隣のほうから来ました   作:にせラビア

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ずーっと身体が痛かったり、熱が出たりして。一ヶ月くらい大変でした。
……まさかバーン様の呪い!?
(サマルトリアの王子もベラヌールで呪われたし)

※ 追記:鬼眼王の全高を5メートル→10メートルにしました。
  高さの感覚がホントわからない……


LEVEL:119 大魔王バーン -終盤戦-

「ウォオオオオオッ!!」

 

 額へ指を差し込み、自ら鬼眼を抉り取ろうとする。眼窩に指を突き入れたことで激しく血が溢れ出ていき、流れる血がまるで仮面のようにバーンの顔を濡らしていった。

 鬼眼とはバーンの魔法力の源であると同時に、第三の眼でもある。眼球を自ら掴みえぐり出そうとする想像を絶する激痛に襲われ、獣の様な咆吼を上げながらもバーンは決して自ら手を止めることはない。

 

「ダメッ! アレは……!!」

「おのれ!! バーン!!」

「止めてみせる!!」

 

 バーンが何を行おうとしているのか、その行動から真の狙いを悟りヒュンケルらが動く。チルノから聞かされた、バーン自身ですら使うことはありえないと考えていた秘中の秘、それを使うつもりだろうことは彼らもすぐに想像が付いた。

 すぐさま阻止せんと襲い掛かるが、どうやらバーンの方が早かったようだ。大魔王は激痛と流血に塗れながらも鬼眼を抉り出すと、その力を全力で開放して肉体に上乗せする。

 

「ぐっ……! こ、これは……」

「間に……あわなかった……」

 

 チルノの口から思わず絶望的な声が零れる。

 バーンの肉体から黒い魔法力のような何かが漏れ出たか。それも、河川の堤が壊れたかのような膨大な奔流を伴い、後から後から止めどなく溢れ出てくる。外に出たかと思えばその黒い何かは瞬時にして岩石のような存在へと変化する。内側から次々と流れ出るそれは一瞬にして幾重もの層を作り上げていった。

 

「バーン……!?」

 

 誰かの口からそう声が漏れた。だがそれも仕方の無いことだろう。それは常軌を逸した光景に近い。

 溢れ出た黒い何かは今や小山ほどにも膨れ上がっている。それも漆黒に映える刺々しい岩石によって形成された山。見上げるほどに(うずたか)くなった山の頂上付近には、バーンが首だけを出していた。見ようによっては大魔王を封印しているようにも見える光景ではあるが、決してそんなことはない。

 本当に封印しているのならば、その黒山の奥からとてつもない波動が――身の毛もよだつほど悍ましい闘気が漂ってくるはずはないのだから。

 

「盛大に祝うがよい……」

 

 不意にバーンが口を開く。その言葉に呼応したかのように、山の中腹部分辺りに一筋の亀裂が走った。強烈な力で内側から無理矢理こじ開けたような亀裂、その奥から何かが蠢くようにして現れる。

 

「……魔獣誕生の瞬間を!」

 

 その正体は眼――瞳であった。内側より岩石を打ち破って瞳が現れる、その光景は瞼を見開いたかのようだ。瞳が開くと同時に岩石の山には大きな亀裂が幾筋も走り、山が崩れ落ちていく。

 山を内部から引き裂き破壊するようにして、大魔王曰く恐怖の魔獣が姿を現した。

 

「う……あ、ああ……」

「こ、これほどとは……」

 

 その姿は基本的には二足歩行の人型、バーンの姿そのままと呼んで良いだろう。だがその形状は今まで目にしてきた大魔王のそれとは大きく異なる。

 

 まず目に付くのはなんと言ってもその巨体だろう。全高が十メートルを軽く超すであろうその巨躯は、どのような生き物とて見上げざるを得ない。そこから感じる重圧は、筆舌に尽くしがたい。歴戦の勇士たるバランですら思わず声を漏らしてしまうほど強大だった。

 荒々しい岩山のような頭部を持ち、肩部にもまるで装甲のように岩山が鎮座していた。全身は鎧のような鱗に覆われ、胸には巨大な瞳――鬼眼を備えていた。もともと鬼眼があった額にはその代わりのように前のバーンの上半身が埋まっている。

 

 今でのバーンとはかけ離れすぎた、まるで生物の進化を無視したようなその姿は、超魔生物が可愛くみえるほどだ。となると先の巨岩に閉じ込められていた姿はさながら繭のようなもの――昆虫が成体へと変態するために一時的に(さなぎ)になっていたかのような状態だったのだろうか。

 

「さて、まず余の相手はお前かヒュンケルよ?」

 

 再誕したバーンは、まずヒュンケルへと目を付けた。ただ、偶々近くにいて偶然目に付いただけ。その程度の理由で、バーンは最初の相手を決めていた。

 

「ぐあっ!!」

 

 そして、巨腕を軽く振るい裏拳の一撃を放つ。それは無造作に等しい単純な動作であったが、ラーハルトの攻撃に近いほどの速度を持ってヒュンケルへ襲い掛かった。

 辛うじて防御姿勢を取ったものの、巨体に似合う強烈な威力を伴って振るわれた拳は力尽くで防御を打ち破り、ヒュンケルを木の葉のように軽々と吹き飛ばしてみせた。

 

「ヒュンケル!」

「くっ……おのれ……」

 

 猛烈な勢いで吹き飛ぶヒュンケルにマァムが追いつき、その身体を何とか受け止める。おかげで壁面に叩きつけられるといったダメージを受ける事は無かったものの、だがそれでもヒュンケルが受けた攻撃は深刻なものだった。

 たった一撃を受けただけでヒュンケルは口から血を吐き出し、すぐさま起き上がることが出来ない。しばらく休めば復活するだろうが、その休みの間にバーンがどれだけ暴れ、どれほどの負傷者が出るのかは想像に難くない。

 

「鬼眼王……」

「ダメよヒュンケル! 動かないで!!」

「ほう、良い名だな。気に入ったぞ」

 

 ダメージによって朦朧とした意識の中、虚ろな目をしながらも、それでもヒュンケルはバーンの方を向き立ち上がろうとするものの、それはマァムが抱き締めるようにして中断させられた。

 だがバーンはヒュンケルの行動よりも彼が呟いた言葉を拾う。

 鬼眼王という言葉を。

 

「余は今この時より、大魔王改め鬼眼王バーンと名乗ろう! ファッハッハッハッ!!」

 

 今の自身を表現するの相応しいその言葉を(いた)く気に入り、そう宣言する。

勿論その言葉も、本来の歴史においてバーン自らが名乗った異名である。自分が口にした言葉なのだから気に入るのは当然であり、チルノの知識を知っている以上はバーンとてそのことに気付いても不思議ではない。

 そんなことにも気付かないほど精神に変調を来しているのか、バーンは上機嫌に高らかな笑いを上げる。その哄笑は魔獣誕生の産声のように天地に響く。狂気にも似た異質さはダイたちの精神をも飲み込まんほどだ。

 

「おっと、いかん。忘れるところであった」

 

 堪えきれぬ笑みを隠さぬまま、バーンは視線を下――自らの胸元へと向ける。そこにはバーンが鬼眼の力を使い進化してもなお残り続け、バーンの心臓の一つを刺し貫き破壊し続けるハドラーの腕があった。

 

「いい加減不粋というもの。もう消えてもよかろう?」

 

 そう口にすると片手でハドラーの腕を掴み、力任せに引き抜こうとする。

 

「ぐっ……」

 

 当然痛みが走り、小さな呻き声が漏れる。

 だがハドラーの怨念が今も残り続けているのか、はたまた鬼眼王へと進化した際に細胞レベルで癒着したのか。バーンの剛力を持ってしてもなお腕は抵抗を続け、引き抜かれるのを拒んでいた。

 

「鬼眼王など何するもの!!」

「止めて見せるぞ!! バーンよ!!」

 

 さらにようやく正気を取り戻したのか、ラーハルトとクロコダインがバーンへと襲い掛かった。昆虫が人間に挑むような絶望的な差を理解しつつも、臆することなく鬼眼王へと飛びかかる。

 

「ハーケンディ……なっ!?」

「そこか」

 

 半端な技では効果は無いと踏み、初手から最大最強の一撃を放とうとする。だがラーハルトの神速の動きはバーンに軽々と見切られる。

 

「馬鹿なっ!! おのれ、放せ!!」

 

 眼にも映らぬほどのスピードを知覚すると、バーンは瞬時にしてラーハルトの下半身を掴み取り、握り締める。

 己を掴む巨大な手――その指を引き剥がそうと槍を突き刺そうとするものの、強固な肉体はその攻撃を易々と弾き返してしまう。どうにかして逃げだそうにも、速度を生み出す起点となる脚を封じられてはどうすることも出来ない。

 

「ラーハルト!? くっ!!」

 

 捕らわれた仲間の姿にクロコダインは思わず攻撃を躊躇する。

 バーンは、クロコダインから視線を外さぬまま、ラーハルトを掴んだ手だけを明後日の方向へと向けた。

 

「どうした、撃たぬのか?」

「……ちッ!!」

 

 視線は向けぬまま、だが声だけ別の方向へと向けられる。その声の先――ラーハルトを盾とするように向けたその先には、光の弓矢を完成させ終えたポップの姿があった。隙を狙うつもりが、完全に見抜かれていた事実に思わず舌打ちする。

 

極大消滅呪文(メドローア)ならば、今の余とて倒せるぞ。千載一遇の好機ではないのか?」

「撃てポップ! その程度の呪文、このオレが避けられんとでも思ったのか!!」

 

 バーンは挑発するように語り、そしてラーハルトは捕まりながらも語気荒く叫んだ。敵味方に分かれているはずなのにどちらもが攻撃を誘う言葉を口にする。その誘いにポップの心が僅かに揺らいだ。

 

「ち、ちくしょう……!! 畜生!!」

 

 だがまさかこのままラーハルトを巻き添えにして極大消滅呪文(メドローア)を放つことなど出来るはずもない。一瞬の逡巡の後、ポップが選んだのは天空へと向けて極大消滅呪文(メドローア)を放つことだった。

 

「なぜ撃たなかった!?」

「ば、バッカ野郎!! そんなこと出来るわけねぇだろうが!!」

「馬鹿は貴様だ! 大魔王を倒せねば全てが終わるのだぞ!!」

 

 空の彼方へと消えていく光の矢を背景に、二人は言い争う。その言葉はどちらも正しいのだが――

 

「そうか、撃たぬか」

 

 ――少なくとも鬼眼王にとってはつまらない選択だったらしく、興が醒めたような表情を浮かべる。

 

「ならば、これはもう不要だな」

「う、うああああぁっ!!」

「なんだって!?」

 

 バーンはラーハルトそのもの(・・・・・・・・・)をポップ目掛けて投げつけた。鎧の魔槍を身に纏い、かなりの速度で放たれたそれは、並の破壊力ではない。さながらラーハルト自身を砲弾として放つ大砲とでも言うべきか。直撃すれば非力なポップはタダでは済まないだろう。

 そして標的となった当の本人は、放たれた砲弾の前に身を躱すことすら忘れたように棒立ちになっていた。

 

「避けろ! ポップ!!」

 

 だが近くにいたクロコダインが割って入る。その声で正気に戻ったようにポップが慌てて軸線上から逃げ出したのと、クロコダインが砲弾(ラーハルト)を受け止めたのはほぼ同時だった。

 

「ぐはっ!」

「ぐ、ううぅぅぅっ!!」

 

 我が身を盾とし、己の肉体でラーハルトを受け止めたクロコダインであったが、その衝撃は凄まじい。堅い鎧を纏った物同士が強烈に衝突し合ったのだ。かつて鬼岩城と戦いを繰り広げた戦車隊の砲撃――いや、それ以上の破壊力が込められていた。

 激突のダメージを受けて二人の口からは苦痛の悲鳴が上がり、そればかりか衝撃に耐えきれず、ラーハルトは意識を失った。

 

「ま、まだだ……!! オレはまだ……」

 

 クロコダインも同じようなものだ。意識こそ失わずに済んだものの、ラーハルトを抱えたまま片膝を床に突けている。全身を小刻みに震わせながら何とか立ち上がろうとしているが、その姿は今にも倒れてしまいそうな程に弱々しかった。

 

 

 

 

 ――マズい! マズい! どうしよう……!!

 

 バーンの猛攻を目にしながらチルノは必死で考えを巡らせていた。鬼眼王となったバーンの力量も、本来の歴史という知識で知っていた。

 知ってはいたが、実際に目にしたそれは彼女の知識を大きく裏切る程の実力と恐ろしさを秘めていた。

 どうにか対抗策を捻りだそうとするが、恐怖と混乱に襲われて何も思いつかない。

 

「ヴェルザーがただのトカゲに見えてくるな……」

 

 それはバランも同じだったようだ。彼がかつて経験した激戦――冥竜王ヴェルザーとの戦い――がお遊戯に思えるほど、今のバーンは底が知れない。(ドラゴン)の騎士が持つ闘いの遺伝子。その歴史を全て紐解いても、これほどの強大な敵は存在しなかった。

 比べるのも馬鹿馬鹿しくなるほどの実力差に、額から一筋の汗が流れ落ちる。

 

「だが恐れるわけには行かぬ!! 行くぞ、ディーノ!!」

「うん!!」

 

 だがバランは恐れることなくバーンに襲い掛かった。そしてそれはダイも同じだ。父の言葉に力強く頷くと、竜闘気(ドラゴニックオーラ)を全開にしてバーンへと挑む。

 

「バラン……ダイ……! そうよね、私だってまだやれるはず!!」

 

 その二人の姿にチルノは勇気づけられる。敵がどれだけ強くとも、それだけで諦める理由とはならない。そもそも、ダイと共に戦うことを選んだのはチルノ自身だ。ここに来てそれを諦めるような半端な真似をしては、仲間たちにも合わせる顔がない。

 

 ――中途半端な攻撃は無意味……使うのは、最大の技……!!

 

 チルノは勇気を振り絞るように胸元のペンダント――アバンの使徒の証たる卒業の証を握りしめながら覚悟を決め、魔法力を集中させる。

 一方、バランたちはバーンへと攻撃を開始するものの、その頑健なる皮膚はオリハルコンの刃を持ってしても簡単に切り裂ける物ではなかった。なにしろバーンがその巨体を高速で動かすだけでもバランたちにとっては脅威となる。

 なにしろ本来の歴史では、双竜紋(そうりゅうもん)を手にしたダイですら追い詰められた相手なのだ。一つしかない彼らの紋章の力では、今のバーンには半端な攻撃など有効打となりえない。

 まだ無事な仲間たちも武器を手に取りダイたちへの援護の機を窺ってはいるものの、暴風雨のような勢いに呑まれ、手が出せない。下手に手を出せば足を引っ張るだけというのが目に見えていた。

 

 そして、ダイたちが何度目かの攻撃が失敗に終わった時だった。

 

「二人とも!!」

 

 チルノが短くそう叫ぶ。それだけでダイとバランは察し、バーンから距離を取るように大きく飛び退く。

 

「【グランドトライン】!!」

 

 (ドラゴン)の騎士立ちと入れ替わるようにチルノは伝説の青魔法を放った。

 集約した魔法力はとてつもなく、チルノの周囲を発光させてなお足らぬほど。そしてそこから生み出されたのは、巨大な正三角形を形作るエネルギー体だった。だがただの三角形ではない。そこには次元すら超越するほどの力が秘められている。

 三角形の内側はまるで夜空を覗き込んだように暗く、そしてときおり流星の煌めきが見え隠れする。まるでこの三角形を境として宇宙空間が切り取られたかのような光景だった。

 

 それは錯覚ではない。

 そもそもグランドトラインとは三つの天体によって描かれる三角形のことを指す。

 その意味は完全調和。正中の円の中にピタリと収まるその形状は絶対なる安定・調和を齎してくれる。

 この絶対なる調和によって生み出された力を破壊へと用いるのがこの魔法。無限と呼んでも差し支えない力を攻撃へと転じさせれば、それは敵を飲み込み喰らい尽くしてなお足りぬほどの威力を生み出す。

 放たれた正三角形は星々の加護を力への糧としながらバーンへと襲い掛かった。

 

「またその力か……だがっ!!」

 

 自らへと襲い掛かる未知の力の奔流を目にしながら、バーンは胸部――鬼眼を怪しく輝かせた。

 瞬時にして竜闘気砲呪文(ドルオーラ)すら凌駕するほどの魔法力が鬼眼へと集約していく。だがそれを感知出来たのは、果たして何人いただろうか。

 

「消し飛べっ!!」

 

 そう思わせるほど僅かな溜めの後、胸部から強大な魔法力を波動として撃ち出した。放たれた一撃は目が潰れかねないほどの輝きを放ちながら暗闇の正三角形(グランドトライン)へと一直線に向かい、激突した。

 二つの超魔力同士のぶつかり合いに甚大な衝撃が生み出され、立っていられないほどの突風が吹き荒れる。

 

「う、く……っ!」

 

 暴風に吹き飛ばされそうになるのを必死に堪えながら、チルノは戦いの行方を冷静に観察していた。一見互角に見える押し合いだが、ゆっくりとグランドトラインが押していくのが術者たる少女には分かった。

 だがチルノが分かるということは相手も分かるということだ。少女が勝利を確信したその一方で、バーンは大きく目を見開く。

 

「おおおおっっ!!」

 

 雄叫びを上げながらバーンは更に魔力砲の出力を上げる。放たれた波動は勢いを増し、眼前へと迫ったグランドトラインを押し返していく。そして――

 

「う……そ……!!」

 

 白い砲撃と黒い三角。二つの戦いは双方消滅という形で決着が付いた。つい一瞬まで大暴れしていたのが冗談としか思えぬほどの平静が訪れる。

 

「かき、消された……それも、技術や呪文なんかじゃない……単純な力押しだけで……!!」

 

 そんな静かな場面だからこそ、少女の漏らした声は何よりも良く響いた。

 なまじ自信のあった一撃だけにチルノが受けた衝撃は大きい。倒せるとは思っておらず、防がれることまでは計算の内。それでも大ダメージは与えられると信じていた。

 

 だが、この結果は考えていない。

 至近距離まで迫れたことで影響は与えられたらしく、バーンは幾らかダメージを負っている。ダメージは負っているが、この程度は直撃したときの破壊力と比較すればかすり傷にも等しい。

 

「どうやら、今の余の力を甘くみていたようだな」

 

 愕然とするチルノに対し、バーンは隠しきれぬほどの笑みを浮かべる。

 

「深遠なる叡智も、底知れぬ魔法力も、無敵を誇った技術すらも、この姿には不要! ただ力だ! 何者にも、どのような理不尽をもはね除ける力があればよい!! その他は全て雑味に過ぎぬ!! もはや余に敗北の二文字は存在せん!!」

 

 単純な身体能力でこの場の戦士たちを圧倒し、魔法力を放つだけでチルノの一撃すら消してみせる。力押しだけで無敵となれるのだ。勝ち誇ったその言葉は決して誇張ではない。純然たる事実といえるだろう。

 

「それがどうした!! まだ万策が尽きたわけではない!!」

「バーン! うおおおおぉぉっ!!」

 

 だがそれを見せつけられてなおも、彼らの闘志は萎えることはなかった。一旦離れたバランたちであったが、再度バーンへと攻撃を仕掛ける。

 

「邪魔だ!!」

「うわあぁぁっ!!」

「ぐ……っ!」

 

 強烈な攻撃であったが、今のバーンには届かない。両腕を強引に振るだけでダイを吹き飛ばし、周囲を殴り飛ばしながらバランの動きを封じて見せた。

 

「鬼眼の力を自らに上乗せし、二度と元に戻れぬ姿となった……」

 

 (ドラゴン)の騎士たち二人を瞬時に蹴散らし、バーンはチルノを睨み付ける。妄執すら感じるその鋭利な視線に彼女は思わず身を竦ませた。

 

「貴様が! 貴様の存在が余をそうさせたのだ!! 余をここまで追い込んだ貴様が! 貴様らが悪いのだ!!」

「チルノ!」

 

 全ての原因はチルノにある。そう口にしながら、鬼眼王は少女へと向けて動く。慌ててアバンが剣を手に庇うように前に出てくるが、だがそれは無謀というに他ならない。

 

「失せろ」

「うああッ!!」

 

 老人であったバーンですら、アバンの剣技では届かないのだ。ましてや鬼眼王となった今のならばなおのこと。アバンの振るった剣はバーンの外皮によって簡単に弾かれ、移動の勢いに任せた体当たりによって弾き飛ばされた。バーンからすればさながら、路傍の石を蹴り飛ばしたようなもの。

 あっさりとチルノの前へと辿り着く。

 

「ね、姉ちゃん!! 逃げて!!」

 

 殴り飛ばされたダメージに苦しみながらもダイが叫ぶ。ダイに言われるまでもなくチルノも距離を取ろうとするものの、それが通じる相手ではない。彼女が移動するよりも早く――それこそ瞬く間もなくバーンはチルノを捕えた。

 

「あ……うああぁぁっ!!」

 

 すぐさま全身を握り潰さんほどの力が彼女を襲う。

 ラーハルトを捉えた時と同じく、バーンの巨大な手にチルノは拘束されていた。だが彼の場合はは脚を掴まれただけであったが、チルノに到っては胸から下までをすっぽりと握られている。辛うじて両腕と首から上は自由になっているが、だからどうしたと言われればそれまでだろう。

 

「良い声だ」

「う……ううっ……」

 

 チルノの悲鳴を耳にして多少なりとも溜飲が下がったのか、手を握る力が緩まる。

 先ほどの全身を押し潰されそうな激痛から解放されたことで叫び声こそ上げなくなったものの、彼女が受けたダメージはそのままだ。激痛に意識を朦朧とさせながら力ない声を漏らす。

「だが、このまま楽に死ねると思うな。手を折り足を砕き、最後は胴体を握りつぶしてくれる。死体から首をもぎ取り、ダイたちの前に置いてやろう。貴様が死ねば次はダイたちを。それも終われば、次はこの地上の人間全てを同じ目に合わせてやろう!」

 

 地上の生物全てを殺戮せんと言うバーンの言葉を、チルノは遠き続ける意識の中で耳にしていた。それも、同じ目に合わせると。

 その事実に気付き、少女は少しだけ意識を取り戻す。

 

「……ああ、思い出した。確か、瞳になっていた者たちがいたな。そやつらだけは特別に生かしておこう。余が地上を死の大地とするのを特等席で見物できる栄誉を与えよう」

 

 やがて、今まで忘れていたかのようにバーンは足下へと視線を向けた。そこには彼が魔力によって生み出した瞳が三つ転がっている。

 

「だがそれは一人だけだ。三つは多すぎる」

「だ、め……」

 

 瞳を破壊せんとするバーンへ蚊の鳴くような声を上げる。声を出すだけでも耐えがたい苦痛に襲われながら、チルノは決意した。

 自分に眠っていた事に気付かず、操れるなど長い間夢にも思わなかった力。未だ完全に制御できるとはお世辞にも言えないその力を使いバーンと闘うことを。

 

「【トランス】」

 

 少女は再び、その身を竜王へと変じさせる。

 

 




ホントは決着まで書く予定だったのですが……
前回投稿から間隔が開きすぎていて、申しわけなさすぎたのでここで投稿。
一応コレでもキリはいいので。お許しください。
(平身低頭)

魂の絆、とりあえずチュートリアル完了まではプレイしました。
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