隣のほうから来ました   作:にせラビア

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鎧の魔剣もパプニカのナイフもアバンの剣もガチャから出てきません。書けば出るなんて嘘ですね。
加えて主人公の転職先に青魔道士も召喚士もないし。
……不具合ばっかりだなこのゲーム(暴論)


LEVEL:120 大魔王バーン -決戦-

「む……?」

 

 最初に異変を感じたのはバーンだった。

 チルノを掴む巨大な手。その手の内側から違和感が生まれた。指の一本一本がじわじわと外に押し出されていく感覚。

 鬼眼王となった今のバーンならば、喩えバランが全力で抗ったとしても握り潰せるだけの握力をもっている。ましてや彼が今手中に納めているのは肉体的には弱いチルノなのだ。少女一人がどれだけ力を込めようともビクともしないはず。

 

「な、なんだ! どうしたと言うのだ!?」

 

 瞳へと向けていた視線を改めてチルノへと戻す。そこでバーンは見た。チルノの身体から強力な光が溢れ出ていくその姿を。

 その光はまるで質量を持ったように膨らみ、バーンの手を内側から押し返していく。掴んでいた物が徐々に膨らみ巨大になっていく感覚。

 

「お、おのれっ!!」

 

 反射的にバーンは握る手に力を込めた。チルノの身体など一瞬で握り潰し、肉片へと変えてしまう程の力を込めながら、だがそれでも膨張が止まる事は無かった。鬼眼王の巨大な手を持ってしても掴んでいられないほど巨大になり、それでもなお止まることはない。

 

「ぐ……ぐうっ!」

 

 もはや握り締めてなどいられなかった。とてつもない衝撃を受けたような感覚にバーンは遂にその手を放してしまう。そして、力尽くでバーンの手中から抜け出した光は瞬時に消えた。

 

「貴様は……!」

 

 光の消えた場所――そこには竜王バハムートの姿があった。

 

 

 

 

 

「チルノのあの姿……アレってあの時の!?」

 

 竜王へとその身を変じさせたのは、バーンだけでなくダイたちも目にしていた。比較的軽症であったマァムは、巨竜へと変身した仲間の姿に目を丸くしていた。

 

「まさか、あの時みたいに大暴れするんじゃねぇだろうな?」

 

 ポップもまたダメージ自体はない。マァムと同じようにチルノが変身する瞬間を見ており、かつて死の大地で理性を失い暴れていた時のことを思い出して渋面を作る。確かにあの時にもとてつもない強さを誇っていたが、本能のままに暴れられてはある意味で敵よりも厄介になる。

 

「アアアアアアアアッッ!!」

「や、やっぱりダメ……か……?」

 

 その不安を煽るかのように、黒竜は恐ろしいほどの雄叫びを上げた。恐怖で身を竦ませそうな咆吼を耳にしながら頭を抱えるポップであったが、どうやらそれは杞憂だった。

 

「バーン!!」

 

 雄叫びを上げた後、竜はバーンの名を叫びながら鬼眼王目掛けて襲い掛かっていく。その言動にマァムたちは思わず喜色を浮かべた。

 

「今! 今バーンって言ったわよね!? それに見たポップ!? あれって!!」

「そうみたいだな! どういう理屈かはわかんねーけど、今回は正気か! 助かったぜチルノ!!」

 

 どうやら彼女は行動で自身が正気であると見事に示して見せたようだ。

 

「しかしまあ、おっそろしい声だよな……」

 

 味方であると理解はしたが、それでも恐ろしいものは恐ろしい。特に竜の咆吼は他の生物を圧倒するような何かが込められているかのようだった。その何かに本能的な怯えを感じて自然と腰が引けてしまう。

 

 と同時に、ホッとしたことで少し余裕が出たのだろう。ポップの脳裏にくだらない考えが過る。

 変身した状態では声帯も異なるのだろう、低く重々しい声を上げている。だがこれがもしも、あの巨大な竜の姿となっても少女の声のままであったなら――

 

「……ぶふッ!」

「ポップ?」

 

 ――そんな"もしも"を想像し、その"もしも"のとてつもないミスマッチ感にポップは思わず小さく吹き出した。

 

「おっといけねぇ! 笑ってる場合じゃねえや、今のうちに!!」

「何する気?」

「瞳を回収するんだよ。あの場にいて今まで壊れなかったのが奇跡だぜ」

 

 そう言いながらポップは一点を指さした。そこはチルノがバーンと闘っているすぐ近くであり、瞳が無防備に転がっていた。今のところ無傷だが、このまま無事でいるという保証はどこにもない。むしろ、今この瞬間に踏み潰されてもおかしくないほどだ。

 

「あ、そうね。じゃあ私も手伝……」

「いや、マァムはおっさんやヒュンケルたちを出来るだけ戦場から離してくれるか? 悔しいけど、おれじゃ怪我人引っ張るのに力が足りねぇ」

 

 なるほど尤もだと手伝おうとするが、ポップはやんわりとそれを拒否する。

 

「なぁに、あっちの方はおれが意地でも無傷で回収してやるから心配すんなって。だから、頼んだぜ……」

 

 得意気に口にするが、その声は若干の恐怖に震えているのをマァムは聞き逃さなかった。だけど、それも無理もないだろうとも思う。

 何しろ巨人と巨竜が熾烈な肉弾戦を繰り広げている戦場に割り込むのだ。直接闘うわけではないとはいえ、巻き添えを食ってもおかしくない。

 

「わかったわ……絶対無事に戻ってきてね」

 

 マァムは小さく頷いた。

 

 

 

 

 

「おのれ! そこまでするか!」

 

 巨大な竜と化したチルノの体当たりを受け止めながらバーンは叫ぶ。

 鬼眼王へと変じた自分に匹敵するほどの巨体と質量を持った存在の突撃に一歩下がらせられたものの、大魔王の矜持がそれ以上の後退を許さなかった。踏み込んだ衝撃で床石に巨大な亀裂を何本も走らせながら、バーンは至近距離からチルノを殴る。

 

「オォオオオオオォォッ!!」

 

 背中を殴られ、その痛みに悲鳴が上がる。何しろ(ドラゴン)の騎士すら一撃で弾き飛ばす程の破壊力を秘めているのだ。バハムートの強固な竜鱗でも無力化できるものではなかった。

 だが激痛に襲われながらもその動きは止まらず、反撃の心を失うこともない。お返しとばかりにバーンの頭部目掛けて尻尾の一撃を叩き込んだ。

 

「ぐわっ!」

 

 先細りするとはいえ、根元の太さは鬼眼王の豪腕を凌駕するほど。高密度の筋肉の塊でありながら鞭のように自由自在に動き、その速度は先端に行くほど早い。

 尾の攻撃は岩石のようなバーンの頭部を削り取り、額に位置するバーン本人にも手痛いダメージを与えていた。

 

「ぐ、舐めるなッ!! 竜の姿となったところでッ!!」

「グァッ!」

 

 無敵になったと信じていたはずの己がダメージを受けたことで激昂したのか。バーンは流れ出る鮮血も気にせずにチルノへの反撃を敢行した。

 再び背中に打ち込まれる鉄槌を打ち込まれたような攻撃。両手を組んで打ち下ろす、いわゆるハンマーナックルだ。さすがに片手での一撃とは威力が違い、チルノは動きを止めてしまう。

 

「今の余に、敵はないッ!!」

「アアアァァッ!!」

 

 さらに追撃とばかりに、バーンは膝蹴りを放った。チルノは反射的に腕でガードしようとするものの、悲しいかなその腕は巨竜が持つ四肢の中では貧弱な方だ。防御の上から胴体へと突き抜けるような一撃に耐えきれず、嫌な感覚を残しながら本体ごと弾かれてしまった。

 

 だがチルノとてタダでは飛ばされない。

 距離を開けられたのをこれ幸いとばかりにその巨大な顎を大きく開くと、そこから幾筋もの熱線を放った。

 さながら無数の閃熱呪文(ベギラマ)を同時に放ったかのような光景。空気すら焼き尽くさんとするその炎はバーンの肉体を焼き、その肉体に何本もの焦げ跡を刻みつける。

 

「ひえぇ……おっかねぇ。ベンガーナでドラゴンたちと戦ったことがあったけど、アレとは大違いだぜ……」

 

 その戦いを、姿勢を低くしながらポップは最前線で見守っていた。なんとか近くに寄り、隙を見て瞳を回収したいものの、その隙が見当たらない。加えてどこまで距離を詰めれば生き延びられるのか、その基準を慎重に見極めなければならない。

 

「どうにかチルノに伝えられりゃいいかもしれないが……けど、どうやって教える? 下手すりゃバーンに逆手に取られちまうぞ……考えろ……」

 

 必死で妙案を絞りだそうとするポップであったが、考え続けるその間にもバーンが手を止めることはなかった。

 

「余にここまで傷をつけるか……前にも見たがその姿、ほとほと厄介よ……しかし!!」

 

 熱線に焼かれながらもバーンはチルノへと追撃を続ける。

 がむしゃらに殴る蹴るの攻撃を放ち続け、チルノへと的確にダメージを積み重ねていった。チルノも負けじと竜王の肉体を操り反撃するが、バーンから受ける攻撃と比べれば些細な物だ。

 

「確かにその巨体は余と闘う上では利点となろう! 能力もかなりのものだ! だが不慣れな肉体でいつまでも余の相手ができると思うな!!」

 

 チルノがバハムートへと変身したのは決して間違いではないだろう。基礎的な能力だけでも他を圧倒するほどの力を持ち、その巨体は鬼眼王となったバーンを相手にしても決して見劣りしないほど。

 それだけ見れば同等の戦いができるかもしれない。

 だが残念なことに、チルノは前に出て戦うタイプではない。技能も経験もあるものの、バーンを相手にするにはまるで足りなかった。

 加えて人間の姿から竜の姿へと変わったことによる弊害もある。今まで尾も翼も持たずに生活してきた者が突然それらを使いこなせるわけがない。

 

「……ッ!! 黙りなさい!!」

「ふはははははっ!! どうした!? その程度の抵抗しかできぬか?」

 

 図星を突かれて思わず息を呑み、苦し紛れの攻撃を放つ。

 だがバーンは爪によるひっかき攻撃を弾き飛ばし、放たれた尾を掴み取って防ぐと、今だとばかりに拳を振りかぶり殴る。狙うは巨竜の頭部――もっと言えばその鼻先だ。

 なんとか防ごうにも尾を掴まれてバランスを崩したチルノにはどうすることもできなかった。

 

「グアァァッ!!」

 

 顔面を殴りつけられて視界がぶれ、チルノの意識は一瞬飛びかける。このまま倒れて楽になってしまいたいという誘惑を必死で押さえつけながら、バーンへと向き直ろうとしたときだ。

 

 ――えっ! 今のってポップ!? なんでここに!?

 

 竜の優れた肉体能力の恩恵か、流れる視界の中の僅かな時間だけ映った仲間の姿をチルノはハッキリと捉えていた。続いて彼の大魔道士が何を狙っているのか、その意図を探りたかった。

 しかしそんな時間など与えないとばかりにバーンが追撃を仕掛けてくる。

 

来るな(【フレア】)ッ!」

「むっ!?」

 

 条件反射のように叫んだ声によって魔法が発動した。竜王の能力と強大な魔力によって力尽くで無理矢理発動させたようなものであり、チルノ本人ですら狙って放った物ではなかったが、どうやらそれが逆に功を奏したらしい。

 予期せぬ一撃にバーンは攻撃の手を緩め、その隙にチルノは何とか戦闘態勢へと戻れた。

 

「今のって、そうか……【フレア】!」

 

 感覚で何が起きたか感じ取り、チルノはここぞばかりに二度、三度とフレアの魔法を発動させた。超高熱の爆発が断続的に巻き起こり、バーンからそれから逃れようと素早く移動する。当然、そうはさせじとチルノも後を追うように動き回り続けた。

 巨人と巨竜による乱暴なダンスとでも表現すればよいだろうか。その影響で床はさらに無残な姿を見せていた。

 もはや、いつ崩落してもおかしくないほどの様相になっているが、どうやらよほど強固な素材を使っているのか。はたまた建築技術が信じられないほど高いのか。

 

「あっ、そうか! だったら!!」

 

 必死で成り行きを見守っていたポップの脳裏にようやく一つのアイデアが浮かんだ。不安定な足場に加えて魔法の影響で周囲は高温になっている。それを活かすには――

 

「こうだっ!! 氷系呪文(ヒャダルコ)!」

 

 バーンの次の動きを予測し、その先――次に移動するであろう場所、その床へ向かって呪文を放つ。生み出された冷気は狙いを外すことなく周囲を氷で覆い尽くし、一拍遅れてそこにバーンが足を下ろした。

 

「ぐおぉっ!?」

「へへ、魔法力ってのは馬鹿みてぇに強いだけが能じゃねぇ。呪文も頭も使いよう、ってか!?」

 

 途端バーンは声を上げ、ポップはその結果に歓声を上げた。

 着地する場所に氷を張ることで滑らせることが目的。しかもワザと弱い氷系呪文を放ち、適度に溶けやすくしてある。薄い氷は周囲の高熱によって簡単に溶け出し、滑りやすさを倍増させる。

 溶けやすく、それでいて今のバーンが踏んだとて砕け散らない程度には強固という、なんとも微妙な加減の呪文を見事に操ってみせたのだ。その甲斐あって、狙い通りバーンは足を滑らせ体勢を崩す。

 

「今だ! チルノ!! バーンの動きを止めてくれっ!!」

「え、わ、わかったわ!!」

 

 チルノからすれば予想外にバーンが足を滑らせた所に飛んできた指示だ。戸惑いながらも頷くと、足止めならばこれとばかりにその豪腕へと全力で噛みつき牙を突き立てた。

 

「ぐっ! おのれ、こうも余の肉体に傷をつけるかッ!! 小癪な!!」

まがまがっ(まだまだっ)!!」

 

 強固な皮膚を突き破り、肉を噛み締める感触が。流れ出た血が口中に広がり、慣れぬその味に顔を顰めながらも顎の力を緩めることはない。さらには、ダメ押しをばかりに口を閉じたまま火炎の吐息を吐き出した。

 

「おおおぉぉぉっ!?」

「今だッ! 瞬間移動呪文(ルーラ)!」

 

 腕と口の間に生じた僅かな隙間から炎が溢れ出る。漏れ出た程度でも強烈な火勢に驚かされながらも、この隙を逃すまいとポップは呪文を唱え、戦場へと割って入る。

 

「一つ! 二つ! ……あと一つあったはずだ!! どこだ!?」

 

 短距離の瞬間移動呪文(ルーラ)で目的の位置まで瞬時に移動すると、手近にあった瞳を二つ掴み取り懐へと抱え込む。だがあと一つが見つからず、思わぬ焦燥感に駆られる。

 

「あった三つめ!!」

「そうか、それが狙いか!」

 

 大暴れで転がったのだろう、少し離れた場所に残る一つの瞳を見つけて手を伸ばすが、バーンもまたそうはさせじと手を伸ばす。

 

ひかへはい(いかせない)ッ!」

「ぐわっ!」

 

 だが彼は未だチルノに片腕を噛みつかれたままだ。彼女は更に噛みついたまま首を強く引っ張り、バーンをこれ以上は行かせまいと無理矢理に引き込む。ブチブチと何かが千切れていくような感触に辟易しつつも、その力を緩めることはない。

 

ほうひほつ(もう一つ)ッ! ほはへ(オマケ)ッ!!」

 

 引っ張り込むと同時に翼を強くはためかせ、竜巻を生み出した。魔力を纏った竜巻はバーンの肉体へと絡みついてその動きを制限する。

 ダメ押しとばかりのそれらの行動のおかげで時間が生まれ、ポップは無事に残った瞳を回収する。

 

「あばよ! 瞬間移動呪文(ルーラ)!!」

 

 もはや長居は無用とばかりに再度呪文を唱える。現れた時と同じく、ポップの姿は瞬時にしてかき消えていた。

 

 

 

 

 

「あっぶねぇーッ!! あの一瞬だけでも死ぬかと思ったぜ……」

 

 チルノの必死の時間稼ぎのおかげでどうにか逃げ出すことに成功した。離れた位置へと戻ってきたポップは開口一番にそう零す。とりあえず安全圏まで戻れたとはいえ、心臓は早鐘を打ち鳴らし続けている。

 

「ポップ! こっちも何とかしたわ」

 

 彼が戻ると時を同じくして、マァムもまた自分の仕事を熟していた。倒れていた仲間たちは一カ所に集められ、これなら巻き添えを受ける心配も少ないだろう。

 

「次は回復だな」

「そうね、私が……」

 

 回復呪文を唱えようとしたマァムであったが、それよりも早くずい(・・)とポップが前に出る。

 

「へへっ、任せろよ。回復呪文(ベホマ)!」

「えっ!?」

 

 マァムの口から驚きの声が零れ出た。

 片手で回復呪文――それも完全回復の呪文を唱え、ダイの傷を癒やしていく。だが彼女が本当に驚くのはこれからだ。

 

「もういっちょ、回復呪文(ベホマ)!」

 

 ポップは残る片手をバランへと向け、ダイと同じように回復呪文を唱えて傷を癒やしていく。その光景にマァムは絶句する他なかった。

 

「ええっ!! り、両手で呪文を!? それに回復呪文まで……」

「元々呪文の契約は師匠にやらされてたからな。それに両手でそれぞれ呪文を使えなけりゃ、極大消滅呪文(メドローア)は使えないんだぜ?」

 

 なるほど、と思わず納得する。

 

「でも、今までそんな素振りなんて一度も……」

「そりゃ機会がなかったからな。姫さんにチルノもそうだし、バランだって回復は出来る。おれまで回ってこねぇよ」

 

 回復呪文に明るい者がこれだけいれば、なるほど確かに出番はそうそうないだろう。ましてや攻撃呪文で魔法力を消費するポップならばなおさら、回復に回っている余裕はない。

 

「それよかマァムも回復を頼むぜ。ヒュンケルやらおっさん辺りはまだ比較的軽症のはずだ」

「そ、そうね」

 

 つまり逆に言えば、ポップが回復に回らねばならないほどには追い詰められているということだ。その事実に気付き、マァムは急いで他の者たちへの回復に向かった。

 

「助かった……礼を言うぞ」

 

 ポップの回復呪文を受け、バランが目を覚ます。それに続いてダイも目を覚ました。

 

「……うう!」

「ダイ! 気付いたか?」

「ポップ……っ!? そうだバーンは!? 姉ちゃんは!?」

「落ち着けよダイ。チルノならあそこだ」

 

 意識を取り戻すなりダイは弾かれたように飛び上がり、状況を確認しようとする。肩を掴まれたポップはその勢いに圧倒されながらも、チルノのいる場所を指し示す。

 

「いい加減に、放さぬかぁッ!!」

「ぐぶっ!」

 

 その時は丁度、バーンが攻撃を放った場面だった。片腕を噛みつかれたままなのが相当頭に来たのだろう。反対の腕でチルノの頭部を殴りつけ、その衝撃に彼女は遂に口から腕を放してしまう。

 

「姉ちゃん! それにあの姿って……」

「いつぞやの時の姿か。なるほどあの巨体ならば、少なくとも抗うことはできるか……しかし……」

 

 ダイもバランも一見しただけで看破していた。

 竜王の姿に変身することで鬼眼王に対抗は出来ているが、それでも決定打にまでは及んでいないことを。このままでは遠からずバーンが戦いを制するだろうという結末を。

 

「助けに行かなきゃ!!」

「待て! あれだけ大暴れしているのだ。迂闊には踏み込めん!!」

「でも父さん!!」

「下手をすれば均衡が崩れ、余計に足を引っ張りかねんのだ! やるならば一撃で……」

 

 助けに行きたいのはバランとて同じだ。だが二人が戦っている中に割って入るだけの隙がない。付け加えれば今のバーンを相手に長期戦は無謀以外の何でもない。

 つまるところ必要なのは、一撃で決着を付けられるような何か。

 

 僅かに逡巡した後に、バランは重々しく口を開いた。

 

「……仕方ない。もう一度アレをやる」

「ええっ! でもバーンには通用しなかったし、失敗の可能性だって! それに下手したら姉ちゃんに当たっちゃうよ!」

「だがこのままではジリ貧だ!!」

 

 ――アレをやる。

 

 その言葉だけでダイもまたバランが何を狙っているのか理解した。理解したが、それが通用するとは思えなかった。

 練習では成功した。威力も折り紙付きだ。だが相手が悪すぎる。鬼眼王となったバーンに成功させられる可能性は、果たしてどれだけ残っていることか。

 それを理解し不満を口にするダイに対して、バランは怒鳴る。

 

「声を荒げたのは悪かった。だが時間がない。チルノが抑えているが、それも限界に近い。他に方法もない……覚悟を決めるのだディーノ!」

「……わかった」

 

 バランとて不退転の覚悟でそれを口にしていたのだと。他の案を考えるだけの時間すらも惜しいと考えたが故の言葉なのだと理解し頷くと、バランもまた強い覚悟を見せるように首肯する。

 そして、決意を込めた表情で戦場に向けて叫んだ。

 

「チルノ! 一瞬で良い! 私が合図したらバーンの動きを止め、離れろ!」

「ちょ、ちょっと!?」

 

 ――それ! 一番の難問なんだけどっ!! しかもこんな大声で叫ぶなんて!!

 

 突然投げかけられた無茶な台詞を耳にして、大きく動揺させられた。内容もそうだが、何よりも大声で作戦を口にするという行動に驚かされる。というよりも、バランにあるまじき言動に驚かされぬ者などいないだろう。

 

「「雷撃呪文(ギガデイン)!」」

 

 それはバラン本人とて分かっていた。理解していてなお、それ以外に方法はないと断じての行動だった。チルノが止めてくれると信じながら、親子は再び手にした剣へと稲妻を落とす。

 

「余がそれを許すと思ったか!」

「ああもうっ! 抑えればいいんでしょ!!」

 

 バランの言葉はバーンの耳にも届いていた。何か仕掛けてくると分かれば、当然そうはさせじと妨害に動く。直接バランを狙わんとするバーンに対して、当然食い止めるべくチルノが動いた。

 遮二無二(しゃにむに)攻め続け、敵の体に爪を突き立てながらバーンの行動をなんとか妨害する。その隙に二人は魔法剣を完成させ終えたが、そこまでだ。

 

「何かと思えばギガブレイクか? もはやその程度では今の余に傷は付けられん。そもそも余の動きを止めることなど不可能よ!」

「ぐあっ……こ、のっ……!!」

「くっ……」

 

 これだけ戦えば流石に動きを見切られる。チルノの妨害を軽く避け、反撃で相手の動きを制限する。それどころかバランたちに気を回す余裕すらあるほどだ。手詰まり状態に焦燥感が募り、バランは思わず小さく呻いた。

 

「ならばその役目は、オレたちが引き継いだ!!」

 

 だが援軍は意外な所から現れた。

 

「ブラッディースクライド!!」

「ハーケンディストール!!」

「獣王激烈掌!!!」

「――――ッ!」

 

 マァムとポップの回復活動のおかげだろう。戦えるようになったヒュンケル・ラーハルト・クロコダインの三人は各々が誇る最強の技を放つ。

 神速のハーケンディストールと螺旋によって全てを破壊するブラッディースクライドに獣王激烈掌。同時に放たれた三つの技は互いに絡まり合い、それぞれがそれぞれを昇華させ、その威力を数倍へと引き上げながらバーンへと襲い掛かる。

 

 だがそれが通用するかは別問題であった。破壊の嵐が通り過ぎたそこ場所から、無傷のバーンが姿を現す。

 

「聞いていなかったのか? (ドラゴン)の騎士でも傷を付けられぬ今の余……を……!?」

 

 得意気に語ろうとして、そこでバーンは気付いた。自身の周囲に黄金色の羽根が五本突き刺さっていることに。

 

「気付くのが遅かったようですね。そう、本命は私です」

 

 バーンの反応に、満足したようなアバンの声が聞こえた。

 見ればマァムとポップに支えられながらも立ち上がり、今にも呪文を放とうとしているではないか。効果を増幅された呪文も厄介だが、それ以上に厄介なのはアバンの頭脳だ。何が飛んでくるか分かったものではない。

 さしものバーンもその場から離れ距離を取ろうとするが、既に呪文は完成している。

 

覚醒呪文(ザメハ)!!」

 

 ――フ、フハハハハ!!

 

 放たれた呪文、その名に思わずバーンは拍子抜けした。

 どれほどの破壊力を持った呪文が飛んでくるかと思えば、攻撃呪文はおろか相手に害を与える呪文ですらない。

 覚醒呪文(ザメハ)は眠りに落ちた相手に唱えることで意識を覚醒させて強制的に目覚めさせる効果を持つ。そんな呪文を受けたところで、何か影響が出るわけもない。ましてや眠ってもいない相手に唱えたところで、どうなるというのか。

 呪文の選択を誤ったアバンを嘲るように大笑いを上げながら殴りかかる。拳は一直線にアバンへと向かい、そして通り抜けた(・・・・・)

 

 ――なに!?

 

 予想外の結果に驚き、そしてバーンはようやく気付いた。

 ザメハの呪文は意識を覚醒させる(・・・・・・・・)効果を持つ。眠っている相手ならば、それが自然な睡眠でも呪文や毒薬などで強制的に意識を失わせていてもお構いなしに目覚めさせる。

 

 そんな呪文を破邪の秘法で極限まで増幅させて放てばどうなるのか。

 

 覚醒しすぎた意識は肉体の範疇を飛び出し暴走する。意識に肉体が追いつかず、こう動こうと思い描いた動作の数千分の一すら完了させられない。既に意識の中では一分以上の時間が経過しているのに、実際の肉体は一秒分すら動けない。

 

「私の実力では、どれほど強力な攻撃呪文を唱えてもおそらくダメージは与えられません……(たま)にはこんなのもいいでしょう?」

 

 バーンには聞こえていないだろうと確信しながらも、アバンはそう呟いてみせた。今こそ絶好の機会とばかりに、(ドラゴン)の騎士たちは肩を並べる。

 

「ついでよ! これも持って行きなさい!!」

 

 このままでは終われないとばかりに、チルノが大きく口を開ける。そこには無防備な状態になり、数秒掛けて収束させた強大な破壊のエネルギーが蓄えられており、放たれる瞬間を待っていた。

 ヒュンケルらとアバンの稼いだ時間と隙がなければ完成しなかったであろう一撃。

 

「【メガフレア】!!」

 

 その破壊の吐息を放つ。光弾は一瞬にして鬼眼王の肉体に激突し、その全てを焼き尽くし破壊せんと飲み込んでいく。まともに動くことすら出来ぬバーンには回避どころか防御すらまともに出来なかった。

 防衛本能でも働いたのか、唯一その胸の鬼眼だけは強固な瞼を閉じることで防ごうとしていたが、破壊の吐息の前には果たしてどれだけ効果があったことか。

 

「今だ!」

「行くぞ! ディーノ!!」

 

 動きを止め、大ダメージを受けた鬼眼王へ向けて二人の(ドラゴン)の騎士は駆け出した。一人は真魔剛竜剣を大上段に構え、そしてもう一人はダイの剣を逆手に構える。

 

「ギガ――」

「クロス――」

 

 数万分の一秒すら違わぬ息の合った動き。そして――

 

「「――ブレイク!」」

 

 二人の(ドラゴン)の騎士は、それぞれが持つ最大最強の技を同時に放った。それらは全く同じタイミングでバーンの肉体を切り裂いた。

 

「ギガクロスブレイク……」

「ギガブレイクとライデインストラッシュ……いや、上位呪文のギガデインを使っているから、ギガストラッシュか」

「二人の(ドラゴン)の騎士が誇る、最強の剣技の同時攻撃だ。如何にバーンとて耐えられるものではあるまい……」

「ああ、これなら……やったか……!?」

 

 おそらく、これ以上はないであろう最強の技を目にし、仲間たちは勝利の確信を持って口にしていた。

 




ギガクロスブレイク。

モンスターズ2やDQ10でこの名前自体は使われています。
ギガスラッシュを二人で連携するとか。
(どちらも未プレイの身)

それを上回るであろう(ドラゴン)の騎士二人がそれぞれの最強技で連携。
ギガブレイクとギガストラッシュの連携なんて、誰もが一度は妄想したかと思います。
(アバンストラッシュ(クロス)があるくらいですからね)

ロマン補正が大幅にあるので、耐えられる敵はいません。

一応、緒戦の回でダイとバランが仕掛けてバーン様が天地魔闘を使ってしまったのがコレです。当たったら多分あの時点のバーン様は耐えきれなかった想定。
(なのでそれを本能で悟り、ビビって全力迎撃したわけです)

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