気で怒りを露わにしながらアバンは叫ぶ。その中には、敵であったはずのミストバーンへの思いすらあった。
ヒュンケルを利用しようとし、ダイの肉体を乗っ取ろうとしたことは確かに許しがたいものの、それはそれ。主君に見捨てられた形となっていたことを知れば、怒りと哀れみも湧いてこようと言うものだ。
「ミストバーンか……あれは確かに惜しかった。あれは魔界にも二人とおらぬ存在。おそらく、もう二度と同じような存在には出会えぬであろう」
アバンの言葉にバーンは瞳を閉じて見せた。その感慨深い口ぶりから、どうやらミストバーンを失ったことは本当に痛手であり失いたくはなかったのだろう。
「だが奴の命と余の命、どちらが大切かは明白。下手に助けに入り、バランという強者を背を向けるわけにもいかぬ。それと、閃華裂光拳であったか? あれは余とて少々痛い。当たり所が悪ければ一撃で絶命しかねん。そんな危険とを天秤に掛けるわけには行かぬ。余が倒れれば、ミストバーンが生きていようとも関係はないのだからな」
それはチェスにおいても、現実においても同じこと。全てをまとめ上げるだけの頂点が存在しなければ、どれだけの勢力を誇っていてもただの烏合の衆でしかない。それと同じ。
「……ああ、それともう一つ。大切な理由があった」
さらに数秒の沈黙後、バーンは思い出したかのようにわざとらしく口を開いた。
「普通に現れては、つまらんだろう?」
「……ッ!!」
「バランよ、ラーハルトよ。中々楽しかったであろう? 鍛え上げた力は大魔王にも通用する。このままならば押し勝てるのではないか? そうは考えなかったか?」
まるでそれが本当の理由だとでも言わんばかりの口ぶりに、ダイたちは言葉すら忘れて絶句する。
明らかなる挑発だ。それと知っていながらなお、バーンはバランたちに言葉を投げる。その優勢だった戦いすら勘違いでしかないと。全ては演技でしかなかったのだと。嘲笑う。
「ふざけないで!! そんなことをして面白いっていうの!?」
「面白いとも」
怒りに耐えかねて叫んだレオナの言葉を、バーンは平然と肯定してみせた。
「圧倒的な実力差を持つと理解している相手に戦いを挑み、勝ちの目が見えたと思わせた辺りで真実を明かし、絶望させる……キルバーンが好んでいたがな」
完全に敵と見なした死神の、過去の所業を思い出しながら大魔王は語る。その口元を愉悦に歪めながら。
「とはいえ貴様らとて、似たようなことをしてきたのであろう? チルノから伝えられた知識を使い、予め準備した力を持って余の部下たちを打ち倒していく。知らぬ者からすれば、まさに勇者の所業よ。それとも、同じようなことを自分たちがやられるのは御免とでも言うか?」
逆の立場から見れば確かに、バーンの言うようなことを感じていても不思議ではないだろう。今まで彼らがやってきたことが、回り回ってこの最終決戦で牙を剥いた。見ようによってはそうも見える。
「さて、おしゃべりはもう仕舞いよ。そろそろ戦いを始めようか?」
そう言うと同時に、バーンの肉体から闘気が膨れ上がった。一瞬、空気が震えるほどの莫大な闘気を肌で感じながら、ダイたちは理解させられる。
相手は今まで遊び程度としか認識していなかった。気を張るまでもなかったのだ。
ようやく、大魔王が本気を出し始めたのだ、と。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
「はああぁっ!!」
とはいえまだまだ全開にはほど遠く、様子見に近い。大魔王は気合いの声を上げながら、魔法力を軽く解き放つ。それだけでも衝撃波が巻き起こりダイたちを襲う。
「うわ!?」
「ぐえっ!」
「きゃああぁっ!」
すぐに気付けた者は回避したが、何名か――主に直接戦闘が不得意な者――は避けられずに直撃を受ける。
「ふむ、こんなものか。久しぶりすぎて感覚が掴めんな」
当の本人は悲鳴など耳に届いてないように、全盛期の肉体の手応えを確かめていた。そしてその口調から察するに、予想よりも威力は低かったと見るべきだ。
殆ど無意識のような行動でもこれ程の威力を誇ることに、改めて戦慄させられる。
「ならば」
続いてはとばかりにバーンは片手を下へ――すなわち大地へと向ける。
「
その一言で呪文はあっさりと発動した。
途端、ダイたち全員に強烈な重圧が襲いかかった。上から縦に身体を押し潰されそうなほど強烈な重さがのし掛かり、クロコダインとて容易に膝を付いてしまう。ヒュンケルら鎧の魔剣や魔槍を持つ者でさえも例外ではない。オリハルコンの補強で呪文に対してさらに強力な耐性を持つようになったものの、単純に重くなるという効果からは逃れられない。
「こ、この呪文は!?」
「ポップが使ってた呪文だ!」
「いえこれはマトリフのオリジナル呪文……ぐああああっ!!」
「先生っ!! う、ぐうううぅぅ……!」
指一本動かすのも苦痛に感じられるほどの重さの中、彼らはこの呪文の正体をすぐさま看破する。
「バーン! テメェ、師匠の呪文をよくも!!」
「師の呪文、か。面白いことを言う」
まるで師との繋がりさえも嘲笑われているかのように感じられ、動けぬ中にあってなお、犬歯を剥き出しにして怒りを見せるポップであったが、バーンは一笑に付する。
「
それは確かに理屈としては間違っていないが、バーンはマトリフから直接教わったわけではない。他者が使っている場面を見ただけで術理を学び取り、再現してみせるのは並大抵のことではない。
「それに先ほどまでは
オマケとばかりにクククと笑ってみせた。その顔を見ただけでも腹の底から苛立ちが湧き上がるものの、だがポップには今の超重圧を跳ね返すには到らない。
「みんなっ!」
「いかんチウ! 待て!!」
縫い付けられたダイたちを見かね、呪文の範囲外にいたチウが突っ込むものの――
「あべべべべべべ!!」
「じゃから言ったのに……心意気は買うがお主の今の実力では……」
――完全に無策であったため、犠牲者が更に一人増えただけだった。
「せっかくこの姿に戻ったのだ。もう少しは楽しませてもらおう」
動けぬダイたちを眺めながら、大魔王は仰々しく手刀を構える。
「カラミティウォール!」
そしてなぎ払いを放つ。
同時に光壁が半円状に立ち上り、津波のような衝撃波が生み出されると全てを飲み込むようにして直進していく。その先には、
「安心しろ、かなり弱めに放っておいた。直撃しても死にはせんはずだ……死には、な」
本人の目からすれば、それは技とも呼べないほどに弱々しい。これを自身の必殺技の一つであるカラミティウォールと呼ぶのは抵抗があるほどだ。だが今はこれで良い。
「さあ勇者とその仲間たちよ! この状況を乗り越え、余の元まで迫ってみるがよい! 余の不老を数百年分は奪ったのだ。今のそなたたちには、そのくらいのことはしてもらわんとな」
さも楽しそうに叫ぶ。全盛期の姿を取り戻し、ダイが
自身の圧倒的有利を確信し、高らかに宣言していた。そうすることがダイたちの義務だと信じて疑わないとばかりに。
「くううっ!!」
「この程度などっ!!」
なんとか抜け出すことに成功したのはダイとバランであった。
だが他の者たちが同じように行くわけではない。
「や、やべぇ!!」
「みんなっ!!」
脱出できたのは
迫り来る攻撃を避けることも防ぐこともできず、ただその身を晒して受け止め耐えるしか術はない。全員が覚悟を決めたように歯を食いしばり痛みに耐えようとして――
「え……ええっ!?」
「なんと……っ!!」
――惨劇が起こることはなかった。
「ったく、気が進まねぇな」
「お前は……」
ヒュンケルを乱暴に掴みながら悪態を吐くのは、誰よりも先陣を切って戦う勇ましき
「どうした? 私を遅いと断じた者がこの程度で動けなくなったか? ならば最速の称号は私が貰うぞ」
「……貴様」
ラーハルトを抱え、勝ち誇った様な表情を見せるのは、かつて天馬よりも速いと誇っていた
「フン! どうしてワシがキサマらの面倒など見ねばならんのだ」
「そ、そりゃコッチの台詞だ!」
「あははは……な、なにがおこった……んだ?」
ポップのベルトに指を通して持ち上げながら、心底不本意だと口にする
「……なんと、お前は!?」
「ブローム」
クロコダインを持ち上げるのは、少ない口数とは裏腹に誰よりも仲間のことを思う
「これは……?」
「あたしたち、助かったの?」
「ええ、そうです。存分に感謝しなさい。二度目はありませんからね」
マァムのレオナの二人をそれぞれ両肩に担ぎながら、済ました顔でそう口にする
――そして。
「まさか貴様に手を貸すことになるとはな」
「あなた、は……? まさか! いったい、どうして……」
もはや命を落としたと聞いていたハズの相手に、どうやら危機を救われて助かったらしい。横抱きにされながらも、アバンは目の前の相手を見ながらそう理解し結論づけた。
「アバンよ、どうやら魔族にも神はいたらしい。死したはずのオレが再び貴様と再会する……いや、奇跡と呼ぶには色々と皮肉か」
だがアバンの言葉には答えぬまま、彼は誰に向けるでもなく呟いた。
「貴様らは……馬鹿な、どうしてここにいる!?」
震える声でバーンは叫んだ。さしもの大魔王とて、眼前の光景には驚きを隠す事は出来なかったようだ。
なにしろ目の前で命を落としたはずのハドラーと親衛騎団たちが、再び彼の前に現れているのだから。
「奇跡……まさか!!」
ハドラーが呟いた言葉から、アバンが気付く。いや、彼以外には正解に辿り着けないと言って良いだろう。そもそも彼が知る限り、こんなことができそうな人物は一人しかいない。
その未知の可能性については、よく知っているのだから。
「遅れてごめんなさい。でも、どうにか間に合ったみたいね」
少し遅れるようにして、一人の少女が現れる。その姿を見た途端、ダイは満面の笑みを浮かべる。
「姉ちゃん!!」
「お詫びに、とびっきりの援軍を連れてきたわ!」
その場の全員に聞こえる様な声をチルノは響かせた。
モシャスって便利ですね……
実は割と、今回の展開に悩みました。というのも――
①:勝利だけを目的にするなら、老バーン様のみで倒す方が絶対楽。
②:ネタ的に考えると、若バーン様にした方が絶対美味しい。
→ じゃあもう若バーン様にするしかないじゃない。
――という前提。
そして「バーン様が裏をある程度とはいえ知ってしまった以上、若バーン様になる可能性は原作より高い。でも若バーン様は最大の切り札だし、出来れば使いたくはないハズ」という前提条件から、展開を組み立てていました。
最初は「バランと戦って、ミストが負けた段階で、バーン様がルーラで逃げて、若バーン様になって戻ってくる」という展開を考えていましたが「すごくダサい」と判断して没に。
次に「最初から若バーン様だったけど、モシャスで老バーン様に化けてました」展開。
これは無い。前提条件が崩れまくっています。あの時点ではまだ若バーン様が必須かどうかもわからないので。
ということで「
ミストバーンの乗っ取りが上手く行けばそれでOK。若バーン様という切り札は封じたままで済む。ダメだったら切り札を切るしかない。
モシャスして騙していたのは……大魔王流のお茶目かな?
そして、多分バレバレだったと思われる親衛騎団とハドラー様の登場。ご想像通り「あのアビリティ」が満を持してようやくの出番です。
(親衛騎団が今さら味方になって嬉しいかは知らない)
光魔の杖「ワタシの出番は……?」