隣のほうから来ました   作:にせラビア

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先に謝っておきます。


LEVEL:114 自らの誇りに賭けて

「姉ちゃん!」

 

 バーンとの戦いの最中、危機に陥ったダイたちを救ったのは、散ったはずのハドラーと親衛騎団たちであった。彼らの乱入により命からがら助かったものの、今度は斃れた者らが再び姿を見せたことで混乱させられることとなった。

 そんな中、遅ればせながら姿を見せたチルノの姿にダイは喜色満面で声を上げる。

 

「無事だったんだね!!」

「ええ、勿論。幽霊じゃないわよ」

 

 こうしてちゃんと足もあることだしね――と、チルノは胸を張ってみせた。その様子にほっと胸をなで下ろしかけて、すぐに思い出す。

 

「そうだ、キルバーン!! あいつはどうなったの!?」

「当然そっちも片付けてきたわ。頼りになる味方のおかげでね」

「そ、そうなんだ……」

 

 思わずダイは乾いた笑いを零す。

 チルノは事もなさげにそう言ったが、キルバーンはかなりの強敵である。心配していなかったはずがない。だというのに、このようにあっさりと「倒した」と言われては立つ瀬がない。

 突然姿が見えなくなり人質とされた相手が、自力でその犯人を倒して脱出してきました。と言われれば、感情の処理が追いつくはずもない。ましてや、とんでもない援軍まで連れてきたのだから、もはやダイには笑う他なかった。

 

「これで後は大魔王だけ、なんだけれど……細かい経緯はともかく、完全な状態に戻っちゃったみたいね」

 

 彼女が覚えている限り――精神混乱呪文(メダパニ)の影響下にあった頃――では、老いた姿だったはずの大魔王が、気がつけば若かりし頃の肉体を取り戻している。

 気配が感じられないことからミストバーンは討伐済みのようだが。どうやら老いた姿のまま倒すことはできなかったようだ。

 

「それは……」

「理由は後で聞くから。優先すべきはあっち、よね?」

 

 何が起きたのか、それを説明しようとするバランを手で制しながら、チルノは大魔王を見つめる。操られていたとはいえ、自分が未来の知識について話をしたことが影響したのだろうと思いながら。

 

 

 

 

「やはりチルノさんの仕業でしたか……」

 

 一方。チルノの言葉からアバンはある程度のことを察する。

 そもそもデルムリン島でたった二日間だけとはいえ、アバンはチルノに特訓を施していたのだ。その時に聞いた様々な技能の数々。その中に、このような奇跡のような結果を齎すものがあったとしても不思議ではない。

 彼にはそう判断するだけの下地は充分にあった。

 

「つまり、ハドラー。あなたは本物のハドラーなのですね!?」

「まあ、本物と言われれば本物だ」

 

 もはや叶わぬ願いと思っていた相手とまさかの再会を果たし、アバンは思わず歓喜の瞳でハドラーの顔を見る。一方のハドラーは、抱きかかえたまま少しだけ視線を逸らした。

 厳密には生きているわけではなく、召喚魔法という特殊な方法によって仮の命を持つ存在という事実が、彼に素直に「そうだ」と肯定させることを邪魔していた。

 

「もはや再び出会うことは決して出来ないと思っていましたが……嬉しいものですね。今のその姿からは、かつて魔王を名乗っていた頃とも、デルムリン島で出会った時とも違う、誇り高い気配が感じられます」

 

 超魔生物となり、精神的に大きく成長する。ハドラーがそうなると聞いていたアバンであったが、実際に目にしたその姿は彼の想像以上であった。立ち姿一つにとっても、威厳が感じられる。かつてアバンが勇者と呼ばれていた十五年前に、ハドラーが今の半分でもこのように成長していたのなら、過去の戦いの結末は真逆になっていただろう。

 そう思わせるほどだ。

 

「それと助けていただき、ありがとうございます。ただ、できればそろそろ放して貰えると助かるのですが……」

 

 そこまで考えて、彼はようやく現状に気付いた。ハドラーに抱きかかえられたままというのは、男として少々恥ずかしかったらしい。

 

「…………」

「わっ! ……っと。もうすこし丁寧に下ろしてくれも良いんじゃありませんか?」

 

 遠回しに放してくれということを告げると、ハドラーはまるで鞠でも軽く放るかのようにアバンを投げ捨てた。そしてアバンも、そのまま地面に落ちるような無様はしない。不安定になりながらも中空で体勢を整え、危なげなく着地してみせた。

 その際に、一言文句を言うのも忘れない。

 

「"放せ"と言ったのはお前だろう?」

「なるほど、確かにそうですね。これは一本取られました。次からはもっと丁寧に頼むことにします」

「次があればな」

「是非に、と言いたいところですが、大魔王がそれを許してはくれませんよね」

 

 まるで長年苦楽を共にしてきた相棒を相手にでもしているかのような軽快な口調で言葉を交わしながら、アバンはハドラーと肩を並べるようにして再び戦闘態勢を取った。

 

「……!!」

 

 ――その剣は……!!

 

 闘志を高め、アバンが構えた剣。その剣を見た瞬間、ハドラーの脳裏に過去の記憶が甦えった。それは懐かしく、そして少しだけ苦い記憶。

 今から十五年前――アバンとハドラーとの最終決戦でのことだ。

 地底魔城の最奥で繰り広げられたその戦いの最中にアバンが手にしていた剣と、今のアバンが持つ剣は全く同じ形をしていた。

 

 勿論それは同じ形状をしているというだけ。過去の剣と現在の剣ではまず素材からして異なっている。

 オリハルコンで作られた剣。それも――これは召喚魔法の影響によるものだろうか――ハドラーがその肉体に埋め込み一体化させた物を材料にしているのだということが直感的に理解できた。

 

 そこまで理解すれば腑に落ちる。

 魔王(ハドラー)を倒した勇者(アバン)が手にしていた剣。それも、死という抗いがたい恐怖を与えたそれは、魔王の瞳には世界最強の剣として映る。

 無意識のうちにその最強の力を欲し、その想いが形となり再び剣として生まれ変わったのも、ある意味では当然のことかもしれない。

 

 ――なるほど。

 

 アバンの使徒同士は、アバンのしるしによって結ばれている。ならば、自分とアバンとを結びつける物があるとすれば、それはきっとこの剣の様な物なのだろう。魔王と勇者との関係性を表すのに、これほど適した物は存在しない。

 再び勇者が手にした世界最強の剣を目にしながら、ハドラーは心の中で笑った。

 

 

 

 

「なるほど。どのような手段かは知らんが、貴様の仕業か」

 

 想像よりもずっと早く、バーンは落ち着きを取り戻していた。その様子にチルノは少しだけ残念がる。

 

「あら? あなたは驚かないの?」

「確実に殺したハズの相手が甦る……そのような経験は皆無ではない。まあ、その多くは影武者、幻術、不死者(アンデッド)化……そういった紛い物であったが――」

 

 バーンは再度、甦ったハドラーたちをつぶさに観察する。

 ハドラーがアバンを下ろしたように、他の親衛騎団たちも既にそれぞれが抱えていた者たちを下ろし終えていた。

 合計六人分の鋭い視線を正面から受けながら、やがてバーンは口を開いた。

 

「――どうやら貴様らは違うようだ。どのような技法かは知らぬが、そもそもお前は異界の力を行使する。であれば、このような手段を隠し持っていても不思議ではあるまい?」

「流石は大魔王……どこかの誰かとは見る目が違うわね……」

 

 キルバーンの狼狽した姿が思い出される。

 あれほどでなくとももう少しだけ冷静さを失ってくれていればどれだけ助かることか。と、ない物ねだりをしつつも、戯けながら称賛することで落胆した気持ちを押し隠した。

 

「その通り。詳しい説明は省くけれど、ハドラーと親衛騎団たち……全員が本物よ。幻術や見た目だけ変えた偽物なんかじゃないわ」

「やはりか」

「地獄の底から連れてきたんだから、もう少し驚いてくれてもいいのよ?」

「驚いておらぬわけではない。恐れる必要がないだけのことよ」

 

 淡々とそう言ってのけた大魔王の言葉に、ヒムが反応した。

 

「恐れる必要がない? オレたちをか?」

「何か間違ったことを言ったか?」

 

 凄んでみせるヒムに向け、大魔王はさも当然のことのように口にする。

 

「かつて余に完膚なきまでに破壊された者たちが援軍に来たところで、どうして恐れる必要があろうか」

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 大魔王の言葉は、どこまでも現実的であった。

 かつて親衛騎団たちはバーンに挑み、手も足も出ぬまま敗れている。それも若い肉体を取り戻した現在のバーンではなく、今よりも弱い老いたバーンを相手にして。ならば同じ相手に後れを取ることはないと判断するのも至極当然。

 

「へっ! それがどうしたんだよ!」

 

 だがその程度で怯む様な弱卒はこの場に存在しない。ヒムらはむしろ闘気を漲らせ、大魔王に挑むように前に出て行く。

 その姿に追従するように、マァムが叫んだ。

 

「そうよ、今度は違う! 私たちも一緒に戦うわ!」

「誰が貴方たちと共闘すると言いました?」

 

 だがその言葉をアルビナスは止める。

 

「我々はこの男に――大魔王バーンに耐えがたい屈辱を与えられました。この恥は我ら親衛騎団の力のみで(すす)がねばなりません。助力を受けるような下世話な真似は不要です!」

 

 有無を言わさぬ、毅然とした態度にて他者の介入は受けぬと宣言する。

 これに驚かされたのはアバンの使徒たちだ。大魔王を相手に肩を並べ、共に戦うと思い込んでいただけに、その動揺も大きかった。

 

「馬鹿な! お前たちだけで戦うというのか!?」

「おれたちも戦うぜ!」

「そうよ! あなたたちなら、今のバーンがどんなに強い相手なのか分かるでしょう!?」

 

 天地魔界で最強と呼ばれるバーンを相手に親衛騎団だけで挑むとなれば、止めようとするのは当たり前だ。全員で協力して戦うことで、少しでも勝利の可能性を高めるのが利口な考えだろう。

 ポップたちは口々に声を上げる。

 

「みんな、やらせてあげて」

 

 だがそんな仲間たちの声を止めたのはチルノだった。

 

「詳しい理由は省くけれど、これは彼らが決めたことなの」

「決めた……って、あいつらだけでバーンに挑むことがか?」

「ええ、ハドラーも了承済みよ」

「そんな!! どうにかして止められないの!?」

 

 それを聞いた瞬間、悲鳴にも似た声が上がるが、だがチルノは顔色すら変えない。

 これは既に決まっていたこと。

 精神世界にてチルノ、ハドラー、親衛騎団たちとで話し合い決めた事だ。

 

 どれだけ練度を上げても、オリハルコンの身体を持つ親衛騎団は成長することはない。肉体を成長させられるとすれば、唯一ハドラーのみだ。

 対してアバンの使徒らは想像を絶する速度で成長していく。

 召喚魔法によって雪辱の機会は得られたものの、これでは「いざ戦おう」という場面では既に足手まといになっている可能性が高い。かといって「はい」と素直に認めて諦めてしまうほど親衛騎団たちは柔順ではない。

 

 彼らにもまた、譲れぬものがある。例え届かぬと知ってもなお、貫き通したい意地が。

 故に彼らは決断した。

 勇者たちと共闘するのはハドラーのみ。自分たちは少しでも大魔王を疲弊させるための駒となろうと。チェスにおいては王こそが最重要。それ以外の駒は全てが王のために動くのだからと。

 

 その気持ちはチルノにも分かる。故に彼女は、親衛騎団に一つだけ注文を付けた上で、彼らの意志を尊重することにした。

 

 

 

 

「自らの道具に二度も手を噛まれるとは……これは中々に得がたい経験よ。呆れや怒りを通り越し、むしろ興味さえ湧く」

 

 闘志を燃やす親衛騎団へ洒落た感想を口にしつつ、バーンは冷静に観察していた。

 一度倒れた相手が再び挑む以上、何らかの考え――すなわち策があると考えるのは当然のこと。ましてや大魔王とは、一朝一夕では絶対に埋まらないほどの差があるのだ。それを埋めるために、果たしてどのような方法を取ってくるのか。

 

「ハドラーに黒の核晶(コア)を埋め込み、そして先の戦いではハドラーの前で無様にやられたことに対する雪辱戦といったところか……余の力を知った上でなお挑もうとする、その心意気は見事なものだ。褒めてやろう」

 

 以前目にした時よりも更に洗練された様子を鋭敏に感じ取りながら、バーンは続ける。

 

「だが、実力が伴わぬようでは、それも無駄死によ……今からでも遅くはない。勇者たちに頭を下げ、共に戦おうと懇願しておけ。余に、真に勝ちたいと願うのならな」

「ふざけるな!! そんなカッコ悪い真似が出来るかよ!!」

「……格好はともかく、そのような真似は出来ん」

「我らの真価は全員が揃ってこそ。むしろ勇者たちと肩を並べて戦っても、邪魔になるだけですよ」

 

 気遣いという名の挑発を受けても、彼らの決意は変わることはない。そして最後の確認とばかりにアルビナスは後ろを振り返る。

 

「よろしいですね、ハドラー様」

「……ああ」

 

 ハドラーはぶっきらぼうにそう口にする。

 だが、腕を組み親衛騎団を見守るその姿からは、彼らの全てを見届けんとする熱い想いが伝わってきた。

 

「もはや迷いはありません! 全員、行きますよ!!」

「愚かな……」

 

 アルビナスの言葉を合図として、親衛騎団たちは動き出す。ただ、そんな彼らに向けて一人の少女が声を掛けた。

 

「わかっているとは思うけれど、節約はしてね!」

「わかっています!」

「貴様に言われるまでもない!」

 

 チルノの召喚魔法、つまり魔力によってこの世に顕現している以上、親衛騎団たちは動くのにも呪文を唱えるのにも――それどころか、存在しているだけでも維持のための魔力が必要となる。

 その魔力を払うのは当然、召喚士たるチルノだ。

 彼女の魔力が少なくなれば、肉体を維持しきれなり存在できなくなってしまう。それを防ぐ意味でも「節約しろ」と声を掛けたのだが――

 

「サウザンドボール!」

極大真空呪文(バギクロス)!」

 

 アルビナスとフェンブレンは、躊躇なく自身の持つ最大の呪文を放った。片手に収まりきらないほどの大きさの光球がバーン目掛けて襲い掛かり、それに遅れて真空の刃を伴った強風が吹き荒れる。

 

「節約しろって言ったでしょ!!」

「フン! ケチな事を抜かすな!」

「あなたは黙っていなさい!!」

 

 先ほどの言葉はどこへやら。舌の根乾かぬうちに――それどころか、当てつけとすら勘ぐってしまうほど分かり易い行動に、チルノは思わず頭を抱えてた。

 

 

 

 

「ハドラー! あなたは良いのですか!!」

 

 親衛騎団たちが動き出したのと同じ頃、アバンは声を荒げていた。

 彼にはとても信じられなかったのだ。親衛騎団が強いのは分かるが、それでも大魔王には届かない。みすみす部下を死地へと追いやるような真似をするなど、今のハドラーがそんな選択を取るようにはとても見えない。

 

「黙っていろ!!」

 

 だがハドラーはアバンの言葉を一喝して黙らせた。そして、続く言葉を喉の奥から絞り出す。

 

「……これは、あいつらから言い出したことだ」

「ハドラー……」

 

 その声を聞けば、ハドラーとて諸手を挙げて親衛騎団の行動に賛成しているわけではないということが如実に伝わってきた。

 腕組みをしたまま微動だにせずに見守り続けるハドラーの姿は冷徹にも見えるが、その内心は嵐より荒れ狂っていたようだ。

 よく見ればハドラーの腕から血が滴り落ちている。

 それは二の腕をとてつもない力で掴んでいるために流れ出たもの。全身に万力のような力を込めて、今にも飛び出しそうになる自分を押さえつけていたのだ。

 

「あいつらの気持ちを本当に汲んでやるつもりならば、手出しは無用。とっととその傷でも治しておけ」

「…………ええ。申し訳ありません」

 

 そして稼いだ僅かな時間で少しでも立て直し、反撃の準備を整えること。それこそが彼らの決意に報いる最大の行為だと告げる。アバンもまたそれを痛感し、短い謝罪の言葉と共に回復呪文を唱え始めた。

 

「はぁ……まったくもう……」

 

 不意に、チルノが乱入してくる。親衛騎団たちが戦い始めたことでバーンの注意が逸れ、その隙に合流してきたのだ。

 どこか疲れた様子を見せながらやってきた彼女だったが、アバンの顔を見るなり弾かれたように彼の元へと駆け寄って行く。

 

「先生! シルバーフェザーを何本か、いえ、出来ればかなり多めにいただけますか?」

「フェザーをですか? それは構いませんよ」

 

 突然の様子に少々気圧されながらも、断る理由はない。アバンはポーチから一抱えほどのフェザーを取り出すとチルノへと手渡しながら、気付いたことを尋ねる。

 

「……ふむ、ということはあの親衛騎団たちを呼ぶにはあなたの魔法力を消費する。ということですか?」

「そういうことです」

「なるほど……」

 

 十数本の羽根(フェザー)を受け取ると、少女はすぐさま一本を腕に刺した。体内に失われた魔力が満たされていくのを実感しながら、チルノは頷く。それを見て、アバンもまた納得した。

 魔力を消費するということは、魔力によって再誕させることも可能なはず。ならば彼らだけでバーンに挑ませたのも、何か考えがあってのこと。少なくとも完全な無駄死にではないのだろうと、そう推察していた。

 

 

 

 

「貰ったぜ! 大魔王!!」

 

 サウザンドボールと極大真空呪文(バギクロス)の援護を受けながら、やはりと言うべきかヒムが先陣を切り大魔王に襲い掛かっていく。対する大魔王は、極大真空呪文(バギクロス)の影響で動きにくくなっているはずだが、それを感じさせぬ動作でサウザンドボールを弾き飛ばし、迫り来る相手を迎え撃とうとする。

 

「へっ!」

 

 だがヒムは攻撃範囲に入る直前でひらりと身を躱した。一瞬怪訝な顔を見せるバーンだったが、すぐにその理由を察した。ヒムが道を譲ったその後ろには、今まさに飛びかかろうとしているアルビナスがいたのだ。

 

「初手に女王(クイーン)を切り込ませるか……定石外れだな……」

 

 ――定石が通じる相手ならば、そうしていましたよ!

 

 思わず苦笑いを見せるバーンへ向けて叫びたい気持ちを、女王(クイーン)はなんとか押さえ込む。

 ただ突っ込むだけでは大魔王に迎撃されることは百も承知。定石通り、まともにやっても通じぬ以上、奇策を用いるのもまた常だ。

 

「やりなさいブロック!!」

「ブローム!」

「ぐっ!!」

 

 雄々しい声を上げながらブロックは、アルビナスの背(・・・・・・・)へ向けて全力で体当たりを放った。

 凄まじい激突音が響くと同時に、アルビナスは大魔王へ向けて突撃する。

 原理は単純。背から衝撃を受けると同時に加速することで、限界を超えた速度を生み出そうというのだ。はたしてその目論見は成功し、彼女自身驚くほどのスピードで迫る。

 

「なるほど。多少は頭を使ったか」

 

 だがそれでも大魔王の想定を打ち破るほどではなかった。余裕を見せる大魔王だったが、その反応にアルビナスは笑いを浮かべる。

 

「甘いですねぇ!!」

「むっ?」

 

 遅れてバーンも気付く。

 迫り来るアルビナスの周囲に、細かな破片が無数に飛んでいたのだ。

 アルビナスはただ加速のためだけにブロックの突撃を受けたわけではない。加速に利用すると同時に衝撃によって自身の身体を細かく砕き放つことで、さながら散弾銃のような攻撃を同時に狙っていた。

 細かくなったことで回避は困難となり、射出された速度はアルビナスの動きと並ぶほど。何より破片とはいえオリハルコンだ。そんなものが高速で襲い掛かれば、激突しただけで肉を抉り骨を砕くことだろう。

 文字通り身を削った戦法だ。

 流石に正面から受け止めるのは下策と考えたのか、大魔王は別の動きを見せる。

 

「オレを忘れたか!?」

 

 だがそうはさせじとヒムが再び現れた。右手を赤熱化させ、バーンの動きを阻害するように巧みな位置取りを見せながら攻撃を繰り出す。同時にアルビナスの特攻がバーンへと襲い掛かった。

 

「ハアアアアァァッ!!」

超熱拳(ヒートナックル)!!」

 

 無数の破片とアルビナスの突撃、それにヒムが放った会心の一撃。それらは確かに大魔王へと届いた。そして――

 

「がはっ!!」

「ば……化け物、め……」

 

 女王(クイーン)兵士(ポーン)は同時に崩れ落ちた。

 

「この程度か。まあ、少々痛かったな」

 

 対するバーンはほぼ無傷のままだ。

 無数の破片が激突したことで多少の衝突痕が微かに見え隠れするが、それだけ。取った行動といえば、襲い掛かる攻撃を全身を闘気によって強固にすることで防ぎ、攻撃を喰らいながらも反撃を繰り出しただけだ。

 残念ながら女王の命を削った攻撃が実を結ぶことはなかった。

 

「まだ終わりではないぞ!」

「む……っ!」

 

 倒れるヒムの穴を埋めるように、シグマが飛び込んでくる。だがそれも反応できぬほどではない。バーンはすかさず呪文を唱えて迎撃しようとして――僅かに躊躇した。

 現れたシグマが、大きく胸を張るような異質な姿勢を取っていたからだ。

 およそ奇襲には不適切な格好。だがそれを確認した瞬間、バーンにとある可能性が浮かんだ。

 

 ――まさか、シャハルの鏡か!?

 

 かつてシグマは、呪文を跳ね返す効果を持つシャハルの鏡という防具を装備していた。

 とはいえその鏡は他ならぬバーンの手によって既に砕かれ、この世には存在しない。故に恐れることもないはずだが、チルノの存在がその考えに待ったを掛ける。

 

 なにしろ、破壊したはずの親衛騎団たちが甦ったのだ。ならばシャハルの鏡も同様に、何か知らぬ技能を使って復活しているのではないかと、そう疑ってしまう。その場合、このまま呪文で迎撃するのは手痛い反撃を受けることになる。

 勿論、ハッタリという可能性もある。チルノの存在に加えて、シグマ本人が分かり易い反応を見せることで、さも"持っている"ように思わせることで、バーンに呪文の使用を躊躇わせる。

 

 どちらの可能性も感じられ、疑念に手が止まった瞬間――

 

「引っ掛かりおったか!!」

「賭けは私の勝ちだ!!」

 

 その時を待っていたとばかりにフェンブレンが現れた。

 

 シグマがシャハルの鏡を持っているかも知れないと思わせることで僅かでもバーンの動きを止め、その間隙を狙って致命となる攻撃を放つ策だ。

 とはいえ成功する可能性はお世辞にも高いとは言えない。機会を窺ったとはいえ呪文を必ず唱えるわけでもなく、必ず躊躇するとも限らない。

 だが幸運にも好機は訪れた。というよりも、執念にてその好機をもぎ取ったというべきだろう。

 

 その好機を逃さず、フェンブレンはバーンの胸元目掛けてその刃の腕を振るう。

 彼が狙うは心臓。

 普通の生物ならば即死に繋がるはずの攻撃だが、バーンは複数の心臓を持つ。一つ潰されても致命傷とはならないが、それでも大幅なパワーダウンは見込める。

 

 シグマもまた動いた。

 彼は手にした槍をバーンの顔目掛けて全力で叩き込んだ。生物である限り、頭部は最も分かり易い弱点だ。そこを狙うのもまた最も分かり易い攻撃となる。

 

 だが、まだ親衛騎団は止まらない。

 

「ブローム!」

 

 ダメ押しとばかりにブロックが打撃を放った。シグマが注意を引き付けると同時に、彼もまたバーンへの攻撃を開始していたのだ。

 

 必殺を確信した三人の攻撃は――

 

「少し、侮っていたようだ」

 

 ――バーンに致命傷を与える事は無かった。

 

 ブロックの攻撃は止められ、シグマの槍は見切られていた。辛うじてバーンの頬が浅く斬れているが、その程度では何の慰めにもならない。

 唯一フェンブレンの手刀はバーンの胸へと突き刺さったが、穿てたのはほんの僅か。爪の先程度だった。

 

「お前達を強者と認め、褒美をやろう」

 

 あり得ぬ結果に戸惑う中、バーンは莫大な力を内へとため込む。即座に伝わってくる恐ろしいまでの殺気にシグマらは離れようとするが、それよりもバーンの方が早い。

 

「天地魔闘!!」

 

 瞬時にして、シグマたちは吹き飛ばされる。

 右手の手刀はフェンブレンを切り裂き、左手の掌底がブロックを打ち抜く。同時にカイザーフェニックスの呪文にてシグマを焼き尽くした。一瞬にして繰り出された三つの攻撃を、数名の目が辛うじて捉えていた。

 

 

 

 

「やはり、我々だけでは……届きませんでしたか……」

「何を言うか!」

 

 時間にすれば数秒にも満たない僅かな時間。

 その間に親衛騎団たちは全員が倒されていた。だが、悔恨の言葉を口にする彼らに向けてハドラーは叫ぶ。

 

「貴様らの心は、確かにオレに届いた!! 見事だったぞ!!」

「ああ……その言葉だけで……」

「私たちは……満たされます……」

 

 親衛騎団は皆、どこか満たされたような表情を浮かべていた。ハドラーの前にて自身の勇猛さを、力を示すことが出来たのだ。それも、真なる大魔王バーンを相手にして。

 彼らの想いは叶ったと言って良いだろう。

 

「ハドラー、様……あなたの勝利を……遠く離れた場所(・・・・・・・)より、祈っております……」

 

 その言葉を最後に、アルビナスたちの姿は消えた。

 




結局、即退場かよ!!
という怨嗟の声が聞こえてきそうです。

親衛騎団が若バーン様相手に活躍する? ……いや、どう考えても無理ですって。老バーン様にあれだけ負けたんですから。

それでも挑戦したのはあくまで本人たちのプライドの問題。
勇者たちと共闘する? それでは納得出来ない。あくまで親衛騎団だけで戦わないと意味がない。そんな不器用な武人たちなのです。
ハドラー様もそれが分かっているから、勝ち目は無いと知りつつも部下の気持ちを優先させたという。内心はグツグツ煮えてましたけれど。

結果だけみればちょっとダメージを与えた程度。
ですが彼我の実力差からすれば相当頑張ったのではないかと。

本命のハドラー様はちゃんと戦闘で活躍しますから。
部下達の決意を胸に刻んで暴れてくれますから。
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