隣のほうから来ました   作:にせラビア

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LEVEL:117 大魔王バーン -中盤戦-

「おおおっ!!」

「や、やった!!」

 

 値千金と呼ぶに相応しい一撃に、ダイたちは知らず知らず歓声を上げる。ハドラーの地獄の爪(ヘルズ・クロー)はバーンの胸元に根元まで突き刺さり、彼が持つ心臓の一つ――バーンは三つの心臓を持つ最上位の魔族である――を潰していた。

 

「ったく、流石だな! 即座に合わせて来やがった!」

「貴様らとの付き合いも長いのでな!!」

「ええ、とても頼もしいですよハドラー!!」

 

 話し合うような時間は完全になかったというのに、まるで綿密な打ち合わせを重ねたような息の合った動作を見せたことに、驚かされる。ダイたちの動きは天地魔闘を破るための連携の一つとして練習を重ねていたものだが、ハドラーのそれは全く知らなかったはずだ。

 言葉通り、ダイたちの動きを見ただけで狙いを察し、その場で合わせてきたのだろう。

 

「ハドラーも、とんでもないわね……」

 

 幾度も剣を交えた相手とはいえ、あれだけ見事に動きを合わせて結果を見せたとなれば、これはもう褒めるしかない。何とか爪を引き抜こうとするバーンと、抜かせまいと意地を見せるハドラー、そしてバーンを押さえつけようとするクロコダインの死闘に注目しながらも、"この隙に"とチルノはシルバーフェザーを一本取り出すと自らの腕に突き刺し魔力を回復させ始めた。

 

「ぐ、ぐう……っ!」

 

 如何に後二つ代わりが残っているとはいえ、心臓一つを失ってはバーンとてただでは済まない。左胸から絶え間なく走り続ける激痛により口の端から苦痛の声を漏らし、目に見えて鈍った動きを見せながら、それでも自らの胸に突き刺さるハドラーの腕を必死に引き抜こうとしていた。

 だがそうはさせじとクロコダインがバーンの動きを妨害し続ける。

 

「クロコダイン! 貴様ッ!!」

「死んだフリというやつだ! オレの流儀ではないが、この場で手段を選んでいられるほどオレは強くはないのでな!! 役立たずになるのは死んでも御免だ!!」

 

 動物の中には擬死をする者もいる。それを真似、死んだフリをしながらクロコダインは決定的なチャンスが訪れる瞬間を待ち続けていた。勿論、自身の言葉通り本来ならば彼はこのような手段を選ぶような男ではない。

 だがクロコダインの実力――というよりも戦闘スタイルでは、バーン相手に戦力となれるかは怪しい。実力差によって得意の怪力が封殺されてしまうのだ。かといって、壁となるにもバーンの攻撃力は大きすぎる。二度、三度耐えられれば僥倖だろう。

 流儀に拘りすぎて無能の烙印を押されるくらいならば――そう決意し、彼は自らの身を挺してバーンの動きを封じることを選んでいた。

 

「放せ!! 放さぬか!!」

「断る!!」

 

 その効果は絶大であった。心臓一つ潰されてなおバーンの力はクロコダインを上回っているものの、一時的にでも大魔王の動きを止められたのは大きい。既に天地魔闘を放った直後の硬直は解けており、二人の魔法使いが放った超重力の網も解けているが、まるでその代わりを務めているかのようだ。

 無論、二者の力の差は歴然。今もゆっくりと力任せではあるが拮抗が崩れ、バーンの腕が外側へと動いていくが、それを黙って見ているほど呑気な者はこの場にはいない。

 

「クロコダインばかりに気を取られていてよいのか、大魔王!?」

 

 ハドラーもまた、爪どころか拳ごと埋め込む程に力を込めていた。それでもじわじわと引き抜かれつつあることに驚愕しつつも、彼は呪文を唱える。

 

極大閃熱呪文(ベギラゴン)!!」

「がああああぁぁっっ!!」

「ぐ、ううううぅっっ!!」

 

 完成した呪文を自らの地獄の爪(ヘルズ・クロー)を対象として放った。

 やっていることは、彼がかつて操った超魔爆熱覇のそれと同じ。ただ違うのは爪が直接敵に触れた状態で発動させているということ。

 瞬く間に爪へと高熱が宿るが、それも一瞬のこと。

 次の瞬間にはバーンの肉体へと伝わり、大魔王が誇る無敵の肉体を内側から焼いていく。それでもなお有り余る極大閃熱呪文(ベギラゴン)のエネルギーは外へと噴出する。漏れ出た高熱がバーンを通じて、クロコダインにも襲い掛かる。

 まるで焼けた鉄柱を抱き締めているような気分を味わいながら、だがそれでも獣王が力を緩めることはない。

 

「お、おのれ……ここまでするか……!!」

 

 ――まずはこれを……ハドラーの爪をどうにかせねば!!

 

 極大閃熱呪文(ベギラゴン)の超高熱に内部から襲われながらも、バーンはこの状況を打破する方法を考えていた。

 これほどダメージを受けては、腹立たしいことだがどこかで一度回復を視野に入れねばならない。だがそのためには地獄の爪(ヘルズ・クロー)を抜く必要がある。

 突き刺さったまま、というのが非常に厄介なのだ。剣や槍で一度貫かれた程度ならば、回復呪文を唱えれば傷はすぐにでも癒える。だが異物が突き刺さったまま回復呪文を唱えれば、肉体と異物が一体化してしまう恐れがある。

 無論、ゆっくりと落ち着いて回復呪文を唱えればそのような事態は起こらない。だが今は戦闘中だ。焦りがミスを呼び、最悪の事態を招く可能性はある。そうなればむしろ癒やす前よりも面倒な事になってしまう。

 

「クロコダイン!!」

「オレに構うなッ! オレごと大魔王を――ッ!!」

 

 あまりの様相に身を案じ、思わずチルノが叫ぶ。だがクロコダインは弱みを見せまいと叫ぶ。それが拮抗の崩れる切っ掛けとなった。

 

「図に、乗るなああぁッ!!」

 

 叫んだことでクロコダインの拘束が僅かに緩まり、そのほんの一瞬を見逃すことなくバーンが動いた。渾身の力を込めると、膂力のみでクロコダインの巨体を力任せに引き剥がし、投げ飛ばす。

 

「う、うおおおおおっっ!?!?」

「おっさん!」

 

 あれだけのダメージを受けておきながらもなおこれだけの動きをやってのける。鞠のように軽々と宙を舞うクロコダインの巨体は、どこか現実離れした光景に見えた。

 邪魔がなくなり、続いてバーンは未だ突き刺さる腕を掴む。引き抜こうとするが当然、ハドラーは力を込めて抵抗する。

 

「ハドラーよ……この腕を放せ……」

「ふざけるな!!」

「そうか……ならば、もはやこの腕はいらんな?」

 

 冷ややかな目で見下ろすと、バーンは右腕を掲げた。その手の先で手刀を形作っているのが見える。その瞬間、次に何が行われるのかが全員の脳裏に一斉に浮かんだ。

 

「やべぇ!」

「さ、させるか!!」

 

 ポップたちが慌てて呪文を放とうとし、ラーハルトらがバーンを阻止するために動いた。ハドラーさえも、もう片方の腕を(かざ)して防御姿勢を取る。だがそれら全てよりバーンの方が早く動いていた。

 

「カラミティエンド!!」

「ぐあああぁぁっ!!」

 

 振り下ろされた手刀は一瞬にしてハドラーの腕を切断する。

 まるで真剣を使ったかのような見事な切断面が覗いたと思えば、そこから大量に血が流れ出ていく。片腕を失いバランスを崩したハドラーと、切断した腕を胸に生やしたままのバーンの姿がそこにはあった。

 

「間に合わなんだか!!」

「だが今ならば!」

「おっと、貴様にはまだ役目がある」

「ぐわっ!」

 

 迫り来る二人の戦士に向けて、バーンは隻腕となったハドラーを投げつける。いやらしい程に絶妙なタイミングで繰り出されたそれはラーハルトの移動を妨げ、思わず足を止めてしまった。

 

「くっ! ……なに!?」

「これは……!」

 

 一歩遅れてヒュンケルが追いつく。そこで二人の目に映ったのは、二羽の不死鳥がバーンの両手から生み出され、今にも飛び立たんとする瞬間であった。

 

「ぐっ! どけっ!!」

「何を……」

「カイザーフェニックス!!」

 

 ハドラーが渾身の力を振り絞り二人を突き飛ばしたのと同時に、バーンが不死鳥を解き放った。二羽の不死鳥はさながら比翼の鳥のように飛び立つと、ハドラー目掛けて一直線に飛来する。

 

「ぐあああああぁぁっ!!」

 

 元からそれが狙いだったのだろう。

 ラーハルトらを庇い、間一髪で効果範囲から逃がすことに成功したが、代わりにハドラーだけが不死鳥の狩り場に取り残される。灼熱の(くちばし)がハドラーの肉体を(ついば)み、その肉体を一片の灰すら残さぬ勢いで焼き尽くしていく。

 

「ちと、やりすぎたか……? まあ、これで復活してこれまい……!!」

 

 ――もう一度召喚を……いえ、どうしよう……?

 

 その様子を見たチルノは行動に迷う。

 再び召喚魔法を使えばハドラーを呼び出すことは可能。だがその場合に気がかりなのが、バーンの心臓へと突き刺さったままのあの腕だ。

 呼び出した場合、果たしてあの腕はどうなるのか。

 片腕はあのまま残り、そしてハドラー本人も完全な状態で呼び出せれば最高なのだが、そこまで都合の良い展開は考えにくい。試したことはないので想像だが、あの腕は消えてハドラーが再構成されるのだろう。その場合、心臓を一つ潰すという大きなアドバンテージを失う事になる。

 ならばここは攻めるべき。そう考えたところだ。

 

極大爆裂呪文(イオナズン)!!」

 

 全周囲へ向けて大魔王が両腕から呪文を放つ。狙いを付けずに無差別に狙ったそれは爆風の障壁を生み出し、更にはダイたち全員を吹き飛ばさんと襲い掛かる。

 

「もう一度だ!」

 

 再度、先ほどの同じように呪文を放つ。間髪を入れずに放たれた都合四発の極大爆裂呪文(イオナズン)は、勇者たち全員の動きを完全に止めていた。

 

「念には念、潰れておれ……重圧呪文(ベタン)!」

 

 トドメとばかりに全周囲に向けて超重圧を生み出す。先の――ハドラーたちが救助に割って入る前に使ったお遊びのようなものとは違う、五体全てをグチャグチャに押し潰さんとするほどの超重力だ。

 吹き飛ばされ、物理的に距離を取らされていたダイたちはこの重力の網に完全に捕らわれ動きを完全に封じられる。

 

「これで少しは時間も稼げよう……まずは……」

 

 やっていることはポップたちの真似に近い。バーンの動きを封じるためにダイたちがしたのと同じく、今度はバーンがダイたちの動きを封じるために行った行動だ。だが大魔王の次に取った行動は攻撃ではなく回復であった。

 

「ぐ……抜けん!?」

 

 正確には回復のための下準備、と言ったところか。何しろ心臓が一つ潰された今の状態では、バーンは天地魔闘を放つこともできない。五体満足である時と比較すれば、大きく戦力が低下しているのだから。

 

 胸元に突き刺さったままのハドラーの腕を掴み、引き抜こうとする。一刻も早くこの邪魔物を取り除こうと苛立ち混じりに力を込めるものの、微動だにしない。

 それはさながら魔王の呪いか、はたまた意地か。ハドラーの腕はまるで根でも生えたかのようにバーンに抗い続け、引き抜かれることを拒絶し続けていた。

 再び力を込めるものの結果が変わることはない。それを確認した途端、大魔王の表情に憤怒の色が現れた。

 

「ならば破壊し尽くすまで!」

 

 細胞の一片単位まで切り刻んでやろうと再び手刀を構える。そこにバーン目掛けて光の矢が飛んできた。

 

極大消滅呪文(メドローア)!!」

「むっ……ぐっ! はぁっ!!」

 

 その正体を見抜いたバーンは、攻撃に向けていた意識を防御へと瞬時に切り替える。フェニックスウィングにて極大消滅呪文(メドローア)を跳ね返そうとした途端、胸元から激痛が走った。

 万全の状態で放てば術者へと正確に跳ね返していたはずのフェニックスウィングであったが、苦痛を感じつつも放ったそれは光の矢をあらぬ方向へと弾き飛ばすのが精一杯だった。

 

「跳ね返させぬとは……どこまでも邪魔をしてくれる!」

 

 その原因となったのは間違いなく胸に刺さる腕。未だハドラーが抵抗し続けているのを忌々しく感じ、この場で破壊しつくしたい衝動に襲われる。だがそれは今すべきことではないと同時に理解して、バーンはポップの方を見る。

 

「ハァ……ッ……ハァ……ッ……!! 師匠の呪文を、勝手に使ってんじゃねぇよ……!!」

「貴様ら……!」

 

 肩で息をしながら呪文を放ったままの格好でいるポップ。その傍らには、彼を支えるようにマァムの姿があった。

極大爆裂呪文(イオナズン)重圧呪文(ベタン)の攻撃を受けたとは思えないほど軽症の二人の姿を見たことで、バーンの苛立ちが更に増していく。

 

「クロコダインの次は貴様か……」

「ええ、そうよ。二番煎じみたいで、ちょっとカッコ悪いけれどね」

「何をした?」

「当然、呪文を使ったのよ。でもざーんねん、大魔王なんだから気付いてくれると思ったのに……案外、物を知らないのね」

 

 人差し指を口元で立てる、いわゆる「ナイショ」のポーズを見せながらマァムは小悪魔のように微笑んだ。

 タネを明かせば単純、復活したのはリホイミの呪文のおかげだ。

 極大爆裂呪文(イオナズン)にて吹き飛ばされて一時的に気絶していたものの、意識を取り戻したのは比較的早かった。目を覚まし、現状を把握すると彼女はすぐさまこの呪文を唱え、ゆっくりと回復の時を待った。ベホイミのような回復呪文では目立ってしまうと考えたからだ。目覚めた時に聞いたクロコダインの「流儀ではないが」という言葉も、彼女の決断を後押ししていた。

 

 マァムは挑発めいた物言いをバーンに投げると、構えを取り闘気を漲らせる。

 

「さて、と……寝ていた分は働いて返さないと……ねっ!!」

 

 

 

 

「あいたた……緊急事態だから仕方ないけれど……」

 

 マァムたちがバーンを相手に戦いを挑んだその影で、チルノは身体を起こした。蹴り飛ばされた部分が痛むが、そのおかげで重圧呪文(ベタン)の影響範囲から一足早く逃れられたのだから文句は言えない。

 チルノを蹴り飛ばしたのもマァムの仕業だ。彼女はポップを助け、チルノを強引に呪文の影響範囲外に連れ出すと、すぐさまポップと共に大魔王に牙を向けていた。

 

「早くしないと……」

 

 何か指示や目配せをしたワケではないが、バーンの注意を引くような言動からチルノはマァムの狙いを察する。

 立て直しだ。

 さすがにあれだけの呪文を連発されては全員のダメージも深くなっている。チルノを影響外に出したのも、全体を回復させる術に長けているという判断からだろう。

 既に重力の影響はなくなっている。まだ痛みを訴える身体の悲鳴を無視して、彼女は回復魔法を唱えようとした。

 

「ケア――」

「すみませんが……私から先にお願いできますか?」

 

 その声にチルノは動きを止める。驚かされたのは声の内容ではない、その声の主に気付いたからだ。少なくとも彼女の中ではそういった独善的なことを口にするはずがないと、そう思い込んでいた相手だった。

 

「先生?」

「恥ずべき事を言っていると理解しているのですけどね。ですがどうかお願いしますよ」

 

 近くにいたらしく、短い距離を這いずり寄ってきた様子が見えた。アバン本人もワガママなことを言っていると自覚しているのだろう。無理を承知で願う。

 

「それに剣が……ハドラーが言っているんですよ。アバン、お前の力はその程度か、って。そうまで言われちゃ、元ですが勇者の名が廃るってものです……半分、意地みたいなものですが」

「……わかりました」

 

 単に、教え子二人だけで時間稼ぎをしていることが見ていられなくなったのか、それとも本当にハドラーに感化されたのか。少し茶化した言い方をしているので本心までは読み取れなかったが、アバンも何か考えがあるようにチルノからは見えた。

 

「【ケアルガ】」

 

 少女は操れる中で最上級の回復魔法を唱え、その傷を癒やしていく。

 

 

 

 

「やあああぁぁっ!!」

「無駄だ」

 

 気合いの声を上げながらマァムはバーンへと殴りかかる。その拳に込めるのは一撃必殺の気迫だ。援護魔法によって強化された速度で放たれた攻撃であったが、バーンは伸び来る腕を横合いから殴り飛ばして弾く。

 

「……くっ!」

 

 骨が折れたと感じるほど強烈な一撃であったが、チルノが張った防御魔法のおかげでそこまで大事には到らない。ただし、痛みはそのままだ。リホイミの効果によってゆっくりと癒えていくが、生憎と完治を待つだけの猶予はない。なにより守勢に回っては、バーンから追撃を受けかねない。

 

「まだまだっ!!」

 

 悲鳴を上げたくなるほどの痛みを無視して、さらに連続攻撃を繰り出す。だがバーンはその攻撃全てを打ち落としていた。幾度も強烈な力で弾かれ、マァムの手足が真っ赤に腫れていくのが遠目にも見えた。

 

「マァム!!」

「大丈夫よポップ……ようやく、見えたんだから……」

「みえ、た……?」

 

 何を言いたいのか分からず首を傾げるポップであったが、その返事を待つことなくマァムは再び拳を放つ。

 

「拳だけは喰らわぬように注意していたが、いい加減付き合うのにも飽きたわ!」

「うっ……!! ……あああぁっ!!」

 

 手足ではなく顔面を狙いを定め、バーンは攻撃を繰り出した。そこには閃華裂光拳を警戒する動きなどなかった。今までのマァムの攻撃から、仮に当たっても問題はないと判断したのだろう。

 振り抜かれた拳は、相手の顔面を確実に捉えていた。だがマァムは倒れるどころか怯んだ様子すら見せることなく、逆に殴られた勢いをも利用して回転蹴りを放ってみせた。

 

「なっ!? ぐっ!」

 

 想定外の結果に驚き、バーンは頭部を蹴り飛ばされる。勢いの付いた強烈な蹴りで視界が一瞬ブレるが、すぐに体勢を立て直す。

 だが、大魔王の胸中は驚きに満ちていた。

 マァムに直撃した拳は、本来ならば人間の頭などザクロのように容易に砕く程の威力がある。鍛えた人間であっても、耐えられるハズがない。どれだけ少なく見積もっても、戦闘不能は避けられない威力のはずだった。しかしマァムは無事なまま。まるで攻撃そのものを無効化されたようだ。

 

「……っ!? 面妖な!!」

 

 正体が掴めぬ薄気味悪さを感じながらも、バーンは再度攻撃を仕掛ける。今度は殴りではなく、ある意味でバーンが最も信頼を置く手刀での一撃だ。振り下ろされた一撃は吸い込まれるようにマァムの肩口から斜めへと滑っていく。

 身に付けていた魔甲拳の鎧が勢いよく吹き飛ぶ様子にダメージを確信し、バーンは口の端を釣り上げた。

 

「いやあああぁぁっ!!」

「ぐ、おおおぉっ!?」

 

 けれど、その期待は泡と消える。手刀による一撃を受けてもマァムは止まらず、バーンの懐へ潜り込むと思い切り肘打ちを打ち込んだ。衝撃と驚きで息が詰まり、動きを止めた一瞬で更にマァムは動く。

 先ほどのお返しとばかりに、バーンの頭部目掛けて下から突き上げるように膝蹴りを叩き込んだ。下顎を打ち上げように強打されては、さしもの大魔王とて空足を踏んでよろめき意識を失いかける。

 消えそうになる意識を繋ぎ止めながら、もはやこれはまぐれなどではないとバーンは確信していた。

 

「余の攻撃を……マァム、貴様……ッ!!」

 

 武神流には、相手の攻撃を吸収し受け流すと言うものがある。強力な攻撃を更なる頑強さを持って正面で受け止めるのではなく、一見無防備に受けた上で受け流す。マァムが使っているのはその技術である。極めれば、大魔王の攻撃とて無効化できるのだ。

 

「これが、武神流の極意よ!」

 

 と、大見得を切って見せたがまだマァムは未熟。

 マイティガードによるダメージ軽減とリホイミによる継続した回復効果の恩恵があってがあってようやく形に出来ているといったところか。

 技術に加えて防御結界の効果でダメージを最小限に抑え、受けたダメージそのものは継続回復効果によって癒やす。最後にやせ我慢で無傷を装えば、敵の攻撃を完璧に受け流したように見えるというわけである。

 加えて、実際に攻撃を受けて体験せねば受け流しのタイミングを掴めないという欠点もある。今までの戦いで一度もまともに使えていなかったのがその証拠だ。

 

「その極意とて、呪文までは防げまい!! カイザーフェ――」

「海波斬!」

 

 灼熱の不死鳥の再誕をオリハルコンの剣が阻止する。放たれた高速の剣技は呪文が完成する前の一瞬の不安定な状態を狙い、その首を掻き切ってみせた。

 

「むっ!? アバンか!」

「アバンストラッシュ!」

 

 さらにもう一撃、自身の最強剣技をアバンは放つ。狙うはバーンの左半身――そちらは右側と比べて僅かに動きが鈍っている。なにしろ今なお怨念の様に地獄の爪(ヘルズ・クロー)が突き刺さっているのだ。何の弊害もなく肉体が動くはずはない。

 

「遅い」

 

 だがそれでも通じるかどうかは別問題だ。狙い違わず放たれた攻撃を、バーンは己の肉体で受け止めてみせた。刃が僅かに食い込み皮一枚切り裂いてこそいるものの、それ以上押し込む事が出来なかった。

 

「……やはり私の剣だけでは通じませんか」

 

 狙い澄ましたかのような攻撃を防がれても、アバンは動揺する気配を一切みせなかった。

 

「ですがご心配なく。真打ちは私ではありませんから」

「むっ!?」

 

 真打ちはアバンではない。ならば一体誰だというのか。ダイか、バランか、それともまだ動かぬ誰かか。バーンは全員を警戒するよう意識を向ける。

 

「行きますよ! ハドラー(・・・・)!!」

「なにっ!?」

 

 自らの剣に向けて叫びながら、アバンは再び剣を持つ手に力を込めた。すると、ゆっくりとではあるが剣は押し込まれていく。その光景は、まるで誰かがアバンへ力を貸しているかのようだ。じわじわと食い込み、バーンの肉体を切り裂いていった。

 

「ぐ、があああっ!!」

「はあああああっっ!!」

 

 アバンの呼びかけに呼応するように、胸に突き刺さった腕が闘気を放つ。まるで今そこにハドラーが存在しているかのような力を見せ、激痛を伴ってバーンの動きを阻害する。それに引っ張られるようにアバンの持つ剣もその鋭さを増していく。そしてアバン本人も手にした剣に後れを取らぬよう、全力を込める。

 かつての勇者と魔王。その二人が互いに互いを高め合い大魔王に挑む姿だった。

 

「真打ちは、私ではなく……私たち(・・)です。とはいえこれが精一杯ですね」

 

 そのままバーンの腕を切断するかと思われたアバンの剣だったが、腕の半ばまで食い込んだところで完全に動きが止まる。そこで精力が尽きたらしく、アバンは力なく呟いた。

 

「今だ!! おらあああぁぁっ!!」

 

 半ばで尽きた師の想いを弟子が繋ぐ。ポップはブラックロッドへありったけの魔法力を込めると、大魔王へ向けて全力で投擲する。黒杖は持ち主の意を汲み取り、バーンの額――鬼眼目掛けて突き進む。

 

「マァム!」

「ええ!」

 

 ポップの援護に合わせるように、マァムもまた動く。

 

「くっ!」

 

 迫り来るブラックロッドを、バーンは首を傾け回避する。同時に迫り来るマァムを打倒しようとして、己が失策を取ったことに気付いた。彼女は再び攻撃を受け流すとバーンの片足目掛けて必殺拳を放った。

 

「貰ったわ! 閃華裂光拳!!」

 

 拳が当たると同時に回復呪文のエネルギーが炸裂し、強烈な光を放つ。続いて大きな亀裂が走ったような鈍い音が響く。

 

「まさ……か……!?」

 

 閃華裂光拳の効果により、バーンの片足はその大半が砕け散っていた。支えを失い、身体がバランスを崩す。その加重に耐えきれず、片足が完全に折れる。当然立っていられず、信じられないほどゆっくりと景色が傾いていくのを感じながら、バーンは砕けた自らの足に目をやっていた。

 

 だが、バーンが本当に目をやるべきは自らの傷の具合ではなかった。

 

 アバンが復活して戦線に加わったのだ。それはつまり、回復が済んだということ。ならばアバンの回復を終えて手透きになった彼女が次に何をするか。

 そんなことは、考えるまでもない。

 

「アバンストラッシュ!!」

 

 片足を失い無防備となったバーン目掛け、ダイが仕掛ける。ストラッシュの一撃は左腕目掛けて放たれ、既にアバンによって傷つけられていたその腕を完全に切り裂いた。

 

「余の腕が……!?」

 

 マァムの一撃を受け、戦闘中でありながら呆けてしまった相手に深手を負わせるなど、オリハルコンの剣を手にした(ドラゴン)の騎士にとっては容易いことだ。

 そして、神の金属で作られた剣を手にする伝説の戦士はもう一人存在している。

 

「大魔王ッ!!」

 

 バランが渾身の一撃を放ち、剣閃が斜めの軌跡を描いた。バーンの胸に刀傷が刻まれ、切っ先が内臓に届くほど深く切り込まれる。バーンが持つ三つの心臓――その二つ目の鼓動を止めるほどに深く。

 

「ば、馬鹿な……!!」

 

 そう呟きながら、バーンは倒れていった。

 

 




ハドラー様がすごく身体を張ってる。
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