隣のほうから来ました   作:にせラビア

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盤外なので短い。


LEVEL:118 大魔王バーン -盤外戦-

 バランの一撃を受け、まるで力尽きたように大魔王バーンは地へと倒れ伏した。片腕片足を失い、三つある心臓のうち二つまでを潰される。それでもなお、バーンが死することはない。

 肉体は未だ健在であり、今の状態でも動き回ることは可能だろう。回復呪文を唱えれば、失った手足を再生させることも可能だろう。

 だが精神は違う。

 

 なによりも、それをダイたちが許すはずもなかった。

 

「大魔王!」

「まだだ、追撃を!」

 

 ダイたちの攻撃に続き、ヒュンケルとラーハルトが倒れたままのバーンに迫る。彼らは回復が遅れた分だけ動き出すのも遅くなっていた。しかしそのおかげで良きタイミングでの追撃という形が実現していた。

 そして彼らを回復させた当の本人はといえば、どうやらかなり魔力を消耗したのだろう。辛そうな表情を浮かべながら二本まとめてシルバーフェザーを腕に刺し、魔法力を回復させていた。

 

「く……くくくく……ふはははははっ!! はーっはっはっはっは!!」

 

 襲い掛かる二人の姿を見ながら、バーンは突如、我慢しきれなくなったように笑い出した。窮地に陥ったというのに哄笑を上げる大魔王の異様な光景に、思わず全員が手を止めてしまう。

 

「な、なんだ……」

「笑ってる……?」

「追い込まれすぎて、自棄になったか?」

 

 誰かが呟いたが、そう思われても仕方ないだろう。打つ手もなく、自身の敗北を悟ったが故の笑い。いわゆる"もう笑うしかない"という状態になったとしか思えない。

 

「ダイ、バラン、チルノ、そしてその仲間たちよ……見事だ。余を……大魔王バーンをここまで追い詰めた者は、過去に一人もいなかったぞ。褒めてつかわそう」

 

 ひとしきり笑い声を上げた後、バーンは寝そべったまま、身を起こすこともなく語り出した。

 

「そしてヒュンケルとラーハルトの攻撃による追撃を受け、余は更に傷を負う。そうなれば、ほどなくして貴様らは勝利を手にするだろう……無論、余とて抵抗はするが、貴様らの勝利という結果は揺らぐまい……」

 

 それは、己の敗北を受け入れたという宣言だった。

 

「だが、貴様らは一つ忘れているようだな」

「何!?」

「どうせ聞き及んでいるのだろう? この大魔宮(バーンパレス)に仕込まれたピラァのことを」

 

 ――ピラァ。

 その言葉を聞いた途端、ほぼ全員の表情が僅かに歪む。

 

「顔色が変わったな……実に察しが良いぞ」

 

 そしてダイたちの反応にバーンもまた愉悦にも似た表情を浮かべていた。

 

 ピラァ・オブ・バーン――通称ピラァは大魔宮(バーンパレス)に合計六本格納されており、それぞれが巨大な黒の核晶(コア)を内蔵している。本来ならばこのピラァは地上世界の各所に落とし、同時に起爆させることで魔界まで続く巨大な穴を開けるという目的のために用意された兵器だ。

 本来の歴史では既に地上の各地に落とされていたが、この世界ではダイたちの打倒を優先したためピラァはまだ大魔宮(バーンパレス)の各所に格納されたまま、息を潜めて眠っている。

 例えるなら、巨大な爆弾が仕掛けられた戦場で戦っているようなものだ。そしてその爆弾は、バーンの指令一つで起爆させられる。

 

「負けるよりはいい。余が長年準備を続けてきた計画が、このようなところで全て潰されて良いはずがない……」

「よ、よせっ!!」

「止めろおおぉぉっっ!!」

 

 バーンが何をするつもりか、全員が瞬時に理解していた。複数の黒の核晶(コア)を起爆させ、この辺り一帯をダイたち諸共吹き飛ばすつもりなのだ。

 

 言うなれば、追い込みすぎた。

 失ったのが腕一本だけならば、戦える者の数がもっと少なければ、バーンの脳裏に敗北の影がチラつくことはなかっただろう。だが、ダイたちは勝ちすぎた。その結果、バーンに自爆をも厭わないと決意させてしまった。

 

 そんなことを許せば、ダイたちはおろかメルルやフローラといった最終決戦に参加している者たちも確実に命を落とす。なんとか止めようとするが、起爆させる為にはバーンが少し魔法力を放つだけだ。一瞬で終わってしまう。

 

(ドラゴン)の騎士と地上の強者共を一掃すれば……残った地上を支配するのはヴェルザーか、それともあやつか……おそらくヴェルザーであろうな。その姿を見られぬのだけが心残りか……」

 

 起爆直前、バーンは自分たちがいなくなった後の世界を夢想する。

 

 魔界に残る実力者はあと二人。だが、地上征服の野心を燃やし続けているのはヴェルザーだけだ。遠からぬうちに地上に姿を現し、我が物とするのだろう。

 

 黒の核晶(コア)で吹き飛び、寂しくなった地上を。

 

 本来は黒の核晶(コア)を六芒星の頂点それぞれに配置することで、魔術的要素を加味させて威力を増す予定だったが、今となってはそれは叶わない。しかし、単純に集めて爆発させるだけでも充分すぎるほどの破壊力がある。

 つまり強力な爆風によって山や川が削れ、さながら地面を(なら)したような状態になることは想像に難くない。

 

 殺風景になった地上を見て、落胆するヴェルザー。その姿を見られないのだけがバーンの心残りだった。

 

「くくく……」

 

 せめて想像の中だけでもその様子を堪能しながら、バーンは黒の核晶(コア)を起爆させた。

 

 

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 

 

 

 しかし、なにもおこらなかった。

 

「な、なんだ……?」

「馬鹿な……バーンの狙いは、黒の核晶(コア)を爆破させることではなかったのか?」

「オレたち諸共全てを吹き飛ばす……そう口にしていたはずだぞ!?」

 

 明らかに起爆させたにもかかわらず、何も起こらない。思わず身を固くしていたダイたちであったが、肩すかしを食らったように驚きつつも拍子抜けしていた。

 一人を除いた(・・・・・・)全員が、わけがわからないというようにキョロキョロと周囲を見回す。

 

「……爆発はっ……爆発はどうしたアァァッ!!」

 

 わけがわからないのは大魔王も同じだった。

 自分は間違いなく起爆させた。魔法力も放った。ならばこれで問題なく動作するはずだ。黒の核晶(コア)は大魔王の悔恨と怨念の感情を抱きながら爆発し、地上世界を舐め尽くすはずなのだ。

 それが何故、どうしてこのような結果になるのか。このような結果を認められるはずがない。

 

「よかった……どうやら間に合ったみたいね」

 

 混乱の最中、チルノは突然安堵したように呟いた。その様子は当然、全員の注目を集めることとなる。

 

「姉ちゃん、何かやったの……?」

「ええ、そうよ」

 

 恐る恐る尋ねたダイの言葉を、チルノはあっさりと肯定してみせた。もう何度目になるのか、数えるのも面倒なほどの驚きを味わう。そして当然大魔王もだ。

 

「チルノ! 言えッ! 貴様、何をした!!」

「何って……黒の核晶(コア)も基本的には機械仕掛けの爆弾だから、氷系呪文(ヒャド)で完全に凍り付かせてしまえば作動しない。これは前にも話した……っけ?」

 

 黒の核晶(コア)を外部から停止させる方法について、ダイたち相手に伝えただろうか? 一瞬不安になりながらも知っているという前提でチルノは話を続ける。

 

「と、とにかく、六つの爆弾を全部凍り付かせたの。そうすれば爆発することはない。ピラァに仕込まれた爆弾もそうやって止めたのよ」

「馬鹿なことを言うな!」

 

 呪文で凍り付かせれば止まる。その理屈は分かったが、それで納得できるはずがない。

 

「貴様はずっと余と戦っていた。それがどうしてピラァまで向かい、黒の核晶(コア)を凍らせる事が出来る!!」

「当然、私じゃないわよ。凍らせたのは別の人物」

「馬鹿を言うな! この大魔宮(バーンパレス)は余の庭! そのような者がいれば分からぬはずがない! 一体どこにいたというのだ!!」

 

 激昂するバーンを前に、チルノは小悪魔のような含み笑いを浮かべながらヒントを口にする。

 

「ふふふ、いるじゃない。私たちと同じくらい強くて、私たちよりもこの大魔宮(バーンパレス)の内部構造を熟知していて、丁度手が空いている人たちが。もう忘れちゃった?」

「い、いたっけ?」

「オレたちと同じくらい強い?」

「内部構造を熟知……?」

 

 ダイたちも該当する人物を捜すが、思い当たらない。そもそもそんな相手がいれば、是非ともバーン討伐に加わって欲しいくらいだ。

 

「答えは――」

 

 次の句を言う前に、チルノはほんの少しだけ意識を別の場所に向ける。そこには仕事を完遂させ、喜びの様子を見せる金属生命体たちの姿があった。

 

「――ハドラー親衛騎団よ」

「ッ!!」

 

 誰もが考慮の外に漏れていたであろうその名を耳にして、驚きを隠せなかった。

 

「倒されても、召喚魔法を使えばまた呼べる。でもバーンとの戦いにはそこまで貢献できない。けれども本人たちはまだ戦いたい。じゃあ、彼らが取れる中で最もバーンにダメージを与える方法は何か?」

「それが、爆弾を凍らせるということか……」

「そういうこと」

 

 バランの言葉にチルノは頷く。

 

 親衛騎団たちは皆、一人一人が火炎呪文(メラ)系や閃熱呪文(ギラ)系などの呪文を極めているが、だからといってそれ以外の呪文が使えないわけではない。全員が戦闘の天才であり、加えてチルノの精神世界にて修行するだけの時間もあった。下地と時間があれば、習得するのは容易いこと。

 修練の結果、全員が氷系呪文(ヒャド)系の呪文を覚えるまでに到った。勿論、個々が得意とする系統の呪文と比較すれば児戯のようなものだが、物言わぬ爆弾を凍り付かせるだけならば余りあるほどの完成度を誇っていた。

 

 前提となる呪文を覚えれば、後は打ち合わせ通り。

 バーンへと挑み、満足して倒されたという印象を植え付けたその裏で、チルノがこっそりと召喚する。

 呼び出された彼らはまず分かれて大魔宮(バーンパレス)の先端部――いわゆる羽根の部分に仕込まれた核晶(コア)を凍らせる。最後に中心部分へと全員が集まり、丁度ダイたちが戦っている下に位置する核晶(コア)を凍結させた。

 

 チルノが意識を飛ばした時に見たのは、その仕事を終えて喜ぶ彼らの姿だった。それを見られれば、シルバーフェザーを頻繁に刺して魔法力を回復させ続けながら大魔王と戦った甲斐があったというものだ。

 

「でも、本当に危なかったのよ。バーンがもう少し早く起爆させられていたら、地上ごと吹き飛んでいたはずだから……」

「うえぇぇ……マジかよ、おっかねぇ……」

 

 無事であったからこそ、その"もしも"を想像してしまい、思わずポップが身震いする。ポップだけでなく、誰もが自分たちごと地上が吹き飛ぶ光景を思い描いてしまい、恐怖で顔を引きつらせていた。

 

「馬鹿、な。あやつらが……余の道具でしかなかったはず……」

「バーン、あなたが得意なチェスのルールは、倒れた駒はそのまま。盤上から取り除かれた駒はその対局中ではもう二度と活躍することはない。でもね、私も似たような盤上遊技を知っているの。そのルールでは、倒した敵の駒を自分の駒として使えるようになる。なかなか面白いルールでしょう? 取り除かれた駒の存在を忘れていたのが、あなたのミスよ」

 

 チルノの言葉に、大魔王は何も応じなかった。ただ空虚な瞳であらぬ方向を見ている。

 

「それともう一つ、アルビナスからの伝言よ――『ただの道具に三度も手を噛まれた気分はどうですか大魔王? 顔を直接確認できないのが残念です』――だって」

「そう、か……」

 

 たっぷりと皮肉と悪意が込められたその言葉にすら一切の興味を見せることもなく、大魔王は残った手を(かざ)して顔に陰を作る。

 

「もはや……どうでもよい……」

 

 精気の抜けた声でそう零すと、指を自らの額――その鬼眼へと突き刺した。

 

 




実は、親衛騎団はもう一つ役割がありました。

召喚魔法が無言でも使えたり、再召喚すると復活したり、フェザー(おくすり)を何度も注射していたり、これが理由。
アルビナスが「遠い場所から祈っています」と変な台詞を言っていたので「こりゃまだ何かあるな」というのはバレバレだったかと思います。

チェスは敵の駒を取っても再利用できないけれど、これは将棋なので取った駒は使えますよ理論。
(なお「その理屈ならバーン様にやられてるんだから、親衛騎団はバーン側につくだろ」というツッコミは無しでお願いします)
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