……好きなだけ罵ってください。
「どう、なった……?」
「これは……?」
ギガブレイクによる上段からの斬撃とギガストラッシュによる横一線の斬撃はバーンの身体を確かに切り裂いた。これを受けてなお耐えられる生物などいないはず。
そう確信するに充分な一撃を受けてなお、ただ幽鬼のように呆然と立ち尽くすその姿に、ダイの仲間たちは怪訝な表情で様子を窺う。
だが、ダイとバランだけは違った。ある種の予感めいた眼差しでバーンを見つめる。そして――
――ビシリ! そんな音が響く。
音の発生源はバーンの肉体、その胸部の鬼眼からだった。続いて鬼眼の中心部分に亀裂が走ったかと思えば、その亀裂は縦へ横へと止まることなく一直線に広がっていく。
「こ、これは!!」
まるで物理法則を無視したような光景に、思わず声が上がった。その間にも亀裂は内側から外側へと広がり続け、亀裂の広がりに比例するようにして肉体の奥深くまで切り裂かれていく。
だが、無限に広がり続けるように思えた亀裂は急速に止まった。両端へと達し、これ以上切り裂けなくなったためだ。
後には身体を十文字に切り裂かれたバーンだけが残る。
だがそれも数瞬のことでしかない。
肉体を四分割にされ、魔力の源たる鬼眼すらも潰されたのだ。生きていられる道理などない。その肉体は瞬時に石化したかと思えば、バランスを失ったように崩れ去った。
「倒した……のよね?」
「ぐえっ!?」
「え?」
屍を晒すのではなく石と化して果てるという、どこか神秘的で現実味のないバーンの最期にマァムは不安そうに呟き、そして後ろから聞こえてきた何かに潰されたような声に驚き振り向いた。
そこには――
「レオナ! チウ! 老師も!! ……あ」
バーンの魔力によって瞳とされていたはずの者たちが元の姿に戻っていたのだ。思わず歓喜の声を上げ、それに遅れて彼女たちの下敷きになっているポップの姿に気付いた。
「あだだだ……すまねぇけどよ、どいてくれないか姫さんたち」
「あっはは、ごめんね。でも結構良い座り心地よ」
申し訳なさそうに言いながらレオナたちが移動すると、ポップも続いて立ち上がる。
「みんなが戻ったってことは……」
「ああ、バーンを倒したことで瞳から開放されたんだろうな。にしても驚いたぜ、突然元に戻ったかと思えば、避ける間もなく潰されて……」
「そうそう! 瞳の中からだけど、ちゃーんと見てたわよ! みんなの活躍を!!」
閉じ込められていた仲間たちが帰ってきたことで、彼らはようやくバーンを倒したのだということを実感し始めいていた。
一方。
敗れ、石となったバーンの遺体。その胸元に規則的に並んだ四つの穴を見ながらアバンは感慨に耽っていた。
「ハドラー……助かりました。あなたがいなければ、私たちは全滅していてもおかしくはなかった」
その穴は、かつての宿敵が命懸けで刻みつけた誇りの証である。だが、その穴を開けた腕はもうここには存在していない。
バーンが倒れたのと時を同じくして、ボロボロと崩れ去り消えてしまったのだ。まるで、自分の役目はここまでだと言外に告げるように。
「や、やった……!!」
「むぅ……一時はどうなることかと思ったが……」
そしてダイは、バーンが倒れたことでようやく力を抜いていた。それはバランも同じで、精根尽きたように息を吐き出しながらようやく剣を鞘へと納めていた。
「バラン様、それにダイ様も……随分とお疲れのようですが……」
「ああ、さすがにあの技はな。失敗が許されんなどいつもの事だったが、あれほどの相手に放つとなればその疲労は段違いだ」
ラーハルトの言葉とはいえ、バランが素直に疲れを認めているのだから、この戦いがどれだけ過酷であったのかは改めて言うまでもないだろう。
「よかった……これでもう……」
その光景に、チルノもようやく胸をなで下ろす。鬼眼王バーンとの戦いのダメージで全身が激痛に襲われているが、そんなことも気にならないほど心は弾んでいた。
未だ竜の姿のままであるが、嬉しさの余り踊り出したくなるほどだ。尤も、今までの戦いで周囲はあちこちが砕けており、瓦礫の山寸前といった有様のため自重する。こんな巨体で動き回れば、今度こそこの
ほら、そんなことを考えている間にも、床の一部分が崩れ落ちた。
――え……?
その光景を目にしたチルノの脳裏に疑問が過る。崩れたにしては何かがおかしい。
「まずい!! みんな離れ……!!」
チルノが叫び終えるよりも早く、床石を下から突き破りながら何かが一斉に飛び出してきた。
「なんだこりゃ!?」
「悪魔の目玉のような触手か!? だが、これほど巨大なものは見たことがない!!」
その正体を見てダイたちは誰何の声を上げる。見た目は生物のような様相をしており、クロコダインが口にしたように悪魔の目玉の触手に近いだろう。だが問題はその大きさだ。
一本一本が、細い物でも大木の枝ほどある。大きい物になれば、人間の腰回りを優に超えるほどの太さだ。それらが幾重にも重なり合い、巨大な幹のようになりながら床下から生えてきているのだ。まるで城の中に突然樹林が生えてきたかのようだ。
「ごめんなさい!! 私のミスなの!!」
「どうした!?」
「謝罪は後だ!! 知っているのならまずは話せ!!」
誰しもが度肝を抜かれている中、チルノだけが謝罪の言葉を口にする。その異質さに、何か原因を知っていると気付いたバランが先を促すように叫んだ。
「あれは
「魔力炉!?」
「よく分からんが、炉とはこうも動く物では無いだろう!! ましてや炉に触手などあるのか!?」
「バーンが作った生物と機械の合いの子みたいなものなの!! バーンの魔法力を動力にするんだけど、これは……」
「なるほど。代わりの魔法力を求めて手を伸ばしてきた、というところですかねぇ」
アバンの言葉にチルノは小さく頷いた。
「このような厄介な物ならば、どうして言わなかった!!」
「……忘れてたの!!」
バランの言葉に反論しつつも、チルノは自らの迂闊さを改めて呪う。
本来の歴史では
だが事態はもう少しだけ異質だったらしい。
「ああっ!! 触手が!!」
「バーンの遺体を奪っていく……だと?」
伸び出る触手たちは石となり四散していたバーンの肉体を絡め取ったかと思えばると、瞬く間に引き摺り込んでいく。まるで獲物を巣穴へと持ち帰るかのようだ。
「なるほど。魔法力の源である鬼眼は切り裂かれ、バーン本体も死にました。ですがそれでも、まだ莫大な力の残滓があっておかしくはありません。アレが魔力炉であるならば、真っ先に狙うのも当然ですね」
その光景をアバンは冷静に分析していた。
大半を使い切り、肉体が死してなお、並々ならぬ魔法力を宿していたとしても決して不思議ではないだろう。空腹ならばこそ、最も食べ応えのある物を狙うというのも、自然なことに思える。
だが、対象があのバーンだ。ただ"腹が減った"という理由だけではない、別の理由があるようにも見えてしまい、アバンは眉根を寄せる。
「それとも敵討ちでもしようとしている? まさか、バーンの遺志でも感じ取りましたかね?」
「先生!! 呑気なこと言ってる場合じゃありませんよ!! それって要は、魔法力が強いのを無差別に狙うってことでしょうが!! それに、バーンの魔法力を奪うって事は……」
ポップの危惧を後押しするように、床を突き破って更に触手が飛び出してきた。その勢いは最初のそれよりも遥かに強く、そして速く動き、チルノの肉体を絡め取った。
「うぐっ!!」
「姉ちゃん!!」
なんとか踏ん張ろうとするものの、引き摺り込む力も強い。おまけに幾本もの触手が床を突き破ったことで耐久力の限界を迎えたらしく、足下が不安定で思うように身体を支えられない。
「引き千切れんのか!?」
「む、り……もう力が……残って……」
「くそっ! 離せえぇっ!!」
剣を手にダイが触手を切り離そうと動くが、少しだけ遅かった。
引っ張り合いに敗れたチルノは姿勢を大きく崩して前のめりに倒れる。同時に、抵抗のなくなった獲物を逃がすまいと触手は更に引き込む力を強める。その結果――
「うあぁっ!!」
遂に床が崩れ落ちた。
破壊されたことで生まれた大量の土砂と瓦礫を供としながら、チルノは地の底目掛けて落下していく。
「姉ちゃん!!」
その後を何の躊躇いもなくダイは追う。
「ダイッ!!」
「ディーノ!!」
バランたちが声を上げるが、既に遅かった。底の見えぬ穴。その奥底目掛けて、既にダイはその身を躍らせていた。
後を追うようにバランも飛び込もうとするが、それは叶わなかった。バランたちの行く手を遮るように、無数の触手が立ち上ってきていた。
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「
穴の中は真っ暗かと思いきや、それも一時のことだった。どこかに光源があるのか、意外にも外と変わらぬほどの明るさを誇っており、周囲の様子も観察できるほどだ。
チルノを追って後先考えずに穴の中へと飛び込んだダイであったが、この明かりを見てどうやら冷静さは取り戻したらしく、適当な高さまで降りたところで飛翔の呪文を唱えて落下速度をコントロールしながら穴の底へと向かう。
「なんだこれはっ!?」
やがて、底へと辿り着いたダイは驚きの声を上げていた。
そこにいたのは巨大なシャンデリアのような生き物だった。いや生き物というべきか
本体と呼ぶべき部分からは天上に向けて幾本もの触手を伸ばしており、その内の幾つかは竜の姿のチルノを掴み、引き摺り込もうとしていた。尤もチルノも翼を羽ばたかせてどうにか抵抗をしているものの、残り少ない力を振り絞っての行動のようだ。
そうして抗うチルノの姿を、本体から覗く巨大な単眼がギョロリと睨んでいる。
また、少し視線を動かせば先に動いた触手がバーンの遺体を包み込み、吸収していく様子が見えた。
このまま放置していればやがてはチルノも同じ目に遭うかも知れない。そう考えて身震いする。そして最後に――
「ム~ン!! 止まらないム~ン!!」
「なんだコイツ!?」
魔力炉から離れた位置にいる不可思議な
丸形の太鼓の上に鬼の上半身をつけたような姿をしており、なにやら焦りながらも必死で自身の下半身たる太鼓を叩いている。
「いや、それよりも!!」
ボォンボォンとどこか気の抜ける音を鳴らし続けるその様子に一瞬意識を奪われたものの、すぐさま気を取り直すと姉を助けるべく剣を振るった。
「海波斬!」
狙うはチルノを掴む触手、そしてその奥にいる魔力炉本体もだ。
それらをまとめて攻撃するようにして放たれた最速の剣閃は、まず触手を数本まとめて切断してみせた。なおも剣閃の勢いは衰えず、魔力炉本体にも襲い掛かる。
だが直撃する直前、その攻撃は弾かれた。
「なんだ!? 見えないバリヤーみたいなのが!!」
予想外の結果に舌打ちするダイであったが、とりあえず姉を助けるという当初の目的は果たせた。チルノはすぐさまその場から離れながれ礼を口にし、反対に太鼓男は抗議の声を上げる。
「たすかったわ……ありがとうダイ……」
「お前!! 何をするんだム~ン!!」
「姉ちゃん大丈夫!? それとコイツ誰なの?」
チルノを追って移動すると、ダイは見知らぬ太鼓男について尋ねる。
「そいつは、えーと、何とかって名前のここの管理人よ」
「なななななんで竜がワシの事を知ってるんだム~ン!? あと、名前はドラムーンのゴロアだム~ン……」
魔力炉のことすら直前まで忘れていたのだ。役割を思いだせただけでも立派な物だろう。そして当のゴロアは、何故自分のことが知られているのかという驚きと、名前を知られていない悲しみに少しだけ涙していた。
「管理人? じゃあお前、これはどういうことなんだ!!」
「しし知らないんだム~ン!! ただ、この暴走はただ事じゃないム~ン!! さっきも上の方で凄まじい音がしていて、怖かったんだム~ン!! それが止んだと思ったら、気がついたらこうなっていたんだム~ン!!」
チルノの説明を聞いた途端、ダイはゴロアへと食って掛かる。だが返ってきたのはなんとも頼りない言葉だった。
「止められないのか!?」
「止まらないんだム~ン! さっきから頑張っているんだけれど、全然駄目なんだム~ン!!」
そう言いながら腹の太鼓を何度も鳴らす。ふざけているようにしか見えないが、太鼓を鳴らすことで重力波を操り魔力炉を制御しているのだ。だが魔力炉の勢いの方がよほど強く、どれだけ重力波を発生させても止まる気配すら見えなかった。
「そんな……」
「これじゃあバーン様に怒られるんだム~ン!!」
「……え?」
一縷の望みを賭けて尋ねるも、それもまた不可能と言われる。消沈しかけたダイの心であったが、聞き捨てならないゴロアの言葉に思わず顔を上げた。
「お前知らないのか? バーンはもうおれたちが倒したぞ」
「ええっ!! う、嘘を言うなム~ン! バーン様がお前如きに負けるわけがないム~ン!!」
「嘘じゃない! あれが証拠だ!!」
そう言いながらダイは触手が集まっている部分を指さす。既に大半は吸収されているものの奇跡的にも頭部はまだ途中であり、触手が絡まる直前だった。尤もそういった直後に巻き付かれ見えなくなってしまったが。
「あれって……あの石像かム~ン?」
「そうだ! あの額の部分に魔族の姿があっただろう? あれがバーンだ!」
「馬鹿を言うなム~ン!! バーン様はもっとお年を召しているム~ン!! あんな姿じゃないム~ン!!」
「ああもう!!」
話の通じなさに、ダイは思わず頭を抱えた。
確かにバーンが若さを分離したのは最高機密であり、知っているのはミストバーンのみ。ゴロアが知らぬのも無理はないだろうが、この言い方から察するにバーンとの戦いを全く見ていない――どころか、戦いが起こっていたことすら知らなかったようだ。
「オ……オオオオオォォォォォッ!!」
「ヒイイッッ!! な、なんなんだム~ン……」
魔力炉の方から悲鳴とも雄叫びともつかない、なんとも
「ひ、ひえええぇぇっ!! ム~ンム~ン!!」
「うっ……」
そこで目にしたのは、この世の物とは思えない光景だった。魔力炉に巨大な瘤が生まれ、激しく脈動を繰り返している。さながら赤子が母親の胎内から無理矢理外に出ようとしているような光景に、チルノは思わず吐き気を催していた。
「バーン……」
外に出ようと脈動する度に、内側で暴れる者の姿が魔力炉の側面に浮かび上がる。その姿を見ながらダイは恐ろしげに呟いた。
「まるで亡霊になって甦ったみたいだ……先生が言っていた敵討ちっていうのも、案外間違ってないのかもしれない……」
「バーンを取り込んだはずが、逆に乗っ取られた。そんなところかしらね……」
無数の触手に絡まれ吸収されたはずのバーンであったが、こうして生きていた――いや、生きているはずがない。自我すら持たず、取り込んだ遺体に残っていた妄執だけが歪に発露しているといったところだろう。
その証拠に脈動の際に現れる姿は、時に若い姿をした真・大魔王バーンであり、時に年老いた姿の大魔王バーンとなり、時に鬼眼王バーンの姿となる。そうやって幾つかの姿を使い分けているのは、自己の姿の認識すら曖昧な証拠。意志と呼べるほどのものがあるかすら怪しい。
「あ、あの姿……ひょっとして、ホントにバーン様のなのかム~ン?」
「さっきからそう言ってるだろ!! バーンが取り込まれたんだ!」
「ならワシは逃げるんだム~ン!! 魔力炉を壊したらバーン様に怒られるけれど、もういないなら怒られないんだム~ン!!」
現れた姿の内の一つ、老いたバーンの顔を見てようやく納得したらしい。ゴロアはならばもう用はないとばかりに身を翻して逃げだそうとした。
「ムムン!?」
だが背を向けたゴロアに向けて一本の触手が走った。それは一瞬にしてゴロアの胸を貫き、その身体へと巻き付くとゆっくりと持ち上げる。
「うわ……」
「止めるんだム~ン!! 離せム~ン!! ム……」
触手は魔力炉の元へと戻ると、それが当然のことのようにあっさりとゴロアを包み込み、そして吸収してしまった。一応は味方のハズの相手を真っ先に狙ったその行動に、再びチルノは絶句する。
「見境無し……それとも、目の前の餌は逃がさないってところ?」
「感心している場合じゃないよ姉ちゃん! なんとかしないと! 知っているなら、何か手はないの!?」
既に触手の何本かはチルノへと狙いを定めている。だが未だに行動を起こさないのはダイだ殺気を放って牽制しているに過ぎず、その牽制も相手が本気なれば無意味になるだろう。チルノは記憶を引っ張り出しながらダイの疑問に答える。
「たしかコイツは、
「え!? そんなのおれじゃ無理だよ!
「でもそのくらいの一撃でないと……」
口論を続けようとする姉弟であったが、それを遮るように魔力炉が鳴き声を上げた。
「ヴァアアアアアァァッッ!!」
「う……こ、これは……」
「なんて魔法力……」
その絶叫に二人は思わず耳を塞ぐ。バーンを取り込んだ影響だろう、凄まじい程の魔法力が立ち上り、魔力炉は更に膨れ上がっていた。それはパンパンに膨らんだ風船をチルノに想起させる。
「あれだけの魔法力……姉ちゃん、どうすると思う?」
「私たちを倒すために撃ち出す、ならまだマシかもね」
「マシって……?」
「あの魔力炉が耐えきれないかもしれない。そうなったら、この辺り一帯を巻き込んで全部吹っ飛ぶと思う」
炉として利用している以上、耐えきって撃ち出す可能性もあるだろう。だが問題はそこではない。攻撃に成功しても、失敗して自爆したとしても、そうなれば周囲一帯に巨大な被害を起こしてしまう。
フローラたちに伝えて逃げ切るだけの時間はないだろうし、自爆された場合は最悪、せっかく止めたはずの黒の
「ええっ!! じゃあ早く倒さないと!!」
最悪の未来を伝えられ、ダイはさらに焦りを見せる。そんなダイを急かすかのように、今まで様子見をしていた触手が攻撃を始めた。
「うわっ! このっ! 来るなッ!!」
「攻めてきたってことは、どうやら時間もそんなに残ってないみたいね……
「ううん、無理……もう魔法力がロクに残ってなくて……」
剣を手に攻撃を切り払いながら、申し訳なさそうにそう返す。すでにバーンとの戦いで余力は空っぽに近く、魔法力を回復させようにも落下してきたのでシルバーフェザーも手元にはない。ましてや取りに戻るなど論外だ。
悩むダイであったが、何かを閃いたように顔を上げる。
「そうだ姉ちゃん! おれと父さんが攻撃する前にやったあの攻撃! あれ、まだできる!?」
「メガフレアのこと? 出来なくはないけれど……」
「じゃあやって!」
力強く口にする弟の姿に、チルノは何をするのか思い当たった。
「……まさか、あれを魔法剣に……?」
「大丈夫! 姉ちゃんを信じてるから!!」
そんな一度も試したことのない合体技をこの土壇場で成功させられるなど、とても思えない。だが一切の迷いなく断言するダイの姿に、チルノもまた覚悟を決めて頷いた。
「……わかったわ。ただ、五秒だけ時間を稼いで。その間だけ無防備になるから守って頂戴!」
「任せて! 姉ちゃんには指一本触れさせない!!」
そう言うが早いか、ダイは張り切って護衛につく。そんな弟の背中を頼りに思いながら、チルノは大きく息を吸い込んだ。
――5
迫り来る触手を一本残らず切り払いながら、ダイはひたすらチルノのことを守り続けた。幸いにも攻撃は単調であり、肉体的には限界が近いがまだ対応できる。
――4
だが対応できるという慢心が原因か、一本の触手を逃してしまう。悔恨の声を上げるものの勢いは止まらず、チルノの首に巻き付いた。だが次の瞬間にダイは切り落としてみせた。
――3
一本の触手が絡みついてもチルノは微動だにすることなく力を集中させていた。圧倒的な破壊のエネルギーを蓄積、凝縮させていく。その姿を見ながら、攻撃に転じるためにはそろそろ動かねばと考え、ダイは前に出る。
――2
前に出た途端、攻撃の余裕が一気になくなった。後ろで引き付けている時よりも攻撃の密度が段違いだ。それに加えて、先ほど一本攻撃を見逃してしまったことが思った以上にダイの心を追い詰めていたらしい。
もうこれ以上失敗はしないとダイは歯を食いしばる。
――1
チルノが蓄え続けたエネルギーの高まりを感覚で理解する。なるほど時間を稼げと言った意味を良く理解しながら、攻撃に転じるだけの時間を稼ぐためにダイは大きく剣を振り攻撃を一気に散らした。
「行くよ! 【ギガフレア】!!」
たっぷり五秒を使い、その全ての時間を攻撃のみに利用する。一度鬼眼王に使った時よりも蓄積のための秒数が多く、加えて防御どころか思考すら捨て本能の赴くまま、身体に任せて放った一撃は、メガフレアの破壊力を優に超えていた。
光弾は更なる破壊の力が込められているかのように怪しく光り、魔力炉へと向けて一直線に向かう。
「うおおおおぉぉっっ!!」
その光弾をライデインストラッシュなどと同じように剣で受け止め、自らの闘気と合わせて一気に増幅させた。
本来ならば自らが放った呪文でなければ魔法剣としては扱えない。だがダイは、まるで当然のことのようにギガフレアの一撃を受け止め魔法剣を完成させてみせた。
それ言うなれば絆の力。二人で共に過ごした時間が何も言わずとも互いを理解し合っているからだ。
「喰らえバーン!! アバンストラッシュ!!」
「ギ、ギイイイイィィィッ!!」
ギガフレアを受け止め、アバンストラッシュで放つ。ダイはアバンストラッシュと叫んだが、これまでの命名規則に従えば、これもギガストラッシュと呼べるだろう。
ギガフレアのエネルギーはストラッシュの力を借りて指向性を持ち、一直線に魔力炉へと向かう。慌てて迎撃しようにももはや絶対には間に合わない。
ギガストラッシュの一撃は魔力炉全てを飲み込み、その全てを消滅させながら天へと消えていった。
「ギガフレア」と「アバンストラッシュ」を合体させることで、これがホントの「ギガストラッシュ」です!
……などと。
え? バハムートは「メガフレア」だから「メガストラッシュ」ではないのか?
……ちょっと何言ってるかわからないです。
だって技名がメガじゃ型落ち感が半端なくて……
(私が謙虚なナイトなら「ギガ=雷、メガ=強い、だからメガの方が強い」って感じで押し切れるんですが)
あと「メガストラッシュ」だと爽快感が売りの目薬みたい。
……これでやりたいネタは全部やったはず。