隣のほうから来ました   作:にせラビア

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LEVEL:116 大魔王バーン -緒戦-

 ――だ、大丈夫……よね……?

 

 さも"してやったり"といった態度でバーンに啖呵を切って見せたものの、チルノの内心は冷や汗ものであった。先ほど口にした内容とて、完璧な物では無い――というよりも、完璧であり続ける体制などありえない。

 だが今はそれでいい。

 ダイたち全員に希望を持たせ、大魔王の心を少しでもかき乱せることを祈っていた。

 

「そうだね……うん! ありがとう姉ちゃん!」

「よかろう。私としても異論はない」

「へへっ、仕方ねぇ! 未来の英雄目指して、もう一踏ん張りするか!!」

「目立ちすぎるのは困るがな」

 

 ダイたちは皆、チルノの言葉に奮起させられていた。口々に未来を思い描きながら、大魔王へと戦意を新たにする。この時点で目的の半分は達成していた。

 

「……なるほど。考えてもみれば、貴様の知る未来でも余は同じようなことを口にしたのであろう? ならば、余の心遣いは最初から無駄だった、というわけか」

 

 だがそのもう半分の相手は、既に冷静さを取り戻していた。長きに渡り大魔王として君臨してきたのも伊達ではない。瞬く間にチルノの筋書きを読み切ってみせる。

 その様子を忌々しく思いながらも、少女は言葉を止めることはない。

 

「また精神混乱呪文(メダパニ)で無理矢理に操る、とか言わないの?」

「貴様たちを下手に生かしておけば、また何やら予測不可能なことをしでかしそうでな。もはや迷いは無い……」

 

 自らが口にしたように、もはや完全に迷いは断ち切っているのだろう。

 バーンは全身に力を漲らせた。それだけでダイたちの口から思わず声が漏れる程の闘気が満ち溢れる。身を切るほどの殺気が瞬時にして場の全体を支配する。

 

「即時粉砕!! それが貴様らの結末よ!!」

 

 そしてバーンは動いた。ダイたち目掛け獰猛に襲い掛かっていく。

 

 

 

 

 

「させん!」

「大魔王よ! 貴様の相手はオレだ!!」

「クロコダイン!! ハドラー!!」

 

 それに対応したのは、クロコダインとハドラーの二人であった。

 重戦士型であるクロコダインは――位置的に近くにいたことも幸いし――大魔王の動きに合わせて猛進し、巨大な戦斧を叩き込もうと迎え撃つ。

 ハドラーはバーンとの間に少々距離があったため、高速で移動することで補ってはいるものの、クロコダインの動きに半歩遅れた形となった。瞳には大魔王に対する激情を宿しながら攻撃を繰り出すそれは、偶然にもクロコダインと呼吸を合わせた連携のようなタイミングとなっていた。

 

「ぬおおおっ!! ……な……ッ!!」

「なかなか良い武器だが、真正面からでは余の肉体に傷を付けることはできん!」

 

 雄叫びを上げ、暴風のように振り下ろされた斧をバーンは自らの腕で平然と受け止めてみせた。渾身の一撃を、それもオリハルコンで補強された武器で放った一撃というのに、バーンの皮一枚傷つける事が出来なかったのだ。

 防がれるとは覚悟していたが、自身の怪力を持ってしてもこれか。

 予想を遥かに超えた大魔王の恐ろしさを目の当たりにし、クロコダインは動きを止める。そんな隙を大魔王が見逃すはずもない。

 

「そら!」

「ぐわあああああッ!!」

 

 受け止めたのとは逆の腕で、切り上げるようにして手刀が放たれる。動きを止めたクロコダインは無防備にその一撃を食らい、絶叫を上げながら吹き飛ばされた。

 身に付けていた防具などもはや紙切れ同然、手刀によって肉体ごと切り裂かれ、大量の血が流れ出す。それどころか、吹き飛ばされた勢いで地に打ち付けられ、そのまま動かなくなった。

 だが彼の犠牲は無駄ではない。

 

「【ヘイスガ】!」

 

 大魔王が動けば、勇者たちもまた動く。

 クロコダインが吹き飛ばされたところで、チルノは魔法を完成させた。ヘイスガは複数人を対象として行動速度を上昇させる魔法である。以前これを唱えた――正確には単体にのみ効果を及ぼすヘイストの魔法だが――時には、急激な身体能力の上昇によって感覚が追いつかずに想定と現実の動きにズレが生じるという欠点があったが、もはやそれも無い。肉体と同時に知覚能力も強化され、むしろ遅く感じるくらいだ。

 

 魔法の効果が発揮されると同時にハドラーがバーンに殴りかかる。行動速度の上昇にも即座に対応してみせ、一切動揺することなく攻撃を繰り出して見せたのは流石だ。だが、それが大魔王に通じるかどうかはまた別問題だった。

 

「ハドラーよ、貴様の相手はもう少し後だ」

 

 襲い掛かる拳を受け止めると、ハドラーにだけ聞こえる声で囁く。

 

「なにっ! ぐっ!!」

 

 その言葉の意図が読めず混乱したところに、バーンの蹴りが入る。辛うじて防御が間に合ったものの、その強烈な一撃にハドラーは弾き飛ばされ体勢を崩した。

 

「はっ!」

「なんと、余の想定を上回る速度よ。先ほどの呪文によるものか?」

 

 ハドラーとは逆側から、マァムが仕掛ける。ヘイストによる加速は、元々が素早い武闘家の彼女にとっては相性抜群だ。会心の速度で放たれた右拳の一撃を、バーンは極めて冷静に見ながら、驚きの言葉を口にしていた。

 

「うっ!?」

「閃華裂光拳は少々面倒なのでな」

 

 言葉とは裏腹に、バーンは僅かに身体を捻り自らの肩をマァムの腕にぶつけることで直撃を避ける。手足を使わずに横から衝撃を加えることで、攻撃を逸らしたのだ。

 攻撃を逸らすと同時、マァムの身体の内側へとバーンは潜り込んだ。互いの瞳がのぞき込めるくらい接近るとバーンは片手をマァムの腹部へ、触れるか触れないか程度に当てる。

 

「しま……っ!!」

極大爆裂呪文(イオナズン)

「きゃあああああっ!!」

「マァム!!」

 

 マァムがやられたことに思わずポップが声を上げる。

 避けようのない距離から放たれた呪文攻撃により、マァムは盛大に吹き飛ばされた。猛烈な爆発を直接浴びたのだ。そのダメージはとてつもない。爆風の影響をモロに受け、あちこちに火傷のような傷跡が刻まれていた。

 魔甲拳を纏っていなければ、この一撃で戦闘不能になっていただろう。

 

 相手が生物であるならば無類の効果を発揮する閃華裂光拳も、当たらなければ効果を発揮しない。そもそも腕や足に触れただけで問答無用で発動できるほど便利な技でもない。

 だが大魔王へ確実に有効打を与えられる数少ない攻撃法方の一つでもある。警戒するに超したことはない。呪文を放ったのは、万が一にも触れずに倒すためだろう。

 

「今だ……ッ!?」

 

 バーンは突如、それが当然というように後ろを向く。何の前触れもない自然な動きを見せ、そこでラーハルトと目を合わせた。

 驚かされたのはラーハルトの方だ。ヘイスガの効果で更に素早くなったというのに、バーンは彼の動きにすら対応している。老いた頃の大魔王ならば間違いなく不意を打てると確信していたが、その目論見があっさりと崩された。

 

真空呪文(バギマ)

 

 目を目が合うと、大魔王は呪文を放つ。風の刃を操る呪文によって局所的な嵐が生み出され、ラーハルトはその暴風に飲み込まれる。鎧の魔槍のおかげでダメージを受けることはないが、風圧に邪魔されて鋭かったハズの動きが若干鈍った。

 鈍ったとはいえども、影響はごくごく僅か。通常ならば全く問題はない。しかし、そのほんの僅かが大魔王の前では致命的となる。

 

「そこだ」

「ぐはっ!!」

 

 さながら止まった的に攻撃を当てるように淡々と、バーンは拳を突き出し闘気を放った。拳撃は狙いを違わずラーハルトへと襲い掛かり、彼を木の葉のように吹き飛ばす。

 幸いにもというべきか、ダメージそのものは今までの攻撃と比べれば軽い。痛みを堪えながらも姿勢を立て直すと無事に着地してみせた。

 と同時にラーハルトを――いや、ダイたち全員を対象に――結界が張られる。

 

「【マイティガード】!」

 

 続いてチルノが唱えたのは過去も幾度も使っている防御魔法だ。ヘイスガによる速度上昇に加えて、これで防御面も強化された。攻防両方を引き上げて敵との差を埋める、いわゆる強敵を相手にする時の定番とも呼べる戦術だ。

 

 ――これでどこまで耐えら……!?

 

 マイティガードを使っても、大魔王の攻撃には焼け石に水かもしれない。それでも使わずにはいられなかった。一抹の不安を覚えながらも胸中で独白し、その言葉が急に途切れる。

 

「また呪文による強化か?」

「はや……っ!」

「姉ちゃん!」

 

 何時の間に移動したのか。先ほどまでラーハルトの相手をしていたはずのバーンが、今はチルノの目の前にいた。魔法へ集中していたとはいえ、まるで気付けず、少女は思わず息を呑んだ。

 ダイの悲鳴に似た声が聞こえる中、バーンはチルノに向けて攻撃を繰り出そうとし――

 

「伸びろ! ブラックロッド!!」

 

 狙い澄ましたように、ポップの一撃が放たれた。彼の魔法力に従って伸びた杖はチルノとバーンの間を切り裂くように走り、床に叩きつけられた。割って入った攻撃に反応した隙を逃さず、チルノはバーンから距離を取ってみせる。

 

「あ、ありがと! ポップ!」

「気にすんな!」

 

 気にするな、と言いつつもポップの内心は申し訳なさと苛立ちでいっぱいだった。

 先ほどから攻撃呪文一つ唱えることが出来ていない。

 呪文を完成させ、狙い放つ。彼がそれだけのことをする間に、バーンは縦横無尽に動き回る。つまり、呪文を唱えるだけの猶予がないのだ。

 マァムがやられたことによる焦燥感も手伝いながらも腐らずに機会を窺い続け、なんとかチルノを救うことには成功した。

 

「アバンストラッシュ!!」

「ブラッディスクライド!!」

 

 ポップに遅れること一瞬、アバンとヒュンケルが同時に動いた。どちらも放つ遠距離型の攻撃を選択し、闘気の込められた剣圧が大魔王へと襲い掛かる。

 

「まだだっ!」

 

 二人の攻撃に合わせ、ついに(ドラゴン)の騎士たちが動いた。

 

「くらええぇぇっ!!」

「バーンよ!」

 

 アバンら師弟が速度を重視した攻撃ならば、彼ら親子は威力を重視する。それぞれが剣を構えながら、直接斬撃を放つべく大魔王へと肉薄していく。

 

「ほう……」

 

 言うなれば四人連携攻撃といったところか。その光景にバーンは少しだけ楽しそうに口の端を細め、左手に力を込めた。

 

「フェニックスウィング!」

 

 そして全力で掌撃を放つ。

 そのあまりの速度のため摩擦で手に炎が上がり、不死鳥(フェニックス)が羽ばたくように見えることから名付けられたその技で、迫り来る四人の攻撃を迎え撃つ。

 

「うわっ!」

「ぐっ!」

「ちっ!」

「なんと……」

 

 不死鳥の羽ばたきは二人の人間を吹き飛ばしてなお止まることなく、アバンストラッシュとブラッディスクライドの攻撃をかき消して見せた。

 

「くそっ!」

「落ち着けディーノ! 焦るな!!」

 

 すぐさま反撃に転じようとしたダイを、バランが押し止める。バランとて気持ちはダイと似たようなものだが、無闇に挑んでも結果は変わらない。今はまだ決め手に欠けていた。

 ポップと同じく、ダイたちもまた大技を繰り出しあぐねていた。(ドラゴン)の騎士の最大攻撃である魔法剣は事前に呪文を唱えねばならず、大魔王の隙を窺って唱えようにもその隙が見つからない。

 かといって下手に呪文に集中すぎれば、途端に大魔王に襲われかねない。歯噛みしながらも、今はこの場を耐えるしかなかった。

 

「……天地魔闘」

 

 不意にバーンが呟く。

 その言葉を聞いた途端、隠しきれぬほどの緊張が周囲に走った。それだけでバーンの笑みが深くなる。

 

「余が"天地魔闘の構え"を取るのを狙っているのだろう?」

 

 全員の反応を楽しむように、バーンはことさらゆっくりと語る。

 

「そして貴様らは未来の知識にて、それを知っているはず。そして、どのような手段かは想像も付かぬが、破る方法もまた知っている……そんなところか。だが、わざわざ付き合ってやる義理もない……むしろ、貴様らが余に付き合え」

「ならば大魔王よ! オレに向けたあの言葉はどういうつもりだ!?」

 

 ダイたちの狙いを見透かしていたことは分かった。だがそうなるとハドラーに手加減したことの真意が読めない。

 バーンが戦いの相手を求めているならば、あの時点でまともに戦っても問題はなかったはずだ。

 

「それは言葉通りの意味に過ぎん。貴様は余を楽しませるだけの力を持っていると判断したのだ。良く言うであろう? ……楽しみは最後まで取っておく、と」

 

 つまり、楽しそうだから後に回したのだ。まだ壊してしまっては勿体ないと。ある意味では大魔王から最大級に評価されたとも取れるが、楽しい玩具だからまだ壊さずにいてやるという言葉は侮辱に他ならない。

 

「それと同じこと。付け加えれば、この場は少々手狭なのでな。邪魔な者を排除する、という理由もあった」

「貴様……!」

「力不足でも余と戦えたのだ。光栄であろう? それとも、こちらの方法がよかったか?」

 

 そういうとバーンはその額にある瞳――鬼眼から光線を放った。

 ダイやバラン、チルノたちといった未だ戦意に満ちている者らは当然として、倒れているクロコダインにマァム。戦闘区域から離れている相手にも平等に光は走り、全員を貫いていく。

 光が止んだ後には、手の平ほどの大きさをした宝珠が三つ転がっていた。

 

「レオナ! チウ!! ブロキーナ師範!!」

「ふむ……瞳になったのは非戦闘員たちだけか。喜べ勇者たちよ、余の見積もりが甘かった! まだ貴様らは余に挑む権利を持っているようだ!」

 

 すぐさま全員を確認し終えたチルノが犠牲者の名を叫ぶ。対してバーンは、予想外の結果に気を良くしていた。

 

 先ほどの光線は、単純に「レベルが低い」「ダメージを受けている」といった、大魔王と戦うに値しない者を瞳と呼ばれる特殊な球体に閉じ込める特殊能力。閉じ込められた者は「見る・聞く・考える」以外の行動が出来ず、それ以外の行動を取ることや、内側から瞳を破るのは――絶対に、とまでは言わないが――不可能に近い。

 レオナとチウは単純に力量不足、ブロキーナは実力はあれど流石に年齢が原因で疲弊していたと判断されたのだろう。そして意外なことに、それ以外の者たちは誰一人として瞳に封じられる事は無かったのだ。

 それはまだ大魔王に挑むに足るだけの実力を有している証拠。遊び道具が残っていると分かればバーンが気を良くするのも頷けるだろう。

 

「そら、どうした? 今の余は少々気分が良い。今度は呪文を使って攻撃するくらいは待ってやろう。回復か? それとも攻撃か? 好きに使え」

 

 明らかな余裕を見せつけながら、ポップらを挑発するように言う。先の攻防でチルノだけが、攻撃呪文に到っては誰も唱えなかったことから、彼らが何に苦心していたのかをすぐに看破していた。

 もはや慢心や傲慢としか呼べぬそれであったが、だが大魔王の力量からすればそれもまた当然とも呼べる。それだけの実力を見せつけたばかりなのだから。

 

「へっ! なら、乗ってやろうじゃねぇか!!」

「ポップ!?」

 

 思いがけぬ同意の声に、思わずチルノが彼の顔を見つめた。いや、チルノだけではない。ダイたち全員が彼へと視線を飛ばし、その真意を推し量ろうとしている。

 このまま大魔王の言葉通りに呪文を放ったところで、事態が好転するとは思えない。全員の目を一身に受けながら、意外にもポップは自信たっぷりの様相を見せた。

 

「どうせこのままじゃジリ貧なんだ。だったら……」

「……わかったわ。乗ればいいのね?」

「ああ、頼む」

 

 ポップは頷く。

 考えは読めなかったが、その言葉だけでなにか策があることをチルノは理解する。いつの間にか他の者たちは、驚いた気配を見せなくなっていたことが、理解を後押していた。

 

「じゃあ、強めので行くわよ」

「任せるぜ」

「よく考えることだ。知恵を使い、考えを巡らせ、余を驚かせてみせよ」

 

 何かがあることは大魔王も既に感じ取っているのだろう。棒立ちで無防備のように見えるが、自然体のまま。何があってもすぐに動き出せるように注意を払っている。

 泳がされているのを感じながらも精神を集中し――

 

「【ホーリー】!!」

極大閃熱呪文(ベギラゴン)!!」

 

 二人の呪文が完成する。

 ポップは突き出した両腕の先より、全てを貫かんとする極太の熱線を放つ。そしてチルノの放った魔法は、天より純白の光球が降ってきた。

 

「これはまた、知らぬ攻撃だな」

 

 ホーリーは大魔王の知識と照らし合わせても未知の魔法だ。はたしてどれほどのものか、値踏みするような視線を浮かべる。

 そして、二つの攻撃がほぼ同時にバーンへと放たれた。

 極大閃熱呪文(ベギラゴン)はその膨大な熱量によって目の前にあるもの全てを呑み込まんと突き進む。

 対してホーリーの光球は、バーンに着弾した途端に破裂し、一本の太い光の柱が生み出された。ただの柱にしか見えぬその正体は、悪しき者を討ち滅ぼさんとする聖なる光だ。

 

 地より生まれ天へと伸びる光の柱に包まれたバーンを、さらに熱線が牙を剥いた猛獣のような勢いで襲い掛かる。

 縦と横。異なる二本の柱に覆い隠され、大魔王の姿は完全に見えなくなった。目を開けているのが辛いほどの膨大な光の奔流。

 

「まだです! フェザーよ!!」

「!!」

 

 二人の攻撃に合わせ、アバンがゴールドフェザーを放った。五つの黄金の羽はバーンを取り囲み、破邪の秘法を発動させ呪文を増幅させる。

 ただでさえ強力な攻撃をダメ押しとばかりに強化するのだ。瞬時にして城をも消し飛ばさんほどに巨大な柱が発生する。

 これが狙いかと、チルノは感心する。これほどの攻撃ならばバーンが無力化できるとは思えない。

 

「なるほど、やってくれる……!」

 

 それが一瞬にして吹き散らされた。奥から大魔王が姿を現す。両腕が振り切られていることから、内側から二つのフェニックスウィングにてかき消したようだ。

 だがさしもの不死鳥も、これだけの攻撃を同時に無力化することは出来なかったらしい。肌や衣服からは煙が立ち上り、焦げた痕跡が至る所に残っていた。蒸し焼きにされたダメージはしっかりと刻み込まれている。

 

「うそ……!」

「ちっ! やっぱりこれだけじゃダメか……」

「流石は大魔王……タフですねぇ……」

 

 驚きの言葉を漏れた。発案者のポップすらも、もう少しダメージを負わせられるはずだと思っていたほどだ。だが、言葉とは裏腹にそれほど落ち込むこともない。なにしろ真の狙いは別にある。

 

 なにしろ、時間は充分に稼げた。

 

「「雷撃呪文(ギガデイン)!!」」

 

 バラン(・・・)ダイ(・・)、二人の(ドラゴン)の騎士が同時に呪文を唱えた。天空より二条の稲妻が降り注ぎ、それぞれの持つ剣へと絡みつく。

 ポップの目論見通り、彼ら親子に必殺剣を準備させるだけの時間を稼ぎ出していた。

 

「ギガブレイクか! だがよもやダイも雷撃呪文(ギガデイン)を操れるようになっていたとは予想外だな!!」

 

 楽しげな口ぶりとは裏腹に、バーンは二人を阻止する動きを見せた。

 ギガブレイク級の攻撃が二つ、それも親子という最強のコンビに使わせるのは流石に不味いと踏んだのだろう。個別に潰すことで危機を排除しようということか。

 

「ブラッディスクライド!」

「ハーケンディストール!!」

「ちっ!」

 

 注意が逸れた隙を逃すことなく、二人の戦士が襲う。彼ら大魔王の動きを止めるべく、手にした武器にて必殺技を直接叩き込んだ。気付くのに一秒以下の僅かな単位ではあったが遅れ、バーンは思わず舌打ちする。

 乱暴に拳を振るいヒュンケルたちを殴り飛ばしたものの、無傷とは行かなかった。脇腹と頬、それぞれから血が流れ出る。前後から挟み撃ちで放たれた二人の攻撃は、先の呪文によるダメージに加えてそもそもの反応の遅れもあってか、バーンの肉体を浅く切り裂き動きを止めて見せた。

 

「バーン!!」

「今度こそ、貰ったぞ!!」

「――ッ!!」

 

 ヒュンケルとラーハルト、二人の戦士によって大魔王の足は予定通り止まり、そこに二人の(ドラゴン)の騎士が当然の様に(・・・・・)切り込んできた。

 ここまでは完全にデザインされた連携、対大魔王戦に際し万が一のためにと幾つか考えていた動きの一つである。二人が手にした剣には雷撃呪文(ギガデイン)の魔法力がたっぷりと込められ、バランは上段に。ダイは剣を逆手に持っている。

 

 そこまで認識して、バーンは遂に息を呑んだ。

 

 ギガブレイクが、そしてライデインストラッシュ――いや、ギガデインを纏ったストラッシュが叩き込まれるのだと、容易に予測が付いてしまう。互いの超必殺技が同時に放たれれば、果たしてどうなるのか。

 

 それを考えるよりも早く、自然と肉体が反応し、動いていた。

 

「天地!! 魔闘!!」

 

 ――馬鹿な!!

 

 技を放つと同時に、バーンは自らの取った行動が信じられなかった。

 

 ――余は天地魔闘は使わんと口にした! それが何故……まさか、余が恐れたとでもいうのか!!

 

 天地魔闘を受け、ダイとバランの二人が吹き飛んでいく光景を見ながら、彼は自問する。不要だと、敵の手には乗らぬと断言して見せた技を使う。

 それもただ単純に死に恐怖したことが原因で。

 大魔王の地位に座し、自らを天地魔界に並ぶ者なしと(うた)ってきたバーンにとってそれは何よりの屈辱でしかなかった。

 戒めを破るだけの理由の一つでもあれば、まだ慰めにもなっただろう。だが言い訳の一つも思いつかぬまま、聡明なる頭脳は残酷にも瞬時にして自らに問いかけた謎の答えを瞬時に導き出した。

 

「大魔王敗れたりッ!!」

「くッ!」

 

 認められぬ事実を見せつけられ、バーンは気が抜けたように立ち尽くす。そこへ、今まで事態を窺っていたハドラーが動き出す。両手にオリハルコンを埋め込んだ地獄の爪(ヘルズ・クロー)を生成し、バーン目掛けて突撃する。

 さしものバーンも敵が来れば腑抜けてはいられない。愚直な突進するハドラーを見て、再び動こうとした。

 

「へへっ、お返しだぜ! 重圧呪文(ベタン)!!」

「【グラビガ】!」

 

 そこへハドラーの後押しをするように、ポップが呪文を放つ。放たれた呪文から今度は即座に理解し、チルノもまた魔法を放った。呪文によって生み出された超重力がバーンへと重くのし掛かり、反撃を邪魔しようとする。

 だがそれでもまだ、バーンの認識からすればハドラーの迎撃は容易なハズだった。

 

 ――これは! 動きが鈍い!! ……いや、動かぬのか!?

 

 だがバーンの意志に反し、彼の肉体は硬直したまま動かない。

 

 それは使い手であるバーンですら知らぬ、天地魔闘の構えの唯一の欠点。莫大なパワーをため込み、それを一度に解放することで攻撃・防御・呪文という三つの動作を同時に行うこの技は、放った後に使い手の身体が動かなくなるという大きすぎる隙が生まれる。

 致命的な欠点であるはずのそれは、皮肉にも強すぎたことが原因で今まで誰にも気付かれることはなかった。天地魔闘を一度放てばそれだけで勝負は決まっていたために。

 

「う、ぬ……おおおおっ!!」

 

 誰も知らぬはずの欠点は一人の少女によって勇者たちに伝えられ、オリハルコンで出来た生命体たちによって証明された。天地魔闘は平常通りに反動として使い手の動きを封じ、更にダメ押しとばかりにポップらの呪文によってバーンは縫い付けられる。

 それでもだ。

 雄叫びを上げながら大魔王は無理矢理にでも肉体を動かそうとする。その意志に応じるかのように、彼の肉体はギチギチと音を上げながら動き始めた。だが、それすらも見越していたかのように、更なる邪魔者が現れる。

 

「オレを忘れていたようだな!!」

「貴様はッ!」

 

 バーンは今日何度目かになる驚きの声を上げた。いや、これが本日最大の驚きであったかもしれない。

 現れたのは倒れていたはずの獣王クロコダインだった。

 

「ほんの少しで構わん! 付き合って貰うぞ!!」

「ぐっ、邪魔だッ!!」

 

 背後からバーンを羽交い締めにして、動かせまいと全力で抑え込む。

 本来のバーンならばこの程度は何の問題もないはずの障害。だが今は違う。天地魔闘の反動による硬直と呪文による重力。なにより意識から消していたはずの相手が現れた動揺が重なり、あり得ぬほど手間取る。

 それは、この状況においては致命的な遅れだった。

 

「オオオオオオッ!! 喰らえ! 大魔王ッ!!」

 

 完全に動きが止まった大魔王目掛け、ハドラーは地獄の爪(ヘルズ・クロー)による一撃を放つ。

 

「ぐ……あああっ!! ば、かな……!!」

 

 それは狙い違わず大魔王の左胸――フェンブレンが刻みつけた小さな傷跡をなぞるように突き刺さると、心臓目掛けて吸い込まれていった。

 

 




大魔王戦は、多対一にも限度がある……
もう(書くの諦めて)逃げていいですか?
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